特許第6206396号(P6206396)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206396調整機器制御システム、調整機器制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206396
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】調整機器制御システム、調整機器制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/46 20060101AFI20170925BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20170925BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20170925BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H02J3/46
   H02J7/34 B
   H02J3/32
   H02J3/38 110
   H02J7/34 J
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-501964(P2014-501964)
(86)(22)【出願日】2012年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2012079632
(87)【国際公開番号】WO2013128727
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-41609(P2012-41609)
(32)【優先日】2012年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 寿人
(72)【発明者】
【氏名】工藤 耕治
(72)【発明者】
【氏名】矢野 仁之
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 悠真
【審査官】 赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/038458(WO,A1)
【文献】 特開2006−094648(JP,A)
【文献】 特開2009−044862(JP,A)
【文献】 特開2008−118790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/46
H02J 3/32
H02J 3/38
H02J 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器の動作を制御する調整機器制御システムであって、
前記調整機器ごとに、当該調整機器の状態と当該調整機器が受け持つ電力量と当該調整機器の性能の変化量との相関関係を表す相関情報を記憶する記憶手段と、
調整機器の状態を表す状態情報と、前記電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付け、前記各調整機器の状態が前記状態情報にて表された状態であり前記各調整機器が受け持つ電力量の合計値が前記調整電力量になる状況で前記各調整機器の性能の変化量の合計値が最も小さくなるように、前記各調整機器が受け持つ電力量を、前記相関情報と前記状態情報と前記電力情報とに基づいて決定する決定手段と、
前記決定手段の決定結果に基づいて前記各調整機器の動作を制御する制御手段と、を含む調整機器制御システム
【請求項2】
請求項1に記載の調整機器制御システムにおいて、
前記調整機器の性能の変化量は、前記調整機器の劣化変化量である、調整機器制御システム
【請求項3】
前記調整機器は、蓄電池であり、
前記調整機器の状態は、前記蓄電池の温度と、前記蓄電池の周囲の温度と、前記蓄電池の初期からの容量低減量である、請求項2に記載の調整機器制御システム
【請求項4】
前記調整機器は、蓄電池であり、
前記調整機器の状態は、前記蓄電池のSoCと、前記蓄電池の容量と、前記蓄電池の初期からの容量低減量である、請求項2に記載の調整機器制御システム
【請求項5】
電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器の動作を制御する調整機器制御システムでの調整機器制御方法であって、
前記調整機器ごとに、当該調整機器の状態と当該調整機器が受け持つ電力量と当該調整機器の性能の変化量との相関関係を表す相関情報を記憶手段に記憶し、
各調整機器の状態を表す状態情報と、前記電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付け、前記各調整機器の状態が前記状態情報にて表された状態であり前記各調整機器が受け持つ電力量の合計値が前記調整電力量になる状況で前記各調整機器の性能の変化量の合計値が最も小さくなるように、前記各調整機器が受け持つ電力量を、前記相関情報と前記状態情報と前記電力情報とに基づいて決定し、
前記決定の結果に基づいて前記各調整機器の動作を制御する、調整機器制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、
電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器の各々について、当該調整機器の状態と当該調整機器が受け持つ電力量と当該調整機器の性能の変化量との相関関係を表す相関情報を記憶手段に記憶する記憶手順と、
各調整機器の状態を表す状態情報と、前記電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付け、前記各調整機器の状態が前記状態情報にて表された状態であり前記各調整機器が受け持つ電力量の合計値が前記調整電力量になる状況で前記各調整機器の性能の変化量の合計値が最も小さくなるように、前記各調整機器が受け持つ電力量を、前記相関情報と前記状態情報と前記電力情報とに基づいて決定する決定手順と、
前記決定の結果に基づいて前記各調整機器の動作を制御する制御手順と、を実行させるためのプログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整機器制御システム、調整機器制御方法および記録媒体に関し、特には、電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器を制御する調整機器制御システム、調整機器制御方法および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統において電力需給バランスを調整する手法としては、火力発電の出力を制御する手法や、火力発電の出力を制御しつつ揚水式発電を適宜実施する手法がとられていた。
【0003】
しかし今後、発電量が天候に依存する太陽光発電や風力発電等の再生可能電源が分散電源として電力系統に組み込まれていくと、この分散電源が、電力需給バランスを悪化させる恐れがある。
【0004】
分散電源に起因する電力需給のアンバランスを補償するためには、火力発電や揚水式発電を用いた電力需給調整手法だけでは不十分となる恐れがある。このため、新たな電力需給調整手法が必要とされてきている。
【0005】
新たな電力需給調整手法としては、電力系統の配電網に連系している“蓄電池”や“電気自動車(EV)”や“ヒートポンプ給湯器(HP)”等の機器(以下「電力機器」と称する)を、電力需給のバランスを調整するための調整機器として用いる手法が考えられる。
【0006】
特許文献1には、電力機器である需要家側の二次電池(ES)を、電力需給のバランスを調整するための調整機器として用いて、電力需給バランスを調整する電力系統制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−94648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
調整機器は、使用状況に応じて性能が変化する。
【0009】
例えば、調整機器は、使用されると劣化が進行し、劣化の進行に応じて性能が悪化する。調整機器の劣化の進行の程度は、電力需給バランスを調整するために調整機器が調整する電力量の大きさや調整機器の状態(例えば、温度)に応じて変動する。なお、調整機器の性能の変化は、調整機器の劣化以外の特性にも依存する。
【0010】
このため、電力需給バランスを調整するために使用される複数の調整機器の性能の変化量を抑制するように、複数の調整機器に電力を割り当てる手法が望まれるという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記課題を解決可能な調整機器制御システム、調整機器制御方法および記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の調整機器制御システムは、電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器の動作を制御する調整機器制御システムであって、
前記調整機器ごとに、当該調整機器の状態と当該調整機器が受け持つ電力量と当該調整機器の性能の変化量との相関関係を表す相関情報を記憶する記憶手段と、
調整機器の状態を表す状態情報と、前記電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付け、前記各調整機器の状態が前記状態情報にて表された状態であり前記各調整機器が受け持つ電力量の合計値が前記調整電力量になる状況で前記各調整機器の性能の変化量の合計値が最も小さくなるように、前記各調整機器が受け持つ電力量を、前記相関情報と前記状態情報と前記電力情報とに基づいて決定する決定手段と、
前記決定手段の決定結果に基づいて前記各調整機器の動作を制御する制御手段と、を含む。
【0013】
本発明の調整機器制御方法は、電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器の動作を制御する調整機器制御システムでの調整機器制御方法であって、
前記調整機器ごとに、当該調整機器の状態と当該調整機器が受け持つ電力量と当該調整機器の性能の変化量との相関関係を表す相関情報を記憶手段に記憶し、
各調整機器の状態を表す状態情報と、前記電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付け、前記各調整機器の状態が前記状態情報にて表された状態であり前記各調整機器が受け持つ電力量の合計値が前記調整電力量になる状況で前記各調整機器の性能の変化量の合計値が最も小さくなるように、前記各調整機器が受け持つ電力量を、前記相関情報と前記状態情報と前記電力情報とに基づいて決定し、
前記決定の結果に基づいて前記各調整機器の動作を制御する
【0014】
本発明のプログラムは、コンピュータに、
電力系統での電力需給バランスを調整するための複数の調整機器の各々について、当該調整機器の状態と当該調整機器が受け持つ電力量と当該調整機器の性能の変化量との相関関係を表す相関情報を記憶手段に記憶する記憶手順と、
各調整機器の状態を表す状態情報と、前記電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付け、前記各調整機器の状態が前記状態情報にて表された状態であり前記各調整機器が受け持つ電力量の合計値が前記調整電力量になる状況で前記各調整機器の性能の変化量の合計値が最も小さくなるように、前記各調整機器が受け持つ電力量を、前記相関情報と前記状態情報と前記電力情報とに基づいて決定する決定手順と、
前記決定の結果に基づいて前記各調整機器の動作を制御する制御手順と、を実行させる
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電力需給バランスを調整するために使用される複数の調整機器の性能の変化を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態の調整機器制御システムを採用した電力制御システムを示した図である。
図2】温度T0が15、20、25度のときのDkの値の例を示した図である。
図3】電力制御システムの動作を説明するためのシーケンス図である。
図4】記憶部52と決定部53と制御部54からなる電池管理部5を示した図である。
図5】本発明の第2実施形態の調整機器制御システムを採用した電力制御システムを示した図である。
図6】温度SoC0が0.5、0.6、0.7のときのDkの値の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の調整機器制御システムを採用した電力制御システムを示した図である。
【0019】
図1において、電力制御システムは、電力系統1と、電力線2と、蓄電池システム31〜3n(nは2以上の整数)と、EMU(Energy Management Unit:エネルギ管理部)4と、電池管理部5と、を含む。
【0020】
電力系統1は、電力を需要家側へ供給するためのシステムであり、例えば、火力発電所等の発電所、再生可能電源および変圧器を含む。電力系統1は、発電所や再生可能電源からの発電電力を、変圧器を介して電力線2に供給する。なお、一般的に、電力系統1には電力線2が含まれるが、図1では、説明の簡略化を図るため、電力系統1と電力線2とを別々に示している。
【0021】
蓄電池システム31〜3nは、電力系統1での電力需給バランスを調整するために使用される。例えば、蓄電池システム31〜3nは、それぞれ、需要家にて管理される。なお、蓄電池システム31〜3nのいくつかは、電力供給側で管理されてもよい。
【0022】
蓄電システム31〜3nは、それぞれ、通信部301と、ES(エネルギーストレージ)302と、インバータ303と、BMU(Battery Management Unit:電池管理部)304と、温度検出部304aおよび304bと、を含む。図1では、通信部301とES302とインバータ303とBMU304と温度検出部304aおよび304bについては、蓄電池システム31内のものが示されている。
【0023】
以下、蓄電池システム31内の通信部301とES302とインバータ303とBMU304と温度検出部304aおよび304bについて説明する。
【0024】
通信部301は、電池管理部5と通信する。
【0025】
ES302は、調整機器の一例である。
【0026】
ES302は、例えば、定置用蓄電池または電気自動車内の二次電池である。ES302は、例えば、リチウムイオン二次電池である。なお、ES302は、リチウムイオン二次電池に限らず、蓄電池であればよい。
【0027】
インバータ303は、ES302の充電時には、電力線2からの交流電圧を直流電圧に変換し、その直流電圧でES302を充電する。また、インバータ303は、ES302の放電時には、ES302からの直流電圧を交流電圧に変換し、その交流電圧を電力線2に供給してES302を放電する。
【0028】
BMU304は、電池管理部5からの動作指示に従ってインバータ303を制御して、ES302の充電および放電を制御する。
【0029】
また、BMU304は、ES302の温度T0を検出する温度検出部304aの検出結果と、ES302の周囲の温度TE(ES302の置かれている環境の温度)を検出する温度検出部304bの検出結果とを、通信部301を介して電池管理部5に送信する。
【0030】
また、BMU304は、蓄電池システム31内のES302の初期からの容量低減量Dtotal,kを算出し管理する。BMU304は、容量低減量Dtotal,kを、通信部301を介して電池管理部5に送信する。なお、ES302の初期からの容量低減量Dtotal,kを算出する技術は公知技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0031】
ES302の温度T0とES302の周囲の温度TEとES302の容量低減量Dtotal,kは、ES302の状態の一例である。
【0032】
蓄電池システム31以外の各蓄電池システム(以下「蓄電池システム3a」と称する)内の通信部301とES302とインバータ303とBMU304と温度検出部304aおよび304bについての説明は、上述した蓄電池システム31内の通信部301とES302とインバータ303とBMU304と温度検出部304aおよび304bについての説明のうち「蓄電池システム31」という語句を「蓄電池システム3a」と読み替えればよい。
【0033】
EMU4は、電力需給バランスの調整に必要な調整電力量Ptを算出する。例えば、EMU4は、予め算出または提供された今後の予想総需要曲線に、ピークカット処理の有無判断の基準となる基準閾値を超える部分(以下「ピークカット対象部分」と称する)が存在すると、そのピークカット対象部分に対応する電力量を、調整電力量Ptとして算出する。
【0034】
本実施形態では、EMU4は、電力需給バランスを調整するために電力需要が必要な場合には、調整電力量Ptの値を正の値とし、電力需給バランスを調整するために電力供給が必要な場合には、調整電力量Ptの値を負の値とする。
【0035】
EMU4は、調整電力量Ptを表す電力情報を、電池管理部5に送信する。
【0036】
本実施形態では、EMU4は、Δt時間経過するごとに、調整電力量Ptを算出し調整電力量Ptを表す電力情報を電池管理部5に送信する。
【0037】
電池管理部5は、調整機器制御システムの一例である。
【0038】
電池管理部5は、電力系統1での電力需給バランスを調整するために、蓄電池システム31〜3nの動作、さらに言えば、各ES302の動作を制御する。
【0039】
電池管理部5は、通信部51と、記憶部52と、決定部53と、制御部54と、を含む。
【0040】
通信部51は、蓄電池システム31〜3nの各々と通信する。
【0041】
通信部51は、例えば、蓄電池システム31〜3nの各々から、ES302の温度T0の検出結果と、ES302の周囲の温度TEの検出結果と、ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果と、を受信し、各検出結果および算出結果を決定部53に出力する。
【0042】
記憶部52は、記憶手段の一例である。
【0043】
記憶部52は、蓄電池システム31〜3n内のES302ごとに、ES302の状態とES302が受け持つ電力量とES302の劣化変化量との相関関係を表す相関情報を記憶する。なお、ES302の劣化変化量は、ES302の性能の変化量の一例である。
【0044】
例えば、記憶部52は、蓄電池システム31〜3n内のES302ごとに、相関情報として、以下の式(1)を記憶する。
【0045】
【数1】
【0046】
なお、k=1〜nである。
【0047】
劣化変化量は、蓄電池システムk内のES302の劣化変化量を表す。
【0048】
Pkは、蓄電池システムk内のES302が受け持つ電力量(W)、つまり、蓄電池システムk内のES302に割り当てられる電力量(W)を表す。
【0049】
xkは、蓄電池システムk内のES302の状態(本実施形態では、蓄電池システムk内のES302の温度T0と、蓄電池システムk内のES302の周囲の温度TEと、蓄電池システムk内のES302の容量低減量Dtotal,k)を表す。
【0050】
Dk(Pk,xk)は、蓄電池システムk内のES302が状態xkである状況で蓄電池システムk内のES302が電力量Pkを受け持った条件下で蓄電池システムk内のES302をΔt時間使用した場合の容量低下量、つまり、蓄電池システムk内のES302の劣化変化量を表す。
【0051】
また、記憶部52は、蓄電池システム31〜3n内のES302ごとに、ES302の充放電量の最小値Pmin,kおよび最大値Pmax,kを記憶する。
【0052】
なお、蓄電池システムk内のES302の容量低減の要因として温度が支配的である場合、Dkはアレニウス則、ルート則に従うため、Dkは、近似的に以下の式(2)のように表せる。
【0053】
【数2】
【0054】
なお、式(2)内の関数Tk(Pk,T0,TE,t)は、蓄電池システムk内のES302の温度変化を表す式で、現在を時刻0、現在のES302の温度T0、現在のES302の周囲の温度TEとして、時刻tの温度を与える関数である。例えば、関数Tk(Pk,T0,TE,t)は、以下の式(3)のように表せる。
【0055】
【数3】
【0056】
なお、式(2)において、式(1)のxkに対応する値は、T0、TE、Dtotal,kであり、式(2)および式(3)において、a1,k、a2,k、a3,kおよびa4,kは定数である。
【0057】
図2は、温度T0が15、20、25度のときのDkの値の例を示した図である。
【0058】
なお、Dkは、式(2)および式(3)にて特定されるものに限らず適宜変更可能である。
【0059】
本実施形態では、記憶部52は、蓄電池システム31〜3n内のES302ごとに、相関情報として、式(2)および式(3)を記憶する。
【0060】
決定部53は、決定手段の一例である。
【0061】
決定部53は、各ES302の温度T0の検出結果と、各ES302の周囲の温度TEの検出結果と、各ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果と、調整電力量Ptを表す電力情報と、を受け付ける。なお、各ES302の温度T0の検出結果と、各ES302の周囲の温度TEの検出結果と、各ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果は、状態情報の一例である。
【0062】
決定部53は、各ES302が電力需給バランスの調整に使われることによって生じる各ES302の劣化の増加量が小さくなるように、各ES302が受け持つ電力量Pkを、各ES302の温度T0の検出結果と、各ES302の周囲の温度TEの検出結果と、各ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果と、記憶部52内の相関情報と、調整電力量Ptを表す電力情報と、に基づいて決定する。
【0063】
本実施形態では、決定部53は、各ES302の状態が、各蓄電池システムから通知された状態(各ES302の温度T0の検出結果と、各ES302の周囲の温度TEの検出結果と、各ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果)であり各ES302が受け持つ電力量の合計値が調整電力量Ptになる状況で各ES302の劣化変化量Dkの合計値が最も小さくなるように、各ES302が受け持つ電力量Pkを、各ES302の温度T0の検出結果と、各ES302の周囲の温度TEの検出結果と、各ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果と、記憶部52内の相関情報と、調整電力量Ptを表す電力情報と、に基づいて決定する。
【0064】
決定部53は、各蓄電池システムから各ES302の状態を通知されなかった場合は、記憶部52に保管された相関情報より、各ES302の状態を推定する。そして通知された場合と同様に、決定部53は、各ES302が受け持つ電力量Pkを、推定された各ES302の状態と、記憶部52内の相関情報と、調整電力量Ptを表す電力情報と、に基づいて決定する。例えば、決定部53は、過去に受け付けた各ES302の温度の検出結果と、過去に受け付けた各ES302の周囲の温度の検出結果と、過去に受け付けた容量低減量の算出結果と、過去に制御部54を介して送信した調整電力量を、式(3)に代入することで現在の各ES302の温度を推定でき、また、それらを式(2)に代入することで容量低減量の現在までの変化量を推定でき、その値を過去に受け付けた各ES302の容量低減量に加えることで、現在の各ES302の容量劣化量を推定できる。
【0065】
決定部53は、各蓄電池システムから各ES302の状態を通知された場合でも、各ES302の状態の推定を行い、推定結果と通知された状態との比較を行って記憶部52に保管された相関情報を修正することで、相関情報の精度を向上させてもよい。
【0066】
決定部53が各蓄電池システムから通知される各ES302の状態の例として、本実施形態で示した各ES302の温度T0の検出結果と、各ES302の周囲の温度TEの検出結果と、各ES302の容量低減量Dtotal,kの算出結果以外にも、各ES302の内部インピーダンス値、各ES302の厚さ、各ES302の体積、各ES302の内部圧力、各ES302のこれまでの充放電サイクル数、各ES302の端子間電圧、もしくは後述する第2実施形態に示した各ES302のSoC値などがある。
【0067】
制御部54は、制御手段の一例である。
【0068】
制御部54は、決定部53の決定結果に基づいて、各ES302の動作を制御する。本実施形態では、制御部54は、決定部53が決定した各ES302が受け持つ電力量Pkを表す動作指示を、蓄電池システム31〜3nの各々に送信する。
【0069】
次に、動作を説明する。
【0070】
図3は、電力制御システムの動作を説明するためのシーケンス図である。なお、図3では、説明の簡略化を図るために、蓄電池システム31〜3nのうち蓄電池システム3cを示している。
【0071】
EMU4が、調整電力量Ptを算出し、調整電力量Ptを表す電力情報を電池管理部5に送信すると(ステップS301)、電池管理部5内の決定部53は電力情報を受信する。
【0072】
決定部53は、電力情報を受信すると、蓄電池システム31〜3nの各々に、状態を通知する旨の要求(以下「状態通知要求」と称する)を、通信部51を介して送信する(ステップS302)。
【0073】
蓄電池システム31〜3nの各々では、BMU304は、通信部301を介して状態通知要求を受信すると、温度検出部304aの検出結果(ES302の温度T0)と、温度検出部304bの検出結果(ES302の周囲の温度TE)と、ES302の容量低減量Dtotal,kの算出値とを、状態通知として、通信部301を介して電池管理部5に送信する(ステップS303)。
【0074】
電池管理部5では、決定部53は、蓄電池システム31〜3nの各々から状態通知を受信すると、各ES302が受け持つ電力量Pkを決定する動作を実行する(ステップS304)。
【0075】
本実施形態では、ステップS304において、決定部53は、以下の式(4)、式(5)および式(6)を同時に満たす、各ES302が受け持つ電力量Pkを決定する。
【0076】
【数4】
【0077】
【数5】
【0078】
【数6】
【0079】
例えば、決定部53は、式(4)および式(5)を満たす蓄電池システム31〜3n内の各ES302の電力量P1〜Pnの複数の組を求め、組ごとにDkの合計値を求め、Dkの合計値が最小となる電力量P1〜Pnの組を、蓄電池システム31〜3n内の各ES302が受け持つ電力量P1〜Pnとして決定する。
【0080】
例えば、決定部53は、P1〜Pnの値が、電力量Pk=Pmin,kもしくはPk=Pmin,kであるものを除いて、Dkを各々Pkで微分した値であるdDk/dPkが同一になるように、P1〜Pnの値を与える場合もある。
【0081】
決定部53は、蓄電池システム31〜3n内の各ES302が受け持つ電力量P1〜Pnを決定すると、その決定結果を制御部54に出力する。
【0082】
制御部54は、決定部53の決定結果を受け付けると、蓄電池システム31〜3nの各々に、その蓄電池システム内のES302に対して決定された電力量を示す動作指示を、通信部51を介して送信する(ステップS305)。
【0083】
蓄電池システム31〜3nの各々では、BMU304は、通信部301を介して動作指示を受信すると、動作指示に示された電力量が正の値である場合には、動作指示に示された電力量を、インバータ303を用いてES302に充電する(ステップS306)。
【0084】
一方、動作指示に示された電力量が負の値である場合には、BMU304は、動作指示に示された電力量を、インバータ303を用いてES302から放電する(ステップS306)。
【0085】
次に、本実施形態の効果を説明する。
【0086】
本実施形態によれば、記憶部52は、ES302ごとに、ES302の状態とES302が受け持つ電力量とES302の性能の変化量(劣化変化量)との相関関係を表す相関情報を記憶する。
【0087】
決定部53は、各ES302の状態を表す状態情報と、電力需給バランスの調整に必要な調整電力量を表す電力情報と、を受け付ける。決定部53は、各ES302の状態が状態情報にて表された状態であり各ES302が受け持つ電力量の合計値が調整電力量になる状況で各ES302の性能の変化量(劣化変化量)の合計値が最も小さくなるように、各ES302が受け持つ電力量を、相関情報と状態情報と電力情報とに基づいて決定する。
【0088】
制御部54は、決定部53の決定結果に基づいて各ES302の動作を制御する。
【0089】
このため、電力需給バランスを調整するために使用される複数のES302の性能の変化を抑制するように、複数のES302に電力を割り当てることが可能になる。
【0090】
なお、上記効果は、記憶部52と決定部53と制御部54とからなる電池管理部5でも奏する。
【0091】
図4は、記憶部52と決定部53と制御部54とからなる電池管理部5を示した図である。
【0092】
また、本実施形態では、ES302の性能の変化量として、ES302の劣化変化量を用いている。
【0093】
このため、電力需給バランスを調整するために使用される複数のES302の劣化を抑制するように、複数のES302に電力を割り当てることが可能になる。
【0094】
また、本実施形態では、電力系統での電力需給バランスを調整するための調整機器として、ES302(蓄電池)が用いられ、調整機器の状態として、ES302の温度と、ES302の周囲の温度と、ES302の初期からの容量低減量とが用いられる。
【0095】
このため、ES302の容量低減(劣化)の要因として特に温度が大きな影響を与える場合に、複数のES302の劣化を抑制するように、複数のES302に電力を割り当てることが可能になる。
【0096】
なお、図1では、決定部53と制御部54とを個別の機器として示したが、決定部53が制御部54を内蔵してもよい。
【0097】
また、図1では、通信部51と記憶部52と決定部53と制御部54とを含む調整機器制御システムが電池管理部5に内蔵されているが、通信部51と記憶部52と決定部53と制御部54との全てが同一の機器に内蔵されなくてもよい。
【0098】
また、本実施形態では、決定部53は、調整電力量を表す電力情報を受信してから、各ES302の状態を取得したが、決定部53は、電力情報を受信する前に各ES302の状態を取得してもよい。
【0099】
また、決定部53は、図3に示したステップS302、S304およびS305の動作を、電力情報の受信時間間隔内で繰り返してもよい。
【0100】
なお、電池管理部5は、コンピュータにて実現されてもよい。この場合、コンピュータは、コンピュータにて読み取り可能なCD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)のような記録媒体に記録されたプログラムを読込み実行して、通信部51、記憶部52、決定部53および制御部54として機能する。記録媒体は、CD−ROMに限らず適宜変更可能である。
【0101】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
【0102】
図5は、本発明の第2実施形態の調整機器制御システムを採用した電力制御システムを示した図である。なお、図5において、図1に示したものと同一構成のものには同一符号を付してある。以下、図5に示した電力制御システムについて、図1に示した電力制御システムと異なる点を中心に説明する。
【0103】
第1実施形態の調整機器制御システムは、ES302の容量低減(劣化)の要因として温度が支配的である場合に適する相関情報を用いたが、第2実施形態の調整機器制御システムは、ES302の容量低減(劣化)の要因としてES302のSoC(State of Charge)が支配的である場合に適する相関情報を用いる。
【0104】
図5において、蓄電池システム31〜3nは、それぞれ、BMU304の代わりにBMU304Aを有し、温度検出部304aおよび304bが省略され、電池管理部5は、記憶部52の代わりに記憶部52Aを有し、決定部53の代わりに決定部53Aを有する。
【0105】
BMU304Aは、BMU304と同様に、電池管理部5からの動作指示に従ってインバータ303を制御して、ES302の充電および放電を制御する。
【0106】
また、BMU304Aは、ES302の現在のSoC値であるSoC0と、ES302の現在の容量Ckと、ES302の初期からの容量低減量Dtotal,kと、を算出し管理する。BMU304Aは、ES302のSoC0と、ES302の現在の容量Ckと、ES302の初期からの容量低減量Dtotal,kとを、通信部301を介して電池管理部5に送信する。
【0107】
なお、ES302のSoC0、ES302の現在の容量CkおよびES302の初期からの容量低減量Dtotal,kを算出する技術は公知技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0108】
ES302のSoC0、ES302の現在の容量CkおよびES302の初期からの容量低減量Dtotal,kは、ES302の状態の一例である。
【0109】
記憶部52Aは、記憶手段の一例である。
【0110】
記憶部52Aは、上述した式(1)として、以下の式(7)および式(8)を記憶する。
【0111】
【数7】
【0112】
【数8】
【0113】
なお、式(7)内の関数V(SoC)は、蓄電池システムk内のES302の端子間電圧を表す式で、SoC値を引数とする。なお、式(7)では時刻tにおける端子間電圧を知りたいため、時刻tにおけるSoC値=(SoC0+Pkt/Ck)を引数とする。式(7)内の関数V(SoC)を、例えば多項式で近似したものが、式(8)である。
【0114】
なお、式(7)において、式(1)のxkに対応する値は、SoC0、Ck、Dtotal,kであり、ES302固有の劣化を表す値であるb1,k, b2,k, b3,k,およびb4,k,は定数である。
【0115】
図6は、SoC0が0.5、0.6、0.7のときのDkの値の例を示した図である。
【0116】
また、記憶部52Aは、蓄電池システム31〜3n内のES302ごとに、ES302の充放電量の最小値Pmin,kおよび最大値Pmax,kを記憶する。
【0117】
決定部53Aは、決定手段の一例である。
【0118】
決定部53Aは、各ES302のSoC0と、各ES302の現在の容量Ckと、各ES302の初期からの容量低減量Dtotal,kと、調整電力量Ptを表す電力情報と、を受け付ける。なお、各ES302のSoC0と、各ES302の現在の容量Ckと、各ES302の初期からの容量低減量Dtotal,kは、状態情報の一例である。
【0119】
決定部53Aは、記憶部52A内の式(7)および式(8)と、各ES302のSoC0と、各ES302の現在の容量Ckと、各ES302の初期からの容量低減量Dtotal,kと、調整電力量Ptを表す電力情報と、に基づいて、上述した式(4)、式(5)および式(6)を同時に満たす、各ES302が受け持つ電力量Pkを決定する。
【0120】
決定部53Aは、蓄電池システム31〜3n内の各ES302が受け持つ電力量P1〜Pnを決定すると、その決定結果を制御部54に出力する。
【0121】
制御部54は、決定部53の決定結果を受け付けると、蓄電池システム31〜3nの各々に、その蓄電池システム内のES302に対して決定された電力量を示す動作指示を、通信部51を介して送信する。
【0122】
本実施形態によれば、電力系統での電力需給バランスを調整するための調整機器として、ES302(蓄電池)が用いられ、調整機器の状態として、ES302のSoCと、ES302の現在の容量と、ES302の初期からの容量低減量とが用いられる。
【0123】
このため、ES302の容量低減(劣化)の要因として特にSoC値が大きな影響を与える場合に、複数のES302の劣化を抑制するように、複数のES302に電力を割り当てることが可能になる。
【0124】
なお、図5では、決定部53Aと制御部54とを個別の機器として示したが、決定部53Aが制御部54を内蔵してもよい。
【0125】
また、図5では、通信部51と記憶部52Aと決定部53Aと制御部54とを含む調整機器制御システムが電池管理部5に内蔵されているが、通信部51と記憶部52Aと決定部53Aと制御部54との全てが同一の機器に内蔵されなくてもよい。
【0126】
なお、図5に示した電池管理部5は、コンピュータにて実現されてもよい。この場合、コンピュータは、コンピュータにて読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムを読込み実行して、通信部51、記憶部52A、決定部53Aおよび制御部54として機能する。
【0127】
また、上記各実施形態において、各ES302は、互いに異なる特性を有する蓄電池でもよいし、同一の特性を有する蓄電池でもよい。
【0128】
また、上記各実施形態において、EMU4は、電力需給バランスを調整するために電力需要が必要な場合には、調整電力量Ptの値を負の値とし、電力需給バランスを調整するために電力供給が必要な場合には、調整電力量Ptの値を正の値としてもよい。この場合、BMU304は、動作指示に示された電力量が負の値である場合には、動作指示に示された電力量を、インバータ303を用いてES302に充電する。一方、動作指示に示された電力量が正の値である場合には、BMU304は、動作指示に示された電力量を、インバータ303を用いてES302から放電する。
【0129】
また、上記各実施形態において、ES302の性能の変化量は、ES302の劣化変化量に限らず適宜変更可能である。
【0130】
以上説明した各実施形態において、図示した構成は単なる一例であって、本発明はその構成に限定されるものではない。
【0131】
各実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記各実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。この出願は、2012年2月28日に出願された日本出願特願2012−41609を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0132】
1 電力系統
2 電力線
31〜3n 蓄電池システム
301 通信部
302 ES
303 インバータ
304、304A BMU
304a、304b 温度検出部
4 EMU
5 電池管理部
51 通信部
52、52A 記憶部
53、53A 決定部
54 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6