(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
<回路基板用樹脂組成物>
本発明の回路基板用樹脂組成物は、重合体(A)と、有機溶剤(B)とを含有するものであり、回路基板用樹脂基板の製造に適した樹脂組成物である。
【0014】
重合体(A)
重合体(A)は、下記式(1)で表される構造単位を有する。
【0015】
【化3】
上記式(1)中の各記号の意味は、以下の通りである。
【0016】
A
r1およびAr
2は、それぞれ独立に、炭素数6〜30のアリーレン基、または炭素数6〜30のアリーレン基が有する少なくとも1つの水素原子を水酸基、ハロゲン原子又は1価の有機基に置き換えてなる基である。アリーレン基の炭素数は、好ましくは6〜18、より好ましくは6〜12である。
【0017】
Ar
1およびAr
2のアリーレン基は、単環でも多環でもよく、また縮合環であってもよい。前記炭素数6〜30のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、およびアントリレン基が挙げられる。
【0018】
前記ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、およびフッ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。前記1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、およびノニル基等の炭素数1〜12のアルキル基;シクロプロピル基、シクロヘキシル基、およびイソボルニル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、およびブトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;フェニル基、1−ナフチル基、および2−ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基;並びにフェノキシ基等の炭素数6〜18のアリーロキシ基が挙げられる。なお、上記アリーレン基が有してもよい、水酸基、ハロゲン原子及び1価の有機基から選ばれる置換基は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0019】
R
1は、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数6〜30のアリール基である。R
1において、アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜4であり、アリール基の炭素数は、好ましくは6〜18、より好ましくは6〜12である。前記炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。前記炭素数6〜30のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、および1−アントリル基が挙げられる。
【0020】
R
2は、直接結合、炭素数1〜20のアルカンジイル基、−O−、−S−、または、−(R
32SiO)
a−である。ただしR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜12のアルコキシ基であり、aは1以上の整数である。R
2がアルカンジイル基である場合、その炭素数は好ましくは1〜18、より好ましくは1〜6である。前記炭素数1〜20のアルカンジイル基としては、例えば、メチレン基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基が挙げられる。R
3における炭素数1〜20のアルキル基および炭素数6〜30のアリール基としては、前記R
1で示した炭素数1〜20のアルキル基および炭素数6〜30のアリール基と同様の基が挙げられ、R
3における炭素数1〜12のアルコキシ基としては、前記1価の有機基で示した炭素数1〜12のアルコキシ基と同様の基が挙げられる。
【0021】
EWGは、電子求引性基(electron withdrawing group)を示す。式(1)中におけるEWGは、R
1およびEWGが結合する炭素の電子をR
1よりも求引するもの、すなわちR
1よりも電子求引性の高い基であればよい。上記式(1)において、R
1とEWGとのハメット(Hammett)置換基定数の差が、好ましくは0.1〜2、より好ましくは0.2〜1.5の範囲である。
【0022】
EWGとしては、例えば、炭素数1〜4のパーハロアルキル基、パーハロアリール基、パーハロアルキル基置換アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基が挙げられる。パーハロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等のパーフルオロアルキル基、パークロロアルキル基、パーブロモアルキル基が挙げられる。パーハロアリール基およびパーハロアルキル基置換アリール基としては、例えば、ペンタフルオロフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0023】
これらのEWGの中でも、熱安定性の観点から、パーフルオロアルキル基、パーハロアリール基およびパーハロアルキル基置換アリール基が好ましく、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基およびビス(トリフルオロメチル)フェニル基がより好ましい。
【0024】
nは0以上の整数であり、好ましくは0〜5の整数である。
本発明に係る重合体(A)は、前記式(1)で表される構造単位を1種のみ含有してもよく、2種以上含有していてもよい。
【0025】
本発明に係る重合体(A)は、前記式(1)で表される構造単位を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上含有する。構造単位の含有割合は、
1H−NMRで測定した値である。
重合体(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
重合体(A)の製造方法
本発明の重合体(A)は、例えば、下記式(a)で表される化合物(以下、化合物(a)ともいう)と、下記式(b)で表される化合物(以下、化合物(b)ともいう)とを、強酸の存在下で重縮合反応させることで得ることができる。
【0029】
【化6】
上記方法では、活性ケトン種に対して強酸を作用させることで生じた活性カルボカチオンが、アリール化合物に対して親電子攻撃を行うことで直接的に炭素−炭素結合を形成しながら重合体を生成すると考えられる。上記方法を用いることで、ワンポット合成が可能であり、また、副生物としては水のみであり、アルカリ金属塩や有機金属化合物等の触媒残渣のない重合体を合成することができる。
【0030】
上記方法の反応条件および反応機構の詳細については、Macromolecules 2004, 37, 6227-6235、Macromolecules 2008, 41, 8504-8512、Chem. Commun., 2004, 1030-1031などの記載を参照することができる。
【0031】
・化合物(a)
化合物(a)は、下記式(a)で表される。
【0032】
【化7】
式(a)中、R
1およびEWGは、上述した式(1)中の同一記号と同義である。
【0033】
化合物(a)としては、例えば、ペンタフルオロフェニルメチルケトン、ペンタフルオロフェニルエチルケトン、トリフルオロメチルメチルケトン、および2,2,2−トリフルオロアセトフェノンが挙げられる。
化合物(a)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
・化合物(b)
化合物(b)は、下記式(b)で表される。
【0035】
【化8】
式(b)中、Ar
1、Ar
2、R
2およびnは、上述した式(1)中の同一記号と同義である。
【0036】
化合物(b)としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、パラターフェニル、パラクオターフェニル、9,10−ジフェニルアントラセン等の芳香族炭化水素;1,2−ジフェニルエタン、1,3−ジフェニルプロパン、1,4−ジフェニルブタン、1,8−ジフェニルオクタン等のジフェニルアルカン;ジフェニルエーテル等のジアリールエーテル;ジフェニルスルフィド等のジアリールチオエーテル;2−クロロ−9,10−ジフェニルアントラセン等のハロゲン化物;が挙げられる。
化合物(b)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物(a)と化合物(b)との重縮合では、式(b)中の水素原子に結合する芳香環炭素が、式(a)中の活性カルボニル炭素と結合して、重合体が形成される。
【0037】
・強酸
重合体(A)の製造において、強酸は、上述の化合物(a)および化合物(b)の重縮合反応の触媒として用いる。
【0038】
強酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロフェニル酢酸、フルオロスルホン酸、クロロスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、炭素数2以上のパーフルオロアルカンスルホン酸(例えば、C
2F
5SO
3H、C
4F
9SO
3H、C
5F
11SO
3H、C
6F
13SO
3H、およびC
8F
17SO
3H)、ペンタフルオロフェニルスルホン酸、ペンタフルオロプロピオン酸が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
触媒の好適例としては、トリフルオロメタンスルホン酸を単独で使用する例、トリフルオロメタンスルホン酸と、メタンスルホン酸およびトリフルオロ酢酸から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて使用する例が挙げられる。
強酸は、1種以上の化合物(a)の合計1モルに対して、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モルの量で用いることができる。
【0040】
・重合溶剤
重合体(A)の製造においては、上記強酸または上記重縮合反応に対して不活性な重合溶剤を用いることができる。前記不活性な重合溶剤としては、例えば、塩化メチレン、ヘキサクロロベンゼン、およびパーフルオロヘキサン等のハロゲン化炭化水素(上記重縮合反応で反応する化合物を除く);炭素数4〜12のn−アルカン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等の酢酸アルキルエステル;並びにパーフルオロポリエーテル等のフルオロアルキルエーテル;が挙げられる。
【0041】
・重縮合反応
化合物(b)の合計の使用量は、化合物(a)の合計1モルに対して、通常0.5〜1.5モル、好ましくは0.9〜1.1モル、より好ましくは0.95〜1.05モルである。例えば、1種の化合物(a)と2種の化合物(b)とを用いて重縮合反応を行う場合、化合物(a)の使用量と、2種の化合物(b)の合計の使用量とは、等モル程度が好ましい。
【0042】
反応時の反応液温度は、好ましくは−50〜150℃、より好ましくは−30〜50℃、である。反応時間は、好ましくは0.1〜8時間、より好ましくは0.5〜4時間である。
【0043】
反応終了後は、得られた重合体(A)は、公知の方法で精製することができる。
上述のようにして得られた重合体(A)を含む重合反応物は、強酸を触媒として用いるため、一般の重合触媒を用いた場合に反応物中に不純物として通常含まれる塩化銅、塩化カリウム、炭酸カリウム等の無機塩類を含まない状態で得られる。このため不純物として残存する無機塩類による劣化の恐れがなく、重合反応物から煩雑な工程で不純物除去を行う必要がないという利点がある。
【0044】
重合体(A)の特性
本発明に係る重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは10,000〜1,000,000、さらに好ましくは30,000〜200,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜4.0、より好ましくは1.0〜3.0である。分子量は、例えば強酸の使用量により調節することができる。
【0045】
本発明に係る重合体(A)の示差走査熱量法(DSC)で測定したガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
本発明に係る重合体(A)は、熱重量分析法(TGA)で測定した熱分解温度(5%重量減少温度)が、好ましくは350℃以上、より好ましくは380℃以上である。上限値は特に限定されないが、例えば550℃である。
【0046】
本発明に係る重合体(A)は、上記式(1)で表される構造単位を有することから、フィルム状、シート状などに成形した場合には、比誘電率(ε
r)の値が小さく、誘電正接(tanδ)の値が小さく、しかも比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)がいずれも周波数および温度への依存性が少ない。これは、重合体(A)の短軸方向(重合体の主鎖と垂直方向)は分極が小さく、且つ、分極が生じる箇所が4級炭素構造であることから、分子の回転がおきにくいためであると推定される。このため、本発明に係る重合体(A)は、回路基板用の樹脂基板の製造に特に有用である。
【0047】
有機溶剤(B)
有機溶剤(B)は、重合体(A)を溶解する溶剤であって、回路基板用樹脂組成物を取り扱いやすいものとするために用いるものである。このような有機溶剤(B)としては、芳香族系有機溶剤、ケトン系有機溶剤およびアミド系有機溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、回路基板用樹脂組成物から形成される回路基板用樹脂基板のε
rおよびtanδの値が小さく、さらに、その周波数や温度に対する依存性の少ない回路基板用樹脂基板を形成することができることから好ましい。有機溶剤(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記芳香族系有機溶剤としては、アニソール、トルエン、メシチレン、およびキシレン等が挙げられる。前記ケトン系有機溶剤としては、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、およびシクロヘキサノン等が挙げられる。前記アミド系有機溶剤としては、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ペンチル−2−ピロリドン、N−(メトキシプロピル)−2−ピロリドン、N−(t−ブチル)−2−ピロリドン、およびN−シクロヘキシル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0049】
これらの中では、塗工性、経済性の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、トルエンおよびメシチレンがより好ましく用いられる。
本発明の回路基板用樹脂組成物中の重合体(A)の含有割合は、通常、1〜40質量%、好ましくは5〜25質量%である。組成物中の重合体(A)の含有割合が前記範囲にあると、塗膜を形成する場合に厚膜化が可能で、ピンホールが生じにくく、表面平滑性に優れる回路基板用樹脂基板を形成することができる。
【0050】
その他の成分
本発明の回路基板用樹脂組成物は、重合体(A)および有機溶剤(B)に加えて、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。本発明の回路基板用樹脂組成物に含まれていてもよいその他の成分としては、例えば、無機粒子、重合体(A)以外の樹脂成分、難燃剤、老化防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤、および充填剤が挙げられる。
【0051】
前記無機粒子は、回路基板用樹脂組成物から形成される回路基板用樹脂基板に低熱膨張性を付与するために用いられるものである。
無機粒子の材質としては、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、Eガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カオリン、タルク、マイカ、クレー、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウムが挙げられる。無機粒子の粒子径は、通常、0.1〜100μmである。
【0052】
前記無機粒子は、回路基板用樹脂組成物に均一に分散できるように、また、回路基板用樹脂組成物から形成される回路基板用樹脂基板の耐熱性を向上させるために、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理されたものを用いることができる。
【0053】
前記重合体(A)以外の樹脂成分は、前記重合体(A)に由来する機能以外の機能を付与するために用いられるものである。前記重合体(A)以外の樹脂成分としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、ジビニルベンゼン、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、塩化ビニル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、酢酸ビニル、四フッ化エチレン等のビニル化合物の単独重合体及び2種以上のビニル化合物の共重合体、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、およびポリエチレングリコール等の熱可塑性樹脂;並びにフェノール樹脂、エポキシ樹脂、及びシアネートエステル系樹脂;を挙げることができる。
【0054】
前記難燃剤は、回路基板用樹脂組成物から形成される回路基板用樹脂基板の難燃性を付与するものであり、例えば、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及びほう酸亜鉛等の無機難燃剤;ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジェフェニルエタン、4,4−ジブロモフェニル、及びエチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化合物;が挙げられる。
【0055】
前記老化防止剤は、回路基板用樹脂組成物から形成される回路基板用樹脂基板の耐久性をより向上させるために用いるものであり、例えば、ヒンダードフェノール系化合物が挙げられる。
【0056】
回路基板用樹脂組成物の製造方法
本発明の回路基板用樹脂組成物は、各成分を均一に混合することにより製造できる。また、ゴミを取り除くために、各成分を均一に混合した後、得られた混合物をフィルター等で濾過してもよい。
【0057】
本発明の回路基板用樹脂組成物の粘度は、通常、50〜100,000mPa・s、好ましくは500〜50,000mPa・s、より好ましくは1,000〜20,000mPa・sである。粘度は、JIS K7117に従い回転粘度計により測定される値である。回路基板用樹脂組成物の粘度が前記範囲にあると、塗膜を形成する際などの成膜中において組成物の滞留性に優れ、厚みの調整が容易であるため、所望の回路基板用樹脂基板を容易に成形することができる。
【0058】
<回路基板用樹脂基板>
本発明の回路基板用樹脂基板は、上述した重合体(A)を含有する。
本発明の回路基板用樹脂基板は、重合体(A)を含有することから、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さく、さらに、これらの周波数および温度に対する依存性の少ない回路基板用樹脂基板となる。
【0059】
本発明の回路基板用樹脂基板は、重合体(A)を含有していればどのような方法で製造してもよいが、本発明の回路基板用樹脂組成物から製造する方法が好ましい。
本発明の回路基板用樹脂組成物から回路基板用樹脂基板を製造する方法は、回路基板用樹脂組成物から揮発成分を除去することにより、回路基板用樹脂基板を製造することができ、例えば、回路基板用樹脂組成物を、支持体上に塗布して塗膜を形成した後、または強化繊維基材に含浸させた後、前記有機溶剤(B)等の揮発成分を除去することで、回路基板用樹脂基板を製造することができる。
【0060】
前記塗布方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、スリットコート法およびドクターブレードを用いる方法等が挙げられる。前記支持体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムおよびSUS板などが挙げられる。前記塗膜の厚さは、最終的に得られる回路基板用樹脂基板の膜厚により適宜決めればよく、通常、1〜1000μmである。
【0061】
回路基板用樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる場合、強化繊維基材としては、例えば、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマット等の各種ガラス布;アスベスト布、金属繊維布、及びその他合成もしくは天然の無機繊維布;全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維等の液晶繊維から得られる織布又は不織布;綿布、麻布、フェルト等の天然繊維布;カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙−ガラス混繊糸から得られる布等の天然セルロース系基材;ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム;が挙げられる。強化繊維基材は1種を単独で、または2種以上組合せて用いることができる。
【0062】
前記有機溶剤(B)等の揮発成分を除去する方法としては、例えば、加熱する方法が挙げられる。前記加熱の条件は、通常、30℃〜300℃の温度で、10分〜5時間である。なお、加熱は二段階以上で行ってもよい。具体的には、30〜80℃の温度で10分〜2時間乾燥後、100℃〜250℃でさらに10分〜3時間加熱するなどである。また、必要に応じて、窒素雰囲気下もしくは減圧下にて乾燥を行ってもよい。
【0063】
支持体上に塗布して塗膜を形成する場合、得られた樹脂基板は、支持体から剥離して回路基板用樹脂基板として用いてもよく、または支持体から剥離せずにそのまま回路基板用樹脂基板として用いてもよい。
【0064】
また、回路基板用樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる場合、得られる回路基板用樹脂基板中に含まれる重合体(A)の含有割合は、30質量%以上、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。
【0065】
本発明の回路基板用樹脂基板の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択でき、通常、1〜250μm、好ましくは2〜150μm、より好ましくは5〜125μmである。
樹脂基板中の残存溶剤量は、回路基板用樹脂基板100重量%に対し、通常、0〜1.2重量%、好ましくは0〜1重量%である。残存溶剤量がこの範囲にあることで、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さく、さらに、その周波数および温度に対する依存性の少ない回路基板用樹脂基板を得ることができる。
【0066】
本発明の回路基板用樹脂基板の引張強度は、通常、50〜400MPaであり、破断伸びは、通常、5〜100%であり、引張弾性率は、通常、2.5〜4.0GPaであり、線膨張係数は、通常、80ppm/K以下であり、湿度膨張係数は、通常、15ppm/%RH以下である。
【0067】
引張強度および引張弾性率はJIS K 7161、破断伸びはJIS Z 2241:2011、線膨張係数はJIS Z 2285:2003に準じ、湿度膨張係数は、相対湿度の変更率(%)当たりのサイズ変更率(%)で算出した値である。
【0068】
<回路基板>
本発明の回路基板は、本発明の回路基板用樹脂基板を有するものであり、回路基板用樹脂基板の片面または両面に配線部を設けることで得られる。このような回路基板は、比誘電率(ε
r)の値が小さく、誘電正接(tanδ)の値が小さく、しかも比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の周波数および温度に対する依存性の少ない本発明の回路基板用樹脂基板を有するため、伝送速度が大きく、伝送損失が小さいため、高周波領域で好適に用いることができる。
【0069】
前記配線部を形成する方法としては、例えば、ラミネート法、メタライジング法、スパッタリング法、蒸着法、塗布法および印刷法等により、前記回路基板用樹脂基板上に、銅、インジウムスズ酸化物(ITO)、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびポリピロール等の導電性材料からなる導電層を形成し、前記導電層をパターニングすることで配線部を形成することができる。また、導電層を形成する前に、回路基板用樹脂基板と導電層との接着力を向上させるために、プラズマ処理などにより回路基板用樹脂基板の表面を改質してもよく、接着剤を回路基板用樹脂基板上に塗布しておいてもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」の意味で用いる。
【0071】
<測定・評価方法>
樹脂の重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)
下記条件下でゲルパーミエーションクロマトグラフィー法にて重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布を測定した。
・カラム:東ソー社製カラムの「TSKgel αM」および「TSKgel α2500」を直列に接続
・溶媒:臭化リチウムおよびリン酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン
・温度:40℃
・検出方法:屈折率法
・標準物質:ポリスチレン
・GPC装置:東ソー製、装置名「HLC-8020-GPC」
【0072】
構造解析
構造解析は、下記条件で、
1H−NMRにより行った。
・装置:JEOL社製、装置名「ECP−400P」
・重溶媒:重クロロホルム、重メタノールおよび重水から選ばれる重溶媒の内、もっとも溶解性の高い重溶媒を選択した。
【0073】
ガラス転移温度(Tg)、熱分解温度
重合体のガラス転移温度(Tg)は、Rigaku社製8230型DSC測定装置を用いて、昇温速度20℃/分にて測定した。また、重合体の5%重量減少温度を、熱重量分析法(TGA)で、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分にて測定し、これを重合体の熱分解温度とした。
【0074】
誘電特性(比誘電率(εr)および誘電正接(tanδ))
各温度条件(23℃、40℃、85℃、および100℃)、周波数条件(1GHz、10GHz、および100GHz)、並びに相対湿度(45RH、50RH、および85RH)における比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)を、評価用フィルムを用い、KEYCOM社製、装置名「FPR−110」を用いて摂動方式共振法により測定した。
【0075】
[実施例1]
・重合体(A−1)の製造
撹拌機および窒素導入管付き三方コックを取り付けた300mLの3つ口フラスコを用い、内部を窒素置換して、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを10.28g、ジフェニルエーテルを10.04g、および塩化メチレンを50mL添加した。
【0076】
続いてトリフルオロメタンスルホン酸27.14gを加え、撹拌を開始し、−20℃で3時間反応させた。反応終了後に反応液をメタノールに投じて反応物を沈殿させ、濾物を単離した。得られた濾物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末の重合体(A−1)を得た。収量は18.30gであり、収率は95%であった。
【0077】
得られた重合体(A−1)のMwは86,000、Mw/Mnは2.7であり、Tgは220℃、熱分解温度は510℃であった。得られた重合体(A−1)の
1H−NMRスペクトル(
図1)より、得られた重合体が、下記式の構造単位を有することを確認した。
【0078】
【化9】
【0079】
・樹脂基板の製造
上記で得た重合体(A−1)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、重合体濃度20質量%の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる支持体上にドクターブレードを用いて塗布し、70℃で30分乾燥させ、ついで100℃で30分乾燥してフィルムとした後、支持体より剥離した。その後、フィルムを金枠に固定し、さらに180℃で2時間乾燥して、膜厚30μmのフィルム状の樹脂基板を得た。得られたフィルム状の樹脂基板を評価用サンプルとして用い、誘電特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
・重合体(A−2)の製造
撹拌機および窒素導入管付き三方コックを取り付けた300mLの3つ口フラスコを用い、内部を窒素置換して、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを5.49g、ジフェニルエーテルを2.55g、パラターフェニルを3.45g、および塩化メチレンを50mL添加した。
【0081】
続いてトリフルオロメタンスルホン酸16.96gを加え、撹拌を開始し、−20℃で5時間反応させた。反応終了後に反応液をメタノールに投じて反応物を沈殿させ、濾物を単離した。得られた濾物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末の重合体(A−2)を得た。収量は10.56gであり、収率は96%であった。
【0082】
得られた重合体(A−2)のMwは102,000、Mw/Mnは2.8であり、Tgは290℃、熱分解温度は512℃であった。得られた重合体(A−2)の
1H−NMRスペクトル(
図2)より、得られた重合体が、下記式の構造単位を有することを確認した。
【0083】
【化10】
【0084】
・樹脂基板の製造
重合体(A−1)に代えて、上記で得た重合体(A−2)を用いたことの他は、実施例1と同様にして樹脂基板の製造を行い、膜厚30μmのフィルム状の樹脂基板を得た。得られたフィルム状の樹脂基板を評価用サンプルとして用い、誘電特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0085】
[実施例3]
・重合体(A−3)の製造
撹拌機および窒素導入管付き三方コックを取り付けた300mLの3つ口フラスコを用い、内部を窒素置換して、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを3.53g、ジフェニルエーテルを0.51g、パラターフェニルを6.22g、および塩化メチレンを50mL添加した。
【0086】
続いてトリフルオロメタンスルホン酸16.96gを加え、撹拌を開始し、−20℃で5時間反応させた。反応終了後に反応液をメタノールに投じて反応物を沈殿させ、濾物を単離した。得られた濾物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末の重合体(A−3)を得た。収量は10.56gであり、収率は96%であった。
【0087】
得られた重合体(A−3)のMwは76,000、Mw/Mnは2.6であり、Tgは330℃、熱分解温度は505℃であった。得られた重合体(A−3)の
1H−NMRスペクトルより、得られた重合体(A−3)が、下記式の構造単位を有することを確認した。
【0088】
【化11】
【0089】
・樹脂基板の製造
重合体(A−1)に代えて、上記で得た重合体(A−3)を用いたことの他は、実施例1と同様にして樹脂基板の製造を行い、膜厚30μmのフィルム状の樹脂基板を得た。得られたフィルム状の樹脂基板を評価用サンプルとして用い、誘電特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0090】
[比較例1]
ポリイミドフィルム(商品名「カプトン100H/V」、東レ・デュポン社製、膜厚25μm)を評価用サンプルとして用い、誘電特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0091】
[比較例2]
液晶ポリマーフィルム(商品名「ベクスター CT−Z」、クラレ(株)製、膜厚25μm)を評価用サンプルとして用い、誘電特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】