【実施例1】
【0027】
図1乃至
図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法を説明する。本発明に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法は、射出成形機側に特別な構成は不要であり、一般的な射出成形機を使用して実施することができる。よって、最初に、
図1を参照しながら、一般的な射出成形機の射出装置の加熱バレル10の基本構成及び加熱バレル10内で行われる可塑化・計量工程(以下:計量工程)を簡単に説明する。
【0028】
加熱バレル10内のスクリュ21の先端部には、円錐形状のスクリュヘッド22が固定されている。そして、スクリュヘッド22には、リング状の逆止弁24(チェックリング等とも呼称される。)が、スクリュヘッド22の長手方向に所定量移動可能に配置されている。
【0029】
また、加熱バレル10には、
図1の左側(以下:前方)から、ノズル部12、貯留部11が形成されている。そして、スクリュヘッド22の逆止弁24より図面右側(以下:後方)のスクリュ21は、逆止弁24側(前方)から、計量部(メータリングゾーン)、圧縮部(コンプレッションゾーン)及び供給部(フィードゾーン)と呼称される3つの部位に分けられ、スクリュ21の外周面には、その全長に亘って、螺旋状のフライト21aが連続して形成されている。フライト21aの形状やピッチは、それぞれの部位(ゾーン)の機能に適した仕様で設計されている。
【0030】
更に、加熱バレル10のノズル部12及び貯留部11の2つの部位の外周面、そして、スクリュ21の計量部、圧縮部及び供給部の3つの部位に対応する加熱バレル10の外周面には、各部位を加熱するための、加熱手段Hn、加熱手段H0、加熱手段H1、加熱手段H2及び加熱手段H3が配置されている。説明を簡単にするために、これら各加熱手段が配置される加熱バレル10の外周面についても、部位Hn(ノズル部12)、部位H0(貯留部11)、部位H1(計量部)、部位H2(圧縮部)及び部位H3(供給部)と呼称するものとする。本実施例1においては、説明を簡単にするために、加熱バレル10の各部位に配置される加熱手段を1つとしたが、先に説明したように、それぞれの部位を長手方向に更に分割した各分割部位に、複数の加熱手段が配置される形態であっても良い。
【0031】
計量工程の間、加熱バレル10後方上部の材料供給部13から加熱バレル10内に供給されたペレット状の樹脂材料は、その外周面に螺旋状のフライト21aが形成されたスクリュ21の回転により、加熱バレル10の内周面とスクリュ21の外周面との間に形成される樹脂流路14において貯留部11側(前方)へ流動される。その間、加熱バレル10の外周面に配置された、加熱手段Hnから加熱手段H3の熱エネルギーと、スクリュ21の回転によりフライト21aから樹脂材料に直接付与されるせん断エネルギー(熱エネルギー)と、の2種類の熱エネルギーにより可塑化される。
【0032】
そして、この樹脂流動によって発生する樹脂圧力により、逆止弁24が貯留部11側へと押圧され、貯留部11側(前進限位置)へ移動された逆止弁24と、スクリュ21との間が開放される。更に、この状態において、開放された樹脂流路14と、スクリュヘッド22の、図示しない長手方向の凹部が連通され、スクリュ21の樹脂流路14の可塑化された樹脂がスクリュヘッド22前方の貯留部11に連続して貯留される。
【0033】
また、計量工程の間、貯留部11に貯留される樹脂量の増加に伴い、スクリュ21は、
その回転動作は維持されつつ、材料供給部13側(後方)へ押圧され移動する(スクリュ後退動作)。このスクリュ後退動作は、貯留部11に貯留される可塑化された樹脂に所定の圧力を付与させるために、後退動作に伴う抵抗力(背圧)をスクリュ21に付与させた状態で行われる。そして、予め設定された可塑化樹脂量が貯留部11に貯留された後、材料供給部13への材料供給及びスクリュ21の回転動作を停止させる(計量工程完了)。
【0034】
その後、スクリュ21を所定速度・所定圧力で前進させる射出工程へと移行させる。射出工程においては、前進するスクリュ21の前端が、スクリュ21の前進動作に追従しない逆止弁24の後端に接触することにより樹脂流路14が閉鎖され、逆止弁24はそのまま、貯留部11側の可塑化された樹脂の増大する樹脂圧力を受ける。この、スクリュ21側に押圧される逆止弁24が、貯留部11からスクリュ21側の樹脂流路14への可塑化樹脂の逆流を防止する。本発明に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法は、射出工程中における加熱バレルの温度制御とは直接関係ないため、射出工程の詳細な説明は割愛する。
【0035】
先に説明したように、計量工程においては、低い温度で、連続して供給される樹脂材料により、連続成形運転の開始前に、予め設定された加熱設定温度まで予熱された加熱バレル10が抜熱され、各部位の実温度が、各加熱手段の加熱設定温度以下となり、供給される樹脂材料の量が多いほど、計量時間が長いほど、成形サイクルが短いほど、抜熱の程度が大きくなり、加熱手段による加熱バレルの加熱が間に合わず、各部位の実温度が大きく低下する。抜熱の程度と加熱手段による加熱が平衡状態となると、各部位の実温度は大きく低下した状態でサチュレートする。これを
図2に示す。
図2は、加熱設定温度まで予熱された加熱バレルが、供給される樹脂材料により抜熱され、各部位が各加熱手段の加熱設定温度以下になる状況のイメージを示すグラフである。
図2の横軸は加熱バレル10における各部位(部位H0、部位H1、部位H2及び、部位H3)を示し、縦軸は温度を示す。
【0036】
図2に示すように、貯留部11(部位H0)、計量部(部位H1)、圧縮部(部位H2)、及び供給部(部位H3)までの各加熱手段の初期加熱設定温度Tzxは、それぞれ、Tz
0、Tz
1、Tz
2及びTz
3である。射出させる樹脂の目標可塑化樹脂温度Tmに対して、貯留部11(部位H0)の加熱手段H0の加熱設定温度Tz
0と、計量部(部位H1)の加熱手段H1の加熱設定温度Tz
1は、
図2のようにTmと同じ温度が設定される。そして、これより後方の各部位の加熱設定温度が、供給部(部位H3)に近い程低く設定される。すなわち、各部位の加熱設定温度の関係は、Tm=Tz
0=Tz
1>Tz
2>Tz
3、とされることが一般的である。
【0037】
しかしながら、ほぼ、低い温度で、連続して供給される樹脂材料により加熱バレル10が抜熱され、抜熱作用の大きな供給部(部位H3)に近い程、各部位の実温度の低下幅が大きい。一方、樹脂材料が可塑化(溶融)された後の、樹脂材料による加熱バレルに対する抜熱作用の影響はほとんどないため、樹脂材料の可塑化が完了している貯留部11(部位H0)や計量部(部位H1)、及び、可塑化が進行する圧縮部(部位H2)後半における抜熱作用の影響は少ない。よって、
図2においては、貯留部11(部位H0)及び計量部(部位H1)における抜熱作用の影響は無視できるものとして、供給部(部位H3)の実温度が
Tb3まで、圧縮部(部位H2)の実温度が
Tb2まで降温することを示している(点線:
Tz3−Tb3>Tz2−Tb2)。尚、ノズル部12(部位Hn)については、他の部位と独立した温度制御も可能ではあるが、貯留部11と同様に抜熱作用の影響は無視できるものとする。
【0038】
このように、加熱バレル10の各部位の実温度が、成形サイクル毎の計量工程において抜熱され、対応する各加熱手段の加熱設定温度以下に降温される過程においては、樹脂材料が可塑化状態になるまでに供給される熱エネルギーの総量も減少するため、樹脂材料の可塑化状態が不安定となる。そして、加熱バレル10の各部位の降温による加熱バレル10の熱容量の減少量と、供給される樹脂材料による抜熱量とがサチュレートすると、各加熱手段の加熱設定温度に何らかの温度補正制御を行わない限り、各部位の温度が各加熱手段の加熱設定温度より低い温度でサチュレートしてしまう。その結果、想定外の軟化・溶融状態で圧縮部や計量部へ樹脂材料が流動され、樹脂送り不良等が生じ、計量工程の不安定化を招く。
【0039】
この状態を、温度検出手段により検出される各加熱手段の各部位の実温度に基づいてフィードバック制御しても、先に説明したタイムラグにより、意図するような加熱バレルの温度制御が難しいことは先に説明したとおりである。一方、各加熱手段の加熱設定温度に、このようなタイムラグを減少させるような大きな温度制御幅を設定し、無理に加熱バレル10の各部位の実温度をフィードバック制御しようとすれば、目標制御温度からのハンチング幅が大きくなり、かえって、計量工程が不安定になる虞がある。
【0040】
次に、
図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法を説明する。
図3は、部位H3における加熱設定温度補正工程1による加熱バレルの昇温のイメージを示すグラフである。
図3の横軸は経過時間を示し、縦軸は温度を示す。本実施例1において、各部位における各加熱手段の加熱設定温度の制御方法については基本的に同じため、部位H3(供給部)を代表して、本発明に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法を説明するものである。
【0041】
まず、連続成形運転の開始前に、図示しない射出成形機の制御手段に、射出させる樹脂の目標可塑化温度Tmや、各加熱手段の初期加熱設定温度Tzx等を、操作盤等のインターフェイスから入力する。制御手段では、Tm≧Tzxの関係において、各加熱手段の、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTzxを、式ΔTzx=α(Tm−Tzx)で自動的に設定する(加熱設定温度補正準備工程)。部位H3(供給部)における、加熱手段H3の初期加熱設定温度はTz
3(Tm>Tz
3)、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTz
3はΔTz
3=α(Tm−Tz
3)となる。
【0042】
また、この加熱設定温度補正準備工程において、許容量Q1及び所定時間T1を入力する。許容量Q1は、最初の補正開始点1を設定するための、成形サイクル毎にモニタされる、計量時間、成形品重量及びスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異の許容量である。成形サイクル毎にモニタされるこれら項目を成形サイクル毎に比較し、差異を求め、これら差異の少なくとも1つの差異が、対応する項目の許容量Q1を超えた時点が、最初の補正開始点1として射出成形機の制御手段に認識される。
【0043】
最初の補正開始点1後、成形サイクル毎に前成形サイクルとこれら項目の比較を行い、それら差異の少なくとも1つの項目の差異が再び許容量Q1を超えた時点を次の補正開始点1としても良い。また、最初の補正開始点1から所定時間T1経過毎にこれら項目の比較を行い、それら差異の少なくとも1つの項目の差異が再び許容量Q1を超えた時点を以降の補正開始点1としても良い。具体的には、成形サイクル毎の計量時間、成形品重量及びスクリュの平均回転負荷率の代わりに、1つの成形サイクル中の計量工程における、微少時間内のスクリュ21の後退量の関係、すなわち、スクリュ21の後退速度や、微少時間内のスクリュの平均回転負荷率を、所定時間T1経過毎にモニタさせてその差異を求め、これらに対応する許容量Q1を超えた時点を以降の補正開始点1としても良い。
【0044】
一方、成形サイクル毎にこれら項目の比較を行なわず、所定時間T1を2回以上の複数成形サイクル毎になるような入力を行い、最初の補正開始点1後、複数成形サイクル毎を以降の補正開始点1としても良い。
【0045】
これら許容量Q1及び所定時間T1は、射出させる樹脂の種類や計量樹脂量及び成形サイクル等に応じて、テスト成形を予め行って求めることが好ましい。また、加熱設定温度補正値ΔTzxを設定する、式ΔTzx=α(Tm−Tzx)のαの範囲は、0.1≦α≦1であることが好ましい。その理由は後述する。これら加熱設定温度補正準備工程における諸設定値は、当初の値を、その後の射出成形や経験から得られた知見に基づき、より好適な値に修正することがより好ましい。
【0046】
このように、補正開始点1は加熱バレルの各部位の実温度ではなく、成形サイクル毎の、計量時間、成形品重量及びスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異、あるいは、1つの成形サイクル内における、スクリュ21の後退速度や、微小時間内のスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異に関するものである。スクリュの平均回転負荷率は、先に説明したような、樹脂材料に直接的に付与されるせん断熱エネルギーと深く関連する項目であり、計量時間及び成形品重量や、これに代替されるスクリュ21の後退速度はその結果としての項目であるため、加熱バレル10内の樹脂材料の可塑化状態を把握するのに、加熱バレルの各部位の実温度に対してタイムラグが少ない。そのため、このような補正開始点1の設定により、適切なタイミングで、各加熱手段の新たな加熱設定温度を再設定することができる。
【0047】
加熱設定温度補正準備工程が完了し、加熱バレル10の各部位がそれぞれの初期加熱設定温度Tzxに到達した後、スクリュ21を回転させ、材料供給部13への材料供給を開始させて、連続成形運転を開始させる。
図3に示すように、供給部(部位H3)においては、加熱手段H3の初期加熱設定温度Tz
3に対して、加熱バレル10の部位H3の実温度(点線)がTb
3まで降温した状態である。この降温により、固形樹脂材料の可塑化状態が変化し、最初の補正開始点1C1が射出成形機の制御手段に認識されたものとする。
【0048】
最初の補正開始点1C1の認識により、加熱設定温度補正工程1が開始される。射出成形機の制御手段は、加熱設定温度補正準備工程において予め、式ΔTzx=α(Tm−Tzx)、で設定されたΔTzxと、温度補正式1、T’zx=Tzx+ΔTzx、により、各加熱手段の新たな加熱設定温度T’zxを再設定し、各加熱手段の加熱設定温度は初期加熱設定温度TzxからT’zxへとΔTzx分だけ昇温される。部位H3の新たな加熱設定温度は、T’z
3=Tz
3+ΔTz
3、である。この加熱手段H3の加熱設定温度の昇温(補正)により、部位H3の実温度Tb
3もΔTz
3に準ずる程度に上昇する。ここで、実施例1に係る加熱バレル温度制御方法は、この各部位の実温度の上昇幅の制御が目的ではなく、降温した各部位をその状態から、最小のタイムラグで回復させ、安定した可塑化状態へと、可能な限り早く回復させることを目的としている。
【0049】
最初の補正開始点1C1の後、各部位の実温度の上昇が十分でなく、射出成形機の制御手段により2回目の補正開始点1C2が認識されると、温度補正式1、T’zx=Tzx+ΔTzx、により、再び、各加熱手段の、新たな加熱設定温度が設定される。このとき、温度補正式1左辺のT’zxは、最初の補正開始点C1において設定された新たな加熱設定温度T’zxではなく、2回目の補正開始点において設定される、更に新たな加熱設定温度T’zxであることは言うまでもない。同様に、温度補正式1右辺のTzxも、初期加熱設定温度Tzxではなく、最初の補正開始点1C1において設定された新たな加熱設定温度T’zxである。この加熱手段H3の2回目の加熱設定温度の昇温(補正)により、部位H3の実温度Tb
3もΔTz
3に準ずる程度に再び上昇する。
【0050】
このように、本実施例1に係る加熱バレル温度制御方法の加熱設定温度補正工程1においては、補正開始点1が認識される度に、補正量ΔTzx及び温度補正式1に基づき、各加熱手段の加熱設定温度の再設定が行われ、各加熱手段に対応する各部位の実温度に依らず、ステップ状に各加熱手段の加熱設定温度を昇温させる。この昇温により、各加熱手段に対応する各部位の実温度もステップ状に上昇し、本来想定していた各加熱手段の初期加熱設定温度Tzxに近づく。
【0051】
また、本実施例1に係る加熱バレル温度制御方法の加熱設定温度補正工程1においては、補正開始点1の数に依らず、補正開始点1において再設定された新たな加熱設定温度T’zxが、最初に、Tm+(Tm−Tzx)≧T’zx≧Tmを満たす状態となった時点でその補正を終えることが好ましい。再設定させる加熱手段の加熱設定温度の上限を、射出させる樹脂の目標可塑化樹脂温度Tm基準とすることにより、経験や勘に依らず設定することができる。また、必要以上に大きな温度制御幅を設定することによる、供給部における、過剰な加熱による成形材料の溶融による材料送り不良の発生を防止できる。
【0052】
図3においては、補正を終える条件をT’z
3=Tmとした場合を示している。具体的には、4回の補正開始点1において新たな加熱設定温度の再設定を行い、4回目の補正開始点1C4において加熱設定温度補正工程1が完了している(T’z
3=Tm)。また、この時の部位H3の実温度Tb
3が、加熱手段H3の初期加熱設定温度Tz
3に近い温度まで上昇している。しかしながら、先に説明したように、本実施例1においては、加熱設定温度補正工程完了時において、部位H3の実温度Tb
3と加熱手段H3の初期加熱設定温度Tz
3とが、必ずしも、Tb
3=Tz
3、あるいは、Tb
3≒Tz
3、になる必要はない。また、加熱温度補正工程完了時において、新たな加熱設定温度T’z
3が、目標樹脂温度Tmよりも高くなっても良い(T’z
3>Tm)。
【0053】
すなわち、連続成形運転の開始後に発生する、供給される樹脂材料による加熱バレル10の抜熱に対して、本実施例1に係る加熱バレル温度制御方法が実施され、最終的に、補正開始点1が発生しない連続成形運転が継続されれば良い。補正開始点1が発生しない状態とは、言い換えれば、加熱バレル10が抜熱状態から回復して、樹脂材料が適切な実温度範囲で且つ安定した可塑化状態にあるということである。各加熱手段の加熱設定温度Tzxの増減に対するタイムラグが大きい、加熱バレル10の各部位の実温度Tbxは、制御上の目安にはなっても、樹脂材料の実温度とは必ずしも一致しないため、各加熱手段の加熱設定温度の制御に取り込むには好適でない要素と言える。
【0054】
これまで説明したように、本実施例1の、射出成形機の加熱バレル温度制御方法においては、各加熱手段の加熱設定温度を、加熱バレル10の実温度ではなく、予め設定した補正開始点1において再設定するため、射出装置系全体の温度変化のタイムラグの影響を受けることなく、適切なタイミングで、各加熱手段の新たな加熱設定温度を設定することができる。また、新たな加熱設定温度を設定する温度補正式1において、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTzxが、射出させる樹脂の目標可塑化樹脂温度Tmと、加熱手段毎に設定される初期加熱設定温度Tzxに基づいた数値であるため、経験や勘に依らず設定可能であり、本数値に乗ずる係数αの変更のみで、実際の成形状況に応じて本数値を適切な数値に変更することができる。
【0055】
ここで、温度補正式1における、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTzxに係る係数αの範囲について、0.1≦α≦1とすることが好ましい理由について説明する。加熱設定温度補正値ΔTzxは、射出させる樹脂の目標可塑化樹脂温度Tmと、加熱手段毎に設定される初期加熱設定温度Tzxとが、Tm≧Tzxの関係において、これら温度の差異に乗じられる係数である。よって、先に説明したように、1回分の補正値がこのような差異を超えるような補正値(すなわち、α≧1)の場合、制御上、ハンチング幅が大きくなる可能性が高い。
【0056】
よって、このように、大きな補正が必要な場合は、1回分の補正値を大きくするよりは、補正開始点1の適切な設定により、補正回数を増やす制御の方が好ましい。具体的には、所定時間T1と合わせて、許容量Q1をより狭い範囲に設定すれば良い。一方、1回分の補正値がこのような差異を大きく下回るような補正値(すなわち、α<0.1)の場合、1回の補正による効果が少ない。また、補正回数を増やして対応するにも、補正回数にも限度がある。これらを鑑みると、加熱設定温度補正値ΔTzxのαの範囲は、0.1≦α≦1とした上で、所定時間T1及び許容量Q1を適切に設定することにより、加熱設定温度補正工程が行われることが好ましい。
【0057】
また、本実施例1の、射出成形機の加熱バレル温度制御方法1においては、成形サイクル中に、射出成形機のオペレータ等が、成形品を確認してその状況に応じて、当初設定した数値から、初期加熱設定温度Tzxや目標可塑化樹脂温度Tmの設定変更を行っても、新たに入力された初期加熱設定温度Tzxや目標可塑化樹脂温度Tmに基いて、先に説明した加熱設定温度補正工程1が行われることは言うまでもない。当然ながら、上記α、許容量Q1及び所定時間1の、成形サイクル中の設定変更もこれに含まれるものである。
【実施例2】
【0058】
次に、
図4を参照しながら、本発明の実施例2に係る射出成形方法を説明する。
図4は、部位H3における、成形サイクル停止準備補正開始点以降の加熱設定温度補正工程2による加熱バレルの降温のイメージを示すグラフである。
【0059】
実施例2に係る加熱バレル温度制御方法2が実施例1に係る加熱バレル温度制御方法1と異なる点は、連続成形運転の開始時における、加熱バレルの抜熱に対する温度補正制御(昇温)ではなく、予め、成形回数等で決められている成形サイクル停止時における、実施例1に係る加熱バレル温度制御方法1により昇温された加熱バレルに対する温度補正制御(降温)である点である。実施例1と同じく、一般的な射出成形機の射出装置の加熱バレル10における、本実施例2に係る加熱バレル温度制御方法を、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0060】
成形サイクル停止時の運転内容は、2通りに分けられる。1つは、次回の運転を鑑み、樹脂材料の供給が停止された後も、加熱バレル10内の樹脂材料をすべて排出(パージ)させるために、計量工程が継続されるパージ工程で行われる停止運転である。もう1つは、例えば同じ樹脂材料で次回の運転を行う場合、加熱バレル10内の樹脂材料は排出せずに、そのまま残存した状態で停止させる停止運転である。前者の場合は、先に説明したように、加熱バレル10内の樹脂材料の量が漸次パージされ減少していく状態に対して、各加熱手段の加熱設定温度が一定であれば、加熱バレルに付与される熱エネルギーの総量は一定で変化しない。そのため、加熱バレル10内の樹脂材料に付与される熱エネルギーが過多状態とならないように、各加熱手段の加熱設定温度を漸次降温させる制御が必須となる。後者の場合は、加熱バレル10内に残存する樹脂材料が過剰に加熱されることによる樹脂材料の送り不良等の危険性が高くなる。特に、加熱温度補正工程1の完了時において、新たな加熱設定温度T’zxが射出時の目標樹脂温度Tmよりも高くなっている(T’zx>Tm)温度補正の場合においては、更に危険性が増す。そのため、各加熱手段の加熱設定温度を漸次降温させる制御が必須となる。
【0061】
図4を参照しながら、本発明の実施例2に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法(降温)を説明する。
図4は、部位H3における、成形サイクル停止準備補正開始点以降の加熱設定温度補正工程2による加熱バレルの降温のイメージを示すグラフである。
図4の横軸は経過時間を示し、縦軸は温度を示す。各部位における各加熱手段の加熱設定温度の制御については基本的に同じため、部位H3(供給部)を代表して、本発明に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法を説明するものである。
【0062】
連続成形運転の開始前に、図示しない射出成形機の制御手段に、射出させる樹脂の目標可塑化温度Tmや、加熱手段毎に初期加熱設定温度Tzx等を、操作盤等のインターフェイスから入力する点や、制御手段において、加熱手段毎の、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTzxが、式ΔTzx=α(Tm−Tzx)で自動的に設定される(加熱設定温度補正準備工程)点は実施例1と同じである。Tm>Tzxの関係を前提とする点も同様である。
【0063】
次に、本実施例2においては、この加熱設定温度補正準備工程において、所定時間T2及び所定時間T3を入力する。前者の所定時間T2の入力により、成形サイクル停止準備補正開始点C’1が設定される。成形サイクル停止準備補正開始点C’1は、成形サイクルの停止予定から所定時間T2前の、昇温された加熱バレル10に対する温度補正制御(降温)を開始させる点である。また、後者の所定時間T3の入力により、補正開始点2が設定される。補正開始点2は、成形サイクル停止準備補正開始点C’1以降、昇温された加熱バレル10に対する温度補正制御(降温)を行う点であり、成形サイクル停止準備補正開始点C’1以降、射出成形機の制御手段により、所定時間T3毎に補正開始点2が認識され、この温度補正制御(降温)が、成形サイクル完了まで補正開始点2毎に繰り返されるものである。
【0064】
連続成形運転中、成形サイクルの停止予定から所定時間T2前に到達し、成形サイクル停止準備補正開始点C’1が、射出成形機の制御手段に認識されたものとする。
【0065】
成形サイクル停止準備補正開始点C’1の認識により、加熱設定温度補正工程2が開始される。この成形サイクル停止準備補正開始点C’1以降の、加熱設定温度補正工程2においては、加熱設定温度補正準備工程で予め設定されたΔTzxはそのままで、昇温用の温度補正式1、T’zx=Tzx+ΔTzx、が、降温用の温度補正式2、T”zx=T’zx−ΔTzx、に切り換えられる。そして、この温度補正式2により、各加熱手段の新たな加熱設定温度T”zxが再設定され、各加熱手段の加熱設定温度は、成形サイクル停止準備補正開始点C’1における加熱設定温度T’zxからT”zxへと降温される。部位H3の新たな加熱設定温度は、T”z
3=T’z
3−ΔTz
3、である。この加熱手段H3の加熱設定温度の降温(補正)により、部位H3の実温度Tb
3もΔTz
3に準ずる程度に下降する。
【0066】
実施例2に係る成形サイクル停止前の加熱バレル温度制御方法も、この各部位の実温度の下降幅の制御が目的ではなく、昇温された各部位をその状態から適宜降温させ、加熱バレル10内の樹脂材料に付与される熱エネルギーが過多状態とならないようにすることを目的としている。
【0067】
本実施例2の温度補正制御(降温)における最初の補正開始点である成形サイクル停止準備補正開始点C’1の後、所定時間T3毎に2回目以降の補正開始点2(2回目の補正開始点2C’2、3回目の補正開始点2C’3・・・)が認識され、温度補正式2、T”zx=T’zx−ΔTzx、により、各加熱手段の新たな加熱設定温度T”zxが次々と再設定される。このとき、温度補正式2左辺のT”zxは、成形サイクル停止準備補正開始点C’1において設定された新たな加熱設定温度T”zxではなく、2回目の補正開始点2C’2において設定される、更に新たな加熱設定温度T”zxであることは言うまでもない。
【0068】
同様に、温度補正式2右辺のT’zxも、昇温された加熱設定温度T’zxではなく、成形サイクル停止準備補正開始点C’1において設定された新たな加熱設定温度T”zxである。この加熱手段H3の2回目の加熱設定温度の昇温(補正)により、部位H3の実温度Tb
3もΔTz
3に準ずる程度に再び下降する。
【0069】
このように、本実施例2に係る加熱バレル温度制御方法の加熱設定温度補正工程2においては、成形サイクル停止準備補正開始点C’1の後、補正開始点2が認識される度に、補正量ΔTzx及び温度補正式2に基づき、各加熱手段の加熱設定温度の再設定が行われ、各加熱手段に対応する各部位の実温度に依らず、ステップ状に各加熱手段の加熱設定温度を降温させる。この降温により、各加熱手段に対応する各部位の実温度もステップ状に下降する。
【0070】
図4においては、3回の補正開始点2C’3における、新たな加熱設定温度の再設定の後、時間Tfにおいて、パージ工程が完了し、成形サイクルが完了している。尚、パージ工程を必要としない成形サイクル停止においては、時間Tfは削除される。この時の部位H3の実温度Tb3も、成形サイクル停止準備補正開始点C’1以降の、加熱手段H3の加熱設定温度の降温に準ずる程度に下降している。先に説明したように、成形サイクル完了時の各加熱手段の加熱設定温度T”zxが、必ずしも、T”zx=Tzx、あるいは、T”zx≒Tzx、になる必要はない。
【0071】
これまで説明したように、本実施例2の、射出成形機の加熱バレル温度制御方法においては、予め決定されている成形サイクルの完了タイミング及び所定時間T2から、成形サイクル停止準備補正開始点C’1として設定しておき、そのまま各加熱手段の温度補正制御(降温)が行われなければ発生する可能性のある可塑化不良を、加熱バレル10の実温度ではなく、予め設定した補正開始点2(成形サイクル停止準備補正開始点C’1後、所定時間T3毎)において再設定するため、射出装置系全体の温度変化のタイムラグの影響を受けることなく、適切なタイミングで、各加熱手段の新たな加熱設定温度を設定することができる。
【0072】
所定時間T3については、成形サイクル停止工程に要する所定時間T2を、本実施例1に係る加熱バレル温度制御方法の加熱設定温度補正工程2において決定されている、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTzxに応じて、成形サイクル停止準備補正開始点C’1の各加熱手段の加熱設定温度T’zxを何℃程度降温させるかによって決定すれば良く、実際に行われる連続成形運転の状況やデータから、適宜設定値を変更していけば良い。
【0073】
また、成形サイクル完了後、各加熱手段の加熱を継続させるか停止させるかに依らず、少なくとも各加熱手段の加熱設定温度の設定値を、自動的に各加熱手段の初期設定温度Tzxに設定し直すようにしても良い。この再設定により、次回成形サイクル再開時において、各加熱手段の加熱設定温度を初期設定温度に再設定する手間や、再設定を失念したまま運転を再開させてしまう虞を開始することができる。
【0074】
更に、補正1回分の加熱設定温度補正値ΔTzxに係る係数αについて、実施例1に係る、加熱バレル温度制御方法の加熱設定温度補正工程時の温度補正式1と、本実施例2に係る、加熱バレル温度制御方法の加熱設定温度補正工程時の温度補正式2とで、異なるαが設定されても良い。これにより、より適切な昇温制御と降温制御とが可能になる。
【0075】
また、本実施例2の、射出成形機の加熱バレル温度制御方法2においても、成形サイクル中に、射出成形機のオペレータ等が、成形品を確認してその状況に応じて、当初設定した数値から、初期加熱設定温度Tzxや目標可塑化樹脂温度Tmの設定変更を行っても、新たに入力された初期加熱設定温度Tzxや目標可塑化樹脂温度Tmに基いて、先に説明した加熱設定温度補正工程2が行われることは言うまでもない。
【実施例3】
【0076】
本発明に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法は、実施例1の加熱設定温度補正工程1と、実施例2の加熱温度補正工程2とを組み合わせて、連続成形運転中の可塑化状況の異常発生時における、加熱バレルの各加熱手段の加熱設定温度の温度補正制御(降温)も可能である。
【0077】
具体的には、実施例1の加熱設定温度補正準備工程において、同準備工程で説明した許容値Q1とは別に、許容値Q2を設定する。先に説明したように、許容値Q1は、成形サイクル毎の、計量時間、成形品重量及びスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異、あるいは、1つの成形サイクル内における、スクリュ21の後退速度や、微小時間内のスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異に関するもので、これらは、樹脂材料に直接的に付与されるせん断熱エネルギーと深く関連する項目やその項目に基づく結果である。そのため、加熱バレル10内の樹脂材料の可塑化状況を最小のタイムラグで把握するのに好適な項目である。
【0078】
そのため、許容値Q1は、連続して供給される樹脂材料による加熱バレル10の抜熱に対して、計量工程の不安定化を防止するために、加熱バレル10を昇温させる温度補正制御の開始タイミング(補正開始点1)として設定される。同様に、成形サイクル毎の、計量時間、成形品重量及びスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異について、計量工程の不安定より更に問題が大きな、可塑化状態の異常状態が予想されるような、許容値Q1を超える差異が、新たに許容量Q2として設定されることにより、これら項目の少なくとも1つの項目の差異が許容値Q2を超えた時点を、計量工程の異常発生として、射出成形機の制御手段に認識させることができる。
【0079】
尚、1つの成形サイクル内における、スクリュ21の後退速度や、微小時間内のスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異に基づいて許容量Q2を設定することも可能ではあるが、短時間での各項目の差異で、計量工程の異常発生を判断させることは難しく、必要以上に厳しい許容量Q2を設定すれば、連続成形運転を停止させる程の異常でない場合や、異常とは見なせないような差異が生じた場合でも、射出成形機の制御手段が異常と認識してしまう虞がある。そのため、成形サイクル毎、もしくは、複数サイクル毎の差異に基づく許容量Q2の設定が好ましい。
【0080】
一般的に、連続成形運転時の、射出成形機の運転を停止させざるを得ないような計量工程の異常とは、供給部における樹脂材料の供給不良や、圧縮部や計量部への樹脂送り不良が悪化し、樹脂材料がほとんど供給されない状態や、供給された樹脂材料が可塑化不良等により閉塞し、加熱バレル10内の樹脂流路14における樹脂流動が停止してしまう状態等が考えられる。
【0081】
前者の場合、樹脂温度の上昇に伴う樹脂粘度の低下と、樹脂流路14中の樹脂量の低下とにより、スクリュ21の回転トルクが減少し、平均回転負荷率も減少する。後者の場合、樹脂温度の上昇に伴い、樹脂粘度が低下しても、樹脂流路14中の樹脂材料の閉塞により、スクリュ21の回転トルクが増加し、平均回転負荷率も増加する。また、両者いずれの場合も、当然ながら計量時間が長くなり、かろうじて成形可能であったとしても、成形品重量が安定しないことは疑いない。更に、両者いずれの場合も、計量工程における樹脂材料への熱エネルギー供給が過多状態となり、加熱バレル10の各部位の実温度が上昇する。
【0082】
このような異常発生が確認された場合、異常の程度にも依るが、装置の保護という観点からは、ただちに連続成形運転を停止させることが好ましい。しかしながら、いきなり、各加熱手段の加熱を停止させ、連続成形運転を停止させるのは、加熱バレル10内の樹脂材料のスクリュ21への固着等による後処理工程を鑑みると好ましくはない。そのため、加熱バレル10の各部位の加熱手段の加熱設定温度が漸次降温され、そのままパージ工程を開始させ、できるだけ早く連続成形運転を停止させることが、装置の保護及び後処理工程の両方の観点から好ましい。
【0083】
そこで、本実施例3に係る、射出成形機の加熱バレル温度制御方法においては、連続成形運転中において、成形サイクル毎の、計量時間、成形品重量及びスクリュの平均回転負荷率の少なくとも1つの項目の差異が、許容値Q2を超えた時点を、計量工程の異常発生として、射出成形機の制御手段に認識させる。この時点を、射出成形機の制御手段に、実施例2における成形サイクル停止準備補正開始点C’1と同様に認識させることにより、加熱設定温度補正工程1における温度補正式を温度補正式1から温度補正式2に切り換え、実施例2における加熱設定温度補正工程2に基づき、各加熱手段のその時点における加熱設定温度T’zxを漸次降温させる。
【0084】
このように、許容値Q2の設定により、計量工程における加熱バレル10内の可塑化状態の異常状態を、射出成形機の制御手段に認識させることができるので、射出成形機のオペレータに、異常の発生可能性を、最小のタイムラグで、自動的にアナウンスすることができる。また、実施例2において説明したように、加熱設定温度補正工程2に基づき、各加熱手段の加熱設定温度を漸次降温させて、加熱バレル10の必要以上の加熱状態を回避して、成形サイクルの緊急停止に対応させることができる。これによって、射出成形機の装置としての保護が図れると共に、停止後の後処理工程の負荷を低減させることができる。