特許第6206293号(P6206293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6206293-ゴム材料並びにシール部品及びホース 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206293
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ゴム材料並びにシール部品及びホース
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20170925BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20170925BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20170925BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20170925BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K5/01
   C08L23/00
   C09K3/10 Z
   F16L11/12 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-68484(P2014-68484)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189865(P2015-189865A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年4月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 直生
(72)【発明者】
【氏名】栗本 英一
(72)【発明者】
【氏名】洲崎 晃嘉
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−204676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
C08K 5/01
C08L 23/00
C09K 3/10
F16L 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーとして加硫剤により加硫するゴムポリマーのみを含むゴム材料であって、前記ゴムポリマーに、加硫剤と、重量平均分子量1500以下の低分子量炭化水素系オイルと、重量平均分子量5000以上の高分子量炭化水素系オイルとが配合されてなることを特徴とするゴム材料。
【請求項2】
高分子量炭化水素系オイルは、ゴム材料中の全オイル量の10〜90質量%配合された請求項1記載のゴム材料。
【請求項3】
ゴム材料は、さらに発泡剤が配合されている請求項1又は2記載のゴム材料。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のゴム材料により成形されたシール部品。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載のゴム材料により成形されたホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料並びにそれを使用したシール部品及びホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料よりなる乗物、建物等のシール部品の遮音性を高める方法としては、比重則(比重が大きいほど遮音性が優れる)に基づいてゴム材料の比重を大きくする方法と、ゴム材料の発泡形態(独立気泡、連続気泡など)を制御する方法とが知られている。
【0003】
ゴム材料の比重を大きくする方法としては、特許文献1に記載のように、発泡ゴム材料の場合に発泡率を低くする方法がある。
【0004】
また、比重の高い添加剤の使用量を増やす方法も考えられる。しかし、この方法では、物性が低下し、重量が増加し、これらに起因して製品形状の変更や支持部材が必要になる等の問題が予想される。特に乗物のシール部品の場合、近年要求されている軽量化に相反することは問題である。
【0005】
ゴム材料の発泡形態を制御する方法としては、特許文献2に記載のように、粒径の異なる2種類の発泡剤を使用し、発泡ゴム材料中に相対的に大径の気泡と小径の気泡とを形成することにより、気泡が互いに連通して連続気泡となることを防ぎ、それぞれが単独気泡として存在するようにして、遮音性を向上させる方法がある。しかし、この方法では、発泡条件の最適な設定が難しく、設定によっては物性が低下するおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−11602号公報
【特許文献2】特開2013−136661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、ゴム材料の比重を大きくしたり発泡形態を制御したりするのではなく、新規な発想により、物性を低下させたり重量を増加させたりすることなく、遮音性を高めることができるゴム材料並びにシール部品及びホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ゴム材料には、体積増量、可塑化、軟化(加工性向上)等の目的で配合オイルが添加される。例えば、主にゴム素材メーカーにおいては、ゴム材料に体積増量や可塑化を目的とするエキステンダオイル(伸展油)が添加され、伸展ゴムあるいは油展ゴムと称して出荷される。また、主にゴム加工メーカーにおいては、ゴム材料に軟化(加工性向上)の目的でプロセスオイル(加工油)が添加され、混練して加工される。
【0009】
これらエキステンダオイル、プロセスオイル等の配合オイルには、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル又はこれらをブレンドしたものがあるが、いずれの配合オイルも、加工性を考慮して、重量平均分子量500〜1000程度の低分子量のオイルが使用されていた。オイルは、分子量が低いと粘度が低くなり、分子量が高いと粘度が高くなる。
【0010】
本発明者らは、この配合オイルに着目し、上鋭意検討の結果、分子量の高いオイルを添加することで、遮音性を高めることができることを見出し、さらに検討のうえ本発明に到った。
【0011】
本発明のゴム材料は、ポリマーとして加硫剤により加硫するゴムポリマーのみを含むゴム材料であって、前記ゴムポリマーに、加硫剤と、重量重量平均分子量1500以下の低分子量炭化水素系オイルと、重量平均分子量5000以上の高分子量炭化水素系オイルとが配合されてなることを特徴とする。
【0012】
高分子量炭化水素系オイルは、ゴム材料中の全オイル量の10〜90質量%配合されたことが好ましい。
【0013】
本発明のシール部品は、前記ゴム材料により成形されたものであることを特徴とする。
【0014】
本発明のホースは、前記ゴム材料により成形されたものであることを特徴とする。
【0015】
本発明の作用を説明する。
(1)ゴムポリマーに、従来より添加されている重量平均分子量1500以下の低分子量炭化水素系オイルだけでなく、重量平均分子量5000以上の高分子量炭化水素系オイルが配合されたことにより、400〜10000Hzの音の透過損失(dBA)が大きくなり、すなわち遮音性が高くなる。そのメカニズムは、明確には判明していないが、高分子量炭化水素系オイルの添加により、オイルの分子同士の結合、もしくはオイルとゴムポリマーの分子の絡み合いの数(密度)が増加し、その絡み合いの数が多いほど音の振動が伝わる際に生じる摩擦が大きくなり、音を熱に変換する(音を吸収する)能力が高まるためと考えられる。
【0016】
(2)分子量が高いオイルを配合すると遮音性向上効果が得られるが、ゴム材料中のオイルを全て高分子量炭化水素系オイルにしてしまうと、例えばロールで成形加工するときにロールに貼り付くなどして加工性が悪くなる。そこで、ゴム材料中に低分子量炭化水素系オイルがある状態で高分子量炭化水素系オイルを配合することにより、加工性を確保しつつ、遮音性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のゴム材料並びにシール部品及びホースによれば、比重も発泡形態もほぼ変わらず、よって重量を増加させることなく、遮音性を高めることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例のゴム材料により成形された、(a)は自動車用のウエザストリップの断面図、(b)は自動車用のホースの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.ゴムポリマー
ゴムポリマーとしては、特に限定されないが、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、EPM(エチレン・プロピレンゴム)、IIR(イソブチレン・イソプレンゴム)、IR(イソプレンゴム)、NR(天然ゴム)、BR(ブタジエンゴム)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)等を例示できる。
【0020】
2.低分子量炭化水素系オイル
低分子量炭化水素系オイルとしては、特に限定されないが、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系又はこれらをブレンドしたものを例示できる。その重量平均分子量は前述のとおり1500以下とする。重量平均分子量の下限は、特に限定されないが、入手のしやすさから100が好ましい。従来よりゴム材料に添加されているエキステンダオイル、プロセスオイル等の配合オイルのほとんどは、この重量平均分子量100〜1500の低分子量炭化水素系オイルに該当する好ましいものとして使用できる。
【0021】
3.高分子量炭化水素系オイル
高分子量炭化水素系オイルとしては、特に限定されないが、パラフィン系であるエチレンとα−オレフィンとのコオリゴマーを例示できる。その重量平均分子量は前述のとおり5000以上とする。遮音性向上効果があるからである。重量平均分子量の上限は、特に限定されないが、入手のしやすさから50000が好ましい。
【0022】
4.その他の配合物
ゴム材料は、他の配合物が配合されていてもよい。
他の配合物としては、特に限定はされないが、カーボンブラック、亜鉛華、加工助剤、老化防止剤、着色剤等を例示できる。また、加工の際に配合される、加硫剤、加硫促進剤、発泡剤等も例示できる。
【0023】
5.ゴム材料により成形された成形品
本発明のゴム材料により成形された成形品としては、特に限定されないが、高い遮音性を生かせるのはシール部品である。自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の各種乗物のウエザストリップ、ドアガラスラン、窓枠、エンジンのガスケット、フードのシール材、内外装部品のシール材、電装部品のシール材等のシール部品を例示することができ、また、建物の窓枠等のシール部品を例示することもできる。さらに、シール部品以外にも、自動車用ホース等のホースを例示することができ、ホース内の流動物の流動音が外部に漏れるのを低減できる。
【実施例1】
【0024】
次の表1に示す配合(配合数値は質量部)の実施例1〜7及び比較例1〜3の各ゴム材料を調製し、発泡ゴムシートを成形した。
【0025】
【表1】
【0026】
ここで、ゴムポリマーには次のEPDMを使用した。ジエンの種類と割合を表1中に示す。
・油展EPDM:三井化学株式会社の商品名「三井EPT 8120E」。油展量は20phr(ゴム100質量部に対するエキステンダオイルの質量部)であり、エキステンダオイルの重量平均分子量は、公表されていないが、1500以下と推定される。よって、油展EPDM120質量部は、EPDMポリマー100質量部と、重量平均分子量1500以下のエキステンダオイル20質量部からなるとみなせる。
・非油展EPDM:三井化学株式会社の商品名「三井EPT 9090M」。非油展EPDM100質量部は、EPDMポリマー100質量部とみなせる。
【0027】
オイルには次のものを使用した。分子量と動粘度(100℃)を表1中に示す。
・プロセスオイル:出光興産株式会社の商品名「ダイアナプロセスオイルPS−380」。パラフィン系鉱物油であり、ゴム材料のプロセスオイルとして使用されているものである。
パラフィン系オイル(1):三井化学株式会社の商品名「ルーカント HC−150」。パラフィン系オイル(エチレンとα−オレフィンとのコオリゴマーで、極性基を含まない炭化水素系合成油)であり、例えば潤滑油の高粘度基油として使用されているものである。
パラフィン系オイル(2):三井化学株式会社の商品名「ルーカント HC−2000」。同じくパラフィン系であるエチレンとα−オレフィンとのコオリゴマーであり、例えば粘度指数向上剤として使用されているものである。
パラフィン系オイル(3):三井化学株式会社の商品名「ルーカント HC−3000X」同じくパラフィン系であるエチレンとα−オレフィンとのコオリゴマーであり、例えば粘度指数向上剤として使用されているものである。
【0028】
従って、実施例1〜7は、重量平均分子量1500以下の低分子量炭化水素系オイルとして、油展EPDM中のエキステンダオイルとプロセスオイルの一方又は両方を含み、重量平均分子量5000以上の高分子量炭化水素系オイルとしてパラフィン系オイル(1)〜(3)のいずれかを含むものである。そして、ゴム材料中の全オイル量に対する高分子量炭化水素系オイルの配合率は、実施例1で10質量%、実施例7で90質量%、実施例2〜6でその中間値である。
【0029】
これに対し、比較例1,2は、重量平均分子量1500以下の低分子量炭化水素系オイルとして、油展EPDM中のエキステンダオイルとプロセスオイルの一方又は両方を含むが、重量平均分子量5000以上の高分子量炭化水素系オイルを含まないものである。また、比較例3は、重量平均分子量1500以下の低分子量炭化水素系オイルを含まず、重量平均分子量5000以上の高分子量炭化水素系オイルとしてパラフィン系オイル(3)を含むものである。

【0030】
その他、カーボンブラックには、よう素吸着量が20mg/g、DBP吸収量が115cm3/100gのSRFを使用した。
ステアリン酸には、花王株式会社の商品名「ルナックS−50V」を使用した。
亜鉛華には、井上石灰工業株式会社の商品名「メタZ−102」を使用した。
加硫剤には、硫黄粉末を使用した。
発泡剤には、OBSH(p,p'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)発泡剤を使用した。
これらは、実施例1〜7及び比較例1〜3で共通の配合量とした。
【0031】
上記実施例1〜7及び比較例1〜3のゴム材料を、それぞれ表1の配合比になるように秤量し、バンバリーミキサーとロールとを用いて混練した材料を、厚さ1.2mmの発泡シートに成形した。
【0032】
作製した発泡ゴムシートについて、次の評価を行った。
1.加工性
ロールにてゴム材料を混練する際、問題なく加工できたものを「加工性○」と評価した。
ロールにてゴム材料を混練しようとした際、ゴム材料がロールの表面に貼り付いて引き剥がすことができなかったため、結局、混練することができなかったものを「加工性×」と評価した。
【0033】
2.遮音性
作製した発泡ゴムシートを、開口面積10mm×90mmの冶具にセットし、23℃の雰囲気下で400Hz〜10000Hzの音響透過損失(dBA)を測定した。透過損失が大きいほど遮音性が優れていると評価できる。
【0034】
実施例1〜7及び比較例1,2の発泡ゴムシートは、比重が同一であり、発泡形態も目視において同様であった。
【0035】
しかし、実施例1〜7の発泡ゴムシートは、400〜10000Hzの音響透過損失(dBA)が比較例1,2よりも明らかに大きくなり、遮音性が向上した。
【0036】
また、ゴム材料中のオイルを全て高分子量炭化水素系オイルにした比較例3では、ゴム材料がロールに貼り付いてしまったが、高分子量炭化水素系オイルだけでなく低分子量炭化水素系オイルの配合がある実施例1〜7では、そのような問題が起こらず、加工性は良好であった。
【0037】
図1に、実施例1〜7のゴム材料を使用して成形した自動車用のウエザストリップ1(断面)と自動車用の燃料、冷媒又は空気を送るためのホース2を示す。このウエザストリップ1によれば、ウエザストリップ1を透過しようとする音の遮音性が向上する。また、このホース2によれば、ホース内の燃料、冷媒又は空気の流動音が外部に漏れるのを低減できる。
【0038】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ウエザストリップ
2 ホース
図1