特許第6206573号(P6206573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206573シーラントフィルム、それを用いた積層フィルムおよび包装袋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6206573
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】シーラントフィルム、それを用いた積層フィルムおよび包装袋
(51)【国際特許分類】
   B65D 30/02 20060101AFI20170925BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170925BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20170925BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20170925BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B65D30/02
   B32B27/00 A
   B65D65/40 D
   B65D81/24 E
   B32B27/32 E
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-212817(P2016-212817)
(22)【出願日】2016年10月31日
【審査請求日】2017年3月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢島 俊輔
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−230322(JP,A)
【文献】 特開2010−006985(JP,A)
【文献】 特開2004−106514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 30/02
B32B 1/00 − 43/00
C08F 6/00 − 246/00
B65D 65/40
B65D 81/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含むポリオレフィン層と、
最外層としてポリシクロオレフィンを主成分として含むポリシクロオレフィン層とを備える、シーラントフィルムであって、
前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)含み、
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が80℃以下であり、
前記ポリオレフィン層の厚みが10μm以上40μm以下であり、
前記ポリシクロオレフィン層の厚みが5μm以上20μm以下であり、
前記ポリオレフィン層中に含まれる前記ポリシクロオレフィンの含有量が50質量%以下である、シーラントフィルム。
【請求項2】
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が40℃以上である、請求項1記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
前記ジシクロペンタジエン系化合物はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエンもしくはその誘導体であり、前記テトラシクロドデセン系化合物はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンもしくはその誘導体であり、前記ノルボルネン系化合物はビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンもしくはその誘導体である、請求項1または2に記載のシーラントフィルム。
【請求項4】
前記ポリシクロオレフィンは、前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素−炭素二重結合が水素化されている、請求項1〜のいずれか1項に記載のシーラントフィルム。
【請求項5】
基材シートと、
請求項1〜のいずれか1項に記載のシーラントフィルムと、を積層してなる積層フィルム。
【請求項6】
さらに、ガスバリアフィルムを前記基材シートと前記シーラントフィルムとの間に積層してなる、請求項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
厚みが100μm以下である、請求項またはに記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項のいずれか1項に記載の積層フィルムを、前記シーラントフィルム同士が融着されるようにシールしてなる、包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラントフィルム、それを用いた積層フィルムおよび包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、飲料、医薬品などの内容物を収納する包装容器としては、例えば、樹脂フィルムや紙からなる基材シートとシーラントフィルムとが積層されてなる積層フィルムから構成される包装袋が広く使用されている。また、内容物の酸素による劣化、内容物の外部放散による減少などを抑制するために、ガスバリアフィルムをさらに積層したり、基材シートにガスバリア性を付与したりして、積層フィルムの透過性を低下させている。
【0003】
一方で、内容物に接するシーラントフィルム(特に、ポリオレフィン系フィルム等)に、内容物(特に薬効成分、香気成分など)が吸着または吸収され、これにより内容物の量が減少したり、品質が劣化するという問題もある(例えば、特開2015−137130号公報(特許文献1)参照)。
【0004】
なお、特開2010−6985号公報(特許文献2)には、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位ならびにノルボルネン系化合物由来の構造単位を特定の割合で含む開環共重合体の水素添加物が製造時の溶液安定性に優れ、また、この水素添加物を樹脂成分として含む成形材料が高透明性、高防湿性、および適度な耐熱性を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−137130号公報
【特許文献2】特開2010−6985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シーラントフィルムへの内容物の吸着または吸収を抑制するために、シーラントフィルムの材料として、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート)系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)などの薬効成分、香気成分等の内容物が吸着または吸収され難い低吸着性の材料を使用することが検討されている。しかしながら、これらの材料は、シール強度が不足するといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明者らは、低吸着性に優れ、かつ十分なシール強度を有するシーラントフィルムについて検討した。その結果、シーラントフィルムとして、ポリオレフィン層と、特定のポリシクロオレフィンを主成分として含むポリシクロオレフィン層との積層フィルムを用いることが有効であることを見出した。なお、本願出願人は、このようなシーラントフィルムについて既に特許出願(特願2016−142373)を行っている。
【0008】
そして、さらに検討を進めた結果、このシーラントフィルムは、包装袋として使用される際に内容物のγ線滅菌(γ線照射)によって、変色(黄変、青みがかる変色等)、臭気(エチレンガス臭等)の発生などの物性変化が起こる場合があることが判明した。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、低吸着性に優れ、十分なシール強度を有し、かつ、γ線照射による物性変化が抑制されたシーラントフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]
ポリオレフィンを含むポリオレフィン層と、
最外層としてポリシクロオレフィンを主成分として含むポリシクロオレフィン層とを備える、シーラントフィルムであって、
前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)から選択される2種以上の構造単位を含み、
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が80℃以下であり、
前記ポリオレフィン層の厚みが10μm以上40μm以下であり、
前記ポリシクロオレフィン層の厚みが5μm以上20μm以下である、シーラントフィルム。
【0011】
[2]
前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含む、[1]に記載のシーラントフィルム。
【0012】
[3]
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が40℃以上である、[1]または[2]に記載のシーラントフィルム。
【0013】
[4]
前記ジシクロペンタジエン系化合物はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(ジシクロペンタジエンと同義)もしくはその誘導体であり、前記テトラシクロドデセン系化合物はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンもしくはその誘導体であり、前記ノルボルネン系化合物はビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンもしくはその誘導体である、[1]〜[3]のいずれかに記載のシーラントフィルム。
【0014】
[5]
前記ポリシクロオレフィンは、前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素−炭素二重結合が水素化されている、[1]〜[4]のいずれかに記載のシーラントフィルム。
【0015】
[6]
前記ポリオレフィン層は、前記シーラントフィルムの質量に対して50質量%以下の前記ポリシクロオレフィンを含む、[1]〜[5]のいずれかに記載のシーラントフィルム。
【0016】
[7]
基材シートと、
[1]〜[6]のいずれかに記載のシーラントフィルムと、を積層してなる積層フィルム。
【0017】
[8]
さらに、ガスバリアフィルムを前記基材シートと前記シーラントフィルムとの間に積層してなる、[7]に記載の積層フィルム。
【0018】
[9]
厚みが100μm以下である、[7]または[8]に記載の積層フィルム。
【0019】
[10]
[7]〜[9]のいずれかに記載の積層フィルムを、前記シーラントフィルム同士が融着されるようにシールしてなる、包装袋。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低吸着性に優れ、十分なシール強度を有し、かつ、γ線照射による物性変化が抑制されたシーラントフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態1のシーラントフィルムを示す概略断面図である。
図2】実施形態2の積層フィルムを示す概略断面図である。
図3】実施形態3の積層フィルムを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表す。
【0023】
<シーラントフィルム>
[実施形態1]
図1を参照して、本実施形態のシーラントフィルム1は、ポリオレフィン層11(基材シート側)とポリシクロオレフィン層12(シール側)との2層からなるシーラントフィルムである。
【0024】
(ポリオレフィン層:基材シート側)
ポリオレフィン層11は、ポリオレフィンを含む。なお、ポリオレフィン層11の全量に対するポリオレフィンの含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0025】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレンを好適に用いることができる。ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などを好適に用いることができる。
【0026】
ポリオレフィン層は、ポリオレフィン以外の他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、例えば、後述するポリシクロオレフィン層の主成分と同様のポリシクロオレフィンが挙げられる。なお、ポリオレフィン層に含まれるポリシクロオレフィンは、ポリシクロオレフィン層の主成分であるポリシクロオレフィンと同種のポリシクロオレフィンであることが好ましい。
【0027】
ポリオレフィン層がポリシクロオレフィンを含んでいる場合、シーラントフィルム1全体(ポリオレフィン層11およびポリシクロオレフィン層12の合計)の質量に対して、ポリオレフィン層11中に含まれるポリシクロオレフィンの質量が50質量%以下であることが好ましい。ポリシクロオレフィンの質量が50質量%を超えると、ガンマ線照射によって青みがかる変色が生じる可能性があるからである。
【0028】
(ポリシクロオレフィン層:シール側)
ポリシクロオレフィン層12は、ポリシクロオレフィンを主成分として含む。なお、「主成分として含む」とは、例えば、ポリシクロオレフィン層12の全量に対してポリシクロオレフィンの含有量が50質量%より多いことであり、ポリオレフィンの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。また、特許文献2に開示されるような他の高分子材料、各種添加剤などを配合してもよい。
【0029】
ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物、テトラシクロドデセン系化合物、および、ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物(シクロオレフィンモノマー)に由来する構造単位を含む。すなわち、ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)から選択される2種以上の構造単位を含む。
【0030】
好ましくは、ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含む。
【0031】
ポリシクロオレフィンが、構造単位(A)、(B)および(C)を含む場合、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)の比率は、好ましくは5〜80モル%である。テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)の比率は、好ましくは10〜90モル%である。ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)の比率は、好ましくは5〜50モル%である。なお、これらの比率は、構造単位(A)、(B)および(C)の合計を100モル%としたときの比率である。この場合でも、ポリシクロオレフィンは、構造単位(A)、(B)および(C)以外の構造単位を本発明の効果が損なわれない範囲で含んでいてもよい。
【0032】
ジシクロペンタジエン系化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン)およびその誘導体などが挙げられる。ジシクロペンタジエンの誘導体としては、例えば、2−メチルジシクロペンタジエン、2,3−ジメチルジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロキシジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0033】
また、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)としては、例えば、ジシクロペンタジエンに由来する構造単位が挙げられる。
【0034】
テトラシクロドデセン系化合物としては、例えば、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンおよびその誘導体が挙げられる。テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの誘導体としては、例えば、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチル−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデン−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンなどが挙げられる。
【0035】
また、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)としては、例えば、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンに由来する構造単位が挙げられる。
【0036】
ノルボルネン系化合物としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体が挙げられる。ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの誘導体としては、例えば、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチル−5メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンなどが挙げられる。
【0037】
また、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンに由来する構造単位が挙げられる。
【0038】
ポリシクロオレフィンは、好ましくは、上記のシクロオレフィンモノマーを開環メタセシス共重合し、その後C−C二重結合を水素化することで得られるものである。このようなポリシクロオレフィンの製造は、特許文献2に基づいて実施することができる。
【0039】
また、ポリシクロオレフィンのガラス転移温度(Tg)は、80℃以下であり、好ましくは75℃以下である。この場合、非吸着性に加えて、適正なシール強度と低温シール性を有するシーラントフィルムを得ることができる。なお、Tgは、JIS K7121に基づいて測定することができる。
【0040】
なお、ポリシクロオレフィンのTgが室温と同じになるとシーラントフィルムが溶融してしまう虞があるため、ポリシクロオレフィンのTgは、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。
【0041】
シーラントフィルム1は、例えば、上記のポリオレフィン層(フィルム状半成形体)とポリシクロオレフィン層(フィルム状半成形体)とを2層共押出しすることにより2層構造のフィルムとして作製することができる。シーラントフィルム1の厚みは、好ましくは100μm以下である。また、シーラントフィルム1の厚みは、好ましくは10μm以上である。
【0042】
本実施形態のシーラントフィルム1は、上記のような特定の2種以上のシクロオレフィンモノマーに由来する構造単位を含むポリシクロオレフィンから構成される層を備えることにより、内容物(薬効成分、香気成分など)の吸着または吸収が抑制された非吸着性のものであり、かつ十分なシール強度を備えている。
【0043】
シール強度に関して、具体的には、シーラントフィルムのシール強度は、140℃、0.2MPa、1.0秒のシール条件で、5.0N/15mm以上であることが好ましい。なお、シール強度は、JIS Z0238により測定される。
【0044】
本実施形態において、ポリオレフィン層11の厚みは、10μm以上40μm以下である。また、ポリシクロオレフィン層12の厚みは、5μm以上20μm以下である。ポリオレフィン層11の厚み、および、ポリシクロオレフィン層12の厚みをこのような範囲に設計することで、γ線照射による物性変化が抑制されたシーラントフィルム1を得ることができる。γ線照射による物性変化としては、例えば、変色(黄変または青みがかる変色)、臭気(エチレンガス臭等)の発生などが挙げられる。
【0045】
なお、各層(ポリオレフィン層11およびポリシクロオレフィン層12)の厚みは、シーラントフィルムをカッター等で切断した後に、切断面を顕微鏡で観察することで、顕微鏡のスケールによって測定することができる。
【0046】
なお、シーラントフィルム1を構成するポリオレフィン層11は、フィルムを柔軟にする役割を有している。ジシクロペンタジエン系化合物、テトラシクロドデセン系化合物およびノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体からなるポリシクロオレフィン層12は単層だと、フィルムがかたく、コロナ処理や製膜が困難であり、包装袋として製造することが非常に難しい。そこで、ポリオレフィン層11をポリシクロオレフィン層12に隣接して用いることで、処理性、製膜適性を向上させることで包装袋として製造することが可能になった。
【0047】
また、本実施形態のシーラントフィルムは、低温シール性も備えている。低温シール性に関して、具体的には、例えば、シーラントフィルムのシール強度の立上り温度(シール可能な最低温度の指標)は、120℃以下であることが好ましい。なお、シール強度の立上り温度は、温度に水準を採りJIS Z0238により測定される。
【0048】
また、本実施形態のシーラントフィルムは、防湿性にも優れている。防湿性に関して、具体的には、シーラントフィルムとノンバリア性の基材シートとを貼り合わせてなる厚さ50μm以下の積層フィルムの水蒸気透過度は、5.0g/(m・24h)以下であることが好ましい。なお、透湿度(水蒸気透過度)は、JIS K7129Aに基づいて、40℃、90%RHの条件で測定される。
【0049】
<積層フィルム>
[実施形態2]
図2を参照して、本実施形態の積層フィルム2(包装材料)は、実施形態1のシーラントフィルム1と、接着層41と、基材シート31と、がこの順に積層されてなる積層フィルムである。積層フィルムの厚みは好ましくは100μm以下である。
【0050】
基材シート31としては、機械的強度や寸法安定性を有するものであれば特に限定されないが、プラスチックフィルム、紙、不織布などが使用できる。プラスチックフィルムの構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、6−ナイロンなどのポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミドなどが挙げられる。プラスチックフィルムは、好ましくは二軸延伸されたフィルムである。なお、本実施形態において、基材シート31は、PETフィルムである。
【0051】
接着層41を構成する接着剤としては、特に限定されないが、ドライラミネート用接着剤を好適に用いることができる。ドライラミネート用接着剤としては、二液硬化型ウレタン系接着剤、ポリエステルウレタン系接着剤、ポリエーテルウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられる。尚、このような接着剤を用いてシーラントフィルム1とガスバリアフィルム6とを貼り合わせる方法としては、ドライラミネート法が挙げられる。
【0052】
上記接着剤の中では、優れた接着力と内容物の化学成分で接着力が低下し難い二液硬化型接着剤を好適に用いることができる。二液硬化型接着剤は、主剤と硬化剤からなるものであり、例えば、ポリエステルポリオールと多官能ポリイソシアネートからなる二液硬化型接着剤が挙げられる。
【0053】
なお、上記の接着剤層の代わりに、アンカーコート剤(二液硬化型ウレタン接着剤、ポリアリルアミン等)などを用いてもよい。
【0054】
本実施形態の積層フィルムは、実施形態1のシーラントフィルムを備えることにより、実施形態1と同様に、内容物(薬効成分、香気成分など)の吸着または吸収が抑制された非吸着性のものであり、十分なシール強度等も備え、かつ、γ線滅菌による物性変化が抑制されたものである。
【0055】
[実施形態3]
図3を参照して、本実施形態の積層フィルムは、内容物の酸素ガスによる劣化、内容物の外部放散による減少などを抑制するために、ガスバリアフィルム6が中間に積層されている。この点以外は、実施形態2と同様である。なお、アルミニウム箔などのガスバリアフィルム6をシーラントフィルム1に接着するための接着層42を有している。
【0056】
ガスバリアフィルム6としては、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。他にも、アルミニウム蒸着膜を有するフィルム、無機酸化物蒸着膜を有するフィルムなどが使用できる。具体的には、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルムなどの延伸フィルムにアルミニウム蒸着膜または無機酸化物蒸着膜を形成したものが使用できる。また、ガスバリアフィルム6として、エチレン・ビニルアルコール共重合体のフィルムも使用できる。
【0057】
接着層42を構成する接着剤としては、上記接着層41と同様の材料を用いることができる。なお、接着層41を構成する接着剤と接着層42を構成する接着剤とは、同じ成分であってもよく、異なる成分であってもよい。
【0058】
<包装袋>
上記のようにして形成された積層フィルムを用い、所望の形状に製袋し包装袋を形成する。例えば、ピロータイプの包装袋、カゼットタイプの包装袋、自立タイプの包装袋など(特許文献1参照)を、目的(包装袋のデザイン、内容量や使い易さなど)に応じて作製すればよい。このような包装袋は、上記の積層フィルムの少なくとも2枚が、シーラントフィルム同士が融着されるように少なくとも一部でシールされてなる。
【0059】
内容物としては、例えば、医薬品、医薬部外品、食品、飲料などが挙げられる。本実施形態の包装袋は、特に薬効成分、香気成分など(包装袋に吸着または吸収され易い成分、または、包装袋に吸着または吸収されることが問題となる成分)を含有する内容物について、好適に使用することができる。具体的には、本実施形態の包装袋は、例えば、薬効成分を含んだ経皮吸収剤または洗口液、香料などの香気成分を含んだ化粧品、コーヒーなどを収容するために好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1〜12、比較例1〜8)
実施形態3と同様に、基材シート31と、ガスバリアフィルム6と、実施形態1のシーラントフィルム1と、を2液硬化型ポリエステル、ポリウレタン接着剤を介して積層し、実施例1〜12および比較例1〜8の積層フィルム2を作製した。
【0062】
基材シート31は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。また、ガスバリアフィルム6は、アルミニウム箔である。基材シート31の厚みは12μmであり、ガスバリアフィルム6の厚みは7μmである。
【0063】
シーラントフィルム1は、ポリオレフィン層11およびポリシクロオレフィン層12からなり、ポリオレフィン層11の厚み、および、ポリシクロオレフィン層12の厚みは、表1に示すとおりである。
【0064】
実施例1〜10および比較例1〜7において、ポリオレフィン(PO)層は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)からなる。実施例11、12および比較例8において、ポリオレフィン層は、LLDPEおよび下記のポリシクロオレフィンAからなる。実施例11、12および比較例8において、シーラントフィルム1の全体の質量に対するポリシクロオレフィン(PCO)の含有量は、それぞれ50、30、60質量%である。
【0065】
実施例1〜12および比較例1〜8において、ポリシクロオレフィン(PCO)層は、下記のポリシクロオレフィンAからなる。
ポリシクロオレフィンA:
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、および、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン
からなる3種のシクロオレフィンモノマーの3元共重合体であり、これらのシクロオレフィンモノマーを開環メタセシス共重合し、その後C−C二重結合を水素化することで得られるものである。
【0066】
<評価試験>
上記の実施例1〜12および比較例1〜8について、γ線照射の前後について以下の評価試験を行った。なお、γ線の照射量は、一般的なγ線殺菌時の照射量である15kGyとした。
【0067】
(評価試験1)
評価試験1として、測色による評価を行った。
【0068】
具体的には、実施例1〜12および比較例1〜8の各々の積層フィルムについて、測色計(「X−Rite」:ビデオジェット・エックスライト株式会社)を用いて、L値、a値およびb値を測定した。測定結果を表1に示す。
【0069】
(評価試験2)
評価試験2として、「シール強度」の評価を行った。
【0070】
具体的には、実施例1〜12および比較例1〜8の各々の積層フィルムを、シーラントフィルムを内側にしてシールした。シール条件は、シール温度を170℃、シール圧を0.2MPa、シール時間を1.0秒とした。シールされた2枚の積層フィルムの剥離強度(N/15mm)を、短冊状にカットした積層フィルムについて、JIS Z0238に基づいて剥離強度(シール強度)を測定した。なお、シール強度は、シール強度曲線が安定した箇所で測定した。
【0071】
(評価試験3)
評価試験3として、「ラミネート強度」の評価を行った。
【0072】
具体的には、実施例1〜12および比較例1〜8の各々の積層フィルムを、シーラントフィルムとアルミニウム箔との間のラミネート強度を測定した。
【0073】
以上の評価試験1〜3の結果を表1に示す。なお、表1の最も右側の「評価」の欄において、「○」は、γ線照射による物性変化がないと判断されたことを示し、「×」は、γ線照射による物性変化が生じたと判断されたことを示す。また、「備考」欄には、γ線照射による物性変化の内容を上記評価試験1〜3以外の評価も含めて記載した。
【0074】
なお、実施例1〜12および比較例1〜8に用いたポリシクロオレフィン層について、示差走査熱量分析計を用いてJIS K 7121に基づいて測定したガラス転移温度(Tg)は、70℃であった。
【0075】
【表1】
【0076】
比較例1から分かるように、ポリシクロオレフィン(PCO)層が無い場合、γ線照射によって黄変、臭気の発生などが生じることが分かる。
【0077】
なお、本発明者らの検討により、既に2種以上の特定のシクロオレフィンポリマーの共重合体であり、ガラス転移温度(Tg)が80℃以下であるポリシクロオレフィンを含むポリシクロオレフィン層と、ポリオレフィン層との積層体であるシーラントフィルムを用いた実施例1〜12の積層フィルムは、非吸着性に優れ、かつ、適正なシール強度と低温シール性を有し、さらに防湿性も有していることが分かっている。しかし、比較例1のシーラントフィルムは、PCO層がないため、非吸着性(低吸着性)がないものであった。
【0078】
また、ポリオレフィン(PO)層11の厚みが50μm(40μm超)である比較例2〜5では、γ線照射により臭気が発生した。一方、PCO層の厚みが30μm(20μm超)である比較例6および7では、γ線照射よって青みがかる変色が生じた。
【0079】
これに対して、ポリオレフィン層の厚みが10μm以上40μm以下であり、ポリシクロオレフィン層12の厚みが5μm以上20μm以下である、実施例1〜10では、変色および臭気の発生は起こらなかった。
【0080】
したがって、ポリオレフィン層の厚みが10μm以上40μm以下であり、ポリシクロオレフィン層12の厚みが5μm以上20μm以下である場合に、γ線照射による物性変化(変色(黄変または青みがかる変色)、臭気(エチレンガス臭等)の発生など)が抑制されたシーラントフィルム1を得ることができると考えられる。
【0081】
また、ポリオレフィン層がポリシクロオレフィンを含んでいる場合、シーラントフィルム全体の質量に対して、ポリオレフィン層中に含まれるポリシクロオレフィンの含有量が60質量%(50質量%超)である比較例8では、γ線照射によって青みがかる変色が生じた。
【0082】
これに対して、シーラントフィルム全体の質量に対して、ポリオレフィン層中に含まれるポリシクロオレフィンの含有量が50および30質量%(50質量%以下)である実施例11および12では、変色および臭気の発生は起こらなかった。
【0083】
したがって、ポリオレフィン層がポリシクロオレフィンを含む場合、シーラントフィルム全体の質量に対して、ポリオレフィン層中に含まれるポリシクロオレフィンの質量が50質量%以下であることが好ましいと考えられる。
【0084】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のシーラントフィルムは、包装袋を構成する積層フィルムの最内層として用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 シーラントフィルム、11 ポリオレフィン層、12 ポリシクロオレフィン層、2 積層フィルム、31 基材シート、41,42 接着層、6 ガスバリアフィルム。
【要約】      (修正有)
【課題】低吸着性に優れ、十分なシール強度を有し、かつ、γ線滅菌による物性変化が抑制されたシーラントフィルムの提供。
【解決手段】ポリオレフィンを含むポリオレフィン層11と、最外層としてポリシクロオレフィンを主成分として含むポリシクロオレフィン層12とを備える、シーラントフィルム1であって、ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)から選択される2種以上の構造単位を含み、ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が80℃以下であり、ポリオレフィン層の厚みが10〜40μmであり、ポリシクロオレフィン層の厚みが5〜20μmである、シーラントフィルム。前記ポリシクロオレフィンは前記化合物の開環メタセシス重合体で、その炭素−炭素二重結は水素化されいる、シーラントフィルム。
【選択図】図1
図1
図2
図3