(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝結調整剤が、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の速硬性混和材。
前記混合粉砕前の前記カルシウムアルミネートを含むクリンカーの平均粒子径が1mm以上30mm以下の範囲にあり、前記混合粉砕前の前記凝結調整剤の粒子径が150μm以上500μm以下の範囲にあって、前記混合粉砕を、前記混合粉砕物のブレーン比表面積が3000cm2/g以上5500cm2/g以下の範囲となるまで行うことを特徴とする請求項5に記載の速硬性混和材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、速硬性混和材を含むセメント組成物は、可使時間を安定して十分に確保できること、すなわち凝結始発時間が安定して長く、水を加えてから硬化反応が進行するまでの間の流動性が高いことが要求される。また、施工作業の終了後は早期に硬化して高い強度(圧縮強度)が発現すること、すなわち初期強度発現性に優れることが要求される。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている超速硬セメント組成物では、若材齢(材齢3時間程度)での圧縮強度を低下させずに、可使時間を60分程度と長く確保することが難しく、またセメント組成物の硬化体に斑点の発生が認められ、この部分が欠陥となって長期的な強度も低下する不具合があった。また、環境温度により凝結時間が大きく異なり、工事現場での作業性に劣るという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示されたカルシウムアルミネート系の速硬性混和材は、添加するアルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩、カルボン酸類の粒度構成を規定することにより、セメントと当該混和材を混合して使用した超速硬セメント組成物について、初期強度発現性と凝結始発時間の環境温度依存性を改善している。しかしながら、この特許文献2に記載の速硬性混和材を混合した超速硬セメント組成物は、3ヶ月程度の期間保存したときに、凝結時間が製造直後に比べ大きく変化し、また初期強度発現性が低下することがあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セメント組成物に添加することによって、速硬性セメント組成物の環境温度による凝結始発時間の変動をさらに小さく、また水を加えてから硬化反応が進行するまでの間の流動性を高く、かつ初期強度発現性を向上させることができ、さらに速硬性セメント組成物を長期間保存してもその効果を安定して維持することができる速硬性混和材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の発明者等は鋭意検討した結果、カルシウムアルミネートからなるクリンカーと、凝結調整剤(無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上)とを混合粉砕して、カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲にあり、凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下にある混合粉砕物を得て、この得られた混合粉砕物に無機硫酸塩
(無水石膏)を加えることによって、速硬性セメント組成物の環境温度による凝結始発時間の変動をさらに小さく、また水を加えてから硬化反応が進行するまでの間の流動性を高く、かつ初期強度発現性を向上させることができ、さらに速硬性セメント組成物を長期間保存してもその効果を安定して維持することができる速硬性混和材を得ることが可能となるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと
無水石膏と凝結調整剤とを含み、前記カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲にあり、前記凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下であることを特徴としている。
【0012】
本発明の速硬性混和材によれば、凝結調整剤は平均粒子径が5μm以下であり、カルシウムアルミネート(平均粒子径:8μm以上100μm以下の範囲)と比較して、微細であるため水に溶解しやすい。このため、本発明の速硬性混和材が添加された速硬性セメント組成物に水を加えると、広い温度範囲において安定して凝結調整剤が水に速やかに溶解して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動が小さくなる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、速効性セメント組成物の凝結始発時間が安定して長くなり、水を加えた後の流動性が高くなる。一方、凝結調整剤による凝結調整作用が終了した後は、カルシウムアルミネートと
無水石膏とによるセメントの硬化促進作用が発揮されるので、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を向上させることができる。さらに、凝結調整剤は微細な粒子として、速硬性混和材中に分散されているので、本発明の速硬性混和材が添加された速硬性セメント組成物を長期間保存しても、凝結調整剤が偏析して、凝結調整剤の含有量が不均一となることが起こりにくい。このため、長期間保存しても上記の速硬性混和材による効果を安定に維持することができる。
【0013】
ここで、本発明の速硬性混和材においては、前記カルシウムアルミネートは、12CaO・7Al
2O
3、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2及びCaO・Al
2O
3からなる群より選択される一つ以上の組成を有し、ガラス化率が80%以上であることが好ましい。
この場合、カルシウムアルミネートが上記の組成を有し、かつガラス化率が上記の範囲にあるので、速硬性セメント組成物の硬化体の圧縮強度を低下させずに、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を確実に向上させることができる。また、速硬性セメント組成物の硬化体に斑点が発生するのを防止できる。
【0014】
また、本発明の速硬性混和材においては、
無水石膏は、ブレーン比表面積が8000cm
2/g以上の無水石膏であることが好ましい。
この場合、
無水石膏が、ブレーン比表面積が上記の範囲とされている無機石膏であるので、速硬性セメント組成物の硬化体の圧縮強度を低下させずに、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を確実に向上させることができる。また、速硬性セメント組成物の硬化体に斑点が発生するのを防止できる。
【0015】
さらに、本発明の速硬性混和材においては、凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含むことが好ましい。
この場合、凝結調整剤が上記の物質を1つ以上含むので、環境温度による速硬性セメント組成物の凝結始発時間の変動を確実に小さくすることができる。
【0016】
またさらに、本発明の速硬性混和材においては、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して、前記
無水石膏を50質量部以上200質量部以下の範囲にて含み、前記凝結調整剤を0.1質量部以上10質量部以下の範囲にて含
む。
この場合、カルシウムアルミネート100質量部に対する
無水石膏の含有量が50質量部以上200質量部以下の範囲とされているので、セメントの速硬性を向上させる効果が高くなり、速硬性セメント組成物の初期強度発現性をより確実に向上させることができる。また、カルシウムアルミネート100質量部に対する凝結調整剤の含有量が0.1質量部以上10質量部以下の範囲とされているので、環境温度による凝結始発時間の変動をより確実に小さくすることができる。
【0017】
本発明の速硬性混和材の製造方法は、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とを
、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して、凝結調整剤が0.1質量部以上10質量部以下の範囲となる割合で混合粉砕して
、前記カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲にあり、前記凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下にある混合粉砕物を調製する工程と、得られた混合粉砕物と、
無水石膏とを
前記カルシウムアルミネート100質量部に対して、前記無水石膏が50質量部以上200質量部以下の範囲となる割合で混合する混合する工程と、を備えることを特徴としている。
本発明の速硬性混和材の製造方法によれば、カルシウムアルミネートのクリンカーは硬度が高いので、このカルシウムアルミネートのクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕することによって、凝結調整剤が選択的に粉砕されて微粒子となり、この微粒子が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を得ることができる。この混合粉砕物中の凝結調整剤は、カルシウムアルミネートと比較して、微細であるため水に溶解しやすい。このため、本発明の製造方法によって得られた速硬性混和材が添加された速硬性セメント組成物に水を加えると、広い温度範囲において安定して凝結調整剤が水に速やかに溶解して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動が小さくなる。また、凝結調整作用が早期に発揮されることによって、凝結始発時間が安定して長くなり、注水直後の流動性が向上する。さらに、長期間保存しても凝結調整剤が偏析して、凝結調整剤の含有量が不均一となることが起こりにくい。このため、長期間保存しても上記の速硬性混和材による効果を安定に維持することができる。
【0018】
ここで、本発明の速硬性混和材の製造方法においては、前記混合粉砕前の前記カルシウムアルミネートを含むクリンカーの平均粒子径が1mm以上30mm以下の範囲にあり、前記混合粉砕前の前記凝結調整剤の粒子径が150μm以上500μm以下の範囲にあって、前記混合粉砕を、前記混合粉砕物のブレーン比表面積が3000cm
2/g以上5500cm
2/g以下の範囲となるまで行うことが好ましい。
この場合、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とが十分に混合粉砕されるので、凝結調整剤が一次粒子もしくはそれに近い微粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、セメント組成物に添加することによって、速硬性セメント組成物の環境温度による凝結始発時間の変動をさらに小さく、また水を加えてから硬化反応が進行するまでの間の流動性を高く、かつ初期強度発現性を向上させることができ、さらに速硬性セメント組成物を長期間保存してもその効果を安定して維持することができる速硬性混和材およびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態である速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと
無水石膏と凝結調整剤とを含む。カルシウムアルミネートは、平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲とされている。凝結調整剤は平均粒子径が5μm以下とされている。
カルシウムアルミネートは、12CaO・7Al
2O
3、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2及びCaO・Al
2O
3からなる群より選択される一つ以上の組成を有し、ガラス化率が80%以上である。
無水石膏は、ブレーン比表面積が8000cm
2/g以上の無水石膏である。凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含む。
カルシウムアルミネートと
無水石膏と凝結調整剤の配合量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、
無水石膏を50質量部以上200質量部以下の範囲、前記凝結調整剤を0.1質量部以上10質量部以下の範囲とされている。
上述のように、速硬性混和材の材料およびその配合量を規定した理由について以下に説明する。
【0022】
(カルシウムアルミネート)
カルシウムアルミネートは、速硬性セメント組成物の使用時において水に接したときにカルシウムイオンとアルミニウムイオンを溶出し、これらと
無水石膏から溶出される硫酸イオンとを反応させて、針状結晶のエトリンガイト(3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O)あるいはモノサルフェイト(3CaO・Al
2O
3・CaSO
4・12H
2O)などの水和物を生成させることによって、その速硬性セメント組成物の初期強度発現性を向上させる作用を有する。カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が小さくなりすぎると、硫酸イオンとの反応性が悪くなり、速硬性セメント組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。一方、カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなりすぎると、硫酸イオンとの反応性が高くなり、速硬性セメント組成物の凝結始発時間が速くなりすぎて、凝結調整剤を使用しても凝結始発時間を調整しにくく、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。
このため、本実施形態では、カルシウムアルミネートの平均粒子径(平均一次粒子径)を8μm以上100μm以下の範囲に設定している。カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm未満であると、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなりすぎて、速硬性セメント組成物の凝結始発時間を調整しにくくなるおそれがある。一方、カルシウムアルミネートの平均粒子径が100μmを超えると、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が小さくなりすぎて、速硬性セメント組成物の初期強度発現が低下するおそれがある。
【0023】
速硬性混和材中に含まれるカルシウムアルミネートの平均粒子径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)とを用いて測定することができる。すなわち、速硬性混和材のSEM画像とEPMAによる元素分析によって検出された元素の結果から、速硬性混和材に含まれているカルシウムアルミネートの粒子を特定し、カルシウムアルミネートとして特定された粒子について、粒子径をSEM画像から計測し、その平均値を求めることによって測定することができる。EPMAによる元素分析によりカルシウムとアルミニウムのみが検出された粒子は、カルシウムアルミネートの粒子として特定できる。
【0024】
また、本実施形態では、カルシウムアルミネートとして、12CaO・7Al
2O
3、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2及びCaO・Al
2O
3からなる群より選択される一つ以上の組成を有し、ガラス化率が80%以上であるものを使用する。ガラス化率は、80%以上98%以下であることが好ましく、特に90%以上98%以下であることが好ましい。上記の組成とガラス化率とを有するカルシウムアルミネートは、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きく、反応性が高いので、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を確実に向上させることが可能となる。
【0025】
カルシウムアルミネートは、ブレーン比表面積が3000cm
2/g以上5500cm
2/g以下であることが好ましい。ブレーン比表面積が3000cm
2/g以上であることにより、カルシウムアルミネートが水と接したときに、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなり、
無水石膏から溶出する硫酸イオンとの反応性が高まるので、速硬性セメント組成物の初期強度発現性をより確実に向上させることが可能となる。一方、ブレーン比表面積が5500cm
2/g以下であるので、カルシウムアルミネー
トが水と接したときに、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が過度に大きくなることが避けられ、硫酸イオンとの反応性が高くなりすぎることが抑えられる。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載のブレーン空気透過装置を用いた比表面積試験で測定するものとする。
【0026】
(
無水石膏)
速硬性混和材に含まれる
無水石膏は、速硬性セメント組成物の使用時において、水と接すると硫酸イオンを溶出し、これとカルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとを反応させて、針状結晶のエトリンガイトあるいはモノサルフェイトなどの水和を生成することによって、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を向上させる作用を有する。
無水石膏からの硫酸イオンの溶出速度が遅いと、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとの反応性が悪くなり、凝結開始から硬化するまでの時間が長くなり、速硬性セメント組成物の初期強度発電性が悪くなる。このため、本実施形態では、
無水石膏として、ブレーン比表面積が8000cm
2/g以上の無水石膏を使用する。上記のブレーン比表面積を有する無水石膏は、硫酸イオンの溶出速度が大きく、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとの反応性が高いので、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を確実に向上させることが可能となる。無水石膏のブレーン比表面積は12000cm
2/g以下であることが好ましい。ブレーン比表面積が大きくなりすぎると、硫酸イオンの溶出速度が大きくなり過ぎて、カルシウムイオンとアルミニウムイオンとの反応性が過度に高くなるので、凝結開始から硬化するまでの時間が短くなり、凝結調整剤を使用しても可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。
【0027】
無機硫酸塩として使用する無水石膏は、特にII型無水石膏であることが好ましい。無水石膏(特にII型無水石膏)は、カルシウムアルミネートとの反応性が高いので、速硬性セメント組成物硬化体の初期強度発現性をより確実に向上させることが可能となる。
【0028】
(凝結調整剤)
凝結調整剤は、速硬性セメント組成物の使用時において、速硬性セメント組成物に水を加えてからセメントの凝結が開始するまでの時間を調整する作用、すなわちセメントの硬化時間を遅延させる作用を有する。凝結調整剤によって、セメントの硬化時間が遅延されることによって、速硬性セメント組成物に水を加えてからセメントの硬化反応が進行するまでの間の速硬性セメント組成物の流動性が向上する。
凝結調整剤によるセメントの硬化時間の遅延作用は、凝結調整剤が水に溶解し、カルシウムアルミネートから溶出したカルシウムイオンやアルミニウムイオンとキレート反応して、カルシウムアルミネートの表面に皮膜を形成することによって、カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンやアルミニウムイオンの溶出が一時的に抑制されることにより発現すると考えられる。ただし、カルシウムアルミネートの表面に形成される皮膜は、極めて薄いため、比較的短時間で溶解して消失する。そして、この被膜が消失した後は、カルシウムアルミネートからのカルシウムイオン、アルミニウムイオンの再溶出が始まって、モルタルの硬化反応が進行する。
【0029】
本実施形態では、凝結調整剤は平均粒子径(平均一次粒子径)が5μm以下の微粒子とされている。このため、比較的に広い温度範囲において、凝結調整剤を水に速やかに溶解させることができる。凝結調整剤の平均粒子径は1μm以上であることが好ましい。平均粒子径が1μm未満であると、凝集粒子を形成し易くなるおそれがある。
【0030】
凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含む。これらの薬剤は水に溶解しやすいので、凝結調整剤としてこれらの薬剤を含むことによって、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮され、速硬性セメント組成物の環境温度による凝結始発時間の変動をより確実に小さくすることができる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、速硬性セメント組成物の凝結始発時間が安定して長くなるとともに、水を加えた後の流動性がより高くなる。
【0031】
無機炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩あるいは炭酸水素塩であることが好ましい。無機炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウムが挙げられる。これらの無機炭酸塩は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組合せて使用してもよい。オキシカルボン酸の例としては酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸が挙げられる。これらのオキシカルボン酸は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組合せて使用してもよい。
凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの2つ以上を組合せて使用することが好ましい。2つ以上の組合せは、無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびアルミン酸ナトリウムの3つの組合せが好ましく、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムの4つの組合せがより好ましい。なお、凝凝結調整剤を2つ以上の組合せとする場合は、少なくとも一つの凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下の微粒子とされていればよい。
【0032】
上記の凝結調整剤の中で、硫酸ナトリウムは、水に対する溶解速度が特に速い。このため、硫酸ナトリウムは、水を加えた後の速硬性セメント組成物の流動性を向上させる効果が高い。また、硫酸ナトリウムは、広い温度範囲で水に溶解し易いので、水を加えた後の速硬性セメント組成物の凝結始発時間に対する温度依存性を小さくする効果もある。
【0033】
凝結調整剤の微粒子は、一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として速硬性混和材中に分散していることが好ましい。凝結調整剤が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として分散していると、水への溶解速度が向上して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動を確実に小さくできる。また、微細な凝結調整剤の粒子は、カルシウムアルミネートの表面に付着していることが好ましい。この場合は、凝結調整剤がカルシウムアルミネートよりも先に水と接触するので溶解し易くなり、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動をさらに確実に小さくできる。
【0034】
凝結調整剤の平均粒子径は、例えば、SEMとEPMAとを用いて測定することができる。すなわち、速硬性混和材のSEM画像とEPMAによる元素分析によって検出された元素の結果から、速硬性混和材に含まれている凝結調整剤の粒子を特定し、凝結調整剤として特定された粒子について、粒子径をSEM画像から計測し、その平均値を求めることによって測定することができる。例えば、EPMAによる元素分析によりナトリウムのみが検出された粒子は、炭酸ナトリウム(無機炭酸塩)の粒子として特定できる。
【0035】
(配合量)
速硬性混和材の配合において、
無水石膏の配合量が少なくなりすぎると、
無水石膏とカルシウムアルミネートとの反応生成物(エトリンガイト、モノサルフェイト)の生成量が少なくなり、速硬性セメント組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。一方、
無水石膏の配合量が多くなりすぎると、セメントの凝結始発時間が速くなり、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。また、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン量とアルミニウムイオン量が、硫酸イオンに対して相対的に少なくなることによって、エトリンガイトの生成量が少なくなるため、速硬性セメント組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。さらに、残存する
無水石膏の影響によって硬化後の膨張量が過剰となり、膨張破壊を起こすおそれがある。
また、速硬性混和材の配合において、凝結調整剤の配合量が少なくなりすぎると、凝結調整剤の作用が短時間で終了してセメントの凝結始発時間が速くなり、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。一方、凝結調整剤の配合量が多くなりすぎると、凝結調整剤の作用が所定の時間以上継続し、速硬性セメント組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、カルシウムアルミネートと
無水石膏と凝結調整剤の配合量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、
無水石膏を50質量部以上200質量部以下の範囲、凝結調整剤を0.1質量部以上10質量部以下の範囲と設定されている。
【0036】
次に、速硬性混和材の製造方法を説明する。
本実施形態の速硬性混和材の製造方法は、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕して混合粉砕物を調製する混合粉砕工程と、得られた混合粉砕物と、
無水石膏とを混合する混合工程とを備える。
【0037】
本実施形態の速硬性混和材の製造方法において、カルシウムアルミネートの原料として用いるクリンカーは、凝結調整剤と比較して硬度が高い。このため、このカルシウムアルミネートのクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕することによって、凝結調整剤が選択的に微粒子となり、微細な凝結調整剤の粒子が生成する。この凝結調整剤の微粒子は、相対的に粗大なカルシウムアルミネート粒子の表面に付着しやすい。従って、混合粉砕工程では、凝結調整剤の微粒子が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を得ることができる。混合粉砕装置としては、E型ミル、竪型ミル、チューブミル等の粉砕装置を用いることができるが、これに限定されるものではなく、クリンカーの粉砕装置として通常用いられている各種の粉砕装置を用いることができる。
【0038】
カルシウムアルミネートを含むクリンカーは、クリンカー鉱物であることが好ましい。粉砕前のカルシウムアルミネートのクリンカーは、平均粒子径が1mm以上30mm以下の範囲にあることが好ましい。また、粉砕前の凝結調整剤は、粒子径が150μm以上500μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0039】
混合粉砕工程では、混合粉砕を、混合粉砕物のブレーン比表面積が3000cm
2/g以上5500cm
2/g以下の範囲となるまで行うことが好ましく、3000cm
2/g以上4500cm
2/g以下の範囲になるまで行うことが特に好ましい。ブレーン比表面積が上記の範囲となるまで混合粉砕を行うことによって、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とが十分に混合粉砕され、凝結調整剤の微粒子が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を確実に得ることができる。また、混合粉砕物中のカルシウムアルミネートの平均粒子径は、通常、8μm以上100μm以下の範囲に、凝結調整剤の平均粒子径は、通常、5μm以下となる。
【0040】
混合工程において、混合粉砕工程にて得られた混合粉砕物と混合する
無水石膏は
、ブレーン比表面積が8000cm
2/g以上であることが好ましい。
混合工程において、混合粉砕物と
無水石膏との混合は乾式混合により行われる。乾式混合装置としては、V型混合機、リボンミキサー、プロ−シェアミキサー等の混合機を用いることができるが、これに限定されるものではなく、セメント材料の混合装置として通常用いられている各種の混合装置を用いることができる。混合時間は、混合装置の容量や各材料の配合量に合せて適宜調整することができる。
【0041】
本実施形態である速硬性混和材は、種々のセメントと組合せて使用することができる。セメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等が挙げられる。速硬性混和材の量は、セメントと速硬性混和材の合計量を100質量部とした場合の速硬性混和材の量として、5質量部以上50質量部以下の範囲にあることが好ましい。5質量部未満では早期材齢(若材齢)の強度発現性が低下し、50質量部を越えると製造コストが増大するとともにセメントが少なくなって長期強度の発現性が低下するおそれがある。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態である速硬性混和材によれば、カルシウムアルミネートは平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲とされ、凝結調整剤は平均粒子径が5μm以下とされているので、凝結調整剤の水への溶解速度が速く、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮される。このため、本実施形態の速硬性混和材が添加された速硬性セメント組成物は、環境温度による凝結始発時間の変動が小さくなる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が終了した後は、カルシウムアルミネートと
無水石膏とによるセメントの硬化促進によって、速硬性セメント組成物の初期強度発現性を向上させることができる。このため、本実施形態の速硬性混和材を用いることにより、速硬性セメント組成物の凝結の始発時間を5分以上90分以下に調整することができ、例えば、凝結の始発時間を50分以下に設定した場合には材齢1時間で実用強度を発現させることができる。
さらに、本実施形態の速硬性混和材は長期間保存しても凝結調整剤が偏析しにくく、凝結調整剤の含有量が不均一になりにくい。このため、本実施形態の速硬性混和材が添加された速硬性セメント組成物を長期間保存してもこの速硬性混和材による効果を安定に維持することができる。
【0043】
さらに、本実施形態の速硬性混和材は、凝結調整剤が、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含むので、環境温度による速硬性セメント組成物の凝結始発時間の変動を確実に小さくすることができる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、凝結始発時間がより安定して長くなるとともに、水を加えた後の速硬性セメント組成物の流動性がより高くなる。硫酸ナトリウムは、水に対する溶解速度が特に速いため、水を加えた後の速硬性セメント組成物の流動性を向上させる効果が高い。
【0044】
また、本実施形態の速硬性混和材の製造方法によれば、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕して混合粉砕物を調製する工程を備えるため、凝結調整剤の微粒子が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を得ることができる。この混合粉砕物中の凝結調整剤は、カルシウムアルミネートと比較して、微細であるため水に溶解しやすい。このため、本実施形態の製造方法によって得られた速硬性混和材が添加された速硬性セメント組成物に水を加えると、広い温度範囲において安定して凝結調整剤が水に速やかに溶解して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動が小さくなる。また、長期間保存しても凝結調整剤が偏析して、凝結調整剤の含有量が不均一となることが起こりにくい。このため、長期間保存しても上記の速硬性混和材による効果を安定に維持することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態である速硬性混和材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本発明の速硬性混和材は、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、防水剤、起泡剤、消泡剤、発泡剤、鉄筋コンクリート用防錆剤、水中不分離性混和剤、保水剤、乾燥収縮低減剤、分離低減剤(増粘剤)、防凍・耐寒剤などを含んでいてもよい。また、本発明の速硬性混和材は、細骨材、粗骨材などの骨材、再乳化粉末ポリマーやシリカフュームなどの混和材料と併用することも可能である。
【実施例】
【0046】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
本実施例および比較例にて使用した使用材料の種類、組成及び略号を、下記の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
[実施例1]
カルシウムアルミネートクリンカー(CA−CL)を100質量部、凝結調整剤として、炭酸ナトリウム(Na−3)を1.0質量部、アルミン酸ナトリウム(Al−3)を0.5質量部、酒石酸(Ta−3)を0.5質量部となる割合にて、混合粉砕機に投入し、ブレーン比表面積が4500cm
2/gになるまで混合粉砕した。得られた混合粉砕物に含まれているカルシウムアルミネートの平均粒子径は15μmであり、炭酸ナトリウムの平均粒子径は3.0μmであった。炭酸ナトリウムの平均粒子径は、下記の方法を用いて測定した。
【0049】
(炭酸ナトリウムの平均粒子径の測定方法)
先ず、初めに、得られた混合粉砕物の粒子形状を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。
図1に、混合粉砕物のSEM画像を示す。
図1の(A)は装置倍率1000倍のSEM画像で、(B)は装置倍率3000倍のSEM画像である。
次に、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)を用いてSEM画像に写された粒子の元素分析を行った。
図2にその結果を示す。
図2の(A)は、
図1(B)の丸で囲まれた領域を拡大したSEM画像であり、(B)は、そのSEM画像に写された粒子を、EPMAを用いて元素分析して得た元素のマッピング画像である。
図2の(B)において、白色部分はナトリウムを表す。この
図2の(A)のSEM画像と(B)のマッピング画像から、炭酸ナトリウムの粒子を特定し、その炭酸ナトリウムとして特定された粒子の最長径を
図1(B)のSEM画像を用いて計測した。この操作を繰り返して、100個の炭酸ナトリウムの粒子径を計測し、その平均値を算出した。
【0050】
上記のようにして得られた混合粉砕物100質量部に対して
、無水石膏(CS)を120質量部の割合で混合機に投入して、混合した。得られた混合物を速硬性混和材(SA−1)とした。
【0051】
[比較例1]
カルシウムアルミネートクリンカー(CA−CL)を混合粉砕機に投入し、ブレーン比表面積が4500cm
2/gになるまで単独粉砕して、カルシウムアルミネート粉末を得た。
得られたカルシウムアルミネート粉末100質量部に対して、無水石膏(CS)を120質量部の割合にて混合機に投入して、混合した。得られた混合物を速硬性混和材(SA−2)とした。
【0052】
[実施例2〜4、比較例2〜4]
実施例1で得られた速硬性混和材(SA−1)、比較例1で得られた速硬性混和材(SA−2)、普通ポルトランドセメント(N)、早強ポルトランドセメント(H)、無機炭酸塩(Na−1〜3)、アルミン酸ナトリウム(Al−1〜3)、酒石酸(Ta−1〜3)、細骨材(S)、シリカフューム(SF)、消泡剤(14HP)、凝結調整剤(K−set)、再乳化粉末ポリマー(P)、減水剤(MX)をそれぞれ下記の表2に示す割合(質量部)にて混合機に投入して、実施例2〜4、比較例2〜4の速硬性セメント組成物を調製した。
【0053】
【表2】
【0054】
得られた速硬性セメント組成物に対して、下記の方法により、温度安定性と保存安定性とを評価した。
【0055】
(1)温度安定性
製造直後の速硬性セメント組成物と水とを上記表2に示す割合にて、5℃、20℃および35℃の環境温度にて混練してセメントモルタルを調製した。調製したセメントモルタルを用いて、実施例2と比較例2では、凝結始発時間と圧縮強度をそれぞれ測定した。実施例3と比較例3では、凝結始発時間とフロー値(Pロート)と圧縮強度をそれぞれ測定した。実施例4と比較例
4では、凝結始発時間とフロー値(J
14ロート)と圧縮強度をそれぞれ測定した。
【0056】
凝結始発時間は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従って測定した。圧縮強度は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従って測定した。フロー値(Pロート)は、土木学会規準JSCE−F 521「プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)」に従ってPロート流下時間を測定した。フロー値(J
14ロート):土木学会規準JSCE−F 541「充てんモルタルの流動性試験方法」に従ってJ
14ロート流下時間を測定した。
その結果を、下記の表3〜5に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
表3〜5の結果から、凝結調整剤が、平均粒子径が5μm以下の微細な粒子として分散されている速硬性混和材(SA−1、実施例1)を含む速硬性セメント組成物(実施例2〜4)はいずれも、凝結調整剤が45〜500μmと広範な粒度分布を持つ粒子として分散されている速硬性混和剤(SA−2、比較例1)を含む速硬性セメント組成物(比較例2〜4)と比較して、環境温度による凝結始発時間の変動が小さく、また材齢1〜3時間までの圧縮強度が高く、初期強度発現性に優れることが確認された。また、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4の結果から、フロー値についても速硬性混和材(SA−1、実施例1)を含む速硬性セメント組成物は、速硬性混和剤(SA−2、比較例1)を含む速硬性セメント組成物(比較例2〜4)と比較して、環境温度による変動が小さいことが確認された。
【0061】
(2)保存安定性
速硬性セメント組成物をビニール袋(容量:12L)に梱包し、ビニール袋の角部の4カ所にピンホール(孔径:0.5mm)を開け、温度30℃、湿度80%RHの室内に、3ヶ月、6ヶ月それぞれ保存した。保存後の速硬性セメント組成物と水とを上記の表2に示す割合にて、20℃の環境温度にて混練してセメントモルタルを調製した。調製したセメントモルタルを用いて、実施例2と比較例2では凝結始発時間と圧縮強度をそれぞれ測定した。実施例3と比較例3では、凝結始発時間とフロー値(Pロート)と圧縮強度をそれぞれ測定した。実施例4と比較例4では、凝結始発時間とフロー値(J
14ロート)と圧縮強度をそれぞれ測定した。
その結果を、下記の表6〜8に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
表6〜8の結果から、凝結調整剤が、平均粒子径が5μm以下の微細な粒子として分散されている速硬性混和材(SA−1、実施例1)を含む速硬性セメント組成物(実施例2〜4)はいずれも、凝結調整剤が45〜500μmと広範な粒度分布を持つ粒子として分散されている速硬性混和剤(SA−2、比較例1)を含む速硬性セメント組成物(比較例2〜4)と比較して、保存による凝結始発時間の変動が小さく、また材齢1〜3時間までの圧縮強度が高く、初期強度発現性に優れることが確認された。また、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4の結果から、フロー値についても速硬性混和材(SA−1、実施例1)を含む速硬性セメント組成物は、速硬性混和剤(SA−2、比較例1)を含む速硬性セメント組成物(比較例2〜4)と比較して、保存による変動が小さいことが確認された。
【0066】
[実施例5]
カルシウムアルミネートクリンカー(CA−CL)を100質量部、凝結調整剤として、炭酸ナトリウム(Na−3)を1.0質量部、アルミン酸ナトリウム(Al−3)を0.5質量部、酒石酸(Ta−3)を0.5質量部、硫酸ナトリウム(NS−3)を1.0質量部となる割合にて、混合粉砕機に投入し、ブレーン比表面積が4560cm
2/gになるまで混合粉砕した。得られた混合粉砕物に含まれているカルシウムアルミネートの平均粒子径は14.2μmであり、炭酸ナトリウムの平均粒子径は2.8μmであった。
【0067】
上記のようにして得られた混合粉砕物100質量部に対して、無水石膏(CS)を120質量部の割合で混合機に投入して、混合した。得られた混合物を速硬性混和材(SA−3)とした。
【0068】
[実施例6]
実施例5で得られた速硬性混和材(SA−3)に、普通ポルトランドセメント(N)、無機炭酸塩(Na−1〜3)、アルミン酸ナトリウム(Al−1〜3)、酒石酸(Ta−1〜3)、細骨材(S)、消泡剤(14HP)、凝結調整剤(K−set)、再乳化粉末ポリマー(P)をそれぞれ下記の表9に示す割合(質量部)にて混合機に投入して、実施例6の速硬性セメント組成物を調製した。表9には、実施例3および比較例3で調製した速硬性セメント組成物の材料組成を合せて記載した。なお、実施例6の速硬性セメント組成物は、速硬性混和材(SA−3)が硫酸ナトリウムを含むこと以外は、実施例3の速硬性セメント組成物と同じ組成である。
【0069】
【表9】
【0070】
得られた速硬性セメント組成物に対して、(1)温度安定性と(2)保存安定性とを、上記の方法により評価した。評価は、フロー値(Pロート)、凝結始発時間、圧縮強度を測定して行った。
表10に温度安定性の評価結果を、表11に保存安定性の評価結果をそれぞれ示す。なお、表10および表11には、実施例3および比較例3で調製した速硬性セメント組成物の温度安定性および保存安定性の評価結果を合せて記載した。
【0071】
【表10】
【0072】
【表11】
【0073】
表10と表11の結果から、硫酸ナトリウムを含む速硬性混和材(SA−3、実施例5)を用いた実施例6の速硬性セメント組成物は、実施例3および比較例3の速硬性セメント組成物と比較して、各環境温度、各保存時間のいずれにおいてもフロー値が低いことから、水を加えた後の流動性が高いことが確認された。
【課題】セメント組成物に添加することによって、速硬性セメント組成物の環境温度による凝結始発時間の変動をさらに小さく、また水を加えてから硬化反応が進行するまでの間の流動性を高く、かつ初期強度発現性を向上させることができ、さらに速硬性セメント組成物を長期間保存してもその効果を安定して維持することができる速硬性混和材を提供する。