(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206351
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】光ファイバ温度分布測定装置
(51)【国際特許分類】
G01K 11/32 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
G01K11/32 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-145232(P2014-145232)
(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公開番号】特開2016-20869(P2016-20869A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西尾 裕二
【審査官】
平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−281510(JP,A)
【文献】
特開2012−073196(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0263069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバをセンサとして用い、光源の出力光を光アンプで増幅して前記光ファイバへ入力することにより発生するラマン散乱光を利用して前記光ファイバに沿った温度分布を測定するように構成された光ファイバ温度分布測定装置において、
前記ラマン散乱光の強度を測定するASE光強度変動測定部と、
このASE光強度変動測定部の測定結果に基づき、前記光アンプに発生するASE光の強度変動がない場合におけるラマン散乱光が観測されない時間におけるラマン散乱光の強度により、ASE光によるラマン散乱光の強度変動成分の近似式を算出する近似式算出部と、
この近似式により、ASE光によるラマン散乱光の強度変動成分の影響を除去したラマン散乱光の強度を演算する補正演算部、
を設けたことを特徴とする光ファイバ温度分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバをセンサとして用いる光ファイバ温度分布測定装置に関し、詳しくは、温度測定結果に対するASE(Amplified Spontaneous Emission:増幅自然放出)光の影響を除去するための補償処理に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバをセンサとして用いた分布型測定装置の一種に、特許文献1に記載されているように光ファイバに沿った温度分布を測定するように構成された光ファイバ温度分布測定装置がある。この技術は光ファイバ内で発生する後方散乱光を利用している。なお、以下の説明では、光ファイバ温度分布測定装置を必要に応じてDTS(Distributed Temperature Sensor)とも表記する。
【0003】
後方散乱光には、レイリー散乱光、ブリルアン散乱光、ラマン散乱光などがあるが、温度測定には温度依存性の高い後方ラマン散乱光が利用され、この後方ラマン散乱光を波長分波して測定を行う。後方ラマン散乱光には、入射光の波長に対して短い波長側に発生するアンチストークス光ASと、長い波長側に発生するストークス光STがある。
【0004】
光ファイバ温度分布測定装置は、これらアンチストークス光の強度Iasとストークス光の強度Istとを測定してその強度比から温度を算出し、光ファイバに沿った温度分布を表示するものであり、プラント設備の温度管理、防災関連の調査・研究、発電所や大型建設物の空調関連などの分野で利用されている。
【0005】
図5は、光ファイバ温度分布測定装置の基本構成例を示すブロック図である。
図5において、光源1は光分波器2の入射端に接続され、光分波器2の入出射端には光ファイバ3が接続され、光分波器2の一方の出射端には光電変換器(以下O/E変換器という)4stが接続され、光分波器2の他方の出射端にはO/E変換器4asが接続されている。
【0006】
O/E変換器4stの出力端子にはアンプ5stおよびA/D変換器6stを介して演算制御部7に接続され、O/E変換器4asの出力端子にはアンプ5asおよびA/D変換器6asを介して演算制御部7に接続されている。なお、演算制御部7は、パルス発生部8を介して光源1に接続されている。
【0007】
光源1としてはたとえばレーザダイオードが用いられ、パルス発生部8を介して入力される演算制御部7からのタイミング信号に対応したパルス光を出射する。光分波器2は、その入射端に光源1から出射されたパルス光が入射され、その入出射端から出射されたパルス光を光ファイバ3に出射し、光ファイバ3内で発生した後方ラマン散乱光をその入出射端から入射してストークス光STとアンチストークス光ASに波長分離する。光ファイバ3は、その入射端から光分波器2から出射されたパルス光を入射し、光ファイバ3内で発生した後方ラマン散乱光をその入射端から光分波器2に向けて出射する。
【0008】
O/E変換器4stおよび4asとしてはたとえばフォトダイオードが用いられ、O/E変換器4stには光分波器2の一方の出射端から出射されたストークス光STが入射され、O/E変換器4asには光分波器2の他方の出射端から出射されたアンチストークス光ASが入射されて、それぞれ入射光に対応する電気信号を出力する。
【0009】
アンプ5stおよび5asは、O/E変換器4stおよび4asから出力された電気信号をそれぞれ増幅する。A/D変換器6stおよび6asは、アンプ5stおよび5asから出力された信号をそれぞれディジタル信号に変換する。
【0010】
演算制御部7は、A/D変換器6stおよび6asから出力されたディジタル信号に基づいて後方散乱光の2成分、すなわち、ストークス光STとアンチストークス光ASの強度比から温度を演算し、その時系列に基づいて光ファイバ3に沿った温度分布を表示手段(図示せず)に表示する。なお、演算制御部7にはあらかじめ、強度比と温度の関係がテーブルや式の形で記憶されている。また、演算制御部7は、光源1にタイミング信号を送り、光源1から出射される光パルスのタイミングを制御する。
【0011】
光分波器2と光ファイバ3との間には数十m巻回された光ファイバよりなる温度基準部9がコネクタ接続部11を介して設けられていて、この温度基準部9には実際の温度を測定するためのたとえば白金測温抵抗体よりなる温度計10が設けられている。この温度計10の出力信号は、演算制御部7に入力されている。なお、温度センサとして用いる光ファイバ3の近傍にも、実際の温度を測定するためのたとえば白金測温抵抗体よりなる基準温度計12が設けられている。
【0012】
温度分布測定の原理を説明する。ストークス光STおよびアンチストークス光ATの信号強度を光源1における発光タイミングを基準にした時間の関数として表すと、光ファイバ3中の光速が既知であるので、光源1を基準にして光ファイバ3に沿った距離の関数に置き換えることができる。すなわち、横軸を距離とし、光ファイバの各距離位置で発生したストークス光STおよびアンチストークス光ASの強度、つまり距離分布とみなすことができる。
【0013】
一方、アンチストークス光強度Iasとストークス光強度Istはいずれも光ファイバ3の温度に依存し、さらに、両光の強度比Ias/Istも光ファイバ3の温度に依存する。したがって、強度比Ias/Istが分かれば、ラマン散乱光が発生した位置の温度を知ることができる。ここで、強度比Ias/Istは距離xの関数Ias(x)/Ist(x)であり、この強度比Ias(x)/Ist(x)から光ファイバ3に沿った温度分布T(x)を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−264370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図6は、従来のDTSで測定した温度分布特性例図である。ここで、DTSの温度測定距離レンジは50kmで、温度基準部9は一定温度25℃に維持され、標準の測定時間で測定し、ASE光の影響を除去するための補償処理手段は設けられていない。
図6の測定結果によれば、30km以遠で測定温度が大きく落ち込んでいることが明らかである。
【0016】
温度測定を行う光ファイバ3が長距離になると、SN比を高めるために信号光強度を大きくする必要がある。光源1として用いるレーザーダイオードで長距離の温度測定に十分な信号光強度を得ることは困難であることから、一般的には光源1の出力光を図示しない光アンプで増幅して光ファイバ3へ入力する。
【0017】
光アンプで信号光を増幅するためには励起光が必要になるが、光アンプに励起光を入力すると信号光波長と同じ波長のASE光が発生する励起状態になる。
【0018】
ところが、光アンプを励起するための励起時間は数十msと比較的長く、励起光を適切にON/OFFできない。
【0019】
図7は、光アンプから増幅出力される信号光の強度特性例図である。光アンプが励起された状態で信号パルス光が入力されると、信号パルス光は増幅されるが、ASE光のゼロレベルも右肩上がりに上昇することになり、ASE光の強度は変動することになる。
【0020】
温度分布測定に用いるラマン散乱光は信号光とASE光に基づいて発生することから、ASE光の強度が変動すると温度分布測定を正しく行うことができなくなる。
【0021】
信号光と同一波長のASE光は、たとえばフィルタでカットすることはできない。
【0022】
本発明はこのような課題を解決するもので、その目的は、ASE光の
ゼロレベルが右肩上がりに上昇することに起因する強度変動の影響を補正することにより正しい温度分布測定結果を得ることができる光ファイバ温度分布測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
光ファイバをセンサとして用い、光源の出力光を光アンプで増幅して前記光ファイバへ入力することにより発生するラマン散乱光を利用して前記光ファイバに沿った温度分布を測定するように構成された光ファイバ温度分布測定装置において、
前記ラマン散乱光の強度を測定するASE光強度変動測定部と、
このASE光強度変動測定部の測定結果に基づき、
前記光アンプに発生するASE光の強度変動がない場合におけるラマン散乱光が観測されない時間におけるラマン散乱光の強度により、ASE光によるラマン散乱光の強度変動成分の近似式を算出する近似式算出部と、
この近似式により、ASE光によるラマン散乱光の強度変動成分の影響を除去したラマン散乱光の強度を演算する補正演算部、
を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、温度分布測定結果から光アンプに発生するASE光の
ゼロレベルが右肩上がりに上昇することに起因する強度変動の影響を除去することができ、正しい温度分布測定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施例の主要部を示すブロック図である。
【
図3】光アンプから増幅出力される信号光の強度特性例図である。
【
図4】本発明に基づくDTSで測定した温度分布特性例図である。
【
図5】光ファイバ温度分布測定装置の基本構成例を示すブロック図である。
【
図6】従来のDTSで測定した温度分布特性例図である。
【
図7】光アンプから増幅出力される信号光の強度特性例図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の
一実施例の主要部を示すブロック図である。
図1に示すように、演算制御部7には、従来
から設けられている温度分布演算部7aの他に、ASE光強度変動測定部7b、近似式算
出部7c、
補正演算部7dなどが設けられている。
【0029】
温度分布演算部7aは、光ファイバ3の敷設に沿った温度分布を求めるために、従来から周知の演算を行う。
【0030】
ASE光強度変動測定部7bは、光ファイバ3が敷設されていない
部分を測定することにより、光アンプに発生するASE光の強度変動成分の値を測定する。
【0031】
近似式算出部7cは、ASE光強度変動測定部7bの測定結果に基づき、
近似式を算出する。
【0032】
そして、
補正演算部7dは、近似式算出部7cで算出された近似式を用いて、
ASE光の右肩上がりのゼロレベルの変動を平坦にするための補正演算を行う。
【0033】
図2は、ラマン散乱光強度の測定特性例図である。
図2において、特性曲線AはASE光の強度変動成分を含む補正前のラマン散乱光強度の測定特性例を示し、特性曲線BはASE光の強度変動成分の影響を除去した補正後のラマン散乱光強度の測定特性例を示している。
【0034】
特性曲線AにはASE光の変動に対応した右肩上がりのゼロレベルの変動が存在しているが、特性曲線Bのゼロレベルは平坦であり、ASE光の強度が変動せずに一定であることを示している。
【0035】
図3も光アンプから増幅出力される信号光の強度特性例図であり、ASE光の強度が変動することなく一定値に保持されている理想的な状態を示している。
図3の場合には、ASE光の強度が一定であることからASE光の変動分を補正する必要はなく、効率よく温度測定が行える。
【0036】
図4は、本発明に基づくDTSで測定した温度分布特性例図である。
図4の特性例図から明らかなように、30km以遠でも測定温度が大きく落ち込むことはなく、従来よりも広い測定範囲で安定した温度測定結果が得られる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、ASE光の強度変動の影響を補正することにより正しい温度分布測定結果が得られる光ファイバ温度分布測定装置が実現できる。
【符号の説明】
【0038】
1 光源
2 光分波器
3 光ファイバ
4 O/E変換器
5 アンプ
6 A/D変換器
7 演算制御部
7a
7b
7c
7d
8 パルス発生部
9 温度基準部
10 温度計
11 コネクタ接続部
12 基準温度計