特許第6206731号(P6206731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206731空気入りタイヤ用トレッド及びこのトレッドを有する空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206731
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ用トレッド及びこのトレッドを有する空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20170925BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20170925BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B60C11/03 300E
   B60C11/00 D
   B60C11/00 E
   B60C11/12 C
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-534435(P2014-534435)
(86)(22)【出願日】2013年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2013074229
(87)【国際公開番号】WO2014038689
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年8月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2012/072891
(32)【優先日】2012年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(73)【特許権者】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲司
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−78414(JP,A)
【文献】 特開平9−193618(JP,A)
【文献】 実開平1−133004(JP,U)
【文献】 特開平2−246808(JP,A)
【文献】 特開昭61−263807(JP,A)
【文献】 特開2001−130228(JP,A)
【文献】 特開2001−130220(JP,A)
【文献】 特開2010−23585(JP,A)
【文献】 特開平3−186406(JP,A)
【文献】 特開2003−54217(JP,A)
【文献】 特開2010−234897(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0041508(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0308514(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/00
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、
前記少なくとも1つのゴム組成物は規格ASTM D882-09に規定された引張試験から算出される弾性率Etを有し、
前記トレッドは、少なくとも1本の周方向主溝と、複数の副溝と、これらの周方向主溝及び副溝によって区切られた複数のブロックと、を有し、
前記複数のブロックのうち少なくとも1つのブロックは、その一部がタイヤ転動時に路面と接触する接地面となる上面と、タイヤ周方向に沿ってそれぞれ位置する2つの正面側壁と、タイヤ軸線方向に沿ってそれぞれ位置する2つの側面側壁と、を有し、
前記ブロックの上面は、前記2つの正面側壁と交差する位置に形成された2つの正面エッジを有し、
前記ブロックは、前記2つの正面側壁のうち少なくとも1つの正面側壁に設けられた補強部を有し、この補強部は、前記トレッドを形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高い弾性率Efを有する材料により形成され、且つ、0.1mm以上2.0mm以下の平均厚さを有し、さらに、前記正面側壁の60%以上の領域にわたって少なくとも副溝に面するように設けられ、
前記ブロックの上面は、タイヤ回転軸線の方向から視たとき、前記2つの正面エッジを除いた領域において、タイヤ回転軸線から前記上面のいずれの点までの距離を測定しても、その距離が、タイヤ回転軸線から測定した前記2つの正面エッジまでの距離Reより大きくなるよう形成されると共に、タイヤ回転軸線から前記上面における最も半径方向外側の位置まで測定される距離Rtと、タイヤ回転軸線から前記2つの正面エッジまで測定される距離Reとの差Gが新品時0.2mm以上2.0mm以下であり、且つ、前記補強部の最も半径方向外側の位置と前記正面エッジとの間の距離が2.0mm以下であることを特徴とする空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項2】
前記ブロックの正面側壁に設けられた補強部は、前記正面エッジにおいて、正面エッジの幅方向の少なくとも一部に延びるよう設けられている請求項1に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項3】
前記ブロックの正面側壁に設けられた補強部は、前記正面エッジにおいて、正面エッジの幅方向全てにわたり延びるよう設けられている請求項2に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項4】
前記ブロックの上面における前記差Gが1.5mm以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項5】
前記ブロックの正面側壁に設けられた補強部は、前記ブロックの2つの正面側壁の両方に設けられている請求項1及至4の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項6】
前記ブロックの上面は、タイヤ回転軸線の方向から視たとき、2つの正面エッジを結ぶ直線と、正面エッジを通る前記上面の接線との角度が20度以上である請求項1及至5の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項7】
前記ブロックの正面側壁に設けられた補強部が前記正面側壁の75%以上の領域にわたって設けられている請求項1及至6の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項8】
前記ブロックの正面側壁に設けられた補強部が前記正面側壁の全領域にわたって設けられている請求項7に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項9】
前記ブロックは、前記2つの正面エッジ間のタイヤ周方向の平均距離が15mm以上であるように形成されている請求項1及至8の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項10】
前記ブロックは、更に、前記上面に開口し、そのブロックの内方に延びると共にタイヤ幅方向に延びる細い切れ込みを有する請求項1及至9の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【請求項11】
請求項1及至10の何れか1項に記載のトレッドを有する空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用トレッド及びこのトレッドを有する空気入りタイヤに係わり、特に、ブロックの正面側壁に設けた補強部により雪上性能及び氷上性能を向上させた空気入りタイヤ用トレッド及びこのトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤとも呼ばれる冬用タイヤは、雪や氷で覆われた冬の路面を走行することの出来るタイヤとしてよく知られている。冬用タイヤは、一般的に、接地面に開口するサイプと呼ばれる複数の細い切れ込みを設け、いわゆるエッジ効果と、水膜を除去する効果と共に、冬用でないタイヤと比較して柔らかいコンパウンドを使用することにより、冬の路面との密着性を向上させている。
【0003】
冬用タイヤにおける路面との摩擦力を発生させるメカニズムは、現実には路面が雪の場合と氷の場合とで異なるので、氷上性能を向上させるために柔らかいコンパウンドを使用し、接地要素であるブロックに多数の細い切れ込みを設けても、結果としてブロック剛性を低下させてしまい、雪上性能の向上を妨げてしまうことが知られている。
【0004】
冬用タイヤにおいて、良好な氷上性能及び雪上性能を同時に得るための手段として、ブロックの側壁に補強部を導入することが効果的であることは知られている。
例えば、特許文献1(主に図3)には、3本の細い切れ込みと1本の副溝が設けられたブロックの、横溝及び副横溝に面したブロックの側壁に、JIS A硬度が80から95度のゴムを用いた補強部を設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした空気入りタイヤが記載されている。
【0005】
また、特許文献2(主に図2)には、ガラス転移点温度が-60℃以上のゴム成分を30重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、カーボンブラック及びシリカから選ばれる少なくとも1種を50重量部以上配合した組成にすると共に、脆化温度を-30℃以下にしたゴムを用いた補強部を、ブロックの側壁に設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした空気入りタイヤが記載されている。
【0006】
また、先行出願である特許文献3(主に図1)には、ブロックの側壁の50%以上の領域にわたって200MPa以上の材料のモジュラス(弾性率)を有する補強層(補強部)を0.5mm未満の厚さにて設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした空気入りタイヤ用トレッドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−047814号公報
【特許文献2】特開2010−105509号公報
【特許文献3】PCT/JP2011/079188(国際公開2013/088570号パンフレット)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載された空気入りタイヤでは、雪上性能及び氷上性能の高いレベルの両立は難しく、特に氷上性能の向上が十分でなく、冬の路面走行時の安全性の観点から、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る空気入りタイヤへの要望がなされている。
【0009】
そこで本発明は、上述した従来技術が抱える問題点を解決するためになされたものであり、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つのゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、少なくとも1つのゴム組成物は規格ASTM D882-09に規定された引張試験から算出される弾性率Etを有し、トレッドは、少なくとも1本の周方向主溝と、複数の副溝と、これらの周方向主溝及び副溝によって区切られた複数のブロックと、を有し、複数のブロックのうち少なくとも1つのブロックは、その一部がタイヤ転動時に路面と接触する接地面となる上面と、タイヤ周方向にそってそれぞれ位置する2つの正面側壁と、タイヤ軸線方向に沿ってそれぞれ位置する2つの側面側壁と、を有し、ブロックの上面は、2つの正面側壁と交差する位置に形成された2つの正面エッジを有し、ブロックは、2つの正面側壁のうち少なくとも1つの正面側壁に設けられた補強部を有し、この補強部は、トレッドを形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高い弾性率Efを有する材料により形成され、且つ、0.1mm以上2.0mm以下の平均厚さを有し、さらに、正面側壁の60%以上の領域にわたって少なくとも副溝に面するように設けられ、ブロックの上面は、タイヤ回転軸線の方向から視たとき、2つの正面エッジを除いた領域において、タイヤ回転軸線から上面のいずれの点までの距離を測定しても、その距離が、タイヤ回転軸線から測定した2つの正面エッジまでの距離Reより大きくなるよう形成されると共に、タイヤ回転軸線から上面の最も半径方向外側の位置まで測定される距離Rtと、タイヤ回転軸線から2つの正面エッジまで測定される距離Reとの差Gが新品時0.2mm以上2.0mm以下であり、且つ、補強部の最も半径方向外側の位置と正面エッジとの間の距離が2.0mm以下であることを特徴としている。
【0011】
ここで、「溝」とは、通常の使用条件下で相互に接触することのない2つの対向する面(壁面、側壁)を、他の面(底面)により接続して構成された、幅及び深さを持つ空間のことを言う。
また、「主溝」とは、流体の排水を主に受け持つ、トレッドに形成される種々の溝の中で比較的広い幅を持つ溝のことを言う。主溝は、多くの場合、直線状、ジグザグ状又は波状にタイヤ周方向に延びる溝を意味するが、タイヤ回転方向に対して角度を持って延びる、流体の排水を主に受け持つ比較的広い幅を持つ溝も含まれる。
また、「主溝」以外の溝を「副溝」と呼ぶ。
【0012】
また、「エッジ」とは、ブロックの上面と正面側壁又は側面側壁との交差部(ブロックの上面の各縁部、又は、ブロックの上面における正面側壁又は側面側壁との境界)のことをいう。一部が接地面となるブロックの上面はこのようなエッジにより区画されている。上面と正面側壁又は側面側壁との間に面取りが形成されている場合、このような面取り部は上面の一部と解される。ブロックの上面を区画するエッジのうち、回転方向側におけるブロック上面と正面側壁との交差部を「正面エッジ」と呼ぶ。本発明では、後述するように、正面エッジは特定の路面条件下で路面と接触する。
【0013】
また、「弾性率」とは、規格ASTM D882-09に規定された引張試験から求められた引張試験曲線から算出される引張弾性率Eのことをいう。この引張弾性率Eは、例えば“POLYMER PHYSICS"(Oxford、ISBN 978-0-19-852059-7、Chapter7.7、Page 296)に記載のように、せん断弾性率Gと下記の関係性を有する。
ここで、υはポアソン比であり、ゴム材料のポアソン比は0.5に非常に近い値となる。
【0014】
なお、補強部を形成する材料の弾性率Efが、トレッドを形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高いこと等を確認する場合は、上述した弾性率Et及び弾性率Efを、複素弾性率(材料の動的せん断複素弾性率、dynamic shear modulus:G*)Mにそれぞれ置き換えて確認することが可能である。既知の動的性質である、G’で表される貯蔵弾性率及びG”で表される損失弾性率は、粘性分析器(viscoanalyzer: Metravib VB4000)によって、生の組成物から成形された試験片もしくは加硫後の組成物と共に結合された試験片を用いて測定される。試験片は、規格ASTM D 5992-96(2006年9月に公開された、当初1996年に承認されたバージョン)の図X2.1(円形の方式 a circular method)に記載のものが使用される。試験片の直径”d”は10mm(故に試験片は78.5mm2の円形断面を有する)であり、ゴムコンパウンドのそれぞれの部分の厚さ”L”は2mmであり、(ASTM規格の段落X2.4に記載されている、規格ISO 2856が推奨する比率”d/L”の2とは対照的に)比率”d/L”は5とされる。試験では、10Hzの周波数において単純な交互正弦波のせん断荷重を受ける加硫ゴム組成物の試験片の応答を記録する。試験中に課される最大せん断応力は0.7MPaである。測定は、ゴム材料のガラス転移点温度(Tg)より低い温度であるTminから、100℃付近の最大温度Tmaxまでの間で、1分間に1.5℃の割合で変化させて行われる。試験片は、試験片内の良好な温度均一性を得るために、試験開始前にTminにて約20分安定化される。得られる結果は、規定された温度での貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)である。複素弾性率G*は、貯蔵弾性率及び損失弾性率の絶対値より、下記式にて定義される:
【0015】
上記のように構成された本発明においては、タイヤ回転軸線から上面における2つの正面エッジを除いた領域までの距離が、タイヤ回転軸線から測定した2つの正面エッジまでの距離Reより大きく、タイヤ回転軸線より測定されるブロックの上面の最外側の位置までの距離Rtと、回転軸線より測定される2つの正面エッジまでの距離Reとの差Gが新品時0.2mm以上であるので、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際、ブロック上面と、補強部が設けられた正面側壁との交差部に形成された正面エッジが路面と接触することを防止出来る。従って、氷上における摩擦係数を低下させる原因の一つとしてよく知られている、トレッドと氷との間での水膜の発生を防止することが可能となり、その結果、氷上性能を改善することが出来る。言い換えると、この差Gを0.2mm未満とすると、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面であっても、正面エッジが路面と接触してしまい、これにより、トレッドと氷との間で水膜が発生してしまうので、氷上性能を低下させる恐れがある。
【0016】
さらに、本発明においては、差Gが2.0mm以下であるので、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分に高い路面を走行する際、ブロック上面と、補強部が設けられた正面側壁との交差部に形成された正面エッジを路面に接触させることにより、局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来る。即ち、正面側壁に設けられた補強部の効果により、正面エッジを効果的に雪に食い込ませることが可能となり、その結果、雪上性能を向上させることが出来る。言い換えると、この差Gを2.0mmよりも大きくすると、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分に高い路面であっても、正面エッジを路面と接触させることが難しくなり、その結果、正面エッジを雪に食い込ませることが難しくなるので、雪上性能を低下させる恐れがある。
【0017】
さらに、本発明においては、補強部における最も半径方向外側の位置と正面エッジとの間の距離を2.0mm以下としているので、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分に高い路面を走行する際、補強部の効果による局所的に高いエッジ圧力を効果的に発生させることが可能となる。言い換えると、補強部における最も半径方向外側の位置と正面エッジとの間の距離が2.0mmより大きいと、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分に高い路面を走行する際であっても、正面エッジ部が路面と接触しても、局所的に高いエッジ圧力を発生させる事が難しくなるので、雪上性能を低下させる恐れがある。
【0018】
本発明において、好ましくは、正面側壁に設けられた補強部は、正面エッジにおいて、正面エッジの幅方向の少なくとも一部に延びるよう設けられている。
このように構成された本発明においては、雪上において、補強部の効果により、正面エッジによる局所的に高いエッジ圧力を確実に得ることが出来、その結果、氷上性能の向上を図りながら、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0019】
本発明において、好ましくは、正面側壁に設けられた補強部は、正面エッジにおいて、正面エッジ幅方向全てにわたり延びるよう設けられている。
このように構成された本発明においては、より確実に、正面エッジによる局所的に高いエッジ圧力を確実に得ることが出来る。
【0020】
本発明において、好ましくは、ブロックの上面における差Gは1.5mm以下である。
このように構成された本発明においては、雪上において、正面エッジによる局所的に高いエッジ圧力をより確実に得ることが出来、その結果、氷上性能の向上を図りながら、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0021】
本発明において、好ましくは、ブロックの正面側壁に設けられた補強部は、ブロックの2つの正面側壁の両方に設けられている。
このように構成された本発明においては、雪上において加速時、減速時共に、ブロック上面と、補強部が設けられた正面側壁との交差部に形成された正面エッジによる局所的に高いエッジ圧力を得ることができ、その結果、氷上性能の向上を図りながら、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0022】
本発明において、好ましくは、ブロックの上面は、タイヤ回転軸線の方向から視たとき、2つの正面エッジを結ぶ直線と、正面エッジを通る上面の接線との角度が20度以上である。
このように構成された本発明においては、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際、正面エッジが路面に接触する事を防ぎつつ、接地面としてのブロックの上面の一部と路面との接触を十分に確保する事ができ、その結果、より氷上性能を向上させることが出来る。言い換えると、この角度を20度未満とすると、正面エッジが路面に接触する事を確実に防止できず、氷上性能を低下させる恐れがある。
【0023】
本発明において、好ましくは、ブロックの正面側壁に設けられた補強部は正面側壁の75%以上の領域にわたって設けられている。
このように構成された本発明においては、雪上において、ブロック上面と、補強部が設けられた正面側壁との交差部に形成された正面エッジによる局所的に高いエッジ圧力をより確実に得ることが出来、その結果、氷上性能の向上を図りつつ、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0024】
本発明において、好ましくは、ブロックの正面側壁に設けられた補強部は正面側壁の全領域にわたって設けられている。
このように構成された本発明では、より確実に、氷上性能の向上を図りつつ、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0025】
本発明において、好ましくは、ブロックは、2つの正面エッジ間のタイヤ周方向の平均距離が15mm以上であるように形成されている。
このように構成された本発明においては、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際であってもブロックが変形してしまう事を防止することが可能であり、これにより、トレッドと氷との間での水膜の発生を防止することが出来、その結果、より氷上性能を向上させることが出来る。
【0026】
本発明において、好ましくは、ブロックは、更に、上面に開口し、そのブロックの内方に延びると共にタイヤ幅方向に延びる細い切れ込みを有する。
ここで、「細い切れ込み」とは、いわゆるサイプなどとも呼ばれる、ナイフの刃のようなものにより形成された切れ込みのことを言い、この細い切れ込みのトレッド表面での幅は、主に副溝に対して相対的に小さく、概ね2mm以下である。
このように構成された本発明においては、細い切れ込みは、補強部により全体的に高められたブロック剛性を部分的に低下させて、路面との密着性、特に氷上における路面との密着性を向上させることが出来、その結果、氷上性能を向上させることが出来る。同時に、細い切れ込みは、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分に高い路面を走行する際のブロックの変形を助ける事が出来、正面エッジによる局所的に高いエッジ圧力をさらに高めて、正面エッジ部を十分に雪に食い込ませることが可能となり、その結果、より雪上性能を向上させることが出来る。また、よく知られた現象として、細い切れ込みは、氷上における摩擦係数を低下させる原因の一つとしてよく知られている、トレッドと氷との間で発生した水膜を除去するための追加の貯蔵領域として作用する事が出来、その結果、より氷上性能を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0027】
本発明による空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤによれば、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
図3】本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
図4】本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
図5】従来の空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態による空気入りタイヤ用トレッド及びこのトレッドを使用した空気入りタイヤを説明する。
先ず、図1及至図2により、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。図1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す斜視図であり、図2は、図1のII-II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
【0030】
先ず、図1に示すように、符号1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドである。なお、この空気入りタイヤ用トレッド1が適用される空気入りタイヤのタイヤサイズの例は205/55R16である。
【0031】
次に、図1及び図2により、トレッド1の全体構造を説明する。
このトレッド1は、弾性率Etを有するゴム組成物から成り、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有し、二本の周方向主溝3及び複数の副溝4が形成されている。これらの周方向主溝3及び副溝4により、複数のブロック5が区画形成されている。
このブロック5は、接地面2の一部を形成する上面51と、タイヤ周方向に沿った縦方向にてそれぞれ位置し、副溝4に面するように形成された二つの側壁(正面側壁)52,53と、タイヤ回転軸線方向に沿った横方向にそれぞれ位置し、周方向溝3に面するように形成された二つの側壁(側面側壁)54,55と、を有している。
【0032】
上面51は、その正面側壁52,53と交差する縁部において、正面エッジ521,531を形成している。また、ブロック5には、上面51に開口し、タイヤ幅方向に延びると共にブロック5の半径方向内方に延びる細い切れ込み6が形成されている。この細い切れ込み6は、側面側壁54,55にも開口している。なお、細い切れ込み6は、その諸機能を発揮する範囲で、半径方向に対して所定の角度をもって延びるものでも良い。また、「タイヤ幅方向」とは、本実施形態では、タイヤ周方向に垂直な方向であるが、タイヤ周方向に対して所定の角度をもって斜めに延びるものも含む。
【0033】
次に、二つの正面側壁52,53には、トレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高い、好ましくは少なくとも50倍高い弾性率Efを有する材料から成る補強部7が設けられている。本実施形態においては、トレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Etは5.4MPaであり、補強部7を形成する材料は天然樹脂を元にした材料で、その弾性率は270MPaであるため、弾性率Efは弾性率Etより50倍高くなるように形成されている。
【0034】
次に、トレッド1のブロック5の補強部7の配置を説明する。
本実施形態では、各補強部7は、正面側壁52,53の60%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは全ての領域にわたって副溝4に面するように設けられる。また、各補強部7は、その平均厚さt(図2に示す)が2.0mm未満、好ましくは1.0mm未満となるように設けられる。ここで、補強部7の厚みは、補強部7が設けられている正面側壁52,53の副溝4に面した表面に垂直な方向の厚さであり、「平均厚さ」は、補強部7における、副溝4の底面側からブロック5の上面51側までの間で測定される平均値、即ち、補強部7のほぼ全面での平均値である。本実施形態においては、補強部7は正面側壁52,53の84%の領域にわたって設けられ、平均厚さtは0.5mmである。ここで、補強部7の平均厚さtは、0.2mm以上であることが好ましい。
【0035】
次に、トレッド1のブロック5の上面51を説明する。
上面51は、タイヤ転動時に路面と接触するトレッド1の接地面2の一部を形成し、この上面51は、特定の条件下で、その一部が路面と接触可能なブロック5の領域として定義される。上面51は、周方向において、二つの周方向エッジ(正面エッジ)521,531により制限されている。言い換えると、上面51は、そのタイヤ周方向側のそれぞれの縁部に二つの周方向エッジ521,531を有している。
【0036】
本実施形態は、トレッド1のブロック5の上面51は、2つの正面エッジ521,531を除いた領域において、タイヤ回転軸線から上面51のいずれの点までの距離を測定しても、その距離が、タイヤ回転軸線から測定した2つの正面エッジ521,531までの距離Reより大きくなるよう形成されている。より具体的には、図2に断面で示すように、上面51は、タイヤ周方向において、それぞれ正面エッジ521,531から上面51の内方に延び、タイヤ回転軸線からの半径方向距離が徐々に増大する2つの部分511と、この半径方向距離が徐々に増大する部分511に挟まれた中間部分512とを有している。中間部分512は、タイヤの半径とほぼ同じ半径を有するような曲線状に形成されている。なお、このように形成されたブロック5の上面51においては、主に、その中間部分512が路面状況を問わず常に路面と接触するように想定しているが、これは、荷重条件等により変化し、半径方向距離が徐々に増大する2つの部分511の一部も常に路面と接触する場合も想定される。なお、後述するように、正面エッジ521、531は、特定の路面条件下で路面と接触するように形成されている。
【0037】
次に、トレッド1のブロック5の補強部7及びこの補強部7が設けられた正面側壁52,53の寸法関係を説明する。
本実施形態では、補強部7が設けられた正面側壁52,53は、半径方向に測定される補強部7の最外側の位置(補強部7の半径方向外方の縁部)と、正面エッジ521,531との間の距離が2.0mm以下となるように形成されている。この補強部7は、好ましくは、少なくとも部分的に正面エッジ521,531を含み、より好ましくは、正面エッジ521,531全てを含むように形成されている。図2に示す例では、補強部7の半径方向最外側の位置と正面エッジ521,531の位置との間の距離はゼロ(0mm)であり、且つ、正面側壁52,53に設けられた補強部7の半径方向の最外側の縁部が、正面エッジ521,531の幅方向全てにわたり存在するよう設けられている。一方、正面側壁52,53に設けられた補強部7の半径方向の最外側の縁部が、正面エッジ521,531の幅方向において少なくとも部分的に正面エッジ521,531に存在するよう設けられていても良い。
【0038】
また、ブロック5において、補強部7は、正面側壁52,53の一部の領域のみに設けられているが、補強部7の効果を最大限発揮させるために、正面側壁52,53の全領域にわたって設けられるのが好ましい。このような補強部7は、当然に、本実施形態と同様に、正面エッジ部521,531全てを含むように設けられることになる。
【0039】
次に、ブロック5の上面51と、その正面エッジ521,531との寸法関係を説明する。
本実施形態では、タイヤ回転軸線より測定される、ブロック5の上面51の半径方向最外側の部分(位置)までの距離Rtと、同じくタイヤ回転軸線より測定される、二つの正面エッジ521,531までの距離Reとの差Gは、トレッド1が新品時0.2mm以上2.0mm以下であり、図2に示す例では、この「差G」は0.5mmである。
【0040】
また、本実施形態では、図2に示すように、タイヤ回転軸線に垂直な断面視において、二つの正面エッジ521,531を結ぶ直線と、各正面エッジ521,531を通る上面51の接線との間に角度Aがつくられ、これらの角度Aは20度以上となるように形成されている。これにより、雪上のように路面の摩擦係数がブロックを変形させるのに十分に高い路面を走行する際には、正面エッジ部521,531を路面に接触させ、一方、氷上のように路面の摩擦係数がブロックを変形させるのに不十分な路面を走行する際には、正面エッジ部521,531が路面と接触するのを防ぐ事が出来る。図2に示す例では、上述した角度Aは28度である。ここで、角度Aは、60度以下であることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態において、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際であってもブロックが変形してしまう事を防止するよう、ブロック5の少なくとも1つは、タイヤ周方向に測定される2つの正面エッジ521,531間の平均距離が15mm以上であるように形成されている。これにより、トレッドと氷との間での水膜の発生を防止することが出来、その結果、より氷上性能を向上させることが出来る。
【0042】
次に、上述した本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドによる作用効果を説明する。
本実施形態においては、まず、補強部7は正面側壁52,53の60%以上の領域にわたって主溝3及び/又は副溝4に面するように設けられ、補強部7を形成する材料の弾性率Efをトレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高くすることにより、雪上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強部7の効果により局所的に高い正面エッジ圧力を得ることが出来る。このとき、主に加速時や通常走行時には、一方の正面エッジ521(又は531)が接地し、主に減速時には、他方の正面エッジ531(又は521)が接地する。即ち、本実施形態のトレッドは、このような路面状況のとき、上述した上面51の半径方向距離が徐々に増大する2つの部分511は、いずれかが接地するようになっている。従って、本実施形態のトレッドによれば、ブロック5の正面エッジ521,531をより雪に食い込ませることが可能となり、これにより雪上性能を改善することが出来る。
【0043】
また、本実施形態では、補強層7の平均厚さを0.1mm以上2.0mm以下としているので、氷上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、正面エッジ部521,531が路面と接触することを防止することが出来る。即ち、本実施形態のトレッドは、このような路面状況のとき、上面51における正面エッジ52、53の近傍部分(例えば、上述した半径方向距離が徐々に増大する2つの部分511)は接地しないようになっている。これにより、氷上における摩擦係数を低下させる原因の一つとしてよく知られている、トレッドと氷との間で発生した水膜の発生を防止することが可能となり、その結果、本実施形態のトレッドによれば、氷上性能を向上することが出来る。
【0044】
次に、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの変形例を説明する。
補強部7の材料としては、上述した天然樹脂を基にした材料(ゴム材料を含む)の他に、天然樹脂を基にした材料に繊維を混合または含浸させたもの、熱可塑性樹脂、及びそれらを積層または混合したもの等も使用することができ、ブロック5との接着性の向上もしくは更なる補強を目的として更に天然樹脂を基にした材料に含浸させた織布、不織布等と組み合わせて使用することもできる。天然樹脂を基にした材料に含浸させた織布、不織布等の繊維材料は、単独で補強部7として使用しても構わない。
【0045】
また、タイヤ回転方向が規定されているタイヤトレッドである場合などには、2つの正面側壁52,53のうち、どちらか一方の正面側壁に補強部7を設けるようにしても良い。
また、本実施形態においては副溝4の底面は補強部7によって覆われていないが、補強部7を設ける際の生産性の向上などを目的として、補強部7のタイヤ半径方向内方の縁部を延長して、補強部7が溝3、4の底面の一部又は全部を覆うように構成しても良い。
【0046】
また、本実施形態においては副溝4に面したブロックの正面側壁52,53のみに補強部7を設けているが、補強部7は、同様に、周方向主溝3に面したブロックの側壁(側面側壁)54,55にも設けることができる。これにより、主に、補強部7によるタイヤ幅方向の雪上性能効果を向上させて、特に操舵性能を向上させることも可能である。
【0047】
また、ブロック5の上面51の形状は、本実施形態の図1及び図2、さらに、後述する第2及び第3実施形態の図3図4のような形状に限らず、上述したように、正面エッジ521,531を除いたブロック上面51の全領域におけるタイヤ回転軸線からの距離が正面エッジ521,531のタイヤ回転軸線からの距離より大きく、且つ、上述した距離Re、差Gなどの条件を満たすものであれば、例えば、タイヤ回転軸線に垂直な断面視において、上面51が全体的に所定の曲率を持つような曲線状に形成したり、全体的に三角形状に形成しても良い。
【0048】
次に、図3により、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。図3は、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドのブロックを模式的に示す拡大断面図である。
【0049】
図3に示すように、第2実施形態によるトレッド1には、上述した第1実施形態と同様に、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有し、二本の周方向主溝3及び複数の副溝4が形成されている。これら周方向主溝及び副溝により、複数のブロック5が区画形成されている。このブロック5は、接地面2の一部を形成する上面51と、タイヤ周方向に対応する縦方向に離間した二つの側壁(正面側壁)52,53、およびタイヤ軸線方向に対応する横方向に離間した二つの側壁(側面側壁)54,55とを有している。上面51は正面側壁52,53と交差し、正面エッジ521,531を形成している。また、ブロック5には、上面51に開口し、タイヤ幅方向に延びると共にタイヤ半径方向(又は実質的に半径方向であっても良い)に延びる細い切れ込み6が形成されている。二つの正面側壁52,53には補強部7が設けられている。
【0050】
本実施形態では、各補強部7は、正面側壁52,53の60%以上、好ましくは75%以上の領域にわたって副溝4に面するように、平均厚さtが2.0mm未満、好ましくは1.0mm未満となるように設けられている。補強部7の設けられた正面側壁52,53は、半径方向に測定される補強部7の最外側の位置と正面エッジ521,531との間の距離が2.0mm以下となるように設けられている。図3に示す例においては、補強部7は正面側壁部52,53の90%の領域にわたって設けられ、平均厚さtは0.5mmであり、半径方向に測定される補強部7の最外側と正面エッジ部521,531との間の距離は1.0mmである。
【0051】
上面51には、上述した第1実施形態と同様に正面エッジ部521,531が形成されている。また、本実施形態では、その上面51に、各正面エッジ部521,531から延びる二つの面取り部56が形成されている。本実施形態では、これらの面取り部56により、上面51には、正面エッジ部521,531とは別のエッジ561が形成されているが、この面取り部56により形成されたエッジ56は、正面エッジ部521,531とは異なり、路面状況を問わず常に路面と接触するエッジである。そして、平面51における、これらのエッジ56に挟まれた中間領域512は、路面状況を問わず常に路面と接触するようになっている。
【0052】
本実施形態においても、回転軸線より測定されるブロック5の上面の最外側までの距離Rtと、同じく回転軸線より測定される二つの正面エッジ521,531までの距離Reとの差Gは、トレッド1が新品時0.2mm以上2.0mm以下であり、回転軸線より測定される、上面51上の正面エッジ部521,531を除く任意の点(正面エッジ部521,531を除いた上面51の全領域におけるいずれの点)までの距離がReより大きくなるように形成されている。図3に示す例においては、差Gは0.5mmである。
【0053】
また、本実施形態では、図3に示すように、二つの正面エッジ521,531を結ぶ直線と、正面エッジ521,531を通る上面51の接線との間に角度Aがつくられ、その角度Aは20度以上となるように形成されている。本実施形態では、正面エッジ521,531を通過する上面51の接線は、面取り部56の直線となり、また、この面取り部56の形成角度が、ほぼ、上述した角度Aとなる。これにより、正面エッジ521,531は、雪上のように路面の摩擦係数がブロックを変形させるのに十分に高い路面を走行する際、正面エッジ部521,531を路面に接触させ、一方、氷上のように路面の摩擦係数がブロックを変形させるのに不十分な路面を走行する際、正面エッジ521,531が路面と接触するのを防ぐ事が出来る。図3に示す例においては、上述した角度Aは45度である。
【0054】
次に、上述した本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドによる作用効果を説明する。
本実施形態では、補強部7は正面エッジ部521,531を含んでいない構成、即ち、補強部7が正面エッジ部521,531まで延びるよう設けられていないが、このような場合でも、雪上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強部7の効果により、ブロック5の正面エッジ部521,531おいて局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来、効果的に雪上性能を改善することが出来る。
【0055】
また、ブロック5の上面51に、正面エッジ521,531から延びる面取り部56を形成しているので、氷上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、正面エッジ部521,531が路面と接触することをより確実に防止して、氷上における摩擦係数を低下させる原因の一つとしてよく知られている、トレッドと氷との間で発生した水膜の発生を防止することが可能となり、これにより氷上性能を向上することが出来る。
【0056】
なお、図示しない変形例として、ブロック5に設けられた細い切れ込み6により形成された側壁部分に補強部7を設けまたは設けずに、細い切れ込み6により形成された側壁部分と正面側壁51,52との間、もしくは複数の細い切れ込み6を設けた場合には、細い切れ込み6により形成された側壁部分と他の細い切れ込み6により形成された側壁部分との間で、前述した距離Rt、Reおよび差Gとの関係性を満たすようにしてもよい。
【0057】
次に、図4により、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。図4は、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドのブロックを模式的に示す拡大断面図である。
【0058】
図4に示すように、第3実施形態のトレッド1には、上述した第1実施形態と同様に、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有し、二本の周方向主溝3及び複数の副溝4が形成されている。これら周方向主溝及び副溝により、複数のブロック5が区画形成されている。このブロック5は、接地面2の一部を形成する上面51と、タイヤ周方向に対応する縦方向にそれぞれ位置した二つの側壁(正面側壁)52,53、およびタイヤ軸線方向に対応する横方向にそれぞれ位置した二つの側壁(側面側壁)54,55とを有している。上面51は正面側壁52,53と交差し、正面エッジ521,531を形成している。二つの正面側壁52,53には補強部7が設けられている。
【0059】
本実施形態においても、各補強部7は、正面側壁52,53の60%以上、好ましくは75%以上の領域にわたって副溝4に面するように、平均厚さtが2.0mm未満、好ましくは1.0mm未満となるように設けられている。また、各補強部7は、半径方向に測定される補強部7の最も外側の位置と正面エッジ521,531との間の距離が2.0mm以下となるように設けられている。図4に示す例においては、補強部7は正面側壁52,53の全領域にわたって設けられ、正面エッジ全てを含むように形成され、平均厚さtは1.0mmであり、半径方向に測定される補強部7の最外側の位置と正面エッジ521,531との間の距離はゼロ(0mm)である。
【0060】
また、本実施形態では、その上面51に、各正面エッジ521,531から延びる二つの面取り部56が形成されている。この面取り部56により、上面51には、正面エッジ部521,531とは別のエッジ561が形成されているが、この面取り部56により形成されたエッジ56は、正面エッジ部521,531とは異なり、路面状況を問わず常に路面と接触をするエッジである。そして、平面51における、これらのエッジ56に挟まれた中間領域512は、路面状況を問わず常に路面と接触するようになっている。
【0061】
本実施形態においても、回転軸線より測定されるブロック5の上面51の最外側までの距離Rtと、同じく回転軸線より測定される二つの正面エッジ521,531までの距離Reとの差Gは、トレッド1が新品時0.2mm以上2.0mm以下であり、回転軸線から上面51上の、正面エッジ部521,531を除く任意の点までの距離がReより大きくなるように形成されている。図4に示す例においては、差Gは0.5mmである。
【0062】
また、本実施形態では、図4に示すように、二つの正面エッジ521,531を結ぶ直線と、正面エッジを通過する上面51の接線との間に角度Aがつくられ、その角度Aは20度以上となるように形成されている。本実施形態では、正面エッジ部を通過する上面51の接線は、面取り部56の形成角度となり、本実施形態では、この面取り部56の形成角度が、ほぼ、上述した角度Aとなる。これにより、雪上のように路面の摩擦係数がブロックを変形させるのに十分に高い路面を走行する際には、正面エッジ部521,531を路面に接触させ、一方、氷上のように路面の摩擦係数がブロックを変形させるのに不十分な路面を走行する際には、正面エッジ部521,531が路面と接触するのを防ぐ事が出来る。本実施形態においては、上述した角度Aは、45度である。
【0063】
次に、上述した本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドによる作用効果を説明する。
本実施形態では、補強部7は、平均厚さtを1.0mmとし、正面エッジ部521,531全てを含み、かつ、正面側壁52,53の全領域にわたって設けられているため、雪上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強部7の効果により、ブロック5の正面エッジ521,531おいて局所的により高いエッジ圧力を得ることが出来、より効果的に雪上性能を改善することが出来る。
また、面取り部56を設けているため、氷上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、正面エッジ部521,531が路面と接触することを防止して、トレッドと氷との間で発生した水膜の発生を防止することが可能となり、これにより氷上性能を向上することが出来る。
【0064】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について記述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0065】
なお、図5は従来の空気入りタイヤ用トレッドのブロックを模式的に示す拡大断面図である。この従来の空気入りタイヤ用トレッドのブロック15は、接地面12の一部を構成する上面151を有し、正面側壁152,153との交差部において正面エッジ1521,1531を形成している。このブロック15には、上面151に開口し、横方向及びタイヤの内側半径方向に延びる細い切れ込み16が形成されている。二つの正面側壁152,153には、正面エッジ1521,1531を全て含むように補強部17が設けられている。補強部17の平均厚さtは0.5mmであり、補強部17は、正面側壁152,153の84%の領域にわたって副溝14に面するように設けられている。回転軸線より測定されるブロック15の上面の最外側の部分までの距離Rtと、同じく回転軸線より測定される二つの正面エッジ1521,1531までの距離Reは等しく、また回転軸線から上面151上の任意の点までの距離もRt、およびReと等しい。
【実施例】
【0066】
次に、本発明の効果を明確にするため、公知の形態の補強層を設けた従来例および本発明の実施例に係る6種類の空気入りタイヤ用トレッドのブロックを、市販のコンピューターソフトウェアを使用したシミュレーション(有限要素法)用いて行った検証結果について説明する。
【0067】
実施例1及至3は、第1実施形態にかかる補強部の設けられたブロックモデルであり、タイヤ回転軸線より測定されるブロックの上面の最外側の部分までの距離と、同じくタイヤ回転軸線より測定される2つの正面エッジまでの距離との差Gを三種類の異なる値としている。実施例4及至6は、第2実施形態にかかる補強部の設けられたブロックモデルであり、同様にタイヤ回転軸線より測定されるブロックの上面の最外側の部分までの距離と、同じくタイヤ回転軸線より測定される2つの正面エッジ部までの距離との差Gを三種類の異なる値としている。
従来例および実施例に係る6種類のブロックモデルのサイズは、いずれも、同一のゴム系材料(弾性率5.4MPa)で形成された短辺長さ10mm、長辺長さ20mm、高さ10mmの立方体とし、細い切れ込みを、それぞれ、ブロックの上面に開口する幅0.4mm、深さ7mmとした。補強部に関しても、同一の材料(弾性率270MPa)にて形成されており、補強部の材料の弾性率が、ブロックのゴム系材料の弾性率の50倍となるようにした。
【0068】
このように設定したブロックモデルを、適切な荷重を付加したうえで、氷上に相当する路面条件での摩擦係数を求めた。この計算結果を表1及び表2に示す。表1及び表2において、各計算値は従来例を100とする指数で表され、数値の大きいほうが良好である。
【0069】
【表1】
【表2】
【0070】
表1及び表2に示される如く、実施例1及至6による空気入りタイヤ用トレッドによれば、氷上性能を効果的に向上しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0071】
1 空気入りタイヤ用トレッド
2 接地面
3 周方向主溝
4 副溝
5 ブロック
51 ブロックの上面(その一部が接地面2を含む)
52,53 周方向側の側壁、正面側壁
521,531 正面エッジ
54,55 タイヤ幅方向側の側壁、側面側壁
56 面取り部
6 細い切れ込み(サイプ)
7 補強部
図1
図2
図3
図4
図5