特許第6206628号(P6206628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6206628
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】チタン材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 3/00 20060101AFI20170925BHJP
   B21B 1/02 20060101ALI20170925BHJP
   C22B 34/12 20060101ALI20170925BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B21B3/00 K
   B21B1/02 D
   C22B34/12 103
   C22F1/18 H
【請求項の数】3
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-535118(P2017-535118)
(86)(22)【出願日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2017009619
【審査請求日】2017年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-48341(P2016-48341)
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうちチタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】北浦 知之
(72)【発明者】
【氏名】白井 善久
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5564064(US,A)
【文献】 特開平02−187282(JP,A)
【文献】 特開2015−045040(JP,A)
【文献】 クロール法によるスポンジチタン中の塩素分離除去プロセスの解析,新日鉄技報,日本,2001年11月,第375号,P.33-37,ISSN:09167609
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
C22B 34/00−34/36
C22F 1/00− 3/02
CiNii
JSTPlus/
JST7580/
JSTChina/(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層部と表層部とを有するチタン材であって、
前記表層部の化学組成が、質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
前記内層部の化学組成が、質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020超、0.60%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
前記内層部は空隙を有し、
前記チタン材の長手方向に垂直な断面において、前記内層部の前記空隙の面積率が、0%を超えて30%以下であり、
下記(i)式を満足する、
チタン材。
Cl≦0.03+0.02×t/t ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は以下のとおりである。
Cl:内層部のCl含有量(質量%)
:表層部の厚さ
:内層部の厚さ
【請求項2】
請求項1に記載のチタン材を製造する方法であって、
質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物である化学組成を有するチタン筐体を作製する工程と、
前記チタン筐体の内部に、
質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020超、0.60%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物である化学組成を有するスポンジチタンおよび該スポンジチタンを圧縮したブリケットから選択される1種以上を充填する工程と、
前記チタン筐体の内部の真空度を10Pa以下にした後、該内部の真空度が維持されるように周囲を密閉し、チタン梱包体とする工程と、
前記チタン梱包体に対して、熱間加工を行う工程と、を備える、
チタン材の製造方法。
【請求項3】
前記熱間加工を行う工程の後に、さらに冷間加工および焼鈍を行う工程を備える、
請求項2に記載のチタン材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン材は、軽量で耐食性に優れるという特徴を活かして、プラント用の海水冷却復水器、熱交換器、反応器、冷却器等などに利用されている。また、チタン材は、高い比強度を有するため、軽量化による燃費性向上を目的として、自動車、または航空機等の輸送機関に使用される構造用材料への適用が期待されている。
【0003】
さらに近年では、高比強度・高耐食性を活かしてメンテナンスフリーな建築材料としての価値が高まりつつある。例えば、その一例として、耐震性向上のための屋根材、および海水に対する被覆防食用のカバー材等への適用例がある。
【0004】
このように、様々な分野において、チタン材の適用が進んでいるが、他の鋼材などと比較すると、チタン材は非常に高価な素材である。このため、チタン材の適応用途を拡大するためには、製造コストを低減することが必要である。
【0005】
チタン材の製造コストが高い原因は、その製造方法にある。チタン材は、通常、以下のように製造される。原料である酸化チタンを塩素化して四塩化チタンとした後、マグネシウム(クロール法)、またはナトリウムで還元後(ハンター法)、真空分離工程を経て、塊状でスポンジ状の金属チタン(スポンジチタン)が製造される。
【0006】
このスポンジチタンをプレス成形してチタン消耗電極とし、チタン消耗電極を電極として真空アーク溶解してチタン鋳塊を製造する。近年では、水冷式銅ハース内でプラズマ、または電子ビームによりスポンジチタンを溶解し、水冷式の銅鋳型から、連続的に引き抜くことによりチタン鋳塊を製造する方法も用いられている。
【0007】
これらの方法により製造されたチタン鋳塊は、分塊、鍛造、および圧延されてチタンスラブ(形状等により、いわゆるブルームおよびビレットを含む。以下、同様。)とされる。さらに、このチタンスラブを熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷間圧延、および真空熱処理することにより、JIS H4600(チタン及びチタン合金−板及び条)に規定された1種、2種、3種および4種などのチタン材が製造される。
【0008】
これらの製造工程のうち、スポンジチタン、およびチタン鋳塊の製造工程は、非連続的なバッチ式の工程であるため、製造コストが上昇する。このため、チタンの製造コストを低減するために、溶解工程を経ないで、スポンジチタンから直接チタンを製造する技術が開示されている。
【0009】
特許文献1には、直方体形状に成形された多孔質チタン原料(スポンジチタン)の表面を、真空下で電子ビームを用いて溶解して表層部を稠密なチタンとしたチタン鋳塊(チタンスラブに相当)を製造する方法が開示されている。そして、このチタン鋳塊に熱間圧延および冷間圧延を行うことにより、チタン材を製造する。特許文献1で開示された方法では、多孔質チタン原料が、スラブ状に成形された多孔質部と、稠密なチタンにより構成されて多孔質部を被覆する稠密被覆部と、を有する稠密なチタン鋳塊を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−045040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、スポンジチタンを完全に溶解せずに製造されるチタン材の内部には、塩化マグネシウム(以後、MgClと記載する。)が不可避的に残存する。チタン材の機械的特性への悪影響を考慮すると、MgClの残存量は少ないほうが好ましい。一方、チタン材の内部に残存するMgCl含有量を低下させるためには、原料であるスポンジチタンの純度を上げる必要があり、コストの増加を招くおそれがある。
【0012】
特許文献1では、電子ビームをスポンジチタンに照射することによって、MgClを揮発除去することができるとされている。しかしながら、内部に熱が伝達されるまで電子ビームを照射する必要が生じるため、製造コストの上昇は免れない。
【0013】
また、特許文献1では、内部のMgClを揮発除去しているため、チタン材中に残存するMgClがチタン材の機械的特性に与える影響については一切検討がなされていない。
【0014】
さらに、特許文献1に開示されるチタン鋳塊では、電子ビームにより表面のみを溶解することで稠密被覆部を形成している。しかし、多孔質で形状が揃っていないスポンジチタンを均一に一定の厚さで溶解させることは困難であり、溶解凝固した稠密被覆部の厚さは不均一となる。
【0015】
このようなチタン鋳塊に対し、熱間および冷間加工を行ってチタン材を製造しても、加工前の稠密被覆部に対応する表層部の厚さは均一でない。このため、チタンの表面性状が劣化することに加えて、引張特性、および曲げ性等の機械的特性が安定しないという問題がある。また、チタンスラブの稠密被覆部の厚さが小さい場合は、熱間加工、または冷間加工する際に、表層部が割れたり、くびれてシワ状の欠陥になったりするという課題もある。なお、特許文献1にはチタンスラブではなくチタン鋳塊と記載されているが、分塊圧延の必要がない矩形の形状であり、以下、チタンスラブという。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、表面性状、および延性に優れ、かつ廉価なチタン材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下に列記のとおりである。
【0018】
(1)内層部と表層部とを有するチタン材であって、
前記表層部の化学組成が、質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
前記内層部の化学組成が、質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020超、0.60%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物であり、
前記内層部は空隙を有し、
前記チタン材の長手方向に垂直な断面において、前記内層部の前記空隙の面積率が、0%を超えて30%以下であり、
下記(i)式を満足する、
チタン材。
Cl≦0.03+0.02×t/t ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は以下のとおりである。
Cl:内層部のCl含有量(質量%)
:表層部の厚さ
:内層部の厚さ
【0019】
(2)上記(1)に記載のチタン材を製造する方法であって、
質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物である化学組成を有するチタン筐体を作製する工程と、
前記チタン筐体の内部に、
質量%で、
O:0.40%以下、
Fe:0.50%以下、
Cl:0.020超、0.60%以下、
N:0.050%以下、
C:0.080%以下、
H:0.013%以下、
残部:Tiおよび不純物である化学組成を有するスポンジチタンおよび該スポンジチタンを圧縮したブリケットから選択される1種以上を充填する工程と、
前記チタン筐体の内部の真空度を10Pa以下にした後、該内部の真空度が維持されるように周囲を密閉し、チタン梱包体とする工程と、
前記チタン梱包体に対して、熱間加工を行う工程と、を備える、
チタン材の製造方法。
【0020】
(3)前記熱間加工を行う工程の後に、さらに冷間加工および焼鈍を行う工程を備える、
上記(2)に記載のチタン材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面性状および延性に優れ、かつ廉価なチタン材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の構成を説明するための図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るチタン材の断面を観察した組織写真である。
図3図3は、本発明の他の実施形態に係るチタン材の構成を説明するための図である。
図4図4は、内層部における、チタン材の長手方向に垂直な断面を観察した組織写真である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係るチタン材の素材であるチタン梱包体の構成を説明するための図である。
図6図6は、チタン筐体の構成を説明するための図である。
図7図7は、表層部厚さ/内層部厚さの比と内層部の塩素濃度(質量%)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
従来のように、スポンジチタンを溶解することによりチタンスラブを得る場合、スポンジチタン内の塩素は溶解工程において揮発除去される。一方、スポンジチタン等を溶解せずに原料として用いた場合、溶解工程にて蒸発するはずのMgClが、チタン材中に残存する。原料として高品位のスポンジチタン等を用いれば、残存するMgClの量を小さくできるため、MgClによるチタンの機械的特性への悪影響を低減できる。しかしながら、製品としてのチタン材の製造コストが上昇するという問題が生じる。このため、製品としてのチタン材の機械的特性に悪影響を及ぼさない、MgCl含有量を見極めることができれば、原料として低品位の原料を選択することができる。
【0024】
本発明者らは、このような観点から鋭意検討を行なった。そして、溶解工程を経ずに、スポンジチタンから直接、熱間加工(必要に応じてさらに冷間加工)により製造され、目標とする機械的特性を具備する、チタン材の構成について検討した。
【0025】
まず、チタン材中に残存するMgClの量は、チタン中に塩素が殆ど固溶しないことから、構成元素であるCl含有量で規定することができる。これに基づき、本発明者らは、チタン材に含有されるCl含有量と、チタン材の機械的特性との関係を検討した。
【0026】
その結果、本発明者らはチタン材を内層部とそれに接合された表層部とを有する構造にするとともに、それぞれのCl含有量を規定し、さらに、内層部のCl含有量に応じて表層部および内層部それぞれの厚さを制御することで、製造コストを上昇させることなく機械的特性の劣化を防止できることを知見した。より具体的には、内層部のCl含有量が高いほど、表層部の厚さを厚くすることにより、混入するMgClに起因した、チタンの機械的特性の劣化を防止できることを知見した。
【0027】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。以下に本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
【0028】
1.チタン材1
1−1.全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係るチタン材の構成を説明するための図である。図1に示すように、チタン材1は、表層部2および内層部3を有する。本実施形態においては、内層部3の両面にそれぞれ表層部2が接合されている。また、図2は、チタン材の断面を観察した組織写真である。図2からも表層部2と内層部3とが明瞭に区別できることが分かる。さらに、表層部2の厚さはその変動が±15%以内で一定であり、表面性状に優れることが見て取れる。
【0029】
なお、図1および2に示す構成では、チタン材1は板材であるが、これに限定されず、例えば、丸棒材または線材であってもよい。図3は、本発明の他の実施形態に係るチタン材の構成を説明するための図である。図3に示すように、チタン材1が丸棒材または線材である場合には、円柱状の内層部3の全周を表層部2が覆うように接合される構成となる。
【0030】
1−2.表層部2
表層部2の化学成分は、Clを除き、JIS H4600の4種の規定どおりとする。その具体的な化学成分は、O:0.40%以下、Fe:0.50%以下、Cl:0.020%以下、N:0.050%以下、C:0.080%以下、およびH:0.013%以下とする。特に、表層部2におけるCl含有量を0.020%以下に制限することによって、チタン材1としての延性を向上させることが可能になる。
【0031】
Oは、0.30%以下、0.10%以下、0.050%以下、0.010%以下、または0.0060%以下としてもよい。Feは、0.30%以下、0.20%以下、0.10%以下、0.070%以下、または0.050%以下としてもよい。Clは、0.018%以下、0.015%以下、0.012%以下、または0.009%以下としてもよい。Nは、0.040%以下、0.030%以下、0.010%以下、0.005%以下または0.001%以下としてもよい。Cは、0.040%以下、0.020%以下、0.010%以下、0.007%以下、0.005%以下、または0.002%以下としてもよい。Hは、0.010%以下、0.005%以下、0.003%以下、または0.002%以下としてもよい。これらの下限を特に定める必要はなく、それらの下限は0%である。
【0032】
表層部2の化学組成において、残部はTiおよび不純物である。不純物元素としては、主に、後述する表層梱包材5の原料となるスポンジチタンまたはスクラップから混入する、Sn、Mo、V、Mn、Nb、Mg、Si、Cu、Co、Pd、Ru、Ta、Y、La、Ce等が例示される。これらの不純物元素の含有量についての規定は、JIS H4600にはないが、可能な限り低減することが好ましい。しかし、上述したO、N、C、FeおよびHと合わせた合計含有量が5%以下であれば、これらの不純物を含有することは本発明が目標とする機械的特性を阻害しない。必要に応じて、その合計含有量を1%以下、0.50%以下、または0.20%以下、または0.10%以下としてもよい。さらには、不純物元素の含有量の合計を、2%以下、1%以下、0.50%以下、0.20%以下、または0.10%以下としてもよい。
【0033】
なお、ここでいう目標とする機械的特性とは、チタン材1の加工方向に平行な向きに引張試験をした際の全伸びが20%以上であることを意味する。
【0034】
表層部2は、チタン板等が圧延されて形成されるため、基本的に空隙がない。すなわち、表層部2の空隙の面積率(以下、単に空隙率ともいい、その定義および測定方法等は後述する)は0%である。表層部2の空隙率は、0.10%未満、0.050%未満、または0.010%未満としてもよい。
【0035】
1−3.内層部3
内層部3は、Clを除き、JIS H4600の4種の規定どおりとする。その具体的な化学成分は、O:0.40%以下、Fe:0.50%以下、およびCl:0.020%超、0.60%以下、N:0.050%以下、C:0.080%以下、およびH:0.013%以下とする。
【0036】
上述のように、本発明においては、廉価なチタン材1を得るため、内層部3にはチタンが低純度の原料を用いることが好ましい。チタンが高純度の原料は、その製造過程においてCl含有量が小さくなる。換言すると、Cl含有量が小さい原料は、チタンが高純度となり高価となる。このため、内層部3のCl含有量を0.020%以下とすることは、高純度の原料を用いる必要が生じ、製造コストが上昇するため好ましくない。一方、内層部3のCl含有量が0.60%を超えると、表層部2のCl含有量を低減したとしても、チタン材1の引張特性および曲げ性が著しく劣化する。
【0037】
Oは、0.15%以下、0.10%以下、0.050%以下、0.010%以下、または0.006%以下としてもよい。Feは、0.30%以下、0.20%以下、0.10%以下、0.070%以下、または0.050%以下としてもよい。Clの下限は、0.025%、0.030%、0.040%、または0.050%としてもよく、Clの上限は、0.15%、0.35%、または0.55%としてもよい。Nは、0.040%以下、0.030%以下、0.010%以下、0.005%以下、または0.001%以下としてもよい。Cは、0.040%以下、0.020%以下、0.010%以下、0.007%以下、0.005%以下、または0.002%以下としてもよい。Hは、0.010%以下、0.005%以下、0.003%以下、または0.002%以下としてもよい。これらの下限を特に定める必要はなく、それらの下限は0%である。
【0038】
内層部3の化学組成において、残部はTiおよび不純物である。不純物元素としては、主に、スポンジチタンから混入する不純物元素として、Sn、Mo、V、Mn、Nb、Mg、Si、Cu、Co、Pd、Ru、Ta、Y、La、Ce等が例示される。特に、MgはMgClとして混入する。これらの不純物元素の含有量についての規定は、JIS H 4600にはないが、可能な限り低減することが好ましい。しかし、上述したO、N、C、FeおよびHと合わせた合計含有量が5%以下であれば、これらの不純物を含有することは本発明が目標とする機械的特性を阻害しない。必要に応じて、その合計含有量を1%以下、0.5%以下、または0.2%以下、または0.1%以下としてもよい。さらには、不純物元素の含有量の合計を、2%以下、1%以下、0.50%以下、0.20%以下、または0.10%以下としてもよい。
【0039】
なお、本発明において、表層部2および内層部3の化学組成は以下の方法によって測定するものとする。
【0040】
表層部2および内層部3の成分分析は、公知の方法(例えば、JIS H 1612(1993)、JIS H 1614(1995)、JIS H 1615(1997)、JIS H 1617(1995)、JIS H 1619(2012)、JIS H 1620(1995))により求める。なお、この際、チタン材1から表層部2および内層部3をそれぞれ切り出してから測定を行う。表層部2は切削等で加工して得た切粉等から、内層部3は表層削除後の残材から分析したほうが、効率的である。表層部1または内層部3の厚さが薄く十分な量の切粉を得られない場合には、チタン材1の全体の成分分析を行いその分析値と、表層部1または内層部3のいずれかの分析値と、それぞれの板厚から、表層の成分を算出(逆算)してもよい。また、EPMA等により、表層部1または内層部3の成分分析を行うことも妨げない
【0041】
図4は、内層部3における、チタン材1の長手方向に垂直な断面を観察した組織写真である。図4から分かるように、内層部3は空隙を有する。この空隙は製造過程で不可避的に含まれるものである。空隙を完全に消滅させるためには大圧下での加工が必要となり、チタン材1の形状および寸法を制限することに加えて、製造コストの高騰の要因となる。一方、空隙を有することによって、内層部3の密度が低くなるため、チタン材1の軽量化が期待できる。
【0042】
内層部3の空隙の割合が過剰になるとチタン材1の機械的特性が低下する。機械的特性の低下を避けるため、チタン材1の長手方向に垂直な断面における、内層部3中の空隙の面積率を、0%を超えて30%以下とする。上述のように、本願明細書においては、チタン材1の長手方向に垂直な断面において観察される空隙の面積率を、空隙率ともいう。上記空隙率は、10%以下、5%以下、2%以下、1%以下、または0.5%以下としてもよい。
【0043】
内層部3の空隙率は、用途に応じて選択することが可能であり、チタン材1としての機械的特性が重要な場合には低くし、一方、軽量化を優先する場合には高くすればよい。特に、チタン材1の機械的特性を重視する場合には、空隙率は、5%以下であるのがより好ましく、3%以下であるのがさらに好ましく、1%以下であるのが特に好ましい。空隙率の下限は、0%超であるが、必要に応じて、0.01%、0.05%、または0.1%としてもよい。
【0044】
ここで、空隙率pは、内層部の面積に対する内層部中に存在する空隙の面積の割合を意味し、以下のように定義される。
p(%)=内層部中に存在する空隙の面積/内層部の面積 × 100
【0045】
また、空隙率pは以下の手順により求める。まず、チタン材1から観察用試料を切り出す。チタン材1が厚肉の場合はその内層部3の板厚中心部から観察用試料を切り出す。そして、チタン材1の長手方向に垂直な断面が観察面となるように、切り出された観察用試料を樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いてバフ研磨して鏡面化仕上げする。そして、チタン材1の板厚中心部の鏡面化仕上げした観察面を光学顕微鏡で写真を撮影する。
【0046】
撮影した光学顕微鏡写真に含まれる空隙の面積を測定し、それを撮影視野全体の面積で除することで、空隙率を求める。この際、光学顕微鏡による撮影は、観察面積が合計で0.3mm以上(倍率500倍の光学顕微鏡写真で20視野以上)になるように行い、それらの平均値を採用することとする。観察に用いる顕微鏡は、通常の光学顕微鏡でも問題ないが、偏光観察が可能な微分干渉顕微鏡を用いることでより明瞭に観察できるため、使用することが望ましい。
【0047】
1−4.表層部2および内層部3の厚さ
本発明においては、内層部3のCl含有量が高いほど、内層部3の厚さに対する表層部2の厚さの割合を大きくすることにより、MgClに起因した、チタン材1全体での機械的特性の劣化を防止する。
【0048】
具体的には、下記(i)式を満足するように、表層部2および内層部3の厚さ、ならびに内層部3のCl含有量を制御する。
Cl≦0.03+0.02×t/t ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各記号の意味は以下のとおりである。
Cl:内層部のCl含有量(質量%)
:表層部の厚さ
:内層部の厚さ
【0049】
なお、本実施形態において、表層部2の厚さとは、図1の2−1または2−2で示される部分の厚さである。2つの表層部2のうちの厚さが異なる場合には、薄い方つまりより小さい厚さとする。チタン材1が丸棒材または線材である場合には、表層部2の厚さとは、図3の2で示される部分の厚さである。
【0050】
表層部2および内層部3では、それぞれのミクロ組織および結晶粒径が異なる。そのため、図2に示すように、チタン材の圧延方向に垂直な断面を研磨してエッチングすることにより、表層部2と内層部3との境界を明瞭に判別することができる。そして、チタン材の断面を観察した組織写真から、チタン材1の表層部2および内層部3の厚さをそれぞれ測定する。例えば、表層部2および内層部3のそれぞれについて、任意の位置(例えば5か所)の厚さを測定し、その平均を表層部2および内層部3のそれぞれの厚さとする。なお、チタン材1が丸棒材または線材である場合には、図3に示す内層部3の直径を内層部3の厚さとする。
【0051】
また、含有されているCl量に応じてMgClが分布しており、このMgClの有無を基準にして表層部2と内層部3とを区別してもよい。本発明では、内層部はCl含有量が0.020%超、0.60%以下、表層部はCl含有量が0.020%以下とし、内層部のCl含有量の方が、表層部のCl含有量より高い。このため、Cl濃度の違いからも内層部と表層部を判別することができる。具体的な手段としては、内層部と表層部におけるClの濃度差は、図4のような断面を鏡面研磨した後、EPMAの測定によるClの元素分布状態を観察することでも明らかになる。
【0052】
表層部2の厚さは、上記(i)を満足しながら、0.01〜35mmであることが好ましい。表層部2の厚さが0.01mmより小さくなると、チタン材1を製造する際に表層部2が薄くなりすぎて破断して、内層部が表面に露出する可能性がある。表層部2の厚さの下限は、0.05mm、0.10mm、0.15mm、または、0.20mmとしてもよい。表層部2の厚さの上限は、チタン材1の厚さと内層部の下限の厚さから決まる。表層部2の厚さの上限は、0.30mm、0.50mm、1.0mm、3.0mm、10mm、または、20mmとしてもよい。
【0053】
内層部3の厚さは、上記(i)を満足しながら、0.01〜90mmであることが好ましい。内層部3の厚さが0.01mmより小さくなると、Clの高いスポンジチタンを有効に使用できる量が少なくなり、本発明の効果が得られにくい。内層部3の厚さの下限は、0.05mm、0.10mm、0.20mm、0.50mm、または、0.70mmとしてもよい。内層部3の厚さの上限は、チタン材1の厚さと表層部の下限の厚さから決まる。内層部3の厚さの上限は、0.90mm、1.2mm、1.5mm、2.0mm、5.0mm、10mm、20mm、または、50mmとしてもよい。
【0054】
チタン材1の厚さは、上記(i)を満足しながら、0.03mm以上である。チタン材1の厚さは、0.10mm以上、0.30mm以上、または0.50mm以上としてもよい。また、チタン材1の厚さは、上記(i)を満足すれば20mm以下、50mm以下、または100mm以下でもよい。ただし、コストを考慮すると、チタン材1の厚さは、上記(i)を満足しながら、15mm以下であることが好ましい。チタン材1の厚さは、10mm以下、5.0mm以下、4.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、または、1.2mm以下としてもよい。
【0055】
2.チタン梱包体4
2−1.全体構成
図5は、本発明の一実施形態に係るチタン材1の素材であるチタン梱包体4の構成を説明するための図である。図5に示すように、チタン梱包体4は、表層梱包材5で構成されたチタン筐体の内部に、スポンジチタン、またはスポンジチタンを圧縮して得られたブリケットからなるチタン塊6が満たされた構造を有する。
【0056】
図6は、チタン筐体の構成を説明するための図である。図6に示す例においては、5枚の板状の表層梱包材5を用いて箱型に組み立て、上面のみが開口した状態としている。なお、上面は図示していない別の板状の表層梱包材5によって封止することができる。以下の説明においては、図6に示される梱包材5が組み立てられた状態のものをチタン筐体と呼ぶ。そして、チタン塊6はチタン筐体を構成する表層梱包材5によって周囲を完全に覆われた状態となっている。上記の例では、チタン筐体は箱型であるが、形状は制限されず、管状であってもよいし、板材と管材とが組み合わされた形状であってもよい。
【0057】
後述するように、チタン梱包体4に対して熱間加工など(例えば、熱間圧延または冷間圧延など)を行うことにより、チタン材1が得られる。すなわち、チタン梱包体4の表層梱包材5およびチタン塊6が、それぞれ、熱間加工後のチタン材1の表層部2および内層部3に対応する。なお、本発明においては、チタン筐体の内部に満たされた状態のスポンジチタンおよびブリケットを総称してチタン塊6という。
【0058】
また、熱間加工時の高温加熱および保持中に、チタン塊6が酸化・窒化するのを防止するために、チタン梱包体4の内部の真空度(絶対圧)を10Pa以下とする。内部の真空度は1Pa以下であるのが好ましい。内部の圧力の下限は特に定めるものではない。しかしながら、真空度を極端に小さくすると、装置の気密性の向上、または真空排気装置の増強など製造コストの上昇に繋がる。このため、真空度は、1×10−3Pa以上とすることが好ましい。なお、表層梱包材5の内部の真空度とは、表層梱包材5で囲まれる領域のうち、チタン塊6を除く領域(空隙ともいう)の真空度を示す。
【0059】
図5に示す構成では、チタン梱包体4は、板材であるチタン材1の素材とするため、熱間加工が施される方向(圧延方向)に垂直な断面が四角形状となっている。しかし、これに限定されず、丸棒材または線材であるチタン材1の素材とする場合には、チタン梱包体4の圧延方向に垂直な断面は円形状または多角形状としてもよい。
【0060】
2−2.表層梱包材5
表層梱包材5の化学成分は、前記1−2で記載したチタン材1の表層部2の化学成分と同じとする。表層梱包材5には、JIS H4600の1種、2種、3種または4種のチタンを用いることができる。
【0061】
表層梱包材5として用いるチタン材の形状は、チタン梱包体4の形状に依存する。このため、表層梱包材5は、特に定形はなく、例えば、板材、または管材である。ただし、チタン梱包体4の熱間加工性および冷間加工性を確保するとともに、チタン材1に優れた表面性状および延性、さらには曲げ性を具備させるためには、表層梱包材5に利用される板材の厚さまたは管材の肉厚を調整する必要がある。以下、表層梱包材5に利用される板材の厚さまたは管材の肉厚を、単に、「表層梱包材5の厚さ」という。
【0062】
表層梱包材5の厚さが0.5mm未満と薄い場合には、塑性変形に伴って熱間加工の途中で表層梱包材5が破断して真空が破れ、内部のチタン塊6の酸化を招く。また、チタン梱包体4の内部に満たされたスポンジチタンの起伏が表層梱包材5の表面に転写されて、熱間加工中にチタン梱包体4の表面で大きな表面起伏を生じる。これらの結果、製造されるチタン材1の表面性状、および延性などの機械的特性に悪影響を及ぼす。
【0063】
また、表層梱包材5が過度に薄くなると内部に満たされたスポンジチタンの重量を支え切れなくなる。その結果、室温、熱間保持、または加工中にチタン梱包体4の剛性が不足し、変形が生じる。したがって、表層梱包材5の厚さは、0.5mm以上とする。表層梱包材5の厚さは、1.0mm以上であるのが好ましく、2.0mm以上であるのがより好ましい。また、梱包材は溶接により組み立てて、チタン筐体またはチタン梱包体とする。溶接部の強度を確保するために、その厚さは70mm以下とする。表層梱包材5の厚さは、30mm以下、10mm以下、または5.0mm以下としてもよい。
【0064】
なお、表層梱包材5の厚さが過剰であると、製造上の問題はないものの、コストの低減効果が得られにくくなる。そのため、表層梱包材5の厚さは、チタン梱包体4の全厚さの40%以下または20%以下とすることが好ましい。
【0065】
2−3.チタン塊6
チタン塊6の化学成分は、前記1−3で記載したチタン材1内層部3の化学成分と同じとする。チタン塊6には、Clを除き、JIS H4600の1種、2種、3種または4種として定められた成分範囲のチタン塊を用いることができる。その具体的な化学成分は、O:0.40%以下、Fe:0.50%以下、およびCl:0.020%超、0.60%以下、N:0.050%以下、C:0.080%以下、およびH:0.013%以下とする。
【0066】
Oは、0.15%以下、0.10%以下、0.050%以下、0.010%以下、または0.006%以下としてもよい。Feは、0.30%以下、0.20%以下、0.10%以下、0.070%以下、または0.050%以下としてもよい。Clの下限は、0.025%、0.030%、0.040%、または0.050%としてもよく、Clの上限は、0.15%、0.35%、または0.55%としてもよい。Nは、0.040%以下、0.030%以下、0.010%以下、0.005%以下、または0.001%以下としてもよい。Cは、0.040%以下、0.020%以下、0.010%以下、0.007%以下、0.005%以下、または0.002%以下としてもよい。Hは、0.010%以下、0.005%以下、0.003%以下、または0.002%以下としてもよい。
【0067】
これらの下限を特に定める必要はなく、それらの下限は0%である。化学組成を上記の範囲に制御することによって、熱間加工後の内層部3の化学組成を前述した範囲に調整することが可能となる。また、チタン塊6には、不純物として、Sn、Mo、V、Mn、Nb、Mg、Si、Cu、Co、Pd、Ru、Ta、Y、La、Ceに例示される元素が含まれてもよい。
【0068】
上述のように、本発明においては、廉価なチタン材1を製造するため、0.020%以上のClが含まれる低純度のチタン塊6を原料として用いる。一方、チタン塊6のCl含有量が0.60%を超えると、チタン梱包体4の熱間加工性および冷間加工性が低下し、製造されるチタン材1の表面性状および機械的性質が劣化する。
【0069】
なお、チタン塊6としては、a.スポンジチタン、b.スポンジチタンを圧縮して得られたブリケットから選択される1種以上を用いることができる。スポンジチタンは、従来のマグネシウムで還元されるクロール法等の製錬工程により製造された通常のスポンジチタンであり、例えば、JIS H2151の1種M、2種M、3種M、または4種Mに相当する化学組成を有するスポンジチタンを用いることができる。
【0070】
スポンジチタンは、一般的にはフレーク状の形状で、その製造過程により大きさが異なるが、平均粒径で数十mm程度である。本発明では、スポンジチタンの平均粒径は30mm以下であることが好ましい。これは、スポンジチタンの平均粒径が30mmより大きい場合、搬送時、またはチタン梱包体4の製造時に、取り扱いに問題を生じる場合があるためである。スポンジチタンの粒度は、30mm以下であることが好ましい。
【0071】
一方、スポンジチタンの平均粒径が小さい場合には特性面では問題は生じないが、小さ過ぎると、表層梱包材5で形成されたチタン筐体に充填する際における粉塵の発生が問題となって作業に支障をきたすおそれがある。このため、スポンジチタンの平均粒径は1mm以上であることが好ましい。
【0072】
スポンジチタンは不定形であり、スポンジチタンを圧縮して得られたブリケットをチタン塊として用いると、ハンドリングが容易となるので、好ましい。圧延時のスラブ寸法(すなわち、チタン梱包体4の寸法)の制約等に基づき、予め準備していた金型に、原料とするスポンジチタンを投入し、所定の圧力で圧縮加工して、ブリケットを製造する。この際、スポンジチタンにチタンスクラップ等を混入してもよいが、チタン塊の成分変動がないように、事前によく混合しておくことが好ましい。
【0073】
2−4.表層部2の厚さと内層部3の厚さの比Xの決定方法
チタン梱包体4に対して熱間加工を施して製造されるチタン材1が上述した(i)式を満足するためには、チタン梱包体4の寸法の調整が重要となる。このためには、まず(i)式をもとに、チタン材1の表層部の厚さts、チタン材1の内層部の厚さtiとの比X(=ts/ti)の目標値を決定することが、好ましい。その一例を、次に述べる。
【0074】
Xが満足すべき範囲は、下記(ii)式から算出できる。
X≧(Cl−0.03)/0.02・・・・・・・・・・(ii)
ただし、X<0の場合、X=0とする。
【0075】
梱包体を製作する際には、原料となるスポンジチタンのCl量を測定する。チタン塊のCl量は、チタン材1の内層部のCl量と同じであるため、この測定したチタン塊のCl量から、チタン材1の厚さ比Xの下限値を求めることができる。この下限値に加え、Cl量測定精度、チタン材1での表面疵などを踏まえた表層部の厚さの余裕代、製造時のばらつきなどを考慮して、目標のX値を決定する。
【0076】
2−5.チタン梱包体4の寸法の決定方法
目標のX値に基づきチタン梱包体4の寸法を決定する方法の一例を、下記に示す。まず、チタン材1の厚さをt、チタン材1の表層部の厚さをts、チタン材1の内層部の厚さをtiとすると、tは下記式となる。
t=2ts+ti・・・・・・・・・(1)
【0077】
チタン材1の表層部と内層部の厚さ比をXは、その定義から下記式となる。
X=ts/ti・・・・・(2)
チタン材1の表層部の厚さtsおよび内層部の厚さtiは、(1)および(2)式から、それぞれ下記の式であらわされる。
ts=X・t/(2X+1)・・・・・・・(3)
ti=t/(2X+1)・・・・・・・・・・(4)
【0078】
熱間圧延後のチタン熱延材の厚さをt2とし、酸洗して表層の酸化層を片面あたり、厚さte分だけ除去した場合、酸洗後の熱延材の厚さt3は、下記の式となる。
t3=t2−2te・・・・・・・(5)
【0079】
過去の測定結果から酸洗後の熱延材と冷延材の空隙率は、ほぼ同一であるため、酸洗後の熱延材の表層部と内層部の厚さ比は、冷延材の厚さ比Xと同等となる。そこで、酸洗後の熱延材の表層部の厚さts3と内層部の厚さti3とは、酸洗後の熱延材全体の厚さをt3とすると下記の式となる。
ts3=X・t3/(2X+1)・・・・・・・(6)
ti3=t3/(2X+1)・・・・・・・・・(7)
【0080】
上記(6)式と(7)式から、酸洗前の熱延材の表層部の厚さts2と内層部の厚さti2は、下記となる。
ts2=ts3+te
=X・t3/(2X+1)+te・・・・・(8)
ti2=ti3
=t3/(2X+1)・・・・・・・・・・(9)
【0081】
(6)式と(7)式から、酸洗前の熱延材の表層部の厚さと内層部の厚さの比Zは、下記となる。
Z=ts2/ti2
={X・t3/(2X+1)+te}/{t3/(2X+1)}
=X+te(2X+1)/t3・・・・・(10)
【0082】
ここで、熱延材の酸洗による表層除去厚(te)と、酸洗後の熱延材全体の厚さ(t3)との比te/t3をαとすると、酸洗前の熱延材の表層部の厚と内層部の厚さの比Zは、下記式となる。
Z=X+α(2X+1)・・・・・・・・・(11)
【0083】
熱延材の内層の空隙率は1%未満が多く、非常に低い。このため、工業的または実用的には空隙率を無視できる場合が多い。この場合、チタン梱包体4の梱包材の厚さTsと空隙を除いたチタン塊6の実質厚さDの比V(=Ts/D)は、酸洗前の熱延材の表層厚と内層厚の比Zとほぼ同じであるため、下記式が得られる。
V=Z
Ts/D=X+α(2X+1)・・・・・・・(12)
【0084】
上記(10)式から、チタン梱包体の表層部の厚さ、つまり梱包材の厚さTsは下記により算出できる。
Ts={X+α(2X+1)}D・・・・・(13)
【0085】
過去の測定結果からαは約0.01程度であるため、工業的にはまたは実用上は、Tsは下記式により算出できる。
Ts={X+0.01(2X+1)}D・・・・・(14)
【0086】
チタン梱包体4を製作する際には、空隙を除いたチタン塊6の実質厚さDを予め決定しておけば、目標のX値からチタン梱包体4の表層部の厚さ(表層梱包材5の厚さ)Tsを上記(13)式または(14)式を用いて算出することができる。
【0087】
実用上は、式(14)の「0.01(2X+1)」の項をゼロと看做し、Ts=X・Dと仮定し、目標のX値と、圧延時のスラブ寸法(すなわち、チタン梱包体4の寸法)の制約等から、空隙を除いたチタン塊6の実質厚さDを仮決定する。
【0088】
この仮決定に基づき、梱包体に用いるチタン塊6を準備する。そのチタンの質量Wとチタン梱包体4の幅Bと長さLの測定結果、およびチタンの密度ρ(=4.51g/cm)から、下記式で最終的なD値を求めることができる。
D=W/BLρ・・・・・・・・・・・・・・・・(15)
【0089】
次に、得られたD値および目標とするX値から、チタン梱包体4の表層部の厚さ(表層梱包材5の厚さ)Tsを決定する。
【0090】
なお、この際、目標となるX値を、原料となるスポンジチタンのCl量の測定結果からチタン塊6のCl量を予測していた場合、製作したチタン塊6の塩素量を測定し、(ii)式を満たしていることを確認することが、好ましい。必要に応じて、チタン梱包体4の表層部の厚さ(表層梱包材5の厚さ)Tsを、(ii)式を満たすように、変更する。
【0091】
板厚t=1mm、X=ts/ti=0.3/0.4=0.75のチタン材を製造する場合の梱包材の寸法を計算する。
【0092】
チタン塊を準備し、式(15)から、そのDを測定すると、D=17.16mmであった。同時に、Tiも測定したが、48.4mmであった。参考までに、式(16)に基づいて空隙率Pを計算すると、1−17.16/48.4=0.65つまり65%であった。
D=Ti(1−P)・・・・・・・・・・・・・・・・(16)
【0093】
式(14)により、チタン梱包材の厚さTsを算出すると
Ts=(0.75+0.01(1+2×0.75))×17.16=13.3mm
つまり、Ts=13.3mmとなった。Ti=48.4mmであり、T=13.3×2+48.4=75mm厚の梱包体となる。
【0094】
3.製造方法
本発明の一実施形態に係るチタン梱包体4およびチタン材1の製造方法の一例について説明する。なお、以下の説明においては、板状のチタン材1の製造方法を一例として用いているが、これに限定されるものではない。
【0095】
3−1.チタン梱包体4の製造方法
まず、チタン筐体の底面、および側面に相当する部分を、図6に示すように、5枚のチタン板(表層梱包材)を用いて箱型に組み立て、上面のみが開口した状態とする。そして、チタン筐体の内部に、スポンジチタンおよび/または予めスポンジチタンを圧縮成形したブリケットを充填し、その後、チタン筐体の上面に当たるチタン板(表層梱包材)を上から被せ、仮組みする。なお、上記の例では、チタン筐体は箱型であるが、形状は制限されず、管状などであってもよい。
【0096】
続いて、仮組されたチタン筐体を真空チャンバー内に収納し、チャンバー内の真空度を10Pa以下に減圧した後、継ぎ目部分を溶接し、チタン梱包体4とする。また、スポンジチタンとしては、クロール法の製錬工程により製造される通常のスポンジチタンを用いる。ただし、スポンジチタン中のCl含有量が上述の規定範囲内になるよう調整する必要がある。
【0097】
クロール法で製造されるスポンジチタンは、四塩化チタンをMgで還元することにより製造される。この還元により生成されるMgClは、次工程の真空分離工程により除去される。しかしながら、巨大な塊状のスポンジチタンの素材を処理する場合、MgClは完全には除去されず、不可避的な不純物として一部、破砕後のスポンジチタン内に残存する。スポンジチタンのCl含有量が上述の規定範囲を超える場合には、例えば、以下に記載の真空再分離処理を行うことができる。
【0098】
真空再分離処理は、真空度1.3Pa以下(より好ましくは、1.3×10−2Pa以下)の真空環境で900〜1200℃で保持する真空雰囲気下での熱処理であり、この熱処理時間は所望のCl含有量や原料スポンジチタンのCl含有量に応じて調整できる。例えば、Cl含有量が0.05%以下のスポンジチタンを得る場合には、1.3×10−2Pa以下の真空中で40時間以上、加熱するのが好ましい。
【0099】
チタン筐体の継ぎ目部分を溶接する方法は、特に限定されない。例えば、TIG溶接、もしくはMIG溶接等のアーク溶接、電子ビーム溶接、またはレーザー溶接等でもよい。ただし、溶接雰囲気は、チタン塊6、および表層梱包材5の表面が酸化または窒化されないように、真空雰囲気、または不活性ガス雰囲気で溶接を行う。
【0100】
3−2.チタン材1の製造方法
上述のチタン梱包体4に対して、熱間圧延を行うことによって板状のチタン材1が得られる。なお、板状のチタン材1を得る場合には、熱間圧延を行うが、丸棒状または線材状のチタン材1を得たい場合には、熱間押し出し加工などを施せばよい。
【0101】
熱間圧延後には、必要に応じて表面の酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延を行い、より薄く加工してもよい。
【0102】
熱間加工時の加熱温度は、鋳造によって作成された従来のチタンスラブ、またはビレットを熱間加工する場合と同様の加熱温度とすればよい。チタン梱包体4の大きさ、または加工率によって異なるが、上記加熱温度は、600〜1200℃とすることが好ましい。
【0103】
上記加熱温度が低過ぎると、チタン梱包体4の高温強度が高過ぎるため、熱間加工中に割れの原因となる。加えて、チタン塊6と表層梱包材5との接合が不十分になる。一方、上記加熱温度が高過ぎると、得られたチタン材1の組織が粗くなり、十分な機械的特性を得られない。加えて、酸化により表層梱包材5が減肉される。また、熱間加工率は、スポンジチタン同士を結合させ、空隙を少なくして十分な機械的特性を確保するために、50%以上とすることが好ましい。
【0104】
一方、空隙の増加は軽量化の一助となるため、強度、または延性などの機械的特性が許容される範囲内でチタン材1に空隙を含有させることも可能である。この際の熱間加工率は、所望の機械的特性との兼ね合いで選択することができる。この際、熱間加工率は30%以上、50%以下であるのが好ましい。
【0105】
熱間加工に続いて、必要に応じて冷間加工を行う際は、最終製品の形状に応じて適切な冷間加工率を選択できる。この際、冷間加工率は30%以上95%以下であるのが好ましい。冷間加工率は、96%、98%以下でもよい。
【0106】
熱間加工および冷間加工後にさらに焼鈍を行ってもよい。上記焼鈍は、真空中または不活性ガス雰囲気で、500〜850℃の温度とすることが好ましく、必要とされる機械特性に応じて焼鈍時間を選択することができる。
【0107】
なお、熱間加工または冷間加工の際の加工率は、加工前と加工後との断面積の差を、加工前の断面積で除した割合(百分率)であり、加工前の断面積をA、加工後の断面積をA、としたとき、以下のように定義される。なお、この際の断面積とは、加工(圧延)方向に垂直な断面の断面積のことである。
加工率(%)=(A−A)/A×100
【0108】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0109】
[試験材作製工程]
チタン筐体に、クロール法により製造したCl含有量が異なるスポンジチタン(Cl:0.021〜0.502%、平均粒径:0.25〜19mm)を充填した。ここで、厚さ0.6〜36mmのチタン板(JIS1種)を用いて、厚さ75mm、幅100mm、長さ120mmの直方体状のチタン筐体を製作した。
【0110】
以下、詳細を説明する。チタン梱包体の作製に際して、まず、5枚のチタン板(表層梱包材)を組み立てて、上面に開口部を有する箱形状とした後、この中にスポンジチタンを充填し、開口部をもう一枚のチタン板(表層梱包材)により蓋をしてチタン筐体として仮組みした。
【0111】
仮組みされたチタン筐体を、真空チャンバー内に収容して内部の真空度を8.2×10−3〜1.1×10−1Paに減圧した後、チタン筐体の継ぎ目を全周電子ビームにより溶接して密封して、チタン梱包体とした。
【0112】
次に、このチタン梱包体を大気雰囲気下で850℃に加熱した後、熱間圧延を行い、厚さ5mmの熱延板とした。この後、ショットブラストおよび硝ふっ酸を用いて、熱延板の表裏面とも片面あたり約50μm(両面で100μm)を除去する酸洗処理(デスケーリング処理)を行った。
【0113】
さらに、熱延板に冷間圧延を行い、厚さ1mmのチタン板とした。その後、焼鈍処理として、真空、または不活性ガス雰囲気中で670℃まで加熱し、180分間保持する熱処理を行うことにより、チタン材を作製した。試験番号1を例により詳しく説明する。
【0114】
試験番号1では、スポンジチタンのCl量の分析結果0.023%から、Xの下限値0を算出した。チタン材の厚さは1mmであり、表面疵等の発生等を考慮し、目標X値を0.75とした。この目標X値とスラブ寸法等の制約から、空隙を除いたチタン塊の実質厚さDの狙い値17.2mmと、表層梱包材の厚さTsの狙い値13.3mmを仮決定した。チタン塊の実質厚さDからチタン塊の重量を、チタン筐体にスポンジチタンを充填した時の空隙率からチタン筐体の必要容積を算出して、チタン筐体内(チタン梱包体内)の厚さは48.4mmとした。このチタン塊とチタン板を用いて、厚さ75mmのチタン梱包体を製作した。熱間圧延および冷間圧延等を行って製造されたチタン材の表層部と内層部の厚さを測定した。それぞれ0.303mm、0.398mmとなり、X値は0.76となった。目標X=0.75にほぼ近いチタン材が製造できたことを確認した。
【0115】
なお、試験番号15においては、チタン梱包体を作製するに際して、下面と上面とで厚さを変え、チタン材の2つの表層部の厚さがそれぞれ0.24mmおよび0.33mmになるようにした。
【0116】
[化学組成]
表層部および内層部の化学組成は、JIS H 1612(1993)、JIS H 1614(1995)、JIS H 1615(1997)、JIS H 1617(1995)、JIS H 1619(2012)、JIS H 1620(1995)に準拠して測定した。なお、この際、表層部または内層部の厚さが0.2〜0.1mmの場合、その部分の化学組成は、切削等で加工して得た切粉等を用いて分析を行った。表層部または内層部の厚さが0.1mm未満の場合、チタン材の全体の化学成分の分析結果と、厚い方(内層部または表層部)の化学成分の分析結果から、当該部分の化学成分を算出した。
【0117】
[厚さ測定]
表層部および内層部の厚さは、光学顕微鏡によるミクロ組織観察により測定を行なった。まず、作製したチタン材の断面を観察できるように樹脂に埋め込み、研磨・腐食した後に、光学顕微鏡写真を撮影した。図2に示したように、表層部および内層部には、境界線がはっきりと観察できる。加えて、結晶粒径の差等により、腐食後の濃淡に差がみられるため、これにより境界を判別することもできる。
【0118】
無作為に選んだ20箇所の断面写真から表層部と内層部の厚さを測定して、各部の平均値を求め、測定した表層部および内層部の平均厚さから、表層部の厚さ/内層部の厚さを算出した。
【0119】
[空隙率]
チタン材の内層部の空隙率は、次のように求めた。まず、内層部の板厚中心部から観察用試料を切り出した。そして、チタン材の長手方向に垂直な断面が観察面となるように、切り出された観察用試料を樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いてバフ研磨して鏡面化仕上げした。そして、鏡面化仕上げした観察面の光学顕微写真を撮影した。
【0120】
撮影した光学顕微鏡写真に含まれる空隙部分の面積を測定し、それを撮影視野全体の面積で除することで、空隙率を求めた。この際、光学顕微鏡による撮影は、観察面積が合計で0.3mm以上(倍率500倍の光学顕微鏡写真で20視野以上)になるように行い、それらの平均値を採用した。
【0121】
[機械的特性]
作製したチタン材から、圧延方向に平行部12.5×60mm(厚さ=板厚)、標点間50mm、チャック部20mm幅、全長150mmの引張試験材(JIS13B引張試験片)を切り出し、JIS Z 2241(2011)(金属材料引張試験方法)に従って平板引張試験を行い、全伸びにより延性を評価した。なお、本実施例においては、全伸びが20%以上である場合に、延性に優れると判断することとした。
【0122】
また、作製した厚さ1mmのチタン材から、圧延方向に平行に幅20mm、長さ50mmの短冊状試験片を切り出して、JIS Z 2248(2014)(金属材料曲げ試験方法)に従って平板180°曲げ試験(曲げ内側の直径は板厚)を行い、割れの有無により曲げ性を評価し、割れの無いものを“○”とし、割れの有るものを“×”とした。
【0123】
以上の結果を表1および2に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
表1および2における試験番号1〜15は、本発明で規定する条件を全て満足する本発明例である。試験番号1〜15は、いずれも、内層部のCl含有率が0.60%以下であり、かつ(i)式を満足し、さらに空隙体積率30%以下を満たすため、延性および曲げ性に優れる結果となった。
【0127】
一方、試験番号16〜37は、本発明で規定する条件を満足しない比較例である。これらの比較例は、内層部のCl含有率は0.60%以下であるものの、(i)式を満足していないため、延性または曲げ性に劣る結果となった。
【0128】
図7に、曲げ性について、本発明例を○、比較例を×として示す。本発明例は、内層部の塩素濃度が高くても、良好な曲げ性を有している。このように、表層部厚さと内層部厚さを適切に制御することにより、Clに起因する機械的特性の劣化を防止している。
【実施例2】
【0129】
[試験材作製工程]
チタン筐体に、クロール法により製造したスポンジチタン(Cl:0.025%、平均粒径=0.25〜19mm)を充填した。また、表層梱包材として、厚さ4.0mmのチタン板(JIS1種)を用いて、実施例1と同様の製造方法で、厚さ39〜148mm、幅100mm、長さ120mmのチタン梱包体を製作した。
【0130】
次いで、このチタン梱包体4を大気雰囲気下で850℃に加熱した後、熱間圧延を行い、厚さ20mmの熱延板とした。この後、ショットブラストおよび硝ふっ酸を用いて、熱延板の表裏面とも片面あたり約50μm(両面で100μm)を除去するデスケーリング処理を行い、チタン材を製作した。
【0131】
この後、実施例1と同様の評価方法で、表層部および内層部の化学組成、厚さおよびチタン材の機械的特性を調査した。なお、本実施例においては、全伸びが20%以上である場合に、延性に優れると判断することとした。さらに、チタン材の表面性状を目視により観察して、表面割れの有無を評価し、割れの無いものを“○”とし、割れの有るものを“×”とした。なお、JIS H 4600(2012)では、板厚5mm以上のチタン材に対して、曲げ試験は必要とされておらず、本実施例では曲げ試験は行わなかった。
【0132】
以上の結果を表3および4に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
表3および4における試験番号38〜42は、本発明で規定する条件を全て満足する本発明例である。試験番号38〜42は、内層部のCl含有率が0.60%以下であり、かつ(i)式を満足し、さらに空隙体積率30%以下を満たすため、表面性状が良好であるとともに、延性に優れる結果となった。
【実施例3】
【0136】
[試験材作製工程]
クロール法により製造したスポンジチタン(Cl:0.028〜0.052%、平均粒径=0.25〜19mm)を金型に入れて圧縮プレスして、かさ密度3.2g/cmのブリケットに成形した。
【0137】
これらのブリケットを直方体形状に切断加工後、厚さ10mmのチタン板(JIS1〜4種)で梱包し、次いで、実施例1と同様の製造方法で、厚さ28〜84mm、幅100mm、長さ120mmのチタン梱包体を作製した。
【0138】
次いで、チタン梱包体を、実施例1と同様の製造方法で、熱間圧延、デスケーリング、冷間圧延、および焼鈍処理を行い、チタン材を作製した。
【0139】
試験番号55に関しては、表層梱包材の1枚に事前に端部に穴をあけて銅管をろう溶接した。梱包体全体を組み立てて、Arガス雰囲気中で表層梱包材の継ぎ目を全周アーク溶接してチタン梱包体を組みたてた。その後、銅管を通してチタン梱包体の内部の真空度を15Paに減圧した後、銅管を密閉してチタン梱包体を作製した。その後は、上記実施例と同様に熱延、冷延を行い、チタン材を得た。
【0140】
この後、実施例1と同様の評価方法で、表層部および内層部の化学組成、厚さおよびチタン材の機械的特性を調査した。なお、本実施例においても、全伸びが20%以上である場合に、延性に優れると判断することとした。さらに、チタン材の表面性状を目視により観察して、表面割れの有無を評価し、割れの無いものを“○”とし、割れの有るものを“×”とした。
【0141】
以上の結果を表5および6に示す。
【0142】
【表5】
【0143】
【表6】
【0144】
表5および6における試験番号43〜50は、本発明で規定する条件を全て満足する本発明例である。試験番号43〜50は、内層部のCl含有率が0.60%以下であり、かつ(i)式を満足し、さらに空隙体積率30%以下を満たすため、表面性状が良好であるとともに、延性に優れる結果となった。
【0145】
試験番号51〜54は、内層部のCl含有率は0.60%以下であるものの、(i)式を満足していないため、曲げ性に劣る結果となった
【0146】
試験番号55は、表面性状は良好であったものの、内層部が一部で酸化しておりO含有量が規定から外れたため、延性が低く、曲げ性が劣る結果となった。
【0147】
以上のように、本発明に係るチタン材は、優れた表面性状、伸び、および曲げ性を具備しており、高い変形能を要求される部材、例えば、屋根瓦等に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0148】
1 チタン材
2 表層部
3 内層部
4 チタン梱包体
5 表層梱包材
6 チタン塊
【要約】
内層部3と内層部3に接合された表層部2とを有し、表層部2の化学組成が、質量%で、O:0.4%以下、Fe:0.5%以下、Cl:0.020%以下、残部:Tiおよび不純物であり、内層部3の化学組成が、質量%で、O:0.4%以下、Fe:0.5%以下、Cl:0.020%超、0.60%、残部:Tiおよび不純物であり、内層部3は空隙を有し、チタン材1の長手方向に垂直な断面での、内層部3中での空隙の面積率が、0%超、30%以下であり、内層部3のCl含有量(Cl)、表層部2の厚さ(t)および内層部3の厚さ(t)が[Cl≦0.03+0.02×t/t]を満足する、チタン材1。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7