特許第6206700号(P6206700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206700ドリル孔あけ用エントリーシート及びドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206700
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ドリル孔あけ用エントリーシート及びドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26F 1/16 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   B26F1/16
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-68880(P2013-68880)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-188653(P2014-188653A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松山 洋介
(72)【発明者】
【氏名】羽崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】萩原 猪佐夫
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/158510(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/035771(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/093660(WO,A1)
【文献】 特開2008−098438(JP,A)
【文献】 特開2007−324183(JP,A)
【文献】 特開平04−092494(JP,A)
【文献】 特開平06−344297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 1/16
B23B 35/00
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属支持箔と、該金属支持箔の少なくとも片面に形成された水溶性樹脂組成物の層とを具える積層板または多層板用のドリル孔あけ用エントリーシートであって、
該水溶性樹脂組成物の層が、
1%水溶液の25℃における導電率が1mS/cm〜20mS/cmである結晶隔離剤(A)を含有し、該結晶隔離剤(A)の濃度が0.025〜6質量%である水溶液(D)に、水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を混合して調製した樹脂組成物水溶液(E)を、
金属支持箔に塗工し、その後80〜160℃で加熱乾燥して溶媒である水を蒸発し、冷却して固化させてなるものである、
ドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項2】
前記結晶隔離剤(A)が、25℃における水への溶解度が5g/水100g以上100g/水100g以下であることを特徴とする請求項1に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項3】
前記結晶隔離剤(A)が金属イオンを含み、かつ、該金属イオンのイオン化傾向が標準酸化還元電位E°=−3.5V以上−2.0V以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項4】
前記金属イオンが、リチウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンであることを特徴とする請求項3に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項5】
前記結晶隔離剤(A)が塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ギ酸カルシウム又は炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項6】
前記樹脂組成物水溶液(E)の調製方法が、結晶隔離剤(A)を、温度40℃以上80℃以下で水に均一に溶解させて結晶隔離剤水溶液(D)とし、次いで該水溶液(D)に対し、水溶性樹脂(B)、水溶性滑剤(C)の順に加えて均一に混合して樹脂組成物水溶液(E)を調製したものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項7】
前記水溶性樹脂組成物100質量部に対して水溶性樹脂(B)が5質量部以上40質量部以下を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項8】
前記水溶性樹脂組成物の層が、0.005〜0.3mmの厚みを有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項9】
前記金属支持箔と、前記水溶性樹脂組成物の層との間に、樹脂皮膜を更に備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項10】
前記樹脂皮膜に含まれる樹脂が、シアネート樹脂、エポキシ樹脂及びポリエステル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む、請求項9に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項11】
前記樹脂皮膜が、0.001〜0.02mmの厚みを有する、請求項9又は10に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項12】
前記金属支持箔が、0.05〜0.5mmの厚みを有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項13】
前記金属支持箔がアルミニウム箔であり、そのアルミニウム純度が95%以上である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項14】
積層板又は多層板のドリル孔あけ加工に用いられる、請求項1〜13のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
【請求項15】
1%水溶液の25℃における導電率が1mS/cm〜20mS/cmである結晶隔離剤(A)を0.025〜6質量%含有する結晶隔離剤水溶液(D)に、水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を、25〜80℃で溶解させた樹脂組成物水溶液(E)を、金属支持箔の少なくとも片面に塗布し、80〜160℃に加熱して乾燥し、冷却して固化し、該金属支持箔の少なくとも片面に水溶性樹脂組成物の層を具えるドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法。
【請求項16】
前記結晶隔離剤水溶液(D)が、比誘電率(ε)10以上40以下の低極性溶媒を2〜60質量%含むことを特徴とする請求項15に記載のドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法。
【請求項17】
前記冷却が、130℃から30℃へ1.5℃/秒以上の冷却速度で冷却するものであることを特徴とする請求項15又は16に記載のドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法。
【請求項18】
結晶隔離剤水溶液(D)に、水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を溶解させる温度が40〜80℃である請求項15〜17のいずれか1項に記載のドリル孔明け用エントリーシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板や多層板のドリル孔あけ加工の際に使用されるドリル孔あけ用エントリーシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板に使用される積層板又は多層板のドリル孔あけ加工方法は、一般的に、積層板又は多層板を1枚又は複数枚重ねて、その最上部に当て板としてアルミニウム等の金属箔単体又は金属箔表面に樹脂組成物層を形成したシート(以下、本明細書ではこのシートを、「ドリル孔あけ用エントリーシート」といい、単に「エントリーシート」ともいう。)を配置して孔あけ加工を行う方法が採用されている。なお、積層板としては、一般に銅張積層板が使用されることが多いが、外層に銅箔のない「積層板」であってもよい。本明細書では、特に明記しない限り、積層板は、銅張積層板及び/又は外層に銅箔のない「積層板」のことを指す。
【0003】
近年、プリント配線板材料である銅張積層板や多層板に対する要求として、高密度化の進展、生産性向上とコスト低減、信頼性向上があり、孔位置精度の向上や孔壁粗さの低減等の高品質な孔あけ加工が求められている。これらの要求に対応すべく、例えば特許文献1では、ポリエチレングリコールなどの水溶性樹脂からなるシートを使用した孔あけ加工法が提案されている。また、特許文献2では、ポリエーテルエステルと潤滑剤成分を含む水溶性樹脂組成物を形成した孔あけ用潤滑剤シートが提案されている。さらに、特許文献3では、水溶性樹脂を水、IPAの混合溶媒に溶解したものを用いてアルミニウム箔に水溶性樹脂層を形成した孔あけ用エントリーシートの製造方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、半導体技術の進展に比して、プリント配線板技術のそれは遅く、半導体技術との乖離がある。そのため、プリント配線板に対する高密度化と信頼性向上の要求は、益々高度化している。さらに、グローバル化による競争と新興国需要の取り込みのため、生産性向上とコスト低減要求もまた、とどまるところを知らない。よって、このような要求に応える新たなドリル孔あけ用エントリーシートの開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−92494号公報
【特許文献2】特開平6−344297号公報
【特許文献3】特開2007−324183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に挙げられるように、エントリーシートの樹脂組成物は複数の樹脂成分より構成され、それは、エントリーシートの特性、ハンドリング性、製造、コストの面から、適宜選択されるものである。その際、ドリルビットの小径化が進むにつれて、加工する孔面積がより小さくなる。そのため、孔あけ加工時の特性、つまり潤滑性やドリルビットの食い付き性を向上させる有効な成分が、より小さい面積に集合し、エントリーシートの樹脂組成物層内に均一に分散していることが、ドリル孔明け用エントリーシートの特性を最大に活かすために重要である。
【0007】
以上のことから、複数成分からなる樹脂組成物が均一であるドリル孔あけ用エントリーシートの開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、種々の検討を行った結果、金属支持箔の少なくとも片面上に樹脂組成物からなる層(以下、単に「樹脂組成物層」ともいう。)を有するドリル孔あけ用エントリーシートであって、樹脂組成物の成分として結晶隔離剤を含み、結晶隔離剤水溶液を用いて製造することにより、エントリーシートの樹脂組成物の均一性の向上を見出し、本発明を完成するに至った
【0009】
本発明は、結晶隔離剤(A)を樹脂組成物に配合することで、エントリーシートの樹脂組成物の樹脂成分の均一性を向上するものである。
【0010】
さらに、結晶隔離剤水溶液(D)に水溶性樹脂組成物を溶解させて樹脂組成物水溶液(E)を得、その後、金属支持箔表面に塗布し、乾燥工程において、溶媒を除去させることにより、得られるエントリーシートの樹脂組成物の樹脂成分の均一性を向上するものである。
【0011】
すなわち本発明は以下のようである。
[1]金属支持箔と、該金属支持箔の少なくとも片面に形成された水溶性樹脂組成物の層とを具える積層板または多層板用のドリル孔あけ用エントリーシートであって、
該水溶性樹脂組成物の層が、
1%水溶液の25℃における導電率が1mS/cm〜20mS/cmである結晶隔離剤(A)を含有し、該結晶隔離剤(A)の濃度が0.025〜6質量%である水溶液(D)に、水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を混合して調製した樹脂組成物水溶液(E)を、
金属支持箔に塗工し、その後80〜160℃で加熱乾燥して溶媒である水を蒸発し、冷却して固化させてなるものである、
ドリル孔あけ用エントリーシート。
[2]前記結晶隔離剤(A)が、25℃における水への溶解度が5g/水100g以上100g/水100g以下であることを特徴とする前記[1]に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
[3]前記結晶隔離剤(A)が金属イオンを含み、かつ、該金属イオンのイオン化傾向が標準酸化還元電位E°=−3.5V以上−2.0V以下であることを特徴とする前記[1]又は[2]のドリル孔あけ用エントリーシート。
[4]前記金属イオンが、リチウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンであることを特徴とする前記[3]のドリル孔あけ用エントリーシート。
[5]前記結晶隔離剤(A)が塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ギ酸カルシウム又は炭酸カリウムであることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[6]前記樹脂組成物水溶液(E)の調製方法が、結晶隔離剤(A)を、温度40℃以上80℃以下で水に均一に溶解させて結晶隔離剤水溶液(D)とし、次いで該水溶液(D)に対し、水溶性樹脂(B)、水溶性滑剤(C)の順に加えて均一に混合して樹脂組成物水溶液(E)を調製したものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のドリル孔あけ用エントリーシート。
[7]前記水溶性樹脂組成物100質量部に対して水溶性樹脂(B)が5質量部以上40質量部以下を含むことを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[8]前記水溶性樹脂組成物の層が、0.005〜0.3mmの厚みを有する、前記[1]〜[7]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[9]前記金属支持箔と、前記水溶性樹脂組成物の層との間に、樹脂皮膜を更に備える、前記[1]〜[8]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[10]前記樹脂皮膜に含まれる樹脂が、シアネート樹脂、エポキシ樹脂及びポリエステル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む、前記[9]のドリル孔あけ用エントリーシート。
[11]前記樹脂皮膜が、0.001〜0.02mmの厚みを有する、前記[9]又は[10]のドリル孔あけ用エントリーシート。
[12]前記金属支持箔が、0.05〜0.5mmの厚みを有する、前記[1]〜[11]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[13]前記金属支持箔がアルミニウム箔であり、そのアルミニウム純度が95%以上である、前記[1]〜[12]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[14]積層板又は多層板のドリル孔あけ加工に用いられる、前記[1]〜[13]のいずれか1つのドリル孔あけ用エントリーシート。
[15]1%水溶液の25℃における導電率が1mS/cm〜20mS/cmである結晶隔離剤(A)を0.025〜6質量%含有する結晶隔離剤水溶液(D)に、水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を、25〜80℃で溶解させた水溶性樹脂組成物水溶液(E)を、金属支持箔の少なくとも片面に塗布し、80〜160℃に加熱して乾燥し、冷却して固化することで、該金属支持箔の少なくとも片面に水溶性樹脂組成物の層を具えるドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法。
[16]前記結晶隔離剤水溶液(D)が、比誘電率(ε)10以上40以下の低極性溶媒を2〜60質量%含むことを特徴とする前記[15]のドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法。
[17]前記冷却が、130℃から30℃へ1.5℃/秒以上の冷却速度で冷却するものであることを特徴とする前記[15]又は[16]のドリル孔あけ用エントリーシートの製造方法。
[18]結晶隔離剤水溶液(D)に水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を溶解させる温度が40〜80℃である[15]〜[17]のいずれか1つのドリル孔明け用エントリーシートの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のドリル孔あけ用エントリーシートに比べて、樹脂組成物の均一性を向上させたドリル孔あけ用エントリーシート、及びそのドリル孔あけ用エントリーシートを用いたドリル孔あけ方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】結晶隔離剤種類、添加量、樹脂種類、固化条件における樹脂組成物層の固化時間比較
図2】結晶隔離剤種類、添加量、樹脂種類、固化条件における樹脂組成物層の固化温度比較
図3】結晶隔離剤種類、添加量、樹脂種類、固化条件における樹脂組成物層の結晶粒径比較
図4】樹脂組成物の水溶性樹脂(B)の配合割合における樹脂組成物層の固化時間比較
図5】樹脂組成物の水溶性樹脂(B)の配合割合における樹脂組成物層の固化温度比較
図6】樹脂組成物の水溶性樹脂(B)の配合割合における樹脂組成物層の結晶粒径比較
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
本実施形態のドリル孔あけ用エントリーシートは、金属支持箔と、該金属支持箔の少なくとも片面上に形成された樹脂組成物からなる層とを備えるドリル孔あけ用エントリーシートであって、該樹脂組成物が、1%水溶液の25℃における導電率が1mS/cm〜20mS/cmである結晶隔離剤(A)、水溶性樹脂(B)、水溶性滑剤(C)からなる混合物であって、結晶隔離剤(A)の水溶液濃度が0.025質量%以上6質量%以下の結晶隔離剤水溶液(D)と水溶性樹脂(B)、水溶性滑剤(C)からなる樹脂組成物溶液を、80℃以上160℃以下の温度で溶媒が蒸発するまで乾燥した後、冷却、固化させてなる水溶性樹脂組成物である。
【0016】
本実施形態で用いられる結晶隔離剤(A)について、一般的に用いられる水に可溶な金属イオンを含む電解質であれば特に限定されるものではない。特に、入手性、ハンドリング性の観点から、有機塩や無機塩が好ましい。有機塩として安息香酸塩、ギ酸塩、カルボン酸塩、酢酸塩、有機リン酸塩、スルホン酸塩などが挙げられる。具体的には、安息香酸ナトリウム、ギ酸カルシウム、酢酸ナトリウム3水和物などが挙げられる。無機塩として炭酸塩、硫酸塩、塩化物などが挙げられる。例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム6水和物などが挙げられる。該結晶隔離剤(A)を1種もしくは2種以上を適宜配合して使用することも可能である。発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、炭酸水素ナトリウム、ギ酸カルシウム、炭酸カリウムであると特に好ましい。
【0017】
本実施形態で用いられる結晶隔離剤(A)の導電率について以下に述べる。結晶隔離剤(A)が水に溶解した際の導電率が高いほど、水溶液中において樹脂成分と電気的に反発するため、結晶化する際に樹脂成分同士の凝集を抑制し、樹脂結晶が微細化し、より均一な樹脂組成物層が得られる。結晶隔離剤(A)の1%水溶液の導電率が1mS/cm〜20mS/cmの範囲が好ましく、5mS/cm〜15mS/cmの範囲がより好ましく、さらには10mS/cm〜15mS/cmの範囲が好ましい。導電率が1mS/cm以上であれば、樹脂成分の凝集を抑制する効果が十分に発揮でき、樹脂組成物層の樹脂成分を有効かつ確実に均一にすることができる。さらに、20mS/cm以下の場合、結晶隔離剤(A)が樹脂組成物層の表面に析出することなく、良好なエントリーシートが得られる。さらに、コスト、製造面の観点から該範囲の結晶化隔離剤(A)を用いることで、樹脂組成物層の樹脂成分を有効かつ確実に均一にすることができる。例えば、導電率が1未満の場合、ペンタエリスリトールやトリメチロールプロパンなどのアルコール類は水に可溶であるものの、水中で電離しない物質の導電率はほぼ0であるため、樹脂の結晶を隔離する作用は小さく、樹脂組成物層の樹脂成分を均一にすることができない。
【0018】
本実施形態で用いられる結晶隔離剤(A)の溶媒への溶解度について以下に述べる。結晶隔離剤(A)は水に溶解し、乾燥工程を経て、高濃度溶液になる過程において、樹脂結晶を隔離する効果を発揮するため、水への溶解度が5g/水100g以上100g/水100g以下であることが好ましい。さらに、10g/水100g以上100g/水100g以下であることが好ましく、50g/水100g以上100g/水100g以下であることがさらに好ましい。結晶隔離剤(A)の水への溶解度が5g/水100g以上の場合、高い結晶隔離効果を発揮する。一方、100g/水100g以下の場合、乾燥工程における水が減少する過程で、結晶隔離剤(A)の飽和溶液状態に早く到達するために、樹脂結晶の隔離作用が極めて高くなる。これは、結晶隔離剤(A)の飽和溶液が存在することで、乾燥工程における樹脂が析出する際に、樹脂同士の結合、凝集が抑制されるためである。
【0019】
本実施形態で用いられる結晶隔離剤(A)は金属イオンを含むことが好ましい。さらに金属イオンのイオン化傾向が標準酸化還元電位E°=−3.5V以上−2.0V以下が好ましい。−3.0V以上−2.5V以下がより好ましく、さらには、−3.0V以上−2.5V以下が好ましい。結晶隔離剤(A)に含まれる金属イオンのイオン化傾向が−2.0V以下では、結晶隔離剤(A)が水に溶けやすく、均一に分散しやすくなるため、より一層結晶隔離効果が高くなる。
【0020】
本実施形態で用いられる結晶隔離剤(A)は、金属イオンを生じる電解質である必要がある。具体的には、該金属イオンは、安定性、入手性、ハンドリング性の観点から、リチウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン)、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンであることが好ましい。
【0021】
本実施形態で用いられる水溶性樹脂(B)は、比較的分子量の高いものである。前記水溶性樹脂組成物をシート状に形成するためには、成膜性が必要で、水溶性樹脂は水溶性樹脂組成物に成膜性を付与するために配合され、その分子構造は問わないが、重量平均分子量(Mw)が60,000以上400,000以下であることが好ましい。例えば、該水溶性樹脂は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリテトラメチレングリコール及びポリアルキレングリコールのポリエステルからなる群から選択された1種類以上であることが好ましい。セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。ここで、ポリアルキレングリコールのポリエステルとは、ポリアルキレングリコールと二塩基酸とを反応させて得られる縮合物である。ポリアルキレングリコールの例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールやこれらの共重合物で例示されるグリコール類が挙げられる。また、二塩基酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸等が挙げられる。また、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を部分エステル化してカルボキシル基を2個有する形にしたものでも良い。これらは、酸無水物でも良い。これらを1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能であるが、発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、ポリエチレンオキサイド(PEO)であることが、より好ましい。
【0022】
本実施形態で用いられる水溶性滑剤(C)は、比較的分子量の低いものである。該水溶性潤滑剤は、前記水溶性樹脂組成物に潤滑性を付与するために配合され、その分子構造は問わないが、重量平均分子量(Mw)が500以上25,000以下であることが好ましい。水溶性潤滑剤として、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール;ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどで例示されるポリオキシエチレンのモノエーテル類;ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート;ヘキサグリセリンモノステアレート、デカヘキサグリセリンモノステアレートなどで例示されるポリグリセリンモノステアレート類;ポリオキシエチレンプロピレン共重合体などが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜配合して使用することも可能であるが、発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、ポリエチレングリコール(PEG)であることが、より好ましい。
【0023】
本実施形態に係る水溶性樹脂(B)と水溶性滑剤(C)の配合量は、水溶性樹脂(B)と水溶性滑剤(C)とからなる水溶性樹脂混合物の合計100質量部中において、水溶性樹脂(B)が3質量部から80質量部、水溶性滑剤(C)が20質量部から97質量部の範囲であることが好ましい。水溶性樹脂(B)が3質量部以上ではシート形成性が特に向上し、一方、水溶性樹脂(B)が80質量部以下では、樹脂組成物の溶融粘度が高くならず、ドリルビットへの樹脂巻き付きが抑制される。
【0024】
本実施形態では、結晶隔離剤(A)、水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を含む樹脂組成物は、結晶隔離剤水溶液(D)に水溶性樹脂(B)及び水溶性滑剤(C)を混合した溶液から調製される。用いられる結晶隔離剤水溶液(D)の濃度について、結晶隔離剤(A)の水溶液濃度は0.025質量%以上6質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%がより好ましく、さらに0.05質量%以上1質量%以下が好ましい。結晶隔離剤水溶液(D)の濃度が0.025質量%以上で、樹脂成分の結晶隔離効果を十分に発揮することができ、6質量%以下では、より高い結晶隔離効果を発揮するとともに、結晶隔離剤(A)が水溶性樹脂組成物層表面に析出することなく一層良好な樹脂組成物層を形成することができる。
【0025】
本実施形態に係る結晶隔離剤水溶液(D)の調製方法としては、結晶隔離剤(A)を水に溶解、分散させる過程において加熱しながら溶解、分散させることが好ましい。例えば、25℃よりも高く80℃以下の湯浴中で加熱しながら溶解することが好ましい。加熱しながら溶解することで、結晶隔離剤の熱運動によって、より効果的に水中に分散し、結晶隔離剤(A)がより均一になることで、本発明の効果がさらに向上する。
【0026】
本実施形態に係る結晶隔離剤水溶液(D)に使用する水について、特に限定はされないが、不純物やイオンを含まない純水が好ましい。具体的には、結晶隔離剤(A)の効果を十分に発揮するために、イオン交換水、蒸留水がより好ましい。
【0027】
本願における結晶隔離剤(A)が樹脂組成物の均一性を向上させるメカニズムについては以下の通りである。一般的に孔あけ用エントリーシートに用いる樹脂組成物は、重量平均分子量100,000程度の高分子量体の樹脂と重量平均分子量数千程度の低分子量体の樹脂の組み合わせが用いられる。これらの樹脂は、分子量が極端に違うために必ずしも相溶性が良くなく、低温では分離してしまう。例えば、高分子量体のポリエチレンオキサイドと低分子量体のポリエチレングリコールの水溶液では、80℃に加温した希薄水溶液であれば両者は水溶液中に均一に分散するが、20℃ではポリエチレンオキサイドが析出した状態となる。しかし、エントリーシートとして使用するには、樹脂組成物に含まれる高分子量体と低分子量体の樹脂が出来る限り均一状態になっていることが好ましく、ミクロ相分離状態で固化(結晶化)することが望ましい。なぜならば、高分子量体と分子量体がミクロ相分離状態で固化しない場合、樹脂組成物が結晶化する前に、結晶化しやすい高分子量体の微小粒が結合してしまい、大きな高分子量体の粒子となる。このような粒子の結合が起きると高分子量体と低分子量体の均一性が損なわれてしまい、孔あけ用エントリーシートの特性が悪化する。
【0028】
なお、孔あけ用エントリーシートに用いる樹脂組成物の均一性を判断する指標として、樹脂組成物層表面の結晶の粒径を測定し、該結晶の粒径が小さくなるほど、樹脂組成物の均一性が高いと判断することができる。
【0029】
ここで、高分子量体と分子量体を均一状態にする方法として、水系溶媒に溶解した後に金属支持箔に塗布し、乾燥固化する方法の場合、高分子量体と分子量体および結晶隔離剤を水系溶媒(水・アルコールなどの混合液)に加えて加熱溶解する事で均一化させる。この樹脂溶液を塗布し、水を蒸発させてから冷却する事により、ミクロ相分離状態で固化した樹脂層を形成する。結晶隔離剤は、この蒸発過程でのミクロ相分離の状態を維持する効果がある。
【0030】
樹脂組成物の結晶化のメカニズムに関して、多成分系での結晶化においては、融点の高い結晶化し易い成分から結晶化が開始し、温度が低下するに連れて全体が固化する現象が一般的である。すなわち、結晶化しやすい成分の塊の周りを結晶化しにくい物質が囲んだ状態になる。また、最も結晶化しにくい成分が結晶の表面に集まり、時には液溜まりになることもある。
【0031】
ここで、具体的な製造プロセスに基づき、結晶隔離剤の作用について説明する。まず、結晶隔離剤の水溶液を作る。この時、水中で結晶隔離剤が電離する。水溶性樹脂組成物を、前記結晶隔離剤水溶液(D)に混合、撹拌して樹脂組成物水溶液(E)を調製する。溶解しやすくするため、加温しながら混合する。コーティング方式の製造装置を用いて、前記樹脂組成物水溶液(E)(水溶性樹脂組成物+結晶隔離剤+水)を、金属支持箔上に、塗布し、乾燥工程で、溶媒の沸点以上の温度で加熱して水分を蒸発し、冷却工程を経て、固化させる。樹脂組成物水溶液(E)の状態では、結晶隔離剤は水に易溶であるため、イオンは、樹脂組成物水溶液(E)の水相に均一に溶解、分散している。しかし、その他の樹脂には溶解していない。また、樹脂組成物水溶液(E)の乾燥工程における水分が蒸発する過程では、樹脂組成物水溶液(E)の濃度が高まるにつれ、水相と樹脂とが相分離を起こす。さらに、樹脂組成物水溶液(E)の濃度が高まるにつれ、樹脂が析出する。この時、より高分子量体の樹脂が析出しやすい。一方、水が蒸発することで、水相における結晶隔離剤の濃度も高まる。樹脂が析出する際に、高濃度に結晶隔離剤を含有する水相が高分子量体の樹脂相粒子間に存在して、隣接した分子と結合または凝集することを抑制する。これは、結晶隔離剤の濃度が高まることで、溶融した樹脂相粒子に囲まれる形で水相がミクロなミセルをいたるところに多数形成するためである。つまり、溶融した樹脂中に高濃度の結晶隔離剤水溶液の相が存在する。その際に、熱溶融した樹脂は、高濃度の結晶隔離剤水溶液と相分離するために、隣接した分子の塊同士の結合を阻害し、各樹脂は凝集せずに、均一に分散される。その結果、樹脂粒子同士が結合することなくミクロ相分離状態を維持でき、ミクロ相分離状態で結晶化させることができる。
【0032】
一方、熱溶融した樹脂組成物に固体の結晶隔離剤を添加して十分に分散させても樹脂組成物の結晶の微細化は起きない。これは、樹脂組成物層を形成する際に、結晶隔離剤の水溶液と樹脂組成物が共存することで、樹脂組成物水溶液の乾燥、固化において樹脂成分の相と水相との分離が生じていることが必須要件であることの裏付けである。
【0033】
さらに、前記した結晶隔離剤が樹脂成分を隔離していることを確認する手段として、樹脂組成物層を切断し、該層内おける金属イオンの分布を分析する方法などが挙げられる。具体的な分析手法は、樹脂組成物層面からクロスセクションポリッシャー(日本電子データム株式会社製 CROSS-SECTION POLISHER SM-09010)、又はウルトラミクロトーム(Leica社製 EM UC7)にてドリル孔あけ用エントリーシートを樹脂組成物層に対して垂直方向に切断する。該切断面をTOF-SIMS(Time of flight secondary ion mass spectrometer : 飛行時間質量分析計)などで、結晶隔離剤成分を同定する。その際、樹脂組成物の結晶粒界面に偏在している状態であれば、結晶隔離効果を発揮していることを示す。
【0034】
前述したメカニズムに基づき、結晶隔離剤となり得る条件は、水に溶け易く、水溶液状態でイオン化し、高濃度水溶液状態で水溶性樹脂組成物と相分離する物質であることが必要である。
【0035】
本実施形態で使用される樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤を更に含有することができる。そのような添加剤の種類としては、特に限定されることはないが、例えば、表面調整剤、レベリング剤、帯電防止剤、乳化剤、消泡剤、ワックス添加剤、カップリング剤、レオロジーコントロール剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、光安定剤、核剤、有機フィラー、無機フィラー、固体潤滑剤、熱安定化剤、着色剤が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
本実施形態に係る樹脂組成物水溶液(E)の調製方法としては、工業的に使用される公知の方法であれば、特に限定されない。本発明のエントリーシートの樹脂組成物層を形成する際の中間品として、結晶隔離剤(A)と水溶性樹脂成分と水が含まれる樹脂組成物水溶液(E)が存在すれば良い。そのため、樹脂組成物水溶液(E)を調製するための各成分の投入順番は特に限定されない。例えば、結晶隔離剤(A)を含む結晶隔離剤水溶液(D)に、単一および複数からなる水溶性樹脂成分を分散、溶解させて水溶性樹脂組成物の水溶液とする方法などが、樹脂組成物水溶液内の各成分の均一性から好ましい。
【0037】
本実施形態に係る樹脂組成物水溶液(E)の調製方法としては、各成分を溶解、分散させる過程において加熱しながら溶解、分散させることが好ましい。例えば、25℃よりも高く80℃以下の湯浴中で加熱しながら溶解することが好ましい。さらに、30℃よりも高く80℃以下の温度がより好ましく、40℃よりも高く80℃以下の温度が特に好ましい。樹脂組成物水溶液(E)を調製する温度が25℃以上では水溶性樹脂成分がより効果的に分散し、エントリーシートの樹脂組成物層内の各成分が均一になることで、本発明の効果がさらに向上する。また、80℃以下では樹脂組成物水溶液(E)中の溶媒の蒸発量を抑えることができ、濃度の変化量も小さくなるため、樹脂組成物層の厚みのばらつきや表面の畝を抑制することができる。
【0038】
本実施形態に係る結晶隔離剤水溶液(D)について、比誘電率(ε)10以上40以下の極性が水よりも低い溶媒(以下、低極性溶媒)を含有することが好ましい。低極性溶媒を使用することで、結晶隔離剤(A)は低極性溶媒への溶解性が小さいため、乾燥工程において、より高濃度の結晶隔離剤水溶液が存在し得るために、樹脂組成物層の樹脂成分を均一にさせる効果が極めて高くなる。例えば、低極性溶媒として、コスト、入手性、ハンドリングの観点から、エタノール、メタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコール類、さらにメチルエチルケトンやアセトンなどからなる群より選択される1種以上の有機溶媒と水とからなる混合溶媒が好ましい。溶媒は、メタノールと水とからなる混合溶媒がより好ましい。因みに、各溶媒の比誘電率(ε)は、純水で80、エタノールで24、メタノールで33、イソプロピルアルコールで20、メチルエチルケトンで18.5、アセトンで20である。
【0039】
本実施形態に係る結晶隔離剤水溶液(D)について、低極性溶媒の溶媒に対する配合割合は、2〜60質量%含有することが好ましい。さらには、5〜50質量%が好ましく、10質量%〜50質量%がより好ましい。溶媒に対して低極性溶媒を2質量%以上配合することで、更に結晶隔離効果が向上し、樹脂組成物層の樹脂成分の均一性が向上する。また、60質量%以下では水溶性樹脂が均一に溶媒に分散することが可能となり、さらに樹脂組成物の凝集が生じにくくなり、さらに樹脂組成物の均一性が向上する。さらに、該低極性溶媒を用いることで、防腐・防黴性の点、下地への濡れ性を向上させる点、樹脂組成物溶液の粘度を下げて濾過効率や泡抜け性を向上させる点、また、極性を下げて破泡性を向上させる点から好ましい。
【0040】
本実施形態における樹脂組成物水溶液(E)の乾燥条件について、水溶性樹脂組成物層の厚みによって、最適化することが望ましい。具体的には、乾燥温度は80℃以上160℃以下の範囲が好ましく、乾燥温度は100℃以上150℃以下の範囲がさらに好ましく、乾燥温度は100℃以上140℃以下の範囲がより一層好ましい。なお、樹脂組成物層表面の平滑化や、樹脂組成物層内の気泡発生の抑制のために、段階的に乾燥温度を上昇させることが好ましい。乾燥温度が80℃以上で、樹脂組成物水溶液(E)の溶媒が除去され、高濃度の結晶隔離剤(A)の水溶液の微小液滴が、水溶性樹脂(B)と水溶性滑剤(C)の融解粒子のまわりに存在することで、結晶隔離効果が極めて高くなり、樹脂組成物の樹脂成分の均一化が向上する。一方、乾燥温度が200℃以下の場合、水溶性樹脂組成物の熱分解が抑制されることで、エントリーシートに求められる樹脂本来の特性を十分に発揮することができる。さらには、樹脂組成層表面の平滑性が向上する。
【0041】
本実施形態における溶融した水溶性樹脂組成物の冷却条件について、水溶性樹脂組成物層の厚みによって、最適化することが望ましい。ドリル孔あけ用エントリーシートの水溶性樹脂組成物の冷却条件は、一般的には冷却速度が1.2℃/秒未満である。具体的には、冷却速度1.2℃/秒未満でもよいが、冷却開始温度120℃〜160℃から冷却終了温度25℃〜40℃へと、1.5℃/秒以上の冷却速度で冷却させることが好ましい。冷却に所要する時間は短ければ短いほど良いが、60秒以内あることが好ましい。むろん、冷却終了温度は、水溶性樹脂組成物の固化温度よりも低い温度に設定する必要がある。前記冷却終了温度が15℃以上では、前記水溶性樹脂組成物層の収縮によるエントリーシートの反りが生じることなく、後工程における結露も生じることがない。また、前記冷却速度が1.5℃/秒未満では、冷却時間の短縮ができ、発明の目的をより有効かつ確実に達成することが可能になる。したがって、冷却条件は、温度120℃〜160℃から温度25℃〜40℃へと、2℃/秒以上の冷却速度で冷却させることがより好ましく、温度120℃〜160℃から温度25℃〜40℃へと、2.5℃/秒以上の冷却速度で冷却させることがより好ましく、温度120℃〜160℃から温度25℃〜40℃へと、3℃/秒以上の冷却速度で冷却させることがより好ましく、温度120℃〜160℃から温度25℃〜40℃へと4.5℃/秒以上の冷却速度で冷却させることがさらに好ましく、温度120℃〜160℃から温度25℃〜40℃へと、6℃/秒以上の冷却速度で冷却させることが最も好ましい。
【0042】
樹脂組成物溶液を用いる場合の、溶液100質量%に対する溶液中の樹脂固形分の質量パーセント濃度(以下、単に「樹脂固形分濃度」という。)は、特に限定されないが、10〜60質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。樹脂固形分濃度が10質量%以上であると、エントリーシートの生産性が向上する。樹脂固形分濃度が60質量%以下であると、樹脂組成物溶液の粘度が高くなり難く、塗布時の樹脂組成物層の厚みや平滑性などの制御が更に容易となる。その結果、樹脂組成物層の表面状態が荒れるのを抑制し、表面のより平滑な樹脂組成物層が得られるので、ドリル孔あけ加工時に更に良好な孔位置精度が得られる。
【0043】
本実施形態に係る水溶性樹脂組成物層を形成する方法としては、溶媒に溶解もしくは分散させた液状として、金属支持箔の少なくとも片面に塗工、乾燥させて冷却、固化させて水溶性樹脂組成物層を形成する方法や、予め水溶性樹脂組成物層を形成した後に、金属支持箔の少なくとも片面に水溶性樹脂組成物層を重ね、ロール等で加熱するか又は接着剤等により、貼り合わせる方法などがある。
【0044】
本実施形態に係る水溶性樹脂組成物層の製造方法としては、工業的に使用される公知の方法であれば、特に限定されない。具体的には、水溶性樹脂組成物の溶液を、ロール法、カーテンコート法、ダイコート法、バーコート法などで、離型フィルムや金属支持箔上に水溶性樹脂組成物層を形成する方法などが例示される。また、水溶性樹脂組成物層を形成する金属支持箔の表層に予め樹脂皮膜が形成されていることは、金属支持箔と水溶性樹脂組成物層を積層一体化させる上で好都合である。
【0045】
本実施形態のドリル孔あけ用エントリーシートに備えられる金属支持箔は、0.05〜0.5mmの厚みを有すると好ましく、0.05〜0.3mmの厚みを有するとより好ましい。金属支持箔の厚みが0.05mm以上であると、ドリル孔あけ加工時に積層板のバリの発生を更に抑制することができ、一方、0.5mm以下であると、ドリル孔あけ加工時に発生する切削屑の排出が更に容易になる。また、金属支持箔の金属種としては、入手性、コスト、加工性の観点からアルミニウムが好ましく、アルミニウム箔の材質としては、アルミニウム純度95%以上のものが好ましい。そのようなアルミニウム箔としては、具体的にはJIS H4160(2006)に規定される、5052、3004、3003、1N30、1N99、1050、1070、1085、1100、8021が例示される。金属支持箔にアルミニウム純度95%以上のアルミニウム箔を用いることで、ドリルビットの衝撃の緩和及び食いつき性が向上し、ドリル孔あけ加工孔の孔位置精度を更に向上させることができる。
【0046】
また、金属支持箔に、予め樹脂皮膜が形成されているものを用いると、樹脂組成物層との密着性を更に向上できる点から好ましい。すなわち、本実施形態のエントリーシートが、金属支持箔と樹脂組成物層との間に樹脂皮膜を備えると好ましい。密着性、コスト、孔あけ特性の観点から、樹脂皮膜は、0.001〜0.02mmの厚みを有すると好ましく、0.005〜0.015mmの厚みを有するとより好ましい。樹脂皮膜に含まれる樹脂は特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、それらを併用してもよい。熱可塑性樹脂としては、ウレタン系重合体、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリエステル系重合体及びそれらの共重合体が例示される。また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、及びシアネート樹脂が例示される。これらのなかでは、密着性、孔あけ特性の観点から、好適には、エポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエステル系重合体、ポリエステル系共重合体、不飽和ポリエステル樹脂)が挙げられる。また、本実施形態で用いる金属支持箔としては、市販の金属箔に予め樹脂皮膜を公知の方法でコーティングしたものを用いてもよい。
【0047】
本実施形態のドリル孔あけ用エントリーシートは、積層板又は多層板のドリル孔あけ加工に用いられると、本発明の目的をより有効かつ確実に奏するので好ましい。また、そのドリル孔あけ加工は、直径0.05mmφ以上0.3mmφ以下のドリルビットによるドリル孔あけ加工であると、本発明の目的を更に有効かつ確実に奏することができる。特に、孔位置精度が重要になる直径0.05mmφ以上0.15mmφ以下の小径のドリルビット用途、なかでも、0.05mmφ以上0.105mmφ以下の極小径のドリルビット用途であると、孔位置精度を大きく向上させる点で好適である。なお、0.05mmφのドリルビット径は、入手可能なドリルビット径の下限であり、これよりも小径のドリルビットが入手可能になれば、上記の限りではない。また、直径0.3mmφ超のドリルビットを用いるドリル孔あけ加工に、本実施形態のエントリーシートを採用しても問題ない。
【0048】
本実施形態のドリル孔あけ用エントリーシートにおける樹脂組成物層の厚みは、ドリル孔あけ加工の際に使用するドリルビット径、積層板又は多層板の構成などによって異なるが、0.005〜0.3mmの範囲であると好ましく、0.01〜0.2mmの範囲であるとより好ましく、0.02〜0.12mmの範囲であると更に好ましい。樹脂組成物層の厚みが、0.005mm以上であることにより、更に十分な潤滑効果が得られ、孔壁粗さの悪化を抑制できる。樹脂組成物層の厚みが、0.3mm以下の場合、ドリルビットへの樹脂巻き付きが抑制される効果を発揮する。
【0049】
ドリル孔あけ用エントリーシートを構成する各層の厚みは、次のようにして測定する。すなわち、ドリル孔あけ用エントリーシートの樹脂組成物層側の表面から、クロスセクションポリッシャー(日本電子データム株式会社製、商品名「CROSS-SECTION POLISHER SM-09010」)、又はウルトラミクロトーム(Leica社製、商品名「EM UC7」)を用いて、ドリル孔あけ用エントリーシートをその各層の積層方向に切断する。その後、SEM(走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)、KEYENCE社製、品番「VE−7800」)を用いて、切断して現れた断面に対して垂直方向からその断面を観察し、金属箔及び樹脂組成物層、並びに必要に応じて樹脂皮膜の厚みを測定する。1視野に対して、5箇所の厚みを測定し、その平均値を各層の厚みとする。
【0050】
本実施形態のドリル孔あけ用エントリーシートを用いたドリル孔あけ加工は、例えば、プリント基板材料、より具体的には積層板又は多層板のドリル孔あけ加工である。積層板又は多層板などのプリント基板材料のドリル孔あけ加工である場合、本実施形態のエントリーシートを、1枚又は複数枚を重ねたものであってもよい積層板又は多層板の少なくとも最上面に、該エントリーシートの金属支持箔側がプリント基板材料に接するように配置し、ドリル孔あけ用エントリーシートの上面(樹脂組成物層の面)から、ドリル孔あけ加工をするものである。
【実施例】
【0051】
以下に実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、これらに限定されるものではない。また、本明細書では実施例、比較例の結果において、「ポリエチレングリコール」を「PEG」、「ポリエチレンオキサイド」を「PEO」、「ヒドロキシエチルセルロース」を「HEC」と略記することがある。
【0052】
表1、2、3に、実施例及び比較例のドリル孔あけ用エントリーシートの製造に用いる、水溶性樹脂、水溶性樹脂組成物における樹脂成分の配合割合、結晶隔離剤及びその対照化合物の原料仕様、各物性値を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
<実施例1>
0.3%の塩化ナトリウム(関東化学株式会社製)水溶液を調製した。その水溶液に、加温しながら、水溶液49質量部に対して9質量部のPEO(アルトップMG−150、明成工業化学株式会社製)と21質量部のPEG(PEG4000S、三洋化成工業株式会社製)の水溶性樹脂を溶解し、樹脂組成物水溶液を得た。さらに樹脂組成物水溶液の水49質量部に対して、メタノールを21質量部加え撹拌し、樹脂組成物溶液を得た。このとき、樹脂組成物溶液の樹脂固形分は30%で、かつ水とメタノールの配合比率は70:30となる。この樹脂組成物溶液を、厚み0.01mmのエポキシ樹脂皮膜を形成したアルミニウム箔(3003材、厚み0.12mm、三菱アルミニウム株式会社製)の片面に、バーコーターを用いて、乾燥後の樹脂組成物層が0.05mmになるように塗布した。その後、乾燥機にて120℃、5分間乾燥させ、20℃の金属板に樹脂組成物層反対面のアルミニウム箔表面を接触させて樹脂組成物を冷却固化させ、ドリル孔あけ用エントリーシートを作製した。
【0057】
<実施例2〜51、参考例1〜3、比較例1〜38>
表4〜11に示す添加剤種類、添加剤水溶液濃度、樹脂組成物種類、固化条件を用いて、実施例1のシート作製手順に準じて、ドリル孔あけ用エントリーシートを作製した。
【0058】
<評価方法>
実施例、参考例、及び比較例で作製したドリル孔あけ用エントリーシートの各サンプルについて、以下の評価を行った。
(1)固化時間測定:本発明では、樹脂組成物溶液をアルミニウム箔表面に塗布、乾燥させた後、冷却固化する際に、樹脂組成物層が完全に固化するまでの時間を計測し、それを樹脂組成物の固化時間とした。
(2)固化温度測定:本発明では、樹脂組成物の固化温度測定方法として、DSC(示差走査熱量計、SII Nano technology Inc.製 DSC6220)を用いた。条件として、得られた樹脂組成物溶液を30℃から120℃に昇温後、120℃で3分間保持、次いで、120℃から30℃に冷却後、30℃で3分間保持し、このとき昇温速度は+10℃/分、冷却速度は−10℃/分である。得られたデータから発熱ピークのピークトップ温度を樹脂組成物の固化温度とした。
(3)樹脂組成物層における樹脂成分の均一性評価:本発明では、エントリーシートの樹脂組成物層の表面を、V−LASER顕微鏡(VK−9510、KEYENCE CORPORATION)を用いて200倍の視野で観察し、任意に選択した50個の樹脂組成物の結晶粒の各最大直径について実測し、樹脂組成物の平均結晶粒径を算出した。これを樹脂組成物層における樹脂成分の均一性とした。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6