(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記自在継手は、前記第1動力伝達軸の他端に設けられた被収容部と、該被収容部を収容するように前記第3動力伝達軸の一端に設けられた筒状部と、該筒状部の外周と前記第1動力伝達軸の外周とに跨がって軸方向に伸縮可能に設けられたブーツ部と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両の動力伝達構造。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃費性能の改善を図ることを目的として、運転状態に応じて減筒運転を行うことがある。また、ガソリンエンジンにおいて所定領域で自己着火燃焼を行う予混合圧縮着火(HCCI)技術の開発が進められており、該HCCI燃焼を行うことによっても、燃費性能を改善することができる。
【0003】
ところが、減筒運転やHCCI燃焼を行うと、エンジンの燃焼が不安定化し、トルク変動等による振動が増大しやすくなる。エンジンの振動は、変速機及び差動装置を介して、差動装置と駆動輪とを連結するドライブシャフトに伝達される。ドライブシャフトに伝達された振動がサスペンションアーム等を介して車体に伝達されると、車室内の不快な振動及び騒音の原因となる。
【0004】
エンジンから変速機に伝達される振動は、トルクコンバータによって吸収可能であるが、トルクコンバータのロックアップ状態又はそもそもトルクコンバータが搭載されないパワートレインでは、エンジンと変速機とが直結されることになるため、トルクコンバータによる振動吸収を実現できない。そのため、燃費向上のためにロックアップ領域を拡大したり、自動変速機の多段化等によってトルクコンバータを廃止したりした場合、上記の振動及び騒音の問題を助長することになる。
【0005】
また、動力伝達系の振動には、上記のようにエンジンを起振源とするもののほか、変速機や差動装置におけるギヤの噛み合い振動、ドライブシャフト上の自在継手におけるトルク反転時の衝撃によるねじり振動などがあり、これらの振動がドライブシャフトを介して車体に伝わると、上記と同様の問題が起こる。
【0006】
以上のような動力伝達系の振動を抑制するために、特許文献1には、差動装置と駆動輪とを連結するドライブシャフト上にダンパを配置し、このダンパによって、エンジンや変速機、差動装置等でなる動力源からの振動を吸収するようにした技術が開示されている。具体的に、このダンパは、ドライブシャフトに配置された一対の自在継手の間に配置され、これらのうち動力源側の自在継手から車輪側に延びるシャフトの先端に設けられた軸部と、車輪側の自在継手から動力源側に延びるシャフトの先端に設けられた筒部とを備え、これら軸部と筒部とは弾性部材を介して互いに嵌合している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているようにドライブシャフト上にダンパを設ける場合、車両に大きな衝撃荷重が加わるときであってもダンパ機能が維持されるように、ダンパの強度を高くしておく必要がある。その結果、ダンパ自体が大型化するため、ダンパの車両への搭載性が悪化する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、大きな衝撃荷重がダンパに加わる際にもダンパ機能が維持されるようにしつつ、ダンパの大型化に伴う車両搭載性の悪化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両の動力伝達構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
エンジンを含む動力源と駆動輪とを連結するドライブシャフト上に自在継手とダンパが軸方向に間隔を空けて設けられ、
前記ドライブシャフトは、前記自在継手と前記ダンパとを連結する第1動力伝達軸と、一端において前記ダンパを介して前記第1動力伝達軸の一端に連結された第2動力伝達軸と、一端において前記自在継手を介して前記第1動力伝達軸の他端に連結された第3動力伝達軸と、を備え、
前記ダンパは、前記第1動力伝達軸の一端又は前記第2動力伝達軸の一端のいずれか一方に設けられて先端に開口部を有する筒部と、前記第1動力伝達軸の一端又は前記第2動力伝達軸の一端のいずれか他方に設けられて先端部が前記筒部内に収容された軸部と、前記軸部と前記筒部との間に介装された弾性部材とを備えた、車両の動力伝達構造であって、
前記ダンパは、前記弾性部材よりも前記開口部側の軸方向位置において前記軸部の外周と前記筒部の内周との間に介在する軸受と、前記軸受よりも前記開口部とは反対側の軸方向位置において前記軸部の外周から径方向外側に突出した拡径部と、前記軸受よりも前記開口部側の軸方向位置において前記筒部の内周から径方向内側に突出した抜け止め部と、を備え、
該抜け止め部による前記ダンパの抜け強度は、前記自在継手の抜け強度よりも大き
く、
前記抜け止め部は、前記筒部の内周に形成された周溝に縮径された状態で装着されたスナップリングで構成されており、
前記ダンパは、車両前後方向における前記エンジンよりも後側、且つ、車幅方向における前記自在継手よりも外側に配置され、
前記筒部は、前記第1動力伝達軸の一端から車幅方向に沿って外側へ延びるように配置され、
前記開口部は、前記エンジンよりも車幅方向外側に配置されていることを特徴とする。
【0012】
本明細書において、「抜け強度」という用語は、第1の軸の端部に設けられた筒状部の内側に、第2の軸の端部に設けられた被収容部が嵌合された構造において、筒状部から被収容部を抜き出すように第1及び第2の軸を軸方向に引っ張る場合に、筒状部からの被収容部の抜け止め機能が失われる直前の引張力の大きさを意味するものとする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記自在継手は、前記第1動力伝達軸の他端に設けられた被収容部と、該被収容部を収容するように前記第3動力伝達軸の一端に設けられた筒状部と、該筒状部の外周と前記第1動力伝達軸の外周とに跨がって軸方向に伸縮可能に設けられたブーツ部と、を備えていることを特徴とする。
【0015】
また、
請求項3に記載の発明は、請求項1
または請求項2に記載の発明において、
前記ダンパは、前記弾性部材よりも軸方向の開口部側に配置された前記軸受に加えて、前記弾性部材よりも軸方向の反開口部側に配置された軸受を備え、
前記開口部側の軸受は、前記反開口部側の軸受よりも大径であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、ドライブシャフト上に、自在継手よりも抜け強度が大きいダンパが設けられるため、車両に大きな衝撃荷重が加わった際に、ドライブシャフトに曲げ荷重や動力源と駆動輪との間の軸方向距離を拡げるような荷重を、ダンパよりも抜け強度が小さい自在継手に作用させることができる。そのため、ダンパに作用する荷重を軽減でき、これにより、ダンパ機能を維持するために要求されるダンパの強度を低減できる。したがって、良好なダンパ機能を確保しつつ、ダンパの大型化を抑制することが可能になり、ダンパの車両への搭載性が悪化することを抑制できる。
また、ダンパの筒部の開口部は、エンジンよりも車幅方向外側に配置され、筒部におけるエンジンから最も遠い部分に配置される。そのため、例えば車両前方から車両に大きな衝撃荷重が加わった際にエンジンが後退して、筒部における開口部側部分に、ひいては、筒部内周の周溝に装着されたスナップリングで構成されたダンパの抜け止め部に、衝撃荷重が直接的に加わることを抑制できる。したがって、ダンパに必要な強度が低くなることから、ダンパの大型化を抑制することが可能になり、ダンパの車両への搭載性が悪化することを抑制できる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、自在継手に伸縮可能なブーツ部が設けられているため、車両に大きな衝撃荷重が加わった際に、ドライブシャフトに曲げ荷重や動力源と駆動輪との間の軸方向距離を拡げるような荷重が自在継手に作用することで、該自在継手において筒状部から被収容部が抜け外れる場合であっても、被収容部をブーツ部に収容することができる。
【0019】
また、
請求項3に記載の発明によれば、ダンパに設けられた開口部側の軸受及び反開口部側の軸受のうち径がより大きな開口部側の軸受によって、拡径部の抜け方向への移動が規制されるため、より確実なダンパの抜け止めを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「前後」、「右」、「左」、「左右」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、車両の進行方向を向いた姿勢で見た方向を指すものとする。
【0022】
図1は、本実施形態に係る車両の動力伝達装置1を示す平面図である。
【0023】
図1に示すように、該動力伝達装置1は、フロントエンジン・フロントドライブ式の車両(FF車)に搭載されるものであり、例えばエンジンルームに搭載される動力源2と、左右の駆動輪28を動力源2に連結する左右一対のドライブシャフト10(10a,10b)とを備えている。
【0024】
動力源2は、横置き式のエンジン3と、該エンジン3の車幅方向の例えば左側に並設されたトランスアクスル4とを備えている。トランスアクスル4は、例えばトルクコンバータ(図示せず)を介してエンジン3の出力軸に連結された変速機6と、該変速機6の出力を左右のドライブシャフト10に伝達する差動装置8とを備えている。変速機6及び差動装置8は、車幅方向において中央よりも左側にオフセットして配置されている。差動装置8、該差動装置8に連結された左右のドライブシャフト10a,10b、及び、これらのドライブシャフト10a,10b上に設けられた各種構成部材は、車両前後方向においてエンジン3よりも後側に配置されている。
【0025】
各ドライブシャフト10は、全長に亘って車幅方向に延びるように配置されている。各ドライブシャフト10上には、デフ側等速ジョイント21及びホイール側等速ジョイント22が車幅方向に間隔を空けて差動装置側からこの順で設けられている。これにより、ドライブシャフト10におけるデフ側等速ジョイント21よりも駆動輪側の部分は、路面の凹凸に応じてデフ側等速ジョイント21を軸として上下に揺動可能となっている。
【0026】
各ドライブシャフト10は、差動装置8からデフ側等速ジョイント21まで延びるデフ側シャフト11(11a,11b)と、駆動輪28からホイール側等速ジョイント22まで延びるホイール側シャフト12と、一対の等速ジョイント21,22を繋ぐ中間シャフト15とを備えている。中間シャフト15は、デフ側等速ジョイント21から駆動輪側に向かって延びる第1中間シャフト13と、ホイール側等速ジョイント22から差動装置側に向かって延びる第2中間シャフト14とで構成されている。
【0027】
デフ側及びホイール側の等速ジョイント21,22はそれぞれ左右対称に配置されており、これにより、左右の中間シャフト15の長さ、及び、左右のホイール側シャフト12の長さは、それぞれ等しくなっている。したがって、上述した路面の凹凸に応じたドライブシャフト10の揺動に関して、左右のドライブシャフト10a,10bで同様の挙動が可能となっている。
【0028】
一方、デフ側シャフト11a,11bの長さは左右で異なっており、右側のデフ側シャフト11aが左側のデフ側シャフト11bよりも長くなっている。なお、右側のデフ側シャフト11aは、ブラケット29を介して車体に固定されている。
【0029】
また、各ドライブシャフト10上において、一対の等速ジョイント21,22の間、すなわち中間シャフト15上にはダンパ30が配設されている。該ダンパ30が動力源2からドライブシャフト10に伝わる振動を吸収することで、サスペンションアーム(図示せず)等を介した車体への振動伝達、ひいては車室内の不快な振動及び騒音が抑制される。これらのダンパ30の配置は左右対称となっており、左右いずれのドライブシャフト10a,10bにおいても、ダンパ30による振動吸収効果を同様に得られるようになっている。
【0030】
図2を参照しながら、デフ側等速ジョイント21の構造について説明する。
図2は、右側のドライブシャフト10aに設けられたデフ側等速ジョイント21を示す断面図である。なお、左側のドライブシャフト10bに設けられたデフ側等速ジョイント21は、
図2に示すデフ側等速ジョイント21と左右対称の構造を有する。
【0031】
図2に示すように、デフ側等速ジョイント21は、デフ側シャフト11aの駆動輪側端部に設けられた外輪70と、第1中間シャフト13の差動装置側端部に取り付けられた内輪74と、外輪70と内輪74との間に介装された複数のボール78と、これらのボール78を保持するケージ80とを備えている。
【0032】
外輪70は、駆動輪側に開口するように軸方向に延びる筒状部で構成されている。外輪70の内周には、ボール78の個数と同数のボール溝72がそれぞれ軸方向に延設されている。また、外輪70の内周には、ボール溝72よりも駆動輪側の軸方向位置において、周溝82が全周に亘って設けられており、該周溝82に、C形のスナップリング84が縮径するように弾性変形した状態で装着されている。スナップリング84は、拡径方向に作用する復元力によって周溝82の底部に押し当てられることで、該周溝82内に保持されている。
【0033】
内輪74には、該内輪74を軸方向に貫通する挿入穴75が設けられている。該挿入穴75には第1中間シャフト13の差動装置側端部が圧入されており、挿入穴75の内周と第1中間シャフト13の外周とがスプライン嵌合している。内輪74の外周には、ボール78の個数と同数のボール溝76がそれぞれ軸方向に延設されている。各ボール78は、外輪70のボール溝72と内輪74のボール溝76とに嵌まり込んでおり、これらのボール溝72,76に沿って軸方向に転動可能となっている。
【0034】
上記のように第1中間シャフト13の差動装置側端部に固定された内輪74、並びに、上記のように該内輪74に係合したボール78及びケージ80を含む各種部品は、外輪70の内部に収容されており、これらの部品からなる被収容部81は、抜け止め部としてのスナップリング84にボール78が干渉することにより外輪70からの脱落が規制されている。
【0035】
デフ側等速ジョイント21の抜け強度は、例えば900N以上1100N以下であることが好ましく、このような抜け強度が実現されるように周溝82及びスナップリング84が構成されている。ここでいう「デフ側等速ジョイント21の抜け強度」とは、外輪70から被収容部81を抜き出すようにデフ側シャフト11a及び第1中間シャフト13を軸方向に引っ張る場合に、スナップリング84による外輪70からの被収容部81の抜け止め機能が失われる直前の引張力の大きさを意味する。
【0036】
また、デフ側等速ジョイント21は、外輪70の外周と第1中間シャフト13の外周とに跨がって設けられたブーツ86を備えている。ブーツ86は、外輪70の外周及び第1中間シャフト13の外周に対してそれぞれブーツバンド88,89を用いて固定されている。ブーツ86は、軸方向に伸縮可能なように蛇腹状に形成されている。
【0037】
続いて、
図3及び
図4を参照しながら、ダンパ30の構造について説明する。
図3は、右側の中間シャフト15に設けられたダンパ30を軸方向差動装置側から見た断面図であり、
図4は、
図3に示すダンパ30のA−A線断面図である。なお、左側のダンパ30は、右側のダンパ30と左右対称の構造を有する。
【0038】
図3及び
図4に示すように、ダンパ30は、第1中間シャフト13の駆動輪側先端に車幅方向に延びるように設けられた筒部32と、該筒部32内に収容されるように第2中間シャフト14と一体に設けられた軸部50とを備えている。
【0039】
図3に示すように、筒部32の内周には、周方向に間隔を空けて複数の凹部34が設けられている。また、筒部32の内周には、径方向内側に突出した複数の仕切り部36が設けられている。各仕切り部36は、周方向において隣接する一対の凹部34間の中間部に配置されている。仕切り部36の径方向内側端部は軸部50の外周近傍に配置されている。
【0040】
軸部50の外周には、周方向に間隔を空けて複数のフィン部52が突設されている。各フィン部52は、周方向において隣接する一対の仕切り部36間の中間部に配置されている。フィン部52の径方向外側端部は凹部34内に配置されている。フィン部52と凹部34の側壁との間には間隙46が設けられている。これにより、筒部32と軸部50との相対回転が所定角度範囲で許容されると共に、該範囲を超える相対回転は、フィン部52と凹部34の側壁との干渉によって阻止され、これにより、動力源側から伝えられた第1中間シャフト13の回転を、ダンパ30を介して第2中間シャフト14へ確実に伝達することができる。
【0041】
周方向において隣接するフィン部52と仕切り部36との間には、例えば断面扇形の弾性部材60が介装されている。弾性部材60は例えばゴムからなる。弾性部材60は、フィン部52の側面及び仕切り部36の側面にそれぞれ接着又はその他の方法で位置決めされている。弾性部材60は、軸部50と筒部32との相対回転を許容するように弾性変形可能となっている。具体的に、筒部32に対して軸部50が相対回転すると、フィン部52を挟んだ一方の弾性部材60は圧縮変形する。このように構成された弾性部材60によって、動力源2からドライブシャフト10a,10bに伝わるねじり振動等の各種振動を減衰させることができる。
【0042】
図4に示すように、筒部32は、軸方向基端側を閉塞する底部32aと、軸方向末端側を開放する開口部32bとを備えている。なお、開口部32bは、シール部材44によってシールされている。
【0043】
筒部32は、車幅方向に沿って、エンジン3よりも車幅方向外側に配置されている(
図1参照)。筒部32は車幅方向外側に開口しているため、該開口部32bは、筒部32におけるエンジン3から最も遠い部分に配置されている。このように筒部32が配置されていることによって、例えば車両前方から車両に大きな衝撃荷重が加わった際にエンジン3が後退して、ダンパ30の筒部32、特に開口部32bの周辺部に装着されたスナップリング(抜け止め部)42に衝撃荷重が直接的に作用することを抑制できるようになっている。
【0044】
なお、必ずしも筒部32の全体がエンジン3よりも車幅方向外側に配置される必要はなく、少なくとも開口部32bがエンジン3よりも車幅方向外側に配置されるように、エンジン3と筒部32を車幅方向にオーバーラップして配置してもよい。
【0045】
軸部50の外周と筒部32の内周との間には、軸部50の差動装置側端部を支持する第1軸受37と、該第1軸受37よりも駆動輪側において軸部50を支持する第2軸受38とが介装されている。上述した凹部34、仕切り部36、フィン部52及び弾性部材60は、第1及び第2の軸受37,38間において軸方向に延びるように設けられている。
【0046】
軸部50の差動装置側端部は、残りの部分に比べて縮径された小径部51となっており、該小径部51は、弾性部材60よりも差動装置側の軸方向位置において第1軸受37を介して筒部32に支持されている。
【0047】
弾性部材60よりも駆動輪側の軸方向位置には、軸部50の外周から径方向外側に突出した環状の拡径部54が設けられている。拡径部54は、軸部50と一体に設けられている。ただし、拡径部の構成はこれに限定されるものでなく、例えば、軸部50の外周に設けた周溝に拡径された状態で装着されたスナップリングで構成されてもよい。
【0048】
第2軸受38は、拡径部54よりも開口部32b側の軸方向位置に配置されている。第2軸受38は第1軸受37よりも大径となっている。より詳細には、第2軸受38の内径が第1軸受37の外径よりも大きくなっている。
【0049】
第2軸受38よりも更に開口部32b側の軸方向位置には、筒部32の内周から径方向内側に突出した抜け止め部として、C形のスナップリング42が設けられている。スナップリング42は、縮径するように弾性変形した状態で、筒部32の内周に全周に亘って設けられた周溝40に装着されている。このスナップリング42は、拡径方向に作用する復元力によって周溝40の底部に押し当てられることで、該周溝40内に保持されている。
【0050】
ところで、例えば、軸部50の外周面に形成された周溝にスナップリングを拡径するように弾性変形した状態で装着し、該スナップリングでダンパ30の抜け止め部を構成することも考えられるが、このようなスナップリングに比べて、筒部32の周溝40に装着された上記スナップリング42は大径となる。該比較的大径のスナップリング42で構成された本実施形態の抜け止め部は、比較的小径のものに比べて、より高い抜け止め機能を発揮することができる。
【0051】
このように、第2軸受38は、拡径部54とスナップリング(抜け止め部)42とによって軸方向の両側から挟み込まれるように配置されている。開口部32b側への軸部50の移動は、拡径部54と第2軸受38の内輪との干渉によって規制される。ここで、第2軸受38は、上記のように第1軸受37よりも大径であるため、拡径部54と第2軸受38の内輪との干渉による抜け止めを確実に行うことができる。また、開口部32b側への第2軸受38及び軸部50の移動は、第2軸受38の外輪とスナップリング(抜け止め部)42との干渉によって規制されている。このように、軸部50の開口部32b側への移動規制(抜け止め)は、最終的に、スナップリング(抜け止め部)42により実現されている。
【0052】
また、上述したように、開口部32bは、筒部32におけるエンジン3から最も遠い部分に配置されているため、例えば車両前方から車両に大きな衝撃荷重が加わった際にエンジン3が後退して、筒部32における開口部32b側部分、特にスナップリング(抜け止め部)42に衝撃荷重が作用することを抑制できる。これにより、ダンパ30の強度を低くすることが可能となり、ダンパ30の小型化を実現できるので、車両搭載性を向上することができる。
【0053】
スナップリング(抜け止め部)42によるダンパ30の抜け強度は、上述したデフ側等速ジョイント21(
図2参照)の抜け強度よりも大きく、具体的には、例えば1200N以上1400N以下であることが好ましい。第2軸受38、拡径部54、スナップリング42(抜け止め部)及び周溝40の寸法や素材等の具体的な構成は、このようなダンパ30の抜け強度が実現されるように決定されている。
【0054】
ここでいう「ダンパ30の抜け強度」とは、筒部32から軸部50を抜き出すように第1中間シャフト13及び第2中間シャフト14を軸方向に引っ張る場合に、第2軸受38の内輪と拡径部54との干渉及び第2軸受38の外輪とスナップリング42との干渉による軸部50の移動の規制が果たせなくなることによって、筒部32からの軸部50の抜け止め機能が失われる直前の引張力の大きさを意味する。
【0055】
ダンパ30の抜け強度はデフ側等速ジョイント21の抜け強度よりも大きいため、例えば車両前方から車両に大きな衝撃荷重が加わった際に、ドライブシャフト10に曲げ荷重や差動装置8と駆動輪28との間の軸方向距離を拡げるような荷重を、ダンパ30よりも抜け強度が小さいデフ側等速ジョイント21に作用させることができる。そのため、ダンパ30の強度を低くすることが可能となり、これにより、ダンパ30の大型化を抑制できるため、ダンパ30の車両への搭載性が悪化することを抑制できる。
【0056】
また、車両に大きな衝撃荷重が加わった際に、ドライブシャフト10に曲げ荷重や差動装置8と駆動輪28との間の軸方向距離を拡げるような荷重がデフ側等速ジョイント21に作用して、仮に、デフ側等速ジョイント21の外輪70から被収容部81を含む各種部品が脱落した場合であっても、該部品をブーツ86に収容することができる。
【0057】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
例えば、上述の実施形態では、ダンパ30の筒部32が、第1動力伝達軸(第1中間シャフト13)の駆動輪側先端に設けられ、軸部50が、第2動力伝達軸(第2中間シャフト14)の動力源側先端に設けられる場合について説明したが、本発明は、第1動力伝達軸の駆動輪側先端にダンパの軸部が設けられ、第2動力伝達軸の動力源側先端にダンパの筒部が設けられる場合にも適用できる。
【0059】
また、
図3及び
図4に示すダンパ30の構造は一例に過ぎず、本発明において、抜け止め構造を含むダンパの具体的な構造は特に限定されるものでない。したがって、本発明では、上述した第2軸受38、拡径部54及びスナップリング42からなる抜け止め構造に代えて、公知の種々の抜け止め構造を採用可能である。
【0060】
さらに、上述の実施形態では、車両に大きな衝撃荷重が加わった際に、ドライブシャフト10に曲げ荷重や差動装置8と駆動輪28との間の軸方向距離を拡げるような荷重がデフ側等速ジョイント21に作用して、デフ側等速ジョイント21の外輪70から被収容部81が抜け外れる場合に、該被収容部81がブーツ86に収容され得る形態について説明したが、本発明には、被収容部81がブーツ86に収容されない形態も含まれるものとする。この場合、例えば、外輪70と被収容部81との嵌合状態における軸方向の外輪70と被収容部81との許容相対移動量を大きくすることで、外輪70と被収容部81との嵌合状態を維持しやすくなる。したがって、この場合、ブーツ86を省略することが可能である。
【0061】
またさらに、上述の実施形態では、ドライブシャフト上に設けられる自在継手として、
図2に示す等速ジョイント21を用いる場合について説明したが、本発明における自在継手は、上述したものと異なるタイプの等速ジョイント、又は、等速ジョイント以外の自在継手であってもよい。
【0062】
また、本発明において、自在継手の抜け止め構造は、上述したようなスナップリング84からなるものに限定されるものでなく、例えばかしめ等、公知の種々の抜け止め構造を採用してもよいし、自在継手には、必ずしも抜け止め構造を設けなくてもよい。
【0063】
さらに、上述の実施形態では、ドライブシャフト上においてダンパよりも動力源側に配置された自在継手(デフ側等速ジョイント21)の抜け強度が、ダンパの抜け強度よりも小さい場合について説明したが、本発明では、ダンパよりも駆動輪側に配置された自在継手(上述の実施形態では、ホイール側等速ジョイント22)の抜け強度をダンパの抜け強度よりも小さくするようにしてもよく、これによっても、同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、上述の実施形態では、エンジン横置き式のFF車に搭載される動力伝達装置について説明したが、本発明は、フロントエンジン・リヤドライブ式の車両(FR車)等、FF式以外の車両や、エンジン縦置き式の車両に搭載される動力伝達装置にも適用できる。