特許第6206616号(P6206616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6206616-スピンドル装置及び工作機械 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206616
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】スピンドル装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/12 20060101AFI20170925BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B23Q11/12 C
   B23B19/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-500668(P2017-500668)
(86)(22)【出願日】2016年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2016054312
(87)【国際公開番号】WO2016133050
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2017年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-27198(P2015-27198)
(32)【優先日】2015年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】石川 敦史
【審査官】 宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−77636(JP,A)
【文献】 特開平3−213243(JP,A)
【文献】 特開2000−15541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/12
B23B 19/02
B24B 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
その軸方向片端寄り部分が前記ハウジングに対し、転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットにより回転自在に支持され、使用時に前記軸方向の片端部に工具が取り付けられる主軸と、
前記主軸を回転駆動する為の電動モータと
を備えるスピンドル装置に於いて、
前記電動モータは、前記主軸の軸方向中間部に支持固定されたロータの外周面に、前記ハウジングに対して支持されたステータの内周面を対向させることで構成されており、
前記主軸の径方向中心部に、当該主軸を軸方向に貫通する貫通孔が設けられており、
前記主軸の軸方向中間部の、前記ロータを支持固定した部分よりも軸方向片側に位置する部分の円周方向複数箇所に、外周面と内周面とを連通する径方向通気孔が、それぞれ設けられており、
前記主軸の軸方向片端部乃至中間部の円周方向複数箇所に、前記主軸の軸方向片端面と前記各径方向通気孔の内周面とを連通する軸方向通気孔が、それぞれ設けられており、
前記主軸の軸方向片端寄り部分における、前記転がり軸受若しくは前記転がり軸受ユニットを外嵌した部分よりも軸方向片側に位置する部分の円周方向複数箇所に、前記主軸の外周面と、前記各軸方向通気孔の内周面とを連通する排出孔が、それぞれ設けられており、
前記各径方向通気孔の外径側開口部が、前記転がり軸受若しくは前記転がり軸受ユニットの内周面と、前記主軸の外周面に外嵌固定された他の部材とのいずれかにより塞がれており、
前記ハウジングの軸方向片端部に塞ぎ板が設けられており、
前記塞ぎ板の内周面を、前記主軸の軸方向片端寄り部分における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分と、前記各排出孔を設けた部分との間部分の外周面に、環状隙間を介して近接対向させており、
前記各排出孔の外径側開口部を、前記環状隙間の軸方向片側開口部よりも径方向内方に位置させており、
使用時に、前記貫通孔の軸方向他側開口部から冷却気体を送り込み、前記冷却気体を、前記各軸方向通気孔及び前記各径方向通気孔を通じて、前記各排出孔から排出する、
スピンドル装置。
【請求項2】
前記各径方向通気孔が、前記主軸の軸方向中間部における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分と、前記ロータを支持固定した部分との間部分の円周方向複数箇所に設けられており、
前記各径方向通気孔の外径側開口部が、前記主軸の軸方向中間部における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分と、前記ロータを支持固定した部分との間部分の外周面に外嵌固定された後で、当該外周面に仕上加工が施されたスリーブにより塞がれている、
請求項1に記載したスピンドル装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスピンドル装置を備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドル装置及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤や研削盤、ボール盤等の工作機械の主軸は、使用時に高速(例えば20000[min−1]以上の速度で)回転する。この様な主軸は、転がり軸受によりハウジングに対して回転自在に支持すると共に、主軸の回転時には、これら主軸及び転がり軸受を冷却する必要がある。特許文献1には、主軸をハウジングに対して回転自在に支持する転がり軸受を冷却する為の構造が記載されている。特許文献1の図4に記載された構造の場合、中空状の主軸(スピンドル)の前部の内部に給気路を設けると共に、主軸の外周面に吹出口を設けている。吹出口は、これら主軸の外周面と給気路の内周面とを連通する状態で設けられる。吹出口の外径側開口部は、内輪間座の内周面に対向する。この内輪間座は、主軸をハウジングに対して回転自在に支持する1対の玉軸受を構成する内輪同士の間に挟持される。主軸の回転時には、冷却気体を、主軸の外周面に形成した上流側開口部から給気路内に送り込み、主軸の前部を冷却する。更に、冷却気体を吹出口から噴出させて内輪間座の内周面に吹き付ける。これにより、内輪間座、延いては、内輪を冷却する。特許文献1に記載された構造の場合、給気路を形成する為の加工が面倒で、製造コストが増大する可能性がある。主軸の給気路が設けられていない後部乃至中間部は、冷却することができない。即ち、必要に応じて、別の冷却機構を設けなければならない。更に、特許文献1の図4に記載された構造の場合には、上流側開口部を主軸の外周面に設けている為、給気路の断面積を大きくし難く、冷却気体の流量を増大させ難い。この為、十分な冷却効果を得られない可能性がある。
【0003】
特許文献2には、電動モータを構成する各部材を冷却し、電動モータを収納するモータケースから噴出した冷却気体により、主軸や主軸をスピンドルケースに対して回転自在に支持する為の軸受を冷却する技術が記載されている。特許文献2に記載された技術の場合には、冷却気体が軸受内部を通過する為、冷却気体として、油を霧状にしたオイルミストや微粒子化した油を混入したオイルエアを使用する必要がある。これは、運転コストを上昇させることに繋がる。又、主軸と、電動モータの回転軸(モータシャフト)との連結部に設けられた、エアー入口穴の断面積を大きくし難く、冷却気体の流量を確保し難い為、十分な冷却効果を得られない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2000−296439号公報
【特許文献2】日本国特開2004−250832号公報
【特許文献3】日本国特開2002−161922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる、スピンドル装置及び工作機械の構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスピンドル装置は、例えば旋盤や研削盤、ボール盤等の工作機械に組み込んで使用するものであり、ハウジングと、主軸と、電動モータとを備える。
主軸は、軸方向片端寄り部分が前記ハウジングに対し、玉軸受や円筒ころ軸受等の転がり軸受、若しくは、1乃至複数個の転がり軸受と潤滑装置等とを組み合わせて成る転がり軸受ユニットにより回転自在に支持されている。主軸の軸方向片端部には、前記スピンドル装置を組み込んだ工作機械の使用時に、例えばクイル(断面円形の送り台)や刃物、或いは、被加工物を把持する為の把持具等の工具が取り付けられる。
前記電動モータは、前記主軸を回転駆動する為のものである。
【0007】
特に、本発明のスピンドル装置の場合には、前記電動モータを、前記主軸の軸方向中間部に支持固定されたロータの外周面に、前記ハウジングに対して支持されたステータの内周面を対向させることで構成する、所謂ビルトインモータとしている。
又、主軸の径方向中心部に、主軸を軸方向に貫通し、この主軸の軸方向片端面と軸方向他端面とを連通する貫通孔を設けている。但し、この貫通孔の軸方向片側開口部は、前記スピンドル装置の使用時には、前記主軸の軸方向片端部に取り付けた工具により塞がれる。
又、前記主軸の軸方向中間部における、前記ロータを支持固定した部分よりも軸方向片側に位置する部分の円周方向複数箇所に、外周面と内周面とを連通する径方向通気孔を、それぞれ放射状に設けている。
又、前記主軸の軸方向片端部乃至中間部の円周方向複数箇所に、主軸の軸方向片端面と前記各径方向通気孔の内周面とを連通する軸方向通気孔を、それぞれ設けている。
更に、前記主軸の軸方向片端寄り部分における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分よりも軸方向片側に位置する部分の円周方向複数箇所に、前記主軸の外周面と前記各軸方向通気孔の内周面とを連通する排出孔を、それぞれ設けている。
そして、前記各径方向通気孔の外径側開口部を、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットの内周面、又は、前記主軸の外周面に外嵌固定された、スリーブや盲栓等の他の部材により塞いでいる。
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、前記ハウジングの軸方向片端部に塞ぎ板を設ける。この塞ぎ板の内周面を、前記主軸の軸方向片端寄り部分における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分と、前記各排出孔を設けた部分との間部分の外周面に、環状隙間を介して近接対向させる。そして、前記各排出孔の外径側開口部を、前記環状隙間の軸方向片端側開口部よりも径方向内方に位置させる。
上述の様な本発明のスピンドル装置の使用時には、前記貫通孔の軸方向他側開口部から冷却気体を送り込み、この冷却気体を、前記各軸方向通気孔及び前記各径方向通気孔を通じて、前記各排出孔から排出させる。
【0008】
上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、前記各径方向通気孔を、前記主軸の軸方向中間部における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分と、前記ロータを支持固定した部分との間部分の円周方向複数箇所に設ける。
そして、前記各径方向通気孔の外径側開口部を、前記主軸の軸方向中間部における、前記転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した部分と、前記ロータを支持固定した部分との間部分の外周面に、焼き嵌めや冷やし嵌め等を含む締り嵌めにより外嵌固定した後で、その外周面に研削加工等の仕上加工が施されたスリーブにより塞ぐ。
【発明の効果】
【0010】
上述の様に構成する本発明のスピンドル装置によれば、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる。
即ち、本発明の場合、スピンドル装置の使用時に、主軸の径方向中心部に設けた貫通孔内に送り込まれた冷却気体は、この貫通孔内を流通する。そして、貫通孔内を流通する冷却気体は、主軸の軸方向中間部の円周方向複数箇所に設けた径方向通気孔を介して、主軸の軸方向片端部乃至中間部の円周方向複数箇所に設けた軸方向通気孔に送り込まれる。送り込まれた冷却気体は、これら各軸方向通気孔内を流通する。従って、主軸における、電動モータを構成するロータを支持固定した軸方向中間部、及び、転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した軸方向片端寄り部分を、冷却気体により冷却できる。本発明の場合、各軸方向通気孔を、主軸の軸方向片端部乃至中間部の円周方向複数箇所に設けている。その為、主軸における、転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットを外嵌した軸方向片端寄り部分の冷却を効率良く行える。この結果、温度上昇に伴う主軸の変形、即ち軸方向に関する変形を小さく抑えられ、例えばスピンドル装置を組み込んだ工作機械による加工精度を安定させられる。又、主軸の変形が安定するまでに要する時間が短く抑えられて、工作機械を暖機運転させる時間を短く抑えられる。本発明の場合、各径方向通気孔及び各軸方向通気孔を、それぞれ主軸の円周方向に沿った複数箇所に設けている。その為、この冷却気体の流量を十分確保できる。この面からも主軸の冷却を効果的に行える。
更に、本発明によれば、前記転がり軸受の内輪若しくは転がり軸受ユニットを構成する転がり軸受の内輪の冷却も行うことができ、転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットの長寿命化を図れる。
【0011】
本発明の場合、貫通孔を、主軸を軸方向に貫通する状態で設けると共に、各径方向通気孔を、この主軸の外周面と内周面とを連通する状態で設けている。又、各軸方向通気孔を、この主軸の軸方向片端面と各径方向通気孔の内周面とを連通する状態で設けている。この為、冷却気体を通過させる流路を形成する為の加工を容易に行えて、スピンドル装置の製造コストを低減できる。又、本発明の場合、冷却気体は転がり軸受等の内部を通過しない。その為、冷却気体をオイルミストやオイルエアとする必要がなく、例えば圧縮空気であればよい。従って、スピンドル装置の運転コストの増大を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態の1例を示す断面図である。
図2】主軸とスリーブとを取り出して示す断面図である。
図3】本発明による冷却効果を説明する為の線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例のスピンドル装置1は、例えば旋盤や研削盤、ボール盤等の工作機械に組み込んで使用するもので、ハウジング2と、主軸3と、電動モータ4とを備える。この様なスピンドル装置1は、この工作機械の使用時に、主軸3の軸方向片端部(図1〜2の左端部)に、例えばクイル(断面円形の支持部材)や刃物、或いは、被加工物を把持する為の把持具等の工具が取り付けられる。
【0014】
ハウジング2は、高炭素鋼、クロムモリブデン鋼等の如き機械構造用鋼等の金属材料を鋳造或いは鍛造する等して造られた複数の部材を組み合わせて構成される。但し、ハウジング2は、全体を一体に構成することもできる。本例の場合、ハウジング2の内部に、ハウジング2やその他のスピンドル装置1を構成する部材を冷却する冷却気体を流通させる為の、ハウジング側通気路5を設けている。
【0015】
主軸3は、その径方向中心部に、主軸3を軸方向に貫通する貫通孔6が形成された中空円筒状である。この貫通孔6の内周面の軸方向片端寄り部分には、工具の基端部外周面に形成された雄ねじ部を螺合する為の雌ねじ部7が形成される。主軸3の軸方向両端部は、それぞれ転がり軸受ユニット8a、8bにより、ハウジング2の内側に回転自在に支持される。
【0016】
主軸3の軸方向片端部には、軸方向中間部及び他端部(図1〜2の右端部)よりも外径が大きな大径部9が設けられる。大径部9の径方向に関する厚さは、軸方向中間部及び他端部の径方向に関する厚さよりも大きい。これにより、工作機械の使用時に、主軸3の軸方向片端部に取り付けた工具から大径部9に加わる荷重に対する強度及び剛性を高くしている。
【0017】
主軸3の軸方向他端部には、軸方向中間部及び片端部よりも外径が小さな小径部10が設けられる。そして、大径部9の外周面と、ハウジング2の軸方向片端部内周面に設けられた軸受保持部11aとの間に、軸方向片側(図1の左側)の転がり軸受ユニット8aが設けられる。小径部10と、ハウジング2の軸方向他端寄り部分の内周面に設けられた軸受保持部11bとの間に、軸方向他側(図1の右側)の転がり軸受ユニット8bが設けられる。
【0018】
この様な転がり軸受ユニット8a、8bは、それぞれ1対ずつの転がり軸受12a、12bと潤滑装置13a、13bとを組み合わせて成る。図示の例の場合、転がり軸受12a、12bを、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承可能なアンギュラ型の玉軸受としている。但し、各転がり軸受12a、12bを、深溝型の玉軸受や円筒ころ軸受、円すいころ軸受とすることもできる。転がり軸受ユニット8a、8bを構成する転がり軸受は、それぞれ1個ずつ、或いは3個以上ずつとすることもできるし、これら転がり軸受ユニット8a、8b同士の間で数を異ならせることもできる。具体的には、例えば軸方向片側の転がり軸受ユニット8aを構成する転がり軸受の数を、軸方向他側の転がり軸受ユニット8bを構成する転がり軸受の数よりも多くすることもできる。
【0019】
各潤滑装置13a、13bは、各転がり軸受12a、12bにグリース等の潤滑油を供給したり、オイルミストやオイルエアを噴射して、これら各転がり軸受12a、12bを潤滑すると共にこれら各転がり軸受12a、12bを冷却したりする。各潤滑装置13a、13bは、これら各転がり軸受12a、12bと軸方向に隣接する状態で設けられる。各潤滑装置13a、13bは、主軸3に外嵌固定した内径側間座14a、14bと、軸受保持部11a、11bに内嵌固定した外径側間座15a、15bとを備える。この様な潤滑装置13a、13bとしては、例えば特許文献3に記載された構造等、各種構造のものを使用できる。この様な潤滑装置13a、13bを省略することもできる。
【0020】
本例の場合、軸方向片側の転がり軸受ユニット8aにおける、最も軸方向他側に存在する潤滑装置13aの内径側間座14aの軸方向他端面を、大径部9の軸方向他端部に設けた外向鍔部16の軸方向片側面に突き当てている。同様に外径側間座15aの軸方向他端面を、軸受保持部11aの奥端面に突き当てている。軸方向他側の転がり軸受ユニット8bにおける、最も軸方向片側に存在する潤滑装置13bの内径側間座14bの軸方向片端面を、小径部10の軸方向片端部に存在する段差面17に突き当てている。同様に外径側間座15bの先端面を、軸受保持部11bの奥端面に突き当てている。これにより、ハウジング2に対する主軸3の軸方向の位置決めを図っている。
【0021】
本例の場合、軸方向片側の転がり軸受ユニット8aのサイズ(内径及び軸方向幅)を、軸方向他側の転がり軸受ユニット8bのサイズよりも大きくして、軸方向片側の転がり軸受ユニット8aの負荷容量を、この軸方向他側の転がり軸受ユニット8bの負荷容量よりも大きくしている。これにより、工作機械の使用時に、工具から主軸3に加わる荷重を支承可能としている。
【0022】
ハウジング2の軸方向片端部には、略円輪状の塞ぎ板18が支持固定される。主軸3の軸方向片端寄り部分における転がり軸受ユニット8aを外嵌固定した部分には、転がり軸受ユニット8aの軸方向片側に隣接する部材が設けられる。塞ぎ板18の内周面は、この部材の外周面に、環状隙間を介して近接対向される。塞ぎ板18の軸方向他側面の内径寄り部分は、転がり軸受ユニット8aにおける最も軸方向片側に存在する転がり軸受12aの、内輪及び外輪の軸方向片端面に当接乃至近接対向される。これにより、転がり軸受ユニット8aの内部への、加工油や切削屑、摩耗粉等の異物の侵入を防止する。
【0023】
電動モータ4は、主軸3の軸方向中間部における外周面に支持固定されたロータ19の外周面に、ハウジング2内に支持されたステータ20の内周面を対向させて構成している。即ち、電動モータ4を、所謂ビルトインモータとしている。スピンドル装置1、又はこれを組み込んだ工作機械の運転時には、ステータ20に通電することにより、主軸3が高速で(例えば20000[min−1]以上の速度で)回転する。
【0024】
特に、本例の場合、主軸3の軸方向中間部における、転がり軸受ユニット8aを外嵌した部分である大径部9と、ロータ19を支持固定した部分との間部分の円周方向複数箇所、例えば円周方向等間隔8箇所に、外周面と内周面とを連通する径方向通気孔21、21を、それぞれ放射状に設けている。
【0025】
主軸3の軸方向片端部乃至中間部の円周方向複数箇所、例えば円周方向等間隔8箇所に、主軸3の軸方向片端面と各径方向通気孔21、21の内周面とを連通する軸方向通気孔22、22を、それぞれ設けている。更に、主軸3の軸方向片端寄り部分である大径部9における、転がり軸受ユニット8aを外嵌した部分よりも軸方向片側に位置する部分、即ち、軸方向片側に突出する部分の円周方向複数箇所に、主軸3の外周面と各軸方向通気孔22、22の内周面とを連通する排出孔23、23を、それぞれ設けている。周方向複数箇所とは、例えば円周方向等間隔8箇所とされる。
【0026】
この様な排出孔23、23の外径側開口部は、塞ぎ板18の内周面と主軸3の外周面との間に存在する環状隙間の軸方向片側開口部よりも径方向内方に位置させている。本例の場合、各径方向通気孔21、21と、各軸方向通気孔22、22と、各排出孔23、23とを、主軸3の円周方向に関して同位相となる状態で形成している。本例の場合、各径方向通気孔21、21の内径と各軸方向通気孔22、22の内径とを互いに等しくし、各排出孔23、23の内径を、これら各軸方向通気孔22、22の内径、及び前記各径方向通気孔21、21の内径よりも小さくしている。
【0027】
主軸3の軸方向中間部における、軸方向片側の転がり軸受ユニット8aを外嵌した部分と、ロータ19を支持固定した部分との間部分の外周面に、金属製のスリーブ24を外嵌固定している。本例の場合には、このスリーブ24を主軸3の外周面に、締り嵌め(焼き嵌めや冷やし嵌め等を含む)により外嵌固定した後で、スリーブ24の外周面に、このスリーブ24の外周面と主軸3との同心性を向上する為の研削加工等の仕上加工を施している。
【0028】
このスリーブ24を主軸に外嵌固定することで、径方向通気孔21の外径側開口部が塞がれる。また、スリーブ24の代わりに盲栓等の他の部材を用いて塞いでもよい。更に、径方向通気孔21を転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットが配置される軸方向位置に形成すれば、径方向通気孔21の外径側開口部を、転がり軸受若しくは転がり軸受ユニットの内周面で塞ぐことができる。その場合、部品点数を削減できる。
【0029】
上述のスピンドル装置1、又はこれを組み込んだ工作機械の使用時、即ち主軸3の回転時には、ハウジング2の蓋体25に支持固定され、先端部を貫通孔6の軸方向他側開口部に差し込んだ噴出ノズル26から、この貫通孔6内に、圧縮空気である冷却気体を送り込む。この貫通孔6の軸方向片側開口部は、主軸3の軸方向片端部に取り付けた工具により塞がれている。この為、貫通孔6内に送り込まれた冷却気体は、各径方向通気孔21、21を介して各軸方向通気孔22、22内に送り込まれ、更に、各排出孔23、23から排出される。
【0030】
本例のスピンドル装置1によれば、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる。
即ち、本例の場合、スピンドル装置1の使用時に、貫通孔6内に送り込まれた冷却気体は、この貫通孔6内を流通し、各径方向通気孔21、21を介して各軸方向通気孔22、22内に送り込まれ、これら各軸方向通気孔22、22内を流通する。従って、主軸3の、電動モータ4を構成するロータ19を支持固定した軸方向中間部、及び、転がり軸受ユニット8aを外嵌した軸方向片端寄り部分を冷却できる。
【0031】
特に本例の場合には、各軸方向通気孔22、22を、主軸3の軸方向片端部乃至中間部の円周方向複数箇所に設けている為、この主軸3の、転がり軸受ユニット8aを外嵌した軸方向片端寄り部分の冷却を効率良く行える。
【0032】
ここで、図3は、スピンドル装置の運転開始直後の、温度上昇に伴う熱膨張による主軸の変形量を示している。図3中、太い実線αは、本例のスピンドル装置1を構成する主軸3の変形量の変化を、細い実線βは、軸方向通気孔を設けていない場合の主軸の変形量の変化を、それぞれ示している。
【0033】
図3から明らかな通り、本例のスピンドル装置1によれば、温度上昇に伴う熱膨張による主軸3の変形、即ち、軸方向に関する変形を小さく抑えられる。従って、例えばスピンドル装置1を組み込んだ工作機械による加工精度を安定させることができる。又、主軸3の変形が安定するまでに要する時間を短く抑えられる為、工作機械を暖機運転させる時間を短く抑えられる。
【0034】
本例の場合、各径方向通気孔21、21と各軸方向通気孔22、22とを、それぞれ円周方向複数箇所に設けている為、貫通孔6の断面積と、各径方向通気孔21、21の断面積の総和と、各軸方向通気孔22、22の断面積の総和とを、ほぼ同じにできる。即ち、冷却気体の流路の途中に、断面積が過度に小さくなる部分がない。従って、この冷却気体の流量を十分確保でき、この面からも主軸3の冷却を効果的に行える。
【0035】
更に、この主軸3の軸方向片端寄り部分に外嵌した、軸方向片側の転がり軸受ユニット8aを構成する転がり軸受12a、12aの内輪の冷却も行うことができ、この転がり軸受ユニット8aの長寿命化を図れる。
【0036】
本例の場合、貫通孔6を、主軸3を軸方向に貫通する状態で設けている。これと共に、各径方向通気孔21、21を、主軸3の外周面と内周面とを連通する状態で設け、各軸方向通気孔22、22を、この主軸3の軸方向片端面と各軸方向通気孔22、22の内周面とを連通する状態で設けている。この為、冷却気体を流通させる流路を形成する為の加工を容易に行えて、スピンドル装置1の製造コストを低減できる。
【0037】
冷却気体は転がり軸受等の内部を通過しない為、この冷却気体をオイルミストやオイルエアとする必要がなく、例えば圧縮空気でよい。従って、スピンドル装置1の運転コストの増大を抑えられる。
【0038】
主軸の内部に冷却水等の冷却流体を流通させる場合の様に、この主軸とハウジングとの間にロータリージョイントを設ける必要がない。この為、主軸3の回転数(回転速度)を極めて高速にできる。即ち、一般的な工作機械のスピンドル装置に組み込まれるロータリージョイントの許容回転速度が50000[min−1]程度であるのに対し、本例のスピンドル装置1の場合には、ロータリージョイントを設けていない為、主軸3の許容回転速度を300000[min−1]程度まで大きくできる。
【0039】
本例の場合、スリーブ24を主軸3の外周面に外嵌固定した後で、このスリーブ24の外周面に仕上加工を施している。この為、これら主軸3とスリーブ24との同心性を良好にでき、主軸3の回転時の振れ回りを抑えて、主軸3の回転安定性を良好にできる。
【0040】
更に、本例の場合には、各排出孔23、23の外径側開口部を、塞ぎ板18の内周面と主軸3の外周面との間の環状隙間の軸方向片側開口部よりも径方向内方に位置させている。この為、各排出孔23、23から排出される冷却気体により、環状隙間の軸方向片側開口部の周辺部に存在する、加工油や切削屑、摩耗粉等の異物を吹き飛ばすことができる。即ち、エアシール効果を発揮できる。特に本例の場合、各排出孔23、23の内径を、各軸方向通気孔22、22の内径よりも小さくしている為、これら各排出孔23、23から排出される冷却気体の勢いを増大させて、エアシール効果の向上を図れる。
【0041】
本例の場合、主軸3を回転駆動する為の電動モータ4を構成するロータ19を、この主軸3の軸方向中間部に支持固定した、所謂ビルトインモータとしている。この為、スピンドル装置1の軸方向寸法を短縮し易く、スピンドル装置1の小型・軽量化を図り易い。
【0042】
上述した本例のスピンドル装置1を実施する場合に、各径方向通気孔21、21及び各軸方向通気孔22、22、並びに、各排出孔23、23の数及び内径は、適宜変更できる。即ち、主軸3の回転を安定させる面からは、内径を小さくして、数を増やすことが有効であるが、冷却気体の流量を確保することが難しくなる。従って、各孔21〜23の数及び内径は、主軸3の回転安定性と、必要となる冷却気体の流量とに応じて、設計的に定める。
【0043】
例えば、冷却気体の流量を500L/minとした場合、貫通孔6、径方向通気孔21、軸方向通気孔22、排出孔23は、次に示す内径で構成できる。
【0044】
貫通孔の内径 : φ22.5mm
ロータ挿入部における主軸の外径: φ45mm
径方向通気孔の内径 : φ6mm
軸方向通気孔の内径 : φ6mm
排出孔の内径 : φ4〜5mm
【0045】
上記例のスピンドル装置は、貫通孔6の断面積よりも各径方向通気孔21、21の断面積の総和、及び各軸方向通気孔22、22の断面積の総和が小さく設定される。そして、排出孔23、23の断面積の総和は、上記の各断面積の総和より更に小さく設定される。
【0046】
つまり、貫通孔6、各径方向通気孔21と各軸方向通気孔22、排出孔23の順で通気路の断面積が小さく、通気路の下流側に行くほど、通気路の断面積が小さくなる。
【0047】
この構成によれば、通気路の下流側ほど断面積が減少するので、冷却気体の速度は通気路の下流側ほど増加する。つまり、冷却気体の速度は、貫通孔6<径方向通気孔21、軸方向通気孔22<排出孔23の速度分布となる。その結果、排出孔23からのエア噴出速度が高く維持され、転がり軸受12aが発生する熱を冷却気体により効率よく持ち去ることができ、また、排出孔23から高速で冷却気体が噴出されることで、ゴミや異物がスピンドル装置内部に侵入するのを防止できる。そして、冷却気体の流量を500L/min以上とすることで、排出孔23から研削液を吹き飛ばし、スピンドル装置内部への研削液の侵入を防ぐことができる。
【0048】
また、貫通孔6から径方向通気孔21と軸方向通気孔22への冷却気体の分配を平均化でき、主軸3の転がり軸受ユニット8aを外嵌した軸方向片端寄り部分をムラ無く冷却することができる。
【0049】
本出願は2015年2月16日出願の日本国特許出願(特願2015−27198)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 スピンドル装置
2 ハウジング
3 主軸
4 電動モータ
6 貫通孔
8a、8b 転がり軸受ユニット
11a、11b 軸受保持部
12a、12b 転がり軸受
13a、13b 潤滑装置
18 塞ぎ板
19 ロータ
20 ステータ
21 径方向通気孔
22 軸方向通気孔
23 排出孔
24 スリーブ
図1
図2
図3