特許第6206714号(P6206714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206714
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20170925BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01M12/06 G
   H01M12/06 D
   H01M12/06 F
   H01M12/06 J
   H01M4/86 M
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-206660(P2013-206660)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-72744(P2015-72744A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】塚田 佳子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 格
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/128552(WO,A1)
【文献】 特開2012−028017(JP,A)
【文献】 特開2008−300346(JP,A)
【文献】 特開2010−170819(JP,A)
【文献】 特開2010−129495(JP,A)
【文献】 特開2013−187115(JP,A)
【文献】 特開2013−187113(JP,A)
【文献】 特開平07−201335(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/058035(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器内に、相対向して配置された正極及び負極と、これらの間に電解液を有する少なくとも1組の単電池が、直列に接続された複数組の単電池を収納して成る金属空気電池において、
上記電解液に酸素を供給する酸素供給手段を設け
上記単電池の正極を構成する正極触媒層が隣接する単電池の負極金属板上に直接形成されているか、又は上記単電池の正極を構成する正極触媒層が隣接する単電池の負極金属を裏面側に備えた金属板からなる集電体上に直接形成されている
ことを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
上記負極金属又は集電体の周囲に枠材が固定されていることを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項3】
上記正極を構成する正極触媒層が酸素の吸着機能又は酸素を含むガスのトラップ機能を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属空気電池。
【請求項4】
上記酸素供給手段が電池容器の下方側から酸素を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の金属空気電池。
【請求項5】
上記酸素供給手段が正極に向けて酸素を供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の金属空気電池。
【請求項6】
電解液タンクと、該タンクと上記電池容器の間で電解液を循環させる循環手段を備え、上記酸素供給手段が電解液タンク内に酸素を供給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の金属空気電池。
【請求項7】
当該空気電池が注液式であって、上記酸素供給手段が注液前の電解液に酸素を供給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の金属空気電池。
【請求項8】
上記酸素供給手段は、酸素を含むガスのバブリングによって電解液中に酸素を供給することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の金属空気電池。
【請求項9】
上記集電体が、多孔質集電体を除く集電体であることを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を正極活物質として利用する空気電池に係り、特に、正極側に空気を取り込むための撥水膜や空気孔を備える必要がなく、部品点数の減少によるコスト低減、機械的強度の向上に加えて、耐漏液性の向上、セル積層時における集電ロスの低減が可能な金属空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などの金属を負極活物質に用いた電池であって、電池容器内に正極活物質を備える必要がないため、エネルギー密度が高く、小型化、軽量化が可能であって、非常用電源として、あるいは電動車両や船舶などの駆動用電源として注目されている。
このような金属空気電池としては、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−19246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような金属空気電池を実用する場合、多数の単セルを直列に積層して、使用目的に即した出力電圧が得られるようにすることが必要となる。
このとき、理想的には、正極と負極とを直接に接触させて、セル同士を直列に積層することが望ましい。
【0005】
上記のような金属空気電池において、正極(空気極)は、空気を外部から取り入れる必要性と、電解液の漏出を防止する必要性から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る撥水膜(液密通気部材)によって覆われ、空気孔から取り入れた空気を均一に拡散させるために空気拡散紙によって、さらに覆われている。
しかしながら、これら撥水膜や空気拡散紙は、いずれも絶縁性材料から成ることから、電気的な導通を直接とることができない。
【0006】
そこで、正極及び負極内にそれぞれ埋め込んだ集電体に接続するリード線をそれぞれ側面方向に引き出し、これら正極リード及び負極リードによって直列に接続するようにしているが、このようなリードを介した接続では、集電損失が非常に大きいという問題点があった。
【0007】
本発明は、従来の金属空気電池の直列接続における上記のような課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、正極の外面側に、絶縁性材料から成る撥水膜を設ける必要がなく、セル同士の直列積層が容易で、集電ロスを低減することができる金属空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的の達成に向けて鋭意検討を重ねた結果、空気を電池容器の外側から正極極に取り入れる代わりに、電池の内部側から、すなわち電解液に酸素を供給するようになすことによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の金属空気電池は、電池容器内に、相対向して配置された正極及び負極と、これらの間に電解液を有する少なくとも1組の単電池が、直列に接続された複数組の単電池を収納して成るものであって、上記電解液に酸素を供給する酸素供給手段を設け、単電池の正極を構成する正極触媒層が隣接する単電池の負極金属板上に直接形成されているか、又は単電池の正極を構成する正極触媒層が隣接する単電池の負極金属を裏面側に備えた金属板からなる集電体上に直接形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極への酸素供給を電解液の側からなすようにしたから、正極の外面側から空気を取り入れる必要がないので、正極側に絶縁性材料から成る撥水膜や拡散紙、空気流路を設ける必要がなくなり、正極と負極とを直接重ね合わせることによって、直列接続が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による金属空気電池の基本構造を第1の実施形態として示す断面説明図である。
図2】本発明において酸素供給手段として用いるマイクロバブル発生装置の一例を示す概略説明図である。
図3】(a)本発明の第2の実施形態として金属空気電池の直列接続して成る組電池の構造例を示す断面説明図である。(b)図3(a)に示した金属空気電池における直列接続部分の電極構造を説明する拡大断面図である。(c)図3(a)に示した金属空気電池における直列接続部分の電極構造の他の形態を説明する断面図である。(d)図3(a)に示した金属空気電池における直列接続部分の電極構造のさらに別の形態を説明する断面図である。
図4】本発明による金属空気電池の第3の実施形態として各面にそれぞれ正極触媒層と負極金属を備えた集電体の周囲を枠体に固定した電極構造例を示す斜視図である。
図5】本発明による金属空気電池の第4の実施形態として酸素含有ガスを電池容器の下方側から供給する構造例を示す斜視図である。
図6】本発明による金属空気電池の第5の実施形態として酸素含有ガスを電池容器の底面全体から供給する構造例を示す斜視図である。
図7】本発明による金属空気電池の第6の実施形態として酸素を含有する電解液を循環させるようにした組電池の構造例を示す斜視図である。
図8】本発明による金属空気電池の第7の実施形態として酸素を含有する電解液を注液する注液式空気電池から成る組電池の構造例を示す斜視図である。
図9】各例の電池構成の分解状態を示す斜視図である。
図10】実施例1の金属空気電池を示す断面図である。
図11】実施例2の金属空気電池を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の金属空気電池に関する種々の実施形態について具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明の金属空気電池の第1の実施形態として、本発明の基本構造例を示す断面図であって、図に示す金属空気電池1は、正極(空気極)2と負極3と、これら両電極2、3の間に電解液4を備えている。さらに、電解液4の中には、図外の酸素供給装置に接続され、酸素供給手段の一部を構成するノズル6が電池容器5の底部近傍位置に開口するように配置されており、この実施形態においては、当該ノズル6から空気などの酸素を含有するガスGを供給し、電解液4の中にバブリングするようになっている。
【0014】
上記構造を備えた金属空気電池1においては、正極への酸素供給を酸素供給装置に接続されたノズル6から電解液4を介して行うようにしたから、上記したように、正極2の外側から空気を取り入れる必要がないので、正極側に撥水膜や拡散紙、空気流路を配置する必要がない。したがって、正極の集電体2aと負極の集電体3aとを直接重ね合わせることができ、これによって直列接続が簡単で、集電ロスの少ないものとすることができる。
また、電池容器に、空気を取り込むための空気孔や空気流路がなくなることから、容器強度の向上や耐漏液性の向上が可能になると共に、部品点数の減少によるコスト低減の可能性も期待することができる。
【0015】
上記正極2は、酸素を正極活物質とするものであって、ステンレス鋼などから成る正極集電体2aと、この上に形成された正極触媒層2bを備え、この正極触媒層2bは、酸素の酸化還元触媒とこれを担持する導電性の触媒担体を含むものである。
上記触媒成分としては、例えば、二酸化マンガンや四酸化三コバルトなどの金属酸化物や、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びこれらの合金などから選択することができる。
【0016】
触媒成分の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒成分と同様の形状及び大きさを採用することができる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましく、触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nmであることが好ましい。
触媒粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。
【0017】
触媒担体は、上記触媒成分を担持するための担体として、また、触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。
触媒担体のサイズについても特に限定されるものではなく、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0018】
触媒担体に対する触媒成分の担持量については、触媒とこれを担持した担体の全量に対して、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは3〜40質量%である。触媒成分の担持量がこのような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切なものとなる。
なお、上記した触媒成分や、これを担持する担体の種類については、上記したものだけに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適宜使用することができることは言うまでもない。
【0019】
さらに、本発明の金属空気電池において、上記正極触媒層2bは、酸素の吸着機能、又は酸素含有ガスのトラップ機能を有していることが望ましく、これによって、放電に関与する酸素量を増すことができ、高容量化が可能になる。
例えば、正極触媒層2bに、フッ素系樹脂などの撥水性樹脂や、ゴムや樹脂等の表面を加工した多孔質材料を添加することによって、ガスのトラップ機能を付与することができる。また、活性炭、メソポーラスシリカ、シリカゲルなどを添加しておくことによって、酸素の吸着機能を発揮させることができる。
【0020】
上記負極3は、銅などから成る負極集電体3aと、この上に形成された負極金属3bを備えたものである。なお、負極金属3bとして金属の板材を用いる場合には、これを集電体として利用することも可能である。
負極金属3bとしては、標準電極電位が水素より卑な金属単体や、これら金属を含む合金が用いられる。このような金属単体としては、例えば亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)などを挙げることができる。また、合金としてはこれらの金属元素に1種以上の金属元素又は非金属元素を加えたものを挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
【0021】
電解液4としては、例えば、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などの水溶液が用いられるが、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の電解液を適用することができる。また、添加物としてペンタノールやプロパノールなどのアルコールや非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤などを用いることで、気泡同士の合体や水中の上昇速度を小さくすることが可能である。
【0022】
酸素供給手段としては、酸素の供給装置として、例えばエアーポンプが利用され、ノズル6を介して電解液中に空気などの酸素を含有するガスGを吹き出し、バブリングする。なお、酸素を含有するガスGとしては、空気が一般的であるが、酸素の利用率を高めるためには、純酸素やオゾンなどを用いることも必要に応じて望ましい。
【0023】
このようなガスGのバブリングに際しては、特に微少径の気泡、すなわちマイクロバブルやナノバブルによるバブリングを行うことが好ましい。
すなわち、このような微少径バブルの形態で酸素含有ガスを供給することによって、電解液中におけるガスの滞留時間が長くなり、少ない供給量でも電解液中の溶存酸素濃度を高く維持することができ、酸素利用率の向上、放電電圧の安定化を図ることができるようになる。
【0024】
ここで、マイクロバブルとは、「その発生時に、10〜数十μmの直径を有する気泡」と定義されており、殆どのマイクロバブルは液中で収縮し、マイクロナノバブル(径が1μm前後から数百nmの気泡に変化して行き、マイクロナノバルブとなって、さらに急激な収縮が生じ、液中に溶解することにより気泡は消滅する。
通常の気泡(ミリバブル以上)は、電解液中を急激に上昇して、液面で破裂することになり、気泡内の酸素が無駄に大気中に放出されることになる。これに対し、マイクロバブルは気泡体積が微少であるため、上昇速度が遅く、長い間液中に滞在し続ける。なお、マイクロバブルの上昇速度はストークスの式で示され、例えば、直径10μmの気泡の上昇速度は、1分間に3mm程度に過ぎない。
【0025】
このような界面としては、気相と液相、液相と液相、液相と固相、固相と固相の二相間で形成され、この界面間で界面張力により加圧が生じる。この界面張力はヤングラプラスの式により導かれ、気泡の大きさに反比例して気泡に加わる圧力が高まる。このため、微細気泡は圧力により一層小さくなり、さらに圧力が高まり、理論上、無限の圧力が生じることによって、気体が液中に効果的に溶解することになる。
さらに、マイクロバブルは、コロイドとしての側面があり、負に帯電しているため、マイクロバブル同士は反発し合うことから、マイクロバブル同士が結合することはなく、気泡濃度が減少することもない。
【0026】
このようなマイクロバブルやナノバブルは、公知の種々の方法によって発生させることができる。
例えば、ある程度の高圧下で十分な量のガスを液中に溶解させた後に、圧力を開放すると、ガスは液中に過飽和の状態となっているので、過飽和分のガス分子が液中で気化することから、微少径の気泡を大量に発生させることができる(加圧減圧法)。
【0027】
また、マイクロバブルを連続的に発生させるためには、図2に示すように、ポンプを適用した発生装置を用いることができる。当該ポンプは、吸引側から水(本発明では電解液)を取り込み、押出側から吐出するが、このとき吸引側の圧力は環境圧よりも低く、押出側は環境圧よりも高くなる。押出側の先端にノズルを設けることによって圧力差をさらに大きくすることができる。
押出側の経路中に気体溶解タンクを配置すれば、圧力の高い状態で取り込んだ気体(酸素含有ガス)を電解液中に溶解させることができ、ノズルから電解液を吐出させると、圧力が開放され、溶解された気体が過飽和となるため、マイクロバブルを大量に発生させることができる。
【0028】
さらに、渦流を作って、この中に気体を巻き込み、ファンなどによって気泡をさらに微細に切断、粉砕する方法(気液2相流旋回法:気液せん断法)を適用することも可能である。
すなわち、ポンプを利用して、筒型容器内に液流を起こし、円形傾斜板や梵鐘型の回転駆動部によって渦流を発生させ、この中に気体を巻き込ませる。筒型容器の中にはシャフトがあり、シャフトに取り付けたプロペラで液と気体をせん断するように攪拌することによって、マイクロバブルを発生させることができる。この方法では、高濃度の気泡の発生には向かないものの、気液を直接的に混合させるようにしており、液流が大きく、効率的にマイクロバブルを発生させることができる。
【0029】
以上、酸素含有ガスのバブリング、特にマイクロバブルやナノバブルのバブリングについて説明したが、本発明における酸素供給手段による酸素の供給方法としては、上記したようなガスのバブリングのみに限定される訳ではなく、例えば、過酸化水素などの酸化剤を電解液4に混合するようにしてもよい。
【0030】
図3(a)は、本発明の金属空気電池の第2の実施形態として、上記金属空気電池1が直列に接続された状態を示す断面図である。
なお、この図では、2個の単電池を接続した状態をものを示しているが、3個あるいはそれ以上を直列に連結した場合でも、基本的に同様であることは言うまでもない。
【0031】
図3(a)に示す接続構造は、基本的には、図1に示した空気電池1を2個横に並べて、直列に接続したものであるが、隣接する単電池の間に位置する正極及び負極の構造が単純化されている。
すなわち、図1に示した空気電池1をそのまま直列接続すると、裏面側に正極触媒層2bを備えた正極集電体2aと、負極金属3bを備えた負極集電体3aとが接続されることになり、正極集電体2aと負極集電体3aとが連結されて、2枚重ねの金属板から成る集電体が構成されることになる。本発明においては、このような組電池であっても、実用上、何らの支障はないが、材料や工程面での無駄が生じることにもなる。
【0032】
そこで、図3(a)に記載の組電池においては、図3(b)にも拡大して示すように、中央部、すなわち接続部分の電極における正極集電体2aと負極集電体3aとを一体化し、一枚の金属板から成る集電体7の一方の面に正極触媒層2bを形成し、他方の面に負極金属3bを設けるようにしている。
これによって、正極集電体2aと負極集電体3aとの間の接触抵抗がなくなり、集電ロスをさらに小さなものとすることができる。
【0033】
また、図3(c)に示すように、集電体7を省略し、負極金属3b上に、正極触媒層2bを形成することにより、負極金属3bを集電体として兼用するようになすことも可能であり、これによって集電体7が不要になって、コストを低減することができる。
【0034】
さらには、図3(d)に示すように、上記集電体7として、通気性を備えた多孔質金属板を用いることによって、電解液に酸素含有ガスを供給する一方、当該多孔質集電体7’からも酸素含有ガスを供給することも、必要に応じて望ましい。
【0035】
本発明の金属空気電池から成る組電池は、スタック用の電池容器内に、図3(b)〜(d)に示したような集電体7(又は7’)と正極触媒層2b及び負極金属3b、あるいは正極活物質層2b及び負極金属3bから成る正極−負極接合体を多数並列させることによって構成される。
【0036】
このとき、図4に示すように、集電体7の一方の面に正極触媒層2bを、他方の面(図では見えない側)に負極金属3bを備えた正極−負極接合体、あるいは負極金属3b上に正極触媒層2bを形成してなる正極−負極接合体の周囲の金属部分を枠材9に接合して固定したものを用いることが好ましい。
このような正極、負極と一体化された枠体9を多数重ねて枠部分で接合することによって、所望の出力を備え、耐漏液性に優れた丈夫な組電池を得ることができる。なお、両端部に配置される電極については、外側に位置する側の正極活物質層2bあるいは負極金属3bを配置する必要はないが、部品を統一して部品点数を減らし、管理や組立てを簡便なものとする観点からは、両端部にも同じ枠体9を配置したとしても、差し支えはない。
【0037】
酸素を電解液に供給するに際して、その手段が、特に酸素含有ガスのバブリングである場合、酸素含有ガスを電池容器の下方側から供給することが、電解液内の溶存酸素をより多くすることができ、酸素利用率が向上することから望ましい。
【0038】
例えば、図5は、6個の単電池から成る組電池であって、図に示すように、酸素含有ガスG(例えば、空気)は、酸素供給装置であるポンプ10から、電極間の底部に配置された6本のノズル6から供給するようにすることによって、ガスGの浮上経路が長くなり、電解液中での滞留時間を多くすることができる。
このとき、ノズル6のガス噴出方向を正極触媒層2bに向けることによって、酸素含有ガスGを正極2に向かって供給するようにすることが酸素の利用率を向上させる観点から望ましい。
【0039】
また、図6に示すように、電池容器の底面に配置した樹脂あるいはセラミックス製の多孔質体11を介して酸素含有ガスGを供給することも望ましく、これによってガスGを底面全体からバブリングすることができ、電解液とバブルとの接触面積をより大きくすることができる。
【0040】
図7は、本発明の金属空気電池の他の実施形態例として、電解液循環式の組電池の構造例を示すものであって、図に示す組電池は、上記同様に6個の単電池を備えたものであって、さらに電解液4を収納した電解液タンク12と、該タンク12内の電解液を電極間に循環させるための循環手段13を備えている。
そして、この実施形態に係る組電池おいては、酸素供給手段として、ポンプなどの酸素供給装置10に連結されたノズル6を上記電解液タンク12に備えており、酸素含有ガスGがノズル6を介して電解液タンク12内の電解液4中にバブリングされるようになっている。
【0041】
したがって、ガスGのバブリングによって、電解液タンク12内で酸素を溶存させた状態の電解液が循環手段13によって、電解液タンク12と電池容器内の電極間を循環することになる。
なお、この図では、電解液を電極の上方側から供給し、電池容器の下方側から排出することによって循環させる例を示したが、電極の下方側から供給し、上方側から回収するようにすることも可能である。また、酸素供給手段としては、図2に示したようなマイクロバブルの発生装置を用いることも望ましく、これを用いることによって電解液中の溶存酸素量を多くすることができる。
【0042】
図8は、本発明の金属空気電池のさらに他の実施形態例として、注液式の組電池の構造例を示すものであって、図に示す組電池は、同様に6個の単電池を備えたものであって、さらに、図7に示した循環式空気電池と同様に、酸素含有ガスGのバブリング装置(酸素供給手段)を備えた電解液タンク12を備えている。
このような注液式の組電池においては、ポンプなどの酸素供給装置10に連結されたノズル6から酸素含有ガスGをバブリングすることによって、電解液中に酸素を十分に溶解させたのち、図示しないバルブを開放することによって、酸素を含む電解液が電池容器内に流れ込み、これによって電池反応が始まり、放電が開始される。それまでは、活物質の消耗や変質が生じないことから、半永久的な保存が可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の金属空気電池の発電性能について、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔電池構造〕
(1)正極
市販の撥水層としてW. L. Gore & Associates,Inc.製の厚さ100μmのテフロンシート、集電体として太陽金網(株)製200メッシュのステンレスメッシュを用いた。また触媒層は固形分比で下記の比率で混合したものを用いた。
市販の酸化マンガン粉末(高純度化学研究所(株))30質量%
市販のカーボン(ケッチェンブラック)粉末(ライオン(株))40質量%
市販のPTFE分散液(旭硝子(株))30質量%
比較例については酸化マンガン粉末、ケッチェンブラック、PTFE分散液を混合したものを乾燥後、金属メッシュ、撥水層とともに触媒層が0.5mm厚になるようロール成形した。
実施例については酸化マンガン粉末、ケッチェンブラック、PTFE分散液を混合したものを乾燥後、0.1mm厚のSUS316(ステンレス)板とともに触媒層が0.5mm厚になるようロール成形した。
(2)負極
Zn板(0.5mm厚)をCu箔(0.1mm厚)にスポット溶着で接合した。
(3)電解液
8N−KOHを電解液として使用した。
(4)酸素供給手段
実施例1:セルに耐薬品性のチューブを入れ、表1記載流量のドライエアーをバブリングにより供給した(図10参照。)。
実施例2:セルに耐薬品性のチューブを入れ、電解液をポンプで50cc/minの速度で循環させた。循環用のチューブは1Lの電解液を満たした電解液容器と接続し、マイクロバブル発生装置により記載量のドライエアーを電解液に供給した(図11参照。)。
比較例ではそれぞれセル外部より100cc/min、50cc/min、0(大気開放で強制供給なし)のドライエアーを供給した。
(5)電池構造
正極及び負極を電極サイズが10cm×10cmとなるように切り出した。厚さ1mmのポリプロピレン(PP)製板を、幅11mmに切り出し、それぞれの電極の端部に合わせて10cm×10cmになるように接合し、上部を開放し、三方をふさぐようにエポキシ系接着剤(セメダイン)で正・負極と貼り合せた(図9参照。)。
【0045】
〔性能評価方法〕
ポテンショスタットを用いてセル電圧が1Vとなるように制御した場合の電流値を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
以上の結果から、撥水層を用いずに、電解液への直接のガス供給により連続的な放電が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
1 金属空気電池
2 正極
2a 正極集電体
2b 正極触媒層
3 負極
3a 負極集電体
3b 負極金属
4 電解液
5 電池容器
6 ノズル(酸素供給手段)
9 枠材
10 酸素供給装置(酸素供給手段)
12 電解液タンク
13 循環手段
G 酸素含有ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11