(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記角度設定機構は、前記Y方向に沿った回転軸を有するシャフトと、前記シャフトの一部に形成されるとともに前記切削工具を保持するホルダと、を備える請求項4に記載の工作機械。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、水平面に平行な平面をYZ平面とする。このYZ平面において主軸7(対向軸8)の回転軸方向をZ方向と表記し、Z方向に直交する方向をY方向と表記する。また、YZ平面に垂直な方向はX方向と表記する。
X方向は、Z方向に直交し、かつ、ワークに対する切削量を規定する方向である。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の方向が+方向であり、矢印の方向とは反対の方向が−方向であるものとして説明する。
【0015】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る工作機械100について、図面を用いて説明する。
図1は、第1実施形態に係る工作機械100の要部の一例を示し、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図1に示す工作機械100は、旋盤である。
図1において、工作機械100の+Y側が正面であり、−Y側が背面である。また、工作機械100の±Z側は側面であり、Z方向は工作機械100の左右方向である。
【0016】
図1に示すように、工作機械100は、ベース1を有している。ベース1には、主軸台2と心押し台4とが設けられる。主軸台2は、不図示の軸受け等により主軸7を回転可能な状態で支持している。なお、主軸台2は、ベース1に固定されるが、Z方向、X方向、Y方向等に移動可能に形成され、モータ等の駆動によって移動するものでもよい。主軸7の+Z側の端部には、チャック駆動部9が設けられている。チャック駆動部9は、複数の把握爪9aを主軸7の径方向に移動させてワークWを保持させる。
図1では、主軸7の回転軸周りに等間隔に配置された3つの把握爪9aを用いてワークWを把持しているが、これに限定されず、把握爪9aの個数や形状は、ワークWを保持可能な任意の構成のものが用いられる。
【0017】
主軸7の−Z側の端部は主軸台2から−Z方向に突出しており、この端部にプーリー11が取り付けられる。プーリー11と、ベース1に設けられたモータ12の回転軸との間にはベルト13が掛け渡されている。これにより、主軸7は、モータ12の駆動によりベルト13を介して回転する。モータ12は、不図示の制御部によって駆動される。モータ12としては、例えば、トルク制御機構を備えたモータが用いられる。また、主軸7は、モータ12及びベルト13によって駆動されることに限定されず、モータ12の駆動を歯車列等で主軸7に伝達するものや、モータ12によって直接主軸7を回転させるものでもよい。
【0018】
心押し台4は、ベース1上に設置されたZ方向ガイド3に沿って移動可能に形成される。心押し台4は、不図示の軸受け等により対向軸8を回転可能な状態で支持している。主軸7の回転軸方向と、対向軸8の回転軸方向とはZ方向に一致した状態となっている。心押し台4の−Z側の端部には、センター10が取り付けられている。
【0019】
把握爪9aによって保持されるワークWは、円柱形の一部にテーパー状の傾斜面Waを有する。傾斜面Waは、主軸7側から対向軸8側へ向けて徐々に径が小さくなっている。なお、ワークWとしては、
図1に示すものに限定されず、例えば、傾斜角度が
図1のワークWに対して大きいものや逆に小さいものでもよい。また、ワークWとして、斜面が主軸7から対向軸8側へ向けて徐々に径が大きくなるものでもよい。また、ワークWとして、複数の傾斜面Waを有するものであってもよい。また、ワークWとして、傾斜面Waの途中で傾斜角度が異なるものでもよい。
【0020】
図1(b)の一点鎖線で示すように、ワークWが長尺である場合(Z方向に長い場合)は、ワークWの+Z側の端部を心押し台4のセンター10で保持する。これにより、長尺のワークWは主軸7と対向軸8とに挟まれた状態で回転するため、切削加工時に安定してワークWを回転させることができる。ワークWが短尺の場合(Z方向に短い場合)、ワークWは、主軸7の把握爪9aのみにより保持されて回転する。この場合には、心押し台4を用いなくてもよい。
【0021】
続いて、
図1(a)及び(b)に示すように、ベース1にはZ方向に配置されたZ方向ガイド5が設けられる。また、Z方向ガイド5の−X位置には、Z方向ガイド5と同様にZ方向に配置されたZ方向ガイド5Aが設けられる。Z方向ガイド5、5Aのそれぞれには、Z方向ガイド5、5Aに沿ってZ方向に移動可能なZ軸スライド17、17Aが設けられる。Z軸スライド17は、
図1(b)に示すように、Z方向駆動系(移動装置)M1の駆動によりZ方向に移動し、所定位置で保持される。なお、Z方向駆動系M1は、例えば、電気モータや油圧等が用いられる。また、Z軸スライド17Aは、上記したZ方向駆動系M1と同様の駆動系を有しており、この駆動系の駆動によりZ方向に移動して所定位置で保持される。Z軸スライド17Aの駆動系は、Z方向駆動系M1と同一の構成であってもよく、また、異なる構成であってもよい。また、Z軸スライド17、17Aで共通のZ方向駆動系M1を構成させ、Z軸スライド17、17Aのいずれか一方または双方を駆動させてもよい。
【0022】
Z軸スライド17、17Aには、それぞれX方向ガイド18、18Aが形成される。また、Z軸スライド17、17Aには、それぞれX方向ガイド18、18Aに沿って移動可能なX軸スライド15、15Aが設けられる。X軸スライド15は、X方向駆動系(移動装置)M2の駆動によりX方向に移動し、所定位置で保持される。なお、X方向駆動系M2は、例えば、電気モータや油圧等が用いられる。また、X軸スライド15Aは、上記したX方向駆動系M2と同様の駆動系を有しており、この駆動系の駆動によりX方向に移動して所定位置で保持される。X軸スライド15Aの駆動系は、X方向駆動系M2と同一の構成であってもよく、また、異なる構成であってもよい。
【0023】
X軸スライド15、15Aには、それぞれY方向ガイド16、16Aが形成される。また、X軸スライド15、15Aには、それぞれY方向ガイド16、16Aに沿って移動可能な刃物台駆動部21、21Aが設けられる。刃物台駆動部21は、Y方向駆動系(移動装置)M3の駆動によりY方向に移動し、所定位置で保持される。なお、Y方向駆動系M3は、例えば、電気モータや油圧等が用いられる。また、刃物台駆動部21Aは、上記したY方向駆動系M3と同様の駆動系を有しており、この駆動系の駆動によりY方向に移動して所定位置で保持される。刃物台駆動部21Aの駆動系は、Y方向駆動系M3と同一の構成であってもよく、また、異なる構成であってもよい。
【0024】
刃物台駆動部21、21Aのそれぞれには、モータ等の回転駆動装置が収容されている。刃物台駆動部21には、第1タレット(刃物台)23が取り付けられている。第1タレット23は、回転駆動装置の駆動によりZ方向を軸として回転可能となっている。同様に、刃物台駆動部21Aには、第2タレット(刃物台)23Aが取り付けられている。第2タレット23Aは、回転駆動装置の駆動によりZ方向を軸として回転可能となっている。第1タレット23は、ワークWの上方(+X側)に配置され、第2タレット23Aは、ワークWの下方(−X側)に配置される。これら第1及び第2タレット23、23AでワークWを挟むように配置される。
【0025】
第1及び第2タレット23、23Aの周面には、切削工具Tを保持するための複数の保持部が設けられている。これら保持部の全部または一部には切削工具Tが保持される。従って、第1及び第2タレット23、23Aを回転させることにより、所望の切削工具Tが選択される。第1及び第2タレット23、23Aの保持部に保持される切削工具Tは、各保持台に対して交換可能である。切削工具Tとしては、ワークWに対して切削加工を施すバイト等の他、ドリルやエンドミル等の回転工具が用いられてもよい。なお、ドリル等の回転工具は、保持部に収容された小型モータの回転軸に取り付けられて用いられる。
【0026】
第1及び第2タレット23、23Aには、複数の保持部の1つに工具保持台24、24Aが形成されている。工具保持台24と24Aとは、同一の構成であってもよく、また、異なる構成であってもよい。また、第2タレット23Aには、工具保持台24Aが設けられなくてもよい。
【0027】
工具保持台24には、ワークWの傾斜面Waに対応可能な切削工具T1が取り付けられている。すなわち、切削工具T1は、工具保持台24を介して第1タレット23に保持される。一方、工具保持台24Aには、切削工具Tが取り付けられている。すなわち、切削工具Tは、工具保持台24Aを介して第2タレット23Aに保持される。工具保持台24Aに取り付けられる切削工具Tは、工具保持台24に取り付けられる切削工具T1と同一でもよく、また、異なってもよい。
【0028】
図1に示す工作機械100では、ワークWに対して±X側に、ワークWを挟むように切削工具T、T1が配置されているが、いずれか一方であってもよい。また、切削工具T、T1は、ワークWに対してX方向(上下方向)に配置されているが、これに代えて、ワークWに対して水平方向(Y方向)に配置されてもよい。また、切削工具T、T1によるワークWへの切削は、不図示の制御部によって行われ、いずれか一方によりワークWを切削させてもよく、また両者を交互に使用する場合や、両者を同時に使用する場合など、いずれであってもよい。
【0029】
また、
図1では刃物台として第1及び第2タレット23、23Aが用いられるが、これに限定されず、くし歯状の刃物台が用いられてもよい。くし歯状の刃物台は、複数のくし歯部分のそれぞれに切削工具Tが保持され、くし歯が並ぶ方向に移動することにより複数の切削工具Tのうちいずれか1つを選択する。
【0030】
図2は、ワークWに対応する部分として、主軸7及び第1タレット23を含む要部を拡大して示し、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
図2(a)及び(b)に示すように、第1タレット23の−X側の面23aには、工具保持台24が取り付けられている。工具保持台24は、上記したZ方向駆動系M1及びX方向駆動系M2により、第1タレット23と一体的にZ方向及びX方向に移動する。また、工具保持台24は、上記したY方向駆動系M3により、Y方向に移動する。従って、工具保持台24は、Z方向駆動系M1、X方向駆動系M2及びY方向駆動系M3により、ワークWに対してZ方向、X方向及びY方向のそれぞれに移動可能に設けられている。
【0031】
その結果、切削工具T1(T)は、Z軸スライド17(17A)、刃物台駆動部21(21A)、及び工具保持台24(24A)がそれぞれZ方向駆動系M1、X方向駆動系M2、及びY方向駆動系M3によって駆動されることにより、ワークWに対してZ方向、X方向、及びY方向の全部または一部を合成した方向に移動可能となっている。
【0032】
図3は、工具保持台24の一例を示し(a)は正面図(Y方向から見た図)、(b)は(a)のQ方向から見た図である。
図3に示すように、工具保持台24は、切削工具T1が配置される工具配置面24fを有している。工具配置面24fは、第1タレット23の面23a(YZ平面)に対して傾いて形成されており、主軸7側に向けられている。切削工具T1は、角度設定機構(工具配置部)19を介して工具保持台24に保持される。切削工具T1は、直線状に形成された刃(直線切刃)を有している。この直線切刃の刃先Taの方向は、
図3(a)に示すように、Y方向から見たときにZ方向に対して傾斜している。また、
図3(b)に示すように、Q方向から見たときの刃先Taの方向も傾斜している。従って、X方向から見たときの刃先Taの方向も、Z方向に対して傾斜している。
【0033】
角度設定機構19について、
図3とともに
図4を用いて説明する。
図4は、角度設定機構19の一例を示し、(a)は
図3(a)のA−A線に沿った断面図、(b)は
図3(b)のB−B線に沿った断面図、(c)は
図3(b)のC−C線に沿った断面図である。
図4(a)に示すように、工具保持台24には、Y方向に平行な方向に貫通穴24hが形成されている。貫通穴24hの内部には、サポートシャフト(シャフト)25が配置されている。サポートシャフト25は、円柱状または円筒状に形成されている。貫通穴24hの径は、サポートシャフト25の径よりも大きくなっており、サポートシャフト25と貫通穴24hの内壁との間には隙間が形成されている。このため、サポートシャフト25は、貫通穴24hに対して、Y方向に平行な回転軸AX1の軸線周りの方向に回転可能に設けられている。
【0034】
貫通穴24hは、工具保持台24のY方向の両端部において、径が拡大されている。この部分には、ロックスリーブ26が圧入される。ロックスリーブ26は、工具保持台24の+Y側の面及び−Y側の面の2か所に取り付けられる。ロックスリーブ26は、圧入部26aと、フランジ部26bと、ボルト26cとを有している。圧入部26aは、貫通穴24hの内壁とサポートシャフト25との間に圧入される。この圧入部26aにより、サポートシャフト25の回転が規制される。また、フランジ部26bは、工具保持台24の+Y側の面及び−Y側の面に沿って配置される。フランジ部26bは、ボルト26cを介して工具保持台24に固定される。このロックスリーブ26によって、サポートシャフト25の回転位置が保持された状態となる。
【0035】
サポートシャフト25の外周の一部には、ホルダ取付部25aが設けられている。ホルダ取付部25aは、サポートシャフト25の周面から工具配置面24f側へ向けて突出して形成されている。なお、工具配置面24fには開口部24gが形成されており、ホルダ取付部25aはこの開口部24gから外部に突出している。ホルダ取付部25aには、ホルダ27が取り付けられている。ホルダ27は、例えば複数のボルト穴27aを有しており、ボルト27bなどの固定部材を介してサポートシャフト25のホルダ取付部25aに締結されている。このホルダ27は、切削工具T1を保持する。
【0036】
切削工具T1は、締結部材27cを介してホルダ27に固定されている。
図3及び
図4に示すものでは、締結部材27cによって
切削工具T1を交換可能な、例えばスローアウェイチップが用いられるが、これに限定されない。例えば、ホルダ27に刃先が一体化された切削工具が用いられてもよい。この場合、ホルダ取付部25aに対して切削工具が交換可能となる。
【0037】
サポートシャフト25、ロックスリーブ26及びホルダ27は、
切削工具T1の刃先Taの方向を、Y方向から見てZ方向に対する角度を設定する角度設定機構19を構成している。角度設定機構19は、第1タレット23と切削工具T1との間に形成されている。なお、サポートシャフト25は、工具保持台24に設けられた構成に限定されず、例えば、第1タレット23内に設けられてもよいし、第1タレット23と工具保持台24との間に挟まれた状態で配置されてもよい。
【0038】
工具保持台24の開口部24gと、サポートシャフト25のホルダ取付部25aとの間には、
図3(b)に示すように、所定の隙間が形成されている。このため、サポートシャフト25を回転させると、この隙間の分だけ、回転軸AX1を中心としてホルダ取付部25aを回転させることができる。このホルダ取付部25aの回転により、切削工具T1を回転させることができ、これにより、Z方向に対して、Y方向から見た刃先Taの方向の角度を設定することができる。
【0039】
また、
図3(b)や、
図4(b)及び(c)に示すように、工具保持台24には、調整機構としてプルボルト28及びプッシュボルト29が設けられている。プルボルト28及びプッシュボルト29は、それぞれ工具保持台24の表面から内部に挿入されており、先端部がそれぞれホルダ取付部25aに接続されている。プルボルト28は、先端部がホルダ取付部25aにネジ結合しており、回転させることにより例えばホルダ取付部25aを引き寄せて刃先Taの角度を微調整する。プッシュボルト29は、工具保持台24に固着されたナットにネジ結合されるとともに、先端がホルダ取付部25aに接触している。
プッシュボルト29を回転させることにより、ホルダ取付部25aを押し離して刃先Taの角度を微調整する。
【0040】
なお、プルボルト28及びプッシュボルト29の個数や配置については、上記した構成に限定されるものではない。また、調整機構としてプルボルト28及びプッシュボルト29が用いられることに限定されず、刃先Taの角度を微調整可能な他の調整機構が用いられてもよい。また、調整機構が形成されるか否かは任意であり、調整機構が形成されなくてもよい。
【0041】
続いて、以上のように構成された工作機械100の動作について図面を用いて説明する。
図5は、工作機械100の動作を示すフローチャートである。
先ず、加工対象であるワークWを主軸7に保持させる。例えば、不図示のワーク搬送装置が、加工対象であるワークWをロードポジションまで取りに行くとともに、このワークWを主軸7まで搬送し、把握爪9aによってワークWの端部を保持する。なお、ワークWが長尺である場合には、ワークWの他端を対向軸8のセンター10によって把持してもよい。なお、ワーク搬送装置によるワークWの搬送から、把握爪9aの駆動によりワークWの保持までの一連の動作は、例えば、不図示の制御部からの指示によって行われてもよく、また、作業者のマニュアル操作によって行われてもよい。
【0042】
ワークWを把持した後、モータ12を駆動して主軸7を回転させることにより、ワークWを回転させる(ステップS01)。なお、主軸7と対向軸8とでワークWを把持する場合には、主軸7と対向軸8とを同期させて回転させる。また、ワークWの回転数は、加工処理に応じて適宜設定される。その一方で、切削工具T1の選択及び刃先Taの角度の設定を行う。先ず、第1タレット23(23A)を回転させて切削工具T1を選択する。そして、切削工具T1の刃先TaがワークWの傾斜面Waに対応するように、切削工具T1の傾きを設定する(ステップS02)。なお、切削工具T1の選択及び刃先Taの角度の設定は、ワークWの回転に先だって行ってもよい。
【0043】
切削工具T1の傾きの設定は、角度設定機構19を用いて次の手順で行う。先ず、工具保持台24の2か所に圧入されているロックスリーブ26のボルト26cを緩めて、圧入部26aをY方向に移動させてサポートシャフト25を回転可能な状態にする(
図4(a)参照)。次に、サポートシャフト25を回転軸AX1回りに回転させ、ホルダ27をY軸周りに回動移動させる。これにより、ホルダ27の傾きが変化し、切削工具T1の刃先Taの方向がZ方向に対して変化する。
【0044】
刃先Taの方向(傾き)が所望の方向となるようにサポートシャフト25の回転位置を決めた後、ロックスリーブ26のボルト26cを締めることによりサポートシャフト25の回転位置を固定する。その結果、刃先Taの方向は、所望の傾きに設定される。なお、必要に応じて、プルボルト28及びプッシュボルト29を用いて刃先Taの傾きを微調整してもよい。
【0045】
ステップS02で刃先Taの傾きを設定した後、ワークWの回転が安定した段階で、切削工具T1によりワークWの傾斜面Waに対して切削を行う(ステップS03)。切削加工において、切削工具T1の刃先Taが移動するXYZ座標位置は、Z軸スライド17のZ方向への移動、刃物台駆動部21のX方向への移動、工具保持台24のY方向への移動によって設定され、それぞれZ方向駆動系M1、X方向駆動系M2、Y方向駆動系M3の駆動によって行われる。なお、刃先TaのX方向の位置は、ワークWの傾斜面Waに対しる切削量を規定する。
【0046】
本実施形態では、切削工具T1の刃先Taを、ワークWの傾斜面Waに沿ってZ方向及びX方向に移動させつつ、その傾斜面Waの接線方向であるY方向にも移動させて加工を行う。このような、X方向、Y方向、Z方向への切削工具T1の移動は、例えば、不図示の制御部に備える記憶部等に予め設定された情報(加工レシピ)に基づいて行われる。ただし、切削工具T1の移動を、作業者がマニュアル操作してもよい。
【0047】
図6(a)はZ方向に対する切削工具T1の刃先Taの方向を示し、(b)は−Z方向にワークWを見たとき切削工具T1(刃先Ta)の動作を示し、(c)は−X方向にワークWを見たときの切削工具T1(刃先Ta)の動作を示している。
図6(a)に示すように、切削工具T1の刃先Taは、Z方向に対して角度αに設定されている。従って、刃先Taが、ワークWの−Y側から+Y側に移動した場合、刃先Taの+Z側が先にワークWに当接することになる。
【0048】
上記したステップS03での切削加工は、
図6(b)及び(c)に示すように、刃先Taを、X方向、Y方向、及びZ方向を合成した合成方向Rに移動させることにより行う。この合成方向Rは、ワークWの傾斜面Waに対する接平面に沿った軌道となる。先ず、刃先Taの+Z側の第1端部Ta1が傾斜面Waの小径部Wb(+Z側端部であって最も径が小さい部分)に当たり、この第1端部Ta1において傾斜面Waの切削を行う。その後、刃先Taは、傾斜面Waに沿って合成方向Rに移動することにより、ワークWへの切削部分が第1端部Ta1から第2端部Ta2に向けて徐々に−Z方向にずれた状態となる。このように、刃先TaがY方向に移動するが、ワークWの傾斜面Waでは直線Lに沿って刃先Taが当たり、Z方向に進んでいく。
【0049】
刃先Taの第2端部Ta2が傾斜面Waの大径部Wc(−Z側端部であって最も径が大きい部分)に達した段階で傾斜面Waの切削加工が完了する。このように、刃先Taの第1端部Ta1から第2端部Ta2まで全体を用いて傾斜面Waを切削しているが、刃先Taの一部を用いて傾斜面Waを切削してもよい。刃先Taが直線Lを進む間は、刃先Taは、Z方向の移動とともにX方向にも移動している。これに加えて、刃先TaはY方向にも移動するが、切削に関与する移動量は第1端部Ta1から第2端部Ta2までのY方向の距離に等しい。従って、
図6(a)に示すように、刃先TaのZ方向に対する角度αや、第1端部Ta1から第2端部Ta2までの刃先Taの長さによって、刃先TaのY方向への移動量は変動する。例えば、刃先Taの角度をαより大きくしたものや、刃先Taが長いものでは、
図6に示すものと比較して、傾斜面Waの切削においてY方向への移動量が大きくなる。
【0050】
なお、刃先Taを合成方向Rに移動させる場合、その合成方向RのうちX方向速度、Y方向速度、Z方向速度は、それぞれ一定となるように設定されるが、これに限定されない。例えば、小径部WbではY方向の速度を早くするとともに、大径部Wcに向かうに従ってY方向の速度を遅くしてもよい。この場合、Y方向の移動速度の変化に応じて、Z方向やX方向の速度も変化させ、所望の傾斜面Waを切削させるものでもよい。
【0051】
また、移動方向Rを変化させずに、移動速度を変化させてもよい。ワークWを切削する場合、単位回転あたりの移動量(送り量)fと、切削部分における回転中心からの距離(径)rと、切削後の面精度tとの関係は、
t=f
2/8r
で表される。したがって、送り量fを一定とした場合、切削部分の径が大きい位置では面精度tが高くなり、切削部分の径が小さい位置では面精度tが低くなる。そこで、例えば切削部分の径rに応じて送り量fを変化させることで、面精度tが一定となるようにしてもよい。例えば、傾斜面Waの小径部Wb側は、大径部Wc側に比べて径が小さい。このため、傾斜面Waの小径部Wb側を切削する場合には送り量fを小さくし、大径部Wc側を切削する場合には送り量fを大きくすることにより、傾斜面Waの径方向において面精度tを均一にすることができる。
【0052】
なお、上記では第1タレット23の切削工具T1を用いた切削加工を示しているが、第2タレット23Aの切削工具T(
図1参照)を加えて、ワークWの切削を行ってもよい。この場合、第2タレット23Aの切削工具Tを、ワークWの−X側において上記した切削工具T1と同様な軌道で移動させて傾斜面Waを切削させてもよい。また、切削工具Tは、傾斜面Wa以外を切削させてもよい。切削工具T1、Tの双方で傾斜面Waを切削する場合、傾斜面Waの同一周回部分を異なる切削量で行ってもよく、また、傾斜面Waの異なる部分をそれぞれ切削させてもよい。
【0053】
ワークWの切削加工が終了すると、把握爪9aによる保持を解除し、ワークWを不図示のワーク搬送装置によって工作機械100の加工領域から取り出す。なお、把握爪9aの解除からワーク搬送装置によるワークWの取り出しまでの一連の動作は、例えば、不図示の制御部からの指示によって行われてもよく、また、作業者のマニュアル操作によって行われてもよい。なお、ワークWの搬入から取り出しまでを不図示の制御部によって行うときは、上記した切削加工を自動で行うことができる。ただし、このような動作を全て自動で行うことに代えて、一部または全部の動作を手動で行ってもよい。
【0054】
このように、本実施形態に係る工作機械100は、回転するワークWに対して、Z方向と、X方向と、Y方向とを合成した合成方向Rに切削工具T1を移動させて、ワークWの傾斜面Waを切削するため、高い面粗度で傾斜面Waを切削でき、砥石等を用いた研削加工を不要とするので、製品完成までの時間を短縮することができる。なお、本明細書において使用する面粗度は、例えば、平均粗さ(Ra)が用いられるが、他の指標が用いられてもよい。
【0055】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る工作機械200について説明する。
図7は、第2実施形態に係る工作機械200の要部の一例を示し、(a)は正面図、(b)は使用状態を示す図である。なお、
図7において図示しない構成は、
図1に示す工作機械100と同様のものが採用される。また、
図7において、第1実施形態と同一または同等の構成部分については同一符号を付けて説明を省略または簡略化する。なお、この第2実施形態は、角度設定機構(工具配置部)119の構成が第1実施形態の角度設定機構19とは異なっている。
【0056】
図7(a)に示すように、工具保持台124は、角度設定機構119を有している。角度設定機構119は、サポートシャフト25を回転させるための駆動系M4と、ウォームシャフト122と、ウォームギア123とを有している。駆動系M4の一例を、
図8(a)及び(b)に示す。
図8(a)は、第1タレット23(第2タレット23A)の内部を+Z方向に見たときの図であり、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図である。
図8(a)及び(b)に示すように、この駆動系M4は、モータ31と、ウォームギア32と、伝達軸33と、ベベルギア34、35とを有している。
【0057】
モータ31は、第1タレット23の+Z側に配置されており、例えば刃物台駆動部21に取り付けられている。モータ31は、Y方向に平行な出力軸31aを有している。出力軸31aは、Y方向に平行な回転軸を中心として回転する。ウォームギア32は、出力軸31aに取り付けられたねじ歯車32aと、伝達軸33に取り付けられたはす歯歯車32bとを有している。ウォームギア32は、出力軸31aの回転を伝達軸33に伝達する。
【0058】
伝達軸33は、Z方向に平行な回転軸を中心として、例えばベアリング33a、33bによって回転可能に支持されている。伝達軸33の+Z側の端部には、はす歯歯車32bが取り付けられている。伝達軸33の−Z側の端部には、ベベルギア34が取り付けられている。ベベルギア34は、ベベルギア35とかみ合っている。ベベルギア35は、ウォームシャフト122に取り付けられている。ベベルギア34、35は、伝達軸33の回転をウォームシャフト122に伝達する。
【0059】
ウォームシャフト122は、X方向に平行な回転軸を中心として、例えばベアリング36a、36bによって回転可能に支持されている。ウォームシャフト122の−X側の端部には、ウォーム123aが取り付けられている。ウォーム123aの歯は、ウォームホイール123bの歯にかみ合っている。ウォームホイール123bは、サポートシャフト25に固定されている。ウォームホイール123bには、X方向に平行な歯がY方向に複数並んで配置されている。ウォームシャフト122が回転することにより、ウォーム123aが回転し、ウォームホイール123bに対して回転力が加えられ、この力によりサポートシャフト25が回転する。
【0060】
ウォームシャフト122は、X方向に平行な回転軸AX2を有しており、駆動系M4からの駆動力によってX軸回りの方向に回転する。ウォームシャフト122は、例えばベアリング36a、36bによって回転可能に支持されている。ウォームギア123は、ウォーム(ねじ歯車)123a及びウォームホイール(はす歯歯車)123bを有している。ウォーム123aは、ウォームシャフト122の−X側端部に形成されており、回転軸122と一体でX軸回りに回転する。ウォームホイール123bは、サポートシャフト25に固定されている。ウォームホイール123bは、回転軸がサポートシャフト25の回転軸AX1と一致するように配置されている。ウォームホイール123bは、ウォーム123aに噛み合わされており、ウォーム123aの回転によりY軸回りに回転する。したがって、ウォームシャフト122が回転することにより、ウォーム123aが回転し、ウォームホイール123bに対して回転力が加えられ、この力によりサポートシャフト25が回転する。
【0061】
サポートシャフト25がY軸回りに回転することにより、ホルダ27に取り付けられる切削工具T1の刃先Taの傾きが変更され、その傾きが保持される。このように、角度設定機構119では、駆動系M4の駆動に応じてサポートシャフト25の回転位置が設定され、これにより、ホルダ27に取り付けられる切削工具T1の刃先Taの傾きが設定される。
【0062】
なお、サポートシャフト25の回転位置(刃先Taの傾き)については、例えば、工作機械200に備える不図示の制御部によって制御されてもよく、また、作業者によるマニュアル操作により行ってもよい。また、刃先Taの傾きを検出するセンサを備え、このセンサからの出力によって刃先Taの傾きを制御してもよい。この場合、光学式や磁気式の非接触タイプのセンサが用いられてもよい。なお、サポートシャフト25を
図7に示す構成により回転させることに限定するものではない。例えば、サーボモータ等によりサポートシャフト25を直接回転させてもよい。
【0063】
図7(b)は、第2実施形態に係る工作機械200を用いて、曲面W1aを有するワークW1を切削する様子を示す図である。
図7(b)に示すように、ワークW1は、曲面部W1aを挟んだ両側に軸部W1b、W1cが形成されている。曲面部W1aは、軸部W1b側の端部W1dから軸部W1c側の端部W1eにわたって一定の曲率を有する球面状に形成されている。この、ワークW1は、軸部W1bが
把持爪9aによって保持されており、主軸7の回転によりZ方向を軸として回転する。
【0064】
このようなワークW1の曲面部W1aを加工する際には、先ず、端部W1eの接線方向に対応するように、刃先Taの傾きを設定する。刃先Taの傾き設定は、上記したように、駆動系M4を駆動してサポートシャフト25を回転させることにより行う。次に、刃先TaをZ方向に移動させることに伴って、刃先TaをX方向及びY方向に移動させるとともに、刃先Taの方向が曲面部W1aの接線方向となるようにサポートシャフト25を回転させて、刃先Taの傾きを連続的に変化させる。このような動作を、刃先Taが端部W1dに達するまで行うことにより、曲面部W1aの切削加工を行うことができる。
【0065】
なお、曲面部W1aの形状によっては、刃先Taの傾きが曲面に追従できない場合もある。例えば、
図7(b)に示すように、曲面部W1aの+Z側については刃先Taを接線方向に傾けることが難しい。このような場合は、例えば、端部W1eから最大径部分までを切削し、次に、ワークW1の軸部W1bを把握爪9aから外して、軸部W1cを把握爪9aに保持させることにより、同様に端部W1dから最大径部分までを切削することにより曲面部W1a全面の切削を行うことができる。
【0066】
このように、本実施形態によれば、切削工具T1の刃先Taの方向を切削中に変化させることができるため、曲面W1aのように連続的に加工対象面の傾きが変化する場合であっても対応することができる。しかも第1実施形態と同様に、曲面部W1aにおいて高い面粗度を得ることができ、研削加工を不要とするので、製品完成までの時間を短縮することができる。
【0067】
なお、ワークW1の−X側に第2タレット23Aが配置される場合(
図1参照)は、例えば、
図7に示す切削工具T1によって曲面部W1aのうち端部W1eから最大径部分までを切削させ、同時に、第2タレット23Aの切削工具Tによって曲面部のうち端部W1dから最大径部分を切削させることにより、ワークW1を
把持爪9aで持ち替えることなく曲面部W1a全面の切削が可能となる。また、第2実施形態において、曲面部W1aのうち、端部W1d、W1eは、他の曲面部W1aに比べて径が小さい。このため、端部W1d、W1eの近傍では切削工具T1の移動速度(送り量)を小さくし、最大径部分を含む他の曲面部W1aでは送り量を大きくすることにより、曲面部W1aにおける面粗度を均一にすることができる。
【0068】
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記した各実施形態では、工具保持台24、124によって切削工具T、T1がY方向と平行に移動する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【0069】
例えば、
図9(a)に示すように、切削工具T1を保持する工具保持台224がZ軸に平行な回転軸AX3の軸回り方向Cに回動可能な構成であってもよい。なお、工具保持台224が不図示の移動装置によってZ方向及びX方向に移動可能な点は、上記した各実施形態と同様である。この構成において、工具保持台224を回転軸AX3の軸回り方向Cに回動させ、かつX方向に移動させるように同期制御することで、切削工具T1の刃先をワークWの傾斜面Wa(
図6(b)等参照)に対応させることができる。この場合、切削工具T1の刃先Taは、Z方向と、X方向と、回転軸AX3の軸回り方向Cとを合成した方向に移動してワークWの切削を行う。
【0070】
また、上記実施形態では、ワークWの切削を行う際、切削工具T1の刃先Taを小径部Wbから大径部Wcへ向けて加工しているが、これとは逆に、
図9(b)に示すように、刃先Taを大径部Wcから小径部Wbへ向けて切削を行ってもよい。切削においては、例えばワークWの回転方向を上記実施形態におけるワークWの回転方向とは逆向きとし、刃先Taの第1端部Ta1が傾斜面Waの大径部Wcに当たるように切削工具T1を配置して、第1端部Ta1から傾斜面Waの切削を行う。その後、刃先Taを傾斜面Waに沿って合成方向R1に移動させることにより、ワークWへの切削部分が第1端部Ta1から第2端部Ta2に向けて徐々に+Z方向にずれた状態となる。この合成方向R1は、X方向、Y方向、及びZ方向を合成した方向であり、ワークWの傾斜面Waに対する接平面に沿った軌道となる。また、合成方向R1は、上記実施形態の合成方向Rと逆方向である。そして、刃先Taの第2端部Ta2が傾斜面Waの小径部Wbに達した段階で傾斜面Waの切削加工が完了する。
【0071】
また、上記した各実施形態では、第1タレット23がZ方向、X方向及びY方向に移動可能な構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、第1タレット23に対して工具保持台24、124をY方向に移動可能な構成としてもよい。この場合、第1タレット23に別途駆動系を設けることで対応可能である。なお、第2タレット23Aについても同様である。
【0072】
また、上記した各実施形態では、工具配置部として、Y方向から見てZ方向に対する刃先Taの角度を設定する角度設定機構19、119が用いられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、工具配置部として、Y方向から見てZ方向に対する刃先Taの角度を設定することなく固定された角度で工具を配置する構成であってもよい。