特許第6206294号(P6206294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206294
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】自動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/10 20060101AFI20170925BHJP
   F16H 3/44 20060101ALI20170925BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16D25/10 Z
   F16H3/44 Z
   F16D25/0638
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-69439(P2014-69439)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190589(P2015-190589A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 真也
(72)【発明者】
【氏名】小河内 康弘
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−100842(JP,A)
【文献】 特開2003−343598(JP,A)
【文献】 特開2003−021170(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0018164(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0300458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/10
F16D 25/0638
F16H 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機であって、
上記外周クラッチは、複数の外周クラッチ用摩擦板と、該複数の外周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する外周クラッチ用締結ピストンと、該外周クラッチ用締結ピストンを後退させる外周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記内周クラッチは、複数の内周クラッチ用摩擦板と、該複数の内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する内周クラッチ用締結ピストンと、該内周クラッチ用締結ピストンを後退させる内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記複数の外周クラッチ用摩擦板は、上記外周クラッチ用締結ピストンに対して上記動力伝達軸の軸方向の一側に配設され、
上記外周クラッチ用リターンスプリングは、上記軸方向における上記外周クラッチ用締結ピストンと上記外周クラッチ用摩擦板との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成され、
上記複数の内周クラッチ用摩擦板は、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、
上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の他側に配設されていて、板バネ状部材で構成され
上記内周クラッチの径方向内側に配設された最内周クラッチを更に備え、
上記最内周クラッチは、複数の最内周クラッチ用摩擦板と、該複数の最内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する最内周クラッチ用締結ピストンと、該最内周クラッチ用締結ピストンを後退させる最内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記複数の最内周クラッチ用摩擦板は、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、
上記最内周クラッチ用リターンスプリングは、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側でかつ上記最内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機であって、
上記外周クラッチは、複数の外周クラッチ用摩擦板と、該複数の外周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する外周クラッチ用締結ピストンと、該外周クラッチ用締結ピストンを後退させる外周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記内周クラッチは、複数の内周クラッチ用摩擦板と、該複数の内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する内周クラッチ用締結ピストンと、該内周クラッチ用締結ピストンを後退させる内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記複数の外周クラッチ用摩擦板は、上記外周クラッチ用締結ピストンに対して上記動力伝達軸の軸方向の一側に配設され、
上記外周クラッチ用リターンスプリングは、上記軸方向における上記外周クラッチ用締結ピストンと上記外周クラッチ用摩擦板との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成され、
上記複数の内周クラッチ用摩擦板は、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、
上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の他側に配設されていて、板バネ状部材で構成され、
上記軸方向における上記内周クラッチ用締結ピストンと上記内周クラッチ用リターンスプリングとの間に配設され、上記内周クラッチを締結するための油圧が供給される内周クラッチ用締結油圧室と、
上記内周クラッチ用締結油圧室の上記軸方向の上記他側の壁面を構成するとともに、該内周クラッチ用締結油圧室への上記油圧の供給を行うための、上記軸方向に垂直な方向に延びる油路が形成された油路形成部材とを更に備え、
上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記軸方向に垂直な方向に延びる板バネ状部材で構成されていて、上記軸方向において上記油路と重なる位置に配設され
上記内周クラッチの径方向内側に配設された最内周クラッチを更に備え、
上記最内周クラッチは、複数の最内周クラッチ用摩擦板と、該複数の最内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する最内周クラッチ用締結ピストンと、該最内周クラッチ用締結ピストンを後退させる最内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記複数の最内周クラッチ用摩擦板は、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、
上記最内周クラッチ用リターンスプリングは、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側でかつ上記最内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されていることを特徴とする自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される自動変速機では、燃費向上を目的として、変速段の多段化の取り組みがなされている。この多段化は、クラッチ等の摩擦締結要素やプラネタリギヤセットの数を増大させることにより行うことができる。
【0003】
ここで、自動変速機の摩擦締結要素は、通常、複数の摩擦板と、該複数の摩擦板同士を係合させるように進出する締結ピストンと、該締結ピストンを後退させるリターンスプリングとを有している。このリターンスプリングは、通常、コイルスプリングで構成されていて、上記締結ピストンに対して上記摩擦板と同じ側に配設されている。
【0004】
また、例えば特許文献1に示されているように、コイルスプリングで構成されたリターンスプリングを、上記締結ピストンに対して上記摩擦板とは反対側に配設する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3450535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように自動変速機の変速段を多段化すると、摩擦締結要素やプラネタリギヤセットの数が増大するために、自動変速機がその軸方向に長くなるという問題がある。そこで、動力伝達軸(入力軸)上に、外周クラッチ及び内周クラッチを互いに径方向に重ねた状態で配設するようにすることが考えられる。
【0007】
ここで、上記外周クラッチ及び内周クラッチのリターンスプリングとしては、各締結ピストンに対して適切な付勢力を付与する観点から、コイルスプリングで構成することが好ましいが、両クラッチのリターンスプリングを共にコイルスプリングで構成すると、両クラッチが動力伝達軸の軸方向(自動変速機の軸方向)に長くなるために、外周クラッチ及び内周クラッチを互いに径方向に重ねることにより得られる効果は少なくなり、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機において、自動変速機の軸方向及び径方向の大型化を防止しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機を対象として、上記外周クラッチは、複数の外周クラッチ用摩擦板と、該複数の外周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する外周クラッチ用締結ピストンと、該外周クラッチ用締結ピストンを後退させる外周クラッチ用リターンスプリングとを有し、上記内周クラッチは、複数の内周クラッチ用摩擦板と、該複数の内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する内周クラッチ用締結ピストンと、該内周クラッチ用締結ピストンを後退させる内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、上記複数の外周クラッチ用摩擦板は、上記外周クラッチ用締結ピストンに対して上記動力伝達軸の軸方向の一側に配設され、上記外周クラッチ用リターンスプリングは、上記軸方向における上記外周クラッチ用締結ピストンと上記外周クラッチ用摩擦板との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成され、上記複数の内周クラッチ用摩擦板は、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の他側に配設されていて、板バネ状部材で構成され、上記内周クラッチの径方向内側に配設された最内周クラッチを更に備え、上記最内周クラッチは、複数の最内周クラッチ用摩擦板と、該複数の最内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する最内周クラッチ用締結ピストンと、該最内周クラッチ用締結ピストンを後退させる最内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、上記複数の最内周クラッチ用摩擦板は、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、上記最内周クラッチ用リターンスプリングは、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側でかつ上記最内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されている、という構成とした。
【0010】
上記の構成により、外周クラッチ用リターンスプリングが、動力伝達軸の軸方向に延びるコイルスプリングで構成されるが、このコイルスプリングの長さを出来る限り短くすることができる。すなわち、外周クラッチ用リターンスプリングは、動力伝達軸から遠い位置に配設されるので、動力伝達軸の周囲の周方向において多くのリターンスプリングを並設することができる。これにより、1つのコイルスプリングの長さが短くても、多数のコイルスプリングにより、外周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力を付与することが可能になる。このように外周クラッチ用リターンスプリングのコイルスプリングの長さを短くすることで、外周クラッチは、動力伝達軸の軸方向(自動変速機の軸方向)に短くなる。また、内周クラッチ用リターンスプリングは、板バネ状部材(動力伝達軸の周囲全周を囲む皿バネ状部材であってもよく、所定の幅でもって上記軸方向に垂直な方向に延びる板バネ状部材であってもよい)で構成されているので、内周クラッチも、動力伝達軸の軸方向に短くなる。ここで、内周クラッチ用リターンスプリングは、板バネ状部材で構成すると、内周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力を付与するためには、上記皿バネ状部材の場合にはその径が大きくなり、上記板バネ状部材の場合には、その長さが長くなる。この結果、内周クラッチは、動力伝達軸の軸方向に垂直な径方向に大きくなってしまう。しかし、本発明では、内周クラッチ用リターンスプリングが、内周クラッチ用締結ピストンに対して内周クラッチ用摩擦板とは反対側に配設されているので、板バネ状部材で構成された内周クラッチ用リターンスプリングを、内周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力が得られるようにしつつ、外周クラッチの構成部材と干渉することなく容易に配設することができる。よって、自動変速機の軸方向及び径方向の大型化を防止することができる。
【0011】
また、最内周クラッチ用リターンスプリングが、動力伝達軸の軸方向において最内周クラッチ用摩擦板と同じ側でかつ最内周クラッチ用締結ピストンに対して最内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されているので、最内周クラッチ用リターンスプリングがコイルスプリングで構成されていても、最内周クラッチが動力伝達軸の軸方向に増大するのを抑制することがきる。また、コイルスプリングの径をかなり小さくすることで、最内周クラッチが径方向に増大するのを抑制することができる。このようにコイルスプリングの径をかなり小さくしても、コイルスプリングの長さを長くすることができるので、最内周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力を付与することができる。
【0012】
本発明の別の局面では、動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機であって、上記外周クラッチは、複数の外周クラッチ用摩擦板と、該複数の外周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する外周クラッチ用締結ピストンと、該外周クラッチ用締結ピストンを後退させる外周クラッチ用リターンスプリングとを有し、上記内周クラッチは、複数の内周クラッチ用摩擦板と、該複数の内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する内周クラッチ用締結ピストンと、該内周クラッチ用締結ピストンを後退させる内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、上記複数の外周クラッチ用摩擦板は、上記外周クラッチ用締結ピストンに対して上記動力伝達軸の軸方向の一側に配設され、上記外周クラッチ用リターンスプリングは、上記軸方向における上記外周クラッチ用締結ピストンと上記外周クラッチ用摩擦板との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成され、上記複数の内周クラッチ用摩擦板は、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の他側に配設されていて、板バネ状部材で構成され、上記軸方向における上記内周クラッチ用締結ピストンと上記内周クラッチ用リターンスプリングとの間に配設され、上記内周クラッチを締結するための油圧が供給される内周クラッチ用締結油圧室と、上記内周クラッチ用締結油圧室の上記軸方向の上記他側の壁面を構成するとともに、該内周クラッチ用締結油圧室への上記油圧の供給を行うための、上記軸方向に垂直な方向に延びる油路が形成された油路形成部材とを更に備え、上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記軸方向に垂直な方向に延びる板バネ状部材で構成されていて、上記軸方向において上記油路と重なる位置に配設され、上記内周クラッチの径方向内側に配設された最内周クラッチを更に備え、上記最内周クラッチは、複数の最内周クラッチ用摩擦板と、該複数の最内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する最内周クラッチ用締結ピストンと、該最内周クラッチ用締結ピストンを後退させる最内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、上記複数の最内周クラッチ用摩擦板は、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、上記最内周クラッチ用リターンスプリングは、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側でかつ上記最内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されている
【0013】
このことにより、自動変速機の軸方向及び径方向の大型化を防止することができる。また、油路形成部材の油路が形成されていない部分に、内周クラッチ用リターンスプリングを配設することができ、内周クラッチを、動力伝達軸の軸方向により一層短くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の自動変速機によると、複数の外周クラッチ用摩擦板が、外周クラッチ用締結ピストンに対して動力伝達軸の軸方向の一側に配設され、外周クラッチ用リターンスプリングが、上記軸方向における上記外周クラッチ用締結ピストンと上記外周クラッチ用摩擦板との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成され、複数の内周クラッチ用摩擦板が、内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、内周クラッチ用リターンスプリングが、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の他側に配設されていて、板バネ状部材で構成され、複数の最内周クラッチ用摩擦板が、最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、最内周クラッチ用リターンスプリングが、上記最内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側でかつ上記最内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されていることにより、自動変速機の軸方向及び径方向の大型化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の要部を示す断面図(図2のI−I線に相当する断面図)である。
図2】油路形成部材を自動変速機の後側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機1の一部を示す。この自動変速機1は、車両(本実施形態では、FF車)の前部に、中心軸線Lを中心に回転可能な入力軸2(動力伝達軸に相当)が該車両の車幅方向に水平に延びるように搭載される。上記入力軸2は、図1の左側で、内燃機関や電動モータ等の駆動源(図示せず)と連結されて、その駆動源からの動力が伝達される。入力軸2は、動力源に直接連結されてもよく、例えばトルクコンバータや断接クラッチ等を介して間接的に連結されてもよい。上記入力軸2が延びる方向(図1の左右方向)が、動力伝達軸の軸方向であって、自動変速機1の軸方向であり、以下、この方向を単に軸方向という。自動変速機1の軸方向の上記駆動源側(図1の左側)が、自動変速機1の前側であり、反駆動源側(図1の右側)が、自動変速機1の後側である。図1は、自動変速機1の後側端部の近傍を示すことになる。以下、自動変速機1についての前及び後を、単に前及び後という。
【0018】
自動変速機1は、詳細な図示は省略するが、変速機ケース91内に、上記駆動源からの動力が伝達される上記入力軸2と、入力軸2と同軸上に配設された複数のプラネタリギヤセット(図示せず)と、入力軸2と同軸上に配設された複数の摩擦締結要素(図1には、そのうちの3つの摩擦締結要素である、後述の外周クラッチ5、内周クラッチ21及び最内周クラッチ41のみが示されている)と、上記複数のプラネタリギヤセットのうちのいずれか1つのプラネタリギヤセットに連結され、上記動力源からの動力が、上記複数の摩擦締結要素の締結及び締結解除に応じて上記複数のプラネタリギヤセットにより形成される動力伝達経路を介して伝達される出力部(例えば出力ギヤ)とを備えている。
【0019】
自動変速機1は、入力軸2上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ5及び内周クラッチ21を備えている。また、本実施形態では、内周クラッチ5の径方向内側に配設された最内周クラッチ41も備えている。これら外周クラッチ5、内周クラッチ21及び最内周クラッチ41は、入力軸2上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設されていることになる。
【0020】
外周クラッチ5は、複数の外周クラッチ用摩擦板6と、該摩擦板6に対して後側に配設され、該摩擦板6同士を係合させるために摩擦板6側(前側)に進出する外周クラッチ用締結ピストン7と、該締結ピストン7を反摩擦板6側(後側)に後退させる外周クラッチ用リターンスプリング8とを有している。締結ピストン7は、後述の油路形成部材61と後述のシールプレート16とにより、上記軸方向に移動可能に支持されている。
【0021】
複数の外周クラッチ用摩擦板6は、該摩擦板6の径方向外側に配設されたドラム部10の内周面に、スプライン嵌合により上記軸方向に移動可能に取り付けられたドラム部側摩擦板6aと、摩擦板6の径方向内側に配設されたハブ部11の外周面に、スプライン嵌合により上記軸方向に移動可能に取り付けられたハブ部側摩擦板6bとからなる。
【0022】
外周クラッチ用締結ピストン7の後側には、外周クラッチ5を締結するための締結油圧が供給される外周クラッチ用締結油圧室14が設けられ、該締結ピストン7の前側には、外周クラッチ用遠心バランス室15が設けられている。外周クラッチ5の非締結時に、締結油圧室14内の作動油が遠心力により入力軸2から遠い側に移動することにより、締結ピストン7を摩擦板6の側へ移動させようとするが、この移動を、リターンスプリング8と共に阻止するために遠心バランス室15にバランス油圧が供給される。締結油圧室14は、締結ピストン7と後に詳述する油路形成部材61とにより画成され、遠心バランス室15は、締結ピストン7とシールプレート16とにより画成される。そして、締結油圧室14に締結油圧が供給されて、締結ピストン7が上記進出により摩擦板6を前側に押すことで、摩擦板6同士(ドラム部側摩擦板6a及びハブ部側摩擦板6b同士)が係合されて、外周クラッチ5が締結状態となる。尚、摩擦板6の前側には、摩擦板6の前側への移動を規制する規制部材18が設けられている。
【0023】
内周クラッチ21は、複数の内周クラッチ用摩擦板22と、該摩擦板22に対して後側に配設され、該摩擦板22同士を係合させるために摩擦板22側(前側)に進出する内周クラッチ用締結ピストン23と、該締結ピストン23を反摩擦板22側(後側)に後退させる内周クラッチ用リターンスプリング24とを有している。締結ピストン23は、シールプレート16と後述のシールプレート32と支持部材35とにより、上記軸方向に移動可能に支持されている。
【0024】
複数の内周クラッチ用摩擦板22は、該摩擦板22の径方向外側に配設されたドラム部26の内周面に、スプライン嵌合により上記軸方向に移動可能に取り付けられたドラム部側摩擦板22aと、摩擦板22の径方向内側に配設されたハブ部を兼ねる後述のドラム部46の外周面に、スプライン嵌合により上記軸方向に移動可能に取り付けられたハブ部側摩擦板22bとからなる。
【0025】
内周クラッチ用締結ピストン23の後側には、内周クラッチ21を締結するための締結油圧が供給される内周クラッチ用締結油圧室30が設けられ、該締結ピストン23の前側には、内周クラッチ用遠心バランス室31が設けられている。この遠心バランス室31も、上記外周クラッチ用遠心バランス室16と同様の役割を果たす。締結油圧室30は、締結ピストン23と油路形成部材61とにより画成され、遠心バランス室31は、締結ピストン23とシールプレート32とにより画成される。そして、締結油圧室30に締結油圧が供給されて、締結ピストン23が上記進出により摩擦板を前側に押すことで、摩擦板22同士(ドラム部側摩擦板22a及びハブ部側摩擦板22b同士)が係合されて、内周クラッチ21が締結状態となる。尚、摩擦板22の前側には、摩擦板22の前側への移動を規制する規制部材34が設けられている。
【0026】
最内周クラッチ41は、複数の最内周クラッチ用摩擦板42と、該摩擦板42に対して後側に配設され、該摩擦板42同士を係合させるために摩擦板42側(前側)に進出する最内周クラッチ用締結ピストン43と、該締結ピストン43を反摩擦板42側(後側)に後退させる最内周クラッチ用リターンスプリング44とを有している。締結ピストン43は、シールプレート32と後述のシールプレート52と支持部材53とにより、上記軸方向に移動可能に支持されている。
【0027】
複数の最内周クラッチ用摩擦板42は、該摩擦板42の径方向外側に配設されかつ上記ハブ部を兼ねるドラム部46の内周面に、スプライン嵌合により上記軸方向に移動可能に取り付けられたドラム部側摩擦板42aと、該摩擦板42の径方向内側に配設されたハブ部47の外周面に、スプライン嵌合により上記軸方向に移動可能に取り付けられたハブ部側摩擦板42bとからなる。
【0028】
最内周クラッチ用締結ピストン43の後側には、最内周クラッチ41を締結するための締結油圧が供給される最内周クラッチ用締結油圧室50が設けられ、該締結ピストン43の前側には、最内周クラッチ用遠心バランス室51が設けられている。この遠心バランス室51も、外周クラッチ用遠心バランス室15と同様の役割を果たす。締結油圧室40は、締結ピストン43と油路形成部材61とにより画成され、遠心バランス室51は、締結ピストン43とシールプレート52と油路形成部材61(詳しくは、後述の軸方向延設部61a)とにより画成される。そして、締結油圧室50に締結油圧が供給されて、締結ピストン43が上記進出により摩擦板42を前側に押すことで、摩擦板42同士(ドラム部側摩擦板42a及びハブ部側摩擦板42b同士)が係合されて、最内周クラッチ41が締結状態となる。尚、摩擦板42の前側には、摩擦板42の前側への移動を規制する規制部材54が設けられている。
【0029】
油路形成部材61は、変速機ケース91の後端壁部91aの中心部から変速機ケース91内側に突出した突出部91bの外周面に回転可能に設けられかつ上記軸方向に延びる軸方向延設部61aと、3つの締結油圧室14,30,50の後側に位置しかつ円板状に拡がるように形成された円板状部61b(図1及び図2参照)とを有している。円板状部61bの外周縁部は、上記ドラム部10に対して上記軸方向に移動可能にかつ入力軸2の中心軸線L回りに一体回転するように連結されている。円板状部61bの前側の面は、上記締結油圧室14,30,50の後側の壁面を構成する。軸方向延設部61aの前側の面には、後述の第2〜第4接続油路63〜65の下流側油路63b,64b,65bの前側の開口端を閉塞する閉塞部材67を介してスラストベアリング68が配設され、軸方向延設部61aの後側の面にも、スラストベアリング68が配設されている。前側のスラストベアリング68は、その前側に位置する不図示の回転部材に当接し、後側のスラストベアリング68は変速機ケース91の後端壁部91aに当接している。これにより、油路形成部材61の上記軸方向の移動が規制される。
【0030】
突出部91の前側端面には、後側に凹む凹陥部91cが形成され、この凹陥部91c内に、入力軸2の後側端部が進入している。そして、この入力軸2の後側端部が、凹陥部91cの内周面に設けられたベアリング3を介して、突出部91bに支持されている。
【0031】
上記変速機ケース91の後端壁部91aには、上記締結油圧室14,30,50及び上記遠心バランス室15,31,51に油圧(締結油圧及びバランス油圧)を供給するための、径方向に延びる油圧供給路81が形成されている。この油圧供給路81は、その径方向内側の端部で、上記突出部91bにおいて上記軸方向に延びる軸方向油路82に接続されている。また、突出部91bには、上記軸方向の互いに異なる位置で軸方向油路82に接続されかつ径方向に延びる第1〜第4径方向油路83〜86が形成されている。
【0032】
油路形成部材61の軸方向延設部61aには、上記軸方向における第1径方向油路83と対応する位置に、第1径方向油路83と最内周クラッチ用遠心バランス室51とを接続する第1接続油路62が形成され、軸方向油路82から、第1径方向油路83及び第1接続油路62を介して、遠心バランス室51にバランス油圧が供給される。この遠心バランス室51に供給されたバランス油圧は、締結ピストン43及びシールプレート32にそれぞれ形成された油路43a,32aを介して、内周クラッチ用遠心バランス室31に供給され、この遠心バランス室31に供給されたバランス油圧は、締結ピストン23及びシールプレート16にそれぞれ形成された油路23a,16aを介して、外周クラッチ用遠心バランス室15に供給される。
【0033】
また、油路形成部材61の軸方向延設部61a及び円板状部61bには、第2〜第4径方向油路84〜86と締結油圧室14,30,50とをそれぞれ接続して、締結油圧室14,30,50に締結油圧をそれぞれ供給するための第2〜第4接続油路63〜65が形成されている。これら第2〜第4接続油路63〜65は、軸方向延設部61aにおいて上記軸方向に延びる上流側油路63a,64a,65aと、円板状部61bにおいて径方向に延びる下流側油路63b,64b,65bとで構成されている(図1及び図2参照)。下流側油路63bは、円板状部61bに形成された接続口63cを介して締結油圧室14に接続され、下流側油路64bは、円板状部61bに形成された接続口64cを介して締結油圧室30に接続され、下流側油路65bは、円板状部61bに形成された接続口65cを介して締結油圧室50に接続される(図1及び図2参照)。尚、図1には、第2〜第4接続油路63〜65のうち第2接続油路63の上流側油路63a及び下流側油路63b並びに接続口63c並びに接続口63cのみが示されている。
【0034】
第2〜第4接続油路63〜65の上流側油路63a,64a,65aは、上記軸方向における上記第2〜第4径方向油路84〜86とそれぞれ対応する位置でかつ径方向で互いに異なる位置で第2〜第4径方向油路84〜86とそれぞれ接続される。
【0035】
図2に示すように、第2〜第4接続油路63〜65の下流側油路63b,64b,65bは、油路形成部材61の円板状部61bにおいて該円板状部61bの周方向に略等間隔をあけて(中心軸線L回りの角度で約60°おきに)配置されている。第2径方向油路84と締結油圧室14とを接続する第2接続油路63(上流側油路63a及び下流側油路63b)は、2つあり、上記中心軸線L回りの角度で互いに180°をなす位置に配置されている。これら2つの第2接続油路63の下流側油路63bは、上記軸方向から見て、中心軸線Lと交わる直線上に位置することになる(図2参照)。また、第3径方向油路85と締結油圧室30とを接続する第3接続油路64、及び、第4径方向油路86と締結油圧室50とを接続する第4接続油路65も、第2接続油路63と同様である。
【0036】
油路形成部材61の円板状部61bの後側の面における上記第2〜第4接続油路63〜65に対応する部分は、該第2〜第4接続油路63〜65を形成するために後側に突出してなるリブ61cとされている。円板状部61bの後側の面における上記リブ61cの間の部分(6つの扇状の部分)は、リブ61cに対して凹んでいることになる。
【0037】
上記外周クラッチ用リターンスプリング8は、上記軸方向における外周クラッチ用締結ピストン7と該外周クラッチ用締結ピストン7に対して前側に配設された外周クラッチ用摩擦板6との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されている。リターンスプリング8は、入力軸2の周囲の周方向において、略等間隔をあけて複数配設されている。
【0038】
内周クラッチ用リターンスプリング24は、所定の幅でもって上記軸方向に垂直な方向(円板状部61bの径方向)に延びる板バネ状部材で構成されている。リターンスプリング24は、3つあり、これら3つのリターンスプリング24が、円板状部61bの後側の面における上記リブ61cの間の部分(扇状の部分)に、中心軸線L回りの角度で互いに120°をなすように配置されている。したがって、複数の内周クラッチ用摩擦板22は、内周クラッチ用締結ピストン23に対して上記軸方向の一側(前側)に配設され、内周クラッチ用リターンスプリング24は、内周クラッチ用締結ピストン23に対して上記軸方向の他側(後側)に配設されていることになる。また、内周クラッチ用締結油圧室30は、上記軸方向における内周クラッチ用締結ピストン23と内周クラッチ用リターンスプリング24との間に配設されることになる。尚、リターンスプリング24の数を、扇状の部分の数に対応させて6つにしてもよい(中心軸線L回りの角度で互いに60°をなすように配置される)。
【0039】
内周クラッチ用リターンスプリング24は、リブ61cに対して凹んだ扇状の部分に配設されていることから、上記軸方向において第2〜第4接続油路63〜65の下流側油路63b,64b,65bと重なる位置(上記軸方向において下流側油路63b,64b,65bと同じ位置)に配設されることになる。
【0040】
内周クラッチ用締結ピストン23は、円板状部61bの周方向における上記3つのリターンスプリング24と対応する位置で該円板状部61bを貫通して円板状部61bの後側へと延びる3つのピン状の突起部23bを有し、これら3つの突起部23bが、上記3つのリターンスプリング24の径方向外側の端部にそれぞれ連結固定されている。
【0041】
内周クラッチ用リターンスプリング24の2つに分岐した径方向内側端部は、円板状部61bの後側の面において僅かに後側に突出した被押圧部61dに当接して該被押圧部61dを前側に押圧する。この反力により、リターンスプリング24の径方向外側端部は、後側へ付勢されることになり、この付勢力によって内周クラッチ用締結ピストン23を後側へ後退させることが可能になる。尚、突起部23bの、円板状部61bにおける径方向の位置によっては、突起部23bをリターンスプリング24の径方向内側の端部に連結固定し、リターンスプリング24の径方向外側端部を被押圧部61dに当接させるようにすることも可能である。
【0042】
上記最内周クラッチ用リターンスプリング44は、最内周クラッチ用締結ピストン43に対して最内周クラッチ用摩擦板42と同じ側(前側)でかつ該最内周クラッチ用摩擦板8に対して径方向内側(締結ピストン43とシールプレート52との間)に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されている。リターンスプリング44は、入力軸2の周囲の周方向において、略等間隔をあけて複数配設されている。
【0043】
したがって、本実施形態では、複数の外周クラッチ用摩擦板6が、外周クラッチ用締結ピストン7に対して上記軸方向の一側(前側)に配設され、外周クラッチ用リターンスプリング8が、上記軸方向における外周クラッチ用締結ピストン7と外周クラッチ用摩擦板6との間に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されているが、このコイルスプリングの長さを出来る限り短くすることができる。すなわち、外周クラッチ用リターンスプリング8は、入力軸2から遠い位置に配設することができるので、動力伝達軸の周囲の周方向において多くのリターンスプリング8を並設することができる。これにより、1つのコイルスプリングの長さが短くても、多数のコイルスプリングにより、外周クラッチ用締結ピストン7に対して適切な付勢力を付与することが可能になる。このように外周クラッチ用リターンスプリング8のコイルスプリングの長さを短くすることで、外周クラッチ5は、上記軸方向に短くなる。また、複数の内周クラッチ用摩擦板22が、内周クラッチ用締結ピストン23に対して上記軸方向の上記一側(前側)に配設され、内周クラッチ用リターンスプリング24が、内周クラッチ用締結ピストン23に対して上記軸方向の他側(後側)に配設されていて、上記軸方向に垂直な方向(円板状部61bの径方向)に延びる板バネ状部材で構成されているので、内周クラッチ21も、上記軸方向に短くなるとともに、板バネ状部材の長さを長くしても、リターンスプリング24が外周クラッチ5及び最内周クラッチ41の構成部材と干渉することがない。これにより、板バネ状部材で構成された内周クラッチ用リターンスプリング24を、内周クラッチ用締結ピストン23に対して適切な付勢力が得られるようにしつつ、自動変速機1を、その軸方向に垂直な径方向に大きくすることなく容易に配設することができる。よって、自動変速機1の軸方向及び径方向の大型化を防止することができる。
【0044】
また、油路形成部材61の円板状部61bに、第2〜第4接続油路63〜65の下流側油路63b,64b,65bを形成することにより、円板状部61bの後側の面にリブ61cが形成されることになるが、円板状部61bの後側の面におけるリブ61cが形成されない部分に、リターンスプリング8,24を配設することで、外周クラッチ5及び内周クラッチ21を、上記軸方向により一層短くすることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、内周クラッチ21に対して径方向内側に配設された最内周クラッチ41を更に備え、この最内周クラッチ41の、コイルスプリングで構成されたリターンスプリング44が、最内周クラッチ用締結ピストン43に対して最内周クラッチ用摩擦板42と同じ側(前側)でかつ該最内周クラッチ用摩擦板8に対して径方向内側に配設されていることで、リターンスプリング44がコイルスプリングで構成されていても、最内周クラッチ41が上記軸方向に増大するのを抑制することがきる。また、コイルスプリングの径をかなり小さくすることで、最内周クラッチ41が径方向に増大するのを抑制することができる。このようにコイルスプリングの径をかなり小さくしても、コイルスプリングの長さを長くすることができるので、最内周クラッチ用締結ピストン43に対して適切な付勢力を付与することができる。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、内周クラッチ用リターンスプリング24を3つ(又は6つ)設けるようにしたが、これには限られず、リターンスプリング24の数はいくつであってもよく、1つであってもよい。但し、締結ピストン23を周方向において部分的に偏らせることなく後退させるためには、複数のリターンスプリング24を、上記実施形態のように、円板状部61bの周方向において、均一に配置するのがよい。
【0048】
さらに、第2〜第4接続油路63〜65の下流側油路63b,64b,65b(リブ61c)は、円板状部61bの周方向におけるリターンスプリング24の間(リターンスプリング24が存在しない部分)で径方向に延びるように配設するのであれば、どのように配設してもよい。
【0049】
さらにまた、上記実施形態では、内周クラッチ用リターンスプリング24を、所定の幅でもって円板状部61bの径方向に延びる板バネ状部材で構成して、複数のリターンスプリング24を設けたが、入力軸2の周囲全周を囲む皿バネ状部材で構成して、1つのリターンスプリング24のみを設けるようにしてもよい。この場合、上記皿バネ状部材の外周側端部(又は内周側端部)の複数箇所で、内周クラッチ用締結ピストン23の複数の突起部23bとそれぞれ連結固定し、上記皿バネ状部材の内周側端部(又は外周側端部)の全周が、上記板バネ状部材と同様に、円板状部61bの後側の面を前側に押圧するようにする。この反力により、上記板バネ状部材と同様に、上記皿バネ状部材の外周側端部(又は内周側端部)が後側へ付勢されることになり、この付勢力によって内周クラッチ用締結ピストン23を後側へ後退させることが可能になる。
【0050】
このようにリターンスプリング24を皿バネ状部材で構成する場合には、リターンスプリング24が、円板状部61bの後側の面における周方向の全体に配設されることになり、上記実施形態のように円板状部61bの後側の面におけるリブ61cが形成されない部分にリターンスプリング24を配設することはできなくなる。また、円板状部61bの後側の面にリブ61cを形成しない方が好ましい。しかし、第2〜第4接続油路63〜65の下流側油路63b,64b,65bがリターンスプリング24と干渉することがないので、例えばその数を増やすことで、下流側油路63b,64b,65bの径を小さくすることができ、これにより、円板状部61bの厚み(上記軸方向の長さ)を出来る限り小さくして、自動変速機1がその軸方向に長くなるのを抑制することができる。
【0051】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0052】
ここで、参考発明について説明する。この参考発明では、自動変速機の軸方向及び径方向の大型化を防止するという課題を解決するために、外周クラッチ用リターンスプリングを、外周クラッチ用締結ピストンに対して外周クラッチ用摩擦板とは反対側に配設して、板バネ状部材で構成し、内周クラッチ用リターンスプリングを、内周クラッチ用締結ピストンに対して内周クラッチ用摩擦板と同じ側でかつ内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設して、コイルスプリングで構成する。具体的に、参考発明は、以下のようになる。
【0053】
動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機であって、
上記外周クラッチは、複数の外周クラッチ用摩擦板と、該複数の外周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する外周クラッチ用締結ピストンと、該外周クラッチ用締結ピストンを後退させる外周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記内周クラッチは、複数の内周クラッチ用摩擦板と、該複数の内周クラッチ用摩擦板同士を係合させるように進出する内周クラッチ用締結ピストンと、該内周クラッチ用締結ピストンを後退させる内周クラッチ用リターンスプリングとを有し、
上記複数の外周クラッチ用摩擦板は、上記外周クラッチ用締結ピストンに対して上記動力伝達軸の軸方向の一側に配設され、
上記外周クラッチ用リターンスプリングは、上記外周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の他側に配設されていて、板バネ状部材で構成され、
上記複数の内周クラッチ用摩擦板は、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側に配設され、
上記内周クラッチ用リターンスプリングは、上記内周クラッチ用締結ピストンに対して上記軸方向の上記一側でかつ上記内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されていて、上記軸方向に延びるコイルスプリングで構成されていることを特徴とする自動変速機。
【0054】
この構成により、内周クラッチ用リターンスプリングが、動力伝達軸の軸方向において内周クラッチ用摩擦板と同じ側でかつ最内周クラッチ用締結ピストンに対して内周クラッチ用摩擦板に対して径方向内側に配設されているので、内周クラッチ用リターンスプリングがコイルスプリングで構成されていても、内周クラッチが動力伝達軸の軸方向に増大するのを抑制することがきる。また、コイルスプリングの径をかなり小さくすることで、内周クラッチが径方向に増大するのを抑制することができる。このようにコイルスプリングの径をかなり小さくしても、コイルスプリングの長さを長くすることができるので、内周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力を付与することができる。さらに、外周クラッチ用リターンスプリングは、板バネ状部材(動力伝達軸の周囲全周を囲む皿バネ状部材であってもよく、所定の幅でもって上記軸方向に垂直な方向に延びる板バネ状部材であってもよい)で構成されているので、外周クラッチも、動力伝達軸の軸方向に短くなる。ここで、外周クラッチ用リターンスプリングは、板バネ状部材で構成すると、外周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力を付与するためには、上記皿バネ状部材の場合にはその径が大きくなり、上記板バネ状部材の場合には、その長さが長くなる。この結果、外周クラッチは、動力伝達軸の軸方向に垂直な径方向に大きくなってしまう。しかし、この参考発明では、外周クラッチ用リターンスプリングが、外周クラッチ用締結ピストンに対して外周クラッチ用摩擦板とは反対側に配設されているので、板バネ状部材で構成された外周クラッチ用リターンスプリングを、外周クラッチ用締結ピストンに対して適切な付勢力が得られるようにしつつ、内周クラッチの構成部材と干渉することなく容易に配設することができる。よって、自動変速機の軸方向及び径方向の大型化を防止することができる。
【0055】
上記参考発明を実施するための形態は、上記で説明した実施形態と同じであり、上記実施形態の内周クラッチ21が、上記参考発明の「外周クラッチ」に相当し、上記実施形態の最内周クラッチ41が、上記参考発明の「内周クラッチ」に相当する。外周クラッチ5はなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、動力伝達軸上に、互いに径方向に重ねられた状態で配設された外周クラッチ及び内周クラッチを備えた自動変速機に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 自動変速機
2 入力軸(動力伝達軸)
5 外周クラッチ
6 外周クラッチ用摩擦板
7 外周クラッチ用締結ピストン
8 外周クラッチ用リターンスプリング
14 外周クラッチ用締結油圧室
21 内周クラッチ
22 内周クラッチ用摩擦板
23 内周クラッチ用締結ピストン
24 内周クラッチ用リターンスプリング
30 内周クラッチ用締結油圧室
41 最内周クラッチ
42 最内周クラッチ用摩擦板
43 最内周クラッチ用締結ピストン
44 最内周クラッチ用リターンスプリング
61 油路形成部材
64b 第3接続油路の下流側油路(内周クラッチ用締結油圧室への油圧供給を行うための、動力伝達軸の軸方向に垂直な方向に延びる油路)
図1
図2