特許第6206501号(P6206501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206501断層画像処理方法およびそれにおける各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206501
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】断層画像処理方法およびそれにおける各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   G01T1/161 C
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-542427(P2015-542427)
(86)(22)【出願日】2013年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2013077962
(87)【国際公開番号】WO2015056299
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2016年1月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構共同研究(*),産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)(*)がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超早期高精度診断システムの研究開発:画像診断システムの研究開発/高機能画像診断機器の研究開発
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲哉
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−153976(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/027402(WO,A1)
【文献】 特開2011−075549(JP,A)
【文献】 特開2010−151653(JP,A)
【文献】 特表2009−544944(JP,A)
【文献】 特開2004−237076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161− 1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線放出型の断層画像に関する処理を行う断層画像処理方法であって、
放射線を検出することにより得られた事象データから生成されたリストモードデータ、および前記リストモードデータから推定した欠損領域投影データの両方を用いて、画像を逐次に近似して更新する逐次近似法を行って前記断層画像を取得する処理を行う取得処理工程を備えることを特徴とする断層画像処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の断層画像処理方法において、
前記リストモードデータを投影データに変換する変換処理工程と、
その変換処理工程で変換された前記投影データに基づいて欠損領域データを推定する推定処理工程と
を備え、
その推定処理工程で推定された前記欠損領域データを前記取得処理工程で用いられる前記欠損領域投影データとして用いることを特徴とする断層画像処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の断層画像処理方法における各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置において、
前記リストモードデータおよび前記欠損領域投影データの両方を用いて前記逐次近似法を行って前記断層画像を取得する処理を行う断層画像処理手段を備えることを特徴とする放射線放出型断層撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射線放出型の断層画像に関する処理を行う断層画像処理方法およびそれにおける各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線放出型断層撮影装置として、SPECT装置(Single Photon Emission CT)やPET装置(Positron Emission Tomography)がある。SPECT装置は、単一の放射線(γ線)を検出して被検体の断層画像を再構成する。PET装置は、陽電子(ポジトロン)の消滅によって発生する複数本の放射線(γ線)を検出して複数個の検出器で放射線(γ線)を同時に検出したときのみ(つまり同時計数したときのみ)被検体の断層画像を再構成する。特に、PET装置は「ポジトロン断層撮影装置」とも呼ばれている。以下では、PET装置(ポジトロン断層撮影装置)を例に採って説明する。
【0003】
図9の下図に示す投影データはサイノグラム(sinogram)であり、横軸は検出器の配置Sを表し、縦軸はγ線の投影角度φである。γ線対を同時計数するので、投影角度φの範囲は0°〜360°でなく、その半分の0°〜180°となる。
【0004】
図9(a)に示すように円環状に各々の検出器が並べられた、いわゆる「フルリング型」の検出器ユニットを備えたPET装置では、検出器ユニットが被検体全体を0°〜180°でカバーする。よって、それによって得られた投影データは完全な投影データ(完全投影データ)となる。
【0005】
一方、一部が開口して構成された検出器ユニットにおいて、例えば図9(b)に示すような検出器の一部に抜けがある、いわゆる「部分リング型」の検出器ユニットを備えたPET装置では、その抜けを通過して検出されないγ線が存在する。この場合には、放射性薬剤の体内分布画像を正確に再構成するために必要な最低限のデータ(完全投影データ)を測定することができない。そのように測定されて得られた不完全な投影データ(不完全投影データ)には、図9(b)に示すように欠損領域(図9(b)では符号Dで表記)が生じる。したがって、不完全投影データに対して再構成の計算処理を施すと、再構成画像(断層画像)にデータ欠損に由来した偽像(アーティファクト)が生じる。
【0006】
なお、図9(b)に示す部分リング型以外にも、乳房の断層画像を取得するマンモ用PET装置において用いられるC型やコの字型の検出器ユニットや、複数の検出器が互いに対向して平行に配置された検出器ユニット等に例示されるように、一部が開口して構成された検出器ユニットであれば、部分リング型と同様の現象が生じる。すなわち、検出器の一部に抜けがあることによりアーティファクトが生じる。
【0007】
そこで、アーティファクトを低減させるために、検出時間差(TOF: Time Of Flight)の情報を利用した技術(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)や、投影データを完全化する(すなわち欠損領域データを推定する)技術(例えば、非特許文献2参照)がある。検出時間差(TOF)とは、検出されたγ線対の検出時間差である。ポジトロンの対消滅発生地点を、消滅γ線が光速であることを用いて、対消滅発生地点から検出器に到達する時間差を、対消滅発生地点から検出器のシンチレータ素子による光源発生位置までの距離差に換算することで、対消滅発生地点を推定する技術である。なお、非特許文献1は、特許文献1の元となる学術論文である。
【0008】
特許文献1は、図9(b)に示したような部分リング型TOF−PET装置のシステム構成に関する内容である。検出されたγ線対の検出時間差(TOF)の情報を再構成の計算処理において利用することで、データ欠損による情報量の低下を補償し、再構成画像(断層画像)のアーティファクトを低減させることを目的としている。
【0009】
特許文献1の元となる学術論文である非特許文献1では、γ線の検出イベント情報(検出器番号、検出時間、γ線のエネルギ等)を時系列で保存した「リストモード」と呼ばれるデータ(「リストモードデータ」または「リストデータ」とも呼ぶ)に対して再構成の計算処理を施している。この再構成方式を「リストモード再構成」という。一方、リストモードデータを検出位置毎にヒストグラム化して得られる投影データに対する再構成方式を「投影データ再構成」という。
【0010】
非特許文献2は、不完全投影データの欠損部分の投影値を推定するアルゴリズムに関する。このようなアルゴリズムは「投影完全化(projection completion)アルゴリズム」と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0108896号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S Surti and JS Karp: Design considerations for a limited-angle, dedicated breast, TOF PET scanner. Phys Med Biol, vol. 53, 2911-2921, 2008.
【非特許文献2】J. S. Karp, G. Muehllehner and R. M. Lewitt: Constrained Fourier space method for compensation of missing data in emission computed tomography. IEEE Trans Med Imag, vol. 7, 22-25, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した特許文献1や非特許文献1や非特許文献2の場合には下記のような問題点がある。
【0014】
特許文献1や非特許文献1で述べられているように、部分リング型PET装置において、TOFの情報を利用した再構成の計算処理により画像のアーティファクトは低減するが、低減の程度はTOFの情報の精度(検出器の時間分解能)およびデータ欠損量(検出器がない部分の大きさ)に依存する。したがって、TOFの情報を利用することが、満足のいく画質が得られるということには必ずしもならない。つまり、TOFの情報を利用することは、部分リング型PET装置の画質低下の問題に対する根本的な解決策とならない。
【0015】
欠損領域データを推定して投影データを完全化することができれば、理論上、画像にアーティファクトは発生しない。したがって、部分リング型PET装置における画質低下の問題の根本的な解決策は、非特許文献2にあるような投影完全化アルゴリズムを利用して投影データを完全化することである。
【0016】
しかし、非特許文献2のような投影データ再構成では、以下のような問題点がある。(1)検出器(シンチレータ結晶)の微細化に伴い結晶数が増加し、結晶数の対(ペア)の分だけ投影データのデータ量が指数関数的に増加してしまう。例えば、結晶数が2倍になると結晶数の対(ペア)の組み合わせや投影データのデータ量は4倍(=2倍)となり、結晶数が3倍になると結晶数の対(ペア)の組み合わせや投影データのデータ量は9倍(=3倍)となる。また、(2)リストモードデータを投影データに変換することが再構成画像(断層画像)の空間分解能の劣化要因となってしまう。一方、リストモードデータのデータ量はシンチレータ結晶数に依存せず、γ線の計数(カウント数)に比例する。
【0017】
以上の理由により、PET画像の再構成方式ではリストモード再構成が主流になりつつある。その場合には、投影データを作成しないので、当然ながら投影完全化アルゴリズムの出番はない。したがって、従来のリストモード再構成ではデータ欠損は補償されない。
【0018】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、アーティファクトを低減させて画質を改善することができる断層画像処理方法およびそれにおける各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、この発明の断層画像処理方法は、放射線放出型の断層画像に関する処理を行う断層画像処理方法であって、放射線を検出することにより得られた事象データから生成されたリストモードデータ、および前記リストモードデータから推定した欠損領域投影データの両方を用いて、画像を逐次に近似して更新する逐次近似法を行って前記断層画像を取得する処理を行う取得処理工程を備えることを特徴とするものである。
【0020】
この発明の断層画像処理方法によれば、リストモードデータおよび欠損領域投影データの両方を用いて、画像を逐次に近似して更新する逐次近似法を行っている。すなわち、リストモード再構成および投影データ再構成を組み合わせたハイブリッド方式(以下、「ハイブリッド再構成法」と呼ぶ)を用いて逐次近似法を行っている。よって、投影データによりデータ欠損を補償することができ、従来のリストモード再構成と比較すると、アーティファクトを低減させて画質を改善することができる。
【0021】
具体的には、上述のリストモードデータを投影データに変換する変換処理工程と、その変換処理工程で変換された投影データに基づいて欠損領域データを推定する推定処理工程とを備え、その推定処理工程で推定された上述の欠損領域データを上述の取得処理工程で用いられる上述の欠損領域投影データとして用いる。変換処理工程においてリストモードデータを投影データに変換することにより再構成画像(断層画像)の空間分解能(画質)が劣化するが、ハイブリッド再構成法では補償の対象はリストモードデータであってリストモード再構成が主体である。したがって、一部の欠損領域データのみが投影データの形式をとっているだけなのでデータの質自体は劣化しない。よって、完全化された投影データを用いた投影データ再構成よりも、推定処理工程において推定されて完全化された投影データ(欠損領域データ)を用いたハイブリッド再構成法の方が画質は優れる。
【0022】
また、この発明の放射線放出型断層撮影装置は、上述したこれらの発明の断層画像処理方法における各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置において、上述のリストモードデータおよび上述の欠損領域投影データの両方を用いて逐次近似法を行って断層画像を取得する処理を行う断層画像処理手段を備えることを特徴とするものである。
【0023】
この発明の放射線放出型断層撮影装置によれば、断層画像処理手段は上述のハイブリッド再構成法を用いて逐次近似法を行うので、投影データによりデータ欠損を補償することができ、従来のリストモード再構成と比較すると、アーティファクトを低減させて画質を改善することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明に係る断層画像処理方法およびそれにおける各工程を実行するための手段を備えた放射線放出型断層撮影装置によれば、(リストモード再構成および投影データ再構成を組み合わせた)ハイブリッド再構成法を用いて逐次近似法を行うので、投影データによりデータ欠損を補償することができ、従来のリストモード再構成と比較すると、アーティファクトを低減させて画質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例に係るPET(Positron Emission Tomography)装置の側面図およびブロック図である。
図2】γ線検出器の概略斜視図である。
図3】部分リング型の検出器ユニットの概略正面図である。
図4】部分リング型PET装置における一連の撮影から再構成画像(断層画像)の出力の流れを示すフローチャートである。
図5】検出器応答関数(検出確率)の説明に供するγ線検出器での同時計数を示した模式図である。
図6】変形例に係るPET装置の側面図である。
図7】さらなる変形例に係るPET装置の側面図およびブロック図である。
図8】(a)、(b)は、被検体に対して近接させた検出器ユニットの概略正面図である。
図9】(a)はフルリング型の検出器ユニットの概略正面図およびそのときの投影データ、(b)は部分リング型の検出器ユニットの概略正面図およびそのときの投影データである。
【実施例】
【0026】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。図1は、実施例に係るPET(Positron Emission Tomography)装置の側面図およびブロック図であり、図2は、γ線検出器の概略斜視図であり、図3は、部分リング型の検出器ユニットの概略正面図である。本実施例では、放射線放出型断層撮影装置として、PET装置(ポジトロン断層撮影装置)を例に採って説明するとともに、一部が開口して構成された検出器ユニットとして、図3図9(b)も参照)に示す部分リング型の検出器ユニットを例に採って説明する。
【0027】
本実施例に係るPET装置の傍らには、図1に示すように、被検体Mを載置する天板1が配置されている。この天板1は、上下に昇降移動、被検体Mの体軸Zに沿って平行移動するように構成されている。このように構成することで、天板1に載置された被検体Mは、後述するガントリ2の開口部2aを通って、頭部から順に腹部、足部へと走査されて、被検体Mの画像を得る。なお、走査される部位や各部位の走査順序については特に限定されない。なお、本実施例に係るPET装置は、天板1を構成として含ませていないが、天板1を構成として含ませて備えてもよい。
【0028】
本実施例に係るPET装置は、開口部2aを有したガントリ2と、γ線検出器3とを備えている。γ線検出器3は、被検体Mの体軸Z周りを取り囲むようにして部分リング状に配置されており、ガントリ2内に埋設されている。本実施例では、図3に示すように一部が開口して構成された部分リング型の検出器ユニット30となるように、各々のγ線検出器3が並べられている。γ線検出器3を構成する検出器ユニット30は、この発明における検出器ユニットに相当する。
【0029】
その他にも、本実施例に係るPET装置は、天板駆動部4とコントローラ5と入力部6と出力部7とメモリ部8と同時計数回路9とGPU(Graphics Processing Unit)10とを備えている。天板駆動部6は、天板1の上述した移動を行うように駆動する機構であって、図示を省略するモータなどで構成されている。GPU10は、この発明における断層画像処理手段に相当する。
【0030】
コントローラ5は、本実施例に係るPET装置を構成する各部分を統括制御する。コントローラ5は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。
【0031】
入力部6は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ5に送り込む。入力部6は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。出力部7はモニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。
【0032】
メモリ部8は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)などに代表される記憶媒体で構成されている。本実施例では、同時計数回路9で同時計数された計数値(カウント)や同時計数した2つのγ線検出器3からなる検出器対やLORといった同時計数に関するデータや、GPU10で演算処理された各種のデータなどについてはRAMに書き込んで記憶し、必要に応じてRAMから読み出す。ROMには、各種の制御処理(例えば天板1の駆動制御)や画像処理(例えば断層画像処理)を行うためのプログラム等を予め記憶しており、そのプログラムをコントローラ5およびGPU10が実行することでそのプログラムに応じた制御処理や画像処理をそれぞれ行う。特に、本実施例では、後述する逐次近似法を行って断層画像を取得する処理を行う取得処理,リストモードデータを投影データに変換する変換処理,変換された投影データに基づいて欠損領域データを推定する推定処理に関するプログラムをROMに予め記憶しており、それらの取得処理や変換処理や推定処理に関するプログラムをGPU10が実行することで後述するステップS1〜S4の処理を実行する。
【0033】
放射性薬剤が投与された被検体Mから発生したγ線をγ線検出器3のシンチレータブロック31(図2を参照)が光に変換して、変換されたその光をγ線検出器3の光電子増倍管(PMT: Photo Multiplier Tube)33(図2を参照)は増倍させて電気信号に変換する。その電気信号をイベントとして同時計数回路9に送り込む。
【0034】
具体的には、被検体Mに放射性薬剤を投与すると、ポジトロン放出型のRIのポジトロンが消滅することにより、2本のγ線が発生する。同時計数回路9は、シンチレータブロック31(図2を参照)の位置とγ線の入射タイミングとをチェックし、被検体Mの両側にある2つのシンチレータブロック31でγ線が同時に入射したときのみ、送り込まれたイベントを適正なデータと判定する。一方のシンチレータブロック31のみにγ線が入射したときには、同時計数回路9は棄却する。つまり、同時計数回路9は、上述した電気信号に基づいて、2つのγ線検出器3においてγ線が同時観測されたことを検出する。
【0035】
同時計数回路9に送り込まれたイベントを、GPU10に送り込む。GPU10は取得処理や変換処理や推定処理による画像再構成を行って、被検体Mの断層画像を求める。断層画像を、コントローラ5を介して出力部7に送り込む。このようにして、GPU10で得られた断層画像に基づいて断層撮影を行う。GPU10の具体的な機能については後述する。
【0036】
γ線検出器3は、図2に示すようにシンチレータブロック31と、そのシンチレータブロック31に対して光学的に結合されたライトガイド32と、そのライトガイド32に対して光学的に結合された光電子増倍管(以下、単に「PMT」と略記する)33とを備えている。シンチレータブロック31を構成する各シンチレータ素子は、γ線の入射に伴って発光することでγ線から光に変換する。この変換によってシンチレータ素子はγ線を検出する。シンチレータ素子において発光した光がシンチレータブロック31で十分に拡散されて、ライトガイド32を介してPMT33に入力される。PMT33は、シンチレータブロック31で変換された光を増倍させて電気信号に変換する。その電気信号は、上述したようにイベントとして同時計数回路9(図1を参照)に送り込まれる。
【0037】
また、図2に示すγ線検出器3は、各々のシンチレータブロック31をγ線の深さ方向に積層(図2では4層に積層)して構成されたDOI検出器である。つまり、DOI検出器は、各々のシンチレータブロック31をγ線の深さ方向に積層して構成されたものであり、相互作用を起こした深さ方向と横方向(入射面に平行な方向)との座標情報を重心演算により求める。これにより、相互作用を起こした深さ方向の光源位置(DOI: Depth of Interaction)を弁別することができる。
【0038】
図9(b)でも述べたように、図3に示す部分リング型の検出器ユニット30では、γ線検出器3の一部に抜けがあり、その抜けを通過して検出されないγ線が存在する。したがって、完全投影データを測定することができず、部分リング型の検出器ユニット30で得られたリストモードデータを投影データに変換すると、欠損領域が生じた不完全投影データが得られる。
【0039】
次に、GPU10の具体的な機能について、図4図5を参照して説明する。図4は、部分リング型PET装置における一連の撮影から再構成画像(断層画像)の出力の流れを示すフローチャートであり、図5は、検出器応答関数(検出確率)の説明に供するγ線検出器での同時計数を示した模式図である。図4ではγ線検出器3として、シンチレータブロック31のみを図示して、ライトガイド32やPMT33については図示を省略する。
【0040】
(ステップS1)(リストモードデータの)取得処理
図3に示す部分リング型の検出器ユニット30を備えたPET装置(部分リング型PET装置)により被検体M(図1を参照)の撮影を行う。検出器ユニット30のγ線検出器3はγ線を同時計数したときのみ、シンチレータブロック31(図2を参照)の位置とγ線の入射タイミングとを有したイベントデータを同時計数回路9(図1を参照)に送り込み、検出器番号や検出時間やγ線のエネルギ等からなるγ線の検出イベント情報を時系列で保存する。これにより、γ線を検出することにより得られた事象データから生成されたリストモードデータを取得する。
【0041】
(ステップS2)変換処理
ステップS1で得られたリストモードデータを投影データに変換する。上述したように、部分リング型の検出器ユニット30(図3を参照)で得られるリストモードデータから変換された投影データは不完全投影データである。このステップS2は、この発明における変換処理工程に相当する。
【0042】
(ステップS3)推定処理
ステップS2で変換された投影データに基づいて欠損領域データを推定する。そして、投影データを完全化する。欠損領域データを推定して投影データを完全化する投影完全化アルゴリズムの手法については、特に限定されない。
【0043】
例えば、非特許文献2にあるような投影完全化アルゴリズムを利用して投影データを完全化する(非特許文献2のFig.4を参照)。非特許文献2において、不完全投影データをフーリエ変換すると、投影データが完全であれば振幅の小さい信号しか観測されない空間周波数領域に、投影データが不完全であることに起因して振幅の大きい信号が現れる。これを“0”に設定して逆フーリエ変換を行い、欠損領域データを推定する。この演算を繰り返し行うことで、欠損領域データの推定値の精度を向上させる。このステップS3は、この発明における推定処理工程に相当する。
【0044】
(ステップS4)(断層画像の)取得処理
ステップS3で推定された欠損領域データおよびステップS1で得られたリストモードデータの両方を用いて、画像を逐次に近似して更新する逐次近似法を行って断層画像を取得する。ここでは、逐次近似法として、ML−EM法(Maximum Likelihood Expectation Maximization)を採用する。もちろん、逐次近似法としては、ML−EM法に限定されず、DRAMA法(Dynamic Row-Action Maximum Likelihood Algorithm)でもよいし、スタティックな(つまり静的な)RAMLA法(Row-Action Maximum Likelihood Algorithm)でもよいし、OSEM法(Ordered Subset ML-EM)でもよい。
【0045】
ML−EM法の更新式は、後述する下記(3)式で表される。つまり、最適化問題(評価関数の最小化問題)の解を再構成画像(断層画像)の画素値として求めている。従来のリストモード再構成の評価関数をL(x)とすると、評価関数L(x)は、下記(1)式で定義される。
【0046】
【数1】
【0047】
一方、ハイブリッド再構成法の評価関数をF(x)とすると、評価関数F(x)は、下記(2)式で定義される。また、評価関数F(x)を構成する評価関数L(x)については、上記(1)式で定義された評価関数L(x)を用いている。
【0048】
【数2】
【0049】
上記(2)式で定義されたハイブリッド再構成法の評価関数F(x)は、上記(1)式で定義されたリストモード再構成の評価関数L(x)に、投影完全化アルゴリズムで推定した欠損領域データp(i=1,2,…,Mest)に関する項(上記(2)式の右辺の第2項)を追加したものである。
【0050】
このように、ステップS3で推定された欠損領域データp(i=1,2,…,Mest)およびステップS1で得られたリストモードデータの両方を用いて、下記(3)式で表されるML−EM法の解を再構成画像(断層画像)の画素値として求める。
【0051】
【数3】
【0052】
なお、上記(3)式中のk(k=1,2,…)は逐次近似回数、x(k)は画素(j=1,2,…)の画素値である。図5に示すように、検出器応答関数aijは画素jから放出されたγ線フォトンがLOR(i=1,2,…,Mest)に検出される確率(検出確率)である。ここで、LOR(Line Of Response)とは、同時計数する2つのγ線検出器3を結ぶ仮想上の直線である。よって、検出器応答関数aijは、i番目の結晶ペアで検出される確率となる。また、検出器応答関数bijは、i番目の仮想的なLORで検出される確率となる。
【0053】
先ず、初期画像であるx(1)を適宜に設定する。初期画像x(1)については、例えば一様な画素値を有する画像であればよく、x(1)>0とする。設定された初期画像x(1)を用いて、上記(3)式に繰り返し代入することで、x(1),x(2),…,x(k)が逐次に求められ、xを順に繰り上げる。反復を表すkの回数については特に限定されず、適宜に設定すればよい。このように最終的に求められたxをそれに対応する画素jごとに並べることで、画像再構成を行い、被検体Mの再構成画像(断層画像)を求める。このステップS4は、この発明における取得処理工程に相当する。
【0054】
図4のステップS1〜S4の処理を、上述したようにGPU10(図1を参照)が実行する。GPU10で取得された断層画像を、コントローラ5(図1を参照)を介して出力部7(図1を参照)に送り込む。その際に、GPU10で取得された断層画像を、コントローラ5を介してメモリ部8(図1を参照)に書き込んで記憶し、必要に応じてメモリ部8から読み出してもよい。
【0055】
図4のステップS1〜S4の処理に関する断層画像処理方法によれば、リストモードデータおよび投影データの両方を用いて、画像を逐次に近似して更新する逐次近似法を行っている。すなわち、リストモード再構成および投影データ再構成を組み合わせたハイブリッド方式(ハイブリッド再構成法)を用いて逐次近似法を行っている。よって、投影データによりデータ欠損を補償することができ、従来のリストモード再構成と比較すると、アーティファクトを低減させて画質を改善することができる。
【0056】
具体的には、上述のリストモードデータを投影データに変換する変換処理工程(図4のステップS2)と、その変換処理工程(ステップS2)で変換された投影データに基づいて欠損領域データを推定する推定処理工程(図4のステップS3)とを備え、その推定処理工程(ステップS3)で推定された上述の欠損領域データを取得処理工程(図4のステップS4)で用いられる投影データとして用いる。変換処理工程(ステップS2)においてリストモードデータを投影データに変換することにより再構成画像(断層画像)の空間分解能(画質)が劣化するが、ハイブリッド再構成法では補償の対象はリストモードデータであってリストモード再構成が主体である。したがって、一部の欠損領域データのみが投影データの形式をとっているだけなのでデータの質自体は劣化しない。よって、完全化された投影データを用いた投影データ再構成よりも、推定処理工程(ステップS3)において推定されて完全化された投影データ(欠損領域データ)を用いたハイブリッド再構成法の方が画質は優れる。
【0057】
上述の構成を備えた本実施例に係るPET装置によれば、断層画像処理手段(本実施例ではGPU10)は上述のハイブリッド再構成法を用いて逐次近似法を行うので、投影データによりデータ欠損を補償することができ、従来のリストモード再構成と比較すると、アーティファクトを低減させて画質を改善することができる。
【0058】
本実施例では、放射線放出型断層撮影装置において、陽電子(ポジトロン)の消滅によって発生する複数本の放射線(γ線)を検出して複数個の検出器で放射線(γ線)を同時に検出したときのみ(つまり同時計数したときのみ)被検体Mの断層画像を再構成する装置(PET装置)に限定している。また、一部が開口して構成された検出器ユニット30を備えているので、検出器(本実施例ではγ線検出器3)の一部に抜けがあることにより欠損領域が生じたデータ(リストモードデータおよび投影データ)が得られる。
【0059】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0060】
(1)上述した実施例では、放射線放出型断層撮影装置として、PET装置(ポジトロン断層撮影装置)を例に採って説明したが、この発明は、単一の放射線を検出して被検体の断層画像を再構成するSPECT(Single Photon Emission CT)装置などにも適用することができる。また、PET装置とCT装置とを組み合わせたPET−CT装置にも適用することができる。
【0061】
(2)上述した実施例では、被検体の全身の断層画像を取得する放射線放出型断層撮影装置(実施例ではPET装置)について説明したが、撮影対象については全身に限定されない。被検体の頭部の断層画像を取得する頭部用PET装置や被検体の乳房の断層画像を取得するマンモ用PET装置などに適用してもよい。
【0062】
(3)上述した実施例では、3次元に配置された複数のシンチレータ素子からなるDOI検出器であったが、2次元あるいは3次元に配置された複数のシンチレータ素子からなる放射線検出器にも適用することができる。
【0063】
(4)上述した実施例では、固定式の放射線放出型断層撮影装置(実施例ではPET装置)について説明したが、他のモダリティ(modality)装置(例えばCT装置)(図示省略)に隣接して設置するために、図6に示すように移動可能な放射線放出型断層撮影装置(ここではPET装置)に適用してもよい。図6に示すように、検出器ユニット30を埋設した筐体は支持アーム31であり、円弧状にC型で形成されている。アーム保持部32は支持アーム31を保持し、台車33に支持されている。台車33の底部には、後輪34と前輪35とを取り付けており、これらを床上で動かすことで、台車33は搬送可能に構成されている。なお、前輪35にはモータ(図示省略)が駆動軸(図示省略)を介して連結されており、モータの駆動により前輪35を駆動させて、術者が台車33の後ろから任意の方向に押し引きして後輪34を転がすことで、台車33を床面上に任意の方向に動かすことができる。
【0064】
(5)上述した実施例では、一部が開口して構成された検出器ユニットとして、図3に示す部分リング型の検出器ユニットを例に採って説明したが、図3に示す部分リング型の検出器ユニットに限定されない。上述した図6に示すC型の支持アーム31に埋設されたC型の検出器ユニット30や、マンモ用PET装置において用いられるC型やコの字型の検出器ユニットや、複数の検出器が互いに対向して平行に配置された検出器ユニットであってもよい。その他に、マンモ用PET装置において、図7に示すように両脇でそれぞれ挟む検出器ユニット30に適用してもよい。検出器ユニット30を埋設した検出板41は切り欠きとなっており、この切り欠きに脇で挟むことで乳房を検査する。また、γ線検出器3(図7では図示省略)は、この切り欠きに合わせて検出板41内に複数に並設されている。
【0065】
(6)上述した実施例では、図1図3に示すように被検体Mと検出器ユニット30との距離を変更しなかったが、図8に示すように被検体Mと検出器ユニット30との距離を変更して、検出器ユニット30を被検体Mに近接させてもよい。図8(a)は、複数の検出器(実施例ではγ線検出器3)が互いに対向して平行に配置された検出器ユニット30の構造である。図8(b)は、図3と同様の部分リング型の検出器ユニット30の構造である。図8(a)、図8(b)のいずれの構造であっても、検出器ユニット30の一部が開口して構成され、かつ各々の検出器ユニット30が互いに独立して分離されているので、被検体Mに検出器ユニット30を近接させることができる。また、近接させることで放射線の検出効率(感度)が高くなるという効果をも奏する。
【0066】
(7)上述した実施例では、断層画像処理手段としてGPUで構成したが、GPUに限定されない。中央演算処理装置(CPU)や、プログラムデータに応じて内部の使用するハードウェア回路(例えば論理回路)が変更可能なプログラマブルデバイス(例えばFPGA(Field Programmable Gate Array))で断層画像処理手段を構成してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 … GPU
30 … 検出器ユニット
S2 … 変換処理
S3 … 推定処理
S4 … (断層画像の)取得処理
M … 被検体
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9