(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206026
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】冷却システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20170925BHJP
F01P 11/10 20060101ALI20170925BHJP
F01P 7/10 20060101ALI20170925BHJP
F01P 7/12 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
B60K11/04 J
F01P11/10 B
F01P7/10 Z
F01P7/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-192226(P2013-192226)
(22)【出願日】2013年9月17日
(65)【公開番号】特開2015-58754(P2015-58754A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】河合 一男
【審査官】
須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−018151(JP,A)
【文献】
実開平01−123531(JP,U)
【文献】
国際公開第2011/138910(WO,A1)
【文献】
特表2009−541120(JP,A)
【文献】
特開2000−320331(JP,A)
【文献】
特開2013−226958(JP,A)
【文献】
特開昭59−020522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
F01P 7/10
F01P 7/12
F01P 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方へ向けて通風面積が順に大きくなるように車両の前部に設置された複数の熱交換器と、それらの複数の熱交換器のいずれかに対向して配置されたラジエータシャッタとを備えた冷却システムにおいて、
前記ラジエータシャッタは複数のベーンを備え、
前記複数のベーンは、前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを切り替えることができ、
前記複数のベーンの開閉状態を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを、前記車両の運転状態に基づいて切り替えることを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
前記車両の運転状態が、イグニッションのオンオフ、車速、排気ブレーキのオンオフ、エンジン用冷却水温、吸気温度と外気温との温度差、及びエアコンのオンオフから選ばれる1つ又は複数からなる組み合わせをパラメータとする請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記複数の熱交換器のうちの1台をエアコンコンデンサにするとともに、前記エアコンコンデンサに対向して前記ラジエータシャッタを配置し、
前記制御手段は、前記車両の車速がゼロ又は低速であって、かつ前記エアコンがオンであるときに、前記エアコンコンデンサに対向する部分のベーンを開状態にする請求項2に記載の冷却システム。
【請求項4】
後方へ向けて通風面積が順に大きくなるように車両の前部に設置された複数の熱交換器のいずれかに対向して配置されたラジエータシャッタを備えた冷却システムの制御方法であって、
前記ラジエータシャッタは複数のベーンを備え、
前記複数のベーンは、前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーン
が全て開状態になる態様とを切り替えることができ、
前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを、前記車両のイグニッションのオンオフ、車速、排気ブレーキのオンオフ、エンジン用冷却水温、吸気温度と外気温の差、及びエアコンのオンオフから選ばれる1つ又は複数からなる組み合わせをパラメータとして切り替える制御を行うことを特徴とする冷却システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却システム及びその制御方法に関し、更に詳しくは、車両の前部に設置された複数の熱交換器を効率よく冷却しつつ、通風による車両の走行抵抗を抑えることができる冷却システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動直後の暖機状態においては、車両の前方に配置されたラジエータグリルやクーリングモジュールを経由してエンジンルームに流入する走行風により、エンジンの表面温度が低下して暖機が遅延する場合がある。そのため、走行風の流量を調整してエンジンの暖機性を向上するために、ラジエータグリルの後方にラジエータシャッタを設けることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
冷却を必要としない油水温の状態で走行する場合には、このラジエータシャッタを閉状態にすることで、空力性能が向上して走行抵抗が改善されるという利点がある。
【0004】
ここで、一般に車両のクーリングモジュールは、複数の熱交換器を重ねることにより構成されるが、それらの熱交換器ごとに冷却を必要とする時期が異なる場合がある。その場合、冷却が必要な熱交換器がひとつでもあるときには、ラジエータシャッタを開状態にせざるを得ない。そのため、ラジエータシャッタが閉状態となる期間が、全ての熱交換器の冷却が不要となる場合に限られてしまうため、走行抵抗を十分に改善することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−20522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、車両の前部に設置された複数の熱交換器を効率よく冷却しつつ、通風による車両の走行抵抗を抑えることができる冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の冷却システムは、後方へ向けて通風面積が順に大きくなるように車両の前部に設置された複数の熱交換器と、それらの複数の熱交換器のいずれかに対向して配置されたラジエータシャッタとを備えた冷却システムにおいて、
前記ラジエータシャッタは複数のベーンを備え、前記複数のベーンは、前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを切り替えることができ、前記複数のベーンの開閉状態を制御する制御手段を
備え、前記制御手段は、
前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを、前記車両の運転状態に基づいて切り替えることを特徴とするものである。
【0008】
上記の目的を達成する本発明の冷却システムの制御方法は、後方へ向けて通風面積が順に大きくなるように車両の前部に設置された複数の熱交換器のいずれかに対向して配置されたラジエータシャッタを備えた冷却システムの制御方法であって、
前記ラジエータシャッタは複数のベーンを備え、前記複数のベーンは、前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを切り替えることができ、前記複数のベーンが全て閉状態になる態様と、前記複数のベーンのうち一部のベーンが開状態になり他のベーンが閉状態となる態様と、前記複数のベーンが全て開状態になる態様とを、前記車両のイグニッションのオンオフ、車速、排気ブレーキのオンオフ、エンジン用冷却水温、吸気温度と外気温の差、及びエアコンのオンオフから選ばれる1つ又は複数からなる組み合わせをパラメータとして
切り替える制御
を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷却システム及びその制御方法によれば、複数の熱交換器の冷却要求に合わせてラジエータシャッタの単数のベーン又は隣接する複数のベーンの開閉状態を制御するようにしたので、常に車速風が通過する通風面積が冷却に最小限必要な大きさになるため、複数の熱交換器を効率よく冷却しつつ、通風による車両の走行抵抗を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態からなる冷却システムの構成図である。
【
図2】ラジエータシャッタの構造を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態からなる冷却システムの制御方法の例を説明するフロー図である。
【
図4】
図3に対応する冷却システムの動作を説明する模式図である。
【
図5】本発明の実施の形態からなる冷却システム別の例の構成図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態からなる冷却システムを示す。
【0012】
この冷却システム1Aは、ラジエータシャッタ2と、熱交換器である空冷式のインタークーラ3及びエンジン冷却用のラジエータ4とを備えており、それらは車両の前部において後方へ向けて順に配置されている。
【0013】
インタークーラ3の通風面積は、ラジエータ4の通風面積よりも小さくなっており、インタークーラ3の下方には空間が形成されている。ここで、通風面積とは走行風が通過可能な断面積を意味し、通常は車両の軸方向に垂直な断面積となる。
【0014】
車両の前端部に配設されたラジエータグリル5から侵入した走行風は、ラジエータシャッタ2、インタークーラ3及び/又はラジエータ4を通過してから、冷却ファン6に誘導されてエンジンルームへ到達することになる。
【0015】
ラジエータシャッタ2は、
図2に示すように、板状のフレーム7に上縁部を回動可能に支持された矩形平板状の複数のベーン8a〜8g(この例では7枚)を並設することで構成されている。各ベーン8a〜8gは、フレーム7に設置されたアクチュエータ(図示せず)により、前方へ向けて略水平になるまで回動することで開状態となる。
【0016】
このような冷却システム1Aにおいて、ラジエータシャッタ2のベーン8a〜8gのうちの、単数のベーン8又は隣接する複数のベーン8は、制御手段であるECU9により制御されるアクチュエータを介して、車両の運転状態に基づいて開閉するようになっている。
【0017】
車両の運転状態を示すパラメータとしては、イグニッションのオンオフ、車速、排気ブレーキのオンオフ、エンジン用冷却水温、吸気温度と外気温との温度差、及びエアコンのオンオフから選ばれる1つ又は複数からなる組み合わせが好ましく例示される。
【0018】
この冷却システム1Aにおける制御方法の例を、
図3、4に基づいて以下に説明する。なお、ここでは、車両の運転状態のパラメータとして、イグニッションのオンオフ、車速、排気ブレーキのオンオフ、エンジン用冷却水温、及び吸気温度と外気温との温度差を選択している。
【0019】
まず、ECU9は、
図3に示すように、車両のイグニッションがオンであるかを判定する(S10)。イグニッションがオンでない場合には、車両が停車時であると判断して、例えば
図4(a)に示すように、最下部のベーン8aのみを閉状態にする(S20)。
【0020】
一方で、イグニッションがオンである場合には、車速が予め設定されたしきい値X超であるかを判定する(S30)。このしきい値Xとしては、1〜5km/hの範囲の速度を用いることが好ましい。
【0021】
車速がしきい値X超でない場合には、例えば車速の大きさに基づいて、車両が暖機運転時、アイドリングストップ時又は低速走行時のいずれにあるかを判断する。
【0022】
暖機運転時であるときは、
図4(b)に示すように、全部のベーン8a〜8gを閉状態にする(S40)ことで暖機を促進する。また、アイドリングストップ時あるいは低速走行時であるときは、例えば
図4(c)に示すように、インタークーラ3と対向しない下側のベーンの全部8a、8bのみを開状態にする(S40)ことで、冷却ファン6の吸引風をラジエータ4に通風させる。
【0023】
一方で、車速がしきい値x超である場合には、車両の走行状態を判断するために、排気ブレーキがオフであるかを判定する(S50)。
【0024】
排気ブレーキがオフでない場合には、車両が減速時であると判断して、
図4(d)に示すように、全部のベーン8a〜8gを開状態にする(S60)ことで、減少しつつある車速風をインタークーラ3及びラジエータ4に十分に通風させる。
【0025】
一方で、排気ブレーキがオフである場合には、車両が通常走行時又は加速時であると判断して、エンジン用冷却水温、及び吸気温度と外気温との温度差を測定・計算し(S70)、あらかじめ作成したマップ等に基づいて、インタークーラ3及びラジエータ4の冷却要求の程度を決定する(S80)。
【0026】
冷却要求の程度が小さいときには、例えば
図4(e)に示すように、インタークーラ3に対向するベーンの一部8e〜8gのみを開状態にする(S90)ことで、走行抵抗を抑えつつ少量の走行風を通風させる。
【0027】
冷却要求の程度が中程度であるときには、例えば
図4(f)に示すように、インタークーラ3に対向するベーンの全部8c〜8gのみを開状態にする(S90)ことで、走行抵抗を抑えつつ中量の走行風を通風させる。
【0028】
冷却要求の程度が大きいときには、
図4(d)に示すように、全部のベーン8a〜8gを開状態にする(S90)ことで、大量の走行風を通風させる。
【0029】
このような制御を行うことで、車速風が通過する通風面積が常に冷却に最小限必要な大きさになるので、インタークーラ3及びラジエータ4を効率よく冷却しつつ、通風による車両の走行抵抗を抑えることができるのである。
【0030】
上記の冷却システム1Aにおいては、ラジエータシャッタ2をインタークーラ3の前方に配置しているが、これに限るものではなく、インタークーラ3とラジエータ4の間や、ラジエータ4の後方に配置してもよい。
【0031】
また、複数の熱交換器をインタークーラ3及びラジエータ4から構成しているが、台数及び種類はこれに限るものではなく、エアコンコンデンサや、水冷式のインタークーラを冷却するサブラジエータなどと適宜組み合わせることができる。
【0032】
特に、
図5に示すように、車両の後方へ向けて順に配置されたラジエータシャッタ2及びエアコンコンデンサ10を有する冷却システム1Bにおいては、車両の車速がゼロ(停車時)や低速(例えば、5km/h以下)であって、かつエアコンがオンであるときに、エアコンコンデンサ10に対向するベーン8e〜8fのみを開状態にする制御を行うことで、十分な車速風が得られなくても冷却ファン6による吸引風の全てがコアコンコンデンサ10を通過するので、車両の冷房性能を確保することができる。
【符号の説明】
【0033】
1A、1B 冷却システム
2 ラジエータシャッタ
3 インタークーラ
4 ラジエータ
5 ラジエータグリル
6 冷却ファン
7 フレーム
8、8a〜8g ベーン
9 ECU
10 エアコンコンデンサ