特許第6206659号(P6206659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62066592,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206659
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/303 20060101AFI20170925BHJP
   C07C 69/76 20060101ALI20170925BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C07C67/303
   C07C69/76 A
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-195097(P2013-195097)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-59117(P2015-59117A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 阿良加
(72)【発明者】
【氏名】本多 栄一
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−053467(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/051021(WO,A1)
【文献】 特開2001−278836(JP,A)
【文献】 特開平07−053458(JP,A)
【文献】 特開平06−184042(JP,A)
【文献】 特開2000−226356(JP,A)
【文献】 特開平06−157406(JP,A)
【文献】 特開平06−199705(JP,A)
【文献】 特開昭47−012320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B,C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを、貴金属触媒の存在下で水素を作用させ、下記式(1)で表される2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを製造する方法であって、次の(I)〜(III)の全てを満たす条件下で反応を行うことを特徴とする2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
(I)前記貴金属触媒の使用量が、前記2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルに対する貴金属触媒中の触媒貴金属量で0.0005〜0.03質量%
(II)反応温度が、151〜230℃
(III)水素圧力が、1.6〜15MPa
【化1】
(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
【化2】
(式(2)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
【請求項2】
前記貴金属触媒が、パラジウム触媒、及びルテニウム触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記貴金属触媒が、パラジウム触媒である、請求項1に記載の2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
水素圧力が3〜12MPaである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテトラリン誘導体である2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルは、ポリエステルやポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドとして、液晶組成物、高分子改質剤、医薬中間体などとして有用である。
【0003】
下記式(1)で表される2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル(以下2,6−TDCE)を合成する方法として、下記式(2)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル(以下2,6−NDCE)を貴金属触媒下で水素添加する手法が特許文献1により知られている。
【0004】
【化1】
(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
【0005】
【化2】
(式(2)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
【0006】
ナフタレン環を水素添加することによりテトラリン環へと誘導する方法はその他、特許文献2〜6に示されている。
これらの文献に示されている水素添加では触媒としてパラジウム、ルテニウム、ロジウム、白金等の貴金属を触媒成分とする触媒が用いられているが、その使用量は反応を短時間に完了させるために非常に多くの量を必要としている。たとえば、特許文献1の実施例では、原料の2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルに対する触媒金属で0.33〜1質量%ものパラジウム触媒を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−53467号公報
【特許文献2】特開昭47−12320号公報
【特許文献3】特開昭51−125265号公報
【特許文献4】特開平6−157406号公報
【特許文献5】特開平6−199705号公報
【特許文献6】特開平7−53458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜6に記載されるテトラリン化合物の製造方法は、高価な貴金属触媒を多量に必要とするため工業的に有利な製法ではなかった。また、水素添加の過剰進行等の副反応の影響で、得られるテトラリン化合物の収率は必ずしも十分ではなかった。
【0009】
本発明の課題は、2,6−NDCEの水素添加による2,6−TDCEの製造において、高価な貴金属触媒の使用量を削減し、適度な反応時間で高い収率にて2,6−TDCEを得ることができる工業的に有利な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定範囲の反応温度及び水素圧力の条件で、ごく少量の貴金属触媒を使用して2,6−NDCEの水素添加反応を行うことにより、適度な反応時間で水素添加の過剰進行等の副反応を抑えて高い収率で2,6−TDCEを製造できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕
下記式(2)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを、貴金属触媒の存在下で水素を作用させ、下記式(1)で表される2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを製造する方法であって、次の(I)〜(III)の全てを満たす条件下で反応を行うことを特徴とする2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
(I)前記貴金属触媒の使用量が、前記2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルに対する貴金属触媒中の触媒貴金属量で0.0005〜0.03質量%
(II)反応温度が、151〜230℃
(III)水素圧力が、1.6〜15MPa
【化3】
(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
【化4】
(式(2)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
〔2〕
前記貴金属触媒が、パラジウム触媒、及びルテニウム触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔1〕に記載の2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
〔3〕
前記貴金属触媒が、パラジウム触媒である、〔1〕に記載の2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
〔4〕
水素圧力が3〜12MPaである、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2,6−NDCEを貴金属触媒を用いて水素添加することによりテトラリン誘導体である2,6−TDCEを工業的に安価に製造することができる。
2,6−TDCEはポリエステルやポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドなどの樹脂原料、液晶組成物、高分子改質剤、医薬中間体などとしての利用が考えられるため、その工業的な意義は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、
を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0014】
[1.反応原料]
本実施形態の原料として使用される2,6−NDCEは、前記の式(2)で表される。式(2)中、R及びR’で表される炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、2−エチルヘキシル基等があげられる。
入手容易性の観点から原料としてより好ましいのは、R及びR’が共にメチル基である2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルである。
なお、原料の2,6−NDCEは、2,7−NDCE、1,5−NDCE等の構造異性体、及びナフトエ酸アルキルエステルやテレフタル酸アルキルエステル等の不純物を含んでいてもよいが、2,6−NDCEの純度として80質量%以上であるのが好ましく、純度90質量%以上であるのがより好ましく、純度95質量%以上であるのが更に好ましい。
【0015】
[2.反応に用いられる触媒]
本実施形態で用いられる貴金属触媒としては、パラジウム(以下Pdと記載する場合がある)、ルテニウム(以下Ruと記載する場合がある)、ロジウム(以下Rhと記載する場合がある)、白金が好ましく、水素添加反応における選択性が高いという観点から、パラジウム、ルテニウムがより好ましく、パラジウムが更に好ましい。
【0016】
前記貴金属触媒は、貴金属が担体に担持された触媒(担持触媒)であることが好ましい。担体としては、カーボン(活性炭)、アルミナ、シリカ、ゼオライト等が例示されるが、特に入手容易性、価格からカーボンが好ましい。
担持触媒中の貴金属の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0017】
上述した触媒は、市販のものを用いてもよいし、含浸担持法等の公知の方法に従い調製したものを用いてもよい。また、触媒は乾燥したものでも含水したものでもよく、安全面等の観点から含水したものを使用することが好ましい。市販の触媒では、エヌ・イーケムキャット社製の「5%Pdカーボン粉末PEタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末STDタイプ(含水品)」、「10%Pdカーボン粉末PEタイプ(含水品)」等のPdカーボン粉末や、「5%Ruカーボン粉末Aタイプ(含水品)」、「5%Ruカーボン粉末Bタイプ(含水品)」等のRuカーボン粉末や、「5%Rhカーボン粉末(含水品)」等のRhカーボン粉末等が挙げられる。なお、上述したように、乾燥品を使用することも勿論可能である。
【0018】
前記貴金属触媒の使用量は、原料の2,6−NDCEに対する触媒中の貴金属量で、0.0005〜0.03質量%であることが好ましく、0.001〜0.025質量%であることがより好ましく、0.002〜0.02質量%であることが更に好ましい。触媒の使用量を上記範囲とすることで、高い収率で2,6−TDCEを得ることができると共に、触媒に要する費用を低減することができる。特に、過剰な水素添加反応による副生成物である下記式(3)に示す2,6−デカリンジカルボン酸ジアルキル(以下2,6−DDCE)が生成することを抑える顕著な効果がある。
【0019】
【化5】
(式(3)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基である。RとR’は、同じアルキル基でも良く、異なるアルキル基でも良い。)
【0020】
触媒として例えば5%Pdカーボン触媒を使用する場合には、原料の2,6−NDCEに対する触媒使用量(乾燥状態の触媒使用量)で0.01〜0.6質量%であることが好ましく、0.02〜0.5質量%であることがより好ましく、0.04〜0.4質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
[3.反応に用いられる溶媒]
本実施形態で反応に用いられる溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されない。例えば、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、エタノール、イソプロパノール、ターシャリーブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、酢酸、プロピオン酸等の酸性溶媒が挙げられる。なお、反応時の蒸気圧が過大にならないように、使用する溶媒は、沸点が大気圧下で60℃以上であるのが好ましく、70℃以上であるのがより好ましい。
【0022】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、2,6−NDCEに対する質量比で、0.5〜8の範囲であることが好ましく、0.8〜5の範囲であることがより好ましい。上記質量比が上記範囲にあれば、過大な量の溶媒を使用しないため適度な反応器容積で反応を実施出来るとともに、溶媒の分離、回収が容易になり好ましい。
【0023】
[4.反応条件]
本実施形態の水素添加反応は、通常オートクレーブ等の加圧容器中で実施されることが好ましい。水素添加における水素圧力は1.6MPa以上であるのが好ましく、3MPa以上であるのがより好ましく、3.5MPa以上であるのがさらに好ましい。水素圧力の上限は特に限定されないが、15MPa以下であるのが好ましく、12MPa以下であるのがより好ましい。上記の水素圧力範囲で反応を行なうことで、反応の選択性が高くなり、また、適度な反応速度が得られ効率良く2,6−TDCEを製造できる。
なお、水素添加は以下に示すように加熱下で実施するため、反応器の圧力(全圧)は溶媒の蒸気圧を考慮して設定する必要がある。すなわち、反応器の圧力は、上記に示す水素圧力に溶媒の蒸気圧を上乗せした圧力に保持する必要がある。また、圧力を一定に保持するために、反応で消費された量に見合う水素を反応器に供給する方法を用いることができる。
【0024】
本実施形態の水素添加反応の反応温度は、151〜230℃であるのが好ましく、155〜210℃であるのがより好ましく、160〜200℃であるのが更に好ましい。上記の温度範囲で反応を行なうことで、ごく少量の触媒でも適度な反応速度が得られ効率良く2,6−TDCEを製造でき、さらに反応の選択性も高くなる。
【0025】
本実施形態の反応時間は、水素添加反応の進捗状況に応じて適度な時間に設定すればよい。水素添加反応の進捗状況は、例えば反応器に供給する水素の流量を測定することで把握できる。水素添加反応の終点を見極める方法のひとつは、反応開始時から供給した水素の総量が理論水素消費量に達したかどうかによって判断する方法であり、もうひとつの方法は、反応器の圧力が一定になるように供給される水素流量が著しく低下した時点(例えば、反応が活発に進行していた際と比べて水素流量が1/10未満に低下した時点)を反応の終点とする方法である。本発明に記載の方法で水素添加反応を行った場合、通常、反応の終点が近づくと水素の消費量が急激に低下するので、反応の終点の見極めが容易であり、過剰な水素添加による2,6−DDCEの生成を抑えられ、好適に2,6−TDCEの製造を行うことができる。
なお、前記反応時間は、工業的な生産効率の観点より10時間以下であるのが好ましく、6時間以内であるのがより好ましく、4時間以内であるのがさらに好ましい。
【0026】
[5.反応方法]
本実施形態の水素添加反応の反応方法は特に限定されないが、反応器中に原料、溶媒、貴金属触媒を仕込み、所定の反応温度、水素圧力に設定して反応を行う回分式の反応方法、および、溶媒と貴金属触媒を仕込み所定の反応温度、水素圧力に維持した反応器に原料を供給する半回分式の反応方法が例示される。
【0027】
[6.生成物の回収および精製]
本実施形態で得られる生成物中の2,6−TDCEは、溶媒の使用量にもよるが通常は全量が溶媒に溶解しているので、例えば反応生成物から触媒を濾別した後、溶媒を留去することにより、粗2,6−TDCEを取り出すことができる。
更に、再結晶、蒸留やカラムクロマトグラフィー等の手段により精製を行ってもよい。
【0028】
本発明の2,6−TDCEは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂原料、液晶組成物、高分子改質剤、及び医薬中間体等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0029】
実施例により本発明の方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、組成はガスクロマトグラフィー分析により得られた面積百分率値を示す。
【0030】
<実施例1>
攪拌機付き200mLオートクレーブ(SUS316L製)に、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下2,6−NDCM)30g、エヌ・イーケムキャット社製5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプ90mg、イソプロパノール50gを仕込んだ。室温で、オートクレーブ内を窒素1MPaで2回置換し、次いで水素1MPaで2回置換した。その後常圧まで落圧した後、反応器内の温度を170℃に昇温し、水素で5MPaまで加圧し、同温度、同圧力を保持して攪拌下(回転数1500rpm)で水素添加反応を実施した。水素は圧力が一定に維持されるように消費量に見合う量を供給した。
60分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却した。水素を放出し、窒素1MPaで2回置換した後、焼結金属を通して触媒を分離し、反応液を抜き出した。得られた反応液から溶媒を除去して、粗2,6−テトラリンジカルボン酸ジメチル(以下2,6−TDCM)(30.1g)を得た。ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、生成物の組成は、2,6−NDCM:0.5%、2,6−TDCM:98.0%、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル(以下2,6−DDCM):0.3%であった。2,6−TDCMの収率は96.7モル%であった。
【0031】
<実施例2>
反応温度を190℃とした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
45分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(29.9g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0032】
<実施例3>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を30mgとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
150分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(30.0g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0033】
<実施例4>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を30mgとし、反応圧力を10MPaとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
60分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(29.9g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0034】
<実施例5>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を100mgとし、反応温度を160℃とした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
100分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(30.1g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0035】
<実施例6>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を150mgとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
45分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(29.8g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0036】
<実施例7>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を300mgとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
30分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(30.2g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0037】
<実施例8>
反応圧力を3MPaとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
300分後、水素供給量が微量(3mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(30.0g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0038】
<実施例9>
2,6−NDCMの仕込み量を15g、5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を45mg、イソプロパノールの仕込み量を75gとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
75分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(29.4g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0039】
<実施例10>
貴金属触媒として5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプ100mg、及びエヌ・イーケムキャット社製5%Ruカーボン粉末(含水率50重量%)Aタイプ100mgを仕込んだ以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
60分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(29.6g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0040】
<実施例11>
溶媒としてイソプロパノールに代えて酢酸エチル50gを用いた以外は実施例5と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
105分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(29.5g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。
【0041】
<比較例1>
反応温度を130℃とした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
360分後、水素供給量が微量(3mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(21.3g)を得た。なお、未反応の原料と思われる結晶が、触媒と共に焼結金属で反応液から分離された。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。反応温度が低い条件では、原料の2,6−NDCMの残存量が多く、反応の進行が不十分である。
【0042】
<比較例2>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を150mgとし、反応温度を150℃、反応圧力を3.5MPaとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
360分後、水素供給量が微量(3mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(22.6g)を得た。なお、未反応の原料と思われる結晶が、触媒と共に焼結金属で反応液から分離された。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。反応温度が低い条件では、原料の2,6−NDCMの残存量が多く、反応の進行が不十分である。
【0043】
<比較例3>
2,6−NDCMの仕込み量を20g、5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を1000mg、イソプロパノールの仕込み量を60gとし、反応温度を140℃、反応圧力を1.0MPaとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
240分後、水素供給量が微量(3mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(20.6g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。反応温度および反応圧力が低い条件では、触媒濃度を大幅に高くしても、原料の2,6−NDCMの残存量が多く、反応の進行が不十分になっている。
【0044】
<比較例4>
5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を1000mgとし、イソプロパノールの仕込み量を30gとし、反応温度を140℃、反応圧力を3.0MPaとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
60分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(30.2g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。触媒使用量が過大な条件では、反応温度を下げて反応を行っても水添反応が過剰に進行し2,6−DDCMの副生が増加し、2,6−TDCMの収率が低下している。
【0045】
<比較例5>
2,6−NDCMの仕込み量を20g、5%Pdカーボン粉末(含水率50重量%)PEタイプの仕込み量を400mg、イソプロパノールの仕込み量を60gとし、反応温度を135℃、反応圧力を2.0MPaとした以外は実施例1と同様にして、2,6−NDCMの水素添加反応を実施した。
75分後、水素供給量が微量(5mL/min以下)となったので反応終了と判断し、室温まで冷却し、以下、実施例1と同様にして生成物の粗2,6−TDCM(19.5g)を得た。得られた生成物分析結果及び2,6−TDCMの収率を表1に示す。触媒使用量を比較例4よりも少なくしたものの、やはり触媒使用量が過大な条件では、水添反応が過剰に進行し、2,6−TDCMの収率が低下している。
【0046】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを特定の反応温度及び水素圧力下で、ごく少量の貴金属触媒を使用して水素添加反応を行うことにより、適度な反応時間で水素添加の過剰進行等の副反応を抑えて高い収率で2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを合成できる。
2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルはポリエステルやポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドとして、液晶組成物、高分子改質剤、医薬中間体などとしての利用が考えられるため、その工業的な意義は大きい。