(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206220
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】モノアルキル硫酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/24 20060101AFI20170925BHJP
C07C 305/06 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C07C303/24
C07C305/06
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-15960(P2014-15960)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140340(P2015-140340A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】敷田 庄司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 達雄
(72)【発明者】
【氏名】遠山 陽平
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特表平07−507284(JP,A)
【文献】
米国特許第05250718(US,A)
【文献】
特開平08−041009(JP,A)
【文献】
Journal of Organic Chemistry,2006年,volume 71, number 19,pp.7473-7476
【文献】
Journal of Organic Chemistry,2010年,volume 75, number 18,pp.6149-6153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 303/24
C07C 305/06
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるジアルキル硫酸と一般式(II)で表されるアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させることを特徴とするモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【化1】
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜18のハロアルキル基を示し、M
+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンを示し、X
−はその共役酸の水中における第一酸解離定数(pKa1)が10以下のアニオン種を示す。)
【請求項2】
前記一般式(II)において、X−が、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の脂肪族カルボン酸アニオン、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7〜18の芳香族カルボン酸アニオン、シュウ酸アニオン、ハロゲン原子のアニオン、及び炭酸アニオンから選ばれる一種であることを特徴とする請求項1に記載のモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(II)において、M+がリチウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載のモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、一般式(III)で表されるアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【化3】
(式中、Rは一般式(I)のRと同義である)
【請求項5】
モノアルキル硫酸塩の水分が300ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【請求項6】
モノアルキル硫酸塩中の硫酸イオン含量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
モノアルキル硫酸塩の製造方法において、ジアルキル硫酸とアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させることを特徴とするモノアルキル硫酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノアルキル硫酸塩は、洗浄剤、化粧品、又は医薬品分野で古くから広く使われている。また、最近ではモノアルキル硫酸塩を使用して、有機溶媒中でイオン液体を合成する研究も行われている(特許文献1、非特許文献1)。
モノアルキル硫酸塩の製造方法としては、アルコールと硫酸又はクロロスルホン酸等との反応によりモノアルキル硫酸を生成させ、アルカリ水溶液によりその塩として得る方法(非特許文献2、非特許文献3)、ジアルキル硫酸をアルカリ水溶液によって加水分解してモノアルキル硫酸塩とする方法が知られている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/024279号
【特許文献2】特開平8−041009号
【0004】
【非特許文献1】Green Chemistry, 2011, 13, 2901
【非特許文献2】The Journal of Physical Chemistry, 1982, 86, 2632
【非特許文献3】Canadian Journal of Chemistry, 1984, 62, 128
【0005】
一般にイオン液体中に、水分やハロゲン化合物、その他の不純物を多く含むと粘度が上昇したり、電位窓が著しく狭くなることが知られており、高純度なイオン液体を製造するためには原料となる塩が高純度であることが要求される。一方、上記特許文献1、2及び非特許文献1〜3に記載の製造方法では目的物であるモノアルキル硫酸塩の水分については何ら開示されていない。また、モノアルキル硫酸塩の副生成物である硫酸イオンの含有量についても満足できるレベルまで低減できてはいなかった。更にクロロスルホン酸を出発原料として用いた場合、複数の工程が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ジアルキル硫酸とアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させることで高純度なモノアルキル硫酸塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、モノアルキル硫酸塩の製造方法において鋭意検討した結果、ジアルキル硫酸とアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させることにより、高純度なモノアルキル硫酸塩を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記を提供するものである。
一般式(I)で表されるジアルキル硫酸と一般式(II)で表されるアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させることを特徴とするモノアルキル硫酸塩の製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜18のハロアルキル基を示し、M
+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンを示し、X
−はその共役酸の水中における第一酸解離定数(pKa1)が10以下のアニオン種を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高純度のモノアルキル硫酸塩を高収率で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、一般式(I)で表されるジアルキル硫酸と一般式(II)で表されるアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させ、モノアルキル硫酸塩を製造する方法に関する。
【0013】
【化3】
【0014】
【化4】
(式中、Rは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜18のハロアルキル基を示し、M
+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンを示し、X
−はその共役酸の水中における第一酸解離定数(pKa1)が10以下のアニオン種を示す。)
【0015】
一般式(I)で表されるジアルキル硫酸において、Rは炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数1〜18のハロアルキル基を示し、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のハロアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が更に好ましい。
【0016】
Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、もしくはオクタデシル基等の直鎖のアルキル基、iso−プロピル基,sec−ブチル基、tert−ブチル基、iso−アミル基、tert−アミル基、もしくは2−エチルヘキシル基等の分枝鎖のアルキル基、又はクロロメチル基、2−フルオロエチル基、もしくは2,2,2−トリフルオロエチル基等のハロゲン化アルキル基が好適に挙げられる。
中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、iso−プロピル基,sec−ブチル基、tert−ブチル基、iso−アミル基、tert−アミル基、2−エチルヘキシル基、クロロメチル基、2−フルオロエチル基、又は2,2,2−トリフルオロエチル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−プロピル基,sec−ブチル基、クロロメチル基、2−フルオロエチル基、又は2,2,2−トリフルオロエチル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−プロピル基、又はsec−ブチル基が更に好ましい。
【0017】
本発明で使用されるジアルキル硫酸としては、具体的に以下のものが挙げられる。
ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジ−n−プロピル硫酸、ジ−n−ブチル硫酸、ジ−n−ペンチル硫酸、ジ−n−ヘキシル硫酸、ジ−n−ヘプチル硫酸、ジ−n−オクチル硫酸、ジ−n−ノニル硫酸、ジ−n−デシル硫酸、ジウンデシル硫酸、ジドデシル硫酸、ジトリデシル硫酸、ジテトラデシル硫酸、ジペンタデシル硫酸、ジヘキサデシル硫酸、ジヘプタデシル硫酸、ジオクタデシル硫酸、ジ−iso−プロピル硫酸、ジ−sec−ブチル硫酸、ジ−tert−ブチル硫酸、ジ−iso−アミル硫酸、ジ−tert−アミル硫酸、ジ−2−エチルヘキシル硫酸、ビス(クロロメチル)硫酸、ビス(2−フルオロエチル)硫酸、又はビス(2,2,2−トリフルオロエチル)硫酸等が好適に挙げられる。
それらの中でも、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジ−n−プロピル硫酸、ジ−n−ブチル硫酸、ジ−n−ペンチル硫酸、ジ−n−ヘキシル硫酸、ジ−n−ヘプチル硫酸、ジ−n−オクチル硫酸、ジ−n−ノニル硫酸、ジ−n−デシル硫酸、ジウンデシル硫酸、ジドデシル硫酸、ジ−iso−プロピル硫酸,ジ−sec−ブチル硫酸、ジ−tert−ブチル硫酸、ジ−iso−アミル硫酸、ジ−tert−アミル硫酸、ジ−2−エチルヘキシル硫酸、ビス(クロロメチル)硫酸、ビス(2−フルオロエチル)硫酸、又はビス(2,2,2−トリフルオロエチル)硫酸が好ましく、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジ−n−プロピル硫酸、ジ−n−ブチル硫酸、ジ−iso−プロピル硫酸,ジ−sec−ブチル硫酸、ビス(クロロメチル)硫酸、ビス(2−フルオロエチル)硫酸、又はビス(2,2,2−トリフルオロエチル)硫酸がより好ましく、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジ−n−プロピル硫酸、ジ−n−ブチル硫酸、ジ−iso−プロピル硫酸、又はジ−sec−ブチル硫酸が更に好ましい。
【0018】
一般式(II)で表されるアルカリ金属塩において、M
+はリチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンを示し、これらの中でリチウムイオン又はナトリウムイオンが好ましく、リチウムイオンがより好ましい。
【0019】
前記アルカリ金属塩において、X
−はその共役酸の水中における第一酸解離定数(pKa1)が10以下のアニオン種を示し、pKa1が7以下のアニオン種がより好ましく、pKa1が5以下のアニオン種が更に好ましい。pKa1が10より大きいアニオン種の場合、X
−の塩基性が強くなるため、副反応が進行して硫酸イオンが生成しやすい。
X
−は、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の脂肪族カルボン酸アニオン、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7〜18の芳香族カルボン酸アニオン、シュウ酸アニオン、ハロゲン原子のアニオン、又は炭酸アニオンが好適に挙げられる。これらの中でも、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6の脂肪族カルボン酸アニオン、炭素数7〜12の芳香族カルボン酸アニオン、塩素アニオン、臭素アニオン、又は炭酸アニオンが好ましい。
【0020】
一般式(II)で表されるアルカリ金属塩の具体例としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、もしくは酢酸カリウム等の酢酸塩、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、もしくはギ酸カリウム等のギ酸塩、プロピオン酸リチウム、プロピオン酸ナトリウム、もしくはプロピオン酸カリウム等のプロピオン酸塩、トリフルオロ酢酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、もしくはトリフルオロ酢酸カリウム等のトリフルオロ酢酸塩、シュウ酸リチウムもしくはシュウ酸ナトリウム等のシュウ酸塩、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、もしくは安息香酸カリウム等の安息香酸塩、等のカルボン酸アルカリ金属塩、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、もしくはフッ化カリウム等のフッ化物、塩化リチウム、塩化ナトリウム、もしくは塩化カリウム等の塩化物、臭化リチウム、臭化ナトリウム、もしくは臭化カリウム等の臭化物、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、もしくはヨウ化カリウム等のヨウ化物等のハロゲン化アルカリ金属塩、又は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、もしくは炭酸カリウム等の炭酸塩、等の炭酸アルカリ金属塩等が好適に挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0021】
上記アルカリ金属塩の中でも酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、プロピオン酸リチウム、プロピオン酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、炭酸リチウム、又は炭酸ナトリウムが好ましく、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、プロピオン酸リチウム、トリフルオロ酢酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、炭酸リチウム、又はナトリウムがより好ましく、酢酸リチウム、ギ酸リチウム、プロピオン酸リチウム、塩化リチウム、又は炭酸リチウムが更に好ましい。
上記アルカリ金属塩の中でも、リチウム塩はナトリウム塩、カリウム塩と比べ反応性が低いため副反応による硫酸イオンの生成が少なく、また、有機溶媒への溶解度が高く除去しやすいためである。
【0022】
アルカリ金属塩の使用量としては、その下限はモル数の合計が一般式(I)で表されるジアルキル硫酸1モルに対して、0.5モル以上であることが好ましく、0.7モル以上であることがより好ましく、0.9モル以上であることが更に好ましい。0.5モルより少ないと反応が十分に進行せず、収率が低下するためである。上限としては2モル以下が好ましく、1.5モル以下がより好ましく、1.1モル以下であることが更に好ましい。アルカリ金属塩の使用量が2モルより多いと副反応が進行しやすく、収率が低下してしまい、不純物が増加してしまうためである。
【0023】
本発明で使用される有機溶媒としては、アルコール、ニトリル、ケトン、スルホン、アミド、エーテル、又はエステル等が好適に挙げられ、中でもアルコール、ケトン、又はエーテルが好ましく、アルコールがより好ましい。
【0024】
前記有機溶媒としては具体的に以下のものが好適に挙げられる。
メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、もしくはsec−ブタノール等のアルコール、アセトニトリルもしくはプロピオニトリル等のニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、もしくはメチルイソブチルケトン等のケトン、ジメチルスルホキシド等のスルホン、N,N−ジメチルホルムアミドもしくはN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド、ジエチルエーテルもしくはテトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、もしくは炭酸エチルメチル等のエステル、トルエンもしくはキシレン等の芳香族、又はジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、もしくはo−ジクロロベンゼン等のハロゲン系炭化水素が好適に挙げられるが、反応を阻害しない溶媒であれば、何らこれらに限定されるものではない。
【0025】
上記有機溶媒の中でも、メタノール、エタノール、n−プロパノール、もしくはn−ブタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、もしくはメチルイソブチルケトン等のケトン、又はジエチルエーテルもしくはテトラヒドロフラン等のエーテルが好ましく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、又はn−ブタノール等のアルコールがより好ましく、メタノール又はエタノールが更に好ましい。
【0026】
前記有機溶媒としてアルコールを使用する場合は、特に下記一般式(III)で表されるアルコールを使用すると、原料のジアルキル硫酸や目的のアルキル硫酸塩と使用するアルコールとのエステル交換反応が進行し、純度が低下するおそれがないため好ましい。
【0027】
【化5】
(式中、Rは一般式(I)のRと同義である。)
【0028】
有機溶媒の使用量の下限は、一般式(I)で表されるジアルキル硫酸1質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。有機溶媒の使用量の上限は、一般式(I)で表されるジアルキル硫酸1質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0029】
上記一般式(I)で表されるジアルキル硫酸と一般式(II)で表されるアルカリ金属塩との反応において、反応温度の上限としては、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。反応温度が80℃より高い場合、副反応が進行しやすくなるためである。下限としては、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が特に好ましい。反応温度が0℃より低い場合、反応速度が大幅に低下するためである。ただし、使用する有機溶媒の沸点が80℃以下の場合、その有機溶媒の沸点を反応温度の上限とし、使用する有機溶媒の融点が0℃以上の場合、その有機溶媒の融点を反応温度の下限とする。
【0030】
反応時間としては、上記の反応温度や、アルカリ金属塩及び溶媒の使用量により上下するが、下限は0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。0.5時間未満では反応が十分に進行しないからである。一方で、上限は24時間以下であることが好ましく、16時間以下であることがより好ましい。24時間を超えてしまうと、副生成物である硫酸イオンが増加しやすくなるためである。
【0031】
反応後の処理方法としては、反応溶媒と共にジアルキル硫酸を減圧留去するだけでも十分高純度なモノアルキル硫酸塩を得ることができるが、得られた結晶を溶媒中で洗浄し、モノアルキル硫酸塩の結晶を濾別する方法により、更に純度を高めることができる。
【0032】
上記処理に使用される溶媒としては、有機溶媒であれば何ら限定されない。具体的な溶媒としては、前記反応溶媒と同じものが好適に挙げられるが、アセトニトリル又はプロピオニトリル等のニトリル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、又はテトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル又は炭酸エチルメチル等のエステル、トルエン又はキシレン等の芳香族、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、又はo−ジクロロベンゼン等のハロゲン系炭化水素が好ましく、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、トルエン、又はキシレンがより好ましい。
【0033】
溶媒量としては、化合物及び溶媒種によって上下するが、下限はモノアルキル硫酸塩の結晶に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。上限は20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0034】
操作としては、モノアルキル硫酸塩の結晶と溶媒を反応容器中で撹拌させた後濾過する方法や、フィルター上のモノアルキル硫酸塩に溶媒を振り掛け洗浄する方法等が挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0035】
本発明において製造されるモノアルキル硫酸塩の水分値としては、300ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましい。また、含まれる硫酸イオン含量としては、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、200ppm以下が更に好ましい。
【実施例】
【0036】
モノアルキル硫酸塩の純度、硫酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、及び炭酸イオンの含有量はイオンクロマトグラフィーを用いて測定した。また、水分はカールフィッシャー水分計を用いて測定した。
【0037】
〔実施例1〕モノメチル硫酸リチウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にメタノール10.00gと塩化リチウム3.39g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で1時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジメチル17.00gを加え、反応液を22.62gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジメチル5.70gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノメチル硫酸リチウムの白色結晶5.48gを得た(収率58%)。得られたモノメチル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.73%、硫酸イオン:78ppm、塩化物イオン:15ppm、水分:25ppm
【0038】
〔実施例2〕モノメチル硫酸リチウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にメタノール10.00gと酢酸リチウム5.28g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で5時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジメチル17.00gを加え、反応液を23.55gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジメチル4.77gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノメチル硫酸リチウムの白色結晶5.66gを得た(収率60%)。得られたモノメチル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.80%、硫酸イオン:52ppm、酢酸イオン:112ppm、水分:18ppm
【0039】
〔実施例3〕モノメチル硫酸リチウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にメタノール10.00gと炭酸リチウム2.96g(40.0mmol)を加えた。これにジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を室温で10分かけて滴下し、その後、50℃で15時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジメチル17.00gを加え、反応液を21.90gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジメチル6.42gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノメチル硫酸リチウムの白色結晶5.19gを得た(収率55%)。得られたモノメチル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.65%、硫酸イオン:63ppm、炭酸イオン:232ppm、水分:89ppm
【0040】
〔実施例4〕モノエチル硫酸リチウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にエタノール12.00gと酢酸リチウム5.28g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジエチル硫酸12.33g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で10時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジエチル21.00gを加え、反応液を25.13gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジエチル6.55gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノエチル硫酸リチウムの白色結晶6.65gを得た(収率63%)。得られたモノエチル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.83%、硫酸イオン:69ppm、酢酸イオン:150ppm、水分:23ppm
【0041】
〔実施例5〕モノ−iso−プロピル硫酸リチウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にイソプロパノール15.00gと酢酸リチウム5.28g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジ−iso−プロピル硫酸14.58g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で10時間撹拌した。反応終了後、炭酸−iso−プロピル25.00gを加え、反応液を28.35gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジ−iso−プロピル6.72gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノ−iso−プロピル硫酸リチウムの白色結晶7.72gを得た(収率66%)。得られたモノ−iso−プロピル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.69%、硫酸イオン:91ppm、酢酸イオン:191ppm、水分:28ppm
【0042】
〔実施例6〕モノメチル硫酸ナトリウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にメタノール10.00gと酢酸ナトリウム6.56g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で5時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジメチル17.00gを加え、反応液を25.32gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジメチル6.87gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノメチル硫酸ナトリウムの白色結晶6.55gを得た(収率61%)。得られたモノメチル硫酸ナトリウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.53%、硫酸イオン:345ppm、酢酸イオン:273ppm、水分:33ppm
【0043】
〔実施例7〕モノエチル硫酸ナトリウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にエタノール12.00gと酢酸ナトリウム6.56g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジエチル硫酸12.33g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で10時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジエチル21.00gを加え、反応液を26.30gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジエチル9.25gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノエチル硫酸リチウムの白色結晶7.70gを得た(収率65%)。得られたモノエチル硫酸ナトリウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.59%、硫酸イオン:287ppm、酢酸イオン:357ppm、水分:27ppm
【0044】
〔実施例8〕モノメチル硫酸カリウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器にメタノール10.00gと酢酸カリウム7.85g(80.0mmol)を加え、5℃以下に冷却した。これにジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を内温20℃以下で10分かけて滴下し、その後、50℃で5時間撹拌した。反応終了後、炭酸ジメチル17.00gを加え、反応液を27.67gまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に炭酸ジメチル8.39gを添加し、室温で1時間撹拌した。結晶を濾別、50℃で減圧乾燥し、目的のモノメチル硫酸カリウムの白色結晶7.57gを得た(収率63%)。得られたモノメチル硫酸カリウムの分析結果を以下に示す。
純度:99.47%、硫酸イオン:408ppm、酢酸イオン:319ppm、水分:43ppm
【0045】
〔比較例1〕モノメチル硫酸リチウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器に水酸化リチウム一水和物3.29g(78.4mmol)に、水36g、ジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を加え、70℃で15分撹拌した。室温まで冷却し反応物に、ヘキサン20mLを添加、撹拌し、過剰のジメチル硫酸を除去する操作を3回繰り返した。その後、減圧乾燥し、モノメチル硫酸リチウム9.06gを得た(収率96%)。得られたモノメチル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度=98.60%、硫酸イオン:10900ppm、水分:2200ppm
〔比較例2〕モノメチル硫酸ナトリウムの製造
温度計、還流冷却器を備えた反応容器に水酸化ナトリウム3.14g(78.4mmol)に、水36g、ジメチル硫酸10.09g(80.0mmol)を加え、70℃で15分撹拌した。室温まで冷却し反応物に、ヘキサン20mLを添加、撹拌し、過剰のジメチル硫酸を除去する操作を3回繰り返した。その後、減圧乾燥し、モノメチル硫酸リチウム10.09gを得た(収率94%)。得られたモノメチル硫酸リチウムの分析結果を以下に示す。
純度=98.12%、硫酸イオン:15400ppm、水分:3100ppm
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ジアルキル硫酸とアルカリ金属塩を有機溶媒中で反応させることにより、高純度なモノアルキル硫酸塩を製造することができる。