特許第6206020号(P6206020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206020
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】電磁クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   F16D27/118
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-189160(P2013-189160)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-55300(P2015-55300A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 則行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】宅野 博
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−062937(JP,A)
【文献】 特開平10−264672(JP,A)
【文献】 特表2013−511674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/118
F16D 11/00
F16D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転部材と第2回転部材とをトルク伝達可能に連結する電磁クラッチ装置であって、
前記第1回転部材に設けられた第1噛合部に噛み合う第2噛合部を有し、前記第2回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材と、
通電により磁力を発生する電磁コイルと、
前記磁力によって軸方向移動するアーマチャと、
前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合う方向に前記噛み合い部材を付勢する付勢部材と、
前記アーマチャの軸方向移動により前記付勢部材の付勢力に抗して前記噛み合い部材を押圧して軸方向移動させる押圧機構とを備え、
前記押圧機構は、前記電磁コイルを支持するハウジングに対して軸方向移動不能かつ相対回転不能に設けられた係止部と、軸方向の異なる位置で前記係止部に係止される複数の被係止部が形成された円筒状のカム部材とを有し、前記アーマチャの軸方向移動に応動して前記係止部が前記複数の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の被係止部を係止するように構成され、
前記アーマチャの軸方向移動に応動して前記カム部材が前記噛み合い部材とは反対側に移動するとき、前記付勢部材の付勢力によって前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合う
電磁クラッチ装置。
【請求項2】
前記複数の被係止部は、前記カム部材の軸方向における少なくとも3つの異なる位置に形成され、
前記噛み合い部材は、前記係止部が前記複数の被係止部のうち前記噛み合い部材から最も遠い位置に形成された被係止部を係止する状態が解除されて前記噛み合い部材に最も近い位置に形成された被係止部を係止するとき、前記付勢部材の付勢力によって前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合う
請求項1に記載の電磁クラッチ装置。
【請求項3】
前記カム部材には、前記複数の被係止部が周方向に隣り合って形成され、
前記アーマチャは、その軸方向の第1位置から第2位置への移動によって前記カム部材を前記噛み合い部材側に押圧すると共に前記カム部材を第1所定角度だけ回転させ、
前記アーマチャの前記第2位置から前記第1位置への移動によって前記カム部材が第2所定角度さらに回転し、前記係止部が前記複数の被係止部のうち周方向に隣り合う他の被係止部を係止する、
請求項1又は2に記載の電磁クラッチ装置。
【請求項4】
前記アーマチャが前記第1位置にあるとき、前記係止部が前記被係止部における前記軸方向端面及び周方向の側面に当接し、かつ前記アーマチャに設けられた押圧突起が前記側面から前記カム部材の周方向に離間した位置で前記軸方向端面に対向し、
前記アーマチャが前記第2位置に移動したとき、前記カム部材が前記第1所定角度回転して前記押圧突起が前記側面に当接し、前記係止部の先端面が前記他の被係止部の前記軸方向端面に対向する、
請求項3に記載の電磁クラッチ装置。
【請求項5】
前記噛み合い部材の前記第2噛合部は前記第2回転部材と常に噛み合い、前記噛み合い部材が軸方向に移動することにより前記第2噛合部が前記第1回転部材とも噛み合って前記第1回転部材と前記第2回転部材とがトルク伝達可能に連結される、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電磁クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁コイルの磁力によって作動する電磁クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の駆動力伝達経路に設けられ、電磁的手段によってトルクの伝達及び遮断を切り替えるクラッチ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力切換機構は、車両の2輪駆動状態と4輪駆動状態とを切り替えるためのクラッチ装置として機能し、電動モータ及び減速機を備えたアクチュエータと、アクチュエータの出力ギヤの回転を軸方向の変位に変換するラックと、ラックの軸方向移動によって第1回転部材及び第2回転部材にスプライン係合するスリーブとを備えている。第1回転部材と第2回転部材とをトルク伝達可能に連結する際には、電動モータに電流を供給し、減速機によって減速された出力ギヤの回転によってラックを軸方向移動させ、スリーブを第1回転部材及び第2回転部材にスプライン係合させる。これにより、車両の駆動源の駆動力伝達経路が切り換えられ、車両の駆動状態が2輪駆動状態から4輪駆動状態に切り替わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−80385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばウェット路面等の低μ路を2輪駆動状態で走行中に車輪がスリップした場合などには、迅速に4輪駆動状態に切り替えて車両の走行を安定させる必要がある。しかし、特許文献1に記載のものでは、電動モータのロータの回転が減速されて出力ギヤから出力され、かつラックによって出力ギヤの回転が軸方向の変位に変換されてスリーブが軸方向移動するので、必ずしも迅速な4輪駆動状態への切り替えが行えない場合がある。そのため、第1回転部材と第2回転部材との相対回転が可能な非連結状態から第1回転部材及び第2回転部材が連結された連結状態への切り換えを速やかに行うことが可能な電磁クラッチ装置が要望されていた。
【0006】
そこで、本発明は、相対回転可能な第1回転部材及び第2回転部材の非連結状態から連結状態への切り換え応答性を高めることが可能な電磁クラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、第1回転部材と第2回転部材とをトルク伝達可能に連結する電磁クラッチであって、前記第1回転部材に設けられた第1噛合部に噛み合う第2噛合部を有し、前記第2回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材と、通電により磁力を発生する電磁コイルと、前記磁力によって軸方向移動するアーマチャと、前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合う方向に前記噛み合い部材を付勢する付勢部材と、前記アーマチャの軸方向移動により前記付勢部材の付勢力に抗して前記噛み合い部材を押圧して軸方向移動させる押圧機構とを備え、前記押圧機構は、前記電磁コイルを支持するハウジングに対して軸方向移動不能かつ相対回転不能に設けられた係止部と、軸方向の異なる位置で前記係止部に係止される複数の被係止部が形成された円筒状のカム部材とを有し、前記アーマチャの軸方向移動に応動して前記係止部が前記複数の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の被係止部を係止するように構成され、前記アーマチャの軸方向移動に応動して前記カム部材が前記噛み合い部材とは反対側に移動するとき、前記付勢部材の付勢力によって前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合う電磁クラッチ装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、相対回転可能な第1回転部材及び第2回転部材の非連結状態から連結状態への切り換え応答性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る電磁クラッチ装置の断面図である。
図2】アーマチャを示す斜視図である。
図3】第2ハウジング部材に設けられた複数の係止部を示す斜視図である。
図4】カム部材を示す斜視図である。
図5】(a)〜(d)は、カム部材をアーマチャの押圧突起及び係止部と共に示す押圧機構の斜視図である。
図6】(a)〜(d)は、押圧機構の動作を説明するために示すカム部材、アーマチャの押圧突起、及び係止部の模式図である。
図7】(a)〜(d)は、電磁クラッチ装置が非連結状態から連結状態に移行する際の押圧機構の動作を説明するために示すカム部材、アーマチャの押圧突起、及び係止部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る電磁クラッチ装置及びその周辺部の断面図である。この電磁クラッチ装置は、例えば車両のエンジン等の駆動源の駆動力を断続可能に伝達するために用いられる。
【0011】
この電磁クラッチ装置1は、第1回転部材11と第2回転部材12とをトルク伝達可能に連結する。第1回転部材11及び第2回転部材12は、回転軸線Oを共有して同軸上で相対回転可能にハウジング10に支持されている。ハウジング10は、第1ハウジング部材101及び第2ハウジング部材102からなり、第1ハウジング部材101と第2ハウジング部材102とが複数のボルト100(図1には1つのボルト100のみを示す)によって相互に固定されている。
【0012】
第2回転部材12は、第1ハウジング部材101との間に配置された玉軸受16によって回転可能に支持されている。第2回転部材12は、玉軸受16に支持された軸部121と、軸部121の端部から径方向外方に張り出して形成された張り出し部122と、張り出し部122の外径端部から回転軸線Oに沿って第1回転部材11側に延在する円筒部123と、円筒部123の先端部からさらに径方向外方に張り出して形成されたフランジ部124と、フランジ部124の外周に形成されたスプライン嵌合部125とを一体に有している。
【0013】
第1回転部材11は、第2ハウジング部材102に形成された開口102aから挿入されるシャフト13を挿通させる挿通孔11aが形成された円筒部110と、円筒部110の外周面から径方向外方に張り出して形成されたフランジ部111と、フランジ部111の外周に形成された第1噛合部としてのスプライン嵌合部112とを一体に有している。挿通孔11aの内面には、シャフト13の外周スプライン嵌合部13aにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部11bが形成されている。第1回転部材11とシャフト13とは、内周スプライン嵌合部11bと外周スプライン嵌合部13aとのスプライン嵌合により相対回転不能に連結され、かつスナップリング14によって軸方向の相対移動が規制されている。シャフト13の外周面と第2ハウジング部材102の開口102aの内面との間は、シール部材15によって封止されている。
【0014】
第1回転部材11は、その軸方向における第2回転部材12側の端部に設けられた一端小径部110bが第2回転部材12の円筒部113の内側に配置された玉軸受17によって支持され、第2ハウジング部材102の開口102a側の端部に設けられた他端小径部110cが第2ハウジング部材102との間に配置された玉軸受18によって支持されている。フランジ部111は、一端小径部110bと他端小径部110cとの間の大径部110aにおける一端小径部110b側の端部に設けられている。大径部110aは、一端小径部110b及び他端小径部110cよりも外径が大きく形成されている。第1回転部材11の外周面とハウジング10との間には、電磁クラッチ装置1が配置されている。
【0015】
電磁クラッチ装置1は、第2回転部材12に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材2と、通電により磁力を発生する電磁コイル3と、電磁コイル3の磁力によって軸方向移動するアーマチャ4と、噛み合い部材2を軸方向に付勢する付勢部材7と、アーマチャ4の軸方向移動により付勢部材7の付勢力に抗して噛み合い部材2を押圧して軸方向移動させる押圧機構1aとを有している。
【0016】
噛み合い部材2は、第1回転部材11の円筒部110における大径部110aに外嵌された円筒部21と、円筒部21における第1回転部材11のフランジ部111側の端部から径方向外方に張り出して形成されたフランジ部22と、フランジ部22の外径側の端部から回転軸線Oに沿って第2回転部材12側に延在する円筒部23と、円筒部23の内周に形成された第2噛合部としてのスプライン嵌合部24とを一体に有している。
【0017】
噛み合い部材2は、そのスプライン嵌合部24が第2回転部材12に設けられたスプライン嵌合部125に常に噛み合い、第2回転部材12との相対回転が規制されている。また、噛み合い部材2は、第2回転部材12から離間する方向への軸方向移動によって、スプライン嵌合部24が第1回転部材11に設けられたスプライン嵌合部112に噛み合う。噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第2回転部材12のスプライン嵌合部125及び第1回転部材11のスプライン嵌合部112に共に噛み合うと、第1回転部材11と第2回転部材12とが噛み合い部材2を介してトルク伝達可能に連結される。つまり、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24は第2回転部材12と常に噛み合い、噛み合い部材2が軸方向に移動することによりスプライン嵌合部24が第1回転部材11とも噛み合って、第1回転部材11と第2回転部材12とがトルク伝達可能に連結される。
【0018】
図1では、回転軸線Oよりも上側に噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合っていない状態(非連結状態)を示し、回転軸線Oよりも下側に噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合った状態(連結状態)を示している。
【0019】
付勢部材7は、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う方向に噛み合い部材2を付勢する。本実施の形態では、複数の皿バネ70を回転軸線O方向に沿って配列して付勢部材7が構成されているが、付勢部材7をコイルバネやゴム等の弾性体によって構成してもよい。また、付勢部材7は、回転軸線Oに沿った軸方向の一端が第2回転部材12の円筒部123の外周に嵌合された止め輪71に当接し、かつ軸方向の他端が噛み合い部材2の円筒部23の軸方向端面23aに当接し、噛み合い部材2の円筒部23を第1回転部材11のフランジ部111側に押し付けている。
【0020】
電磁コイル3は、樹脂からなるボビン31に図略のコントローラから供給される電流が流れる巻線32を巻き回してなる。この電磁コイル3は、鉄等の強磁性体からなる環状のヨーク30に保持され、ヨーク30は第2ハウジング部材102に支持されている。ヨーク30には、回転軸線Oに平行となるように配置された円柱状のピン300が嵌合する複数の穴部30aが形成され、この穴部30aにピン300の一端部が挿入されている。また、第2ハウジング部材102には、ピン300の他端部が嵌合する複数の穴部102bが形成されている。
【0021】
図2は、アーマチャ4を示す斜視図である。アーマチャ4は、中心部に第1回転部材11を挿通させる貫通孔4aが形成された円環板状の本体40と、貫通孔4aの内周面から本体40の中心に向かって突出する複数(本実施の形態では6つ)の押圧突起41とを一体に有している。本体40には、貫通孔4aの周囲に複数のピン300(図1に示す)を挿通させるピン挿通孔4bが複数箇所(本実施の形態では4箇所)に形成されている。押圧突起41は、後述するカム部材5の被係止部における軸方向端面に対向する対向面41aが、本体40の厚さ方向(回転軸線Oに平行な方向)に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
【0022】
アーマチャ4は、図1に示すように、本体40とヨーク30との間に配置された皿バネ301によって、ヨーク30から離間する方向に弾性的に押し付けられている。アーマチャ4は、電磁コイル3が非通電であるときには、皿バネ301の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接し、電磁コイル3に通電されると、その磁力によってヨーク30に引き寄せられる。また、アーマチャ4は、ピン挿通孔4bに挿通された複数のピン300によって第2ハウジング部材102及びヨーク30に対する回転が規制されている。したがって、アーマチャ4は、第2ハウジング部材102の受け部102cに当接した第1位置と、ヨーク30に当接した第2位置との間を、複数のピン300に案内されて移動する。図1では、回転軸線Oよりも上側にアーマチャ4が第2位置にある状態を示し、回転軸線Oよりも下側にアーマチャ4が第1位置にある状態を示している。
【0023】
押圧機構1aは、電磁コイル3を支持するハウジング10に対して軸方向移動不能かつ相対回転不能に設けられた係止部19と、軸方向の異なる位置で係止部19に係止される複数の被係止部(後述)が形成された円筒状のカム部材5とを有し、アーマチャ4の軸方向移動に応動して係止部19が複数の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の被係止部を係止するように構成されている。
【0024】
カム部材5は、噛み合い部材2と共に第1回転部材11の円筒部110における大径部110aに外嵌されている。噛み合い部材2及びカム部材5は、第1回転部材11の円筒部110に隙間嵌めされ、第1回転部材11に対して軸方向移動可能かつ相対回転可能である。噛み合い部材2とカム部材5との間には、転がり軸受6が配置されている。本実施の形態では、転がり軸受6が針状スラストころ軸受からなる。噛み合い部材2は転がり軸受6よりも第2回転部材12側に、またカム部材5は転がり軸受6よりも係止部19側に、それぞれ配置されている。
【0025】
カム部材5は、付勢部材7による押圧力を噛み合い部材2から転がり軸受6を介して複数の係止部19側への軸方向の付勢力として受ける。本実施の形態では、複数の係止部19が第2ハウジング部材102に一体に設けられているが、複数の係止部19は第2ハウジング部材102と別体でもよい。
【0026】
カム部材5は、アーマチャ4の軸方向移動に応動し、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除される方向に、噛み合い部材2を回転軸線Oに沿って軸方向に押圧する。
【0027】
図3は、第2ハウジング部材102に設けられた複数の係止部19を示す斜視図である。
【0028】
第2ハウジング部材102には、第1回転部材11を挿通させる貫通孔102dが形成され、複数の係止部19は、貫通孔102dの内周面から第1回転部材11側に向かって突出し、かつ回転軸線Oに沿ってカム部材5側に突出している。複数の係止部19は、貫通孔102dの周方向に沿って等間隔に設けられ、その個数はアーマチャ4の押圧突起41の個数と同じである。係止部19は、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41aと同様に、後述するカム部材5の被係止部における軸方向端面に対向する先端面19aが、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
【0029】
図4は、カム部材5を示す斜視図である。このカム部材5には、軸方向の異なる位置で係止部19に係止される複数の被係止部が周方向に隣り合って形成されている。本実施の形態では、この複数の被係止部が第1乃至第4の被係止部51〜54からなる。これら第1乃至第4の被係止部51〜54は、転がり軸受6が当接する軸方向端面5aとは反対側の端部に、周方向に沿って6組形成されている。
【0030】
各組における第1乃至第4の被係止部51〜54は、カム部材5を回転軸線Oの方向から時計回りに見た場合に、第1の被係止部51に隣接して第2の被係止部52が形成され、第2の被係止部52に隣接して第3の被係止部53が形成され、第3の被係止部53に隣接して第4の被係止部54が形成されている。第4の被係止部54における第3の被係止部53とは反対側の端部には、軸方向に突出する壁部55が形成されている。
【0031】
第1乃至第4の被係止部51〜54は、カム部材5の軸方向の位置が互いに異なり、第2の被係止部52は第1の被係止部51よりも軸方向端面5aから離間し、第3の被係止部53は第2の被係止部52よりも軸方向端面5aから離間し、第4の被係止部54は第3の被係止部53よりも軸方向端面5aからさらに離間して形成されている。
【0032】
第1乃至第4の被係止部51〜54のそれぞれの軸方向端面51a〜54aは、カム部材5の周方向に対して傾斜している。より具体的には、第1の被係止部51の軸方向端面51aは第2の被係止部52側の端部ほど軸方向端面5aに近づくように傾斜し、第2の被係止部52の軸方向端面52aは第3の被係止部53側の端部ほど軸方向端面5aに近づくように傾斜し、第3の被係止部53の軸方向端面53aは第4の被係止部54側の端部ほど軸方向端面5aに近づくように傾斜し、第4の被係止部54の軸方向端面54aは壁部55側の端部ほど軸方向端面5aに近づくように傾斜している。
【0033】
壁部55は、その軸方向の端面55aが軸方向端面51a〜54aと同方向に傾斜している。また、壁部55は、その周方向における一方の側面55bが第4の被係止部54に面している。
【0034】
第1乃至第4の被係止部51〜54の軸方向端面51a〜54aには、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41a及び係止部19の先端面19aが当接する。アーマチャ4の対向面41aは、軸方向端面51a〜54aのカム部材5の径方向外側の部分に当接し、係止部19の先端面19aは、軸方向端面51a〜54aのカム部材5の径方向内側の部分に当接する。カム部材5は、付勢部材7により、軸方向端面51a〜54aがアーマチャ4の押圧突起41及び係止部19に押し付けられる軸方向の付勢力を受ける。
【0035】
係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、係止部19の先端面19aと軸方向端面5aとの間隔は最も短くなる。また、係止部19が第4の被係止部54を係止するとき、係止部19の先端面19aと軸方向端面5aとの間隔は最も長くなる。
【0036】
係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、図1の回転軸線Oよりも下側に示すように噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合い、係止部19が第4の被係止部54を係止するとき、図1の回転軸線Oよりも上側に示すように噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除される。係止部19が第2の被係止部52又は第3の被係止部53を係止する状態では、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112の一部に噛み合う。
【0037】
(押圧機構1aの動作)
次に、押圧機構1aの動作について、図5乃至図7を参照して説明する。
【0038】
図5(a)〜(d)は、第2ハウジング部材102における複数の係止部19以外の部分の図示を省略してアーマチャ4及びカム部材5を示す斜視図である。図6(a)〜(d)は、カム部材5をアーマチャ4の押圧突起41及び係止部19と共に径方向の外側から見た状態を示す模式図である。
【0039】
図5(a)及び図6(a)は、係止部19が第1の被係止部51を係止し、アーマチャ4が第1位置にある第1状態を示している。この第1状態では、付勢部材7の付勢力により第1の被係止部51の軸方向端面51aが係止部19の先端面19aに押し付けられ、かつアーマチャ4の押圧突起41における対向面41aに対向する。また、係止部19は第1の被係止部51の周方向の側面51bに当接し、アーマチャ4の押圧突起41は側面51bからカム部材5の周方向に離間した位置で軸方向端面51aに対向する。第1の被係止部51の側面51bは、第1の被係止部51と第2の被係止部52との間に形成された段差面であり、カム部材5の軸方向に平行な平坦な面である。第1の被係止部51において、軸方向端面51aと側面51bとがなす角は鋭角である。
【0040】
図5(b)及び図6(b)は、電磁コイル3に通電され、図5(a)及び図6(a)に示す第1状態からアーマチャ4が第2位置に移動した第2状態を示している。アーマチャ4は、第1状態から第2状態に移行する過程で押圧突起41の対向面41aが軸方向端面51aに当接し、押圧突起41がカム部材5を噛み合い部材2側に押圧する。また、この第2状態では、係止部19が第1の被係止部51の側面51bに当接した状態が解除され、カム部材5は、第1の被係止部51の軸方向端面51aとアーマチャ4の押圧突起41の対向面41aとの摺動により、第1所定角度だけ矢印A方向に回転する。このカム部材5の回転により、第1の被係止部51の側面51bがアーマチャ4の押圧突起41の側面41bに当接する。
【0041】
つまり、アーマチャ4は、その軸方向の第1位置から第2位置への移動によってカム部材5を噛み合い部材2側に押圧すると共に、カム部材5を第1所定角度だけ回転させる。この第1所定角度は、図6(a)に示すアーマチャ4の押圧突起41と第1の被係止部51の側面51bとの間の隙間の距離dに対応した角度である。
【0042】
アーマチャ4が第2位置にあるとき、係止部19の先端面19aは、第2の被係止部52との間に隙間をあけて軸方向端面52aに対向する。つまり、アーマチャ4が第2位置に移動したとき、カム部材5が第1所定角度回転して押圧突起41が側面51bに当接し、係止部19の先端面19aが隣り合う第2の被係止部52の軸方向端面52aに対向する。
【0043】
図5(c)及び図6(c)は、電磁コイル3への通電が遮断され、アーマチャ4が第2位置から第1位置に戻る途中の第3状態を示している。この第3状態では、係止部19の先端面19aが第2の被係止部52の軸方向端面52aに当接する。この係止部19の先端面19aと第2の被係止部52の軸方向端面52aとの当接により、カム部材5には、矢印A方向への回転力が作用するが、矢印A方向への回転は、アーマチャ4の押圧突起41の側面41bと第1の被係止部51の側面51bとの当接により規制されている。
【0044】
図5(d)及び図6(d)は、アーマチャ4が第1位置に戻り、カム部材5が係止部19の側面19bに第2の被係止部52の周方向の側面52bが当接するまで矢印A方向に回転した第4状態を示している。この第4状態では、付勢部材7の付勢力を受けたカム部材5の第2の被係止部52の軸方向端面52aと係止部19の先端面19aとの摺動により、カム部材5が係止部19に対して第2所定角度回転する。これにより、係止部19が第2の被係止部52を係止する。この第2所定角度は、図6(c)に示す第3状態における第2の被係止部52の側面52bと係止部19との間の距離dに対応した角度である。つまり、アーマチャ4の第2位置から第1位置への移動によってカム部材5が第2所定角度さらに回転し、係止部19が第1の被係止部51に隣り合う第2の被係止部52を係止する。
【0045】
押圧機構1aは、アーマチャ4が第1位置と第2位置との間を複数回往復することにより、カム部材5が付勢部材7の付勢力に抗して噛み合い部材2を軸方向移動させる。本実施の形態では、カム部材5に階段状に形成された4つの被係止部(第1乃至第4の被係止部51〜54)を有するので、電磁コイル3への通電及び通電遮断が3回行われ、アーマチャ4が第1位置と第2位置の間を3往復することにより、係止部19が第1の被係止部51を係止する位置から第4の被係止部54を係止する位置までカム部材5が回転する。
【0046】
図6(a)に示すように、軸方向端面5aから第1の被係止部51の軸方向端面51aまでの距離をdとし、軸方向端面5aから第4の被係止部54の軸方向端面54aまでの距離をdとすると、距離dは距離dよりも長く、カム部材5は、この距離dと距離をdとの差に応じた範囲で軸方向に進退移動する。
【0047】
図7は、係止部19が第4の被係止部54を係止する状態から第1の被係止部51を係止する状態に移行し、電磁クラッチ装置1が非連結状態から連結状態に移行する際の動作を説明する模式図である。
【0048】
図7(a)は、係止部19が第4の被係止部54を係止し、アーマチャ4が第1位置にある状態を示している。この状態では、係止部19が第4の被係止部54の軸方向端面54a及び壁部55の周方向の側面55bに当接する。
【0049】
図7(b)は、アーマチャ4が第2位置に移動した状態を示している。アーマチャ4は、第1状態から第2状態に移行する過程で、押圧突起41がカム部材5を噛み合い部材2側に押圧し、係止部19が壁部55の周方向の側面55bに当接した状態が解除されることにより、カム部材5が矢印A方向に第1所定角度だけ回転する。
【0050】
図7(c)は、アーマチャ4が第2位置から第1位置に戻る途中の状態を示している。この状態では、係止部19の先端面19aが壁部55の軸方向の端面55aに当接し、カム部材5には、矢印A方向への回転力が作用する。
【0051】
図7(d)は、アーマチャ4が第1位置に戻り、係止部19が第1の被係止部51を係止するまで矢印A方向に回転した状態を示している。図7(c)に示す状態から図7(d)に示す状態まで移行する過程で、カム部材5は距離dと距離をdとの差に応じた範囲の全体に亘って軸方向に大きく変位し、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。
【0052】
このように、アーマチャ4の軸方向移動に応動してカム部材5が噛み合い部材2とは反対側に移動するとき、付勢部材7の付勢力によって噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。より具体的には、噛み合い部材2は、係止部19が第1乃至第4の被係止部51〜54のうち噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第4の被係止部54を係止する状態が解除されて噛み合い部材2に最も近い位置に形成された第1の被係止部51を係止するとき、付勢部材7の付勢力によってスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合い、第1回転部材11と第2回転部材12とがトルク伝達可能に連結された連結状態となる。
【0053】
つまり、第1回転部材11及び第2回転部材12の連結状態から非連結状態に移行する際には、アーマチャ4が第1位置と第2位置との間を3往復する必要があるが、非連結状態から連結状態に移行する際には、アーマチャ4が第1位置と第2位置との間を1往復すれば足りる。
【0054】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、次に述べる作用及び効果が得られる。
【0055】
(1)噛み合い部材2は、アーマチャ4の第1位置から第2位置への軸方向移動に伴って軸方向に移動し、第2回転部材12と噛み合うので、例えば電動モータ及び減速機をクラッチ装置を作動させるアクチュエータとして用いた場合に比較して、連結状態と非連結状態との切り換えを速やかに行うことができる。すなわち、切り換え応答性が向上する。特に、本実施の形態では、係止部19が第4の被係止部54を係止した状態からアーマチャ4を第1位置と第2位置との間で1往復させることにより、付勢部材7の付勢力によってスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合うので、非連結状態から連結状態への切り換え応答性を十分に高めることが可能となる。
【0056】
(2)カム部材5は、第1乃至第4の被係止部51〜54の軸方向端面51a〜54aが周方向に対して傾斜しているので、アーマチャ4の第1位置から第2位置への軸方向移動によって押圧突起41の対向面41aを軸方向端面51a〜54aが摺動し、カム部材5が第1所定角度回転する。また、カム部材5は、軸方向端面51a〜54aの傾斜により、アーマチャ4の第2位置から第1位置への軸方向移動によってカム部材5が第2所定角度回転する。つまり、アーマチャ4の軸方向移動によってカム部材5が回転するので、カム部材5を回転させるモータ等の回転駆動機構を要することなく、係止部19が第1乃至第4の被係止部51〜54のそれぞれを係止した状態を順次切り替えることが可能となる。これにより、電磁クラッチ装置1を小型化及び低コスト化することができる。
【0057】
(3)付勢部材7は、第2回転部材12と噛み合い部材2との間に配置され、その付勢力によって噛み合い部材2を第1回転部材11側に付勢すると共に、転がり軸受6を介してカム部材5を係止部19及びアーマチャ4の押圧突起41側に押し付ける。これにより、係止部19が第1の被係止部51を係止する際に速やかに噛み合い部材2のスプライン嵌合部24を第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合わせることができ、かつ第1乃至第4の被係止部51〜54の軸方向端面51a〜54a及び壁部55の軸方向の端面55aと押圧突起41の対向面41a及び係止部19の先端面19aとの摺動により、カム部材5を回転させることができる。
【0058】
(4)噛み合い部材2は、係止部19がカム部材5の第1の被係止部51を係止し、電磁コイル3への通電が遮断された状態で第1回転部材11に噛み合うので、連結状態において電磁コイル3への通電を継続する必要がない。このため、電磁クラッチ装置1の作動時における消費電力や発熱を低減することが可能となる。
【0059】
(5)カム部材5は、軸方向の異なる位置に第1乃至第4の被係止部51〜54を有し、噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第4の被係止部54と最も近い位置に形成された第1の被係止部51との軸方向の距離に応じた範囲で軸方向移動可能であるので、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112とが噛み合う軸方向の長さを長くすることができる。これにより、例えば車両の駆動力等の大きなトルクを伝達することが可能となる。
【0060】
なお、本実施では、カム部材5の軸方向の異なる位置に4つの被係止部(第1乃至第4の被係止部51〜54)を有する場合について説明したが、軸方向における複数の異なる位置に複数の被係止部が形成されていれば、本実施の形態の作用及び効果を得ることができる。また、複数の被係止部が軸方向における少なくとも3つの異なる位置に形成されていれば、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24を第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合わせる際に、アーマチャ4の軸方向移動範囲(第1位置と第2位置との間の移動距離)よりも長い移動距離で噛み合い部材2を付勢部材7の付勢力によって一度に移動させることが可能となる。
【0061】
以上、本発明の電磁クラッチ装置1を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。例えば、電磁クラッチ装置1を、車両の駆動力を伝達する用途以外の用途に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…電磁クラッチ装置、1a…押圧機構、2…噛み合い部材、3…電磁コイル、4…アーマチャ、4a…貫通孔、4b…ピン挿通孔、5…カム部材、5a…軸方向端面、6…転がり軸受、7…付勢部材、10…ハウジング、11…第1回転部材、12…第2回転部材、11a…挿通孔、11b…内周スプライン嵌合部、13…シャフト、13a…外周スプライン嵌合部、14…スナップリング、15…シール部材、16〜18…玉軸受、19…係止部、19a…先端面、19b…側面、21…円筒部、22…フランジ部、23…円筒部、23a…軸方向端面、24…スプライン嵌合部、30…ヨーク、30a…穴部、31…ボビン、32…巻線、40…本体、41…押圧突起、41a…対向面、41b…側面、51〜54…第1乃至第4の被係止部、51a〜54a…軸方向端面、51b,52b…側面、55…壁部、55a…端面、55b…側面、70…皿バネ、71…止め輪、100…ボルト、101…第1ハウジング部材、102…第2ハウジング部材、102a…開口、102b…穴部、102c…受け部、102d…貫通孔、110…円筒部、110a…大径部、110b…一端小径部、110c…他端小径部、111…フランジ部、112…スプライン嵌合部、113…円筒部、121…軸部、122…張り出し部、123…円筒部、124…フランジ部、125…スプライン嵌合部、300…ピン、301…皿バネ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7