(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガード電極のターゲット側に、真空室の横断方向に延出して当該真空室の両端方向においてエミッタの電子発生部の周縁部と交叉する縁部が形成されたことを特徴とする請求項5または6記載の電界放射装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態における電界放射装置は、絶縁体の両端側が封止されて形成された真空室において、単に、互いに対向して位置するエミッタおよびターゲットを備えたり、エミッタの電子発生部の外周側にガード電極を備えた構成とするのではなく、ガード電極を真空室の両端方向(以下、単に両端方向と適宜称する)に対し移動自在に支持する可動自在なガード電極支持部を備え、そのガード電極支持部の可動によりエミッタの電子発生部とガード電極との間の距離を変化できるように構成したものである。
【0022】
従来、ガード電極等を改質処理する手法としては、前述のようにガード電極等に対し単に高電圧を印加する手法の他に、ガード電極等を真空雰囲気下で放置し吸着ガスを取り除く手法が知られている。この手法は、例えば、真空容器に大口径排気管を設けて電界放射装置(以下、従来装置と称する)を構成し、その大口径排気管を介して当該真空室を高温真空状態にすることにより、当該真空室のガード電極等の吸着ガスを放出し、その後、当該真空室を大気雰囲気下に戻し大口径排気管を介して当該真空室内にエミッタ等を配置し、当該真空室を封止し再度真空状態にする手法である。
【0023】
しかしながら、前述のような大口径排気管を設けた真空容器において、真空室の高温真空状態を長時間保つことは困難であり、再度真空状態にするまでの間にガスがガード電極等に再吸着する虞もあり、ガード電極等に形成された粗い表面については改質(滑らかに)することができない。また、大口径排気管により、真空容器が大型化し、製造工数の増加や製品コストの上昇を招くことも考えられる。
【0024】
一方、本実施形態のような構成においては、ガード電極支持部を操作して電子発生部とガード電極との間の距離を変化させることができる構成であり、前述の従来手法を適用しなくてもガード電極等の改質処理を行うことが可能なものである。当該改質処理を行うには、例えば後述の
図1に示すように、ガード電極がエミッタの電子発生部に接触(もしくは近接)しエミッタからの所望の電界放射を可能にする位置(電界放射時において、エミッタから放出される電子線の分散を抑制する位置;以下、単にエミッタ位置と適宜称する)にある場合、ガード電極支持部を操作してガード電極をターゲット側に移動(ガード電極とターゲットとの間の距離を短くする方向に移動)し、例えば後述の
図2に示すように、当該ガード電極をエミッタ(電子発生部)から離反した位置(以下、単に離反位置と適宜称する)に留めた状態にする。
【0025】
そして、離反位置のガード電極等に電圧を印加することにより、当該ガード電極等が改質処理、例えばガード電極等の表面が溶解平滑化されることになる。これにより、所望の耐電圧性を得ることが可能となる。また、前述のようにガード電極が離反位置にある状態であれば、改質処理の際にエミッタの電界放射は抑制された状態となり、エミッタに対して負荷が掛からないようにすることができる。
【0026】
したがって、本実施形態の改質処理によれば、例えばガード電極等の表面に微小突起等が存在していても、その表面を滑らかにすることが可能となる。また、ガス成分(例えば真空容器内に残存するガス成分)を吸着している場合には、当該吸着ガスが放出されることになる。さらに、電子を発生させ易い元素が含まれている場合には、前記の溶解平滑化により、当該元素をガード電極等の内部に留めることができ、当該元素に起因する電子発生を抑制することが可能となる。そして、電界放射装置においては、電子の発生量が安定し易くなる。
【0027】
前述のようにガード電極等を改質処理した後は、再びガード電極支持部を操作し、ガード電極を離反位置からエミッタ位置に移動(エミッタの電子発生部とガード電極との間の距離を短くする方向に移動)させることにより、エミッタの電界放射が可能な状態(例えば後述の
図1に示すように、エミッタの電子発生部とガード電極との両者を互いに接触もしくは近接した状態)となり、電界放射装置の所望の機能を発揮(X線装置の場合はX線照射等)できることになる。
【0028】
ここで、エミッタ位置のガード電極等を改質処理しようとする場合、当該ガード電極等に印加する電圧(以下、単に改質時電圧と適宜称する)を、例えば電界放射時(すなわちガード電極がエミッタ位置にあり電界放射可能な状態)の定格電圧と同程度の大きに設定したり、裕度を考慮すると、当該定格電圧の1.2倍以上の大きさに設定することも考えられる。また、電界放射装置の真空容器の外周側は、当該真空容器の内部(真空室)と比較すると絶縁性が低いため、当該真空容器の外周側において十分な絶縁加工、例えばモールド,絶縁油,絶縁ガス等の絶縁物による加工を施して、所望の耐電圧性を付与(改質処理時の閃絡現象の抑制)し安全性を確保することが考えられる。しかしながら、前述のような絶縁加工は、煩雑な作業や大掛かりな設備を要したり、また、改質処理後に当該絶縁物の除去や回収をすることは困難であり、電界放射装置の生産性や品質等に影響を及ぼすことにもなり得る。
【0029】
一方、本実施形態のようにガード電極をターゲット側に移動して離反位置に留めた場合、改質時電圧の印加対象である電極のギャップ(例えばガード電極とターゲットとの間や、当該ガード電極とグリッド電極との間など;以下、単にギャップと適宜称する)を、電界放射時よりも狭めることができるため、改質時電圧を定格電圧よりも低く設定することができ、絶縁加工を施さずに所望の耐電圧を得ることも可能となる。
【0030】
したがって、本実施形態によれば、前述のような改質処理により、電界放射装置の特性の向上に貢献可能であり、また、電界放射装置の製造に係る作業や設備を縮小したり、改質処理時等の閃絡現象を抑制できることから、電界放射装置の生産性,安全性等の向上にも貢献可能となる。
【0031】
本実施形態の電界放射装置は、前述のようにガード電極を両端方向に対して移動自在に支持するガード電極支持部を備え、エミッタの電子発生部とガード電極との間の距離を変化できる構成であれば、例えば各種分野の技術常識を適宜適用する等により、多彩な変更が可能なものであって、その一例として以下に示すものが挙げられる。
【0032】
≪電界放射装置の実施例1≫
図1,
図2の符号10は、本実施形態の電界放射装置を適用したX線装置の一例を示すものである。このX線装置10においては、筒状の絶縁体2の一端側の開口21と他端側の開口22とが、それぞれエミッタユニット30とターゲットユニット70とにより封止(例えば蝋付けして封止)されて、絶縁体2の内壁側に真空室1を有した真空容器11が構成されている。エミッタユニット30(後述のエミッタ3)とターゲットユニット70(後述のターゲット7)との間には、当該真空室1の横断方向に延在するグリッド電極8が設けられている。
【0033】
絶縁体2は、例えばセラミック等の絶縁材料を用いて成り、エミッタユニット30(後述のエミッタ3)とターゲットユニット70(後述のターゲット7)とを互いに絶縁し、内部に真空室1を形成できるものであれば、種々の形態を適用することができる。例えば、図示するように同心状に配置された2つの円筒状の絶縁部材2a,2bの両者間にグリッド電極8(例えば後述の引出端子82)を介在させた状態で、当該両者を蝋付け等により互いに組み付けて構成されたものが挙げられる。
【0034】
エミッタユニット30は、ターゲットユニット70(後述するターゲット7)に対向する部位に電子発生部31を有したエミッタ3と、そのエミッタ3の電子発生部31の外周側に設けられたガード電極5と、そのガード電極5を両端方向に対して移動自在に支持する可動自在なガード電極支持部6と、を備えている。
【0035】
エミッタ3においては、前述のように電子発生部31を有し、電圧印加により電子発生部31から電子を発生し、図示するように電子線L1を放出できるもの(放射体)であれば、種々の形態を適用することが可能である。具体例としては、例えば炭素等(カーボンナノチューブ等)の材料を用いてなるものであって、図示するように塊状に成形された、または薄膜状に蒸着させたエミッタ3を適用することが挙げられる。電子発生部31においては、ターゲットユニット70(後述するターゲット7)に対向する側の表面を凹状(曲面状)にして、電子線L1を集束し易くすることが好ましい。
【0036】
また、エミッタ3を真空容器11に支持する構成としては、種々の形態を適用することが可能であるが、例えば後述のガード電極支持部6の可動やガード電極5の移動を妨げないように、エミッタ支持部4を介して支持する構成が挙げられる。エミッタ支持部4の具体例としては、ガード電極5の内側において両端方向に延在した柱状のリード部40と、そのリード部40の一端側(開口21側)に形成され真空室1の横断方向に延在したフランジ部41と、そのフランジ部41におけるリード部40の外周側に穿設された1以上の案内孔(後述のシャフト部61に対応して両端方向に貫通した案内孔)41aと、を備えた構成が挙げられる。このような構成のエミッタ支持部4によれば、当該エミッタ支持部4がフランジ部41を介して絶縁体2の開口21の端面21aに支持され、リード部40の他端側(開口22側)においてエミッタ3が支持(例えば、エミッタ3における電子発生部31の反対側を、かしめや溶着等により固着して支持)されることとなる。
【0037】
ガード電極5においては、前述のようにエミッタ3の電子発生部31の外周側に設けられたものであって、ガード電極支持部6の可動によって移動してエミッタ3の電子発生部31に接離し、当該ガード電極5がエミッタ3に接触した状態の場合(例えば
図1に示す状態の場合)に、当該エミッタ3から放出される電子線L1の分散を抑制できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。
【0038】
ガード電極5の具体例としては、例えばステンレス等(SUS材等)の材料を用いてなり、エミッタ3の外周側で真空室1の両端方向に延在した筒状で、両端方向の一端側の開口50a側の縁面50bがガード電極支持部6に支持され、当該両端方向の他端側(すなわち後述のターゲット7側)である開口51側(例えば後述の縁部52)がエミッタ3と接離する構成が挙げられる。
【0039】
このガード電極5のエミッタ3と接離する構成は、特に限定されるものではない。例えば
図3に示すようにガード電極5における両端方向の他端側に小径部51aを形成した構成であっても良いが、
図1,
図2に示したように、真空室1の横断方向に延出(エミッタ3よりもターゲット7側から延出)し当該真空室1の両端方向においてエミッタ3の電子発生部31の周縁部31aと交叉する縁部52が形成された構成も挙げられる。また、小径部51aおよび縁部52の両方を形成した構成も挙げられる。
【0040】
なお、図中のガード電極5の場合、外周側にゲッター54が溶接等により取り付けられているが、そのゲッター54の取付位置や材質等は特に限定されるものではない。また、エミッタ3の電子発生部31の周縁部31aの見かけ上の曲率半径を大きくなるようにし、電子発生部31(特に周縁部31a)で起こり得る局部的な電界集中を抑制したり、その電子発生部31から他の部位に対する閃絡を抑制できる形状とすることが挙げられる。例えば、図示するガード電極5のように、両端方向の他端側に凸の曲面部51bを有した形状が挙げられる。
【0041】
ガード電極支持部6においては、前述のようにガード電極5を両端方向に対して移動自在に支持できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。具体例としては、図示するように、両端方向に延在した柱状(ガード電極5から一端側に延出した形状)でガード電極5を支持している複数本のシャフト部61と、真空室1の横断方向に延在し各シャフト部61を支持している動作用のプレート62と、両端方向に伸縮自在であって真空室1を気密に保持しながらフランジ部41に支持(すなわち真空容器11に支持)されると共にプレート62を支持(すなわちガード電極支持部6を支持)しているガード電極側ベローズ63(以下、単にベローズ63と適宜称する)と、を備えた構成が挙げられる。
【0042】
図中の各シャフト部61は、それぞれリード部40の外周側で周方向に所定間隔を隔てて位置(案内孔41aに対応して位置)するようにフランジ部41の案内孔41aに対して遊動自在に貫通し、当該貫通している各シャフト部61の一端側がプレート62によって支持され、当該各シャフト部61の他端側がガード電極5の縁面50bを支持(例えば、ガード電極5の縁面50bを、かしめや溶着等により固着して支持)する構成となっているが、これに限定されるものではない。
【0043】
また、図中のベローズ63は、フランジ部41の案内孔41aを貫通している各シャフト部61の柱状一端側の外周側を包囲するように、両端方向に延在した蛇腹状筒壁64を有している構成となっている。また、ベローズ63は、その一端側がプレート62に蝋付け等により取り付けられ、他端側がフランジ部41における各シャフト部61の外周側(案内孔41a郡の外周側)に蝋付け等により取り付けられて、真空室1と大気側(真空容器11外周側)とを区分した構成となっているが、これに限定されるものではない。
【0044】
以上のようなガード電極支持部6の場合、ベローズ63の伸縮により、各シャフト部61が案内孔41aにより両端方向に案内されながら移動し、その結果、ガード電極5も両端方向に移動することになる。ガード電極5が小径部51aあるいは縁部52を備えている場合には、ガード電極支持部6の可動により、ガード電極5がエミッタ3の外周側において両端方向に移動し、エミッタ3の電子発生部31に小径部51aあるいは縁部52が接離することになる。
【0045】
また、縁部52を備えた構成においては、当該ガード電極5がエミッタ3に接触する場合に、電子発生部31の周縁部31aが、縁部52よって覆われて保護されることになる。さらに、縁部52により、ガード電極5の両端方向の移動のうち、一端側への移動が規制される。すなわち、エミッタ位置(またはエミッタ3)に対するガード電極5の位置決めが容易となる。
【0046】
また、ガード電極支持部6は、種々の材料を適用して構成することができ、特に限定されるものではないが、例えばステンレス(SUS材等)や銅等のように導電性の金属材料を用いてなるものが挙げられる。ベローズ63の場合は、例えば薄板状金属材料等を適宜加工して成形されたものが挙げられる。
【0047】
次に、ターゲットユニット70は、エミッタ3の電子発生部31に対向するターゲット7と、絶縁体2の開口22の端面22aに支持されるフランジ部70aと、を備えている。
【0048】
ターゲット7においては、エミッタ3の電子発生部31から放出された電子線L1が衝突し、図示するようにX線L2等を放出できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。図中のターゲット7においては、エミッタの電子発生部31に対向する部位に、電子線L1に対して所定角度で傾斜する交差方向に延在した傾斜面71が形成されている。この傾斜面71に電子線L1が衝突することにより、X線L2は、電子線L1の照射方向から折曲した方向(例えば図示するように真空室1の横断面方向)に、照射されることになる。
【0049】
グリッド電極8においては、前述のようにエミッタ3とターゲット7との間に介在し、当該グリッド電極8を通過する電子線L1を適宜制御できるものであれば、種々の形態のものを適用することが可能である。例えば図示するように、真空室1の横断方向に延在し電子線L1が通過する通過孔81aを有した電極部(例えばメッシュ状の電極部)81と、絶縁体2を貫通(真空室1横断方向に貫通)する引出端子82と、を備えた構成が挙げられる。
【0050】
以上示したように構成されたX線装置10によれば、ガード電極支持部6を適宜操作(例えばプレート62を介して操作)することにより、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5との間の距離を変化させることができる。例えば
図2に示したように当該ガード電極5がエミッタ位置から離反位置に移動し、エミッタ3の電界放射が抑制された状態で、ガード電極5,ターゲット7,グリッド電極8等において所望の改質処理が可能となる。また、例えば前述の大口径排気管を設けた従来装置と比較すると、小型化することが容易であり、製造工数の低減や製品コストの低減を図ることも可能となる。
【0051】
≪X線装置10のガード電極等の改質処理の一例≫
前述のX線装置10のガード電極5等を改質処理する場合、まず、ガード電極支持部6を操作して、
図2に示すようにガード電極5を開口22側に移動(離反位置に移動)し、電子発生部31の電界放射を抑制した状態にする。この場合、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52(なお、
図3の場合は小径部51a)との両者は、互いに離反(エミッタ3が放電電界以下となるように移動)した状態となる。この
図2に示すような状態で、例えばガード電極5とグリッド電極8(引出端子82等)との間や、ターゲット7とグリッド電極8との間などに所望の改質時電圧を適宜印加することにより、ガード電極5等において放電が繰り返され、当該ガード電極5等が改質処理(例えばガード電極5の表面が溶解平滑化)されることになる。また、ガード電極5とグリッド電極8との間のギャップが、電界放射時よりも狭められた状態であるため、当該ガード電極5とグリッド電極8との間の改質時電圧は、定格電圧よりも低く設定することが可能となる。
【0052】
前述の改質処理の後は、再びガード電極支持部6を操作し、
図1に示すようにガード電極5を開口21側に移動(エミッタ位置に移動)し、電子発生部31の電界放射が可能な状態にする。エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52との両者は、
図1に示すように互いに接触(例えば真空室1の真空圧力で接触)した状態となる。この
図1に示すような状態で、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5とが互いに同電位で、例えばエミッタ3とターゲット7との間に所望の電圧を印加することにより、エミッタ3の電子発生部31から電子が発生して電子線L1が放出され、その電子線L1がターゲット7に衝突することにより、そのターゲット7からX線L2が放出される。
【0053】
以上示したような改質処理により、X線装置10においてガード電極5等からの閃絡現象(電子の発生)を抑制することができ、当該X線装置10の電子発生量を安定させることができる。また、電子線L1を集束形電子束とすることができ、X線L2の焦点も収束し易くなり、高い透視分解能を得ること可能となる。
【0054】
≪電界放射装置の実施例2≫
図1,
図2に示したX線装置10においては、ガード電極支持部6を備えた構成となっているが、例えば
図4,
図5に示すX線装置10Aのように、ガード電極支持部6と、ターゲット7を両端方向に対して移動自在に支持できるターゲット支持部9と、を備えた構成であっても、X線装置10と同様の作用効果を奏することが可能である。なお、
図4,
図5において、
図1〜
図3と同様のものには同一符号を付する等により、その詳細な説明を適宜省略する。
【0055】
図4,
図5に示すX線装置10Aのターゲットユニット7Aは、ターゲット7と、フランジ部70aと、ターゲット7を両端方向に対して移動自在に支持する可動自在なターゲット支持部9と、を備えた構成となっている。ターゲット支持部9は、前述のようにターゲット7を両端方向に対して移動自在に支持できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。具体例としては、図示するように、ターゲット7の傾斜面71の反対側から延出した形状であってフランジ部70aに穿設された案内孔(両端方向に貫通した案内孔)70bに対し遊動自在に貫通しているシャフト部91と、両端方向に伸縮自在であって真空室1を気密に保持しながらフランジ部70aに支持(すなわち真空容器11に支持)されると共にターゲット7(図中ではターゲット7の傾斜面71の反対側の周縁部72)を支持(すなわちターゲット支持部9を支持)しているターゲット側ベローズ92(以下、単にベローズ92と適宜称する)と、を備えた構成が挙げられる。
【0056】
シャフト部91は、当該シャフト部91の一端側に、ターゲット7よりも小径であって案内孔70bよりも大径の拡径部91aが形成され、当該シャフト部91の他端側に、案内孔70bよりも小径であって当該案内孔70bに対して遊動自在に貫通する縮径部91bが形成されている。これにより、シャフト部91は、縮径部91bのみが案内孔70bに対して遊動自在に貫通できる構成となっている。
【0057】
また、拡径部91aにより、シャフト部91の両端方向の移動のうち他端側への移動が規制される。例えば、当該拡径部91aによって規制される位置(拡径部91aがフランジ部70aの開口縁面に当接する位置)を、電界放射時に適したターゲット7の位置と一致させておくことにより、たとえターゲット支持部9によりターゲット7を移動させた後であっても、当該電界放射時のターゲット7の位置決めが容易となる。更に、シャフト部91においては、シャフト部91の両端方向の移動のうち一端側への移動を規制できる構成としても良く、例えば当該シャフト部91の他端側の先端を拡径形状にしたり、図外のストッパーを適宜設けること等が挙げられる。
【0058】
ベローズ92は、シャフト部91の外周側を包囲するように、両端方向に延在した蛇腹状筒壁92aを有している構成となっている。また、ベローズ92は、その一端側が、ターゲット7の傾斜面71の反対側の周縁部72に対し蝋付け等により取り付けられ、他端側がフランジ部70aにおけるシャフト部91の外周側(案内孔70bの外周側)に蝋付け等により取り付けられて、真空室1と大気側(真空容器11外周側)とを区分した構成となっているが、これに限定されるものではない。
【0059】
以上のようなターゲット支持部9の場合、ベローズ92の伸縮により、シャフト部91が案内孔70bにより両端方向に案内されながら移動し、その結果、ターゲット7も両端方向に移動することになる。
【0060】
以上示したように構成されたX線装置10Aによれば、X線装置10と同様にエミッタ3の電子発生部31とガード電極5との間の距離を変化させることができるだけでなく、ターゲット支持部9を適宜操作(例えばシャフト部91の他端側を介して操作)することにより、エミッタ3の電子発生部31とターゲット7との間の距離も変化させることができる。すなわち、X線装置10と同様に、エミッタ3の電界放射が抑制された状態で、ガード電極5,ターゲット7,グリッド電極8等において所望の改質処理が可能であり、例えば前述の大口径排気管を設けた従来装置と比較すると、小型化することが容易であり、製造工数の低減や製品コストの低減を図ることも可能となる。
【0061】
≪X線装置10Aのガード電極等の改質処理の一例≫
前述のX線装置10Aのガード電極5を改質処理する場合、まず、ガード電極支持部6を操作して、
図5に示すようにガード電極5を開口22側に移動(離反位置に移動)し、電子発生部31の電界放射を抑制した状態にする。また、ターゲット支持部9を操作して、
図5に示すようにターゲット7を開口21側に移動(フランジ部70aから離反した位置に移動)した状態にする。この場合、
図2に示したX線装置10と同様に、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52(なお、
図3の場合は小径部51a)との両者は、互いに離反(エミッタ3が放電電界以下となるように移動)した状態となる。
【0062】
この
図5に示すような状態であれば、例えばガード電極5とグリッド電極8との間や、ターゲット7とグリッド電極8との間などに所望の電圧を適宜印加することにより、ガード電極5等において放電が繰り返され、当該ガード電極5等が改質処理されることになる。また、ターゲット7とグリッド電極8との間のギャップが、電界放射時よりも狭められた状態であるため、当該ターゲット7とグリッド電極8との間の改質時電圧は、定格電圧よりも低く設定(例えば
図2に示す場合よりも低く設定)することが可能となる。
【0063】
前述の改質処理の後は、再びガード電極支持部6を操作し、
図4に示すようにガード電極5を開口21側に移動(エミッタ位置に移動)し、電子発生部31の電界放射が可能な状態にする。エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52との両者は、
図4に示すように互いに接触(例えば真空室1の真空圧力で接触)した状態となる。また、ターゲット支持部9を操作し、ターゲット7を電界放射時に適した位置に移動させる。
【0064】
この
図4に示すような状態で、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5とが互いに同電位で、例えばエミッタ3とターゲット7との間に所望の電圧を印加することにより、エミッタ3の電子発生部31から電子が発生して電子線L1が放出され、その電子線L1がターゲット7に衝突することにより、そのターゲット7からX線L2が放出される。
【0065】
したがって、X線装置10Aにおいても、以上示したような改質処理により、ガード電極5等からの閃絡現象(電子の発生)を抑制することができ、当該X線装置10の電子発生量を安定させることができる。また、電子線L1を集束形電子束とすることができ、X線L2の焦点も収束し易くなり、高い透視分解能を得ること可能となる。
【0066】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0067】
例えば、本発明の電界放射装置は、電子線のターゲットへの衝突等により熱を発生する場合には、冷却機能を用いて当該電界放射装置を冷却できる構成としても良い。冷却機能は、空冷,水冷,油冷等の種々の方式のものを適用することが挙げられる。当該油冷方式の冷却機能の場合には、例えば所定容器内の冷却用油中に電界放射装置を浸漬させた構成が挙げられ、また、当該浸漬状態において冷却用油の脱泡処理(真空ポンプ等を用いた処理)等を適宜行うことも挙げられる。
【0068】
真空容器の真空室を気密(高真空等)に保持するには、当該真空容器を構成する各要素(絶縁体,エミッタユニット,ターゲットユニット等)は一体蝋付けする手法が挙げられるが、当該真空室を気密(高真空等)に保持できるものであれば、種々の手法を適用することが可能である。
【0069】
ガード電極支持部やターゲット支持部においては、例えば真空室の真空圧力が作用することになるが、当該各支持部に係る操作を適宜実施することによりエミッタを真空室の両端方向に対し移動自在に支持できるものであれば、種々の態様を適用することが可能である。
【0070】
例えば、ガード電極支持部やターゲット支持部を操作して、ガード電極やターゲットがそれぞれ所望位置(ガード電極の場合はエミッタ位置や離反位置、ターゲットの場合は電界放射時に適した位置等)に移動した場合に節度感(クリック感)が得られる構成であれば、当該各支持部それぞれの操作時に所望位置を把握することが容易になったり、当該各支持部の操作性が向上する等、種々貢献することが可能となる。
【0071】
また、ガード電極側ベローズは、
図1,
図2に示したような構成に限定されるものではなく、ガード電極支持部の可動を妨げないように真空室を気密に保持できる構成(真空容器の一部を形成する構成)であれば良い。すなわち、真空室の両端方向に伸縮自在なガード電極側ベローズであって、その一端側および他端側のうち何れか一方がガード電極支持部を支持し、他方が真空容器に支持されて、当該真空容器の一部を形成している構成であれば良く、種々の形態のものを適用することが可能である。
【0072】
例えば、
図1,
図2に示す構成では真空容器11の外側に位置するベローズ63が適用されているが、
図6に示すように真空容器11の内側に位置するガード電極側ベローズ(後述の外側ベローズ部材65a,内側ベローズ部材65bを備えたベローズ)65を適用した構成であっても、当該
図1,
図2に示した構成と同様の作用効果を奏することが可能となる。
【0073】
図6のガード電極側ベローズ65は、それぞれガード電極5と真空容器11との間で両端方向に延在した形状で同心状に配置された外側ベローズ部材65aおよび内側ベローズ部材65bを備えた構成となっている。
図6において、シャフト部61は、外側ベローズ部材65aと内側ベローズ部材65bとの間で両端方向に延在し、当該シャフト部61の一端側がフランジ部41の案内孔41aに対して遊動自在に貫通(真空容器11外側に延出)していた構成となっている。また、外側ベローズ部材65aと内側ベローズ部材65bは、それぞれの一端側が、フランジ部41を介して真空容器11に支持され、それぞれの他端側が、ガード電極5の縁面50bを介してシャフト部の他端側を支持(ガード電極支持部6を支持)した構成となっている。
【0074】
ターゲット側ベローズにおいても、前述のガード電極側ベローズと同様に、
図1,
図2に示したような構成に限定されるものではなく、ターゲット支持部の可動を妨げないように真空室を気密に保持できる構成(真空容器の一部を形成する構成)であれば良い。すなわち、真空室の両端方向に伸縮自在なターゲット側ベローズであって、その一端側および他端側のうち何れか一方がターゲット支持部を支持し、他方が真空容器に支持されて、当該真空容器の一部を形成している構成であれば良く、種々の形態のものを適用することが可能であり、当該
図1,
図2に示した構成と同様の作用効果を奏することが可能となる(図示省略)。
【0075】
また、本発明のようなガード電極支持部やターゲット支持部を備えた構成であれば、ベローズを介さずに、エミッタとターゲットとの間に電圧印加して当該エミッタからの電界放射することにより、当該電圧印加に係る損失の抑制に貢献可能となる。
【0076】
また、前述のように所望位置に位置した状態のガード電極やターゲットを適宜固定できる固定手段を備えた構成であれば、例えば意に反する外部からの力(前述の油冷方式の冷却機能を備えた構成の場合には、冷却用油の脱泡処理時に支持部に対して作用し得る真空ポンプの吸引力等)が作用したとしても、当該ガード電極やターゲットが所望位置から移動することを抑制でき、電界放射装置による電界放射やガード電極等の改質処理をそれぞれ適確に実現できるように貢献可能となる。この固定手段は、特に限定されるものではなく、種々の態様のものを適用することが可能であるが、前述のX線装置10,10Aを例にして説明すると、ガード電極支持部6やターゲット支持部9の両端方向の移動を螺子止め等により固定することが可能なストッパーが挙げられる。
【解決手段】真空室1においてエミッタ3およびターゲット7を互いに対向して配置し、エミッタ3の電子発生部31の外周側には、ガード電極5を備える。ガード電極5は、ガード電極支持部6により、真空室1の両端方向に対し移動自在に支持する。ガード電極5の改質処理は、ガード電極支持部6を操作し、ガード電極5を開口22側に移動(離反位置に移動)して、電子発生部31の電界放射を抑制した状態にし、ガード電極5に電圧を印加し放電を繰り返して行う。改質処理の後は、再びガード電極支持部6を操作し、ガード電極5を開口21側に移動(エミッタ位置に移動)し、電子発生部31の電界放射が可能な状態にする。