(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(A)成分が、ポリブテン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の防食用組成物。
JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が500〜10000mPa・sの範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の防食用組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動車等の車両の軽量化などを目的として、電線導体の材料にアルミニウムやアルミニウム合金を用いることが検討されている。一方、端子金具の材料には銅や銅合金が用いられることが多い。また、端子金具の表面にはスズめっきなどのめっきが施されることが多い。つまり、電線導体と端子金具の材質が異なる場合が生じる。電線導体と端子金具の材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。このため、電気接続部を確実に防食することが求められる。
【0005】
従来から使用されるグリースは、コネクタ内に密に注入しなければ水の浸入を防げない。過剰に注入すれば、コネクタからはみ出し、電線やコネクタをべたつかせて取り扱い性を低下させる。また、ワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合には、電線被覆とグリースとの間に隙間ができ、防水性や防食機能が損なわれる。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、防食性能に優れる防食用組成物およびこれを用いた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る防食用組成物は、下記の(A)〜(C)成分を含有することを要旨とするものである。
(A)ブテン骨格またはブタン骨格を持ち、その比率が70質量%以上であるエラストマー
(B)25℃で液状の(メタ)アクリルモノマーまたは(メタ)アクリルオリゴマー
(C)重合開始剤
【0008】
この場合、硬化後におけるJIS K6850に準拠して測定されるアルミニウム同士の重ね合わせ引張せん断強度が20kPa以上であることが好ましい。
【0009】
そして、前記(A)成分は、ポリブテン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
また、前記(A)成分の含有量は、1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0011】
さらに、JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度は500〜10000mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0012】
そして、さらに、ロジン系、テルペン系、テルペンフェノール系、フェノール系、クロマンインデン系樹脂、石油樹脂のうちの少なくとも1種からなる粘着付与剤を含有していてもよい。
【0013】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線は、上記の防食用組成物の硬化物により、端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部を含む、前記電線導体の絶縁被覆から露出する部分のうち先端より先の端子金具表面から、前記電線導体の絶縁被覆から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆表面までの範囲が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る防食用組成物によれば、その硬化物が被覆電線の絶縁被覆との密着性および端子金具との密着性に優れるため、端子付き被覆電線の端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部を含む所定の範囲をその硬化物で覆ったときに、電気接続部への水の浸入を抑えることができる。このため、防食性能に優れる。
【0015】
また、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、本発明に係る防食用組成物の硬化物により、端子付き被覆電線の端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部を含む所定の範囲が覆われていることから、防食性能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る防食用組成物は、下記の(A)〜(C)成分を含有する。
(A)ブテン骨格またはブタン骨格を持ち、その比率が70質量%以上であるエラストマー
(B)25℃で液状の(メタ)アクリルモノマーまたは(メタ)アクリルオリゴマー
(C)重合開始剤
【0019】
(A)成分は、ブテン骨格またはブタン骨格を持つエラストマーである。ブテン骨格またはブタン骨格により、(A)成分は粘着性を具える。これにより、組成物は被覆電線の絶縁被覆との密着性に優れる。絶縁被覆との密着性が確保されれば、例えば被覆電線を曲げた時にも組成物と絶縁被覆との間で隙間が生じるのを抑える効果がある。この観点から、(A)成分におけるブテン骨格またはブタン骨格の比率は70質量%以上である。ブテン骨格またはブタン骨格の比率が低いと、密着性の確保が困難である。
【0020】
ブテン骨格またはブタン骨格を持つエラストマーとしては、ブテンやブタジエンが原料に含まれる重合体が挙げられる。具体的には、ポリブテン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。(A)成分は、例えばこれらのうちの1種のみで構成されていてもよいし、これらのうちの2種以上の組み合わせで構成されていてもよい。
【0021】
絶縁被覆がポリオレフィンなどの比較的極性の低い樹脂からなる場合には、相溶性から密着性をより高くできるため、(A)成分は、ブテンやブタジエン、エチレンが比較的多く原料に含まれる重合体が好ましい。具体的には、ポリブテン、ポリブタジエン、エチレン−ブタジエン共重合体などが好ましい。一方、絶縁被覆がポリ塩化ビニルなどの比較的極性の高い樹脂からなる場合には、相溶性から密着性をより高くできるため、(A)成分は、スチレンやアクリロニトリルなどの共重合成分が原料に含まれる重合体が好ましい。具体的には、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などが好ましい。
【0022】
ブテン骨格またはブタン骨格を持つエラストマーは、粘着性を具えるなどの観点から、弾性率が10MPa以下であることが好ましい。より好ましくは5MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下である。弾性率は、JIS K7161に準拠して測定される引張弾性率である。所定の弾性率とするには、例えば、ブテン骨格またはブタン骨格を持つエラストマーの分子量を比較的小さいものにするとよい。
【0023】
(A)成分の含有量は、組成物の粘着性を高くできるなどの観点から、1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは5〜25質量%の範囲内、さらに好ましくは10〜20質量%の範囲内である。
【0024】
(B)成分は、25℃で液状の(メタ)アクリルモノマーまたは(メタ)アクリルオリゴマーである。(B)成分は、(メタ)アクリル基を有するため、金属との密着性が高く、端子金具や電線導体との密着性に優れる。このため、端子金具や電線導体との密着性を確保することができる。
【0025】
また、(B)成分は、25℃で液状であるため、電線導体の表面や絶縁被覆の表面、端子金具の表面に組成物を塗布しやすくする。また、電線導体の素線間や電線導体と端子金具の間、電線導体と絶縁被覆の間などに組成物を浸透しやすくする。このため、組成物の施工性、防食性を高めることができる。(B)成分は、25℃で液状であるため、室温で組成物を塗布可能にすることができる。このため、加熱することなく組成物を塗布することを可能にする。ただし、組成物は、加熱することなく塗布してもよいし、加熱して粘度を調整して塗布してもよいし、適度な溶媒に溶解させて塗布してもよい。
【0026】
また、(B)成分は、(メタ)アクリルモノマーまたは(メタ)アクリルオリゴマーであり、(C)成分と併用されるため、塗布後に組成物を硬化させることができる。このため、組成物の塗布性と形状安定性を両立することができる。
【0027】
(メタ)アクリルモノマーは、モノ(メタ)アクリレートであってもよいし、ポリ(メタ)アクリレートであってもよい。また、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0028】
モノ(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレートなどが挙げられる。
【0029】
ポリ(メタ)アクリレートとしては、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物又はPO付加物のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴ(メタ)アクリレート、エチルカルビトールオリゴ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンオリゴ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールオリゴ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)ブタジエン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
(C)成分は、(B)成分の重合開始剤である。(C)成分は、紫外線等の光で(B)成分を硬化させる光重合開始剤であってもよいし、熱で(B)成分を硬化させる熱重合開始剤であってもよいし、両方であってもよい。
【0031】
光重合開始剤は、紫外線を吸収してラジカル重合を開始させる化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、エチルアントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
熱重合開始剤としては、アゾイソブチルニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーベンゾエート、シクロヘキサノンパーオキサイドなどの過酸化物などが挙げられる。
【0033】
(C)成分の含有量は、特に限定されるものではないが、組成物の硬化性などの観点から、0.001〜10質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.01〜10質量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜5質量%の範囲内である。
【0034】
本発明に係る防食用組成物においては、上記の(A)〜(C)成分以外に、本発明を阻害しない範囲内で、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、粘着付与剤、ハイドロキノン、メルカプタンなどの安定剤、分子量調整剤、微細シリカなどの粘度調整剤、レべリング剤、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃剤、難燃助剤、着色顔料、染料、分散剤などが挙げられる。
【0035】
粘着付与剤としては、ロジン系、テルペン系、テルペンフェノール系、フェノール系、クロマンインデン系樹脂、石油樹脂などが挙げられる。石油樹脂には、脂肪族系、脂環族系、水添、スチレン系、アルキルフェノール系のものなどがある。粘着付与剤としては、これらのうちの1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
粘着付与剤の含有量は、組成物の粘着性を高くできるなどの観点から、1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは5〜30質量%の範囲内、さらに好ましくは10〜25質量%の範囲内である。
【0037】
本発明に係る防食用組成物は、溶剤を用いてもよいし用いなくてもよいが、塗布性(施工性)、防食性などの観点から、25℃で液状であることが好ましい。この場合、防食用組成物の粘度は、500〜10000mPa・sの範囲内であることが好ましい。防食用組成物の粘度は、JIS Z8803に準拠して回転粘度計で測定される25℃での粘度である。
【0038】
本発明に係る防食用組成物の粘度が高すぎると、流動性が悪く、所定の範囲に均一に塗布しにくくなる。また、電線導体の素線間、電線導体と端子金具の間、電線導体と絶縁被覆の間などに浸透しにくくなる。本発明に係る防食用組成物の粘度が低すぎると、所定の範囲から流出しやすくなって、厚みを確保しにくくなる。
【0039】
本発明に係る防食用組成物は、光や熱などで硬化させることができる。所定の部分に塗布した後、硬化させることにより、皮膜が形成され、形状が維持される。上述するように、本発明に係る防食用組成物は、(A)成分により絶縁被覆との密着性が確保され、(B)成分により端子金具や電線導体との密着性が確保される。この効果は、硬化後においても維持される。したがって、本発明に係る防食用組成物の硬化物は、絶縁被覆、端子金具、電線導体との密着性に優れる。
【0040】
電線導体との密着性に優れるなどの観点から、本発明に係る防食用組成物は、硬化後におけるJIS K6850に準拠して測定されるアルミニウム同士の重ね合わせ引張せん断強度が20kPa以上であることが好ましい。より好ましくは30kPa以上、さらに好ましくは50kPa以上である。
【0041】
本発明に係る防食用組成物は、絶縁被覆、端子金具、電線導体との密着性に優れるため、端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部を防食する用途に好適に用いることができる。以下に、端子付き被覆電線において本発明に係る防食用組成物を適用した例を示す。
【0042】
図1は本発明の端子付き被覆電線の一例を示す外観斜視図であり、
図2は
図1におけるA−A線縦断面図である。
【0043】
図1および
図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0044】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0045】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0046】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本発明に係る防食用組成物の硬化物7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、硬化物7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように硬化物7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように硬化物7で覆われる。そして、
図2に示すように、端子金具5の側面5bも硬化物7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは硬化物7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。硬化物7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0047】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が硬化物7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は硬化物7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は硬化物7により完全に覆われる。硬化物7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、硬化物7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、硬化物7の周端で硬化物7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0048】
本発明に係る防食用組成物は、所定の範囲に塗布される。防食用組成物の塗布は、滴下法、塗布法、押し出し法等の公知の手段を用いることができる。防食用組成物の塗布の際には、防食用組成物を加熱、冷却等により温度調節してもよい。
【0049】
本発明に係る防食用組成物は、所定の厚みで所定の範囲に塗布される。その厚みは、0.01〜0.1mmの範囲内が好ましい。防食用組成物が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。防食用組成物が薄くなりすぎると、防食性能が低下しやすくなる。所定の厚みとするには、防食用組成物の25℃における粘度を所定の範囲内にすることが好ましい。
【0050】
所定の範囲に塗布された防食用組成物は、紫外線等の光を照射することにより、あるいは、加熱することにより、硬化される。これにより、所定の厚みの硬化物7が形成される。硬化物7の厚みは、コネクタへの挿入、防食性能の観点から、0.01〜0.1mmの範囲内が好ましい。より好ましくは0.01〜0.05mmの範囲内である。
【0051】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0052】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0053】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0054】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0055】
なお、
図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
(1)被覆電線の作製
ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部に対して、可塑剤としてジイソノニルフタレート40質量部、充填剤として重炭酸カルシウム20質量部、安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤5質量部をオープンロールにより180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形することにより、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。
【0058】
次いで、50mm押出機を用いて、上記のポリ塩化ビニル組成物を、アルミ合金線を7本撚り合わせたアルミニウム合金撚線よりなる電線導体(断面積0.75mm)の周囲に0.28mm厚で押出被覆した。これにより被覆電線(PVC電線)を作製した。
【0059】
(2)端子金具の圧着接続
作製した被覆電線の端末を皮剥して電線導体を露出させた後、自動車用として汎用されている黄銅製のオス形状の端子金具(タブ幅0.64mm)を被覆電線の端末に加締め圧着した。
【0060】
(3)防食用組成物の調製
スチレン−ブタジエン共重合体(旭化成ケミカルズ製「タフテックP1500」、ブタンまたはブテンの含有量70質量%)と粘着付与剤(ヤスハラケミカル製水添テルペン系化合物「クリアロンP125」)とを質量比40:60で混合し、これを紫外線硬化型樹脂(スリーボンド製「TB3042B」)に5質量%配合した。これにより、実施例1の防食用組成物を得た。
【0061】
(4)防食処理
被覆電線に端子金具を圧着したものにおいて、電線導体と端子金具との電気接続部を含む、
図1の一点鎖線に示す範囲が覆われるように防食用組成物を塗布して、露出している電線導体および端子金具のバレルを被覆した。この際、加圧ディスペンサを用いて一定量を塗布した。その後、塗布した防食用組成物に紫外線を30秒間照射して、防食用組成物の硬化処理を行い、端子付き被覆電線を作製した。硬化物の厚さは0.05mmである。
【0062】
(実施例2)
防食用組成物の調製において、粘着付与剤を用いず、スチレン−ブタジエン共重合体を紫外線硬化型樹脂に10質量%配合した以外は実施例1と同様にした。
【0063】
(比較例1)
防食用組成物の調製において、スチレン−ブタジエン共重合体として(旭化成ケミカルズ製「タフテックP2000」、ブタンまたはブテンの含有量33質量%)を用い、スチレン−ブタジエン共重合体と粘着付与剤の混合物を紫外線硬化型樹脂に50質量%配合した以外は実施例1と同様にした。
【0064】
(比較例2)
防食用組成物の調製において、粘着付与剤を用いず、スチレン−ブタジエン共重合体として「タフテックP2000」を用い、紫外線硬化型樹脂(スリーボンド製「TB3013Q」)に0.5質量%配合した以外は実施例1と同様にした。
【0065】
調製した各防食用組成物の25℃における粘度を、JIS Z8803に準拠して回転粘度計を用いて測定した。また、調製した各防食用組成物について、接着性を評価した。また、得られた各端子付き被覆電線について、防食性能を評価した。防食用組成物の配合組成、測定結果、評価結果を表1に示す。
【0066】
(接着性)
硬化後におけるJIS K6850に準拠して測定されるアルミニウム同士の重ね合わせ引張せん断強度により評価した。JIS K6850(「接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」)は、標準試験片を用いて、規定した調整及び試験条件下における、剛性被着材相互の接着接合物の重ね合わせ引張せん断強さを測定する方法について規定している。剛性被着材としてAl板を用い、Al板同士に挟まれる接着層の材料として防食用組成物を用い、試験片を作製した。
【0067】
(防食性能)
JIS C0023に準拠して、端子付き被覆電線の電線導体と端子金具との電気接続部に塩水噴霧試験を96時間行った。試験後に、硬化物を剥がし、目視にて、電気接続部に錆が発生しているか否かにより、判定した。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例によれば、防食性能に優れる端子付き被覆電線が得られた。一方、比較例では、防食性能に劣る端子付き被覆電線が得られた。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。