(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定温度に対応した電動機定数およびトルク指令値に基づいて電動機への電流指令値を生成し、前記電流指令値に追従するように前記電動機への印加電圧を制御する電流制御モードを実行する電流制御手段と、
前記所定温度に対応した電動機定数を用いて前記電動機のトルク推定値を算出し、算出したトルク推定値と前記トルク指令値との偏差に基づいて、電圧位相をフィードバック操作する電圧位相制御モードを実行する電圧位相制御手段と、
前記電流制御モードにおける電流指令値と検出電流との間の大小関係に基づいて、前記電圧位相制御モードから前記電流制御モードへの切替を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果に基づいて、前記電圧位相制御モード時の電圧振幅指令値と電流制御モード時に実現される前記印加電圧の電圧振幅とが略一致する時に前記電流制御手段による制御か前記電圧位相制御手段による制御かを切り替える制御モード切替手段と、
を備え、
前記電圧位相制御モード時の電圧振幅指令値は、前記電圧位相制御モードの適用領域では、前記電流制御モード時に実現される前記印加電圧の電圧振幅よりも大きく、前記電流制御モードの適用領域では、前記電流制御モード時に実現される前記印加電圧の電圧振幅以下となるように設定されている、
電動機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施の形態における電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。この電動機の制御装置は、例えば、電気自動車に適用される。なお、電気自動車以外に、例えば、ハイブリッド自動車や、自動車以外のシステムに適用することも可能である。
【0009】
電流指令生成部1は、トルク指令値T
*、バッテリ7の直流電圧V
dc、および電動機9の回転数(以下、モータ回転数と呼ぶ)Nと、d軸電流およびq軸電流との関係を定めたテーブルを格納しており、トルク指令値T
*、バッテリ7の直流電圧V
dc、およびモータ回転数Nを入力して、上記テーブルを参照することにより、d軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*を求める。テーブルで規定されているd軸電流およびq軸電流は、予め実験または解析により求めた電動機温度25℃の場合に所望のトルクを得るd軸電流およびq軸電流である。この電流指令値i
d*、i
q*は、電流制御モードにおける電流指令値である。
【0010】
なお、電流指令値を生成する方法は種々のものが提案されており、例えば、下記の参考文献に記載されている効率最大法を用いて、25℃の場合のモータ定数を用いて計算的に求めることも可能である。
参考文献:「実用モータドライブ制御系設計とその実際」第7章第4項、内藤治夫著、日本テクノセンター発行
【0011】
干渉電圧生成部2は、トルク指令値T
*、バッテリ7の直流電圧V
dc、およびモータ回転数Nと、d軸およびq軸の干渉電圧との関係を定めたテーブルを格納しており、トルク指令値T
*、バッテリ7の直流電圧V
dc、およびモータ回転数Nを入力して、上記テーブルを参照することにより、d軸干渉電圧V
d_dcpl*およびq軸干渉電圧V
q_dcpl*を求める。
【0012】
電流ベクトル制御器3は、d軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*と、d軸電流検出値i
dおよびq軸電流指令値i
qと、d軸干渉電圧V
d_dcpl*およびq軸干渉電圧V
q_dcpl*に基づいて、公知の非干渉制御と電流フィードバック制御によるベクトル電流制御を行い、d軸電圧指令値V
di*およびq軸電圧指令値V
qi*を算出する。この電圧指令値V
di*、V
qi*は、電流制御モードにおける電圧指令値である。
【0013】
電圧振幅生成部13は、後述する方法により、電圧位相制御モードにおける電圧振幅指令値V
a*を求める。
【0014】
トルク演算器15は、予め記憶されている電動機温度25℃における磁石磁束φ
a_25℃、電動機温度25℃におけるd軸およびq軸のインダクタンス差(L
d−L
q)
25℃、および、d軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*を入力し、次式(1)により電動機9のトルク推定値T
calを算出する。
【数1】
【0015】
なお、式(1)において、pは電動機9の極対数である。また、電動機温度25℃におけるd軸およびq軸のインダクタンス差(L
d−L
q)
25℃は、インダクタンス生成部14により求められる。具体的には、予めオフラインで解析または実験を行って、トルク指令値T
*、バッテリ7の直流電圧V
dc、およびモータ回転数Nと、d軸およびq軸のインダクタンス差(L
d−L
q)
25℃との関係を定めたテーブルを用意しておき、トルク指令値T
*、バッテリ7の直流電圧V
dc、およびモータ回転数Nを入力して、上記テーブルを参照することにより、d軸およびq軸のインダクタンス差(L
d−L
q)
25℃を求める。
【0016】
トルク制御器16は、トルク指令値T
*とトルク推定値T
calの差分を入力し、次式(2)によりPI増幅した値を、電圧位相指令値α
*として算出する。ただし、式(2)中のK
pは比例ゲインであり、K
iは積分ゲインである。
【数2】
【0017】
dq軸電圧生成部17は、電圧振幅生成部13によって求められる電圧振幅指令値V
a*と、トルク制御器16によって算出される電圧位相指令値α
*とを入力し、次式(3)により、d軸電圧指令値V
dv*およびq軸電圧指令値V
qv*を算出する。この電圧指令値V
dv*、V
qv*は、電圧位相制御モードにおける電圧指令値である。
【数3】
【0018】
電流制御移行判定部20は、電流指令生成部1によって求められるd軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*と、d軸電流検出値i
dおよびq軸電流指令値i
qとを入力し、電流制御モードにおける電流指令値と検出電流との間の大小関係に基づいて、電圧位相制御モードから電流制御モードへ移行するか否かの判定を行う。
【0019】
図2は、電流制御移行判定部20の内部で行われる処理を示すブロック図である。d軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*は、規範応答フィルタ21により、過渡状態を考慮して規範応答に相当するフィルタ処理が施され、フィルタ処理後の値に対して自乗和を求めることにより、i
a_LPF2が算出される。また、d軸電流検出値i
dおよびq軸電流指令値i
qの自乗和を求めることにより、i
a2を算出する。そして、表1のように、i
a_LPF2がi
a2より大きければ、電圧位相制御モードから電流制御モードへ移行しないと判定し、i
a_LPF2がi
a2以下であれば、電圧位相制御モードから電流制御モードへ移行すると判定して、制御モードの切替要求を出力する。
【表1】
【0020】
電圧位相制御移行判定部19は、電流制御モードから電圧位相制御モードへの移行判定を行う。電圧位相制御モードから電流制御モードへの切替が起こる範囲よりも高回転高トルク側に設定した閾値T
refを、予めモータ回転数とバッテリ7の直流電圧を指標としたテーブルとして格納しており、トルク指令値T
*がテーブルを参照して求めた閾値T
ref以上の場合に、電流制御モードから電圧位相制御モードへ移行すると判定して、制御モードの切替要求を出力する。
【0021】
制御モード判定部21は、電流制御移行判定部20または電圧位相制御移行判定部19から制御モードの切替要求が出力されると、切替後の制御モードを制御モード切替器18に出力する。
【0022】
制御モード切替器18は、電流制御モードによる電圧指令値V
di*、V
qi*と、電圧位相制御モードによる電圧指令値V
dv*、V
qv*のうち、制御モード判定部21から入力される制御モードに応じた電圧指令値を選択して、d軸電圧指令値V
d*およびq軸電圧指令値V
q*としてdq軸/UVW相変換器4に出力する。
【0023】
dq軸/UVW相変換器4は、位置検出器10によって検出された回転子の電気角θに基づいて、d軸電圧指令値V
d*およびq軸電圧指令値V
q*を、次式(4)により三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【数4】
【0024】
PWM変換器5は、デッドタイム補償や電圧利用率向上処理(いずれも公知)を行うとともに、三相電圧指令値V
u*、V
v*、V
w*に対応したインバータ6のパワー素子駆動信号D
uu*、D
ul*、D
vu*、D
vl*、D
wu*、D
wl*を生成する。
【0025】
インバータ6には、バッテリ7が接続されており、バッテリ電圧V
dcは、直流電圧センサにより検出される。インバータ6は、パワー素子駆動信号D
uu*、D
ul*、D
vu*、D
vl*、D
wu*、D
wl*に基づいて、バッテリ7の直流電圧を疑似交流電圧V
u、V
v、V
wに変換して出力する。
【0026】
電動機9には、インバータ6により変換された疑似交流電圧V
u、V
v、V
wが印加される。電流センサ8は、電動機9の各相に流れる電流のうち、任意の2相の電流、例えば、U相電流i
uおよびV相電流i
vを検出する。検出されない残りの1相の電流、例えば、W相電流i
wは、次式(5)に基づいて算出することができる。
【数5】
【0027】
UVW相/dq軸変換器12は、位置検出器10で検出された電動機9の回転子の電気角θに基づいて、電流センサ8で検出されたi
u、i
v、および式(5)により算出されたi
wを、次式(6)に基づいて、d軸電流i
dおよびq軸電流i
qに変換する。
【数6】
【0028】
回転数演算器11は、位置検出器10で検出された電気角θの時間当たりの変化量から、電動機9の回転数Nを算出する。
【0029】
電圧振幅生成部13が電圧振幅指令値V
a*を求める方法について説明する。
【0030】
図3は、電動機9の回転数Nと、電圧位相制御モードにおける電圧振幅指令値V
a*との関係を定めた図である。
図3では、基準温度(25℃)での電流制御モードにおける電圧振幅Vaとともに、電動機9の動作保証範囲内における最低温度での電圧振幅Vaおよび最高温度での電圧振幅Vaも示している。電流制御モードによる制御は、低回転領域で行われ、電圧位相制御モードによる制御は、弱め磁束制御を行うような高回転領域で行われる。
【0031】
図3に示すように、電流制御モードでは、モータ回転数が高くなると、電圧振幅Vaも大きくなり、ある回転数以上になると、電圧振幅Vaは上限値に達する。モータ回転数の上昇に対する電圧振幅Vaの上昇率は、電動機9の温度により異なり、また、電圧振幅Vaの上限値も電動機9の温度により異なる。具体的には、基準温度よりも温度が低い場合には、電圧振幅Vaの上昇率が基準温度における電圧振幅Vaの上昇率よりも大きく、電圧振幅の上限値は、基準温度における電圧振幅の上限値よりも大きい。また、基準温度よりも温度が高い場合には、電圧振幅Vaの上昇率が基準温度における電圧振幅Vaの上昇率よりも小さく、電圧振幅の上限値は、基準温度における電圧振幅の上限値よりも小さい。
【0032】
電圧位相制御モードが適用されるモータ回転領域では、電動機9の温度変化や製造バラツキによって電流制御モードによる電圧振幅Vaが変動しても、必ず電圧振幅Vaより大きい値となるように電圧振幅指令値V
a*を設定する。また、電流制御モードが適用されるモータ回転領域では、電動機9の温度変化や製造バラツキによって電流制御モードによる電圧振幅Vaが変動しても、必ず電圧振幅Va以下となるように電圧振幅指令値V
a*を設定する。
【0033】
図3を参照しながら説明すると、電流制御モードでは基準温度における電圧振幅Vaが上限に達するような動作領域aにおいては、電圧振幅Vaの上限値を超える電圧振幅指令値V
a*を生成し、領域aよりもモータ回転数が低い領域bでは、電流制御モードで実現される電圧振幅Vaを下回る電圧振幅指令値V
a*を生成する。領域bでは、電流制御モードにおける電圧振幅Vaが電動機9の温度変化や製造バラツキによって変化したとしても、電圧振幅Vaが電圧振幅指令値V
a*を下回らないように、電圧振幅指令値V
a*を設定しておく。このように、電圧振幅が必ず制御モード間で反転するように電圧振幅指令値V
a*を設定しておくことにより、制御モード間で電流の大きさも反転するようになる。
【0034】
上述したルールに従って、実験または解析を行い、トルク指令値、モータ回転数、およびバッテリ7の直流電圧と、電圧振幅指令値V
a*との関係を定めたテーブルを予め用意しておき、トルク指令値T
*、モータ回転数N、およびバッテリ7の直流電圧V
dcに基づいて、上記テーブルを参照することにより、電圧振幅指令値V
a*を求める。
【0035】
なお、電流制御モードにおける電流指令値から、温度変化や電動機9の製造バラツキを考慮して実現される最小電圧振幅を演算して求めることも可能である。
【0036】
図4は、JP3683135Bに記載の従来の制御装置による切替モード切替時の挙動を説明するための図である。従来の制御装置では、検出電流の位相が、トルク/電流比が最大となる位相に達した時に制御モードを電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替えている。
【0037】
上述したように、電流制御モードにおける電圧振幅Vaは、電動機9の温度変化や製造バラツキによって変化する。電動機9の温度変化や製造バラツキが存在しない場合には、制御モードの切替時に電圧振幅Vaが急峻に変化することはない。すなわち、電動機9の温度変化や製造バラツキが存在しない場合には、モータ回転数が高回転側から低下していくと、ポイントP1で電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わるので、制御モードの切替時に電圧振幅Vaは急峻に変化しない。
【0038】
これに対して、電動機9の温度が基準温度(25℃)よりも低い場合には、ポイントP2で電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わるので、制御モードの切替前後における電圧振幅が一致せず、電圧振幅Vaが急峻に変化する。また、電動機9の温度が基準温度(25℃)よりも高い場合には、ポイントP3で電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わるので、電圧振幅Vaが急峻に変化する。
【0039】
なお、
図4において、電動機9の温度が基準温度であっても、電動機9の製造バラツキが存在する場合には、電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わるポイントは、ポイントP1から変化して、電圧振幅Vaの急峻な変化が発生する。
【0040】
図5は、一実施の形態における電動機の制御装置による切替モード切替時の挙動を説明するための図である。一実施の形態における電動機の制御装置では、電動機9の温度変化や製造バラツキが存在する場合でも、モータ回転数が低下していくと、電圧位相制御モードにおける電圧振幅指令値V
a*と、電流制御モードにおける電圧振幅Vaとが一致する点が存在する。また、磁束変化によるトルク変動は許容するフィードバック制御構成である。さらに、一実施の形態における電動機の制御装置は、電流振幅値に基づいて、電圧位相制御モードから電流制御モードへの移行を判定する。これにより、電動機9の温度が基準温度(25℃)よりも高くなったり、低くなったりした場合や、電動機9の製造バラツキが存在する場合でも、電圧位相制御モードから電流制御モードへの移行時には、電圧位相制御モードにおける電圧振幅指令値V
a*と、電流制御モードにおける電圧振幅Vaとが一致しているため、制御モードの切替時に電圧振幅の急峻な変化は生じない。
【0041】
図5に示す例では、電動機9の温度が基準温度(25℃)の場合、モータ回転数が高回転側から低下していくと、ポイントP4で電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わり、制御モードの切替時に電圧振幅Vaは急峻に変化しない。また、電動機9の温度が基準温度よりも低い場合には、ポイントP5で電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わり、電動機9の温度が基準温度よりも高い場合には、ポイントP6で電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わる。
図5に示すように、電動機9の温度が変化した場合でも、電圧位相制御モードから電流制御モードの切替時に電圧振幅の急峻な変化は生じない。
【0042】
図6は、電圧位相制御モードおよび電流制御モードにおける制御内容を示すフローチャートである。現在の制御モードが電圧位相制御モードであればステップS10の処理を開始し、電流制御モードであれば、ステップS100の処理を開始する。
【0043】
ステップS10では、トルク指令値T
*、d軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*、d軸電流検出値i
dおよびq軸電流指令値i
q、回転子の電気角θ、モータ回転数N、バッテリ7の直流電圧V
dcを取得する。
【0044】
ステップS20では、i
a2およびi
a_LPF2を算出する(
図2参照)。
【0045】
ステップS30では、ステップS20で算出したi
a2がi
a_LPF2以上であるか否かを判定する。i
a2がi
a_LPF2以上であると判定すると、制御モードを電圧位相制御モードから電流制御モードに切り換えるために、ステップS130に進む。i
a2がi
a_LPF2未満であると判定すると、電圧位相制御モードの処理を継続して行うために、ステップS40に進む。
【0046】
ステップS40では、電圧振幅生成部13によって電圧振幅指令値V
a*を算出するとともに、インダクタンス生成部14によって、d軸およびq軸のインダクタンス差(L
d−L
q)
25℃を求める。
【0047】
ステップS50では、トルク演算器15によって、式(1)より、電動機9のトルク推定値T
calを算出する。
【0048】
ステップS60では、トルク制御器16によって、トルク指令値T
*と推定トルクT
calの差分に基づいて、式(2)より、電圧位相指令値α
*を算出する。
【0049】
ステップS70では、dq軸電圧生成部17によって、電圧振幅指令値V
a*および電圧位相指令値α
*に基づいて、式(3)より、d軸電圧指令値V
dv*およびq軸電圧指令値V
qv*を算出する。制御モード切替器18は、d軸電圧指令値V
dv*およびq軸電圧指令値V
qv*をd軸電圧指令値V
d*およびq軸電圧指令値V
q*としてdq軸/UVW相変換器4に出力する。
【0050】
ステップS80では、dq軸/UVW相変換器4によって、d軸電圧指令値V
d*およびq軸電圧指令値V
q*を、式(4)より、三相電圧指令値V
u*、V
v*、V
w*に変換する。
【0051】
続いて、電流制御モード時の処理について説明する。ステップS100では、トルク指令値T
*、d軸電流検出値i
dおよびq軸電流指令値i
q、回転子の電気角θ、モータ回転数N、バッテリ7の直流電圧V
dcを取得する。
【0052】
ステップS110では、電圧位相制御移行判定部19によって、閾値T
refを求める。
【0053】
ステップS120では、トルク指令値T
*が閾値T
ref以上であるか否かを判定する。トルク指令値T
*が閾値T
ref以上であると判定すると、制御モードを電流制御モードから電圧位相制御モードへ移行するためにステップS40に進む。トルク指令値T
*が閾値T
ref未満であると判定すると、電流制御モードの処理を継続して行うために、ステップS130に進む。
【0054】
ステップS130では、電流指令生成部1によって、d軸電流指令値i
d*およびq軸電流指令値i
q*を求める。
【0055】
ステップS140では、電流ベクトル制御器3によって、d軸電圧指令値V
di*およびq軸電圧指令値V
qi*を算出する。制御モード切替器18は、d軸電圧指令値V
di*およびq軸電圧指令値V
qi*をd軸電圧指令値V
d*およびq軸電圧指令値V
q*としてdq軸/UVW相変換器4に出力する。
【0056】
ステップS150では、dq軸/UVW相変換器4によって、d軸電圧指令値V
d*およびq軸電圧指令値V
q*を、式(4)より、三相電圧指令値V
u*、V
v*、V
w*に変換する。
【0057】
図7は、一実施の形態における電動機の制御装置による制御結果の一例を示す図である。
図7では、トルク指令値が一定のまま、モータ回転数が上昇および下降した場合の制御モードの切替タイミング、電圧振幅Vaおよび電流振幅Iaの時間変化を示している。
【0058】
モータ回転数が低い領域では、電流制御モードが適用される。モータ回転数が上昇していくと、電圧振幅Vaも上昇する。そして、電圧振幅Vaが上限に達すると、負のd軸電流を増加させて弱め界磁制御を行うので、電流振幅Iaが増加し、電圧振幅Vaの上昇を抑制する。
【0059】
さらにモータ回転数が上昇してTaのタイミングになると、トルク指令値T
*が閾値T
ref以上となり、制御モードが電流制御モードから電圧位相制御モードに切り替わる。電圧位相制御モードに切り替わると、電圧振幅Vaを増加させるので、弱め電流が減少して、電流振幅Iaは減少する。
【0060】
モータ回転数が上昇から下降へと変化し、モータ回転数が一定以下に減少すると、電圧振幅指令値V
a*を減少させていき、電流振幅の減少率を抑制するので、電圧位相制御における電流指令値の振幅が電流制御における電流指令値の振幅へと近づいていく。Tbのタイミングでそれらの大小関係が逆転すると、制御モードが電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わる。
【0061】
電動機9のトルクは磁束ベクトルと電流ベクトルの積であるから、電動機9の磁石温度が変化すると、磁束が変化することによりトルクは変化する。電流制御では、電流を一定に制御しているが、電圧位相制御では電流を制御しているわけではないので、電流の変化も伴う。従って、電圧位相制御モードと電流制御モードでは、電動機の温度変化に対するトルクの感度が異なる。
【0062】
しかし、電圧位相制御モードにおいて、電流制御モードにおける電流指令値生成の前提条件と同じ温度条件に基づいてトルクを推定し、電圧位相をフィードバックする構成とすることにより、電動機の温度変化に対するトルクの感度を電流制御モード時と同等にすることができ、制御モード間の定常トルクを一致させることができる。そして、電圧振幅が電流制御モードと電圧位相制御モードで交差するように、電圧位相制御モードの電圧振幅指令値を設定するとともに、電流制御モードでの電流指令値の振幅と電圧位相制御モードにおいて検出された電流の振幅とが交差するタイミングにおいて、電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替えるようにしている。これにより、電動機のトルク、d軸電圧およびq軸電圧、d軸電流およびq軸電流がいずれも段差なく制御モードを切り替えることができ、制御モードの切替に伴うトルク段差やショックを抑制することができる。
【0063】
本実施形態における電動機の制御装置では、電動機9の温度や製造バラツキが動作保証範囲を超えるなどの理由により、モータ回転数が所定回転数まで低下しても、制御モードが電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わらなかった場合には、強制的に電流制御モードに切り換える制御も行う。
【0064】
図8は、モータ回転数が所定回転数まで低下しても制御モードが電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わらなかった場合に、強制的に電流制御モードに切り換える状況を説明するための図である。
図8では、電動機9の温度が動作保証範囲を超える高温になった場合における電流制御モードの電圧振幅を示す線を線81で示している。
【0065】
図8に示すように、電動機9の温度が動作保証範囲を超えると、モータ回転数が高回転側から低下しても、電圧位相制御モードにおける電圧振幅指令値V
a*と、電流制御モードにおける電圧振幅指令値Va(線81)とは交差しない。従って、電流振幅に基づいて電流制御モードに切り替える方法(表1参照)では、モータ回転数が低下しても、電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わらないままとなる。しかしながら、低回転領域で電圧位相制御モードによる制御を継続した場合、低回転領域では、電動機9に印加する必要がある電圧は微少になるため、制御精度確保が困難になる。また、電流制御モードでは問題とならない機械共振が起きる可能性がある。
【0066】
従って、本実施形態における電動機の制御装置では、モータ回転数が所定回転数まで低下しても、制御モードが電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わらなかった場合には、強制的に電流制御モードに切り換える。所定回転数は、電動機9の温度や製造バラツキが動作保証範囲内にあれば、電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替わるモータ回転数に基づいて、予め適切な値を設定しておく。
【0067】
以上、一実施の形態における電動機の制御装置は、所定温度に対応した電動機定数およびトルク指令値に基づいて電動機9への電流指令値を生成し、電流指令値に追従するように電動機9への印加電圧を制御する電流制御モードを実行する電流制御手段(電流指令生成部1、電流ベクトル制御器3)と、所定温度に対応した電動機定数を用いて電動機9のトルク推定値を算出し、算出したトルク推定値とトルク指令値との偏差に基づいて、電圧位相をフィードバック操作する電圧位相制御モードを実行する電圧位相制御手段(トルク演算器15、トルク制御器16、dq軸電圧生成部17)と、電流制御モードにおける電流指令値と検出電流との間の大小関係に基づいて、電圧位相制御モードから電流制御モードへの切替を判定する判定手段(電流制御移行判定部20)と、判定手段による判定結果に基づいて、電流制御モードによる制御か電圧位相制御モードによる制御かを切り替える制御モード切替手段(制御モード判定部21、制御モード切替器18)とを備える。電圧位相制御モード時の電圧振幅指令値は、電圧位相制御モードの適用領域では、電流制御モード時に実現される電圧振幅よりも大きく、電流制御モードの適用領域では、電流制御モード時に実現される電圧振幅以下となるように設定されている。これにより、電動機9の回転数が高回転側から低下していくときに、電流制御モードにおける電流指令値と、電圧位相制御モードにおける電流検出値とが逆転するポイントが存在する。このポイントで電圧位相制御モードから電流制御モードに切り替える。上述したように、電圧位相制御モードにおいて、電流制御モードにおける電流指令値生成の前提条件と同じ温度条件に基づいてトルクを推定し、電圧位相をフィードバックする構成とすることにより、制御モードの切替前後においてトルクが一致するので、トルク、電流の振幅と位相、電圧の振幅と位相が制御モードの切替前後で変化なく、トルク段差やショックを抑制することができる。
【0068】
また、一実施の形態における電動機の制御装置では、電動機9の回転数が所定回転数以下になっても、電圧位相制御モードから電流制御モードへ切り替える旨の判定が行われない場合には、強制的に電圧位相制御モードから電流制御モードへ切り替える。これにより、電圧位相制御モードを継続した場合に生じる制御精度の低下や、電流制御モードでは問題とならない機械共振の発生を防ぐことができる。
【0069】
本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、様々な変形や応用が可能である。例えば、所定温度に対応した電動機定数として、25℃の場合の電動機定数を用いる例を挙げて説明したが、所定温度が25℃に限定されることはない。
【0070】
本願は、2013年12月3日に日本国特許庁に出願された特願2013−250522に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。