(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。なお、各図において、同一の構成には、同一の符号を付して一部説明を省略している。
【0010】
本実施の形態は、上位装置からの回転速度指令Vspに基づいてブラシレスモータ3の駆動制御を行うモータ駆動装置1であり、保護機能としてモータ駆動電流を設定閾値以内に制御するOCL(電流制限機能:Over Current Limit)を有している。本実施の形態のモータ駆動装置1は、
図1を参照すると、インバータ回路10と、モータドライバ11と、電流制限部12と、位置検出部13と、回転速度検出部14と、異常検出部15と、基本波形形成部16と、第1波形形成部17と、第2波形形成部18と、駆動切替判定部19と、保護停止部20と、駆動切替部21とを備えている。また、位置検出部13と、回転速度検出部14と、異常検出部15と、基本波形形成部16と、第1波形形成部17と、第2波形形成部18と、駆動切替判定部19と、保護停止部20と、駆動切替部21とは、モータコントローラ2を構成する。さらに、モータ駆動装置1と、ブラシレスモータ3とは、モータ装置を構成する。
【0011】
インバータ回路10は、スイッチング素子に環流用ダイオードを逆並列接続した並列回路をハイサイドアーム及びローサイドアームに備える直列回路が、U、V、W相のそれぞれに対応して設けられ、モータドライバ11から出力される駆動信号に基づいてスイッチング素子をオンオフ制御することにより、モータ駆動電圧を出力する。
【0012】
モータドライバ11は、駆動切替部21から出力される駆動波形を最適な電圧及びスイッチングスピードに変換し、駆動信号としてインバータ回路10に出力する。
【0013】
電流制限部12は、接地された負の直流母線に設けられた電流検出抵抗Rsによってインバータ回路10を流れる回路電流を電流検出値LSとして検出し、電流検出値LSが予め設定されたOCL基準値に到達すると、電流制限信号OCLをモータドライバ11と、第2波形形成部18とに出力する。そして、電流制限信号OCLが入力されたモータドライバ11は、モータ駆動電流を設定閾値以内に制御する保護動作を行う。また、電流制限部12は、電流検出値LSが予め設定されたOCP基準値に達すると過電流信号OCPを異常検出部15に出力する。そして過電流信号OCPが入力された異常検出部15は、モータ動作を停止させる保護動作を行う。
【0014】
位置検出部13は、ブラシレスモータ3の回転子の回転位置を検出するホール素子3aからのホール入力信号に基づいて、回転子の回転位置を検出し、回転パルスFGを回転速度検出部14と異常検出部15と第2波形形成部18とに出力する。
【0015】
回転速度検出部14は、回転パルスFGの周期を内蔵カウンタにて時間計測することで、モータ回転周波数(回転速度)を算出し、異常検出部15と駆動切替判定部19とに出力する。
【0016】
異常検出部15は、位置検出部13から出力される位置信号の異常や、回転速度検出部14から出力されるモータ回転周波数に基づいてブラシレスモータ3の逆回転や異常な高回転を検出すると共に、電流制御部12から出力される過電流信号OCPによって過電流を検出する。
【0017】
基本波形形成部16は、基本波形である三角波を形成し、第1波形形成部17と第2波形形成部18とに出力する。
【0018】
第1波形形成部17は、上位装置からの回転速度指令Vspと、基本波形形成部16から出力される基本波形と、ホール素子3aからのホール入力信号とに基づいて、起動・低速回転時の駆動波形(矩形波駆動(120度))を形成する。
【0019】
第2波形形成部18は、上位装置からの回転速度指令Vspと、基本波形形成部16から出力される基本波形と、位置検出部13から出力される回転パルスFGと、電流制限部12から出力される電流制限信号OCLと、駆動切替判定部19から出力される駆動方式選択信号SEとに基づいて、中速・高速回転時の駆動波形(正弦波等の広角波駆動(150度、165度、180度等))を形成する。
【0020】
駆動切替判定部19は、回転速度検出部14で算出されたモータ回転周波数と予め設定されている切替周波数とを比較することで駆動方式を選択する駆動方式選択信号SEを駆動切替部21に出力する。具体的には、モータ回転周波数が切替周波数未満の起動・低速回転時には、駆動切替判定部19は、第1駆動方式である第1波形形成部17によって形成される駆動波形の選択を指示する駆動方式選択信号SEを駆動切替部21に出力し、モータ回転周波数が切替周波数以上の中速・高速回転時には、第2駆動方式である第2波形形成部18によって形成される駆動波形の選択を指示する駆動方式選択信号SEを第2波形形成部18と駆動切替部21に出力する。
【0021】
保護停止部20は、異常検出部15によって、位置信号の異常や、ブラシレスモータ3の逆回転や高回転、或いは過電流が検出されると、保護停止信号を駆動切替部21に出力する。
【0022】
駆動切替部21は、モータドライバ11に出力する駆動波形を、駆動切替判定部19から出力される駆動方式選択信号SEに基づいて、第1波形形成部17によって形成された駆動波形と、第2波形形成部18によって形成された駆動波形とのいずれかに切り替える。また、駆動切替部21は、保護停止部20から保護停止信号が出力されると、駆動波形の出力を停止する。
【0023】
図2には、第2波形形成部18の内部構成が示されている。第2波形形成部18は、
図2を参照すると、比較器31と、PWM信号生成部32と、進角値設定部33と、進角値補正部34と、駆動波形形成部35とを備えている。
【0024】
比較器31は、上位装置からの電圧値として入力される回転速度指令Vspと、基本波形形成部16から出力される基本波形(三角波)とを比較し、PWM信号生成部32は、比較器31の比較結果に基づいてPWM信号を生成して駆動波形形成部35に出力する。
【0025】
進角値設定部33は、回転速度指令Vspに基づいて進角値LAを設定し、設定した進角値LAを進角値補正部34に出力する。進角値設定部33は、
図3に示すように、回転速度指令Vspと進角値LAとの対応表を有しており、回転速度指令Vspの値に応じて進角値LAを設定する。なお、本実施の形態では、回転速度指令Vspは、「sp0」〜「sp5」の6段階に設定されており、進角値LAも回転速度指令Vspと同様に0〜5の6段階に設定されている。なお、回転速度指令Vspにおいて、「sp0」は回転停止の指令であり、「sp1」から数字が大きくなるにしたがって速い回転速度を示している。また、進角値LAにおいて、「LA0」は0度であり、「LA1」から数字が大きくなるにしたがって大きい角度を示している。
【0026】
進角値補正部34は、駆動切替判定部19から出力される駆動方式選択信号SEと、電流制限部12から出力される電流制限信号OCLと、位置検出部13から出力される回転パルスFGとに基づいて、進角値設定部33によって設定された進角値LAを補正し、補正した進角値LAを進角補正値LA’として駆動波形形成部35に出力する。なお、進角値設定部33と進角値補正部34とは別個の構成としても良く、破線で示されるように、これらを進角設定機能と進角補正機能とを併せ持った単一の進角値制御部36として構成することもできる。
【0027】
駆動波形形成部35は、PWM信号生成部32から出力されるPWM信号と、位置検出部13から出力される回転パルスFGと、進角値補正部34から出力される進角補正値LA’とに基づいて、ブラシレスモータ3に通電するタイミングを決定して中速・高速回転時の駆動波形(正弦波等の広角波)を形成する。
【0028】
次に、進角値補正部34による進角値LAの補正動作について
図4を参照して詳細に説明する。
図4は、(a)回転パルスFG、(b)回転速度指令Vsp、(c)進角値LA、(d)進角補正値LA’、(e)電流制限信号OCL、(f)駆動方式選択信号SEの波形を示している。
【0029】
回転停止状態で、
図4(b)に示すように、時刻t1で回転速度指令Vspとして「sp3」が入力されると、進角値設定部33は、
図4(c)に示すように、進角値LAを回転速度指令Vspの「sp3」に対応する「LA3」に設定して出力する。
【0030】
図4(f)に示すように、起動時には、駆動切替判定部19は、第1駆動方式を選択する駆動方式選択信号SEを出力しており、第1波形形成部17によって形成される駆動波形によってブラシレスモータ3が駆動される。そして、進角値補正部34は、駆動切替判定部19から第1駆動方式を選択する駆動方式選択信号SEがされている場合には、
図4(d)に示すように、進角値設定部33から出力される進角値LAに拘わらず、進角補正値LA’として「LA0」を出力している。
【0031】
図4(f)に示すように、時刻t2でモータ回転周波数が切替周波数に到達して駆動切替判定部19から第2駆動方式を選択する駆動方式選択信号SEが出力されると、進角値補正部34は、
図4(d)に示すように、進角値設定部33で設定された「LA3」まで電気角60度毎に1段階ずつ進角補正値LA’を引き上げて出力する。これにより、実際の回転速度に応じた進角補正値LA’が設定され、誘起電圧の位相とモータ駆動電流の位相とのズレを抑制することができる。
【0032】
次に、
図4(e)に示すように、時刻t3で電流制限部12から電流制限信号OCLが出力されると、進角値補正部34は、
図4(d)に示すように、「LA0」まで電気角60度毎に1段階ずつ進角補正値LA’を引き下げて出力する。これにより、モータ駆動電流が抑制されてモータ回転数が上昇しなくなり、回転速度指令Vspと実際のモータ回転数に差異が生じても、実際の回転速度に適した進角補正値LA’が設定され、誘起電圧の位相とモータ駆動電流の位相とのズレを抑制することができる。
【0033】
次に、
図4(e)に示すように、時刻t4で電流制限部12からの電流制限信号OCLがオフされると、進角値補正部34は、
図4(d)に示すように、進角値設定部33で設定された「LA3」まで電気角60度毎に1段階ずつ進角補正値LA’を引き上げて出力する。これにより、モータ駆動電流の抑制の解除によるモータ回転数の上昇に伴って、実際の回転速度に応じた進角補正値LA’が設定され、誘起電圧の位相とモータ駆動電流の位相とのズレを抑制することができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、電流制限部12から電流制限信号OCLが出力されると、進角値設定部33で設定された進角値LAに拘わらず、進角補正値LA’を「LA0」まで段階的に引き下げるように構成したが、進角値設定部33で設定された進角値LAに対して補正限界値を設定することもできる。例えば、補正限界値として「−2」を設定した場合、電流制限部12から電流制限信号OCLが出力されると、進角値補正部34は、進角値設定部33で設定された「LA3」よりも2段階低い「LA1」まで電気角60度毎に1段階ずつ進角補正値LA’を引き下げて出力する。
【0035】
また、補正限界値は、回転速度指令Vsp等の動作条件によって変動させて設定しても良い。例えば、回転速度指令Vspの設定範囲を数段階に区切り、高回転時は補正限界値として「−3」、中回転時は補正限界値として「−2」、低回転時は補正限界値として「−1」をそれぞれ設定するようにしても良い。このように補正限界値を設定することにより、モータ回転子と駆動信号との同期ズレ(脱調)を防止することができる。
【0036】
さらに、本実施の形態では、進角補正値LA’を1段階ずつ補正するように構成したが、進角補正値LA’は、複数段階ずつ補正するように構成しても良い。また、進角補正値LA’の補正する段階数を切り替えて設定可能に構成しても良い。例えば、安定性を重視する場合には、進角補正値LA’の補正する段階数を「1」に設定し、追従性を重視する場合には、進角補正値LA’の補正する段階数を「2」等の複数段階に設定すると良い。進角補正値LA’を複数段階毎に補正することで大幅な速度変動に対応することができ、モータ回転の加速減速時(回転速度指令Vsp設定変更時)の低振動・低騒音化が期待できる。
【0037】
また、本実施の形態では、ブラシレスモータ3のモータ回転周期(回転パルスFG)に同期させ、電気角60度毎に進角補正値LA’を補正するように構成した。このように、補正周期をモータ回転周期とすると低回転時と高回転時とで進角補正の追従性が異なることになるが、モータ回転周期に同期する為、安定動作が期待できる。なお、進角補正値LA’の補正周期は、電気角60度に限定されることなく、他の角度であっても良い。さらに、進角補正値LA’の補正周期をタイマーによる一定時間周期としても良い。この場合には、モータ回転数へ依存性はなくなり、回転速度指令Vspに対する追従性能の向上が期待できる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態は、回転速度指令Vspに基づく回転速度でブラシレスモータ3を駆動するモータ駆動装置1であって、ブラシレスモータ3に印加するモータ駆動電圧の位相進み角度を示す進角値LAを回転速度指令Vspに応じて設定し、且つ進角値LAを補正した進角補正値LA’を出力する進角値制御部36(進角値設定部33、進角値補正部34)と、ブラシレスモータ3を流れるモータ駆動電流を制限する電流制限信号OCLを出力する電流制限部12と、進角値補正部34から出力された進角補正値LA’を用いて駆動波形を生成する駆動波形形成部35と、駆動波形形成部35によって生成された駆動波形に基づくモータ駆動電圧をブラシレスモータ3に印加するインバータ回路10とを備え、進角値制御部36(進角値補正部34)は、電流制限部12から電流制限信号OCLが出力されると、進角補正値LA’を進角値LAよりも小さくするように構成されている。
この構成により、モータ駆動電流が抑制されてモータ回転数が上昇しなくなり、回転速度指令Vspと実際のモータ回転数に差異が生じても、実際の回転速度に応じた進角補正値LA’が設定され、誘起電圧の位相とモータ駆動電流の位相とのズレを抑制することができ、ブラシレスモータ3を低振動、低騒音、高効率で駆動することができると共に、低振動、低騒音、高効率なモータ装置を提供できる。
【0039】
さらに、本実施の形態によれば、進角値制御部36(進角値補正部34)は、ブラシレスモータ3のモータ回転周期に同期させて、
進角補正値LA’を段階的に小さい角度に補正するように構成されている。
この構成により、モータ回転周期に同期する為、安定動作が期待できる。
【0040】
さらに、本実施の形態によれば、進角値制御部36(進角値補正部34)は、タイマーによる一定時間周期で、
進角補正値LA’を段階的に小さい角度に補正するように構成されている。
この構成により、モータ回転数へ依存性はなくなり、回転速度指令Vspに対する追従性能の向上が期待できる。
【0041】
さらに、本実施の形態によれば、進角値制御部36(進角値補正部34)には、進角値LAに対する補正限界値が設定されている。さらに、本実施の形態によれば、補正限界値は、動作条件によって変動させて設定されている。
この構成により、モータ回転子と駆動信号との同期ズレ(脱調)を防止することができる。
【0042】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付している。