【実施例】
【0031】
(実施例1)
次に、ガス調理器用ガラストッププレートの実施例について
図1〜
図3を用いて説明する。
図1〜
図3に示すごとく、本例のガス調理器用ガラストッププレート1は、透明の低膨張ガラスセラミックスからなるガラス板2と、その裏面22側に積層された装飾層3と、その上に積層された遮光層4とを有する。ガラス板2は、リチウムアルミノシリケートガラスからなり、主結晶相がβ−石英固溶体を析出してなる。具体的には、ガラス基板2としては、熱膨張係数が−1×10
-7/℃(30〜380℃)の日本電気硝子(株)製の商品名「ネオセラムN−0」(以下、「N−0」という。)を用いた。
【0032】
図2及び
図3に示すごとく、装飾層3は、シリカ膜31と、このシリカ膜31中に分散された多数のパール調顔料32とを有する。シリカ膜31は、シリカを主成分とし、酸化コバルトを含有する。また、パール調顔料32は、マイカよりなる鱗片状の無機顔料321と、これを被覆する酸化チタンからなるパール調皮膜322とからなる。シリカ膜31中に存在するシリカの少なくとも一部は、ガラス板2の表面に存在するシラノール基の少なくとも一部とSi−O−Si結合(図示略)を形成している。また、シリカ膜31中に存在するシリカの少なくとも一部は、パール調顔料32のパール調皮膜322中に存在する少なくとも一部のTiと、Si−O−Ti結合(図示略)を形成している。装飾層3は、シリコーンレジンと、パール調顔料と、Coレジネートとを含有する装飾層形成用塗料を焼き付けてなる。
【0033】
また、
図2及び
図3に示すごとく、遮光層4は、シリカ膜41と、このシリカ膜41中に分散された多数の黒色系無機顔料42及びパール調顔料43とからなる。遮光層4は、シリコーンレジンと、市販の黒色系無機顔料と、パール調顔料と、有機溶剤とを含有する遮光層用塗料を焼き付けてなる。
【0034】
また、
図1及び
図2に示すごとく、板状のガス調理器用ガラストッププレート1は、これを厚み方向に貫通する熱源用開口部11を有する。この熱源用開口部11は、ガス調理器内部に配置されたバーナーの炎を調理面側に露出させるための開口部であり、熱源用開口部11の周囲には鍋等の被加熱物を配置するための五徳(図示略)が設置される。
【0035】
次に、本例のガス調理器用ガラストッププレート1の製造方法について説明する。
具体的には、まず、希薄なチタン酸水溶液中にマイカ粉体を懸濁させて懸濁液を得た。この懸濁液を温度70〜100℃に加温し、チタン塩を加水分解させてマイカ粉体の表面に水和酸化チタンを析出させた。その後、マイカ粉体を温度700℃〜1000℃で焼成した。これにより、酸化チタンからなるパール調皮膜322をマイカからなる無機顔料321に被覆してなるパール調顔料32を得た(
図3参照)。
【0036】
次に、パール調顔料17.5質量部と、シリコーンレジン(信越化学工業(株)製のストレートシリコーンワニス「KR282」)17.5質量部と、有機バインダ(エチルセルロース)60質量部と、Co含有量が12質量%のCoレジネート5質量部とを混練して、ペースト状の装飾層形成用塗料を作製した。次いで、ステンレス製の250メッシュのスクリーンを使用したスクリーン印刷により、透光性低膨張ガラスセラミックス(N−0)からなる厚み4mmのガラス板2の片面22の全面にペースト状の装飾層形成用塗料を塗布した(
図2及び
図3参照)。ガラス板2には、これを厚み方向に貫通する熱源用開口部11を予め設けておく。なお、熱源用開口部11は、後述の装飾層及び遮光層の形成後に形成することもできる。
【0037】
次に、装飾層形成用塗料を塗布したガラス板2を温度800℃で焼成することにより、装飾層形成用塗料を焼結させてガラス板2に焼き付けた。このようにして、ガラス基板2の裏面22側に装飾層3を形成した(
図2及び
図3参照)。装飾層3の厚みを膜厚計で測定したところ、その厚みは1.2μmであった。
【0038】
次に、シリコーンレジン(信越化学工業(株)製のストレートシリコーンワニス「KR311」)60質量部と、黒色系無機顔料25質量部と、パール調顔料5質量部と、有機溶剤10質量部とを混合し、遮光層4を形成するための塗料を作製した。パール調顔料としては、上述の装飾層3の形成に用いたものと同様のものを用いた。黒色系無機顔料としては、市販品を採用した。ステンレス250メッシュのスクリーンを使用したスクリーン印刷により、ペースト状の塗料を装飾層3上に塗布し、温度400℃で焼成した。これにより、装飾層3上に遮光層4を形成した(
図2及び
図3参照)。このようにして、ガラス板2と、その裏面側に積層された装飾層3と、その上に積層された遮光層4とを有するガス調理器用ガラストッププレート1を作製した。
【0039】
図1〜
図3に示すごとく、本例のガス調理器用ガラストッププレート1は、シリカを主成分とし、酸化マンガン、酸化コバルト、及びMnとCoとの複合酸化物から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含有するシリカ膜31と、このシリカ膜31中に分散された無機顔料32とを有する緻密性に優れた装飾層3を有している。そのため、例えばふきこぼれ汁などが調理面21側から熱源用開口部11を通ってガス調理器用ガラストッププレートの裏面22や熱源用開口部11の端面110等に付着しても、液体状のふきこぼれ汁などが装飾層3へ浸透して調理シミが形成されてしまうことを防止することができる。また、ガス調理器用ガラストッププレート1の裏面22や熱源用開口部11の端面110に付着したふきこぼれ汁が加熱されてガス化したとしても、装飾層3へ浸透してしまうことを抑制することができ、調理シミが形成されてしまうことを抑制することができる。
即ち、ガス調理器用ガラストッププレート1は、装飾層3が有する優れた意匠性を示すと共に、調理シミの発生を抑制することができる。また、遮光層4は、ガス調理器の内部構造を隠蔽する役割を果たすと共に、上述の調理シミを目立たなくする役割を果たすことができる。
したがって、本例のガス調理器用ガラストッププレート1は、長期間にわたって、装飾層3の優れた意匠性を維持することができる。
【0040】
本例においては、装飾層3における無機顔料としてパール調顔料32を用いている。この場合には、ガス調理器用ガラストッププレート1は、光沢感のあるパール調の色調を示し、より優れた意匠性を発揮することができる。また、パール調の装飾層3は、調理シミが目立ち易い傾向があるが、本例のガス調理器用ガラストッププレート1においては、上述のように緻密な装飾層3を有するため、調理シミが目立ち易いパール調の装飾層3を有していても調理シミの形成を十分に抑制することができる。
また、本例の遮蔽層4には、黒色系無機顔料42だけでなく、鱗片状の粒子(パール調顔料43)を分散させている。そのため、遮蔽層4の密着性が向上している。
【0041】
なお、本例においては、Coレジネートを用いることにより、酸化コバルトを含有するシリカ膜31と、このシリカ膜31に分散されたパール調顔料32とを有する装飾層3を形成した(
図3参照)。Coレジネートの代わりにMnレジネートを用いることにより、酸化マンガンを含有するシリカ膜と、このシリカ膜に分散されたパール調顔料とを有する装飾層を形成することができる。この場合にも、上述のCoレジネートを用いた場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
(実験例)
本例においては、金属レジネートの種類や配合量を変えてガラス板上に装飾層を形成し、その調理シミの形成の評価を行う例である。
具体的には、まず、実施例1と同様のガラス板(「N−0」)を準備した。次に、パール調顔料と、シリコーンレジンと、有機バインダと、金属レジネートとを混練して、ペースト状の装飾層形成用塗料を作製した。パール調顔料、シリコーンレジン、有機バインダとしては、実施例1と同様のものを用いた。また、金属レジネートとしては、実施例1と同様のCoレジネートの他、Mn含有量が8質量%のMnレジネート、Ti含有量が15質量%のTiレジネート、又はAg含有量が28.5質量%のAgレジネートを用いた。本例においては、後述の表1に示す配合割合で、パール調顔料、シリコーンレジン、有機バインダ、金属レジネートを混合して13種類の塗料を作製した。これらのうち1種類は、金属レジネートを含有していない塗料である(表1参照)。
【0043】
次に、上述の装飾層形成用の各塗料を用いた点を除いては、実施例1と同様にして、ガラス板上に、装飾層と遮光層を形成した。このようにして、13種類のガス調理器用ガラストッププレート用の試験板(試料E1〜E10及び試料C1〜C3)を得た。
試料E1〜試料E5は、装飾層として、シリカを主成分とし、酸化コバルトを含有するシリカ膜と、このシリカ膜中に分散されたパール調顔料を有するガラストッププレート用の試験板である。試料E6〜試料E10は、装飾層として、シリカを主成分とし、酸化マンガンを含有するシリカ膜と、このシリカ膜中に分散されたパール調顔料を有するガラストッププレート用の試験板である。
また、試料C1は、装飾層として、シリカからなるシリカ膜と、このシリカ膜中に分散されたパール調顔料を有するガラストッププレート用の試験板である。試料C2は、装飾層として、シリカを主成分とし、酸化チタンを含有するシリカ膜と、このシリカ膜中に分散されたパール調顔料を有するガラストッププレート用の試験板である。試料C3は、装飾層として、シリカを主成分とし、銀を含有するシリカ膜と、このシリカ膜中に分散されたパール調顔料を有するガラストッププレート用の試験板である。
【0044】
各試料の試験板について、X線光電子分光分析(XPS)により、シリカ膜におけるシリカ100質量部に対する金属レジネート由来の金属元素(Co、Mn、Ti、Ag)量(質量部)を測定した。XPSにおいては、アルバック・ファイ(株)製の「PHI5000」を用いた。その結果を表1に示す。
【0045】
次に、各試料E1〜E10及び試料C1〜C3について、下記の調理シミ試験を実施した。
「調理シミ試験」
酒:醤油:みりん:油=1:1:1:1(温度25℃における体積比)でこれらを混合して調理汁の試験液を作製した。スポイトを用いて各試料(試料E1〜E10及び試料C1〜C3)の裏面(装飾層及び遮光層の形成面)側に試験液をそれぞれ垂らし、直径1cm程度の液溜まりを形成した。次いで、温度250℃の窯中で、試験液を塗布した各試料を1時間加熱した。
【0046】
そして、調理シミ試験後における試験液を塗布した部分と塗布していない部分の色差ΔEを調理面(装飾層及び遮光層の形成面とは反対側の面)側から測定した。色差ΔEは下記の式(1)によって求めた。
ΔE=√(L
1−L
0)
2+(a
1−a
0)
2+(b
1−b
0)
2 ・・・式(1)
ここで、各変数は分光測色計(エックスライト(株)製の「SP60」)によって測定した値であり、L
0、a
0、b
0は、いずれも試験液を塗布していない部分にて測定した値であり、L
1、a
1、b
1は、いずれも試験液を塗布した部分にて測定した値である。各試料の色差ΔEを表1及び
図4に示す。なお、
図4における横軸は、装飾層(シリカ膜)におけるシリカ100質量部に対する金属レジネート由来の金属量(質量部)であり、縦軸は、色差ΔEである。
また、調理シミ試験後の調理面(装飾層及び遮光層が形成されていない面)側からのデジタルカメラ写真を
図5(試料E1〜E3及び試料E6〜E8)、及び
図6(試料C1〜C3)に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び
図4より知られるごとく、試料E1〜E10は、試料C1〜C3に比べて、色差ΔEが小さく、調理シミの形成が抑制されていることがわかる。また、試料E1〜E10は、パール調の装飾層を有し、優れた意匠性を示した。即ち、金属レジネートとしてCoレジネート、Mnレジネートを用いることにより、酸化コバルト、酸化マンガンを含有するシリカ膜を有する装飾層が形成され、その結果、装飾層の優れた意匠性を維持しつつ、調理シミの形成を抑制できることがわかる。
図5及び
図6の写真からも、Coレジネート、Mnレジネートを用いること(試料E1〜E10)により、金属レジネートを用いていない場合(試料C1)や他の金属レジネートを用いた場合(試料C2及び試料C3)に比べて、調理シミが目立たないことがわかる。装飾層において、シリカ膜中に含まれるシリカ100質量部に対するMn量、Co量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、12質量部以上がさらに好ましい。Mn量、Co量を増やすことにより、AA級許容差、即ち、色の隣接比較で、わずかに色差が感じられるレベルであって、一般の測色器械間の器差を含む許容色差の範囲まで調理シミを目立たなくすることができる。