(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206084
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】凹凸表面を有するプラスチック成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20170925BHJP
B65D 23/06 20060101ALI20170925BHJP
B65D 33/38 20060101ALI20170925BHJP
B65D 47/44 20060101ALI20170925BHJP
B65D 1/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B29C59/02 B
B65D23/06 Z
B65D33/38
B65D47/44
B65D1/02
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-220998(P2013-220998)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-80929(P2015-80929A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 力
(72)【発明者】
【氏名】青谷 正毅
(72)【発明者】
【氏名】木村 諭男
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−072140(JP,A)
【文献】
特開平08−001770(JP,A)
【文献】
特開2003−001736(JP,A)
【文献】
特開2005−041541(JP,A)
【文献】
特開2011−104987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 57/00−59/18
B65D 1/00− 1/48
B65D 23/00−25/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写法により形成された凹凸面を有するプラスチック成形体において、該凹凸面は、一次凹凸と、該一次凹凸の少なくとも一部に形成され且つ微細な繊毛状の二次凹凸とから形成されており、前記プラスチック成形体は、内容液を注出する際の案内となる注出用筒を備えたキャップもしくはスパウトの形態を有しており、該注出用筒の先端に、前記凹凸面が形成されていることを特徴とするプラスチック成形体。
【請求項2】
転写法により形成された凹凸面を有するプラスチック成形体において、該凹凸面は、一次凹凸と、該一次凹凸の少なくとも一部に形成され且つ微細な繊毛状の二次凹凸とから形成されており、前記プラスチック成形体は、ボトルの形態を有しており、該ボトルの口部先端に、前記凹凸面が形成されていることを特徴とするプラスチック成形体。
【請求項3】
前記二次凹凸は、短波長カットオフ値λs≦500nm、長波長カットオフ値λc≦20μmとしたときの算術平均粗さRaが5nm〜6μmの範囲にあり、且つ一次凹凸における単位面積当たりの凸部頂部の面積で表される一次凹凸比Φsが0.05以上である請求項1または2に記載のプラスチック成形体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、転写法により形成された凹凸面を有するプラスチック成形体に関するものであり、より詳細には、その製造方法にも関する。
【0002】
一般にプラスチックは、ガラスや金属等に比して成形が容易であり、種々の形状に容易に成形できるため、種々の用途に使用されている。その中でも、ボトルなどの容器や容器に装着されるキャップ等の包装の分野は、プラスチックの用途の代表的な分野である。
【0003】
ところで、上記の容器に液体が収容されている場合には、必ず液垂れの問題があり、容器内に収容された液体を口部から注出するとき、注ぎ出された液体が容器口部の外壁面に沿って外部に垂れ落ちないような工夫が要求される。
また、キャップも同様であり、液体が収容されている容器に装着されているキャップでは、これを取り付けたままの状態で容器内容液を注出するタイプのものが、飲料や調味液などを収容する容器用のキャップとして広く使用されている。この種のキャップでは、キャップの頂板部に、プルリングを持っての引張りにより内容液注出用開口が形成され、この開口を通して内容液が注ぎ出されるわけであるが、注ぎ出される内容液が開口周辺に流れ落ちないように、該開口を取り囲むように注出筒が形成されており、開口通って容器内から注出される内容液は、この注出筒の内面に沿って流れ、その先端から外部に排出されるようになっている。即ち、このようなキャップでは、注出筒の先端での液垂れを防止する工夫が要求される。
【0004】
液垂れを防止する手段としては、種々の提案がなされているが、その多くは、容器口部の内面及び外面に、撥水性の被膜を設けるというものである。例えば特許文献1では、容器の口部に酸化スズ又は酸化チタンの被膜を設けることが提案されており、特許文献2では、容器の口部にシリコーンオイルの焼付け被膜を設けることが提案されている。
また、特許文献3には、キャップに設けられている注出筒に、液の流れ方向に延びている多条の微細溝を設けることにより、液垂れを防止することが提案されている。
【0005】
上記特許文献1,2にみられるように、容器の口部に撥水性の被膜を設けるという手段は、液垂れ防止に有効であるものの、容器口部を覆うように格別の材料で被膜を設けなければならないため、コストの増大を招くばかりか、被膜の形成作業も容易ではないという問題がある。特に、容器口部の外周面にキャップ締結用の螺条が形成されている場合には、螺条が容器口部の上端付近にまで延びているため、容器口部上端近傍に凹凸が形成され、上記のような被膜形成が一層困難となり、また被膜厚みにばらつきも生じ易い。
【0006】
また、特許文献3のように、キャップの注出筒に多数の微細溝(即ち、凹凸面)を設けるという手段は、理論上は撥液性を著しく高めることができ、最も好ましい手段である。即ち、凹凸面上を液が流れるときには、凹凸面と液体との接触状態は、固液接触及び気液接触となり、しかも、気体(空気)は最も疎水性の高い物質である。このため、凹凸の粗密を適宜設定することにより、著しく高い撥液性(液切れ性)が発現し、液垂れを効果的に防止できるわけである。
【0007】
しかしながら、このような凹凸面を形成した場合において、全ての液体について高い撥液性が得られるわけではなく、液によって撥液性についてかなりのばらつきが認められる。
例えば、本発明者等による研究によると、水に対しての撥液性がもっとも高く、醤油では、水よりも低く、ソースは、醤油よりも撥液性が低い。即ち、ポリプロピレン(PP)フィルムの表面に、所定の凹凸を形成し、凹凸面に液滴を置き、PPフィルムを傾け、この凹凸面上の液滴が流れ落ちるときの傾斜角度α(即ち転落角)を測定すると、凹凸面の粗密の程度によっても変化するが、水の転落角は、おおよそ10度よりも低く、醤油では15〜20度、ソースではおおよそ40度前後である。
さらに、撥水性の寿命も短いという問題がある。例えば、上記の転落角αでの転落試験を繰り返し行うと、水では50回ほどは安定な転落を示すが、醤油やソースでは、10回程度で転落しなくなってしまう。
このように、凹凸面を形成したからといって、高い撥液性が長期にわたって安定に発現するものではない。
【0008】
さらに、特許文献4には、断面形状が三角形状の凸条(或いはV溝)からなる第1の凹凸と、第1の凹凸内に形成され且つ第1の凹凸よりも小さな粗さの第2の凹凸が形成されている撥水性高輝度透明材が提案されている。
即ち、特許文献4は、このような階層構造の凹凸の形成により優れた撥水性を発現させているのであるが、第1の凹凸は輝度向上のために形成されていることもあり、撥水性の発現については、詳細な検討はなされておらず、水についての転落角の実験がなされているに過ぎず、また、このようなフラクタル構造は耐摩耗性を有しており、第2の微細な凹凸が摩耗により消滅したとしても、第1の凹凸により撥水性が確保されることは示されているが、液の転落を繰り返したとき、転落角αがどの程度持続性されるかについての検討もなされていない。
【0009】
また、第1の凹凸上に形成される第2の凹凸は、シリカなどの無機粒子が分散されたフッ素樹脂などの撥水性樹脂の薄膜により形成されるため、その製造が極めて面倒であり、生産性が悪いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−97384
【特許文献2】特開平9−193937
【特許文献3】特開2009−113831
【特許文献4】特開2003−1736
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、種々の液体に対して優れた転落性が持続して発揮され且つ容易に作製される転落面を備えたプラスチック成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、転写法により形成された凹凸面を有するプラスチック成形体において、該凹凸面は、一次凹凸と、該一次凹凸の少なくとも一部に形成され且つ微細な繊毛状の二次凹凸とから形成されて
おり、前記プラスチック成形体は、内容液を注出する際の案内となる注出用筒を備えたキャップもしくはスパウトの形態を有しており、該注出用筒の先端に、前記凹凸面が形成されていることを特徴とするプラスチック成形体が提供される。
【0013】
本発明によれば、また、転写法により形成された凹凸面を有するプラスチック成形体において、該凹凸面は、一次凹凸と、該一次凹凸の少なくとも一部に形成され且つ微細な繊毛状の二次凹凸とから形成されており、前記プラスチック成形体は、ボトルの形態を有しており、該ボトルの口部先端に、前記凹凸面が形成されていることを特徴とするプラスチック成形体が提供される。
【0014】
本発明のプラスチック成形体においては、
前記二次凹凸は、短波長カットオフ値λs≦500nm、長波長カットオフ値λc≦20μmとしたときの算術平均粗さRaが5nm〜6μmの範囲にあり、且つ一次凹凸における単位面積当たりの凸部頂部の面積で表される一次凹凸比Φsが0.05以上であること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプラスチック成形体は、転写法により形成された凹凸表面を有しているが、この凹凸表面は、所謂階層構造を有するものであり、一次凹凸と、該一次凹凸の少なくとも一部(特に、一次凹凸の凸面)に形成されている微細な二次凹凸とから構成されている。
このような階層構造を有する凹凸表面では、後述する実施例にも示されているように、種々の液体に対して優れた転落性を示し、例えば醤油やソースでも水に近い転落角αを示す。しかも、このような転落性の寿命は長く、例えば醤油やソースでは、転落を30回程度繰り返して行った場合にも、その転落角αはほとんど変化していない。
【0016】
しかも、本発明においては、上述した凹凸面は、スタンパ(転写用治具)の賦形面を加熱下に押し当てるという転写法により形成される為、残留歪により寸法が変化するという問題は生じない。また、プラスチック表面を形成するプラスチックとは異なる他の材料(例えばフッ素樹脂など)を凹凸面にコーティングして二次凹凸を形成するなどの手段、即ち、面倒で且つ材料費が高い手段により転落性面を形成するものではないため、生産性も高く、且つ製造コストも安価である。
【0017】
このような本発明のプラスチック成形体は、その転落性面が安価な方法で且つ容易に形成され、しかも、種々の液体に対して、優れた転落性が持続して発揮されるため、例えばキャップやスパウト、或いはボトルなどの容器の所定の部位(内容液が注ぎ出される部分)に、この転落性面を形成することにより、優れた液切れ性を確保でき、このような包装分野での大きな課題である液垂れを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】凹凸面での液滴の接触パターンをCassie−Baxterモデル及びWenzelモデルで示す模式図。
【
図3】本発明のプラスチック成形体に形成されている撥液性表面を部分的に拡大して液滴と共に示す図。
【
図5】本発明のプラスチック成形体の一例である包装体(ボトルとキャップとの組み合わせ)を示す側断面図。
【
図6】本発明のプラスチック成形体の一例であるヒンジキャップを示す側断面図。
【
図8】実施例で用いたスタンパの二次凹凸面を示すSEM写真(倍率100倍、500倍、1000倍及び5000倍)。
【
図9】実施例で得られたプラスチック成形体(ポリプロピレン製基板)の凹凸面のSEMでの平面観察像(倍率500倍及び5000倍)及び断面観察像(倍率1000倍及び5000倍)。
【0019】
<凹凸面での転落性、繰り返し転落性の原理>
先ず、本発明のスタンパを用いてプラスチック成形体表面に形成される階層構造面による撥液性、転落性、繰り返し転落性について説明する。
【0020】
凹凸面での液滴の接触パターンを示す
図1を参照して、液滴が凹凸面上に載ったCassieモードでは、凹凸面の凹部がエアポケットとなっており、液滴は固体と気体(空気)との複合接触となる。即ち、このような複合接触では、疎水性が最も高い空気に液体が接触するため、高い撥水性が発現する。
このようなCassieモードでの凹凸表面の接触角の理論式(1)は次のとおりである。
cosθ
*=(1−φ
s)cosπ+φ
Scosθ
E
=φ
s−1+φ
Scosθ
E (1)
θ
E:接触角
θ
*:見かけの接触角
φ
s:単位面積当たりの凸部頂部の面積
この理論式から理解されるように、φ
sが小さいほど、見かけの接触角θ
*は180度に近づき、超撥液性を示すようになる。
【0021】
一方、液滴が凹凸面の凹部に侵入した場合には、液滴は複合接触ではなく、固体のみとの接触であり、Wenzelモードで示される。このようなWenzelモードでの凹凸表面の接触角の理論式(2)は次のとおりである。
cosθ
*=rcosθ
E (2)
θ
E:接触角
θ
*:見かけの接触角
r:凹凸度(=実接触面積/液滴の投影面積)
この理論式から理解されるように、rが大きいほど、見かけの接触角θ
*は180度に近づき、超撥液性を示すようになる。
【0022】
ここで、撥液性については、上記の通り、WenzelモードとCassieモードのいずれの状態でも、撥液性が向上することは知られているが、転落性及び繰り返し転落性を向上させるためには、Wenzelモードではなく、Cassieモードを安定的に維持する、すなわち、凹部のエアポケットを安定に維持することが有効であると、本発明者等は考えるに至った。すなわち、Wenzelモードは液相と固相の界面が大きく、結果、界面に働く物理的な吸着力も大きくなるので、接触角は大きく撥液はしているが、液滴が容易に転落することはない。Cassieモードは界面が小さいため、液滴が転落する際乗り越えなければならないエネルギー障壁が低く、容易に転落し、何度でも繰り返し転落すると考えた。
【0023】
そして、本発明者等は、安定的にCassieモードを維持するための条件を探索するため、液滴のエネルギーに関する下記の式(3)を用いて、シミュレーションを行った。
G/((9π)
1/3×V
2/3×σ
LV)
=(1−cosθ
*)
2/3×(2+cosθ
*)
1/3 (3)
式中、Gは、基板上に置かれた液滴のエネルギー、
Vは、液滴の体積、
σ
LVは、液相−気相間の表面張力である。
また、シミュレーションの条件は、
凹凸パターン:ライン&スペース形状
凸部頂幅:20μm
凹凸パターン深さ:50μm
とした。
【0024】
上記の式(3)のシミュレーションによれば、
図2(a)に示すように、θ
E=94°では、凹凸の疎密を表すφs(単位面積当たりの凸部頂部の面積)に依らず、Wenzelモードの方が常に安定であり、そのようなプラスチック表面では、転落性、繰り返し転落性は低いと考えられる。しかし、
図2(b)に示すように、初期の接触角を向上させ、θ
E=105°では、φ
s≧0.5の範囲において、Cassieモードの方が常に安定であり、転落性、繰り返し転落性の向上が期待出来ることが分かった。すなわち、
図3に示すように、全体として100で表され、一次凹凸160(凹部160a,凸部160b)と、一次凹凸の表面に形成された微細な二次凹凸165とからなっているプラスチック表面に依れば、微細な二次凹凸165の効果によって、初期の接触角を向上させ、一次凹凸160によりCassieモードが常に安定的な領域を作り出せると推察した。
尚、ポリプロピレン製の平板に対する市販の醤油の初期の接触角θ
Eは、θ
E=94°である。
【0025】
<本発明における凹凸面>
本発明のプラスチック成形体の表面に形成される凹凸面は、上述した転落理論に基づいて設計されたものである。
即ち、上記のような形態では、一次凹凸160の上に液滴170が載った状態で転落を生じることとなり、一次凹凸160の凹部160aがエアポケット(一次エアポケット)となり、前述したCassieモードでの転落となり、所定の撥液性が発現することとなる。しかるに、このような一次凹凸160のみでの転落では、液滴170が一次凹凸160の凹部160bに侵入してしまい、前述したWenzelモードでの転落となり、一次エアポケットが消失して界面が大きくなり、界面に働く物理的な吸着力も大きくなるので、転落性、繰り返し転落性は低下することとなる。
【0026】
しかるに、本発明によれば、一次凹凸160の上に微細な二次凹凸165が形成されているという所謂階層構造を有しており、二次凹凸165上に液滴170が載った状態となるため、液滴170と二次凹凸165との間にもエアポケット(二次エアポケット)が形成される。即ち、液滴170と二次凹凸165との間の二次エアポケットが一次凹凸160の凹部160a内への侵入を阻止し、一次凹凸160と液滴170との間に形成されるエアポケットの消失を効果的に防止することができ、Cassieモードでの状態が安定に保持されることとなり、優れた転落性を確保し、しかも、転落動作が繰り返し行われても、一次エアポケットが安定に保持されるため、繰り返し転落性も向上する。
【0027】
このような階層構造を有する撥液性面100において、二次凹凸165は、この二次凹凸165上の液滴が一次凹凸160の凹部160a内への侵入を阻止するような二次エアポケットが形成される大きさの表面粗さを有していればよく、例えば算術平均粗さRaが5nm〜6μm、特に100nm〜1μmの範囲にあることが好適である。
【0028】
さらに、一次凹凸160は、Cassieモードによる撥液性が十分に発揮されるようなものであればよく、例えば一次凹凸における単位面積当たりの凸部頂部の面積で表される一次凹凸比Φsが0.05以上、好ましくは0.1以上の範囲にあることが好ましく、さらに、成形或いは機械的強度等の観点から、一次凹凸比Φsは0.8以下、特に0.5以下の範囲にあることが好ましい。
さらに、一次凹凸160における深さdは、5〜200μm、特に10〜50μmの範囲にあることが好適である。
【0029】
また、上述した一次凹凸160の形状は特に制限されないが、一次凹凸160の凹部160a内への侵入を効果的に阻止するという観点から、
図3に示されているように、凹部160aが矩形上に形成されていることが好ましい。凹部160aがV字形状のような形態となっていると、液滴170が凹部160a内に入り込みやすくなるからである。
【0030】
また、2次凹凸165は、一次凹凸160の表面全体に形成されていることが最適であるが、少なくとも一次凹凸160の凸部160bの上端に形成されていてもよい。
図3の例では、一次凹凸160の全体に2次凹凸165が形成されている。この場合、凸部160の上端以外の部分の2次凹凸165は、液滴170の凹部160a内への侵入を阻止する機能を有しているが、例えば2次凹凸165が一次凹凸160の凸部160bの上端のみに形成されている場合、液滴170の凹部160a内への侵入リスクは若干高くなるが、実用上は問題のないレベルである。
【0031】
本発明のプラスチック成形体において、上述した撥液性面100は、転写法により形成しなければならない。エッチング等の加工手段で上記の撥液性面100を形成すると、残留応力によって寸法変化を生じ、このため、設計したとおりの転落性、繰り返し転落性を発揮させることができなくなるおそれがある。しかるに、転写法によれば、残留歪の問題は無く、寸法変化による転落性、繰り返し転落性の変化を有効に回避することが可能となる。
また、他の材料を塗布しての膜形成により二次凹凸165を形成する手段では、コストが高くなるばかりか、膜形成作業が面倒であり、生産性の低下を来してしまう。また、膜剥離の問題もある。しかるに、転写法によれば、表面を形成しているプラスチックとは異なる材料を使用するものではないため、コストの問題は無く、また、作業も容易であり、生産性が高いばかりか、膜剥離などの問題も生じない。
【0032】
このような転写法による撥液性面100の形成は、例えば、
図4に示すようなスタンパを用いて行われる。
即ち、
図4において、Ni等の金属からなるスタンパ180は、前述した凹凸面を形成するための賦形面181を有している、この賦形面181は、一次凹凸160に対応する凹凸面183(凸部183a、凹部183b)を有しており、この凹凸面183の表面には、ブラスト加工等により発生したマイクロクラックやチッピングにより、前述した二次凹凸165に対応する微細な二次凹凸185が形成されている。
【0033】
図4から理解されるように、このスタンパ180を加熱し、上記の賦形面181を、プラスチック成形体の撥液性面150とすべき面に押し当てることにより、該プラスチック成形体の表面には凹凸面183の凸部183aに対応して凹部160a、凹部183bに対応して凸部160bからなる一次凹凸160が、溶融したプラスチックが侵入することにより形成される。また、これらの一次凹凸160には、賦形面181に形成され、マイクロクラックにより形成された2次凹凸185に対し、溶融したプラスチックが侵入し、それが引き抜かれることにより、繊毛状の微細な二次凹凸165が形成されることとなる。
前記転写方法は、前記方法に制限されるものではなく、射出成形法、ホットエンボス法、UVインプリント法又は圧縮成形法を用いても良い。
【0034】
本発明のプラスチック成形体は、上記のような撥液性面100が形成可能なプラスチック(例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂など)により表面が形成されている限り、任意の材料で形成されていてよい。
【0035】
<プラスチック成形体の形態>
本発明のプラスチック成形体は、その撥液性面100が示す長寿命で且つ優れた撥液性を活かして、種々の形態とすることができ、特に液切れ性が良好となるため、飲料、調味液、各種薬液を収容する包装体として効果的に使用することができる。
【0036】
このような包装体の好適例を示す
図5において、この包装体は、口部1を備えたプラスチックボトルと、口部1に装着されたキャップ(螺子キャップ)3とから構成され、プラスチックボトル内には、液体が収容されている。
かかる包装体において、プラスチックボトルでは、図示されていないが、口部1の下方は、湾曲した肩部に連なり、この肩部は胴部に連なり、胴部の下端は、底部により閉じられている。
【0037】
このようなプラスチックボトルにおいて、その外面には、キャップ3を保持するための螺条5が形成されており、螺条5の下側には環状突起7が形成され、環状突起7の下方には、搬送時等において、ボトルを保持するためのサポートリング9が形成されている。
【0038】
一方、キャップ3は、頂板部10と、頂板部10の周縁から降下している筒状側壁11とを有しており、頂板部10の内面(特に周縁部)には、密封用ライナー13が設けられており、筒状側壁11の内面には、ボトルの口部1の螺条5と係合する螺条15が形成されている。
【0039】
即ち、キャップ3は、螺子係合により口部1に装着され、キャップ3を装着したとき、口部1の上方部分はライナー13に密着し、これにより、ボトル内が密封されることとなる。
また、このような密封を確実にするために、ライナー13は、比較的長いインナーリング13aと比較的短いアウターリング13bとを有しており、この間の空間に口部1の上端部分が入り込み、この上端部分の内側側面、上端面及び外側側面の上端部分がライナー13に密着してシール性が確保されるものとなっている。
【0040】
尚、
図5では省略されているが、一般に、キャップ3の筒状側壁11の下端には、破断可能な弱化ラインを介してタンパーエビデンドバンド(TEバンド)が設けられており、このキャップ3を開栓して口部1から採り除くと、TEバンドがキャップ3から脱離するようになっており、これにより、一般の需要者にキャップ3の開封履歴を明示し、いたずらなどの不正使用を防止するようになっている。
【0041】
上記の包装体では、キャップ3をボトルの口部1から取り外した後、該ボトルを傾けて口部1からボトル内に収容されている液体の注ぎ出しが行われる。このことから理解されるように、このようなキャップ3(螺子キャップ)が装着される包装体の注ぎ口は、ボトルの口部1の上端面Xとなる。
【0042】
即ち、本発明のプラスチック成形体を、このようなプラスチックボトルに適用した場合、該ボトルの口部1の上端面(以下、単に「注ぎ口」と呼ぶことがある)Xに、前述した凹凸面100が形成されることとなる。
【0043】
さらに、上述した例では、ボトルの口部1が注ぎ口Xとなっているが、本発明のプラスチック成形体は、キャップにも適用することができる。
【0044】
図6及び
図7において、このヒンジキャップは、
図5に示されている包装体と同様のプラスチックボトルの口部1にキャップ(図において50で示す)を装着することにより使用されるが、
図5の例では、キャップが螺子係合により口部1に装着される螺子キャップと称されるものであるのに対し、この例で採用されるキャップ50は、所謂ヒンジキャップと称される。
【0045】
即ち、キャップ50は、ボトルの口部1に嵌め込み等により固定されるキャップ本体51と、ヒンジバンド53を介してキャップ本体51にヒンジ連結されたヒンジ蓋55とから構成されている。
【0046】
キャップ本体51は、天板61と、天板61の周縁部から降下した筒状側壁63とからなり、天板61の内面には、筒状側壁63とは間隔を置いて下方に延びている環状突起65が設けられている。即ち、打栓により、筒状側壁63と環状突起65との間の空間にボトル口部1の上方部分が嵌め込まれ、これにより、キャップ本体1はがっちりとボトル口部1に固定されることとなる。
【0047】
また、天板61の中央部分には、内容液を注ぎ出す時の流路となる開口67が形成されており、天板61の上面には、この開口67を取り囲むようにして注出筒69が立設されている。
尚、一般に、包装体が製造され、これが販売されて使用されるまでは、この開口67は閉塞状態にあり、一般需要者が最初にボトルから内容液を注ぎ出す時に、この部分の壁を引き剥がして開口67を形成するようになっている。
【0048】
一方、ヒンジ蓋55は、頂板部71と、頂板部71の周縁から延びているスカート部73とからなっており、スカート部73の端部がヒンジバンド53に連結されており、このヒンジバンド53が、キャップ本体1の筒状側壁63の上端に連結されている。このヒンジバンド53を支点としての旋回により、ヒンジ蓋55の開け閉めが行われるようになっている。
【0049】
また、このヒンジ蓋55の頂板部71の内面(
図7において上面)には、シールリング75が形成されており、頂板部71のヒンジバンド53とは反対側の端部には、開封用鍔77が設けられている。
即ち、ヒンジ蓋55を閉じたとき、シールリング75の外面が注出筒69の内面に密着し、これにより、内容液を注ぎ出すための開口67が形成されているときのシール性が確保されるようになっている。
また、ヒンジ蓋55を開け閉めするための旋回を容易に行うことができるように、開封用鍔77は設けられているものである。
【0050】
このようなヒンジキャップでは、ヒンジ蓋55を開けて注出筒69からの内容液の注ぎ出しが行われるため、この注出筒69の上端は、若干ラッパ状に外方に広がった形態を有している。
また、この注出筒69の上端部分、特にヒンジバンド53とは反対側に位置する部分が、注ぎ口Xとなる部分である。即ち、ヒンジバンド53が存在する側には、開けられたヒンジ蓋55が存在しているため、ヒンジバンド53が存在している側と反対側に内容液が注ぎ出されるからである。
【0051】
上記の説明から理解されるように、このヒンジキャップにおいては、注出筒69の上端の少なくとも注ぎ口Xとなる部分に、前述した撥液性面100が形成されることとなる。
また、撥液性面100は、注出筒69の内面下方側に延びていてもよいが、好ましくは、前述したヒンジ蓋55のシールリング75が密着する部分までは延びていないほうがよい。この部分まで撥液性面100が延びているとシール性が低下するおそれがあるからである。
【0052】
尚、
図6及び7においては、開口67を形成した後のシール性を確保するための部材としてヒンジ蓋55が使用されているが、このヒンジ蓋55の代わりに螺子蓋が使用されている構造のキャップもある。即ち、螺子蓋は、螺子係合によりキャップ本体1に着脱自在に装着されるものであるが、このような場合には、注出筒69の上端の全周が注ぎ口Xとなるため、その全周にわたって撥液性面100が形成されることとなる。
【0053】
上述した例において、口部1を有するプラスチックボトルを形成するプラスチック材料は、特に制限されず、公知のプラスチックボトルと同様、各種の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂で形成されていてよい。特に、このボトルの口部1の上端面が注ぎ口Xとなり、この部分に凹凸面からなる撥液性面100を形成するため、凹凸面100の形態安定性、強度等の観点から、ポリエステル樹脂であることが最も好ましい。
尚、キャップ側が注ぎ口Xとなって凹凸面100が形成される場合には、このボトルは、ガラス製或いは金属製であってもよい。
【0054】
さらに、キャップ3、50を形成するプラスチック材料も、特に制限されず、公知のプラスチックキャップと同様、各種の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂により形成される。
また、ボトルが注ぎ口Xとなって撥液性面100が形成される場合には、このキャップは金属製の螺子キャップであってもよい。
【0055】
さらに、キャップ3などに設けられているライナー材13も、公知の弾性材料、例えば、エチレン−プロピレン共重合体エラストマーやスチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーから形成されている。
【0056】
尚、
図5〜7では、ボトルやキャップに本発明のプラスチック成形体を適用した例を示したが、勿論、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば袋状の容器に装着され、注出具として使用されるスパウトにも適用することができる。
さらに、上述したボトルやキャップ等に撥液性面100を形成するには、予め、所定の成形手段でボトルやキャップ等を成形しておき、所定の部位に前述したスタンパを用いての転写により撥液性面100を形成すればよい。
また、撥液性面100における凹凸の形態は、これらの凹凸上を液が流れるように設計されている限り、その形態は任意である。
【実施例】
【0057】
本発明の優れた特性を次の例で説明する。
(実施例1〜3)
通常のフォトリソグラフィー工程によって形成したエポキシ樹脂製マスターを、Ni電鋳することにより、賦形面に対し、凸部頂幅20μm、ピッチ100μm、凸部高さ30μm(面積比φs=0.2)、ライン&スペース状の一次凹凸形状が形成されたスタンパを得た。
該賦形面に対し、平均粒径1.2μmであるアルミナ粉を媒体にしたショットブラスト加工を施し、一次凹凸形状の表面全体にマイクロクラック及びチッピングにより形成された二次凹凸形状を刻設した。
【0058】
上記で得られたスタンパの二次凹凸面を示す顕微鏡写真(倍率100倍、500倍、1000倍及び5000倍)を
図8に示した。
【0059】
上記スタンパの裏面にシリコーン樹脂製黒色塗料を塗布し、該裏面に対しハロゲンランプを照射し、スタンパ温度250℃まで加熱した。
一方、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマーJ246M)を射出成形することにより、縦58mm×横58mm×厚さ3mmの基板を得て、該基板の表面に対し、該加熱したスタンパを押し付け、スタンパの賦形面に形成された形状を転写した。
続いて、アルミ製冷却板をスタンパ裏面に押し付け、スタンパ温度30℃まで冷却した後、該基板をスタンパより離型した。
上記の転写によって、この基板に形成された凹凸面の顕微鏡での平面観察像(倍率500倍及び5000倍)及び断面観察像(倍率1000倍及び5000倍)を
図9に示した。
二次凹凸形状を白色干渉計(ZYGO社NewView7300)にて、対物レンズ50倍、接眼レンズ1.5倍、長波長カットオフ値λc=17.6μm、短波長カットオフ値λs=441nmの条件で測定したところ、算術平均粗さRa=11nmの繊毛状形状であった。
【0060】
上記のようにして凹凸面が形成された基板を用いて転落性の評価を行った。
該基板の上に、実液(純水、醤油、及び、中濃ソース)を滴下し、成形体を徐々に傾けて行った際の、液滴が転落を開始した時の角度である転落角を測定した。なお、滴下量及び測定するための装置は、以下の通りであった。
滴下量:
純水: 17mg
醤油: 14mg
中濃ソース: 16mg
装置: 協和界面科学社製DropMaster700
【0061】
次に、上記の基板を用いて繰り返し転落性の評価を行った。
前記基板を30°に傾けて固定し、実液(上記の純水、醤油、中濃ソース)を繰り返し滴下した。なお、液滴が成形体に固着し、転落しなくなった時の滴下回数がn(nは自然数。)のとき、繰り返し転落可能回数をn−1とした。
評価結果を表1に記載した。
【0062】
(比較例1〜3)
一次凹凸形状のみ形成、二次凹凸形状のみ形成、もしくはその両方を形成しない方法にてスタンパを製造し、サンプル成形、性能評価を行った。
一次凹凸形状の形成方法は実施例と同じくし、二次凹凸形状の形成方法は、平均粒径48μmであるアルミナ粉を媒体にしたショットブラスト加工を行った以外は、実施例と同じくした。
評価結果を表1に記載した。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
100:撥液性面
160:一次凹凸
160a:凹部
160b:凸部
165:二次凹凸
170:液滴
180:スタンパ