(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼結体の表面において、前記結合相富化層が、前記焼結体の表面全体に対して、30面積%以上100面積%以下存在し、前記内部領域が、前記焼結体の表面全体に対して、0面積%以上70面積%以下存在する、請求項1に記載の工具。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
本実施形態の工具は、少なくとも切刃の一部が立方晶窒化硼素を含む焼結体(以下、「立方晶窒化硼素焼結体」という。)からなる。具体的には、本実施形態の工具は、立方晶窒化硼素焼結体と台金(基体)とが一体化された構成を有することが好ましい。台金としては、工具の台金として用いられ得るものであれば、特に限定はされず、例えば、超硬合金、サーメットおよびセラミックスが挙げられ、超硬合金が好ましい。ただし、本実施形態の工具は、当然ながら、台金を含まなくてもよい。このような構成を有する本実施形態の工具は、鉄系焼結合金や難削鋳鉄の機械加工において特に有効に用いることができる。また、一般的な金属の各種加工においても有効に用いることができる。ここで、「少なくとも切刃の一部」とは、工具が有する切刃のうち、被加工物と接触する部分を意味する。
【0015】
本実施形態の工具は、例えば、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、歯切工具、リーマ、およびタップ等として有用に用いることができる。
【0016】
本実施形態の工具における立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素と、結合相と、不可避不純物とからなる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、内部領域と、その内部領域の少なくとも一部の表面上に形成された結合相富化層と、を一体不可分に有する。
図1は、本実施形態の工具の一態様を示す模式断面図である。工具100は、立方晶窒化硼素焼結体10と台金20とを備え、立方晶窒化硼素焼結体10は、内部領域12と、その内部領域12の表面上に形成された結合相富化層14とを一体不可分に有する。ここで、「一体不可分」とは、立方晶窒化硼素焼結体の内部領域と結合相富化層との間でへき開していないことを意味する。内部領域は、15体積%以上90体積%以下の立方晶窒化硼素と、10体積%以上85体積%以下の結合相と不可避不純物との混合物とからなる。また、結合相富化層は、90体積%以上100体積%以下の結合相と不可避不純物との混合物と、0体積%以上10体積%以下の立方晶窒化硼素とからなる。つまり、結合相富化層は、立方晶窒化硼素を任意に含むものである。
【0017】
立方晶窒化硼素焼結体の内部領域において、内部領域の全体量(100体積%)に対して、立方晶窒化硼素の含有量が15体積%以上になり、結合相と不可避不純物との混合物の含有量が85体積%以下になると、立方晶窒化硼素焼結体の強度が高く維持されるため、耐欠損性が向上する。一方、立方晶窒化硼素焼結体の内部領域において、内部領域の全体量(100体積%)に対して、立方晶窒化硼素の含有量が90体積%以下になり、結合相と不可避不純物との混合物の含有量が10体積%以上になると、立方晶窒化硼素粒子同士の結合に必要な結合相の量を確保できるため、巣孔の増加を抑制することができる。そのため、巣孔を起点にした欠損の発生を防止できるので、耐欠損性が向上する。同様の観点から、内部領域は、20体積%以上90体積%以下の立方晶窒化硼素と、10体積%以上80体積%以下の結合相と不可避不純物との混合物とからなると好ましい。
立方晶窒化硼素焼結体の結合相富化層において、結合相富化層の全体量(100体積%)に対して、立方晶窒化硼素の含有量が10体積%以下になり、結合相と不可避不純物との混合物の含有量が90体積%以上になると、反応摩耗を抑制する効果をより高めことができる。そのため、クレーター摩耗の進行を抑制し、耐チッピング性および耐欠損性が向上する。
【0018】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体における結合相は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Co、NiおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、並びに、その元素とC、N、OおよびBからなる群より選択される少なくとも1種の元素との化合物、からなる群より選択される少なくとも1種を有する。その中でも、結合相は、好ましくは、Ti、Zr、Cr、W、Al、Co、NiおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、並びに、その元素とC、N、OおよびBからなる群より選択される少なくとも1種の元素との化合物、からなる群より選択される少なくとも1種を有する。また、結合相は、より好ましくは、Ti、Co、Cr、Ni、Al、AlN、Al
2O
3、AlB
2、TiN、TiC、Ti(C,N)、TiB
2、Cr
2N、WC、ZrO
2、ZrO、ZrN、ZrB
2およびSi
3N
4からなる群より選択される少なくとも2種の組成を有し、更に好ましくは、Co、Cr、Ni、Al
2O
3、TiN、TiC、Ti(C,N)、TiB
2、WC、ZrO
2、ZrO、ZrN、ZrB
2およびSi
3N
4からなる群より選択される少なくとも2種の組成を有する。これにより、立方晶窒化硼素焼結体の強度が向上する。
【0019】
本実施形態の工具は、立方晶窒化硼素焼結体の表面に結合相富化層を有すると、反応摩耗を抑制することができる。そのため、少なくとも切刃の一部における耐クレーター摩耗性が向上するので、耐チッピング性および耐欠損性を向上させることができる。また、結合相富化層は、CVDまたはPVDなどにより形成される従来の被覆層よりも、密着性に優れるため、工具の耐チッピング性および耐欠損性を低下させることなく、耐摩耗性を向上させることができる。
【0020】
立方晶窒化硼素焼結体において、その表面全体が結合相富化層であると特に好ましいが、表面全体が結合相富化層である必要はなく、内部領域の一部が露出していてもよい。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体の表面において、結合相富化層が、立方晶窒化硼素焼結体の表面全体(100面積%)に対して、30面積%以上100面積%以下存在し、内部領域が、立方晶窒化硼素焼結体の表面全体に対して、0面積%以上70面積%以下存在すると、好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の表面において、その表面全体に対して、結合相富化層が、30面積%以上存在し、内部領域が70面積%以下存在する(又は内部領域が存在しない)と、反応摩耗を抑制する効果が高まる傾向があるため、耐欠損性の低下を更に抑制することができる。
【0021】
結合相富化層の平均厚さが0.1μm以上であると、反応摩耗をより抑制する効果があるため、耐欠損性が更に向上する傾向にある。一方、結合相富化層の平均厚さが8.0μm以下であると、立方晶窒化硼素焼結体の表面における靱性が一層高まる傾向にあるため、耐欠損性が向上する傾向にある。そのため、結合相富化層の平均厚さは、0.1μm以上8.0μm以下であると好ましい。
【0022】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体に不可避的に含有される不純物である不可避不純物としては、原料粉末などに含まれるリチウムなどが挙げられる。不可避不純物の合計の含有量は、通常は立方晶窒化硼素焼結体の全体量に対して1質量%以下に抑えることができるので、本実施形態の特性値に影響を及ぼすことは極めて少ない。なお、不可避不純物の合計の含有量は少ないほど好ましく、その下限は特に限定されない。
【0023】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相富化層および内部領域における立方晶窒化硼素および結合相の含有量(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を、その表面に対して直交する方向に鏡面研磨する。次に、SEMを用いて、鏡面研磨して現れた立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察する。この際、SEMを用いて5,000〜20,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を反射電子像にて観察する。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域を立方晶窒化硼素と、灰色領域および白色領域を結合相と特定することができる。その後、SEMを用いて立方晶窒化硼素の上記断面の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から立方晶窒化硼素および結合相の占有面積をそれぞれ求め、その占有面積から含有量(体積%)を求める。このとき、立方晶窒化硼素焼結体の表面から深さ方向に、結合相および不可避不純物の合計量が90体積%以上100体積%以下となる範囲の領域を結合相富化層とし、結合相富化層よりも深い内部の領域を内部領域とした。また、上述の方法により得られた、任意の3箇所以上の組織写真から、結合相富化層の厚さを測定して、その平均値を結合相富化層の平均厚さとすることができる。
【0024】
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面とは、立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の断面である。立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を得る方法としては、例えばダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法を挙げることができる。
【0025】
結合相の組成は、市販のX線回折装置を用いて同定することができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「RINT TTRIII」)を用いて、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、下記条件で測定すると、結合相の組成を同定することができる。ここで測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:1/2°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.15mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:1°/min、2θ測定範囲:20〜50°という条件であるとよい。
【0026】
立方晶窒化硼素焼結体の表面全体に対する、結合相富化層の面積の比率(以下、「面積率」ともいう。)と内部領域の面積率は、SEMで撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、SEMを用いて1,000〜5,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の表面を反射電子像にて観察する。この際、立方晶窒化硼素焼結体の表面の組織写真をSEMを用いて撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、撮影した組織写真から結合相富化層の面積率と内部領域の面積率をそれぞれ求めることができる。組織写真の内部領域を塗りつぶし、画像解析ソフトの二値化処理にて、結合相富化層の面積率と内部領域の面積率を求めてもよい。面積率は、切削加工に影響を及ぼすすくい面または逃げ面の任意の位置にて測定することが好ましい。
【0027】
本実施形態の被覆工具は、上記の立方晶窒化硼素焼結体からなる工具と、その工具の表面に形成された被覆層とを有する。このような被覆工具であると、耐摩耗性が更に向上するため、好ましい。さらに、本実施形態の被覆工具は、立方晶窒化硼素焼結体の表面に結合相富化層を有する。結合相富化層の表面に、CVD法またはPVD法により、被覆層を形成すると、一層被覆層の密着性が向上する。これにより、被覆工具の耐チッピング性および耐欠損性が更に向上する。
【0028】
本実施形態に係る被覆層は、被覆工具の被覆層として使用されるものであれば、特に限定されない。本実施形態に係る被覆層は、第1の元素と、第2の元素とを含む化合物の層であることが好ましい。また、本実施形態に係る被覆層は、単層、または、2層以上の多層であることが好ましい。第1の元素は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。第2の元素は、C、N、OおよびBからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。被覆層がこれらのような構成を有する場合、被覆工具の耐摩耗性が更に向上する。
【0029】
被覆層の例として、TiN、TiC、Ti(C,N)、TiAlN、TiSiN、TiAlCrSiN及びAlCrNが挙げられる。被覆層は、単層、または、2層以上の多層のいずれでもよい。耐摩耗性を更に向上させる観点から、被覆層は、好ましくは、組成が異なる複数の層を交互に積層した構造を有する。被覆層が2層以上の多層である場合、各層の平均厚さは、5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0030】
被覆層全体の平均厚さは、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。被覆層全体の平均厚さが0.5μm以上である場合、耐摩耗性が更に高まる傾向にある。被覆層全体の平均厚さが20μm以下である場合、耐欠損性が更に高まる傾向にある。
【0031】
本実施形態の被覆工具における被覆層を構成する各層の厚さおよび被覆層全体の厚さは、被覆工具の断面組織から光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、本実施形態の被覆工具における各層の平均厚さおよび被覆層全体の平均厚さは、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所以上の断面から、各層の厚さおよび被覆層全体の厚さを測定して、その平均値を計算することで求めることができる。
【0032】
また、本実施形態の被覆工具における被覆層を構成する各層の組成は、本実施形態の被覆工具の断面組織から、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
【0033】
本実施形態の被覆工具における被覆層の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法およびイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、被覆層と立方晶窒化硼素焼結体との密着性に一層優れるので、さらに好ましい。
【0034】
例えば、本実施形態の工具の製造方法は、以下の工程(A)〜(H)を含む。
工程(A):平均粒径0.2〜5.0μmの立方晶窒化硼素15〜90体積%と、平均粒径0.05〜8.0μmの、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Co、NiおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または、上記元素とC、N、OおよびBからなる群より選択される少なくとも1種の元素との化合物の粉末10〜85体積%とを配合(ただし、これらの合計は100体積%である。)して原料粉を得る工程と、
工程(B):工程(A)において配合した原料粉を、超硬合金製ボールにて5〜24時間の湿式ボールミルにより混合し、混合物を準備する混合工程と、
工程(C):工程(B)において得られた混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、
工程(D):工程(C)において得られた成形体を超高圧発生装置に収容し、4.0〜7.0GPaの圧力にて1300〜1500℃の範囲の焼結温度で所定の時間保持し焼結して焼結体を得る焼結工程と、
工程(E):工程(D)において得られた焼結体を、放電加工機により工具形状に合わせて切り出す工程と、
工程(F):工程(E)において切り出した焼結体を、ろう付けにより台金と接合してホーニング前工具を得る工程と、
工程(G):工程(F)を経て得られたホーニング前工具にホーニング加工を施して結合相富化層形成前工具を得る工程と、
工程(H):工程(G)を経て得られた結合相富化層形成前工具に、ピコ秒レーザーの出力を4W〜12W、パルス幅を8ps〜27ps、周波数を800kHz〜1500kHz、ピコ秒レーザーを移動させる速さを800mm/s〜1500mm/sとする条件にて、ピコ秒レーザー処理を施すことにより、結合相富化層を形成する工程とを含む。
【0035】
本実施形態の被覆工具は、工程(A)から工程(H)までの各工程を経て得られた工具に対して、化学蒸着法または物理蒸着法を使用して、被覆層を形成することにより得られてもよい。
【0036】
工程(A)では、立方晶窒化硼素焼結体の内部領域の組成を調整することができる。配合する結合相の組成として、例えば、Ti、Co、Cr、Al、AlN、Al
2O
3、TiN、TiC、Ti(C,N)、TiB
2、WC、ZrO
2、ZrN、ZrB
2およびSi
3N
4が挙げられる。
【0037】
工程(B)では、所定の配合組成の原料粉を均一に混合させることができる。
【0038】
工程(C)では、工程(B)において得られた混合物を所定の形状に成形する。得られた成形体を以下の工程(D)(焼結工程)において焼結する。
【0039】
工程(D)では、4.0〜7.0GPaの圧力にて1300〜1500℃の範囲の温度で焼結することにより、立方晶窒化硼素焼結体を作製することができる。
【0040】
工程(E)では、放電加工機を用いることにより、立方晶窒化硼素焼結体を任意の工具形状に切り出すことができる。
【0041】
工程(F)では、切り出した立方晶窒化硼素焼結体と、台金とをろう付けにより接合することができる。
【0042】
工程(G)では、ホーニング加工を施すことにより、切れ刃の強度を向上させることができる。
【0043】
工程(H)では、ピコ秒レーザーを用いて、結合相富化層を形成することができる。ピコ秒レーザーの出力を4W〜12W、パルス幅を8ps〜27ps、周波数を800kHz〜1500kHz、ピコ秒レーザーを移動させる速さを800mm/s〜1500mm/sの条件で調整することにより、結合相富化層における立方晶窒化硼素の含有量を10体積%以下にすると共に、結合相富化層の厚さを制御することができる。結合相富化層は、ピコ秒レーザーの出力を高くする、または周波数を高くするほど、厚くなる。さらに、立方晶窒化硼素焼結体の単位面積あたりにピコ秒レーザーを照射する時間が長くなるほど、結合相富化層は厚くなる。そのため、ピコ秒レーザーを移動させる速さを遅くした場合や、立方晶窒化硼素焼結体の同じ箇所に対して繰り返しピコ秒レーザーを照射した場合、結合相富化層は厚くなる。
【0044】
立方晶窒化硼素焼結体の表面における、結合相富化層の面積率と内部領域の面積率は、ピコ秒レーザーを照射する面積を調整することにより、制御することができる。また、研磨および研削により、結合相富化層を除去し、結合相富化層の面積率と内部領域の面積率を制御してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
平均粒径3.0μmの立方晶窒化硼素(以下、「cBN」という。)粉末、平均粒径1.0μmのTiN粉末、平均粒径1.0μmのTi(C,N)粉末、平均粒径1.0μmのTiC粉末、平均粒径0.5μmのTiB
2粉末、平均粒径0.6μmのZrO
2粉末、平均粒径1.0μmのAl
2O
3粉末、平均粒径2.0μmのWC粉末、平均粒径0.4μmのSi
3N
4粉末、平均粒径1.5μmのCo粉末、平均粒径8.0μmのCr粉末、平均粒径1.5μmのNi粉末、および平均粒径1.5μmのAl粉末を用いて表1に示す配合組成にて配合した。
【0047】
比較品4および比較品5については、内部側と表面側とにおいて組成が異なる層となるように、表1に示す配合組成にて配合した。
【0048】
【表1】
【0049】
配合した原料粉を超硬合金製ボールとヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに収容して、湿式ボールミルにより混合した。ボールミルにより混合して得られた混合物を圧粉成型して成形体を得た後、1.33×10
−3Pa、750℃の条件で仮焼結をし、仮焼結体を得た。得られた仮焼結体を超高圧高温発生装置に収容し、表2に示す条件で焼結し、発明品および比較品の立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0050】
【表2】
【0051】
こうして得られた立方晶窒化硼素焼結体を、放電加工機により所定の工具形状(下記参照。)に切り出す工程、超硬合金からなる台金にろう付けにより接合する工程、およびホーニング加工を施す工程を経て、ISO規格CNGA120408インサート形状の切削工具に加工した。なお、この加工の際、切刃の全部が立方晶窒化硼素焼結体からなるように、切削工具に加工した。
【0052】
切削工具に加工した後、発明品1〜16、比較品1、2の立方晶窒化硼素焼結体に対して、表3に示す条件でピコ秒レーザー処理を施した。このとき、発明品10〜16については、ピコ秒レーザー処理の照射面積の調整、およびピコ秒レーザー処理の後に研磨処理を行った。これにより、立方晶窒化硼素焼結体がその表面に有する結合相富化層の面積を制御した。比較品3の立方晶窒化硼素焼結体については、出力を30W、パルス幅を100ns、周波数を18kHz、ナノ秒レーザーを移動させる速さを2000mm/s、とする条件でナノ秒レーザーを用いて立方晶窒化硼素焼結体の表面を処理した。ナノ秒レーザーは、ピコ秒レーザー処理よりも立方晶窒化焼結体の表面から深さ方向に影響を及ぼす。そのため、ナノ秒レーザーを移動させる速さを大きくした。比較品4〜8については、ピコ秒レーザー処理を施さなかった。なお、比較品4、5については、立方晶窒化硼素焼結体の内部側と表面側とで、組成が異なる層が得られた。
【0053】
【表3】
【0054】
得られた立方晶窒化硼素焼結体工具の表面全体に対する、結合相富化層の面積率と内部領域の面積率は、SEMで撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めた。より具体的には、SEMを用いて2,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の表面を反射電子像にて観察した。この際、立方晶窒化硼素焼結体の表面の組織写真をSEMを用いて撮影した。市販の画像解析ソフトを用いて、撮影した組織写真から結合相富化層の面積率と内部領域の面積率をそれぞれ求めた。このとき、組織写真における内部領域を塗りつぶし、画像解析ソフトの二値化処理にて、結合相富化層の面積率と内部領域の面積率とをそれぞれ求めた。それらの値を表4に示した。なお、比較品については、立方晶窒化硼素焼結体の表面側と内部側とで組成が異なる場合、便宜上、表面側の領域を結合相富化層とし、内部側の領域を内部領域とした。
【0055】
【表4】
【0056】
ナノ秒レーザーを用いた比較品3は、立方晶窒化硼素焼結体の表面に亀裂が無数に存在していた。しかし、ピコ秒レーザー処理した試料は、亀裂が観察されなかった。
【0057】
こうして得られた工具について、X線回折測定を行って、立方晶窒化硼素焼結体の組成を調べた。また、SEMを用いて5,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の断面組織を撮影した。撮影した断面組織写真について、市販の画像解析ソフトを用いてcBNの含有量(体積%)、結合相の含有量(体積%)を測定した。このとき、立方晶窒化硼素焼結体の表面から深さ方向に、結合相および不可避不純物の合計量が90体積%以上100体積%以下となる領域の厚さを結合相富化層とし、結合相富化層よりも深い内部の領域を内部領域とした。また、任意の3箇所以上の断面組織写真から、結合相富化層の厚さを測定した。得られた厚さの平均値を結合相富化層の平均厚さとした。これらの結果を表5に示した。
【0058】
【表5】
【0059】
得られた工具を用いて、下記の切削試験(耐摩耗性試験)を行った。立方晶窒化硼素焼結体中のcBNの含有量に応じて、切削試験の条件を選択した。切削試験1が最も緩やかな条件での切削試験であり、切削試験1、切削試験2、切削試験3の順に条件が厳しくなる。その結果を表6、表7および表8に示す。但し、比較品5は、内部領域と結合相富化層との間に、亀裂(へき開)が発生していた。よって、比較品5は、切削試験による評価ができないと判断した。
【0060】
[切削試験1]
切削方法:外周連続切削(旋削)、
被削材:浸炭焼入れしたSCM420、
被削材形状:円柱φ100mm×250mm、
切削速度:180m/min、
切込み:0.15mm、
送り:0.15mm/rev、
クーラント:湿式、
評価試料:発明品1、12、13、比較品1、6
評価項目:試料が欠損したとき、または試料の最大逃げ面摩耗幅が0.15mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に達するまでの加工(切削)時間を測定した。
【0061】
[切削試験2]
切削方法:外周連続切削(旋削)、
被削材:浸炭焼入れしたSCM420、
被削材形状:円柱φ100mm×200mm、
切削速度:150m/min、
切込み:0.25mm、
送り:0.15mm/rev、
クーラント:湿式、
評価試料:発明品2、3、6〜11、16、比較品4、7
評価項目:試料が欠損したとき(欠損または微小なチッピング)、または試料の最大逃げ面摩耗幅が0.15mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に達するまでの加工(切削)時間を測定した。
【0062】
[切削試験3]
切削方法:外周連続切削(旋削)、
被削材:浸炭焼入れしたSCM420、
被削材形状:円柱φ100mm×200mm、
切削速度:120m/min、
切込み:0.25mm、
送り:0.20mm/rev、
クーラント:湿式、
評価試料:発明品4、5、14、15、比較品2、3、8
評価項目:試料が欠損したとき、または試料の最大逃げ面摩耗幅が0.15mmに至ったとき(正常摩耗)を工具寿命とし、工具寿命に達するまでの加工(切削)時間を測定した。
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
発明品の工具は、比較品の工具に比べて、加工時間が長くなった。したがって、発明品の工具は、耐摩耗性が向上したことにより、比較品に比べて工具寿命が長くなった。
【0067】
(
参考例
1)
実施例1の発明品1〜16の表面にPVD装置を用いて被覆層を形成した。具体的には、発明品1〜5の立方晶窒化硼素焼結体の表面に被覆層として平均厚さ3μmのTiN層を形成したものを
参考品17〜21とし、発明品6〜11の立方晶窒化硼素焼結体の表面に被覆層として平均厚さ3μmのTiAlN層を形成したものを
参考品22〜27とした。また、発明品12〜16の立方晶窒化硼素焼結体の表面に、1層あたりの平均厚さ3nmのTiAlNと、1層あたりの平均厚さ3nmのTiAlNbWNとを交互に500層ずつ積層した被覆層を形成したものを
参考品28〜32とした。
参考品17〜32について、実施例1と同じ切削試験を行った。その結果を表9、表10および表11に示す。
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
被覆層を形成した
参考品17〜32は、被覆層を形成していない場合よりも、さらに工具寿命を長くすることができた。
【0072】
本出願は、2015年12月4日出願の日本特許出願(特願2015−237489)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
少なくとも切刃の一部が立方晶窒化硼素を含む焼結体からなる工具であって、前記焼結体は、内部領域と、前記内部領域の少なくとも一部の表面上に形成された結合相富化層と、を一体不可分に有し、前記内部領域は、15体積%以上90体積%以下の立方晶窒化硼素と、10体積%以上85体積%以下の結合相と不可避不純物との混合物と、からなり、前記結合相富化層は、90体積%以上100体積%以下の前記結合相と前記不可避不純物との前記混合物と、0体積%以上10体積%以下の立方晶窒化硼素と、からなり、前記結合相は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Co、NiおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、並びに、前記元素と、C、N、OおよびBからなる群より選択される少なくとも1種の元素との化合物、からなる群より選択される少なくとも1種を含む、工具。