(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化、省エネルギー化の目的で、各種容器のプラスチック化が活発に押し進められている。プラスチック材としては、高強度、高耐候性、高耐薬品性及び環境問題等の観点からポリオレフィン樹脂が一般に用いられている。ポリオレフィン樹脂の中でも、特にポリエチレン樹脂は、各種の成形用樹脂として好適な樹脂である。しかしながら、高純度な内容物を充填する容器の用途においては、よりクリーンなポリエチレン樹脂が要求されるようになってきている。特に、医薬品容器用途、試薬容器用途、半導体向け高純度薬品容器用途におけるポリエチレン樹脂においては、その充填される内容物の純度の観点から、よりクリーンなポリエチレン樹脂が要求され、添加剤類の減少ないし無添加であることが要求される上に、重合触媒等に由来する灰分が少ないことが必要になっている。
特に、半導体製造分野においては、ウェハ洗浄やエッチング等の工程において、各種洗浄液やフッ酸、過酸化水素水等の高純度薬品が使用されているが、半導体回路の集積度の向上とともに、これらの薬品中の不純物や微粒子に対する低減化の要求が一層厳しくなっており、この厳しい要求を満足させるために、これらの薬品を充填する容器に対するクリーン化の要求も年々高まっている。また、上記の要求とともに、これら薬品を充填する容器の大型化、高耐久性化等の要求も高まっている。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1(特開平11−080257号公報)には、密度が0.94〜0.97g/cm
3 、温度190℃、21.6kg荷重のメルトフローレートが2〜50g/10分、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)より求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8〜15、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が0.1重量%以下、含有塩素量がポリエチレン樹脂に対して15PPM以下である性状を有する高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂が提案されているが、重合触媒成分由来の金属成分の影響に対する改良が十分というわけでなく、必ずしも満足出来る高純度薬品容器を得られるということではない。
【0004】
特許文献2(特開平11−080258号公報)には、密度が0.935〜0.97g/cm
3 、温度190℃、21.6Kg荷重のメルトフローレートが2〜100g/10分、GPCより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.5〜5、灰分量が50PPM以下、含有塩素量が5PPM以下である性状を有する高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂が提案されているが、重合触媒成分由来の金属成分の影響に対する改良が十分というわけでなく、Mw/Mnが小さいため成形性が必ずしも良好とは言えず、満足出来る高純度薬品容器を得られるということではない。
【0005】
特許文献3(特開平11−080449号公報)には、密度が0.94〜0.97g/cm
3 、温度190℃、21.6kg荷重のメルトフローレートが1〜15g/10分、GPCより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8〜15、190℃における溶融張力が15〜65g、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が0.1重量%以下、灰分量が50PPM以下である性状を有する大型高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂が提案されているが、重合触媒成分由来の金属成分の影響に対する改良が十分というわけでなく、二段重合法で製造される成分の特性が具体的でなく、必ずしも満足出来る高純度薬品容器を得られるということではない。
【0006】
特許文献4(特開2000−129044号公報)には、密度が0.945g/cm
3 以上0.975g/cm
3以下であり、I
2 が0.05g/10min以上30g/10min以下である、スラリー重合法によりメタロセン系触媒により製造された特定性状のポリエチレン99〜1wt%と、スラリー重合法によりクロム系触媒により製造された特定性状のポリエチレン1〜99wt%からなるポリエチレン組成物よりなる高純度薬品用容器が提案されているが、重合触媒成分由来の金属成分の影響に対する改良が十分というわけでなく、必ずしも満足出来る高純度薬品容器を得られるということではない。
【0007】
特許文献5(特開2003−096133号公報)には、密度が0.95〜0.97g/cm
3、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレートが0.1〜1g/10分、灰分量が15ppm以下、動的粘弾性測定(温度190℃、歪み量10%)により求められた貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”とが等しくなる時の貯蔵弾性率の値G
0が300000〜540000dyn/cm
2である性状を有することを特徴とする高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂が提案されているが、微粒子成分の長期間に渡る低溶出性について改良の余地がある。
【0008】
特許文献6(特開2008−179799号公報)には、少なくとも低分子量成分と構文子量成分とからなる多段重合法によりチーグラー触媒を用いて製造されたポリエチレン樹脂組成物であって、該低分子量成分が、メルトフローレート(JIS K7210−1999、コードD)が3g/10分以上50g/10分以下、密度(JIS K7112−1999)が960kg/m
3以上974kg/m
3以下であるエチレンの単独重合体もしくはエチレンと炭素数3以上20以下のα−オレフィンとの共重合体であって、該高分子量成分の該ポリエチレン樹脂組成物に対する質量分率が0.40以上0.46以下であり、該ポリエチレン樹脂組成物が、密度(JIS K7112−1999)が955kg/m
3以上965kg/m
3以下、メルトフローレート(JIS K7210−1999、コードT)が0.40g/10分以上1.0g/10分以下であり、実質的に添加剤を含まないことを特徴とする大型高純度薬品容器用のポリエチレン樹脂組成物が提案されているが、重合触媒成分由来の金属成分の影響に対する改良が十分というわけでなく、必ずしも満足出来る高純度薬品容器を得られるということではない。
【0009】
特許文献7(特開2010−242077号公報)には、直鎖状ポリエチレンであって、エチレン単独重合体又はエチレン単位と1又は2種以上の炭素数3〜20のα−オレフィン単位とからなる共重合体であり、密度が940〜975kg/m
3であり、温度190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.1〜20g/10分であり、GPCにより求められるMw/Mnが、3.0〜7.0であり、GPCで得られる分子量分布曲線から得られる分子量1,000以下の成分の占有率が、1.0重量%以下であり、GPCで得られる分子量分布曲線から得られる分子量100万以上の成分の占有率が、0.5重量%以下であり、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線の融点ピークが一つであり、80℃におけるノルマルヘプタン抽出分の量が1.0重量%以下であり、エタノール抽出による炭素数18、及び20の炭化水素成分量が100ppm以下であることを特徴とする高純度薬品容器用ポリエチレンが提案されているが、重合触媒成分由来の金属成分の影響に対する改良が十分というわけでなく、Mw/Mnが小さいため成形性が必ずしも良好とは言えず、満足出来る高純度薬品容器を得られるということではない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のポリエチレンは、高純度薬品容器に適した材料であり、特に大型容器に適したものであり、好ましくは内容積が20〜1000L、更に好ましくは100〜200Lの中空容器に適する。また、高純度薬品容器とは、半導体製造プロセス等で使用される不純物の少ない薬品を入れるための容器をいう。
本発明の高純度薬品容器用ポリエチレンは、エチレン単独重合体又はエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体からなり、α−オレフィンとしては、炭素数3〜20のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン等が挙げられ、好ましくは1−ブテン、1−ヘキセンが挙げられ、更に好ましくは1−ブテンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明のポリエチレンは、チーグラー型触媒、メタロセン触媒等の高活性触媒により重合して得られるが、高活性チーグラー型触媒による重合が好ましい。チーグラー型触媒における固体触媒成分の例としては、三塩化チタン、三塩化バナジウム、四塩化チタン又はチタンのハロアルコラートをマグネシウム化合物に担持した触媒成分、マグネシウム化合物とチタンの化合物の共沈殿物又は共晶体などからなる触媒成分等が挙げられる。この中では、マグネシウム、チタンを含む固体触媒成分が好ましく、該固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを組み合わせてなる触媒系が好ましい。
【0026】
更に、本発明のポリエチレンの重合触媒としては、一般式Mg(OR
2)
mX
22−m(式中、R
2はアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、X
2はハロゲン原子を示し、mは1又は2である)で表される化合物及び一般式Ti(OR
3)
nX
34−n(式中、R
3はアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、X
3はハロゲン原子を示し、nは1、2又は3である)で表される化合物を含む均一な炭化水素溶液を、一般式AlR
1lX
13−l(式中、R
1はアルキル、アリール又はシクロアルキル基を示し、X
1はハロゲン原子を示し、lは1≦l≦2の数を示す)で表される有機ハロゲン化アルミニウム化合物で処理して得られる炭化水素不溶性固体触媒と有機アルミニウム化合物とを含む触媒であることが好ましく、更にm=2かつn=3であることが好ましい。
【0027】
上記重合触媒系を用いたポリエチレン製造における重合方法は、スラリー重合法、気相重合法、溶液重合法等を例示することが出来る。中でも、炭素数が4〜10の重合溶媒、例えば、イソブタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等を用いるスラリー重合法が好ましく、この重合方法による多段重合法を採用するのが好ましい。
上記の重合方法により得られたエチレン重合体は、溶媒中に溶け込んだ分子量が低いポリエチレン(ワックス)を除去することが好ましい。ワックスを除去する方法としては、遠心分離機による除去、溶媒による洗浄による除去等が挙げられる。ワックスを除去することにより、成形加工時のワックス由来による成形機の汚れを抑えることが出来るだけでなく、成形された製品からのワックスの溶出等を抑えることも出来る。
【0028】
以下、本発明のポリエチレンの特性を説明する。
【0029】
特性(1)密度:
本発明のポリエチレンの密度は、0.940〜0.960g/cm
3、好ましくは0.945〜0.955g/cm
3、より好ましくは0.950〜0.955g/cm
3である。密度が0.940g/cm
3未満では、成形容器からの充填内溶液への溶出ポリマー成分が増加し、内溶液のクリーン性を低下させると共に剛性が低下する。また、密度が0.960g/cm
3を超えると、容器の耐衝撃性が低下すると共にESCRが低下する。
密度は、JIS−K6922−1,2:1997年に準じて測定することができる。
密度は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量により変化させることにより、所望のものを得ることができる。
【0030】
特性(2)温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR):
本発明のポリエチレンのHLMFRは、5〜15g/10分、好ましくは6〜13g/10分、より好ましくは7〜11g/10分である。HLMFRが、5g/10分未満では流動性が低下し、吐出性能が劣り容器の生産性へ支障をきたす。また、15g/10分を超えると耐ドローダウン性が低下し、容器成形性が悪化すると共にESCRが低下する。
HLMFRは、JIS−K6922−2:1997年に準拠して測定することができる。HLMFRは、エチレン重合温度や連鎖移動剤の使用等により調整することができ、所望のものを得ることができる。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより、分子量を下げた結果として、HLMFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより、分子量を上げた結果として、HLMFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより、分子量を下げた結果として、HLMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより、分子量を上げた結果として、HLMFRを小さくすることができる。
【0031】
特性(3)ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定され、ポリエチレン全体の検出面積に対する分子量10,000以下の成分の検出面積の割合:
本発明のポリエチレンは、GPCにより測定され、ポリエチレン全体の検出面積に対する分子量10,000以下の成分の検出面積の割合が14.0%以下であり、好ましくは13.5%以下、更に好ましくは13.3%以下である。当該割合が14.0%を超えると、成形品への微粒子の溶出量が多くなり、高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
当該割合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の方法で求めることができる。
即ち、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
装置:WATERS社製150C
カラム:昭和電工社製AD80M/Sを3本
測定温度:140℃
濃度:1mg/1ml
溶媒:o−ジクロロベンゼン
なお、分子量の計算及びカラムの較正は、以下の方法に準拠して行なう。
GPCクロマトデータは、1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行なう。
当該割合は、触媒の種類、助触媒の種類、重合温度、重合反応器内の滞留時間、重合反応器の数などで調整でき、また、仕上げ時の押出機の温度、圧力、剪段速度などにより調整可能であるが、重合によって得られた重合体を遠心分離機による除去又は溶媒による洗浄による除去を行なうことが好ましい。
【0032】
特性(4)GPCにより測定され、ポリエチレン全体の検出面積に対する分子量1,000,000以上の成分の検出面積の割合:
本発明のポリエチレンは、GPCにより測定され、ポリエチレン全体の検出面積に対する分子量1,000,000以上の成分の検出面積の割合が7.0%以下であり、好ましくは5.0%以下、更に好ましくは4.0%以下である。当該割合が7.0%を超えると、成形品への樹脂未溶融成分が多くなり、内表面に肌荒れが発生し、内表面面積が増加することから結果的に微粒子の溶出量が多くなり、高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
当該割合は、上記のGPCによる分子量の測定方法により求めることができる。
当該割合は、触媒の種類、助触媒の種類、重合温度、重合反応器内の滞留時間、重合反応器の数などで調整でき、また、仕上げ時の押出機の温度、圧力、剪段速度などにより調整可能である
【0033】
前記ポリエチレンは、更に下記の特性(5)を満たすことが好ましい。
特性(5)Tiの含有量:
本発明のポリエチレンは、Tiの含有量がポリエチレン全体に対して1.5重量ppm以下が好ましく、更に好ましくは1.0重量ppm以下、好適には0.9重量ppm以下である。当該割合が1.0重量ppmを超えると、成形品へのTiの溶出量が多くなり、高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
Tiの含有量は、石英製ビーカーに試料約0.5gを採取し、これに2mlの硫酸を添加し加熱して試料を炭化後、加熱しながら、無色〜淡黄色の透明な溶液が得られるまで、「加熱、放冷、硝酸添加」を繰り返した。冷却後、純水により50mlに定容、更に10倍に希釈して、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry。誘導結合プラズマ質量分析法)により目的の金属元素を測定し、試料中濃度に換算することにより求めることができる。
当該割合は、触媒の種類、助触媒の種類などで調整可能である。触媒としては、活性が高いものでないと本発明の要件を達成することが難しく、上述のマグネシウム、チタンを含む固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを組み合わせてなる触媒系が好ましい。
【0034】
前記ポリエチレンは、更に下記の特性(6)を満たすことが好ましい。
特性(6)Alの含有量:
本発明のポリエチレンは、Alの含有量がポリエチレン全体に対して3.0重量ppm以下が好ましく、更に好ましくは1.0重量ppm以下、好適には0.85重量ppm以下である。当該割合が3.0重量ppmを超えると、成形品へのAlの溶出量が多くなり、高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
Alの含有量は、石英製ビーカーに試料約0.5gを採取し、これに2mlの硫酸を添加し加熱して試料を炭化後、加熱しながら、無色〜淡黄色の透明な溶液が得られるまで、「加熱、放冷、硝酸添加」を繰り返した。冷却後、純水により50mlに定容、更に10倍に希釈して、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry。誘導結合プラズマ質量分析法)により目的の金属元素を測定し、試料中濃度に換算することにより求めることができる。
当該割合は、触媒の種類、助触媒の種類などで調整可能である。触媒としては、活性が高いものでないと本発明の要件を達成することが難しく、上述のマグネシウム、チタンを含む固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを組み合わせてなる触媒系が好ましい。
【0035】
前記ポリエチレンは、更に下記の特性(7)を満たすことが好ましい。
特性(7)灰分が15重量ppm以下が好ましく、更に好ましくは10重量ppm以下、好適には5ppm以下である。
灰分が15重量ppmを超えると、成形品の容器から灰分由来の成分が内溶液へ溶出し、内溶液のクリーン性を低下させる恐れがあり、高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
灰分は、JIS K2272−1985に準拠し求めることができる。
灰分は、触媒の種類、助触媒の種類などで調整可能である。触媒としては、活性が高いものでないと、この要件を達成することが難しく、上述のマグネシウム、チタンを含む固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを組み合わせてなる触媒系が好ましい。
【0036】
前記ポリエチレンは、更に下記の特性(8)〜(10)を満たすことが好ましい。
特性(8)ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn):
GPCにより求められるMw/Mnは、7.0を超え15.0以下、好ましくは9〜13、より好ましくは10〜12である。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnの測定は、以下の方法で行なうことができる。
即ち、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
装置:WATERS社製150C
カラム:昭和電工社製AD80M/Sを3本
測定温度:140℃
濃度:1mg/1ml
溶媒:o−ジクロロベンゼン
なお、分子量の計算及びカラムの較正は、以下の方法に準拠して行なう。
GPCクロマトデータは、1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行ない、Mw、Mn値を計算する。
Mw/Mnは、触媒の種類、助触媒の種類、重合温度、重合反応器内の滞留時間、重合反応器の数などで調整でき、また、押出機の温度、圧力、剪段速度などにより調整可能であり、好ましくは高分子量成分と低分子量成分の混合割合を調整することにより増減することができる。
エチレン系重合体のMw/Mnは、触媒の種類の影響を受け易く、一般にフィリプス触媒によれば分子量分布が広く、メタロセン触媒によれば分子量分布が狭く、チーグラー触媒によればその中間的な分子量分布を有する重合体となる。
【0037】
特性(9)フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT):
本発明のポリエチレンは、フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT)が50時間以上であることが好ましく、更に好ましくは100時間以上である。FNCTが50時間未満では、製品としての耐久性が低く、実用上、クラックが入りやすく容器としての性能を満たさないため、高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
FNCTは、ISO DIS 16770に準拠した全ノッチ付クリープ試験(FNCT、80℃、
1.9MPa)により測定することができる。ここで、ISO DIS 16770に準拠した全ノッチ付クリープ試験(FNCT)は、長期機械的物性の評価であって、試料としては、6mm×6mm×11mmの大きさの角柱の、全周囲にカミソリ刃にて1mmのノッチが付けられ、4mm×4mmの大きさの断面を有した試験片を用意し、80℃の純水中で、
1.9MPaに相当する引張応力を検体に与え、検体が破断するまでの時間を計測した値である。
FNCTの破断時間は、ポリエチレンの高分子量の成分であるエチレン系重合体の、分子量、密度、及び配合量により調整することができ、具体的には、分子量の高分子量化、密度の低密度化、及び配合量の増量により、上記FNCTの破断時間を向上させることができる。
【0038】
特性(10)曲げ弾性率:
本発明のポリエチレンは、曲げ弾性率が1200MPa以上であることが好ましく、更に好ましくは、1250MPa以上である。曲げ弾性率が1200MPa未満では、製品としての剛性が低く、実用上、内液充填時の変形が起こりやすく、容器としての性能を満たさないため、高純度薬品容器としての性能を満たさない。高純度薬品容器としての性能が低下する傾向がある。
曲げ弾性率は、試験片として210℃で射出成形した4×10×80mmの板状体を用い、JIS−K6922−2:1997年に準拠して測定される値である。
曲げ弾性率は、ポリエチレンの分子量及び密度を増減させることにより調節することができ、分子量又は密度を増加させると、曲げ弾性率を上げることができる。
【0039】
本発明のポリエチレンは、複数種類のエチレン系重合体の組成物で構成することができ、下記の成分(A)が
30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%以下であり、下記の成分(B)が
70〜30重量%、好ましくは60〜40重量%である。
成分(A):HLMFRが0.5〜2g/10分、密度が0.941〜0.945g/cm
3のエチレン系重合体
成分(B):温度190℃・荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が10〜20g/10分、密度が0.965〜0.969g/cm
3のエチレン系重合体
本発明のポリエチレンは、上記の成分及び配合割合の組成物とすることにより、耐久性及び剛性(曲げ弾性率)がともに改善された性状を有することができ、高純度薬品容器として好ましい。
【0040】
本発明のポリエチレンに含まれるポリエチレン系重合体は、エチレンのみの単独重合、あるいはエチレンとα−オレフィンとの共重合により製造することができる。本発明のポリエチレンに含まれるポリエチレン系重合体は、通常の一段重合で重合して得ることもできるが、条件を変えて重合した成分を混合したり、逐次多段重合による組成物として製造することもできる。
【0041】
本発明のポリエチレンは、前記成分(A)のエチレン系重合体と成分(B)のエチレン系重合体とを混合して得ることができる。また、樹脂の均一性などの理由から、成分(A)のエチレン系重合体と成分(B)のエチレン系重合体を連続的に重合(逐次多段重合法)して得られたものが好ましく、例えば直列に接続した複数の反応器でエチレン及びα−オレフィンを順次連続的に重合して得ることができる。
本発明において、前記ポリエチレンの成分(A)及び成分(B)が、重合触媒の存在下、少なくとも二基の重合反応器を組み合わせた多段重合により、少なくとも一方の重合反応器でエチレン単独重合体が重合され、少なくとも他の重合反応器でエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとのエチレン共重合体が重合されることが好ましい。
【0042】
また、本発明の成分(A)と成分(B)とからなる組成物は、成分(A)及び成分(B)を別々に重合した後に混合したものでもよい。更に、成分(A)及び成分(B)のエチレン系重合体のそれぞれは複数の成分により構成することが可能である。該エチレン系重合体は、1種類の触媒を用いて多段重合反応器にて順次連続的に重合された重合体でもよく、複数種類の触媒を用いて単段又は多段重合反応器にて製造された重合体でもよいし、1種類又は複数種類の触媒を用いて重合された重合体を混合したものでもよい。
【0043】
本発明の高純度薬品容器用ポリエチレンは、ブロー成形、射出成形、押出成形、回転成形等の公知の成形方法により容器状に成形することにより高純度薬品容器とすることができる。特に、クリーンルーム内に設置したブロー成形機を使用し、フィルターで微粒子を取り除いたエアーをブローエアーに用いたブロー成形方法は、クリーンな容器を製造するのに好ましい。容器形状及び容器の容量は、特に限定はないが、好ましくは、20〜1,000L、更に好ましくは100〜200Lである。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例の試験方法は、以下の通りである。
(1)密度:JIS−K6922−1,2:1997年に準じて測定した。
(2)HLMFR:JIS−K6922−2:1997年に準拠して測定した。
(3)MFR:JIS−K6922−2:1997年に準拠して測定した。
(4)ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn):分子量、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnの測定は、以下の方法で行なった。即ち、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
装置:WATERS社製150C
カラム:昭和電工社製AD80M/Sを3本
測定温度:140℃
濃度:1mg/1ml
溶媒:o−ジクロロベンゼン
なお、分子量の計算及びカラムの較正は、以下の方法に準拠して行なった。
GPCクロマトデータは、1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行ない、Mw、Mn値を計算した。
(5)GPCにより測定され、ポリエチレン全体の検出面積に対する分子量10,000以下の成分の検出面積の割合:上記のGPCによる分子量の測定方法により求めた。
(6)GPCにより測定され、ポリエチレン全体の検出面積に対する分子量1,000,000以上の成分の検出面積の割合:上記のGPCによる分子量の測定方法により求めた。
(7)Tiの含有量:石英製ビーカーに試料約0.5gを採取し、これに2mlの硫酸を添加し加熱して試料を炭化後、加熱しながら、無色〜淡黄色の透明な溶液が得られるまで、「加熱、放冷、硝酸添加」を繰り返した。冷却後、純水により50mlに定容、更に10倍に希釈して、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry。誘導結合プラズマ質量分析法)により目的の金属元素を測定し、試料中濃度に換算した。
(8)Alの含有量::石英製ビーカーに試料約0.5gを採取し、これに2mlの硫酸を添加し加熱して試料を炭化後、加熱しながら、無色〜淡黄色の透明な溶液が得られるまで、「加熱、放冷、硝酸添加」を繰り返した。冷却後、純水により50mlに定容、更に10倍に希釈して、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry。誘導結合プラズマ質量分析法)により目的の金属元素を測定し、試料中濃度に換算した。
(9)灰分:JIS K2272−1985に準拠し測定した。
(10)フルノッチクリープ試験による80℃、1.9MPaにおける破断時間(FNCT):ISO DIS 16770に準拠した全ノッチ付クリープ試験(FNCT、80℃、
1.9MPa)により測定した。
(11)曲げ弾性率:
試験片として210℃で射出成形した4×10×80mmの板状体を用い、JIS−K6922−2:1997年に準拠して測定した。
以上
【0045】
(12)大型ブロー成形性:
(i)吐出量、モーター負荷:小型多層ブロー成形機であるタハラ社製TP-5を用い、温度200℃、スクリュー回転数40rpm、ダイス径18mm、コア径15mmでの1時間あたりの吐出量及び、樹脂圧力を測定した。吐出量が15kg/hr以上でありかつ樹脂圧力が25MPa以下であるものを「〇」、それ以外のものを「×」とした。
(ii)ドローダウン率:吐出性と同一条件にて、パリソン長が12cmと60cmに達する時間を測定し、下記の計算式により、ドローダウン率を算出した。
ドローダウン率=(パリソン長が60cmに達する時間)/(パリソン長が12cmに達する時間)
ドローダウン率が4.5以上であるものを「〇」、それ以外のものを「×」とした。
【0046】
(13)成形品の評価
(iii)クリーン性−微粒子溶出性:上記ブロー成形した内容積500ccボトルをクリーンルーム内で安水(三菱化学社製電子工業用ELアンモニア水;29%アンモニア水溶液)にて5回洗浄後、容器に安水を充填し3ヶ月間放置後に0.2μm以上の微粒子の数をリオン社製KL−25型液体微粒子カウンターで測定した。微粒子が100
ケ/ml以下であるものを「〇」、それ以外のものを「×」とした。
(iv)クリーン性−金属溶出性:上記ブロー成形した内容積500ccボトルをクリーンルーム内で安水にて5回洗浄後、容器に安水を充填し3ヶ月間放置後にTi、Alの濃度測定を行った。金属溶出量が10重量ppb以下であるものを「〇」、それ以外のものを「×」とした。
【0047】
実施例1
(A)固体触媒の調製
Mg(OEt)
2の575gとTi(OBu)
3Clの755gとn−C
4H
9OHの185gとを150℃で6時間混合して均一化し、冷却後ノルマルヘキサンを所定量加えて均一溶液にした。次いで、所定温度にてエチルアルミニウムセスキクロライドを2285g滴下し1時間攪拌した。更に、ノルマルヘキサンにて洗浄を繰り返して固体触媒1100gを得た。
(B)エチレンの重合
上記固体触媒を用いて、0.6m
3の反応器を2基直列に接続した装置を用いて連続重合を行った。第1重合槽には、ノルマルヘキサン70kg/時、トリエチルアルミニウム1.4g/時、上記固体触媒成分を0.67g/時、エチレンを31kg/時、及び水素を連続的に供給し、重合温度90℃、気相中の水素を対エチレン濃度比で1.1モル/モルに保って連続重合を行った。第1重合槽で得られたポリマーの190℃、2.16kg荷重でのMFRは、15g/分であった。第2重合槽には第1重合槽の重合体スラリーを連続的に供給すると共に、ノルマルヘキサン47kg/時、エチレン31kg/時を連続的に供給し、重合温度を80℃、気相中の水素を対エチレン濃度で0.08モル/モル、ブテンを対エチレン濃度で0.023モル/モルに保って第2段目の重合を行った。得られた重合スラリーは
遠心分離器にて固液分離を行い、乾燥工程を経て、添加剤を一切使用せずに40mmφ押出機でペレツト化し、物性測定を行った。物性測定の結果を表1に示す。
(C)容器の成形
上記で得られたポリエチレン樹脂を小型多層ブロー成形機であるタハラ社製TP-5を用い、温度200℃、スクリュー回転数40rpmでピンチオフ長さが底部直径の95%になるように適宜ダイコアを選択しながら、500ccボトルを成形した。ブロー成形性の評価結果及び成形品の評価結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
市販の高密度ポリエチレン(HLMFR=7g/10分、密度=0.954g/cm
3)を使用し、実施例1と同様にして、そのブロー成形容器を得た。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0049】
比較例2
実施例1の(B)エチレンの重合において、1段目の重合条件として、水素を対エチレンの濃度で2.1モル/モルとし、2段目の重合条件として、水素を対エチレン濃度で 0.12モル/モル、ブテンを対エチレン濃度で0.02モル/モルとした以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂とそのブロー成形容器を得た。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
比較例3
特開平11−80257号公報の実施例1に準じて、ポリエチレン樹脂を製造し、実施例1と同様にして、そのブロー成形容器を得た。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
以上
【0051】
表1から明らかなように、密度、メルトフローレート、分子量等の特性が本発明の要件を有するポリエチレンからの容器は、大型ブロー成形性に優れ、容器の剛性、FNCT、クリーン性に優れていた(実施例1)。一方、GPCにより測定される分子量10,000以下の成分の面積割合、GPCにより測定される分子量1,000,000以上の成分の面積割合、Ti含有量、Al含有量が本発明の要件を外れると、成形品の微粒子溶出性及び金属溶出性が大きくなった(比較例1)。また、HLMFRが本発明の要件を外れると、大型ブロー成形性が低下する結果であった(比較例2)。