特許第6206224号(P6206224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206224
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20170925BHJP
   C08L 67/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
   !C08L67/00
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-18307(P2014-18307)
(22)【出願日】2014年2月3日
(65)【公開番号】特開2015-145460(P2015-145460A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 有奈
(72)【発明者】
【氏名】能澤 晃太郎
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−041897(JP,A)
【文献】 特開2012−248709(JP,A)
【文献】 特開平09−007423(JP,A)
【文献】 特開2013−008883(JP,A)
【文献】 特開2012−244019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端カルボキシル基量が32当量/トン以上35当量/トン以下であり、かつ、
65〜130℃の温度(T)で、70〜100%の湿度(RH)で湿熱処理を実施したとき、下記式(1)で定義されるBが35.5以下であることを特徴とする二軸配向ポリステルフィルム。
B=0.887x−Ln(τ) …(1)
(上記式中のxは下記式(2)より算出される)
x=(15900/(273.15+T))+113/RH …(2)
(上記式中、τは、引張破断強度保持率が50%となる湿熱時間(hr)であり、Ln(τ)は、τの自然対数を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解を加速させる湿熱処理に対し、引張強度半減期が特定の範囲にあり、高い耐湿熱性を有する二軸配向ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有しており、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネートフィルム、ガラスディスプレイ等のガラス表面に貼るフィルム、液晶ディスプレイ用フィルム、太陽電池裏面保護フィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
これらの用途のうち、特に屋外で用いられる電気絶縁材料、自動車用材料、建築材料などでは、長期間過酷な環境下で使用されることが多く、ポリエステル樹脂は加水分解により分子量が低下し、また脆化が進行し、機械物性等が低下するため、長期間過酷な環境下で使用される場合、あるいは湿度の高い状態で使用される用途では高い湿熱性が求められる。例えば、電気絶縁材料のなかで太陽電池裏面封止用フィルム用途では、太陽電池の耐用年数を向上させるため、耐湿熱性が求められ、ポリエステル樹脂の加水分解を抑制すべく様々な検討が行われてきている。
【0004】
この背景としては、近年、太陽電池の出力保証期間20年や25年を設ける家電メーカーが増加しており、これは数年〜十数年の使用で出力が徐々に低下する現象のためである。そのため、製品そのものだけでなく各種部材も長期的な信頼性が求められている。
【0005】
しかしながら、実際の屋外暴露試験で現象を調査すると長期になるため、短期間で数年〜十数年後の太陽電池の状態を知る手段が必要である。そこで、太陽電池裏面封止用フィルム用途のような特に屋外に設置する用途について、湿熱処理による加速試験を行うことで、実使用の耐用年数や欠陥を予測する試みがなされている。湿熱処理試験は最終的な太陽電池の設置条件や電気メーカーの要求によって様々であるが、85℃85%湿度下で湿熱処理を行うDump Heat試験、120℃100%湿度下で湿熱処理を行うHAST試験が、多く採用されている。
【0006】
ポリエステルの加水分解は、ポリエステル分子鎖の末端カルボキシル基量が高いほど分解が速いことが知られている。よって、特許文献1には、カルボン酸と反応する化合物を添加することで、分子鎖末端のカルボキシル基量を低減させることによる耐加水分解性を向上させる技術が開示されている。しかし、初期のポリエステル樹脂の物性を示したのみで、加水分解を加速させる湿熱処理を、特定の時間実施した後の機械物性や耐用年数について十分に検討されていない。また、特許文献2には、表面の粗大突起物を減らすことで、キズや凹みを防止し、長期の防湿性維持を達成する技術が開示されている。しかし、加水分解を加速させる湿熱処理については、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−227767号公報
【特許文献2】特開2011−238912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、加水分解を加速させる湿熱処理に対し、引張強度半減期が特定の範囲にあり、高い耐湿熱性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実状に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成からなるポリエステルフィルムを用いることにより、上述の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、末端カルボキシル基量が32当量/トン以上35当量/トン以下であり、かつ、65〜130℃の温度(T)で、70〜100%の湿度(RH)で湿熱処理を実施したとき、下記式(1)で定義されるBが35.5以下であることを特徴とする二軸配向ポリステルフィルムに存する。
B=0.887x−Ln(τ) …(1)
(上記式中のxは下記式(2)より算出される)
x=(15900/(273.15+T))+113/RH …(2)
(上記式中、τは、引張破断強度保持率が50%となる湿熱時間(hr)であり、Ln(τ)は、τの自然対数を示す)

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加水分解を加速させる湿熱処理に対し、引張強度半減期が特定の範囲にあり、高い耐湿熱性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフィルムの基材として使用するポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られる芳香族ポリエステルを指す。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのポリエステルの中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、コストと性能のバランスに優れており、本発明においては、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを好ましく用いることができる。
【0013】
本発明の基材となるポリエステルフィルムのポリエステル原料は、通常ポリエステルの重合でよく用いられるアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウムなどの金属化合物重合触媒を用いることができる。ただし、これらの触媒量が多いと、フィルム化のためのポリエステルを溶融させた際に、分解反応起きやすくなり、分子量の低下などにより末端カルボキシル基濃度が高くなり、耐加水分解性が劣るようになる傾向がある。一方で重合触媒量が少な過ぎる場合には、重合反応速度が低下するので、重合時間が長くなって末端カルボキシル基濃度が高くなり、結果的に耐加水分解性を悪化させることがある。このため、本発明においては、アンチモンであれば通常50〜400ppm、好ましくは100〜350ppm、チタンであれば通常1〜20ppm、好ましくは2〜15ppm、ゲルマニウムであれば通常3〜50ppm、好ましくは5〜40ppm、アルミニウムであれば通常1〜20ppm、好ましくは2〜15ppmの範囲とするのがよい。またこれらの重合触媒は、2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。なお、本発明のポリエステルフィルム中の化合物の量は、蛍光X線分析装置を用いた分析にて検出が可能である。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムで用いるポリエステル原料の触媒はチタンであることが、重合活性の観点から好ましい。また、チタン元素含有量は10ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは9ppm以下、特に好ましくは8ppm以下である。下限については特に設けないが、実際には2ppm程度が現在の技術では下限となる。チタン化合物の含有量が多すぎると、チタン原子の活性化が高いため、ポリエステルを溶融押出する工程でオリゴマーが副生成しやすく、その結果裏面保護材とした際の他部材との接着性に劣る傾向がある。また、チタン元素を全く含まない場合、ポリエステル原料製造時の生産性が劣り、目的の重合度に達したポリエステル原料を得られないことがある。
【0015】
本発明の基材となるポリエステルフィルムは、フィルム全体を測定したときに、後述する蛍光X線分析装置を用いた分析にて検出されるリン元素量が、0〜170ppmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0〜50ppmの範囲であり、0ppmであってもよい。当該リン元素は、通常はリン酸化合物に由来するものであって、ポリエステル製造時に触媒成分として添加される。本発明においては、リン元素量が上記範囲を満足することにより、耐加水分解性をフィルムに付与することができる。リン元素量が多すぎると、リン酸化合物が原因となる加水分解を促進することになる。ポリエステルフィルムの耐加水分解性は、フィルム全体に関連する特性であり、本願発明においては含有するリンの含有量は、当該フィルムを構成するポリエステル全体として含有量が前述の範囲であることが好ましい。
【0016】
リン酸化合物の例としては、リン酸、亜リン酸あるいはそれらのエステル、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、亜ホスホン酸化合物、亜ホスフィン酸化合物など公知のものが該当し、具体例としては、正リン酸、モノメチルフォスフェート、ジメチルフォスフェート、トリメチルフォスフェート、モノエチルフォスフェート、ジエチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、エチルアシッドホスフェート、モノプロピルフォスフェート、ジプロピルフォスフェート、トリプロピルフォスフェート、モノブチルフォスフェート、ジブチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、モノアミルフォスフェート、ジアミルフォスフェート、トリアミルフォスフェート、モノヘキシルフォスフェート、ジヘキシルフォスフェート、トリヘキシルフォスフェートなどが挙げられる。
【0017】
本発明のポリエステルフィルム中には、易滑性付与を主たる目的として粒子を配合してもよい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化珪素、カオリン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の粒子が挙げられる。また、特公昭59―5216号公報、特開昭59―217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0018】
ポリエステルフィルム中に上記の易滑性付与粒子等を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、原料となるポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後に添加し、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き二軸押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とを混錬する方法、または乾燥させた粒子とポリエステル原料とを混錬する方法などによって行われる。特に着色顔料や白色顔料の場合には、高濃度のマスターバッチとしてポリエステル原料に添加しておき、フィルムの製膜時にこれを希釈する形で使用することが、フィルムを構成するポリエステルの末端カルボキシル基量を低くする点で好ましい。
【0019】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0020】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01μm〜10μmが好ましい。平均粒径が0.01μm未満の場合には、フィルムに易滑性を与える効果が不足することがある。一方、10μmを超える場合には、フィルム生産時に破断が頻発して生産性が低下する場合がある。
【0021】
なお、本発明のポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、染料を添加することができる。また、耐候性を向上する目的で、ポリエステル成分に対して0.01重量部〜5.0重量部の範囲で紫外線吸収剤、特にベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤等を含有させることができる。
【0022】
なお、本発明のポリエステルフィルム中には、上述の易滑性付与粒子等の他に、必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等を添加することができる。また、耐光性を向上する目的で、ポリエステルに対して0.01〜5重量部の範囲で紫外線吸収剤を含有させることができる。この紫外線吸収剤には、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾオキサジノン系などを挙げることができるが、これらの中でも、特にトリアジン系紫外線吸収剤等が好ましく用いられる。また、これらの紫外線吸収剤は、後述するようにフィルム自体が3層以上の積層構造である場合には、その中間層に添加する方法も好ましく用いることができる。もちろん、これらの紫外線吸収剤や添加剤は、高濃度マスターバッチとして作成し、これを製膜時に希釈使用することができる。
【0023】
本発明においては、ポリエステルの溶融押出機を2台または3台以上用いて、いわゆる共押出法により2層または3層以上の積層フィルムとすることができる。層の構成としては、A原料とB原料とを用いたA/B構成、またはA/B/A構成、さらにC原料を用いてA/B/C構成またはそれ以上に層の数を増やした構成のフィルムとすることができる。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムは、後述する測定方法によってフィルム全体(塗布層があれば塗布層を除いた部分)の末端カルボキシル基量を測定したときに、35当量/トン以下であることが好ましく、さらに好ましくは26当量/トン以下、最も好ましくは23当量/トン以下である。末端カルボキシル基量が35当量/トンを超えると、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が劣る傾向となる。ポリエステルフィルムの耐加水分解性は、フィルム全体に関連する特性であり、本願発明においては、当該フィルムを構成するポリエステル全体として末端カルボキシル基量が前述した範囲であることが必要である。一方、本願発明の耐加水分解性を鑑みると、ポリエステルの末端カルボキシル基量の下限はないが、重縮合反応の効率、溶融押出工程での加水分解や熱分解等の点から通常は5当量/トン程度である。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムは、後述する測定方法によってフィルム全体(塗布層を除いた部分)の極限粘度:IVを測定したときは、0.62dl/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.65dl/g以上で、最も好ましくは0.67dl/gある。ポリエステルフィルムの極限粘度を0.62dl/g以上とすると、長期耐久性や耐加水分解性が良好なポリエステルフィルムが得られる。一方、ポリエステルフィルムの極限粘度の上限は好ましくは0.73dl/g以下で、さらに好ましくは0.71dl/g以下、最も好ましくは0.68dl/g以下である。ポリエステルフィルムの極限粘度を0.73dl/g以下とすることで、ポリエステルフィルムの生産時において押出機の負荷を低減させることとなり、吐出量が向上し、また生産性の良好なポリエステルフィルムを提供することができる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、後述する測定方法によってフィルム全体(塗布層を除いた部分)の湿熱処理後の引張強度保持率が50%となる湿熱処理時間(hr)、すなわち、引張強度半減期より求まるBが35.5以下であることが必要であり、好ましくは30.0〜34.5、さらに好ましくは30.0〜33.0の範囲である。Bが35.5より大きい値になるときは、τが低く、耐湿熱性の観点から好ましくない。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、後述する測定方法によって湿熱処置を実施するが、処理条件の温度湿度範囲は、温度(T)として65〜130℃であり、湿度(RH)としては70〜100%であることが必要であり、好ましくは、温度Tを65〜100℃とし、湿度(RH)を70〜100%とし、さらに好ましくは、温度Tを65〜100℃とし、湿度(RH)を70〜98%とする。温度が65℃未満や湿度70%未満では、加水分解が加速されにくく、耐湿熱性が評価できない。温度が130℃より高い場合は、一般的な湿熱処理装置の限界温度に近く、試験実施の安全上好ましくない。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10μm〜500μm、好ましくは15μm〜400μm、さらに好ましくは20μm〜300μmの範囲である。
【0029】
本発明においては、ポリエステルの溶融押出機を2台または3台以上用いて、いわゆる共押出法により2層または3層以上の積層フィルムとすることができる。層の構成としては、A原料とB原料とを用いたA/B構成、またはA/B/A構成、さらにC原料を用いてA/B/C構成またはそれ以外の構成のフィルムとすることができる。
【0030】
本発明において得られたポリエステルフィルムは、150℃×30分の長手方向の収縮率が2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以上1.8%以下、さらに好ましくは0.5%以上1.5%以下である。ポリエステルフィルムの収縮率が2.0%以下であると、ポリエステルフィルムの収縮によるカールの低減や、熱処理によって当該ポリエステルフィルムを含む部材の貼り合わせがある場合、位置ずれの防止に寄与する。
【0031】
通常ポリエステルフィルムは、口金から溶融押出しされ急冷固化された非晶質ポリエステルシートを延伸して得られる。そして、ポリエステルフィルムの製造時において、ポリエステルシートの端部は、押出しの際、ネックイン現象により厚くなり、クリップの噛み代として使用される。製品化するときに、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離される。また、耳部を取り除かれたマスターロールも、製品サイズにスリット時に、余剰のスリット耳が切断分離される。
【0032】
本発明での回収ポリエステルとは、上述のような切断分離された耳部フィルムやスリット耳を粉砕機にて粉砕化したフレーク化物、フレーク化物を乾燥して単軸押出機で溶融押出されたペレット化物、未乾燥のフレーク化物をベント付ニ軸押出機で溶融押出されたペレット化物等のことを示す。
【0033】
本発明のポリエステルフィルム中の回収ポリエステルの含有量は、生産性やコストの観点から、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは25重量%以上、最も好ましくは30重量%以上である。本発明のポリエステルフィルム中の回収ポリエステルの含有量の上限は特に設けないが、耐加水分解性の観点から80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下、最も好ましくは50重量%以下である。
【0034】
また、耐加水分解性を維持する観点から、溶融押出されたペレット化物より、切断分離された耳部フィルムやスリット耳を粉砕機にて粉砕化したフレーク化物を回収ポリエステルとして優先的に使用した方が好ましい。
【0035】
本発明において、ポリエステルフィルムの末端カルボキシル基量と極限粘度を特定範囲とするため、フィルム製造での、ポリエステル原料を溶融押出する工程において、a)ポリエステルチップに含まれる水分によって加水分解を受けることを極力避けること、b)押出機およびメルトライン内でのポリエステルの滞留時間をできるだけ短くすること、などによって行われる。a)の具体的な例としては、一軸押出機を使用する場合は、原料をあらかじめ水分量が50ppm以下、好ましくは30ppm以下になるように十分乾燥すること、二軸押出機を使用する場合は、ベント口を設け、40ヘクトパスカル以下、好ましくは30ヘクトパスカル以下、さらに好ましくは20ヘクトパスカル以下の減圧を維持すること等の方法を採用することができる。b)の具体的な例としては、押出機への原料投入から溶融シートが口金から吐出し始めるまでの滞留時間として、20分以下、さらには15分以下とすることが好ましい。
【0036】
上述のような切断分離された耳部フィルムやスリット耳を粉砕機にて粉砕化したフレーク化物、未乾燥の状態で押出機に直接供給できる点で、ベント付きニ軸押出機をポリエステルフィルム製膜時に使用するほうが好ましい。
【0037】
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
【0038】
すなわち、公知の手法により乾燥したまたは未乾燥のポリエステルチップ(ポリエステル成分)を混練押出機に供給し、ポリエステル成分の融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリエステルをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。溶融押出工程においても、条件により末端カルボキシル基量が増加するので、本願発明においては、押出工程における押出機内でのポリエステルの滞留時間を短くすること、一軸押出機を使用する場合は原料をあらかじめ水分量が50ppm以下、好ましくは30ppm以下になるように十分乾燥すること、二軸押出機を使用する場合はベント口を設け、40ヘクトパスカル以下、好ましくは30ヘクトパスカル以下、さらに好ましくは20ヘクトパスカル以下の減圧を維持すること等の方法を採用する。
【0039】
本発明においては、このようにして得られたシートを2軸方向に延伸してフィルム化する。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70℃〜145℃で2〜6倍に延伸し、縦1軸延伸フィルムとした後、横方向に90℃〜160℃で2〜6倍延伸を行い、熱固定工程に移る。
【0040】
熱固定は160℃〜240℃で1秒〜600秒間の熱処理を行うことが好ましく、さらに好ましくは、170℃〜230℃である。熱固定温度が160℃未満であると、長手方向の収縮率が高すぎて、アニール処理条件が過酷となり、その結果得られたフィルムの歪みも大きくなり実用に供することができない。一方熱固定温度を240℃以上とすると、耐加水分解性の良好なポリエステルフィルムを得ることができない。
【0041】
ポリエステルフィルムの耐加水分解性は、フィルム全体に関連する特性であり、本願発明においては、共押出による積層構造を有するフィルムの場合、当該フィルムを構成するポリエステル成分全体として、リンの含有量、末端カルボキシル基量、極限粘度が上記の範囲であることが好ましく、Bは上記の範囲であることが必要である。
【0042】
本発明において、ポリエステルの加水分解は、ポリエステル分子鎖の末端カルボキシル基量が高いほど分解が速いことが知られているため、例えば、ポリエステルチップの押出工程における押出機内でのポリエステル成分の滞留時間を短くすることなどによってポリエステルフィルムは得られる。また、低末端カルボキシル基量のポリエステルチップを製膜することで、末端カルボキシル基量が特定範囲のポリエステルフィルムを得てもよい。
【0043】
本発明においては、前記延伸工程においてまたはその後に、フィルムに接着性、帯電防止性、滑り性、離型性等を付与するために、フィルムの片面または両面に塗布層を形成したり、コロナ処理等の放電処理を施したりすることなどもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、この実施例に限定されるものではない。なお、フィルムの諸物性の測定および評価方法を以下に示す。
【0045】
(1)触媒由来元素の定量
蛍光X線分析装置(島津製作所社製型式「XRF−1500」)を用いて、下記表1に示す条件下で、単枚測定でフィルム中の元素量を求めた。積層フィルムの場合はフィルムを溶融してディスク状に成型して測定することにより、フィルム全体に対する含有量を測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
(2)末端カルボキシル基量(eq/t)
いわゆる滴定法によって、末端カルボキシル基量の量を測定した。すなわちポリエステルフィルムをベンジルアルコールに溶解し、フェノールレッド指示薬を加え、水酸化ナトリウムの水/メタノール/ベンジルアルコール溶液で滴定することで、末端カルボキシル基量(eq/t)を求めた。
【0048】
(3)極限粘度dl/g
ポリエステルフィルムをフェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒中に溶解し、毛細管粘度計を用いて、1.0(g/dl)の濃度の溶液の流下時間、および、溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用いて、極限粘度を算出した。その際、Huggins定数を0.33と仮定した。
【0049】
(4)融点(Tm)
パ−キンエルマ社製DSC7型で10℃/min.の昇温速度で得られた結晶融解による吸熱ピ−ク温度を融点とした。
【0050】
(5)収縮率
無張力状態で150℃雰囲気中30分間、熱処理しその前後のサンプルの長さを測定することにより次式にて計算した。
加熱収縮率(%)=(L1−L0)/L0×100
(上記式中、L1は熱処理前のサンプル長(mm)であり、L0は熱処理後のサンプル長(mm)である)
【0051】
(6)フィルム強度保持率
目的の温度湿度でフィルムを湿熱処理した後、23℃×50%RHで24時間調温・調湿した後、フィルムの機械的特性として、製膜方向(MD)の破断強度を測定した。測定には株式会社島津製作所製 万能試験機AUTOGRAPHを使用し、幅15mmのサンプルで、チャック間50mmとして、引張り速度200mm/分の条件で行った。処理前後での破断強度の保持率(%)を下記の式(3)にて算出し、下記の基準で判断した。
破断強度保持率=処理後の破断強度÷処理前の破断強度×100 …(3)
【0052】
(7)湿熱処理装置
湿熱処理は下記載のA〜Cの装置の中から、温度湿度条件に応じて適切な装置を選択して実施した。
A:平山製作所製PC−242HS−E
B:平山製作所製PC−422R8
C:日立アプライアンス社製恒温恒湿槽EC−25HHP
【0053】
(8)Bの算出
湿熱処理時の温度をT、湿度をRHとしたとき、下記式でxが求められる。
x=(15900/(273.15+T))+113/RH
さらに、(7)で求められる、破断強度保持率が50%となる湿熱時間を引張強度半減期τ(hr)と定義する。Ln(τ)は、τの自然対数を示し、このLn(τ)と上で求めたxを下記式に代入することでBを求めることができる。
B=0.887x−Ln(τ)
【0054】
(9)屋外暴露試験
JIS7219−1986の設置方法に準拠した方法で沖縄県宮古島にて屋外暴露試験を実施した。太陽光と照り返しによる光劣化の影響を防ぐため、ポリエステルフィルムの表裏を適切な保護材で光を遮断し試験を行い目視にてクラックの有無を確認した。評価結果を下記とする。
×:屋外暴露5年後クラックがある
△:屋外暴露8年後クラックがある
○:屋外暴露10年後クラックがある
◎:屋外暴露10年後クラックがない
【0055】
次に以下の例で使用したポリエステル原料について説明する。ポリエステルフィルムを構成するポリエステル原料例は以下のとおりである。
<ポリエステル原料(1)の製造法>
スラリー調製槽、およびそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、および2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールをそれぞれ毎時865重量部、485重量部で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートの0.3重量%エチレングリコール溶液を、得られるポリエステル樹脂1t当たりの燐原子としての含有量が0.129モル/樹脂tとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製した。このスラリーを、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力50kPa(0.5kg/cm2)、平均滞留時間4時間に設定された第1段目のエステル化反応槽、次いで、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力5kPa(0.05kg/cm2)、平均滞留時間1.5時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、エステル化反応させた。また、その際、第2段目のエステル化反応槽に設けた上部配管を通じて、酢酸マグネシウム4水和物の0.6 重量% エチレングリコール溶液を、得られるポリエステル樹脂1t当たりのマグネシウム原子としての含有量が0.165モル/樹脂tとなる量で連続的に添加すると共に、第2段目のエステル化反応槽に設けた別の上部配管を通じてエチレングリコールを毎時60重量部連続的に追加添加した。
【0056】
引き続いて、前記で得られたエステル化反応生成物を連続的に溶融重縮合槽に移送する際、その移送配管中のエステル化反応生成物に、テトラ−n−ブチルチタネートを、チタン原子の濃度0.15重量%、水分濃度を0.5重量%としたエチレングリコール溶液として、得られるポリエステル樹脂1t当たりのチタン原子としての含有量が0.084モル/樹脂tとなる量で連続的に添加しつつ、270℃、絶対圧力2.6kPaに設定された第1段目の溶融重縮合槽、次いで、278℃、絶対圧力0.5kPaに設定された第2段目の溶融重縮合槽、次いで、280℃、絶対圧力0.3kPaに設定された第3段目の溶融重縮合槽に連続的に移送して、得られるポリエステル樹脂の極限粘度が0.65dl/gとなるように各重縮合槽における滞留時間を調整して溶融重縮合させ、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口から連続的にストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してチップ状粒状体としたポリエステル原料(1)を製造した。末端カルボキシル基量は14当量/tであった。
【0057】
<ポリエステル原料(2)の製造法>
ポリエステル原料(1)を出発原料とし、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下215℃で、得られるポリエステル樹脂の極限粘度が0.82dl/gとなるように滞留時間を調整して固相重縮合させ、ポリエステル原料(2)を得た。末端カルボキシル基量は7当量/tであった。
【0058】
<ポリエステル原料(3)の製造法>
攪拌機付き2リッターステンレス製オートクレーブに高純度テレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、常法に従ってエステル化反応を行い、オリゴマー混合物を得た。
このオリゴマー混合物に重縮合触媒として、(1)塩基性酢酸アルミニウムを20g/lのアルミニウム化合物含有量となるように調整したエチレングリコール溶液と、(2)4Lのエチレングリコールに3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルを200g加えて185℃にて60分間還流下で攪拌後に冷却して得られたリン化合物のエチレングリコール溶液の混合物とを、アルミニウム元素の残存量が20ppm、リン元素の残存量が80ppmとなるように添加した。
次いで、窒素雰囲気下、常圧にて250℃で10分間攪拌した。その後、60分間かけて280℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに280℃、13.3Pa下でポリエステルの極限粘度が0.55dl/gになるまで重縮合反応を行った。反応槽から取り出した溶融重縮合反応生成物は、ダイからストランド状に押出して冷却固化し、カッターで切断して1個の重さが平均粒重24mgのポリエステル樹脂チップ:ポリエステルチップ化した。ポリエステルチップの極限粘度は0.56dl/g、末端カルボキシル基量は13当量/tであった。上記の溶融重合によって得たポリエステルチップを0.5mmHgの減圧下、220℃で固相重合を行い、極限粘度が0.78dl/g、末端カルボキシル基量が7当量/tのポリエステル(3)を得た。
【0059】
<ポリエステル原料(4)の製造法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを得られるポリエステル樹脂1t当たりのチタン原子としての含有量が5g/樹脂tとなる量で加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、平均粒子径2 .5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、粒子のポリエステルに対する含有量が3.0重量%となるように添加し、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.60に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステル原料(4)を得た。極限粘度は0.64dl/g、末端カルボキシル基量は21当量/tであった。
【0060】
<ポリエステル原料(5)の製造法>
ポリエステル原料(4)製造方法において、の平均粒子径2.5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーの代わりに、平均粒子径0.8μmの合成炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリーを粒子のポリエステルに対する含有量が1重量%となるように添加した以外は、ポリエステル原料(4)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル原料(5)を得た。極限粘度は0.62dl/g、末端カルボキシル基量は23当量/tであった。
【0061】
<ポリエステル原料(6)の製造法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム四水塩を0.02部加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃ とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドホスフェート0.03部を添加した後、重縮合槽に移し、三酸化アンチモンを0.04部加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルのチップを得た。この、ポリエステルの極限粘度は0.63dl/g、ポリマーの末端カルボキシル基量は45当量/tであった。上記ポリエステルチップを出発原料とし、真空下220℃にて固相重合を行って、ポリエステル原料(6)を得た。ポリエステル原料(6)の極限粘度は0.85dl/g、ポリマーの末端カルボキシル基量は32当量/tであった。
【0062】
<ポリエステル原料(7)の製造法>
ポリエステル(1)の製造において、エステル交換反応後に正リン酸0.12部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部、エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.6μmのシリカ粒子0.08重量部を加えた以外は同様の方法で、ポリエステル原料(7)を得た。得られたポリエステル原料(7)の極限粘度は0.63、ポリマーの末端カルボキシル基量は14当量/トンであった。
【0063】
<ポリエステル原料(8)の製造法>
ポリエステル原料(2)の製造において、出発原料をポリエステル原料(7)とすること以外は、同様の方法で、ポリエステル原料(8)を得た。得られたポリエステル原料(8)の極限粘度は0.80、ポリマーの末端カルボキシル基量は9当量/トンであった。
【0064】
<回収ポリエステル(1)の製造法>
表層の原料としてポリエステル原料(1)70重量%と、ポリエステル原料(5)30重量%を混合し、中間層の原料として、ポリエステル原料(1)84重量%とポリエステル原料(5)16重量%を混合し、2台のベント付きニ軸押出機に各々供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、100℃にて縦方向に2.8倍延伸した後、テンター内で予熱工程を経て120℃で5.1倍の横延伸を施した後、220℃で10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に4%の弛緩を加え、全厚みが38μm(層構成:表層4μm/中間層30μm/表層4μm)の幅2000mmのポリエステルフィルムのマスターロールを得た。
【0065】
本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行った。
【0066】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルムを得た。本スリット時に、生成された余剰のスリット耳として切断分離を行った。
【0067】
切断分離された耳部フィルムおよびスリット耳を粉砕機にて粉砕化した。得られた粉砕化物を乾燥後単軸押出機に供給し、290℃環境下で溶融押出後、ペレット化したポリエステルを、回収ポリエステル(1)とする。回収ポリエステル(1)の極限粘度は0.55dl/g、末端カルボキシル基量は43当量/tであった。
【0068】
参考例1:
上記ポリエステル原料(2)およびポリエステル原料(4)を96.0:4.0の比率で混合したポリエステルを原料とし、口径90mmのベント付き二軸押出機により、吐出量;300kg/hr、シリンダー温度;290℃で溶融押出し、口金から流出した非晶質のポリエステルシートを、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、クリップで掴まれた縦延伸シートを横方向に120℃で3.8倍延伸し、200℃で熱固定処理を行った後、弛緩し、厚さ125μm、幅2000mmのポリエステルフィルム(A1)のマスターロールを得た。

【0069】
なお、本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行った。
【0070】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルム(A1)を得た。本スリット時に、生成された余剰分についてはスリット耳として切断分離を行った。得られたポリエステルフィルムは85℃85%条件で湿熱処理し、その評価結果を下記表2に示す。
【0071】
切断分離された耳部フィルムおよびスリット耳を粉砕機にて粉砕化した。得られた粉砕化物を、回収ポリエステル(2)とする。回収ポリエステル(2)のIVは0.73dl/g、AVは13当量/tであった。
【0072】
参考例2:
上記ポリエステル原料(2)、ポリエステル原料(4)、および回収ポリエステル(2)を未乾燥の状態にて、76.8:3.2:20.0の比率で混合したポリエステルを原料とし、口径90mmのベント付き二軸押出機により、吐出量;450kg/hr、シリンダー温度;290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、横方向に120℃で3.8倍延伸し、200℃で熱固定処理を行った後、弛緩し、厚さ125μm、幅2000mmのポリエステルフィルム(A2)のマスターロールを得た。

【0073】
なお、本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行った。粉砕機にて粉砕化して、回収ポリエステル用に貯めた。
【0074】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルム(A2)を得た。本スリット時に、生成された余剰分についてはスリット耳として切断分離を行った。粉砕機にて粉砕化して、回収ポリエステル用に貯めた。得られたポリエステルフィルムは85℃85%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。
【0075】
参考例3:
参考例2で得たポリエステルフィルム(A2)について、82℃95%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。

【0076】
参考例4:
参考例2で得たポリエステルフィルム(A2)について、120℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。

【0077】
実施例5:
上記ポリエステル原料(2)、ポリエステル原料(4)、および回収ポリエステル(1)を46.0:4.0:50.0の比率で混合したポリエステルを原料とし、口径90mmのベント付き二軸押出機により、吐出量;600kg/hr、シリンダー温度;290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、横方向に120℃で3.8倍延伸し、195℃で熱固定処理を行った後、弛緩し、厚さ188μm、幅2000mmのポリエステルフィルム(A3)のマスターロールを得た。
【0078】
なお、本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行い、粉砕機にて粉砕化し、回収ポリエステルとして貯めた。
【0079】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルム(A3)を得た。本スリット時に、生成された余剰のスリット耳もまた粉砕機にて粉砕化し、回収ポリエステルとして貯めた。得られたポリエステルフィルムは85℃85%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。
【0080】
実施例6:
実施例5で得たポリエステルフィルム(A3)について、105℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。
【0081】
実施例7:
上記ポリエステル原料(3)、ポリエステル原料(4)、および回収ポリエステル(1)を68.0:4.0:28.0の比率で混合したポリエステルを原料とし、口径90mmのベント付き二軸押出機により、吐出量;600kg/hr、シリンダー温度;290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、横方向に120℃で3.8倍延伸し、195℃で熱固定処理を行った後、弛緩し、厚さ188μm、幅2000mmのポリエステルフィルム(A4)のマスターロールを得た。
【0082】
なお、本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行い、粉砕機にて粉砕化し、回収ポリエステルとして貯めた。
【0083】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルム(A4)を得た。本スリット時に、生成された余剰のスリット耳もまた粉砕機にて粉砕化し、回収ポリエステルとして貯めた。得られたポリエステルフィルムは85℃85%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。
【0084】
実施例8:
実施例7で得たポリエステルフィルム(A4)について、120℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表2に示す。
【0085】
比較例1:
実施例7において、混合物中のポリエステル原料に関して、上記ポリエステル原料(3)をポリエステル原料(6)に変更した以外は、実施例7と同様の方法でポリエステルフィルム(B1)を得た。得られたポリエステルフィルムは85℃85%条件で湿熱処理し、その評価結果を下記表3に示す。
【0086】
比較例2:
比較例1で得たポリエステルフィルム(B1)について、105℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表3に示す。
【0087】
比較例3:
上記ポリエステル原料(1)およびポリエステル原料(4)を96:4の比率で混合したポリエステルを原料とし、口径90mmのベント付き二軸押出機により、吐出量;500kg/hr、シリンダー温度;290℃で溶融押出し、口金から流出した非晶質のポリエステルシートを、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、クリップで掴まれた縦延伸シートを横方向に120℃で3.8倍延伸し、221℃で熱固定処理を行った後、弛緩し、厚さ125μm、幅2000mmのポリエステルフィルムのマスターロールを得た。
【0088】
なお、本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行った。
【0089】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルムを得た。本スリット時に、生成された余剰分についてはスリット耳として切断分離を行った。
【0090】
切断分離された耳部フィルムおよびスリット耳を粉砕機にて粉砕化した。得られた粉砕化物を、回収ポリエステル(3)とする。回収ポリエステル(3)のIVは0.62dl/g、AVは20当量/tであった。
【0091】
上記ポリエステル原料(1)、ポリエステル原料(4)、および回収ポリエステル(3)を未乾燥の状態にて、67.2:2.8:30.0の比率で混合したポリエステルを原料とし、口径90mmのベント付き二軸押出機により、吐出量;500kg/hr、シリンダー温度;290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定したキャスティングドラム上で急冷固化させて未延伸の単層シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、横方向に120℃で3.8倍延伸し、205℃で熱固定処理を行った後、弛緩し、厚さ125μmのポリエステルフィルム(B2)のマスターロールを得た。
【0092】
なお、本マスターロールを得る際、口金からのネックイン現象により分厚くなり、クリップの噛み代として使用された、ポリエステルフィルムの端部は、耳部フィルムとして切断分離を行い、粉砕機にて粉砕化し、回収ポリエステルとして貯めた。
【0093】
このマスターロールの両端から400mmの位置よりスリットを行い、製品幅1200mm幅のポリエステルフィルム(B2)を得た。本スリット時に、生成された余剰分についてはスリット耳として切断分離を行い、粉砕機にて粉砕化し、回収ポリエステルとして貯めた。得られたポリエステルフィルムは82℃95%条件で湿熱処理し、その評価結果を表3に示す。
【0094】
比較例4:
比較例3で得たポリエステルフィルム(B2)について、105℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表3に示す。
【0095】
比較例5:
実施例5において、混合物中のポリエステル原料に関して、上記ポリエステル原料(2)、ポリエステル原料(4)、および回収ポリエステル(1)を26.0:4.0:70.0の比率で混合したポリエステルに変更した以外は、実施例5と同様の方法でポリエステルフィルム(B3)を得た。得られたポリエステルフィルムは、82℃95%条件で湿熱処理し、評価結果を表3に示す。
【0096】
比較例6:
比較例5で得たポリエステルフィルム(B3)について、120℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表3に示す。
【0097】
比較例7:
実施例5において、混合物中のポリエステル原料に関して、上記ポリエステル原料(8)、回収ポリエステル(1)を70.0:30.0の比率で混合したポリエステルに変更した以外は、実施例5と同様の方法でポリエステルフィルム(B4)を得た。得られたポリエステルフィルムは、85℃85%条件で湿熱処理し、評価結果を表3に示す。
【0098】
比較例8:
比較例7で得たポリエステルフィルム(B4)について、120℃100%条件で湿熱処理し、その評価結果を表3に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、屋外で用いられる電気絶縁材料、自動車用材料、建築材料として好適に利用することができる。