特許第6205997号(P6205997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205997
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】耐熱黒鉛部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20170925BHJP
   B28B 11/08 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C04B41/87 S
   B28B11/08
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-178206(P2013-178206)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-44719(P2015-44719A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】重藤 啓輔
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−305862(JP,A)
【文献】 特開2013−075814(JP,A)
【文献】 特開2007−091585(JP,A)
【文献】 特開2008−260677(JP,A)
【文献】 特開2004−261562(JP,A)
【文献】 特開平04−175282(JP,A)
【文献】 特開平02−283683(JP,A)
【文献】 特開平04−119981(JP,A)
【文献】 特開2010−248060(JP,A)
【文献】 特表2009−502709(JP,A)
【文献】 特開2002−274983(JP,A)
【文献】 特開平07−119830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80−41/91
B28B 11/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛基材の表面に炭化物粒子を含むスラリーを塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
該塗膜を乾燥させて成形膜とする乾燥工程と、
該成形膜の表面を研磨して該成形膜の表面粗さまたは表面うねりを該研磨前よりも小さくする研磨工程と、
該研磨工程後の成形膜を加熱して該炭化物粒子の焼結した焼結膜を得る焼結工程と
を備え該焼結膜により被覆された該黒鉛基材からなる耐熱黒鉛部材が得られ
前記炭化物粒子は炭化タンタル粒子であり、
前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、
前記焼結膜は膜厚が20〜300μmであることを特徴とする耐熱黒鉛部材の製造方法。
【請求項2】
黒鉛基材の表面に炭化物粒子を含むスラリーを塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
該塗膜を乾燥させて成形膜とする乾燥工程と、
該成形膜の表面に該スラリーの半凝固状の液滴を付着させて該成形膜の少なくとも表面粗さを該付着前よりも大きくする付着工程と、
該付着工程後の成形膜を加熱して該炭化物粒子の焼結した焼結膜を得る焼結工程と
を備え該焼結膜により被覆された該黒鉛基材からなる耐熱黒鉛部材が得られ
前記炭化物粒子は炭化タンタル粒子であり、
前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、
前記焼結膜は膜厚が20〜300μmであることを特徴とする耐熱黒鉛部材の製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程と前記付着工程は、前記スラリーをスプレー塗布する工程であり、
該付着工程時の吹付け距離は、該塗布工程時の吹付け距離の1.5〜3倍である請求項2に記載の耐熱黒鉛部材の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、100〜200℃の加熱雰囲気中でなされる請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱黒鉛部材の製造方法。
【請求項5】
前記焼結工程は、焼結温度が2000〜2800℃である請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱黒鉛部材の製造方法。
【請求項6】
黒鉛基材と、
該黒鉛基材の表面を被覆する炭化物膜と、
を有する耐熱黒鉛部材であって、
前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、
前記炭化物膜は、炭化物粒子である炭化タンタル粒子の焼結した焼結膜からなり、膜厚が20〜300μmであると共に表面粗さRaで0.7μm以下であることを特徴とする耐熱黒鉛部材。
【請求項7】
黒鉛基材と、
該黒鉛基材の表面を被覆する炭化物膜と、
を有する耐熱黒鉛部材であって、
前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、
前記炭化物膜は、炭化物粒子である炭化タンタル粒子の焼結した焼結膜からなり、膜厚が20〜300μmであると共に表面うねりWa(評価長さ:12.5mm)で1.2μm以下であることを特徴とする耐熱黒鉛部材。
【請求項8】
黒鉛基材と、
該黒鉛基材の表面を被覆する炭化物膜と、
を有する耐熱黒鉛部材であって、
前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、
前記炭化物膜は、炭化物粒子である炭化タンタル粒子の焼結した焼結膜からなり、膜厚が20〜300μmであると共に表面粗さRaで2〜20μmであることを特徴とする耐熱黒鉛部材。
【請求項9】
ルツボ部材またはサセプタ部材である請求項6〜8のいずれかに記載の耐熱黒鉛部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛基材の表面を炭化物膜で被覆した耐熱黒鉛部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)や窒化アルミニウム(AlN)等の単結晶成長や発光素子となるGaN等の成膜等を行う場合、耐熱性に優れたルツボやサセプタ等の耐熱部材が必要となる。このような耐熱部材の材料として、高融点金属やその炭化物を用いることも考えられるが、そのような材料は希少で高価であり、また、硬くて脆いため加工も困難である。
【0003】
そこで、耐熱性に優れ加工も容易な黒鉛基材が上記の耐熱部材として多用される。もっとも、黒鉛基材自体は、還元性ガスと反応して目減りし易く、製品(単結晶)に不純物を混入させるおそれもある。そこで黒鉛基材の表面は、通常、高融点の金属炭化物(TaC等)膜で被覆される。このような金属炭化物膜で被覆された黒鉛基材からなる耐熱部材(耐熱黒鉛部材)に関して多くの提案がなされており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】2004−84057号公報
【特許文献2】特開2010−248060号公報
【特許文献3】特開2013−75814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、等方性黒鉛材料の表面をCVD法により生成した炭化タンタル層で被覆した炭素複合材料に関する記載がある。そして特許文献1中には、炭化タンタル層が形成される黒鉛材料の表面を算術平均粗さ(Ra)で1〜15μmとすることにより、結晶方位が乱雑で異方性の小さな炭化タンタル層が形成され、それにより炭化タンタル層のクラックや剥離等が抑制される旨の記載がある([0064]〜[0067]、[0105]〜[0117])。
【0006】
特許文献2または特許文献3には、炭化タンタル粒子のスラリーからなる塗膜を焼結させることにより、耐クラック性、耐剥離性または耐バリヤー性等に優れた炭化タンタル被膜を黒鉛基材の表面に形成する旨の記載がある。このような方法(スラリー塗布・焼結法という。)によれば、特許文献1にあるようなCVD法等を用いるよりも、遙かに低コストで、サセプタやルツボ等の耐熱黒鉛部材を得ることが可能となる。
【0007】
もっとも、これら特許文献からもわかるように、これまでの耐熱黒鉛部材に関する提案の多くは、耐熱黒鉛部材の製造コスト低減やその耐久性向上等を目的としたものであって、その熱伝達特性や他部材との接触特性等の制御を目的としたものは殆ど見当たらない。
【0008】
なお、特許文献1は、炭化タンタル層を形成する黒鉛材料の表面粗さに着目しているが、これは上述したように耐クラック性等の観点から炭化タンタル層の異方性を抑制するために過ぎない。さらにいえば、CVD法で形成される炭化タンタル層の表面性状は、結晶晶癖による凹凸が避けられず、厚膜化するほど凹凸が顕著になり易く、また黒鉛基材表面に高密度で存在する気孔による凹凸の影響を受け易く、さらには気相原料の熱対流や流速分布に伴なう供給ムラによって膜厚分布の不均一化や表面うねりの拡大が生じ易い傾向にある。特許文献1は、これらの点について何ら言及していないことからも、炭化タンタル層の表面性状の制御を目的としたものでないことは明らかである。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、黒鉛基材を被覆する炭化物膜の表面性状を制御した耐熱黒鉛部材と、その製造方法を供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、スラリー塗布・焼結法を採用する場合において、焼結前の成形膜の表面を研磨等することにより、焼結膜(炭化物膜)の表面性状(例えば、表面粗さまたは表面うねり)を制御することを着想し、その具体化に成功した。そして、このような炭化物膜で被覆された耐熱黒鉛部材を用いることにより、その熱伝達特性の改善、ひいては半導体材料となる結晶の成長や成膜の高品質化や高効率化等を図れることを確認した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《耐熱黒鉛部材の製造方法1》
(1)先ず、本発明の耐熱黒鉛部材の製造方法は、黒鉛基材の表面に炭化物粒子を含むスラリーを塗布して塗膜を形成する塗布工程と、該塗膜を乾燥させて成形膜とする乾燥工程と、該成形膜の表面を研磨して該成形膜の表面粗さまたは表面うねりを該研磨前よりも小さくする研磨工程と、該研磨工程後の成形膜を加熱して該炭化物粒子の焼結した焼結膜を得る焼結工程とを備え該焼結膜により被覆された該黒鉛基材からなる耐熱黒鉛部材が得られ、前記炭化物粒子は炭化タンタル粒子であり、前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、前記焼結膜は膜厚が20〜300μmであることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の耐熱黒鉛部材の製造方法(適宜、単に製造方法という。)によれば、研磨工程で焼結前の炭化物粒子からなる成形膜を研磨することにより、焼結工程後に所望の表面性状(特に、表面粗さまたは表面うねり)を有する焼結膜(炭化物膜)が得られる。このような焼結膜で被覆された耐熱黒鉛部材を用いれば、その焼結膜を介した熱伝達特性や接触特性等が改善され得る。具体的にいうと、例えば、本発明に係る耐熱黒鉛部材をサセプタやルツボに用いれば、半導体材料となる結晶(SiC、AlN等)の成長や成膜の高品質化や高効率化等を図ることが可能となる。
【0013】
(3)ところで、本発明に係る成形膜は、(ファイン)セラミックスである炭化物粒子からなる成形体である。このような成形膜は、その構成粒子である炭化物粒子が粒子間の摩擦や有機バインダーによる結合等により緩く束縛されているだけである。このような成形体を研磨すれば、クラックが導入され、さらには割れたりすることが容易に懸念される。このため、技術常識的に考えれば、本発明のような研磨工程は通常なされない。しかし、本発明に係る成形膜は、孤立して存在している成形体ではなく、相応の強度、剛性等を有する黒鉛基材の表面に被着して、その黒鉛基材により支持された状態となっている。このため研磨工程中に成形膜へ応力が作用しても、その応力は黒鉛基材側で受承され、成形膜は容易に割れたりしない。こうして本発明によれば、成形膜を所望の表面性状まで研磨することが可能になったと考えられる。
【0014】
ちなみに、炭化物膜(焼結膜)の表面性状を制御する場合、通常なら、その焼結膜の表面を直接的に加工(研磨、研削等)することが考えられる。しかし、高融点金属炭化物からなる焼結膜は、非常に硬くて脆いため、そのような加工を行うと、焼結膜は微小クラック等の欠陥を生じたり剥離を生じたりする。また、最終的な焼結膜を機械加工すれば、表面汚染を生じるため好ましくない。従って、これまで最終的に形成された炭化物膜(焼結膜)の加工はなされておらず、その表面性状を制御する発想もなかった。
【0015】
これに対して本発明では、最終的に形成された焼結膜には加工を加えず、その前段階である成形膜を研磨している。このため、上述したように加工(研磨)が容易であり、仮にその加工中に成形膜の表面が汚染されても、その後の焼結工程で不純物などは飛散するため、本発明の耐熱黒鉛部材に表面汚染の問題は生じない。
【0016】
《耐熱黒鉛部材の製造方法2》
(1)次に、本発明の耐熱黒鉛部材の製造方法は、黒鉛基材の表面に炭化物粒子を含むスラリーを塗布して塗膜を形成する塗布工程と、該塗膜を乾燥させて成形膜とする乾燥工程と、該成形膜の表面に該スラリーの半凝固状の液滴を付着させて該成形膜の少なくとも表面粗さを該付着前よりも大きくする付着工程と、該付着工程後の成形膜を加熱して該炭化物粒子の焼結した焼結膜を得る焼結工程とを備え該焼結膜により被覆された該黒鉛基材からなる耐熱黒鉛部材が得られ、前記炭化物粒子は炭化タンタル粒子であり、前記黒鉛基材は等方性黒鉛基材であり、前記焼結膜は膜厚が20〜300μmであることを特徴とする。
【0017】
(2)この本発明の製造方法によれば、焼結前の炭化物粒子からなる成形膜の表面にスラリーの半凝固状の液滴を付着させる付着工程により、焼結工程後に表面性状(特に、表面粗さまたは表面うねり)が制御・改善された焼結膜(炭化物膜)が得られる。この焼結膜で被覆された耐熱黒鉛部材を用いれば、研磨工程を経て得られた耐熱黒鉛部材とは異なる観点から、焼結膜を介した熱伝達特性の改善が図られる。
【0018】
具体的にいうと、研磨工程を行った場合、研磨工程を行わない場合と比較して、通常、表面粗さまたは表面うねりの小さい平滑的な焼結膜(スムーズな焼結膜)が得られる。これに対して本発明に係る付着工程を行った場合、その付着工程を行わない場合と比較して、表面粗さまたは表面うねりの大きい粗い焼結膜(マットな焼結膜)が得られる。このように研磨工程と付着工程のいずれを行うかによって、焼結膜の表面性状、ひいてはその焼結膜を介した熱伝達特性等は逆傾向となる。どちらの工程を選択するかは、耐熱黒鉛部材に要求される特性(例えば、高熱伝達性か低熱伝達性)等に応じて適宜決定される。いずれの場合でも、得られた焼結膜の表面性状に応じて本発明に係る耐熱黒鉛部材を適切に使用する限り、半導体材料となる結晶(SiC、AlN等)の成長や成膜の高品質化や高効率化等を図ることが可能となる。
【0019】
(3)以上説明したように、本発明の製造方法により得られる焼結膜(炭化物膜)は、従来のように塗布されたままの成形膜を焼結させてなる焼結膜と異なり、焼結工程前に研磨工程または付着工程(さらには両方)を行うことにより、焼結工程後の表面性状(表面輪郭形状)が制御されたものである。そうである限り、本発明に係る焼結膜は、その具体的な表面粗さや表面うねり等を問わない。表面粗さや表面うねりは、耐熱黒鉛部材の要求仕様、炭化物膜の種類等に応じて、適宜、調整、変更、制御されればよい。但し、本発明に係る耐熱黒鉛部材を、半導体材料となる結晶の成長や成膜を行う装置の一部(サセプタ、ルツボ等)として用いる場合、例えば、その表面粗さや表面うねりが後述するような範囲内にあると好ましい。
【0020】
《耐熱黒鉛部材》
本発明は、上述の製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた耐熱黒鉛部材としても把握できる。
【0021】
(1)例えば、本発明は上述の製造方法(特に研磨工程を行う場合)により得られる耐熱黒鉛部材であって、焼結膜の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で0.7μm以下さらには0.6μm以下であるか、若しくはその焼結膜の表面うねりが算術平均うねり(Wa)で1.2μm以下さらには1μm以下であると好適である。
【0022】
また本発明は、上述の製造方法(特に付着工程を行う場合)により得られる耐熱黒鉛部材であって、例えば、焼結膜の表面粗さがRaで2〜20μmさらには3〜15μmであると好適である。
【0023】
(2)さらに本発明は、製造方法に限定されず、黒鉛基材と該黒鉛基材の表面を被覆する炭化物膜とを有する耐熱黒鉛部材であって、スムーズな炭化物膜の場合なら、例えば、その表面粗さがRaで0.7μm以下、0.6μm以下さらには0.5μm以下であるか、若しくは、その表面うねりがWaで1.2μm以下、1μm以下さらには0.5μm以下であると好適である。勿論、RaおよびWaが共に上記の範囲内であるとより好ましい。逆に本発明に係る炭化物膜がマットな場合なら、例えば、その表面粗さはRaで2〜20μm、3〜15μmさらには4〜10μmであると好適である。
【0024】
(3)焼結膜の表面性状は、上述したRaやWa以外に、JIS等に規定された種々の指標(評価パラメータ)を用いて規定できる。例えば、表面粗さなら、二乗平均粗さ(Rq)、最大高さ粗さ(Rz)、粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)などを用いてもよい。また表面うねりなら、例えば、二乗平均うねり(Wq)、最大高さうねり(Wz)、うねり曲線の最大断面高さ(Wt)などを用いてもよい。
【0025】
具体的にいうと、スムーズな炭化物膜(焼結膜)の場合、表面粗さは、Rqが1μm以下、0.8μm以下さらには0.6μm以下、 Rzが4.5μm以下さらには4μm以下若しくはRtが6μm以下さらには5.5μm以下であると好ましい。
【0026】
また、スムーズな炭化物膜(焼結膜)の場合、表面うねりは、Wqが1μm以下、0.8μm以下さらには0.5μm以下、Wzが5μm以下、3μm以下さらには2μm以下若しくはWtが5μm以下、3μm以下さらには2μm以下であると好ましい。
【0027】
さらに、マットな炭化物膜(焼結膜)の場合、表面粗さは、Rqが2〜20μm、3〜15μmさらには4〜10μm、Rzが10〜100μmさらには20〜50μm若しくはRtが10〜100μmさらには30〜60μmであると好ましい。
【0028】
なお、本発明に係る炭化物膜(焼結膜)は、いずれかの評価パラメータを満たせば十分であるが、複数の評価パラメータを満たすほど好ましいことは当然である。また本明細書でいう表面粗さや表面うねりに関する評価パラメータや測定方法等は、特に断らない限り、JIS規格に準拠する(JISB0601:2001、 JISB0632:2001、 JISB0651:2001等)。
【0029】
(4)本発明の耐熱黒鉛部材は、主に、半導体材料となる結晶の成長や成膜を行う装置の一部(サセプタ、ルツボ等)として用いられ、その際、本発明に係る炭化物膜を介して接触する部材(基板等)間で熱伝達が生じる。熱伝達が好ましい場合もあればそうでない場合もあるが、いずれの場合でも、接触面同士の表面性状、特に本発明に係る炭化物膜(焼結膜)の表面性状が、その熱伝達特性に敏感に影響し得る。
【0030】
例えば、本発明に係る炭化物膜(焼結膜)がスムーズであると、接触部材間の熱伝達率が向上し、熱伝達量の増加が図られる。逆に、その炭化物膜(焼結膜)がマットであると、接触部材間の熱伝達率が低下し、熱伝達量の減少が図られる。また炭化物膜(焼結膜)の表面形状の長波長成分である表面うねりは、熱伝達率の面内分布に影響するため、その表面うねりを低減することにより、面内温度分布の均一化が図られる。
【0031】
さらに、接触面同士の表面性状は、熱伝達特性に限らず、接触面間(本明細書では摺合部という。)のクリアランスにも敏感に影響する。そのような接触面に本発明に係る炭化物膜(焼結膜)を形成する場合、その表面粗さおよび表面うねりを共に小さくすることにより、摺合部を通じた原料ガス等の漏出量を大幅に低減できる。例えば、本発明の耐熱黒鉛部材が昇華法で用いられる結晶成長用ルツボである場合、その摺合部における隙間が低減され、その摺合部を通じた原料の散逸が抑制されて、原料収率の高い(または原料漏れ率の小さい)結晶成長が実現され、単結晶ウエハ等の低コスト化が図られる。
【0032】
このような観点から、本発明に係る炭化物膜(焼結膜)の表面粗さや表面うねりを、一例として上述のように規定した。炭化物膜(焼結膜)の表面粗さや表面うねりが上述した範囲内であると、例えば、耐熱黒鉛部材間のバラツキ、結晶成長や成膜を行う工程毎のバラツキ、面内における膜厚分布のムラなどを抑止でき、高品質の結晶成長や成膜等を安定して歩留まりよく行える。
【0033】
なお、炭化物膜(焼結膜)がマットな場合、表面粗さの上限値を規定したのは、接触部材同士が極端な3点支持状態とならずに多点支持状態となることを確保するためである。接触部材同士が3点支持状態になると、接触する相手部材(例えば基板)に不要な応力が作用して、反り等が発生するため好ましくない。
【0034】
ちなみに、炭化物膜(焼結膜)がマットな場合に、スムーズな場合と同様に表面うねりを規定してもよい。但し、本発明者が調査研究したところ、炭化物膜(焼結膜)がマットな場合、表面粗さが支配的となり、表面うねりは表面粗さにほぼ吸収されることがわかっている。そこで本明細書では、マットな炭化物膜(焼結膜)の表面うねりについては、特別な規定を設けなかった。
【0035】
マットな炭化物膜(焼結膜)を有する耐熱黒鉛部材は、例えば、赤外線ランプなどの傍熱加熱機構を備えたCVD装置等で用いられ、主に支持機構のみを担うサセプタ等に好適である。このようなサセプタを用いると、例えば、基板からサセプタへの熱流出またはサセプタから基板への熱流入が低減され、基板温度の面内ムラが低減され、ひいては成膜される膜厚分布の均一化や成膜の高品質化、歩留り向上等が図られる。
【0036】
また、マットな炭化物膜(焼結膜)を有する耐熱黒鉛部材は、例えば、上述したルツボ内品等に好適である。ルツボ内に載置される部品間の熱伝達が抑止されると、ルツボ内で所望の熱分布(温度勾配)を実現ができ、単結晶ウエハの高品質化や大型化等が図られる。
【0037】
《その他》
(1)本明細書中でいう炭化物粒子、炭化物膜、黒鉛基材等は、それぞれの特性改善に有効な改質元素、またはコスト的または技術的に除去困難な不可避不純物(元素)を含み得る。
【0038】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。また本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような数値範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】試料2の焼結膜の表面を示すSEM像である。
図2】試料3の焼結膜の表面を示すSEM像である。
図3】試料1の焼結膜の表面を測定して得た粗さ曲線である。
図4】試料2の焼結膜の表面を測定して得た粗さ曲線である。
図5】試料3の焼結膜の表面を測定して得た粗さ曲線である。
図6】試料C1の焼結膜の表面を測定して得た粗さ曲線である。
図7】試料C2の焼結膜の表面を測定して得た粗さ曲線である。
図8】試料1の焼結膜の表面を測定して得たうねり曲線である。
図9】試料2の焼結膜の表面を測定して得たうねり曲線である。
図10】試料3の焼結膜の表面を測定して得たうねり曲線である。
図11】試料C1の焼結膜の表面を測定して得たうねり曲線である。
図12】試料C2の焼結膜の表面を測定して得たうねり曲線である。
図13】各試料の表面粗さを種々の粗さパラメータで比較したグラフ(縦軸:リニアスケール、ダブルY表示)である。
図14】各試料の表面粗さを種々の粗さパラメータで比較したグラフ(縦軸:ロングスケール表示)である。
図15】各試料の表面うねりを種々のうねりパラメータで比較したグラフ(縦軸:リニアスケール、ダブルY表示)である。
図16】各試料の表面うねりを種々のうねりパラメータで比較したグラフ(縦軸:ロングスケール表示)である。
図17】GaN膜の膜厚分布に係る測定点とその識別番号を示す説明図である。
図18】各測定点について、中心点(測定点13)からの距離と膜厚の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書で説明する内容は、本発明の耐熱黒鉛部材のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセス・クレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0041】
《黒鉛基材》
本発明に係る黒鉛基材は、形状、製法等を問わない。黒鉛基材は、要求される耐熱黒鉛部材の形状、仕様等に応じて、適宜、機械加工される。また黒鉛基材は、等方性黒鉛からなると好ましい。等方性黒鉛は、冷間静水圧成形(Cold Isostatic Pressing法/CIP法)により作成された黒鉛材料の一般名称である。この等方性黒鉛基材は等方的な炭化物膜と整合的であり、両者が相乗的に作用することにより、本発明の耐熱黒鉛部材はより高い耐久性、信頼性を発揮する。なお、黒鉛基材と炭化物膜の線膨張係数(CTE)が近いほど、炭化物膜に作用する熱応力が低減されて好ましい。ちなみに、黒鉛基材の線膨張係数は、通常、4〜8×10−6/K(室温〜500℃で測定)である。
【0042】
炭化物膜となり得る塗膜または成形膜が形成される黒鉛基材の表面は、その表面粗さや表面うねりを問わない。後述するように、流動性に富んだ塗膜が黒鉛基材の表面に比較的厚く形成され、その塗膜が乾燥した成形膜の表面も適宜研磨されるため、黒鉛基材の表面性状が炭化物膜(焼結膜)の表面性状へ及ぼす影響は小さいと考えられる。但し、黒鉛基材は、表面に気孔(凹凸)や切削痕等を有することが多いため、その表面は適宜、研磨等により整調されると好ましい。
【0043】
《炭化物膜》
(1)膜厚
炭化物膜の膜厚は問わないが、20〜300μmさらには60〜200μmであると好ましい。膜厚が過小では、炭化物膜のガスバリア性等が必ずしも十分ではなく、耐腐食性が低下し得る。また、膜厚が過小になると、成形膜を十分に研磨できなくなり、スムーズな炭化物膜(焼結膜)の形成が困難となり得る。膜厚が過大になると、黒鉛基材と炭化物膜(焼結膜)との線膨張係数差により割れや剥離等が生じ易くなり、またコスト高となって好ましくない。なお、本願明細書でいう炭化物膜の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)による破断面観察により特定される。
【0044】
(2)炭化物
本発明に係る炭化物膜を構成する炭化物は、その種類を問わないが、融点が最も高い炭化タンタル(TaCまたはTaC)が含まれると好適である。炭化タンタルの含有量は、炭化物膜全体を100質量%(単に%という。)として50%以上さらには75%以上であると好ましい。この他、炭化物膜は、炭化ニオブ(NbCまたはNbC)、炭化タングステン(WCまたはWC)または炭化ハフニウム(HfC、HfC)等の高融点金属炭化物の一種以上からなってもよい。また炭化物膜は、それらの一種以上とTaCが混在した複合炭化物からなってもよい。
【0045】
《耐熱黒鉛部材の製造方法》
(1)塗布工程
塗布工程は、黒鉛基材の表面に炭化物粒子を分散媒(有機溶媒等)に分散させたスラリーを塗布する工程である。スラリーの塗布は、刷毛塗り、噴霧塗布(スプレー塗布)、浸漬塗布等により行えばよい。また、回転する黒鉛基材の表面上へスラリーを流入させ、遠心力でスラリーを薄くかつ均一に引き延ばすスピンコート法を用いてもよい。
【0046】
スラリーは、焼結助剤、有機バインダー、溶媒などを適宜含み、塗布に適した粘度に調整される。炭化物粒子(特にTaC粒子)は、スラリー全体を100質量%としたとき、50〜80質量%さらには60〜75質量%含まれると、均一な塗膜を効率的に形成できる。
【0047】
焼結助剤(助剤粉末)は、炭化物の焼結温度以下の融点をもつ遷移金属またはその炭化物からなる。これらが焼結中に溶融することにより、炭化物膜の緻密化、安定化または均質化等が図られる。焼結助剤に用いる遷移金属は、沸点(B.P.)が2600〜3300℃であり、焼結が始まる温度帯(1400〜1700℃)で溶融し、焼結中(最高焼結温度)に昇華して不純物として残らないものが好ましい。例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などである。また焼結助剤は、それらの化合物(炭化物、酸化物、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等)の粉末でもよい。例えば、TiC、Cr25、FeC、CoC、NiCなどの遷移金属の炭化物である。このような焼結助剤は、例えば、スラリー全体を100質量%としたとき0.3〜5質量%とするとよい。
【0048】
有機バインダーは、スラリーの粘度を調整し、スラリーの塗布性や粘着性等を改善する。このような有機バインダーとして、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルブチラール(PVB)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、アセチルセルロース、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が適宜用いられる。このような有機バインダーは、例えば、スラリー全体を100質量%としたとき0.1〜3質量%とするとよい。なお、バインダーは、非酸化雰囲気で比較的除去(脱バインダー)が容易なものが好ましい。脱バインダーは、別途行っても、後述する焼結工程で併せて行ってもよい。
【0049】
溶媒には、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトンおよび1、3−ジオキソラン、ベンジルアルコール、エタノール、α−ターピネオール、トルエンなどの有機溶媒がある。溶媒はスラリーの残部となるが、敢えていうとスラリー全体を100質量%としたとき20〜40質量%であるとよい。
【0050】
なお、黒鉛基材の表面に密着した(一体化した)成形膜が形成される限り、上述したスラリーの塗布工程を、圧縮成形工程や射出成形工程等で置換することも可能である。
【0051】
(2)乾燥工程
乾燥工程は、スラリー塗布により形成された塗膜から溶媒等を散逸させて、炭化物粒子からなる成形膜を形成する工程である。乾燥工程は、自然乾燥でもよいが、例えば、100〜200℃程度の加熱雰囲気中でなされると効率的である。その際の加熱時間は0.5〜1時間とすれば十分である。また加熱雰囲気は酸化防止のため窒素雰囲気、アルゴン雰囲気または乾燥空気雰囲気とすると好ましい。
【0052】
(3)研磨工程
研磨工程は、塗膜を乾燥させて得られた成形膜の表面を研磨して、その表面粗さまたは表面うねりを研磨前よりも小さくする工程であり、研磨方法、研磨材、研磨度合等は問わない。成形膜自体は、炭化物粒子間の摩擦やバインダによる接着力等により保形されているだけであるため、一般的な耐水研磨紙(例えば#1000〜#2000)やラッピングフィルム(例えば#6000〜#10000)等により容易に研磨可能である。手作業による研磨も可能であるが、表面うねりや研磨面内における粗さ分布を抑制する観点から自動研磨装置や手動研磨装置を用いて研磨すると好ましい。
【0053】
ちなみに、本発明に係る研磨工程は、スムーズな炭化物膜(焼結膜)を得るためになされるが、後述する付着工程と同様な観点から、マットな炭化物膜(焼結膜)を得るために、成形膜の表面粗さや表面うねりも大きくする工程とすることも可能である。なお、本明細書でいう研磨には研削も含まれる。
【0054】
(4)付着工程
付着工程は、成形膜の表面にスラリーの半凝固状の液滴を付着させて成形膜の少なくとも表面粗さを付着前よりも大きくする工程である。スラリーの半凝固状の液滴は、例えば、スラリーをスプレー塗布する際の吹付け距離(スプレーガンの噴孔から成形膜の表面までの距離)を調整することにより得られる。この吹付け距離は、所望する炭化物膜(焼結膜)の表面性状、スラリーの組成や粘度、噴霧される液滴の大きさ、噴霧環境等を考慮して適宜調整される。いずれの場合でも、吹付け距離が長くなるほど、スプレーされたスラリー液滴の着弾前の飛行時間も長くなり、スラリー液滴は表面から乾燥していく。例えば、付着工程時の吹付け距離は、塗布工程時の吹付け距離の1.5〜3倍程度とするとよい。
【0055】
この半乾燥状態の液滴が成形膜の表面に着弾すると、成形膜は、その液滴のサイズや乾燥状態等に応じた表面粗さを呈するようになる。このスラリー液滴が再付着した成形膜を適宜乾燥させ、後述する焼結工程を行うと、焼結前の成形膜の表面性状が反映されたマットな焼結膜が得られる。
【0056】
(5)焼結工程(成膜工程)
焼結工程は、研磨工程または付着工程を経た成形膜を加熱し、炭化物粒子が固着、硬化、緻密化(密度が50〜70%から95%以上に向上する。)した炭化物膜(焼結膜)を黒鉛基材の表面に生成する工程である。
【0057】
焼結温度は2000〜2800℃さらには2300〜2700℃が好ましい。焼結温度が過小では炭化物膜の緻密化を図れず、焼結温度が過大では炭化物の結晶組織が粗大化してしまう。焼結時間は、焼結温度等にも依るが0.5〜3時間程度である。焼結雰囲気は、1〜95kPaの真空雰囲気または不活性ガス雰囲気が好ましい。なお、成形膜中に含まれていた各種のバインダー等や研磨工程で付着した不純物等は、この焼結工程中に散逸し除去される。
【0058】
《用途》
(1)本発明の耐熱黒鉛部材は、高温用ルツボ、高温用ヒーター、高温用フィラメント、化学気相成長(CVD)用サセプタなどに用いられる。具体的にいうと、耐腐食性雰囲気抵抗加熱ヒーター、昇華法SiC単結晶成長のためのルツボ部材、昇華法AlN単結晶成長のためのルツボ部材、SiCのCVDエピタキシャル成長のためのサセプタ部材、III族窒化物のMOCVDエピタキシャル成長のためのサセプタ部材、電子ビーム蒸着用のハースライナー等に、本発明の耐熱黒鉛部材は好適である。
【0059】
(2)このような耐熱黒鉛部材の用途を踏まえて、本発明は、例えば、各種の単結晶の製造方法やエピタキシャル膜付き基板の製造方法等としても把握できる。
【0060】
例えば、本発明に係るスムーズな炭化物膜(焼結膜)で内面や摺合部が被覆されたルツボを使用すると、炭化物膜による耐熱性向上や金属(Al、Si等)蒸気に対する耐腐食性向上を図れることに加えて、摺合部から散逸する原料を抑制でき、原料収率向上やそれによる単結晶ウエハの低コスト化等も図れる。またマットな炭化物膜(焼結膜)で被覆された部品を温度勾配制御用部品としてルツボ内で使用すると、単結晶ウエハの成長速度の高速化等も図れる。そこで本発明は、上述した耐熱黒鉛部材をルツボ部材(ルツボ内部品を含む)として使用して窒化物単結晶または炭化珪素単結晶を製造する方法(例えば、昇華法によるAlN成長方法またはSiC成長方法)としても把握できる。
【0061】
同様に、本発明に係るスムーズな炭化物膜(焼結膜)で被覆されたサセプタを使用すると、炭化物膜による耐熱性向上やガス(NH、H等)に対する耐腐食性向上を図れることに加えて、サセプタと基板の接触面間における熱伝達率の向上や高品質の結晶成長を実現でき、エピタキシャル膜付き単結晶ウエハを低コストで製造できるようになる。そこで本発明は、上述した耐熱黒鉛部材をCVD用サセプタとして使用した窒化物エピタキシャル膜付き基板または炭化珪素エピタキシャル膜付き基板を製造する方法としても把握できる。
【実施例】
【0062】
<実施例1:試料1〜3および試料C1/炭化物膜>
《試料の製造》
(1)黒鉛基材
等方性黒鉛(熱膨張係数:6.5x10−6/K)からなる円板状(φ100mm×厚さ5mm)の黒鉛基材を用意した。黒鉛基材の表面には微細な切削痕や凹凸が存在し得るため、成膜面となる表面を耐水研磨紙により研磨して、その表面性状を整えた。この際、試料1に係る黒鉛基材は、#400の耐水研磨紙により研磨し、試料2、試料3および試料C1に係る黒鉛基材は、#180の耐水研磨紙により研磨した。また、研磨した表面(研磨面)は、エタノール等で洗浄し、研磨面に付着した研磨屑を除去した。なお、後述する試料C2に係る黒鉛基材も、#400の耐水研磨紙により研磨し、その後、研磨屑を同様に除去した。
【0063】
(2)スラリー調製
TaC粒子(炭化物粒子)を分散させたスラリーを次のようにして調製した。各原料の配合割合は、スラリー全体を100質量%(単に「%」と表記する。)として示した。炭化物粉末であるTaC粉末(純度99.9%/粒子径1〜2μm):69%、助剤粉末であるCo粉末(平均粒径:5μm):0.7%、有機バインダーであるポリメタクリル酸メチル(PMMA:Polymethyl methacrylate):0.7%、有機溶媒であるジメチルアセトアミド:5.6%、メチルエチルケトン:12%および1、3−ジオキソラン:12%をそれぞれ秤量して配合した。これら原料をミキサーで混合した後、超音波ホモジナイザーにより分散および粉砕した。こうして炭化タンタル(TaC)粒子を主成分とするスラリーを得た。
【0064】
(3)塗布工程
各黒鉛基材の成膜面に上記のスラリーをスプレー塗布(噴霧塗布)した。スプレー塗布は、スプレーガン(アネスト岩田株式会社、HP−G6)を用いて、噴霧圧:0.13MPa、スプレーガンの先端孔から黒鉛基材の成膜面までの距離:100mmとして、室温大気中で行った。塗膜厚さは、後工程である研磨工程または付着工程を考慮しつつ、焼結後のTaC被膜(焼結膜)の膜厚が100μmとなるようにした。
【0065】
なお、各塗膜中のTaC粒子の充填率は65〜70%で、そのTaC粒子の粒径は0.2〜0.4μmであった。この充填率は、塗膜全体(100質量%)に対するTaC粒子の割合であり、膜厚および被膜の質量を測定することにより、次式により求められる。すなわち、被膜を構成する物質の密度ρ、塗布面積S、被膜の質量Wから理想膜厚(充填率100%としたときの膜厚)D=(W/ρ)/S を算出する。SEMによる破断面観察により実際の膜厚Dmを測定する。これらにより充填率f=(D/Dm)×100(%)が求まる。なお、この充填率が60%より小さくなると、焼結時に割れ等が発生し易くなる。
【0066】
また塗膜中におけるTaC粒子の粒径は、光学顕微鏡観察により特定される。上記の充填率や粒径に幅が有るのは測定精度を考慮したためである。例えば、充填率の場合、測定誤差が±2%程度あるため、算出された値が67%でも、上述のように65〜69%とした。また粒径の測定誤差は±0.1μm程度あるため、算出された値が0.3μmでも、上述のように0.2〜0.4μmとした。
【0067】
(4)乾燥工程
塗布工程後の各黒鉛基材をN雰囲気の加熱炉に入れ、200℃×0.5時間加熱して、塗膜を乾燥させた。こうして塗膜中から溶媒が散逸し、黒鉛基材の成膜面上にTaC粒子等からなる成形膜(乾燥後の塗膜)が形成された。
【0068】
(5)研磨工程(試料1および試料2)
試料1および試料2の場合、乾燥工程後の成形膜の表面(素面)を研磨(乾式)して滑面とした。具体的にいうと、試料1に係る成形膜の素面は、#8000のラッピングフィルム(住友スリーエム株式会社製、A3−1SHT #8000)により研磨した。また試料2に係る成形膜の素面は、#1500の耐水研磨紙(株式会社ノリタケコーテッドアブレーシブ(NCA)製、C947H #1500)により研磨した。研磨屑は羽毛やエアーダスターにて適宜除去した。
【0069】
なお、この際の研磨は、手動研磨機を用いて実施した。また、仕上げ研磨前の粗仕上げは#400耐水研磨紙で研磨した。
【0070】
(6)付着工程
試料3の場合、成形膜の素面へ、上述したスラリーを再度スプレー塗布した(付着工程)。この際、スプレーガンの先端孔から黒鉛基材の成膜面までの距離(吹付け距離)を250mmとした以外は、塗布工程の場合と同条件とした。なお、吹付け距離を長くすることにより、スプレーガンから噴出したスラリーの液滴は、成膜面の素面に着弾しても濡れ拡がらなかったことから、スプレーされたスラリー液滴は、その着弾前に表面が乾燥した半凝固状になっていることがわかった。
【0071】
このようにスラリーの再塗布をした黒鉛基材を、上述した乾燥工程と同様にして再度乾燥させた。但し、このときの乾燥時間は0.5時間とした。こうして成形膜の表面は、微細な凹凸状の粗面となった。
【0072】
なお、試料C1は、研磨工程も付着工程も施さず、成形膜の素面のままとした。
【0073】
(7)焼結工程(成膜工程)
各試料に係る成形膜で被覆された黒鉛基材を高周波加熱炉内に入れ、アルゴン雰囲気(5kPa)中で、焼結温度:2500℃、焼結時間(最高焼結温度での保持時間):1時間の加熱をした。こうして、TaC粒子が焼結した焼結膜(炭化物膜)により表面が被覆された黒鉛基材(耐熱黒鉛部材)が得られた。
【0074】
《試料の製造:試料C2》
試料C2は、上述した黒鉛基材の成膜面に、CVD法により膜厚:20μmのTaC膜を成膜した。具体的にいうと、黒鉛基材を載置した真空加熱炉内へ、TaCl、CH、Hの混合ガスを供給し、その混合ガスを熱分解反応させることにより、黒鉛基材の成膜面にTaC膜を成膜した。このときの反応条件は、炉内圧力:500Pa、炉内温度:1150℃、TaCl流量:100cc/min、CH流量:200cc/min、H流量:400cc/min、処理時間:2時間とした。
【0075】
各試料毎の成膜方法、成膜条件等を表1にまとめて示した。なお、上述した塗布工程〜焼結工程により黒鉛基材の表面に成膜する方法を本実施例では焼結法と呼ぶ(試料1〜3および試料C1)。
【0076】
《観察・評価》
(1)目視観察
成形膜の素面を研磨した試料1および試料2の場合、焼結膜の表面は、試料C1や試料C2の表面よりも遙かにスムーズな平滑面となっていた。特に、細かい番手で研磨した試料1の表面は半鏡面状であった。
【0077】
一方、成形膜の素面にスラリーを再塗布した試料3の場合、焼結膜の表面は、ざらついた感じで光沢がなく、非常にマットな状態となっていた。また、研磨も再塗布も施していない試料C1の場合、焼結膜の表面は、試料C2のCVD膜の表面と同等の粗さを呈していた。
【0078】
(2)SEM観察
試料2と試料3の焼結膜の表面を観察したSEM像(top-side view)を、それぞれ図1図2に示した。これらのSEM像からも明らかなように、研磨工程を行った試料2の被膜表面は非常にスムースな平滑面となっているのに対して、付着工程を行った試料3の被膜表面は非常にマットな粗面となっていることがわかる。
【0079】
(3)表面性状の測定
各試料に係る被膜表面の表面性状(表面粗さ、表面うねり)を定量的に測定した。測定には、触針式の表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、サーフテスト、SJ301)を用いた。この際、フィルタとしてガウシアンを使用し、傾斜補正を行った。また、触針には円錐形60°、先端半径2μmのものを用いた。また、測定条件、粗さパラメータ定義、うねりパラメータ定義は、JISB0601:2001、JISB0632:2001、JISB0633:2001、JISB0651:2001に準拠した。本実施例で採用した表面粗さおよび表面うねりに関する測定条件を表2にまとめて示した。
【0080】
表面粗さは、サンプル毎に評価長さ:4mm(カットオフ波長λc(ハイパスフィルタ):0.8mm)と、評価長さ:12.5mm(カットオフ波長λc(ハイパスフィルタ):2.5mm)とする2測定を行った。そして算術平均粗さRaが2μm以下のときは評価長さ:4mmを、 Raが2μm超のときは評価長さ:12.5mmを、それぞれ適切な測定条件と見做した(JISB0633:2001)。
【0081】
表面うねりに関しては、明確な評価長さおよび基準長さの指標がJISに規定されていない。もっとも、出来るだけ評価長さを長くすべきであることから、測定装置の最大評価長さ:12.5mmを表面うねりに関する評価長さとした。また、表面うねりに関する基準長さも12.5mmとした。カットオフ波長λc(ローパスフィルタ)は2.5mmとした。なお、ハイパスフィルタλfもJISには明確な規定がないため、長周期のうねりを除去しないように適用しなかった。但し、本実施例に係る測定は、λf:25mmとした場合に相当することを確認している。
【0082】
このようにして、各試料の被膜表面を測定して得られた結果を表2に併せて示した。なお、表2には、JIS2001に定義された表面粗さに関するパラメータ以外のパラメータについても併せて示した。また、得られた算術平均粗さRaより、表面粗さを評価する場合、試料3のみ評価長を12.5mmとし、他の試料は評価長を4mmとすることが適切であることがわかった。
【0083】
各試料に係る粗さ曲線を図3〜7に示した。これらの各粗さ曲線を比較すると明らかなように、成形膜の表面を研磨した試料1および試料2の粗さ曲線は、試料C1および試料C2の粗さ曲線よりスムーズである(中心線からの変位が小さい)ことがわかる。一方、試料3の粗さ曲線(図5の縦軸スケールは−30〜30μm)は、試料C1および試料C2の粗さ曲線より非常に粗い(中心線からの変位が大きい)こともわかる。なお、従来通り成膜しただけの試料C1(焼結法)と試料C2(CVD法)は、成膜方法が異なるものの、粗さ曲線はほぼ同等になることもわかった。
【0084】
各試料に係るうねり曲線を図8〜12に示した。これらの各うねり曲線を比較すると明らかなように、成形膜の表面を研磨した試料1および試料2の粗さ曲線は、試料C1および試料C2のうねり曲線よりうねりが小さい(中心線からの変位の収まる範囲が小さい)ことがわかる。一方、試料3のうねり曲線は、試料C1および試料C2のうねり曲線より大きい(中心線からの変位の収まる範囲が大きい)こともわかる。
【0085】
但し、図5図10を比較すると明らかなように、試料3の場合、粗さ曲線の縦軸スケールよりもうねり曲線の縦軸スケールはかなり小さい。このことから、試料3の焼結膜の表面性状は、表面うねりよりも表面粗さが支配的であると考えられる。なお、従来通り成膜しただけの試料C1(焼結法)と試料C2(CVD法)は、成膜方法が異なるものの、うねり曲線はほぼ同等となることもわかった。
【0086】
各試料に係る粗さ曲線から算出された粗さパラメータ(Ra、 Rq、 Rz、 Rt)を比較したグラフを図13および図14に示した。先ず、図13は、試料1、2、C1およびC2に係る粗さパラメータの比較を示している(縦軸:リニアスケール、ダブルY表示)。図13からも明らかなように、試料1および試料2に係る粗さパラメータは共に、試料C1または試料C2に係る粗さパラメータの1/2以下の小さな値となっていることがわかる。従って、粗さパラメータの測定バラツキを考慮したとしても、試料1または試料2のように研磨工程を経て得られた焼結膜は、粗さパラメータがRa≦0.7μm、Rq≦1.0μm、Rz≦4.5μm、Rt≦5.5μm内に収まると考えられる。特に、試料1のように焼結前の研磨を精細に行った場合、粗さパラメータは、Ra≦0.5μm、Rq≦0.6μm、Rz≦4.0μm、Rt≦6.0μm内に収まると考えられる。
【0087】
次に、図14は、上述した各試料に試料3を加えて、各粗さパラメータを比較したグラフである(縦軸ログスケール表示)。図14から明らかなように、試料3は試料C1または試料C2に対して、粗さパラメータが5〜7倍程度にまで増大している。従って、粗さパラメータの測定バラツキを考慮しても、試料3のように付着工程を経て得られた焼結膜は、その粗さパラメータが4≦Ra≦7μm、5≦Rq≦8μm、30≦Rz≦40μmまたは40≦Rt≦60μm程度になると考えられる。
【0088】
各試料に係るうねり曲線から算出されたうねりパラメータ(Wa、 Wq、 Wz、 Wt)を比較したグラフを図15および図16に示した。先ず、図15は、試料1、2、C1およびC2に係るうねりパラメータの比較を示している(縦軸:リニアスケール、ダブルY表示)。図15からも明らかなように、試料1および試料2に係るうねりパラメータは共に、試料C1または試料C2に係るうねりパラメータの1/2〜1/10という非常に小さな値となっていることがわかる。従って、うねりパラメータの測定バラツキを考慮したとしても、試料1または試料2のように研磨工程を経て得られた焼結膜は、うねりパラメータがWa≦1.0μm、Wq≦1.0μm、Wz≦5.0μm、Wt≦5.0μm内、さらにはWa≦0.5μm、Wq≦0.5μm、Wz≦2.0μm、Wt≦2.0μm内に収まると考えられる。
【0089】
なお、うねりパラメータは粗さパラメータと異なり、試料2の方が試料1よりも小さくなっている。この理由はラッピングフィルムの表面性状を反映しているため(表面粗さは小さいがある程度うねりが大きいため)と考えられる。
【0090】
次に、図16は、上述した各試料に試料3を加えて、各うねりパラメータを比較したグラフである(縦軸ログスケール表示)。図16から明らかなように、試料3は試料C1または試料C2に対して、うねりパラメータが2倍程度に増大していることがわかる。もっとも、試料C1または試料C2に対する試料3に係るうねりパラメータの増大幅は、その粗さパラメータの増大幅よりも遙かに小さい。これは前述したように、試料3のような場合、その表面性状は主に粗さパラメータにより特徴付けられるためと考えられる。
【0091】
<実施例2:試料22および試料C21/成膜用サセプタ>
《サセプタの製造》
上述した試料2または試料C1と同様にして、有機金属気相成長法(MOCVD法)によりGaN膜を成膜する際に用いるサセプタ(耐熱黒鉛部材)を製造した。各サセプタを用いて成膜されたそれぞれのGaN膜の膜厚分布を調べることにより、各サセプタの熱伝達特性(焼結膜の表面粗さまたは表面うねりの影響)を評価した。なお、本実施例では、試料2の焼結膜で被覆されたサセプタを試料22、試料C1の焼結膜で被覆されたサセプタを試料C21と呼ぶ。
【0092】
黒鉛基材は前述した等方性黒鉛からなる円板状(φ70mm×厚さ10mm)である。この黒鉛基材の全面に、前述した試料2または試料C1と同様な焼結膜を形成した。但し、試料2に係る研磨工程は、GaN膜の成膜に用いるサファイア基板と接触する側にくる成形膜の表面についてのみ行った。このようなサセプタ(試料22、試料C21)を、表4に示すように、それぞれ5個づつ製作した。
【0093】
《GaN膜の成膜》
各サセプタをそれぞれ用いて、同一条件でGaN膜の成膜試験を行った。なお、試料22に係る各サセプタは、当然、研磨工程を施した側の焼結膜をサファイア基板に接触させた。
【0094】
GaN膜の成膜は、成長温度(サセプタ温度):1040℃、原料ガス:TMG(Ga(CH)およびNH、キャリアガス:H、V/III比:15000、圧力:35kPa、成膜時間:36min、基板:φ2インチc面サファイア基板、という条件下で行った。この成膜条件は、全てのサセプタについて共通である。
【0095】
《GaN膜の膜厚分布》
(1)各試料のサセプタを用いてサファイア基板上に成膜されたGaN膜の膜厚分布を、分光干渉膜厚計(浜松ホトニクス株式会社製C10178−01)により測定した。このときの測定点と、各測定点の識別番号を図17に示した。各測定点は、φ2インチ基板上に設定した7.5mm間隔の正方グリッド状の25点とした(測定点13が中心である)。
【0096】
試料22(表4のサセプタロット1)のGaN膜の各測定点における膜厚(膜厚分布)を表3に示した。また、表3に示した各測定点について、中心点(測定点13)からの距離(横軸)と膜厚の関係を示す膜厚分布を図18に示した。図18から明らかなように、各測定点における膜厚は、ほぼ中心点を最大(頂点)とする二次曲線でフィッテングできた。GaN膜が中心点を頂点とする凸面状となっているのは、MOCVD装置に固有な構造および温度分布に起因するものであって、サセプタの表面性状に起因するものではない。そこで、表3に示す各数値から求めたフィッテング曲線の代数式(Y)へ、中心点からの距離(X)を代入して算出した膜厚(フィッテング膜厚)と、実際に測定された測定膜厚との絶対値差(膜厚差)を、サセプタの表面性状に起因して生じた膜厚のバラツキと考えた。そして、測定膜厚の平均値に対する膜厚差の平均値の割合として算出した膜厚面内バラツキ(AAD)は0.336%となった。
【0097】
試料22に係る他のサセプタロットおよび試料C21に係る各サセプタロットについても同様に膜厚面内バラツキを算出した。こうして得られた結果を表4にまとめて示した。また、それらの結果に基づいて各試料毎に算出したサセプタロット間の平均測定膜厚バラツキ(標準偏差)と膜厚面内バラツキの平均値も表4に併せて示した。
【0098】
表4から次のことがわかる。先ず、試料22の平均測定膜厚は3μm以上であったが、試料C21の平均測定膜厚はそれよりも小さく3μm未満であった。試料22の平均測定膜厚のバラツキ(標準偏差)は0.014μmと小さかったが、試料C21の平均測定膜厚のバラツキは0.07μmと大きく、試料22のバラツキの5倍にもなった。試料22の膜厚面内バラツキの平均値は0.332%と小さかったが、試料C21の膜厚面内バラツキの平均値は1.624%と大きく、試料22のバラツキの約5倍にもなった。
【0099】
このように試料C21のサセプタよりも試料22のサセプタを用いることにより、成膜面内における膜厚のバラツキやロット間における膜厚のバラツキを小さくでき、良好なGaN膜を得ることができることが明らかとなった。この理由は、試料22のサセプタと試料C21のサセプタとの表面性状の相違に起因していると考えられる。つまり、試料22のサセプタは試料C21のサセプタに対して、炭化物膜(TaCからなる焼結膜)の表面粗さおよび表面うねりが非常に小さく、サセプタとサファイア基板の間における熱伝達特性が大幅に改善されたためと考えられる。
【0100】
〈実施例3:試料33/成膜用サセプタ〉
試料22の場合と同様にして、上述した試料3の焼結膜で全面を被覆した黒鉛基材からなるサセプタ(試料33)を1つ製造した。この場合も焼結工程前の付着工程は、サファイア基板に接触する側についてのみ行った。このサセプタを試料33と呼ぶ。
【0101】
この試料33についても試料22の場合と同様にGaN膜の成膜を行い、その膜厚を図17に示す25個の測定点で測定した。こうして得られた測定結果から、前述した方法により算出された平均測定膜厚と膜厚面内バラツキを表4に併せて示した。
【0102】
試料33のサセプタを用いると、試料22や試料C21のサセプタを用いたときに対して、GaN膜の平均測定膜厚が約1/3にまで大幅に低下することがわかった。この理由は、試料33に係る炭化物膜(サファイア基板側)の表面粗さまたは表面うねりが非常に大きいため、試料33のサセプタとサファイア基板との間の熱伝達特性も大幅に低下し、GaN膜が成膜されるサファイア基板の表面温度が低下したためと考えられる。
【0103】
従って、サセプタが他部材と接触する少なくとも一部の接触面に、試料3のように表面性状を調整した焼結膜を設けても、サセプタと接触部材との間で熱伝達特性を制御できることがわかった。
【0104】
〈実施例4:試料42および試料C41/結晶成長用ルツボ〉
(1)上述した試料2または試料C1と同様にして、昇華法によりAlN結晶を成長させる際に用いるルツボ(耐熱黒鉛部材)を製造した。各ルツボの摺合部からの原料漏れ率を調べることにより、その摺合部における表面性状(焼結膜の表面粗さまたは表面うねり)の影響を評価した。なお、本実施例では、試料2の焼結膜で被覆されたルツボを試料42、試料C1の焼結膜で被覆されたルツボを試料C41と呼ぶ。
【0105】
各試料のルツボは次のようにして製造した。黒鉛基材として、等方性黒鉛からなる円筒体(外径φ100mm×壁厚10mm×高さ100mm)と、同じ等方性黒鉛からなる円板状(外径φ100mm×厚さ10mm)の上蓋体および下蓋体を用意した。これら黒鉛基材の全面に、前述した試料2または試料C1と同様な焼結膜を形成した。但し、試料2に係る研磨工程は、摺合部となる部分、つまり円筒体の上環状端面および下環状端面とそれらに密接し得る上蓋体の内平面(下平面)と下蓋体の内平面(上平面)とに対して行った。
【0106】
(2)AlN粉末を充填した各試料のルツボを窒素雰囲気中(40kPa)に載置し、ルツボの下蓋体の温度(原量温度):2100℃、ルツボの上蓋体の温度(成長温度):1900℃とする昇華法AlN多結晶成長試験を12時間(成長時間)行った。これにより、下蓋体の内平面(上平面)上にあるAlN粉末原料を昇華させ、上蓋体の内平面(下平面)にAlN多結晶を成長させた。
【0107】
この結晶成長試験後、下記により定まる各ルツボの原料漏れ率(%)を評価した。
原料漏れ率(%)
={[原料昇華量(g)−多結晶成長量(g)]/原料昇華量(g)}×100
【0108】
試料42に係る原料漏れ率は1.9%であったが、試料C41に係る原料漏れ率は5.5%であった。このように試料42に係る原料漏れ率は、試料C41に係る原料漏れ率の約1/3にまで大幅に低減した。
【0109】
〈実施例5:試料52および試料C51/結晶成長用ルツボ〉
(1)上述した試料42と同じルツボ(試料52)と、試料C41と同じルツボ(試料C51)を用意した。これらのルツボをそれぞれ用いて、AlN結晶の場合と同様に昇華法によるSiC多結晶成長試験を行った。具体的には、SiC粉末を充填した各試料のルツボをアルゴン雰囲気中(100kPa)に載置し、ルツボの下蓋体の温度(原量温度):2400℃、ルツボの上蓋体の温度(成長温度):2200℃とする昇華法SiC多結晶成長試験を12時間(成長時間)行った。これにより、下蓋体の内平面(上平面)上にあるSiC粉末原料を昇華させ、上蓋体の内平面(下平面)にSiC多結晶を成長させた。
【0110】
この試験の場合、試料52に係る原料漏れ率は2.3%であったが、試料C51に係る原料漏れ率は8.0%であった。このように試料52に係る原料漏れ率も、試料C51に係る原料漏れ率の約1/4にまで大幅に低減した。
【0111】
実施例4の場合も実施例5の場合も、原料漏れ率が大幅に低減したのは、ルツボの摺合部における密着性、密封性等が向上したためである。これは、摺合部における焼結膜の表面粗さまたは表面うねりが大幅に改善されたためと考えられる。このようにルツボの摺合部(接触部)における炭化物膜の表面性状(表面粗さまたは表面うねり)を改善することにより、昇華法により結晶成長させる場合の原料漏れ率を大幅に低減でき、ひいては各種の単結晶をより低コストで製造できることがわかった。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
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