【実施例1】
【0018】
図1は、本発明に係るロータリ圧縮機の実施例1を示す縦断面図であり、
図2は、実施例1のロータリ圧縮機の圧縮部を示す上方分解斜視図であり、
図3は、実施例1のロータリ圧縮機の回転軸と給油羽根を示す上方分解斜視図である。
【0019】
図1に示すように、ロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10内の下部に配置された圧縮部12と、圧縮部12の上方に配置され、回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、圧縮機筐体10の側部に固定された縦置き円筒状のアキュムレータ25と、を備えている。
【0020】
アキュムレータ25は、上吸入管105及びアキュムレータ上L字管31Tを介して上シリンダ121Tの上吸入室131T(
図2参照)と接続し、下吸入管104及びアキュムレータ下L字管31Sを介して下シリンダ121Sの下吸入室131S(
図2参照)と接続している。
【0021】
モータ11は、外側にステータ111を、内側にロータ112を備え、ステータ111は、圧縮機筐体10の内周面に焼嵌め固定され、ロータ112は、回転軸15に焼嵌めにより固定されている。
【0022】
回転軸15は、下偏心部152Sの下方の副軸部151が下端板160Sに設けられた副軸受部161Sに回転自在に嵌合して支持され、上偏心部152Tの上方の主軸部153が上端板160Tに設けられた主軸受部161Tに回転自在に嵌合して支持され、互いに180度の位相差をつけて設けられた上偏心部152T及び下偏心部152Sがそれぞれ上ピストン125T及び下ピストン125Sに回転自在に嵌合することによって、圧縮部12全体に対して回転自在に支持されるとともに、回転によって上ピストン125T及び下ピストン125Sをそれぞれ上シリンダ121T、下シリンダ121Sの内周面に沿って公転運動させる。
【0023】
圧縮機筐体10内部には、圧縮部12の摺動部の潤滑と上圧縮室133T(
図2参照)及び下圧縮室133S(
図2参照)のシールのために、潤滑油18が圧縮部12をほぼ浸漬する量だけ封入されている。圧縮機筐体10の下側には、ロータリ圧縮機1全体を支持する複数の弾性支持部材(図示せず)を係止する取付脚310が固定されている。
【0024】
図2に示すように、圧縮部12は、上からドーム状の膨出部を有する上端板カバー170T、上端板160T、上シリンダ121T、中間仕切板140、下シリンダ121S、下端板160S及び平板状の下端板カバー170Sを積層して構成されている。圧縮部12全体は、上下から略同心円上に配置された複数の通しボルト174,175及び補助ボルト176によって固定されている。
【0025】
環状の上シリンダ121Tには、上吸入管105と嵌合する上吸入孔135Tが設けられている。環状の下シリンダ121Sには、下吸入管104と嵌合する下吸入孔135Sが設けられている。また、上シリンダ121Tの上シリンダ室130Tには、上ピストン125Tが配置されている。下シリンダ121Sの下シリンダ室130Sには、下ピストン125Sが配置されている。
【0026】
上シリンダ121Tには、上シリンダ室130Tから放射状に外方へ延びる上ベーン溝128Tが設けられ、上ベーン溝128Tには上ベーン127Tが配置されている。下シリンダ121Sには、下シリンダ室130Sから放射状に外方へ延びる下ベーン溝128Sが設けられ、下ベーン溝128Sには下ベーン127Sが配置されている。
【0027】
上シリンダ121Tには、外側面から上ベーン溝128Tと重なる位置に上シリンダ室130Tに貫通しない深さで上スプリング穴124Tが設けられ、上スプリング穴124Tには上スプリング126Tが配置されている。下シリンダ121Sには、外側面から下ベーン溝128Sと重なる位置に下シリンダ室130Sに貫通しない深さで下スプリング穴124Sが設けられ、下スプリング穴124Sには下スプリング126Sが配置されている。
【0028】
上シリンダ室130Tは、上下をそれぞれ上端板160T及び中間仕切板140で閉塞されている。下シリンダ室130Sは、上下をそれぞれ中間仕切板140及び下端板160Sで閉塞されている。
【0029】
上シリンダ室130Tは、上ベーン127Tが上スプリング126Tに押圧されて上ピストン125Tの外周面に当接することによって、上吸入孔135Tに連通する上吸入室131Tと、上端板160Tに設けられた上吐出孔190Tに連通する上圧縮室133Tと、に区画される。下シリンダ室130Sは、下ベーン127Sが下スプリング126Sに押圧されて下ピストン125Sの外周面に当接することによって、下吸入孔135Sに連通する下吸入室131Sと、下端板160Sに設けられた下吐出孔190Sに連通する下圧縮室133Sと、に区画される。
【0030】
上端板160Tには、上端板160Tを貫通して上シリンダ121Tの上圧縮室133Tと連通する上吐出孔190Tが設けられ、上吐出孔190Tの出口側には、上吐出孔190Tを囲む環状の上弁座(図示せず)が形成されている。上端板160Tには、上吐出孔190Tの位置から上端板160Tの周方向に溝状に延びる上吐出弁収容凹部164Tが形成されている。
【0031】
上吐出弁収容凹部164Tには、後端部が上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定され前部が上吐出孔190Tを開閉するリード弁型の上吐出弁200T及び後端部が上吐出弁200Tに重ねられて上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定され前部が湾曲して(反って)いて上吐出弁200Tの開度を規制する上吐出弁押さえ201T全体が収容されている。
【0032】
下端板160Sには、下端板160Sを貫通して下シリンダ121Sの下圧縮室133Sと連通する下吐出孔190Sが設けられ、下吐出孔190Sの出口側には、下吐出孔190Sを囲む環状の下弁座191S(
図4参照)が形成されている。下端板160Sには、下吐出孔190Tの位置から下端板160Sの周方向に溝状に延びる下吐出弁収容凹部164S(
図4参照)が形成されている。
【0033】
下吐出弁収容凹部164Sには、後端部が下吐出弁収容凹部164S内に下リベット202Sにより固定され前部が下吐出孔190Sを開閉するリード弁型の下吐出弁200S及び後端部が下吐出弁200Sに重ねられて下吐出弁収容凹部164S内に下リベット202Sにより固定され前部が湾曲して(反って)いて下吐出弁200Sの開度を規制する下吐出弁押さえ201Sの全部が収容されている。
【0034】
互いに密着固定された上端板160Tとドーム状の膨出部を有する上端板カバー170Tとの間には、上端板カバー室180Tが形成される。互いに密着固定された下端板160Sと平板状の下端板カバー170Sとの間には、下端板カバー室180Sが形成される(下端板カバー室180Sの詳細については後述する)。下端板160S、下シリンダ121S、中間仕切板140、上端板160T及び上シリンダ121Tを貫通し下端板カバー室180Sと上端板カバー室180Tとを連通する冷媒通路孔136が設けられている。
【0035】
図3に示すように、回転軸15には、下端から上端まで貫通する給油縦孔155が設けられ、給油縦孔155には給油羽根158が圧入されている。また、回転軸15の側面には、給油縦孔155に連通する複数の給油横孔156が設けられている。
【0036】
以下に、回転軸15の回転による冷媒の流れを説明する。上シリンダ室130T内において、回転軸15の回転によって、回転軸15の上偏心部152Tに嵌合された上ピストン125Tが、上シリンダ室130Tの外周面(上シリンダ121Tの内周面)に沿って公転することにより、上吸入室131Tが容積を拡大しながら上吸入管105から冷媒を吸入し、上圧縮室133Tが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が上吐出弁200Tの外側の上端板カバー室180Tの圧力より高くなると、上吐出弁200Tが開いて上圧縮室133Tから上端板カバー室180Tへ冷媒が吐出される。上端板カバー室180Tに吐出された冷媒は、上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出孔172T(
図1参照)から圧縮機筐体10内に吐出される。
【0037】
また、下シリンダ室130S内において、回転軸15の回転によって、回転軸15の下偏芯部152Sに嵌合された下ピストン125Sが、下シリンダ室130Sの外周面(下シリンダ121Sの内周面)に沿って公転することにより、下吸入室131Sが容積を拡大しながら下吸入管104から冷媒を吸入し、下圧縮室133Sが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が下吐出弁200Sの外側の下端板カバー室180Sの圧力より高くなると、下吐出弁200Sが開いて下圧縮室133Sから下端板カバー室180Sへ冷媒が吐出される。下端板カバー室180Sに吐出された冷媒は、冷媒通路孔136及び上端板カバー室180Tを通って上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出孔172T(
図1参照)から圧縮機筐体10内部に吐出される。
【0038】
圧縮機筐体10内に吐出された冷媒は、ステータ111外周に設けられた上下を連通する切欠き(図示せず)、又はステータ111の巻線部の隙間(図示せず)、又はステータ111とロータ112との隙間115(
図1参照)を通ってモータ11の上方に導かれ、圧縮機筐体10上部の吐出管107から吐出される。
【0039】
以下に、潤滑油18の流れを説明する。潤滑油18は、回転軸15の下端から給油縦孔155及び複数の給油横孔156を通って、副軸受部161Sと回転軸15の副軸部151との摺動面、主軸受部161Tと回転軸15の主軸部153との摺動面、回転軸15の下偏心部152Sと下ピストン125Sとの摺動面、上偏心部152Tと上ピストン125Tとの摺動面、に給油され、それぞれの摺動面を潤滑する。
【0040】
給油羽根158は、給油縦孔155内で潤滑油18に遠心力を与えることにより潤滑油18を吸い上げ、潤滑油18が圧縮機筐体10内から冷媒とともに排出されて油面が低くなった場合にも、確実に上記の摺動面に潤滑油18を供給する役目を担っている。
【0041】
次に、実施例1のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。
図4は、実施例1のロータリ圧縮機の下端板を示す下面図であり、
図5は、実施例1のロータリ圧縮機の下吐出弁を取付けた下吐出弁収容凹部を示す縦断面図である。
【0042】
図4に示すように、下端板カバー室180Sは、下端板カバー170Sが平板状で上端板カバー170Tのようなドーム状の膨出部を有しないので、下端板160Sに設けられた下吐出室凹部163Sと下吐出弁収容凹部164Sとにより構成される。下吐出弁収容凹部164Sは、下吐出孔190Sの位置から、副軸受部161Sの中心O
1と下吐出孔190Sの中心O
2とを結ぶ径線L
1と交差する方向、言い替えれば、下端板160Sの周方向に直線的に溝状に延びている。下吐出弁収容凹部164Sは、下吐出室凹部163Sとつながっている。下吐出弁収容凹部164Sは、その幅が下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sの幅よりわずかに大きく形成され、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sを収容するとともに、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sを位置決めしている。
【0043】
下吐出室凹部163Sは、下吐出弁収容凹部164Sの下吐出孔190S側に重なるように、下吐出弁収容凹部164Sの深さと同じ深さに形成されている。下吐出弁収容凹部164Sの下吐出孔190S側は、下吐出室凹部163Sに収容される。
【0044】
下吐出室凹部163Sは、副軸受部161Sの中心O
1と、下吐出孔190Sの中心O
2と下リベット202Sの中心O
3を結ぶ線分L
2(長さF)の中点O
4と、を通る径線L
3と、副軸受部161Sの中心O
1を中心として下吐出孔190Sの方向へピッチ角90°開いた径線L
4との間の扇形の範囲内に形成する。冷媒通路孔136は、少なくとも一部が下吐出室凹部163Sに重なり、下吐出室凹部163Sと連通する位置に配置する。
【0045】
図5に示すように、下吐出孔190Sの開口部周縁には、下吐出室凹部163Sの底部に対して盛り上がった環状の下弁座191Sが形成され、下弁座191Sが下吐出弁200Sの前部と当接する。下吐出室凹部163Sの下弁座191Sまでの深さHは、下吐出孔190Sの直径φD1の1.5倍以下とする。
【0046】
下吐出孔190Sから冷媒が吐出するときの下吐出弁200Sの開度すなわち下弁座191Sに対する下吐出弁200Sのリフト量は、吐出流れの抵抗にならないリフト量とする必要がある。したがって、下吐出室凹部163Sの下弁座160Sまでの深さHは、下吐出弁200Sのリフト量と、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sの厚さを考慮して決定する必要があるが、下吐出孔190Sの直径φD1の1.5倍で充分である。
【0047】
冷媒通路孔136は、少なくとも一部が上吐出室凹部163Tに重なって上吐出室凹部163Tと連通する位置に配置されている。上端板160Tに形成された上吐出室凹部163T及び上吐出弁収容凹部164Tについては、詳細な図示を省略するが、下端板160Sに形成された下吐出室凹部163S及び下吐出弁収容凹部164Sと同様の形状に形成されている。上端板カバー室180Tは、上端板カバー170Tのドーム状の膨出部と上吐出室凹部163Tと上吐出弁収容凹部164Tとにより構成される。
【0048】
以上説明した実施例1のロータリ圧縮機1の構成により、下吐出孔190Sと冷媒通路孔136の入口との間の距離を短くすることができる。よって、下端板カバー室180Sの容積、すなわち、下吐出室凹部163Sの容積と下吐出弁収容凹部164Sの容積の和の容積を、従来に比較して大幅に小さくすることができる。これにより、上シリンダ121Tで圧縮されて上吐出孔190Tから吐出された冷媒が、冷媒通路孔136を逆流して下端板カバー室180Sに流れ込む流量を小さくすることができ、ロータリ圧縮機1の効率低下を防ぐことができる。
【実施例4】
【0053】
図8は、実施例4のロータリ圧縮機の下端板を示す下面図である。
図8に示すように、実施例4のロータリ圧縮機1では、下端板160S4(及び、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T)に設けられた冷媒通路孔136Nは、実施例1のロータリ圧縮機1の冷媒通路孔136よりも小径とされ、2本設けられている(3本以上としてもよい)。2本(又は3本以上)の冷媒通路孔136Nの合計断面積は、実施例1のロータリ圧縮機1の冷媒通路孔136の断面積と同等とする。これにより、副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136Nの最外周までの半径R1を、
図4に示す実施例1のロータリ圧縮機1の副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136の最外周までの半径R1よりも小さくすることができ、円形の下吐出室凹部163S4の径を小さくすることができる。
【0054】
以上説明した実施例4のロータリ圧縮機1の構成により、実施例1のロータリ圧縮機1の下吐出室凹部163Sの底面積よりも下吐出室凹部163S4の底面積を小さくして下吐出室凹部163S4の容積を小さくすることができ、これにより、上シリンダ121Tで圧縮されて上吐出孔190Tから吐出された冷媒が、冷媒通路孔136Nを逆流して下端板カバー室180S4に流れ込む流量をさらに小さくすることができ、ロータリ圧縮機1の効率低下を防ぐことができる。
【0055】
また、副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136Nの最外周までの半径R1を、
図4に示す実施例1のロータリ圧縮機1の副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136の最外周までの半径R1よりも小さくすることができるので、下端板160S4(及び、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T)の半径R2を、実施例1の下端板160S(及び、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T)の半径R2(
図4参照)より小さくすることができ、圧縮部12の材料費の低減効果もある。
【実施例5】
【0056】
図9は、実施例5のロータリ圧縮機の下端板を示す下面図である。
図9に示すように、実施例5のロータリ圧縮機1では、下端板160S5(及び、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T)に設けられた冷媒通路孔136Mは、実施例4のロータリ圧縮機1の冷媒通路孔136Nの直径よりも幅が小さい長孔とされ、断面積は同等とされている。冷媒通路孔(長孔)136Mは、下弁座191Sの周方向に沿うように形成されている。これにより、副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136Mの最外周までの半径R1を、
図8に示す実施例4のロータリ圧縮機1の副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136Nの最外周までの半径R1よりも小さくすることができ、円形の下吐出室凹部163S5の径を小さくすることができる。
【0057】
以上説明した実施例5のロータリ圧縮機1の構成により、実施例4のロータリ圧縮機1の下吐出室凹部163S4の底面積よりも下吐出室凹部163S5の底面積をさらに小さくして下吐出室凹部163S5の容積を小さくすることができ、これにより、上シリンダ121Tで圧縮されて上吐出孔190Tから吐出された冷媒が、冷媒通路孔136Mを逆流して下端板カバー室180S5に流れ込む流量をさらに小さくすることができ、ロータリ圧縮機1の効率低下を防ぐことができる。
【0058】
また、副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136Mの最外周までの半径R1を、
図8に示す実施例4のロータリ圧縮機1の副軸受部161Sの中心O
1から冷媒通路孔136Nの最外周までの半径R1よりも小さくすることができるので、下端板160S5(及び、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T)の半径R2を、実施例4の下端板160S4(及び、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T)の半径R2(
図4参照)より小さくすることができ、圧縮部12の材料費のさらなる低減効果がある。