特許第6206215号(P6206215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206215複合口金および複合口金を用いて製造する複合繊維
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206215
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】複合口金および複合口金を用いて製造する複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/36 20060101AFI20170925BHJP
   D01F 8/04 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   D01D5/36
   D01F8/04 Z
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-12105(P2014-12105)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2014-177734(P2014-177734A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-24038(P2013-24038)
(32)【優先日】2013年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花輪 達也
(72)【発明者】
【氏名】船越 祥二
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014872(JP,A)
【文献】 特開2011−208313(JP,A)
【文献】 特開平01−014321(JP,A)
【文献】 特開昭54−120721(JP,A)
【文献】 特開2005−163233(JP,A)
【文献】 特開平03−099604(JP,A)
【文献】 特開平09−316766(JP,A)
【文献】 特公昭46−003816(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00−13/02
D01F 8/00− 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海成分ポリマーと2種類以上の異なる島成分ポリマーとによって構成される複合ポリマー流を吐出するための複合口金であって、
各ポリマー成分を分配するための分配孔および分配溝が形成された1枚以上の分配板と、
前記分配板のポリマーの紡出経路方向の下流側に位置し、複数の島成分吐出孔と複数の海成分吐出孔とが形成された最下層分配板とで構成され、
前記島成分吐出孔は、前記2種類以上の異なる島成分ポリマーのうちの1種類の島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Xと、この島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーとは異なる種類の島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Yとで構成され、
任意の前記島成分吐出孔Xを中心に、半径R1の仮想円周線C1上に等分配置されたn個の前記島成分吐出孔Yと、前記島成分吐出孔Xに最も短い中心間距離に隣接し、半径R2の仮想円周線C2上に等分配置されたm個の島成分吐出孔Xと、前記XとYの島成分吐出孔間の位相角とが、次の(1)の条件イ〜のいずれかを満足し、且つ前記海成分吐出孔が、次の式(2)を満足する半径R3となる仮想円周線C3上に配設されていることを特徴とする複合口金。
(1)条件イ:R2=√n・R1、位相角180°/2n、m=2n(n=3)
条件ロ:「R2=√n・R1、位相角180°/2n、m=2n」かつ、
「隣接する島成分吐出孔X間の中間点に、n個の島成分吐出孔Yを位相角180°/nにて配置(n=2)」
条件ハ:R2=√(n/2)・R1、位相角180°/n、m=n(n=4)
条件ニ:「R2=R1、位相角180°/n、m=n(n=3)」または、
「R2=√(n/2)・R1、位相角180°/n、m=n(n=6)」
条件ホ:「R2=(n/3)・R1、位相角0°、m=n(n=6)」または、
「R2=(2n/3)・R1、位相角0°および180°/n、m=2n(n=3)」または、
「R2=R1、位相角120°/nおよび240°/n、m=n(n=2)」
(2)0.5・R1≦R3<R1
【請求項2】
前記島成分吐出孔Xと、前記島成分吐出孔Yとの2本の共通外接線に囲まれる領域に、前記海成分吐出孔の少なくとも一部が存在することを特徴とする請求項1に記載の複合口金。
【請求項3】
前記島成分吐出孔Xと前記島成分吐出孔Yとの合計の孔充填密度が0.5個/mm以上である請求項1または2に記載の複合口金。
【請求項4】
2種類以上の異なる島成分が同一の繊維断面内に存在する複合繊維において、基準となる任意の島成分を基準中心O1とし、前記基準中心O1に最も隣接する島成分の中心O2との距離Rを半径とする仮想円周線内に、前記基準中心O1を有する前記島成分とは異なる種類の島成分の中心O3をp個(pは2、3、4、6個のいずれかの整数)配置したことを特徴とする複合繊維。
【請求項5】
前記中心O3を有する前記島成分が、前記仮想円周線上に等分配置されていることを特徴とする請求項4に記載の複合繊維。
【請求項6】
前記2種類以上の異なる島成分のいずれの種類の島成分も外径が10〜1000nmであり、外径バラツキが1〜20%であることを特徴とする請求項4または5に記載の複合繊維。
【請求項7】
相対的に、1つの種類の島成分の帯電列と、この島成分とは異なる種類の島成分の帯電列との間に電位差を有することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項8】
前記2種類以上の異なる島成分のうちの少なくとも1種類の島成分が異形状であることを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項9】
単糸径が1000nm以下であって、帯電列で電位差を有する単糸が2種類以上存在する繊維において、該繊維の横断面にある単糸30本の中で、2種類の単糸の割合が20:80〜80:20の比率で混在していることを特徴とする繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合口金および複合口金を用いて製造する複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。しかしながら、繊維の用途が多様化する現在において、その要求特性も多様なものとなり、繊維の断面形態によって、風合い、嵩高性などといった感性的効果を付与する技術が提案されている。中でも、“繊維の極細化”は、繊維自身の特性や布帛とした後の特性に対する効果が大きく、繊維の断面形態制御という観点では、主流の技術である。
【0003】
繊維の極細化には、単独ポリマーを紡糸した場合、その紡糸条件を高度に制御しても、得られる繊維の径は数μm程度とすることが限界であり、一般的に、複合口金により複合繊維を得る“海島型の複合紡糸法”が良く採用されている。この複合紡糸法では、繊維断面において、易溶解成分からなる海成分ポリマーに難溶解成分からなる島成分ポリマーを複数配置しておき、繊維あるいは繊維製品とした後に、海成分ポリマーを除去することで、島成分ポリマーからなる極細繊維を発生させるものである。さらにこの複合紡糸法は、糸の走行方向において高精度な糸断面形態を均一、均質に形成できるため、現在工業的に生産されている極細繊維、特にマイクロファイバーにて多く採用されている技術である。最近では、この技術の高度化により、極限的な細さを有したナノファイバーを採取することも可能になってきた。
【0004】
極限的な細さを有する繊維とすることで、衣料用途では、一般の繊維では得ることができない柔軟なタッチやきめ細やかさが発現し、人工皮革や新感触テキスタイル等に適用でき、また、繊維間隔が緻密となることから、高密度織物として、防風性、撥水性が必要とされるスポーツ衣料用途にも展開できる。また、産業資材用途では、比表面積が増大し、塵埃捕集性が高まることによる高性能フィルタ等への適用や、また、極細繊維が微細な溝に入りこみ、汚れを拭き取ることによる精密機器などのワイピングクロスや、精密研磨布等にも適用が可能となる。
【0005】
上述した海島型の複合紡糸法では、2種類以上のポリマーを口金内で複合ポリマー流とし、同一の吐出孔から吐出する方式を採用しており、主には、パイプ方式口金と分配方式口金を用いた2つの方法が主流となっている。安定的に糸断面形態を決定するためには、この複合口金技術が極めて重要であり、従来から様々な提案が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1では、図17に示すような分配方式口金が開示されている。図17の(b)は複合口金の平面図であり、図17の(a)は(b)の部分拡大平面図である。図中、黒丸の1は島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔、白丸の4は海成分ポリマーを吐出する海成分吐出孔、5は最下層分配板、8は分配溝をそれぞれ示す。特許文献1では、分配板を複数枚重ね、その分配板の最下層に、分配溝8、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4を配設している。この最下層分配板5の上層にある分配板の各吐出孔から吐出されたポリマーは、最下層分配板5の分配溝8により二手に分岐され、複数枚の分配板により島成分ポリマーと、海成分ポリマーを予め多数に分配した後、最下層分配板5の島成分吐出孔1と海成分吐出孔4より両成分のポリマーを各々吐出し、吐出直後に複合化させることで海島型の複合繊維を得ることができる。
【0007】
また、特許文献2では、図18に示すようなパイプ方式口金が開示されている。図18は複合口金の概略断面図であり、図中、21はパイプ、22は海ポリマー導入流路、23は島ポリマー導入流路、24は上口金板、25は中口金板、26は下口金板、29は海成分ポリマー分配室、30はパイプ挿入孔、31は口金吐出孔をそれぞれ示す。特許文献2では、海成分ポリマーは、海成分ポリマー導入流路22から海成分ポリマー分配室29に導かれ、パイプ21の外周を充満するのに対して、島成分ポリマーは、島成分ポリマー導入流路23からパイプ21に導かれ、パイプ21から吐出することで、両成分のポリマーが合流し、海島複合断面を形成した後、パイプ挿入孔30を経て、口金吐出孔31から複合ポリマーを吐出することで海島型の複合繊維を得ることができる。
【0008】
上述したような2つの方式の複合口金においては、海成分ポリマーは溶融紡糸した後に溶出するため、生産性の観点からするとポリマーの吐出量比は、溶出する海成分ポリマーを少なくし、島成分ポリマーを多くする“島比率の増加”が求められ、さらには、島成分ポリマーの吐出孔(島成分吐出孔1、またはパイプ21)を多く配置し、孔充填密度を大きくする“多島化”が求められている。
【0009】
しかしながら、“多島化”として、複合口金の島成分吐出孔1(もしくはパイプ30)を多数配置すると、1本の複合繊維に配置できる島成分の繊維径が極小化していき、更には、“島比率の増加”として、島成分ポリマーの吐出量を高く設定すると、1本の複合繊維において島成分同士の距離が極めて小さくなる。そこで、本発明者らの知見によると、この複合繊維の海成分ポリマーを溶出した後に得られる島成分からなる極細繊維においては、繊維同士の間でファンデルワールス力が働き、複数本の繊維が凝集し束状になってしまうため、溶出処理した後の後加工性が悪化するという問題が生じてしまう。また、本発明者らの知見によると、ナノファイバーと言った極細繊維が束状になれば、柔軟な肌触りや、気体吸着性等の本来得られるはずの性能が発現しない場合がある。
【0010】
また、特許文献3においては、ポリエステル樹脂からなる島成分と、フッ素樹脂(難溶解ポリマー)を混合させた海成分とからなる複合繊維を形成し、電気的に反発性のあるポリマーの組み合わせとすることで、海成分を溶出した後に、極細繊維の束化、開繊性を改善できることが開示されている。しかしながら、海成分中にフッ素樹脂を分散混合させるために、ポリマーアロイを採用していることから、得られる繊維は、長繊維(ポリエステル樹脂)と短繊維(フッ素樹脂)が混繊された混合繊維に限定される。また、ポリマーアロイを用いていることから、繊維径のバラツキが大きく、均一な断面形態となる混合繊維を得ることができない場合がある。
【0011】
また、長繊維からなる混合繊維を形成する方法として、特許文献4が開示されている。特許文献4は、パイプ方式口金を用いて島成分ポリマーが多成分となる複合繊維を形成する方法であり、図19(a)は特許文献4の複合口金の概略断面図、図19(b)は、図19(a)の複合口金を用いて得られた複合繊維の断面図である。ポリマーA、Bはそれぞれ異なる成分の島成分ポリマー、ポリマーCは海成分ポリマーを示す。ポリマーAは、供給孔27よりパイプ21の上端部28に向かって吐出される。一方、ポリマーBは、硬板に仕切られた空間32を通り、環状部33をわき上がって、供給されたポリマーAの流れと合流し、1つの成分流Dが形成される。この成分流Dと、硬板に仕切られた空間32を通り、環状部33に供給されたポリマーCとが合流し、複合流が形成され、最終的に口金吐出孔31より複合繊維として吐出される。
【0012】
しかしながら、本発明者らの知見によると、特許文献4は、パイプ方式口金を用いた技術であるため、1島を製作するのに、パイプ厚みが加算されることから、1つのパイプ当たりの面積が拡大する。特に、2成分の島成分ポリマーと海ポリマーを合流させるため、パイプ21を長尺化させており、パイプ21の強度向上のため太径化する必要がある。また、口金の製作上、パイプ21を硬板間に圧入し溶接固定していることから、溶接代が必要であり、さらに、パイプ21を挿入するための環状部33を設けることから、強度上の問題によりパイプ間同士の間隙を狭化できない。そのため、パイプ21を単位面積当たりに密に配置することができず、繊維径がナノオーダーの混合繊維を製造することが困難な場合がある。これは、特許文献4に記載の実施例の島数が28本であり、数百、数千と言った島数には対応できず、延いては、多成分の島成分ポリマーからなるナノファイバーが形成できない場合がある。また、得られる複合繊維の形態として、島ポリマーAと島ポリマーBとが合流し、一つの島成分を構成するため、複合繊維の海成分を溶出した後、島ポリマーAと島ポリマーBが独立して存在する混合繊維を形成できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−26420号公報
【特許文献2】特許第4220640号公報
【特許文献3】特開2012−177212号公報
【特許文献4】特公昭62−25764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の様に、複合繊維の海成分を溶出後に得られる島成分からなる繊維の単糸径がナノオーダーの極めて小さい場合においても、単糸同士が束状にならず、開繊性の優れる複合繊維を製造することは重要な要素技術である。この開繊性を解決する方法の一つとして、特許文献3では、異なる種類の島成分ポリマーを組み合わせ、異種ポリマーの混合繊維を形成することにより、電気的な反発性を持たせて、単糸の束化を抑制、開繊性を改善できることが分かっているが、短繊維と長繊維の単糸を組み合わせた混合繊維に限定され、また、この混合繊維では短繊維の分布にバラツキがあるため、部分的に電気的な反発力が生じず、充分な開繊効果が得られない箇所ができてしまうことから、長繊維同士が凝集してしまい、得られる繊維の糸径のバラツキが大きい場合がある。そのため、上述したような極細のナノファイバー特有の優れた性能を得られなくなってしまう。また、本発明者らの知見によると、特許文献4の複合口金を用いると、2成分の島成分ポリマーを組み合わせた複合繊維を形成できるため、溶出処理後の混合繊維の開繊性が向上すると予想されるが、実際には、混合繊維の繊維径が大きいために、電気的な反発力が作用せず、十分な開繊効果が得られない場合がある。従って、極細繊維における束化を解決することは、工業上、重要な意味を有するのである。
【0015】
よって、本発明の目的は、海島型の複合繊維を製造するための分配方式口金において、島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔の孔充填密度を拡大しつつ、島成分ポリマー同士の島合流を抑制し、かつ溶出後に得られる島成分からなる繊維の糸径が極めて小さくなる場合においても、繊維径のバラツキが均一であり、繊維同士が束状にならず、開繊性の優れた複合繊維と、その複合繊維を製造することができる複合口金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の複合口金および複合口金を用いて製造する複合口金は次のような構成を有する。すなわち本発明によれば、
海成分ポリマーと2種類以上の異なる島成分ポリマーとによって構成される複合ポリマー流を吐出するための複合口金であって、
各ポリマー成分を分配するための分配孔および分配溝が形成された1枚以上の分配板と、
前記分配板のポリマーの紡出経路方向の下流側に位置し、複数の島成分吐出孔と複数の海成分吐出孔とが形成された最下層分配板とで構成され、
前記島成分吐出孔は前記2種類以上の異なる島成分ポリマーのうちの1種類の島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Xと、この島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーとは異なる種類の島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Yとで構成され、
任意の前記島成分吐出孔Xを中心に、半径R1の仮想円周線C1上に等分配置されたn個の前記島成分吐出孔Yと、前記島成分吐出孔Xに最も短い中心間距離に隣接し、半径R2の仮想円周線C2上に等分配置されたm個の島成分吐出孔Xと、前記XとYの島成分吐出孔間の位相角とが、次の(1)の条件イ〜のいずれかを満足し、且つ前記海成分吐出孔が、次の式(2)を満足する半径R3となる仮想円周線C3上に配設されていることを特徴とする複合口金が提供される。
(1)条件イ:R2=√n・R1、位相角180°/2n、m=2n(n=3)
条件ロ:「R2=√n・R1、位相角180°/2n、m=2n」かつ、
「隣接する島成分吐出孔X間の中間点に、n個の島成分吐出孔Yを位相角180°/nにて配置(n=2)」
条件ハ:R2=√(n/2)・R1、位相角180°/n、m=n(n=4)
条件ニ:「R2=R1、位相角180°/n、m=n(n=3)」または、
「R2=√(n/2)・R1、位相角180°/n、m=n(n=6)」
条件ホ:「R2=(n/3)・R1、位相角0°、m=n(n=6)」または、
「R2=(2n/3)・R1、位相角0°および180°/n、m=2n(n=3)」または、
「R2=R1、位相角120°/nおよび240°/n、m=n(n=2)」
(2)0.5・R1≦R3<R1。

【0017】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記島成分吐出孔Xと、前記島成分吐出孔Yとの2本の共通外接線に囲まれる領域に、前記海成分吐出孔の少なくとも一部が存在することを特徴とする複合口金が提供される。
【0018】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記島成分吐出孔Xと島成分吐出口Yとの合計の孔充填密度が0.5個/mm以上である複合口金が提供される。
【0019】
また、本発明の好ましい形態によれば、2種類以上の異なる島成分が同一の繊維断面内に存在する複合繊維において、基準となる任意の島成分を基準中心O1とし、前記基準中心O1に最も隣接する島成分の中心O2との距離Rを半径とする仮想円周線内に、前記基準中心O1を有する前記島成分とは異なる種類の島成分の中心O3をp個(pは2、3、4、6個のいずれかの整数)配置したことを特徴とする複合繊維が提供される。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記中心O3を有する前記島成分が、前記仮想円周線上に等分配置されていることを特徴とする複合繊維が提供される。
【0021】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記2種類以上の異なる島成分のいずれの島成分も外径が10〜1000nmであり、前記島成分の外径バラツキが1〜20%であることを特徴とする複合繊維が提供される。
【0022】
また、本発明の好ましい形態によれば、相対的に、1つの種類の島成分の帯電列と、この島成分とは異なる種類の島成分の帯電列との間に電位差を有することを特徴とする複合繊維が提供される。
【0023】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記2種類以上の異なる島成分のうちの少なくとも1種類の島成分が異形状であることを特徴とする複合繊維が提供される。
【0024】
また、本発明の好ましい形態によれば、単糸径が1000nm以下であって、帯電列で電位差を有する単糸が2種類以上存在する繊維において、該繊維の横断面にある単糸30本の中で、2種類の単糸の割合が20:80〜80:20の比率で混在していることを特徴とする繊維が提供される。
【0025】
本発明において「分配孔」とは、複数の分配板の組合せにより、孔が形成され、ポリマーの紡出経路方向に、ポリマーを分配する役割を果たすものをいう。
【0026】
本発明において「分配溝」とは、複数の分配板の組合せにより、溝が形成され、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向に、ポリマーを分配する役割を果たすものをいう。ここで、分配溝は、細長い穴(スリット)であってもよいし、細長い溝が掘ってあってもよい。
【0027】
本発明において「ポリマーの紡出経路方向」とは、各ポリマー成分が計量板から吐出板の口金吐出孔まで流れる主方向をいう。
【0028】
本発明において「半径R1の仮想円周線C1」とは、基準となる島成分吐出孔Xに最も近接し、基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーとは異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Yとの中心間距離を半径R1とした仮想円周線C1をいう。
【0029】
本発明において「半径R2の仮想円周線C2」とは、基準となる島成分吐出孔Xに最も近接し、基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーと同じ島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Xとの中心間距離を半径R2とした仮想円周線C2をいう。
【0030】
本発明において「位相角」とは、基準となる島成分吐出孔Xの中心点と仮想円周線C1上に配置された基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーとは異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Yの中心点を結ぶ線分と、基準となる島成分吐出孔Xの中心点と仮想円周線C2に配置された基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーと同じ島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Xの中心点を結ぶ線分とが交差する角度、または基準となる島成分吐出孔Xの中心点と仮想円周線C1上に配置された基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーとは異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Yの中心点を結ぶ線分と、基準となる島成分吐出孔Xの中心点と仮想円周線C2に配置された、基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーと同じ島成分ポリマーを吐出する2つの島成分吐出孔Xの中点に配設され、基準とした島成分吐出孔Xから吐出される島成分ポリマーとは異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔Yの中心点とが交差する角度をいう。
【0031】
本発明において「半径R3の仮想円周線C3」とは、基準となる島成分吐出孔に最も近接した海成分吐出孔との中心点間距離を半径R3とした仮想円周線C3をいう。
【0032】
本発明において「孔充填密度」とは、島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔数を吐出導入孔の断面積で除することによって求めた値をいう。この孔充填密度が大きい程、島成分ポリマー成分が多数にて構成される複合繊維である。
【0033】
本発明において「帯電列」とは、2種類の材質を摩擦した時に+(プラス)側に帯電し易い材質を上位に、−(マイナス)側に帯電し易いものを下位に並べた序列である。
【0034】
本発明において「異形状」とは、図21(b)に示すように島成分の断面形状を見たときに、外側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径DBを、島成分の内側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径DAで除した値(異形度=直径DB÷直径DA)が、1.1以上となる形状をいう。
【発明の効果】
【0035】
本発明の複合繊維を製造することができる複合口金によれば、島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔の孔充填密度を拡大しつつ、島成分ポリマー同士の島合流を抑制し、かつ溶出後に得られる島成分からなる繊維の糸径が極めて小さくなる場合においても、異なる2種類以上の島成分ポリマーが同一の複合繊維断面内に存在し、かつ隣り合う島成分ポリマーに異なる種類の島成分ポリマーが存在するため、海成分ポリマーを溶出しても、得られる繊維同士が互いに凝集することなく、開繊性に優れ、かつ繊維断面の均一性に優れた極細繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の第2、または第3の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の断面形態を示した断面図である。
図2図1の複合繊維の部分拡大断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図4】本発明の第4の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図5(a)】本発明の第5の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図5(b)】本発明の第5の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図5(c)】本発明の第5の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図6】本発明の第6の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図7】本発明の実施形態に用いられる複合口金の概略断面図である。
図8】本発明の実施形態に用いられる複合口金と、紡糸パック、冷却装置周辺の概略断面図である。
図9図7の複合口金におけるX−X矢視図である。
図10】本発明の実施形態に用いられる分配板、最下層分配板の概略部分断面図である。
図11】本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。
図12】本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金の別パターンの部分拡大断面図である。
図13】本発明の第2の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。
図14】本発明の第3の実施形態に用いられる複合口金の別のパターンの部分拡大断面図である。
図15(a)】本発明の第4の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。
図15(b)】本発明の第4の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。
図16】本発明の第5の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。
図17】(b)は従来例の複合口金の最下層分配板の平面図、(a)は(b)の部分拡大平面図である。
図18】従来例の複合口金の概略断面図である。
図19】(a)は従来例の複合口金の概略断面図、および(b)は(a)の複合口金により製造された複合繊維の断面形態を示した模式図である。
図20】比較例3の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。
図21(a)】本発明の第7の実施形態に用いられる複合口金により製造された代表的な複合繊維の部分拡大断面図である。
図21(b)】図21(a)中の1つの島成分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら、本発明の複合口金および複合口金を用いて製造する複合繊維の実施形態について詳細に説明する。図7は本発明の実施形態に用いられる複合口金の概略断面図であり、図8は本発明の実施形態に用いられる複合口金と、紡糸パック、冷却装置周辺の概略断面図であり、図9図7の複合口金におけるX−X矢視図である。なお、図7は縦断面図になるので、島成分吐出孔1や島成分吐出孔2、海成分吐出孔4が集合した吐出孔群は2つしか記載されていないが、実際には図9に示すように吐出孔群が4つある。また、図10は本発明の実施形態に用いられる分配板、最下層分配板の概略部分断面図である。また、図12図9の最下層分配板の部分拡大断面図であり、図11図13図14図15は本発明の別の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図である。なお、これらは、本発明の要点を正確に伝えるための概略図であり、図を簡略化しており、本発明の複合口金は特に制限されるものではなく、孔および溝の数ならびにその寸法比などは実施の形態に合わせて変更可能なものとする。
【0038】
本発明の実施形態に用いられる複合口金18は、図8に示すように、紡糸パック15に装備され、スピンブロック16の中に固定され、複合口金18の直下に冷却装置17が構成される。そこで、複合口金18に導かれた2成分以上のポリマーは、各々、計量板9、分配板6、最下層分配板5を通過して、吐出板10の口金吐出孔42から吐出された後、冷却装置17により吹き出される気流により冷却され、油剤を付与された後に、海島複合繊維として巻き取られる。なお、図8では、環状内向きに気流を吹き出す環状の冷却装置17を採用しているが、一方向から気流を吹き出す冷却装置を用いても良い。また、計量板9の上流側に装備する部材に関しては、既存の紡糸パック15にて使用された流路などを用いれば良く、特別に専有化する必要はない。
【0039】
また、本発明の実施形態に用いられる複合口金18は、図7に示すように、計量板9と、少なくとも1枚以上の分配板6、最下層分配板5、吐出板10を順に積層して構成され、特に、分配板6と最下層分配板5は薄板にて構成されるのが好ましい。その場合、計量板9と分配板6、および最下層分配板5と吐出板10は、位置決めピンにより、紡糸パック18の中心位置(芯)が合うように位置決めを行い、積層した後に、ネジやボルトなどで固定しても良く、熱圧着により金属接合(拡散接合)させても良い。特に、分配板6同士や、分配板6と最下層分配板5は、薄板を使用するため、熱圧着により金属接合(拡散接合)させるのが好ましい。ここで、薄板の板厚みは、0.01〜0.5mmの範囲とするのが良く、更には、0.05〜0.3mmの範囲となるのが好適である。薄板の板厚みを薄くすることで、加工できる孔の孔径や溝幅、そして孔間、溝間ピッチを小さくでき、孔充填密度を大きくできる利点を有する。
【0040】
また、吐出導入孔11はポリマーの紡出経路方向において、吐出板10の下面より一定の助走区間を設けることで、島成分ポリマーと海成分ポリマーが合流した直後の流速差を緩和させ、複合ポリマー流を安定化させることができる。また、本発明における縮流孔12は、吐出導入孔11から口金吐出孔31に至る流路の縮小角度αを50〜90°の範囲に設定することで、複合口金18を小型化でき、且つ、複合ポリマー流のドローレゾナンス等の不安定現象を抑え、安定的に複合ポリマー流を供給することができる。
【0041】
さらに、図10に示すように、複数の積層された分配板6において、分配板6に形成された分配孔7の孔数が、ポリマーの紡出経路方向の下流側に向かい増加するように構成し、ポリマーの紡出経路方向にポリマーを導く分配孔7が形成された分配板6と、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向にポリマーを導く分配溝8が形成された分配板6とを交互に積層させて、ポリマーの紡出経路方向の上流側に位置する分配孔7と、ポリマーの紡出経路方向の下流側に位置する分配孔7とを連通するように分配溝8が形成されている。また、一枚の分配板6の片側の面には分配孔7が、他方の面には分配溝8が形成され、分配孔7と分配溝8が連通していてもよい。また、上述の通り、分配孔7が分配板6を貫通して形成されていてもよく、また、分配溝8が分配板6を貫通して形成されていてもよい。ここで、最下層分配板5の島成分吐出孔1、島成分吐出孔2、および海成分吐出孔4の孔径は、0.01〜0.5mmの範囲とするのが良く、更には、0.05〜0.3mmの範囲となるのが好適である。
【0042】
まず、本発明の重要なポイントである、島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔1(または2)の孔充填密度を大きくしつつ、複合繊維の海成分ポリマー溶出後に得られる島成分ポリマーからなる極細繊維同士が束状にならず、開繊性に優れた複合繊維を高精度に形成できる原理について説明する。
【0043】
ここで、孔充填密度を大きくする“多島化”をするほど、複合繊維の海成分ポリマー溶出後に得られる島成分からなる繊維径は極めて小さくなる。また、生産性の観点からするとポリマー吐出量比は、溶出する海成分ポリマーを少なく、島成分ポリマーを多くする“島比率の増加”が好ましいが、島比率を大きくするほど1本の複合繊維において島成分同士の距離が極めて小さくなる。よって、“多島化”と“島比率の増加”を両立させるとなると、隣り合う極細繊維間同士の間でファンデルワールス力が働き、複数本の繊維が凝集し束状になってしまい、溶出処理した後の後加工性の悪化や、さらには柔軟な肌触りや気体吸着性等の本来得られるはずの性能が発現しなくなってしまう。
【0044】
従って孔充填密度を大きくしつつ、かつ島比率が高い場合においても、複合繊維の海成分溶出後に得られる島成分からなる極細繊維が束状にならず開繊性に優れた複合繊維を製造することは極めて重要な技術となる。そこで、本発明者らは、従来の技術では何の考慮もされていなかった上記問題に関して、鋭意検討を重ねた結果、本発明の新たな技術を見出すに至った。
【0045】
即ち、本発明の実施形態の最下層分配板5は、任意の島成分吐出孔1と、島成分吐出孔1を中心とした半径R1の仮想円周線C1上に等配分され、基準の島成分吐出孔1から吐出されるポリマーとは異なる島成分ポリマーを吐出するn個の島成分吐出孔2と、半径R2の仮想円周線C2上にm個の島成分吐出孔1とが、次の(1)の条件イ〜ホのいずれかを満足し、且つ海成分吐出孔4が次の(2)式を満足する半径R3となる仮想円周線C3上に配設されている。ここで、(2)式は、小数点第3位を四捨五入して算出する。また、条件イの配置パターンとすることで得られる複合繊維は、図3に示すように、一つの島成分の周囲に異なる島成分が3方向から囲い込む三角配置となる。また、条件ロ、ハで得られる複合繊維は、図2に示すように、一つの島成分の周囲に異なる島成分が4方向から囲い込む千鳥配置となり、条件ニで得られる複合繊維は、図4に示すように、一つの島成分の周囲に異なる島成分が6方向から囲い込む六角配置となり、条件ホで得られる複合繊維は、図5に示すように、三角配置と六角配置とが混合した形態となる。ここで、条件イとなる吐出孔配置のパターンを図11図12、条件ロの配置パターンを図13、条件ハの配置パターンを図14、条件ニの配置パターンを図15、条件ホの配置パターンを図16に示す。
【0046】
(1)条件イ:R2=√n・R1、位相角180°/2n、m=2n(n=3)
条件ロ:「R2=√n・R1、位相角180°/2n、m=2n」かつ、
「隣接する島成分吐出孔1間の中間点に、n個の島成分吐出孔Yを位相角180°/nにて配置(n=2)」
条件ハ:R2=√(n/2)・R1、位相角180°/n、m=n(n=4)
条件ニ:「R2=R1、位相角180°/n、m=n(n=3)」または、
「R2=√(n/2)・R1、位相角180°/n、m=n(n=6)」
条件ホ:「R2=(n/3)・R1、位相角0°、m=n(n=6)」または、
「R2=(2n/3)・R1、位相角0°および180°/n、m=2n(n=3)」または、
「R2=R1、位相角120°/nおよび240°/n、m=n(n=2)」
(2)0.5・R1≦R3<R1。
【0047】
一つ目の配置パターンとして、(1)式の条件イに関して、図11を用いて説明する。ある島成分吐出孔1を基準とした場合、半径R1の仮想円周線C1上に3個(n=3)の島成分吐出孔2と、半径R2の仮想円周線C2上に6個(m=6)の島成分吐出孔1とを、位相角30°となるように配置し、さらに半径R3の仮想円周線C3上に海成分吐出孔4を(2)式を満足するように配置する。ここで、仮想円周線C3上に配置する海成分吐出孔4は、図11に示すように、島成分吐出孔1を6方向から囲い込む6等配や、図12に示すように、島成分吐出孔1を3方向から囲い込む3等配など、島合流が発生しない範囲で適宜選択することが好ましい。
【0048】
このような各吐出孔の配置とすることで、孔充填密度を大きくしつつ、且つ、島成分ポリマー比率を大きくでき、70%以上といった高い島比率においても、異なる島成分ポリマー同士の合流を抑制できる。その結果、図3に示すように、異なる2種類の島成分が同一の複合繊維断面内に近接して存在し、任意の島成分の中心を基準中心O1とし、基準中心O1に最も隣接する島成分の中心O2との距離Rを半径とする仮想円周線内に、基準中心O1を有する島成分とは異なる種類の島成分の中心O3が中心角120°にて等分配置された複合繊維を得ることができる。このように、隣り合う島成分同士は必ず互いに異なる種類の島成分となるため、海成分を溶出後に得られる島成分からなる極細繊維において、隣り合う繊維間で電気的な反発力が生じることから、繊維同士が互いに凝集することなく、開繊性に優れた極細繊維を得ることができる。また、複合繊維の段階において、異なる種類の島成分を断面内に均一に分散していることから、海成分を溶出処理した後の混合繊維においても、この分散状態を維持することができる。つまりは、ナノファイバーとなる極細繊維において、異なる電位差を有する2種類の単糸を、繊維内に均一に分散させることで、その分散状態を維持しつつ、電気的な反発力を利用することで、繊維同士の凝集を抑制することができる。ここで、「中心角」とは、基準中心O1と、半径Rの仮想円周線上に各々配置された、円周方向に隣り合う2つの、基準中心O1を有する島成分とは異なる種類の島成分の中心O3とを結ぶ線分が交差する角度をいう。
【0049】
上記の本発明の原理をポリマーの流れ形態に沿って説明すると、2つの異なる島成分ポリマーと海成分ポリマーの3つのポリマーは、最下層分配板5の下流側の吐出導入孔11に向けて一斉に吐出され、各ポリマーがポリマーの紡出経路方向に垂直な方向に拡幅しつつ、ポリマーの紡出経路方向に沿って流れ、両ポリマーが合流し、複合ポリマー流を形成する。その際、基準の島成分吐出孔1と別成分の島成分吐出孔2から吐出された島成分ポリマー同士が合流するのを防止するためには、島成分ポリマーを物理的に分断する海成分ポリマーを介在させることが有効であり、この役割を仮想円周線C3上の海成分吐出孔4から吐出される海成分ポリマーが果たしている。
【0050】
ここで、異なる島成分ポリマー同士が島合流せずに孔充填密度を大きくするためには、上述した(1)式の条件イ〜ホにおいて、仮想円周線C3の半径R3を小さくし、基準の島成分吐出孔1と島成分吐出孔2の間隔を極力近接すれば良いが、その場合、それぞれの孔から吐出された島成分ポリマーが拡幅し、島成分ポリマー同士が合流する限界となる距離があることを本発明者は見出した。これは、仮想円周線C2と仮想円周線C3に挟まれた空間において、島成分吐出孔1から吐出された島成分ポリマーを充分に拡幅させる空間を形成しつつ、島成分ポリマーの合流を抑制できる孔配置がポイントとなる。つまり、それは、海成分吐出孔4の配置は、島成分吐出孔1、島成分吐出孔2を(1)の条件を満足するように配置し、基準となる島成分吐出孔1に隣接する海成分吐出孔4との中心間距離となる半径R3が(2)式を満足するように決定すれば良い。
【0051】
ここで、(2)式のR3<0.5・R1の場合には、仮想円周線C1上に隣り合って配置された島成分吐出孔2との間において、海成分吐出孔4が配置されなくなるため、島成分吐出孔2から吐出される島成分ポリマー同士の合流が発生する場合がある。また、R3≧R1の場合は、基準となる島成分吐出孔1と、仮想円周線C1上に配置された島成分吐出孔2との間において、海成分吐出孔4が配置されなくなるため、島成分吐出孔1と島成分吐出孔2とから吐出される島成分ポリマー同士の合流が発生する場合がある。
【0052】
次いで、異なる配置パターンとして、(1)式の条件ロの配置に関して、図13を用いて説明する。条件イと同様に、ある島成分吐出孔1を基準とした場合、半径R1の仮想円周線C1上に2個(n=2)の島成分吐出孔2と、半径R2の仮想円周線C2上に4個(n=4)の島成分吐出孔1とを、位相角45°となるように配置し、さらに、4個(m=4)の島成分吐出孔1の内、隣接する2つの島成分吐出孔1の中心点を結ぶ中点上に位相角90°となるように2個の島成分吐出孔2を配置する。また、海成分吐出孔4については、条件イと同様に(2)式を満足するように配置する。
【0053】
このような各吐出孔の配置とすることで、得られる複合繊維は、図2に示すように、任意の島成分の中心を基準中心O1とし、基準中心O1に最も隣接する島成分の中心O2との距離Rを半径とする仮想円周線内に、基準中心O1を有する島成分とは異なる種類の島成分の中心O3が中心角90°にて等分配置された複合繊維を得ることができる。条件ロの配置パターンの特徴は、条件イと比較すると、孔充填密度が大きくできることから、多島化、延いては極細化に優れている。また、複合繊維を溶出処理した後に得られる極細繊維では、2種類の島成分の単糸が同等本数となるため、繊維全体が帯電する電荷が大きく偏らないため、開繊性にも優れている。
【0054】
また、図2に示す複合繊維を得るための別の配置パターンとしては、図14に示すような(1)の条件ハの配置がある。これは、上述した(1)式の条件イ〜ロと同様に、ある島成分吐出孔1を基準とした場合、半径R1の仮想円周線C1上に4個(n=4)の島成分吐出孔2と、半径R2の仮想円周線C2上に4個(m=4)の島成分吐出孔1とを、位相角45°となるように配置し、海成分吐出孔4については、(2)式を満足するように配置する。このような吐出孔の配置とすることで、(1)式の条件ロの配置パターンと比較して島成分吐出孔1と島成分吐出孔2との間隔が短くなる、つまり孔充填密度をより大きくすることができるため、“多島化”の観点からするとより好ましい配置となる。
【0055】
また、異なる配置パターンとしては、(1)式の条件ニの配置に関して、図15(a)、(b)を用いて説明する。ある島成分吐出孔1を基準とした場合、半径R1の仮想円周線C1上に3個(n=3)の島成分吐出孔2と、半径R2の仮想円周線C2上に3個(m=3)の島成分吐出孔1とを、位相角60°となるように配置する。または島成分吐出孔2を基準とした場合、仮想円周線C1上に6個(n=6)の島成分吐出孔1と、仮想円周線C2上に6個(m=6)の島成分吐出孔2とを、位相角30°となるように配置する。なお、海成分吐出孔4については、(2)式を満足するように配置する。ここで、一つの島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔を基準とした場合を図15(a)、もう一方の異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔を基準とした場合を図15(b)として示すが、いずれも孔の配置は同じパターンとなる。この配置パターンの場合、図15(a)、(b)に示すように、基準とする島成分吐出孔を別の島成分吐出孔に置き換えると、島成分吐出孔の数や半径R1、R2の関係式、位相角の式が変わるが、各吐出孔の配置としては同じ条件を示している。
【0056】
このような吐出孔の配置とすることで、得られる複合繊維は、図4に示すような、任意の島成分14の中心を基準中心O1とし、基準中心O1に最も隣接する島成分の中心O2との距離Rを半径とする仮想円周線内に、基準中心O1を有する島成分とは異なる種類の島成分の中心O3が中心角120°にて等分配置された複合繊維を得ることができる。また、基準中心O1を島成分13の中心に変えると、6つの中心O3が中心角60°にて等分配置された複合繊維を得ることができる。条件ニにより得られる複合繊維の特徴としては、条件イ〜ホの全ての配置の中で、最も孔充填密度を高くできることから、多島化に優れている。また、同一の島成分が隣り合っているため、溶出処理した後に得られる極細繊維において、異なる電位を有した繊維同士が引き合いつつ、同じ電位を有する繊維同士が擦れ合うことで、静電気が発生することで、電気的な反発が大きくなるため、繊維の開繊性に優れた特徴がある。
【0057】
また、異なる配置パターンとして、(1)式の条件ホの配置に関して、図16を用いて説明する。ある島成分吐出孔1を基準とした場合、半径R1の仮想円周線C1上に6個(n=6)の島成分吐出孔2と、半径R2の仮想円周線C2上に6個(m=6)の島成分吐出孔1とを、位相角0°となるように配置し、海成分吐出孔4については(2)式を満足するように配置する。なお、この配置パターンにおいても、(1)の条件ニと同様に基準とする島成分吐出孔を別の島成分吐出孔に置き換えると、島成分吐出孔の数や半径R1、R2の関係式、位相角の式が変わり、(1)の条件ホのまたは以降に記載される条件式となる。
【0058】
このような吐出孔の配置とすることで、得られる複合繊維は、図5(a)に示すように、任意の島成分13の中心を基準中心O1とし、基準中心O1に最も隣接する島成分の中心O2との距離Rを半径とする仮想円周線内に、基準中心O1を有する島成分とは異なる種類の島成分の中心O3が中心角60°にて等分配置される複合繊維を得ることができる。なお、この場合、図4に示される複合繊維と同様に基準中心O1とする島成分を変える、または、同じ島成分でも違う位置のものを選択すると中心O3の条件が変わり、図5(b)に示すように、島成分14を基準中心O1とすると、2つの中心O3が中心角180°にて等配置となる複合繊維となり、または図5(c)に示すように、基準中心とする島成分13を図5(a)とは異なる位置のものを選択すると、3つの中心O3が中心角120°にて等配置となる複合繊維となるが、中心O3の条件が変わるだけであり、得られる複合繊維としては同じものを示している。条件ホにより得られる複合繊維の特徴としては、溶出処理後に得られる極細繊維において、この繊維の横断面にある単糸30本の中で、一方の島成分の単糸の割合が比較的大きい場合でも、異なる電位差を有する2種類の単糸を、繊維内に均一に分散させていることから、単糸同士が凝集することがなく、開繊性に優れるという特徴を保持することができる。
【0059】
以上の実施形態では、得られる複合繊維断面において、ある一つの島成分に対し、隣り合う島成分が必ず異なる種類の島成分となるように配置するとしたが、これに限らなくても良く、ある一つの島成分が複数の島成分からなる島群を形成していても良い。例えば図6に示すように、4個の島成分13が島群19を形成し、同じく4個の島成分14が島群20を形成し、一つの島群の周囲に異なる成分の島群が4方向から囲い込む千鳥配置としても良い。このように配置することで、前述した実施形態と同様に開繊性に優れた極細繊維を得ることができる。この場合、得られる複合繊維の形態としては、島成分を囲い込む島群の外接円の中心を前述してきた島成分の中心と見なせば良く、例えば、図6においては、島群19の外接円の中心O4を基準中心と見なし、基準中心O4に最も隣接する島群の外接円の中心O5との距離Rを半径とする仮想円周線内に、基準中心O4を有する島群とは異なる種類の島群の外接円の中心O6が中心角90°にて等分配置された複合繊維となる。なお、島群を形成する島成分の数としては、同一成分の島成分が増え過ぎるとそれらが凝集してしまうため、優れた開繊性を得るためには6個以下であることが好ましく、より好ましくは4個以下であることが好ましい。また、この島群の形成するための最終層分配板5の各成分吐出孔の配置については、隣接する複数個の同じ島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔を島成分吐出孔群とし、島成分吐出孔を島成分吐出孔群に置き換えて、(1)式の各条件を満足するように配置すれば良い。また、海成分吐出孔については、仮想円周線C3上に配置するのみならず、島成分吐出孔群内の島成分ポリマー同士の合流が発生しない範囲で適宜配置することが好ましい。
【0060】
また、以上の実施形態においては、島成分として異なる2種類の島成分ポリマーを吐出する場合について説明したが、異なる3種類の島成分を有する複合繊維を得ようとする場合は、上述した各実施形態の(1)式の条件イ〜ホにおいて、島成分吐出孔1と島成分吐出孔2の内、偶数個配置する方の半分の吐出孔を3番目の異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔に置き換えて、仮想円周線C1またはC2上に交互に並ぶように配置すれば良い。
【0061】
本発明の実施形態の最下層分配板5は、1つの島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔1と、この島成分吐出孔1に最も短い中心間距離で隣接する、異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔2との2本の共通外接線に囲まれる領域に、海成分吐出孔の少なくとも一部が存在するように各吐出孔が配置されていることが好ましい。具体的には、図14に示すように、ある島成分吐出孔1を基準とし、その基準の島成分吐出孔1に最も短い中心間距離で隣接する、異なる島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔2としたとき、基準の島成分吐出孔1と、別成分の島成分吐出孔2と、この2つの島成分吐出孔1、2の2本の共通外接線3とに囲まれた領域内に、海成分吐出孔4の少なくとも一部が存在するように海成分吐出孔4を配置する。このような構成とすることで、最もポリマー同士の合流が発生し易い、島成分吐出孔1と島成分吐出孔2との間におけるポリマー同士の合流を確実に防止することができる。
【0062】
また、本発明においては、最下層分配板5に形成されている島成分吐出孔1と島成分吐出孔2とを合わせた孔充填密度が0.5個/mm以上であることが好ましい。孔充填密度が0.5個/mm以上であれば、従来との複合口金技術との差がより明確となる。本発明者等が検討した範囲では、孔充填密度は0.5〜20個/mmの範囲であれば実施可能であった。この孔充填密度という観点では、本発明の複合口金の優位性が得られる範囲としては1.0〜20個/mmが好ましい範囲である。
【0063】
以上の実施形態において説明した複合口金18を用いることにより、2種類以上の異なる島成分が同一の繊維断面内に存在し、ある任意の島成分の中心O1を基準中心とし、最も隣接する島成分との中心O2間との距離Rを半径とする仮想円周線内に、基準中心O1とした前記島成分とは異なる種類の島成分の中心O3を2個、または3個、または4個、または6個のいずれかが配置された複合繊維を得ることができる。このように島成分が配置される複合繊維おいては、隣り合う島成分に必ず異なる種類の島成分が存在するため、海成分を溶出後に得られる繊維においては単糸同士が凝集することなく開繊性に優れた複合繊維を得ることができる。また、幾何学的に島成分が最密充填となる配置パターンを取るため、多島化に優れた複合繊維を得ることができる。
【0064】
また、本発明の複合口金18によって得られる複合繊維は、複合繊維の島成分の外径がナノオーダーになるほど、溶出処理後に得られる極細繊維の間でファンデルワールス力が働いて繊維同士が凝集する可能性が高くなる。そのため、複合繊維中のいずれの種類の島成分も外径が10〜1000nmであり、かつ外径バラツキが1〜20%の複合繊維を製造する場合に、本発明の複合口金18は特に有効である。
【0065】
また、本発明の複合口金18によって得られる複合繊維においては、異なる2種類以上の島成分として、一つの種類の島成分の帯電列と、この島成分とは異なる種類の島成分の帯電列との間に相対的に電位差があることが好ましい。ここで、帯電は表面現象であるため、試料差や表面粗さ、測定法や環境条件によって影響を受けるが、古くから報告されている再現性のよい帯電列が「繊維便覧:第二版」(繊維学会編、丸善株式会社)等に記載されている。これによると、2つの物質の組み合わせで、電子供与性の強い側鎖を持つ高分子が正極に帯電し、電子受容性の強い側鎖を持つ高分子が負極に帯電することが記載されている。従って、海成分ポリマーを溶出した後に得られる繊維においては、帯電列内でより離れている材質ほど帯電性が異なっているため、電気的反発により極細繊維同士が近接しても開繊させることができる。なお、帯電列において電位差がある島成分の組み合わせとしては、例えばポリエステルとナイロンの組み合わせが好ましく用いられるが、同程度に電位差がある島成分の組み合わせであればこれに限らない。ポリエステルとポリプロピレンのように電位差が小さい組み合わせよりも、前記の組み合わせの方が、電気的反発が大きく働くため、優れた開繊性を得ることができる。
【0066】
本発明の複合口金18によって得られる繊維は、単糸径が1000nm以下のナノファイバーであって、帯電列で電位差を有する単糸が2種類以上存在する繊維において、この繊維の横断面にある単糸30本の中で、2種類の単糸の割合が、20:80〜80:20の比率で混在していることが好ましい。このような繊維形態をとることで、繊維横断面において同じ成分の単糸同士が単糸群として偏ることがなく、異なる成分の単糸が均一に分散された状態となるため、ナノファイバー特有の効果が損なわれることなく開繊性に優れた繊維を得ることができる。なお、単糸が混在する割合を示す混在比率を測定する方法としては、例えば、2種類の異なる島成分からなる複合繊維を紡糸する前段階で、一方の島成分ポリマーを予め着色しておき、溶出処理後に得られる極細繊維を束ねて樹脂で固めた後に、この繊維の横断面を走査型電子顕微鏡等で観察し評価を行う。そこで、互いに隣り合う単糸30本を無作為に選択し、着色された単糸本数と着色されていない単糸本数を数え、それら単糸の割合を導き出せば良い。
【0067】
また、本発明の複合口金18によって得られる複合繊維の単糸断面は、丸形状はもとより、三角、扁平等の丸形以外の異形断面形状であっても良い。その場合、島成分の重心を島成分の中心と見なせば良い。また、本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、複合繊維の単糸繊度により特に限られるものではなく、複合繊維の単糸数により特に限られるものではなく、さらに、複合繊維の糸条数により特に限られるものでも無く、1糸条であってもよく、2糸条以上の多糸条であってもよい。
【0068】
また、本発明の複合口金18によって得られる島成分の断面は、図21(a)に示すように、三角等の多角形、またはY字、十字形状、または扁平等の丸形以外の異形断面であってもよい(図21では十字断面)。島成分を異形断面とすることで、隣接する島成分の間に空間が形成され、海成分を溶解した際に、嵩高性を有した極細繊維を製造することができる。また、得られた極細繊維を布帛にした場合には、保温性や、吸水、速乾性の機能を得ることが可能となる。その際の複合口金としては、図14に示した最下層分配板5の島成分吐出孔1(島成分吐出孔2)を、所望の断面となるように、予め、その相似形となる異形断面の形状とすれば良い(十字断面糸であれば、吐出孔を十字断面形状とする)。または、丸形状の島成分吐出孔1(島成分吐出孔2)を、複数個並べて配置し、島成分ポリマーを吐出後に合流させてもよい(十字断面糸であれば、丸形状の島成分吐出孔を十字に連続して配置させる)。ここで、丸形状の島成分吐出孔を、複数個並べて配置させることにより、得られる異形断面の角部をよりシャープに形成することが可能となる(曲率半径を小さくし易くなる)。但し、島成分吐出孔1、島成分吐出孔2が異形断面の形状の場合には、その直上に連通して丸形状の分配孔7を配置することで、直上の丸の分配孔7にてポリマーの計量性を確保した後、異形断面の島成分吐出孔1、2にてポリマーを吐出するのが好ましい。
【0069】
なお、図21(a)では、全ての種類の島成分が異形断面となっているが、少なくとも1種類の島成分が異形断面であってよい。ただし、全ての種類の島成分が異形断面である方が、上記した保温性、吸水性、速乾性の機能が高まるので好ましい。
【実施例】
【0070】
以下の実施例を挙げて、本実施形態の複合口金18の効果を具体的に説明する。
【0071】
(1)複合繊維の島成分の析出
複合繊維から島成分を析出するために、易溶出成分の海成分が溶出可能な溶液などに複合繊維を浸漬して除去し、難溶出成分の島成分のマルチフィラメントを得た。易溶出成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが共重合された共重合PETやポリ乳酸(PLA)等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いた。また、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めることができるため、また、流体染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をすることができる。
【0072】
(2)マルチフィラメントの繊維径および繊維バラツキ
得られた極細繊維からなるマルチフィラメントをエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)キーエンス製 VE−7800型走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率5000倍で撮影した。得られた写真から無作為に選定した150本の極細繊維を抽出し、写真について画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての繊維径を測定し、平均繊維径および繊維径標準偏差を求めた。また、極細繊維が異形断面の場合には、繊維断面形状の外側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径を繊維径(繊維径DB)として算出した。これらの結果から下記式を基づき繊維径CV%(変動係数:Coefficient of Variation)を算出した。以上の値は全て3ヶ所の各写真について測定を行い、3ヶ所の平均値とし、nm単位で小数点1桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入するものである。
・繊維径バラツキ(CV%)=(繊維径標準偏差/平均繊維径)×100。
【0073】
(3)ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製“キャピログラフ1B”によって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s−1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0074】
(4)極限粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0075】
2種類の島成分ポリマーによる開繊性の効果を確認するため、下記の評価を行った。
【0076】
(5)開繊性
2種類の島成分からなる極細繊維の開繊性の効果を確認するため、下記の評価を行った。複合繊維を用いて経密度100本/2.54cm、緯密度95本/2.54cmのゾッキ織物を作製し、95℃の温度で精練した。引き続き、前述した複合繊維の島成分の析出と同様の方法で海成分を溶解除去し、染色工程を経て最終セットを行った。この布帛の繊維表面をSEMにて観察し、3段階で定性評価し、繊維断面の電子染色後に(株)日立製作所製 H−7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて極細繊維部分の観察により総合評価した。○と△は合格で、×は不合格である。
○:凝集がなく、繊維の集合部分が10μm以下。
△:凝集がなく、繊維の集合部分が10μmより大きく40μm以下。
×:凝集があり、繊維の集合部分が40μmより大きい。
【0077】
(6)異形度
前述した繊維径および繊維バラツキと同様の方法で、マルチフィラメントの断面を撮影した。その画像から、切断面形状の外側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径を繊維径DBとし、さらに切断面形状の内側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径を繊維径DAとした。異形度=繊維径DB÷繊維径DAから、小数点3桁目まで求め、小数点3桁目以下を四捨五入したものを異形度として求めた。この異形度を同一画像内で無作為に抽出した150本の極細繊維について測定し、その平均値を算出した。
【0078】
[実施例1]
帯電列の電位差が大きく異なる2種類の島成分として、溶融粘度120Pa・sのポリエチレンテレフタレート(PET)と、溶融粘度145Pa・sのナイロン6(N6)を用い、海成分として、溶融粘度140Pa・sの5−ナトリウムスルホイソフタル酸5.0モル%共重合したPET(共重合PET)を用い、290℃で別々に溶融後、計量し、図8に示した本実施形態の複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、口金吐出孔から海島複合ポリマー流を吐出した。海島比率は、50/50とし、吐出された複合ポリマー流を冷却固化後油剤付与し、紡糸速度1500m/minで巻き取り、150dtex−15フィラメント(単孔吐出量2.25g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラ間で3.0倍延伸を行い、50dtex−15フィラメントの複合繊維とし、前述した方法により海成分を溶解させ、12000本のマルチフィラメントを採取した。
【0079】
ここで、実施例1に用いた複合口金には、分配孔が穿孔された分配板と、分配溝が穿孔された分配板を交互に積層し、その下流側において、図11に示すような(1)式の条件イの配置となる最下層分配板が積層されている。最下層分配板は、島成分吐出孔および海成分吐出孔の孔直径が0.15mm、仮想円周線C1の半径R1が0.647mm、仮想円周線C2の半径R2が1.120mm、仮想円周線C3の半径が0.373mmにて穿孔されており、孔充填密度を0.9(個/mm)とした。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は656nm、繊維径バラツキは5.3%、単糸30本あたりの混在比率は42/58となり、開繊性は「○」であった。
【0080】
[実施例2]
図13に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(1)式の条件ロに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用いて、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、13500本のマルチフィラメントを採取した。
【0081】
ここで、実施例2に用いた複合口金には、孔直径0.15mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.647mm、仮想円周線C2の半径R2が0.988mm、仮想円周線C3の半径R3が0.373mmにて穿孔されており、孔充填密度を1.0(個/mm)とした。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は591nm、繊維径バラツキは4.8%、単糸30本あたりの混在比率は48/52となり、開繊性は「○」であった。
【0082】
[実施例3]
図14に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(1)の条件ハに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用いて、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、14000本のマルチフィラメントを採取した。
【0083】
ここで、実施例3に用いた複合口金には、孔直径0.15mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.676mm、仮想円周線C2の半径R2が0.956mm、仮想円周線C3の半径R3が0.366mmにて穿孔されており、孔充填密度を1.1(個/mm)とした。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は537nm、繊維径バラツキは4.6%、単糸30本あたりの混在比率は48/52となり、開繊性は「○」であった。
【0084】
[実施例4]
図15に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(1)の条件ニに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、17500本のマルチフィラメントを採取した。
【0085】
ここで、実施例4に用いた複合口金には、孔直径0.15mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.647mm、仮想円周線C2の半径R2が1.120mm、仮想円周線C3の半径R3が0.373mmにて穿孔されており、孔充填密度を1.3(個/mm)とした。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は454nm、繊維径バラツキは5.9%、単糸30本あたりの混在比率は30/70となり、開繊性は「○」であった。
【0086】
[実施例5]
図16に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(1)の条件ニに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、12000本のマルチフィラメントを採取した。
【0087】
ここで、実施例4に用いた複合口金には、孔直径0.15mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.647mm、仮想円周線C2の半径R2が1.293mm、仮想円周線C3の半径R3が0.373mmにて穿孔されており、孔充填密度を0.9(個/mm)とした。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は656nm、繊維径バラツキは5.3%、単糸30本あたりの混在比率は24/76となり、開繊性は「○」であった。
【0088】
[実施例6]
実施例6では、異なる2種類の島成分ポリマーとして、溶融粘度:120Pa・sのPETと、溶融粘度:54Pa・sのポリプロピレン(PP)を使用し、それ以外は実施例3と同じ複合口金を用い、同等の海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して、14000本のマルチフィラメントを採取した。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は537nm、繊維径バラツキは4.6%、単糸30本あたりの混在比率は48/52であったが、電気的な反発力が余り生じず、他の実施例と比較すると、開繊性は「△」であった。
【0089】
[実施例7]
実施例7では、最下層分配板の島成分吐出孔の孔形状が、十字断面に変更した以外は、実施例3と同じ複合口金を用いて、実施例3と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、14000本のマルチフィラメントを採取した。
【0090】
ここで、実施例7で用いた複合口金は、島成分吐出孔が、外側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径0.15mm、内側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径0.08mmにて穿孔されている。表1に記載の通り、異形断面のマルチフィラメントの繊維径DBは536nm、繊維径DAは383nm(異形度1.4)、繊維径バラツキは5.2%、単糸30本あたりの混在比率は48/52となり、開繊性は「○」であった。
【0091】
[比較例1]
比較例1では、島成分ポリマーとして、溶融粘度120Pa・sのポリエチレンテレフタレート(PET)の1成分のみを使用し、それ以外は実施例3と同じ複合口金を用い、同等の海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して、14000本のマルチフィラメントを採取した。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は537nm、繊維径バラツキは4.6%であったが、単糸同士が凝集してしまい、開繊性は「×」であった。
【0092】
[比較例2]
比較例2では、図20に示すように、一見、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置は(1)式の条件ハと似ているが、異なる点としては、条件ハにおいて仮想円周線C2上の島成分吐出孔Xを配置せずに島成分吐出孔Yを配置し、これ以外は、実施例3と同じ複合口金を用い、同等の海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して、14000本のマルチフィラメントを採取した。表1に記載の通り、マルチフィラメントの繊維径は537nm、繊維径バラツキは4.6%であったが、この場合、単糸30本あたりの混在比率が17/83となり、同じ成分の単糸同士が凝集してしまい、開繊性は「×」であった。
【0093】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、一般的な溶液紡糸法に用いられる複合口金に限らず、メルトブロー法およびスパンボンド法に適用可能であるし、湿式紡糸法や、乾湿式紡糸法に用いられる口金にも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0095】
1:島成分吐出孔X
2:島成分吐出孔Y
3:共通外接線
4:海成分吐出孔
5:最下層分配板
6:分配板
7:分配孔
8:分配溝
9:計量板
10:吐出板
11:吐出導入孔
12:縮小孔
13:島成分A
14:島成分B
15:紡糸パック
16:スピンブロック
17:冷却装置
18:複合口金
19:島群A
20:島群B
21:パイプ
22:海成分ポリマー導入流路
23:島成分ポリマー導入流路
24:上口金板
25:中口金板
26:下口金板
27:供給孔
28:上端部
29:海成分ポリマー分配室
30:パイプ挿入孔
31:口金吐出孔
32:硬板に仕切られた空間
33:環状部
C1、C2,C3:仮想円周線
O1、O2、O3:島成分ポリマーの中心
O4、O5、O6:島群の外接円の中心
R、R1、R2、R3:仮想円周線の半径
DB:島成分の外側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径
DA:島成分の内側に向かって凸となっている全ての部分と接する円の直径
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15(a)】
図15(b)】
図16
図17
図18
図19
図20
図21(a)】
図21(b)】