【実施例】
【0062】
<実施例1:試料1〜3および試料C1/炭化物膜>
《試料の製造》
(1)黒鉛基材
等方性黒鉛(熱膨張係数:6.5x10
−6/K)からなる円板状(φ100mm×厚さ5mm)の黒鉛基材を用意した。黒鉛基材の表面には微細な切削痕や凹凸が存在し得るため、成膜面となる表面を耐水研磨紙により研磨して、その表面性状を整えた。この際、試料1に係る黒鉛基材は、#400の耐水研磨紙により研磨し、試料2、試料3および試料C1に係る黒鉛基材は、#180の耐水研磨紙により研磨した。また、研磨した表面(研磨面)は、エタノール等で洗浄し、研磨面に付着した研磨屑を除去した。なお、後述する試料C2に係る黒鉛基材も、#400の耐水研磨紙により研磨し、その後、研磨屑を同様に除去した。
【0063】
(2)スラリー調製
TaC粒子(炭化物粒子)を分散させたスラリーを次のようにして調製した。各原料の配合割合は、スラリー全体を100質量%(単に「%」と表記する。)として示した。炭化物粉末であるTaC粉末(純度99.9%/粒子径1〜2μm):69%、助剤粉末であるCo粉末(平均粒径:5μm):0.7%、有機バインダーであるポリメタクリル酸メチル(PMMA:Polymethyl methacrylate):0.7%、有機溶媒であるジメチルアセトアミド:5.6%、メチルエチルケトン:12%および1、3−ジオキソラン:12%をそれぞれ秤量して配合した。これら原料をミキサーで混合した後、超音波ホモジナイザーにより分散および粉砕した。こうして炭化タンタル(TaC)粒子を主成分とするスラリーを得た。
【0064】
(3)塗布工程
各黒鉛基材の成膜面に上記のスラリーをスプレー塗布(噴霧塗布)した。スプレー塗布は、スプレーガン(アネスト岩田株式会社、HP−G6)を用いて、噴霧圧:0.13MPa、スプレーガンの先端孔から黒鉛基材の成膜面までの距離:100mmとして、室温大気中で行った。塗膜厚さは、後工程である研磨工程または付着工程を考慮しつつ、焼結後のTaC被膜(焼結膜)の膜厚が100μmとなるようにした。
【0065】
なお、各塗膜中のTaC粒子の充填率は65〜70%で、そのTaC粒子の粒径は0.2〜0.4μmであった。この充填率は、塗膜全体(100質量%)に対するTaC粒子の割合であり、膜厚および被膜の質量を測定することにより、次式により求められる。すなわち、被膜を構成する物質の密度ρ、塗布面積S、被膜の質量Wから理想膜厚(充填率100%としたときの膜厚)D=(W/ρ)/S を算出する。SEMによる破断面観察により実際の膜厚Dmを測定する。これらにより充填率f=(D/Dm)×100(%)が求まる。なお、この充填率が60%より小さくなると、焼結時に割れ等が発生し易くなる。
【0066】
また塗膜中におけるTaC粒子の粒径は、光学顕微鏡観察により特定される。上記の充填率や粒径に幅が有るのは測定精度を考慮したためである。例えば、充填率の場合、測定誤差が±2%程度あるため、算出された値が67%でも、上述のように65〜69%とした。また粒径の測定誤差は±0.1μm程度あるため、算出された値が0.3μmでも、上述のように0.2〜0.4μmとした。
【0067】
(4)乾燥工程
塗布工程後の各黒鉛基材をN
2雰囲気の加熱炉に入れ、200℃×0.5時間加熱して、塗膜を乾燥させた。こうして塗膜中から溶媒が散逸し、黒鉛基材の成膜面上にTaC粒子等からなる成形膜(乾燥後の塗膜)が形成された。
【0068】
(5)研磨工程(試料1および試料2)
試料1および試料2の場合、乾燥工程後の成形膜の表面(素面)を研磨(乾式)して滑面とした。具体的にいうと、試料1に係る成形膜の素面は、#8000のラッピングフィルム(住友スリーエム株式会社製、A3−1SHT #8000)により研磨した。また試料2に係る成形膜の素面は、#1500の耐水研磨紙(株式会社ノリタケコーテッドアブレーシブ(NCA)製、C947H #1500)により研磨した。研磨屑は羽毛やエアーダスターにて適宜除去した。
【0069】
なお、この際の研磨は、手動研磨機を用いて実施した。また、仕上げ研磨前の粗仕上げは#400耐水研磨紙で研磨した。
【0070】
(6)付着工程
試料3の場合、成形膜の素面へ、上述したスラリーを再度スプレー塗布した(付着工程)。この際、スプレーガンの先端孔から黒鉛基材の成膜面までの距離(吹付け距離)を250mmとした以外は、塗布工程の場合と同条件とした。なお、吹付け距離を長くすることにより、スプレーガンから噴出したスラリーの液滴は、成膜面の素面に着弾しても濡れ拡がらなかったことから、スプレーされたスラリー液滴は、その着弾前に表面が乾燥した半凝固状になっていることがわかった。
【0071】
このようにスラリーの再塗布をした黒鉛基材を、上述した乾燥工程と同様にして再度乾燥させた。但し、このときの乾燥時間は0.5時間とした。こうして成形膜の表面は、微細な凹凸状の粗面となった。
【0072】
なお、試料C1は、研磨工程も付着工程も施さず、成形膜の素面のままとした。
【0073】
(7)焼結工程(成膜工程)
各試料に係る成形膜で被覆された黒鉛基材を高周波加熱炉内に入れ、アルゴン雰囲気(5kPa)中で、焼結温度:2500℃、焼結時間(最高焼結温度での保持時間):1時間の加熱をした。こうして、TaC粒子が焼結した焼結膜(炭化物膜)により表面が被覆された黒鉛基材(耐熱黒鉛部材)が得られた。
【0074】
《試料の製造:試料C2》
試料C2は、上述した黒鉛基材の成膜面に、CVD法により膜厚:20μmのTaC膜を成膜した。具体的にいうと、黒鉛基材を載置した真空加熱炉内へ、TaCl
2、CH
4、H
2の混合ガスを供給し、その混合ガスを熱分解反応させることにより、黒鉛基材の成膜面にTaC膜を成膜した。このときの反応条件は、炉内圧力:500Pa、炉内温度:1150℃、TaCl
2流量:100cc/min、CH
4流量:200cc/min、H
2流量:400cc/min、処理時間:2時間とした。
【0075】
各試料毎の成膜方法、成膜条件等を表1にまとめて示した。なお、上述した塗布工程〜焼結工程により黒鉛基材の表面に成膜する方法を本実施例では焼結法と呼ぶ(試料1〜3および試料C1)。
【0076】
《観察・評価》
(1)目視観察
成形膜の素面を研磨した試料1および試料2の場合、焼結膜の表面は、試料C1や試料C2の表面よりも遙かにスムーズな平滑面となっていた。特に、細かい番手で研磨した試料1の表面は半鏡面状であった。
【0077】
一方、成形膜の素面にスラリーを再塗布した試料3の場合、焼結膜の表面は、ざらついた感じで光沢がなく、非常にマットな状態となっていた。また、研磨も再塗布も施していない試料C1の場合、焼結膜の表面は、試料C2のCVD膜の表面と同等の粗さを呈していた。
【0078】
(2)SEM観察
試料2と試料3の焼結膜の表面を観察したSEM像(top-side view)を、それぞれ
図1と
図2に示した。これらのSEM像からも明らかなように、研磨工程を行った試料2の被膜表面は非常にスムースな平滑面となっているのに対して、付着工程を行った試料3の被膜表面は非常にマットな粗面となっていることがわかる。
【0079】
(3)表面性状の測定
各試料に係る被膜表面の表面性状(表面粗さ、表面うねり)を定量的に測定した。測定には、触針式の表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、サーフテスト、SJ301)を用いた。この際、フィルタとしてガウシアンを使用し、傾斜補正を行った。また、触針には円錐形60°、先端半径2μmのものを用いた。また、測定条件、粗さパラメータ定義、うねりパラメータ定義は、JISB0601:2001、JISB0632:2001、JISB0633:2001、JISB0651:2001に準拠した。本実施例で採用した表面粗さおよび表面うねりに関する測定条件を表2にまとめて示した。
【0080】
表面粗さは、サンプル毎に評価長さ:4mm(カットオフ波長λc(ハイパスフィルタ):0.8mm)と、評価長さ:12.5mm(カットオフ波長λc(ハイパスフィルタ):2.5mm)とする2測定を行った。そして算術平均粗さRaが2μm以下のときは評価長さ:4mmを、 Raが2μm超のときは評価長さ:12.5mmを、それぞれ適切な測定条件と見做した(JISB0633:2001)。
【0081】
表面うねりに関しては、明確な評価長さおよび基準長さの指標がJISに規定されていない。もっとも、出来るだけ評価長さを長くすべきであることから、測定装置の最大評価長さ:12.5mmを表面うねりに関する評価長さとした。また、表面うねりに関する基準長さも12.5mmとした。カットオフ波長λc(ローパスフィルタ)は2.5mmとした。なお、ハイパスフィルタλfもJISには明確な規定がないため、長周期のうねりを除去しないように適用しなかった。但し、本実施例に係る測定は、λf:25mmとした場合に相当することを確認している。
【0082】
このようにして、各試料の被膜表面を測定して得られた結果を表2に併せて示した。なお、表2には、JIS2001に定義された表面粗さに関するパラメータ以外のパラメータについても併せて示した。また、得られた算術平均粗さRaより、表面粗さを評価する場合、試料3のみ評価長を12.5mmとし、他の試料は評価長を4mmとすることが適切であることがわかった。
【0083】
各試料に係る粗さ曲線を
図3〜7に示した。これらの各粗さ曲線を比較すると明らかなように、成形膜の表面を研磨した試料1および試料2の粗さ曲線は、試料C1および試料C2の粗さ曲線よりスムーズである(中心線からの変位が小さい)ことがわかる。一方、試料3の粗さ曲線(
図5の縦軸スケールは−30〜30μm)は、試料C1および試料C2の粗さ曲線より非常に粗い(中心線からの変位が大きい)こともわかる。なお、従来通り成膜しただけの試料C1(焼結法)と試料C2(CVD法)は、成膜方法が異なるものの、粗さ曲線はほぼ同等になることもわかった。
【0084】
各試料に係るうねり曲線を
図8〜12に示した。これらの各うねり曲線を比較すると明らかなように、成形膜の表面を研磨した試料1および試料2の粗さ曲線は、試料C1および試料C2のうねり曲線よりうねりが小さい(中心線からの変位の収まる範囲が小さい)ことがわかる。一方、試料3のうねり曲線は、試料C1および試料C2のうねり曲線より大きい(中心線からの変位の収まる範囲が大きい)こともわかる。
【0085】
但し、
図5と
図10を比較すると明らかなように、試料3の場合、粗さ曲線の縦軸スケールよりもうねり曲線の縦軸スケールはかなり小さい。このことから、試料3の焼結膜の表面性状は、表面うねりよりも表面粗さが支配的であると考えられる。なお、従来通り成膜しただけの試料C1(焼結法)と試料C2(CVD法)は、成膜方法が異なるものの、うねり曲線はほぼ同等となることもわかった。
【0086】
各試料に係る粗さ曲線から算出された粗さパラメータ(Ra、 Rq、 Rz、 Rt)を比較したグラフを
図13および
図14に示した。先ず、
図13は、試料1、2、C1およびC2に係る粗さパラメータの比較を示している(縦軸:リニアスケール、ダブルY表示)。
図13からも明らかなように、試料1および試料2に係る粗さパラメータは共に、試料C1または試料C2に係る粗さパラメータの1/2以下の小さな値となっていることがわかる。従って、粗さパラメータの測定バラツキを考慮したとしても、試料1または試料2のように研磨工程を経て得られた焼結膜は、粗さパラメータがRa≦0.7μm、Rq≦1.0μm、Rz≦4.5μm、Rt≦5.5μm内に収まると考えられる。特に、試料1のように焼結前の研磨を精細に行った場合、粗さパラメータは、Ra≦0.5μm、Rq≦0.6μm、Rz≦4.0μm、Rt≦6.0μm内に収まると考えられる。
【0087】
次に、
図14は、上述した各試料に試料3を加えて、各粗さパラメータを比較したグラフである(縦軸ログスケール表示)。
図14から明らかなように、試料3は試料C1または試料C2に対して、粗さパラメータが5〜7倍程度にまで増大している。従って、粗さパラメータの測定バラツキを考慮しても、試料3のように付着工程を経て得られた焼結膜は、その粗さパラメータが4≦Ra≦7μm、5≦Rq≦8μm、30≦Rz≦40μmまたは40≦Rt≦60μm程度になると考えられる。
【0088】
各試料に係るうねり曲線から算出されたうねりパラメータ(Wa、 Wq、 Wz、 Wt)を比較したグラフを
図15および
図16に示した。先ず、
図15は、試料1、2、C1およびC2に係るうねりパラメータの比較を示している(縦軸:リニアスケール、ダブルY表示)。
図15からも明らかなように、試料1および試料2に係るうねりパラメータは共に、試料C1または試料C2に係るうねりパラメータの1/2〜1/10という非常に小さな値となっていることがわかる。従って、うねりパラメータの測定バラツキを考慮したとしても、試料1または試料2のように研磨工程を経て得られた焼結膜は、うねりパラメータがWa≦1.0μm、Wq≦1.0μm、Wz≦5.0μm、Wt≦5.0μm内、さらにはWa≦0.5μm、Wq≦0.5μm、Wz≦2.0μm、Wt≦2.0μm内に収まると考えられる。
【0089】
なお、うねりパラメータは粗さパラメータと異なり、試料2の方が試料1よりも小さくなっている。この理由はラッピングフィルムの表面性状を反映しているため(表面粗さは小さいがある程度うねりが大きいため)と考えられる。
【0090】
次に、
図16は、上述した各試料に試料3を加えて、各うねりパラメータを比較したグラフである(縦軸ログスケール表示)。
図16から明らかなように、試料3は試料C1または試料C2に対して、うねりパラメータが2倍程度に増大していることがわかる。もっとも、試料C1または試料C2に対する試料3に係るうねりパラメータの増大幅は、その粗さパラメータの増大幅よりも遙かに小さい。これは前述したように、試料3のような場合、その表面性状は主に粗さパラメータにより特徴付けられるためと考えられる。
【0091】
<実施例2:試料22および試料C21/成膜用サセプタ>
《サセプタの製造》
上述した試料2または試料C1と同様にして、有機金属気相成長法(MOCVD法)によりGaN膜を成膜する際に用いるサセプタ(耐熱黒鉛部材)を製造した。各サセプタを用いて成膜されたそれぞれのGaN膜の膜厚分布を調べることにより、各サセプタの熱伝達特性(焼結膜の表面粗さまたは表面うねりの影響)を評価した。なお、本実施例では、試料2の焼結膜で被覆されたサセプタを試料22、試料C1の焼結膜で被覆されたサセプタを試料C21と呼ぶ。
【0092】
黒鉛基材は前述した等方性黒鉛からなる円板状(φ70mm×厚さ10mm)である。この黒鉛基材の全面に、前述した試料2または試料C1と同様な焼結膜を形成した。但し、試料2に係る研磨工程は、GaN膜の成膜に用いるサファイア基板と接触する側にくる成形膜の表面についてのみ行った。このようなサセプタ(試料22、試料C21)を、表4に示すように、それぞれ5個づつ製作した。
【0093】
《GaN膜の成膜》
各サセプタをそれぞれ用いて、同一条件でGaN膜の成膜試験を行った。なお、試料22に係る各サセプタは、当然、研磨工程を施した側の焼結膜をサファイア基板に接触させた。
【0094】
GaN膜の成膜は、成長温度(サセプタ温度):1040℃、原料ガス:TMG(Ga(CH
3)
3)およびNH
3、キャリアガス:H
2、V/III比:15000、圧力:35kPa、成膜時間:36min、基板:φ2インチc面サファイア基板、という条件下で行った。この成膜条件は、全てのサセプタについて共通である。
【0095】
《GaN膜の膜厚分布》
(1)各試料のサセプタを用いてサファイア基板上に成膜されたGaN膜の膜厚分布を、分光干渉膜厚計(浜松ホトニクス株式会社製C10178−01)により測定した。このときの測定点と、各測定点の識別番号を
図17に示した。各測定点は、φ2インチ基板上に設定した7.5mm間隔の正方グリッド状の25点とした(測定点13が中心である)。
【0096】
試料22(表4のサセプタロット1)のGaN膜の各測定点における膜厚(膜厚分布)を表3に示した。また、表3に示した各測定点について、中心点(測定点13)からの距離(横軸)と膜厚の関係を示す膜厚分布を
図18に示した。
図18から明らかなように、各測定点における膜厚は、ほぼ中心点を最大(頂点)とする二次曲線でフィッテングできた。GaN膜が中心点を頂点とする凸面状となっているのは、MOCVD装置に固有な構造および温度分布に起因するものであって、サセプタの表面性状に起因するものではない。そこで、表3に示す各数値から求めたフィッテング曲線の代数式(Y)へ、中心点からの距離(X)を代入して算出した膜厚(フィッテング膜厚)と、実際に測定された測定膜厚との絶対値差(膜厚差)を、サセプタの表面性状に起因して生じた膜厚のバラツキと考えた。そして、測定膜厚の平均値に対する膜厚差の平均値の割合として算出した膜厚面内バラツキ(AAD)は0.336%となった。
【0097】
試料22に係る他のサセプタロットおよび試料C21に係る各サセプタロットについても同様に膜厚面内バラツキを算出した。こうして得られた結果を表4にまとめて示した。また、それらの結果に基づいて各試料毎に算出したサセプタロット間の平均測定膜厚バラツキ(標準偏差)と膜厚面内バラツキの平均値も表4に併せて示した。
【0098】
表4から次のことがわかる。先ず、試料22の平均測定膜厚は3μm以上であったが、試料C21の平均測定膜厚はそれよりも小さく3μm未満であった。試料22の平均測定膜厚のバラツキ(標準偏差)は0.014μmと小さかったが、試料C21の平均測定膜厚のバラツキは0.07μmと大きく、試料22のバラツキの5倍にもなった。試料22の膜厚面内バラツキの平均値は0.332%と小さかったが、試料C21の膜厚面内バラツキの平均値は1.624%と大きく、試料22のバラツキの約5倍にもなった。
【0099】
このように試料C21のサセプタよりも試料22のサセプタを用いることにより、成膜面内における膜厚のバラツキやロット間における膜厚のバラツキを小さくでき、良好なGaN膜を得ることができることが明らかとなった。この理由は、試料22のサセプタと試料C21のサセプタとの表面性状の相違に起因していると考えられる。つまり、試料22のサセプタは試料C21のサセプタに対して、炭化物膜(TaCからなる焼結膜)の表面粗さおよび表面うねりが非常に小さく、サセプタとサファイア基板の間における熱伝達特性が大幅に改善されたためと考えられる。
【0100】
〈実施例3:試料33/成膜用サセプタ〉
試料22の場合と同様にして、上述した試料3の焼結膜で全面を被覆した黒鉛基材からなるサセプタ(試料33)を1つ製造した。この場合も焼結工程前の付着工程は、サファイア基板に接触する側についてのみ行った。このサセプタを試料33と呼ぶ。
【0101】
この試料33についても試料22の場合と同様にGaN膜の成膜を行い、その膜厚を
図17に示す25個の測定点で測定した。こうして得られた測定結果から、前述した方法により算出された平均測定膜厚と膜厚面内バラツキを表4に併せて示した。
【0102】
試料33のサセプタを用いると、試料22や試料C21のサセプタを用いたときに対して、GaN膜の平均測定膜厚が約1/3にまで大幅に低下することがわかった。この理由は、試料33に係る炭化物膜(サファイア基板側)の表面粗さまたは表面うねりが非常に大きいため、試料33のサセプタとサファイア基板との間の熱伝達特性も大幅に低下し、GaN膜が成膜されるサファイア基板の表面温度が低下したためと考えられる。
【0103】
従って、サセプタが他部材と接触する少なくとも一部の接触面に、試料3のように表面性状を調整した焼結膜を設けても、サセプタと接触部材との間で熱伝達特性を制御できることがわかった。
【0104】
〈実施例4:試料42および試料C41/結晶成長用ルツボ〉
(1)上述した試料2または試料C1と同様にして、昇華法によりAlN結晶を成長させる際に用いるルツボ(耐熱黒鉛部材)を製造した。各ルツボの摺合部からの原料漏れ率を調べることにより、その摺合部における表面性状(焼結膜の表面粗さまたは表面うねり)の影響を評価した。なお、本実施例では、試料2の焼結膜で被覆されたルツボを試料42、試料C1の焼結膜で被覆されたルツボを試料C41と呼ぶ。
【0105】
各試料のルツボは次のようにして製造した。黒鉛基材として、等方性黒鉛からなる円筒体(外径φ100mm×壁厚10mm×高さ100mm)と、同じ等方性黒鉛からなる円板状(外径φ100mm×厚さ10mm)の上蓋体および下蓋体を用意した。これら黒鉛基材の全面に、前述した試料2または試料C1と同様な焼結膜を形成した。但し、試料2に係る研磨工程は、摺合部となる部分、つまり円筒体の上環状端面および下環状端面とそれらに密接し得る上蓋体の内平面(下平面)と下蓋体の内平面(上平面)とに対して行った。
【0106】
(2)AlN粉末を充填した各試料のルツボを窒素雰囲気中(40kPa)に載置し、ルツボの下蓋体の温度(原量温度):2100℃、ルツボの上蓋体の温度(成長温度):1900℃とする昇華法AlN多結晶成長試験を12時間(成長時間)行った。これにより、下蓋体の内平面(上平面)上にあるAlN粉末原料を昇華させ、上蓋体の内平面(下平面)にAlN多結晶を成長させた。
【0107】
この結晶成長試験後、下記により定まる各ルツボの原料漏れ率(%)を評価した。
原料漏れ率(%)
={[原料昇華量(g)−多結晶成長量(g)]/原料昇華量(g)}×100
【0108】
試料42に係る原料漏れ率は1.9%であったが、試料C41に係る原料漏れ率は5.5%であった。このように試料42に係る原料漏れ率は、試料C41に係る原料漏れ率の約1/3にまで大幅に低減した。
【0109】
〈実施例5:試料52および試料C51/結晶成長用ルツボ〉
(1)上述した試料42と同じルツボ(試料52)と、試料C41と同じルツボ(試料C51)を用意した。これらのルツボをそれぞれ用いて、AlN結晶の場合と同様に昇華法によるSiC多結晶成長試験を行った。具体的には、SiC粉末を充填した各試料のルツボをアルゴン雰囲気中(100kPa)に載置し、ルツボの下蓋体の温度(原量温度):2400℃、ルツボの上蓋体の温度(成長温度):2200℃とする昇華法SiC多結晶成長試験を12時間(成長時間)行った。これにより、下蓋体の内平面(上平面)上にあるSiC粉末原料を昇華させ、上蓋体の内平面(下平面)にSiC多結晶を成長させた。
【0110】
この試験の場合、試料52に係る原料漏れ率は2.3%であったが、試料C51に係る原料漏れ率は8.0%であった。このように試料52に係る原料漏れ率も、試料C51に係る原料漏れ率の約1/4にまで大幅に低減した。
【0111】
実施例4の場合も実施例5の場合も、原料漏れ率が大幅に低減したのは、ルツボの摺合部における密着性、密封性等が向上したためである。これは、摺合部における焼結膜の表面粗さまたは表面うねりが大幅に改善されたためと考えられる。このようにルツボの摺合部(接触部)における炭化物膜の表面性状(表面粗さまたは表面うねり)を改善することにより、昇華法により結晶成長させる場合の原料漏れ率を大幅に低減でき、ひいては各種の単結晶をより低コストで製造できることがわかった。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】