(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
紫外発光素子は、蛍光灯の代替、高密度DVD、生化学用レーザ、光触媒による公害物質の分解、He−Cdレーザ、水銀灯の代替など、次世代の光源として幅広く注目されている。この紫外発光素子は、ワイドギャップ半導体と呼ばれるAlGaN系窒化物半導体からなり、サファイアなどの異種基板上に積層される。
【0003】
しかし、サファイアは、AlGaNとの格子不整合が大きいため、多数の貫通転位が存在し、非発光再結合中心となって内部量子効率を著しく低下させてしまう。
【0004】
これに対して、AlNは、AlGaNと格子定数が近く、200nmの紫外領域まで透明であるため、発光した紫外線を吸収することなく、紫外光を効率よく外部へ取り出すことができる。しかし、バルクの単結晶AlN結晶は、高価で1インチサイズしか入手できないため、紫外発光素子の基板材料には不向きである。サファイアは、6インチサイズが安価で入手できる状況にある。このような状況を鑑み、高品質AlN単結晶膜をサファイア基板上に作製することができれば、これを基板として用いてAlGaN系発光素子を準ホモエピタキシャル成長させることにより、結晶の欠陥密度を低く抑えた紫外光発光素子を安価に作製することができる。
【0005】
しかしながら、AlNはサファイアと格子不整合が大きいため、サファイア上に成長したAlN膜には多数の貫通転位が存在する。このため、AlGaN系発光素子用の基板として不適切である。
【0006】
これに対し、上記問題に応えるものとして、MOVPE法でサファイア上にAlN膜を成長させ、その後、熱処理によって酸素原子をAlN膜内に拡散させて転位の低減を図る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、溝加工を施したサファイア基板上にMOVPE法でAlN膜を成長させ、溝を埋める過程で転位の低減を図る方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
AlNはサファイアと格子不整合が大きいため、サファイア上に成長したAlN膜には多数の貫通転位が存在する。AlGaN系発光素子用の基板として使用するためには、AlN膜中の貫通転位密度の低減が課題である。特許文献1および非特許文献1に記載の方法では、酸素原子の拡散処理や溝加工などの煩雑な処理を行う必要があるという課題があった。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、サファイア基板の溝加工など煩雑な処理を施さなくても、現在用いられているMOCVD法の成長条件を用いて、AlN膜の結晶性を飛躍的に向上させることが可能となり、高効率のLED(Light Emitting Diode)やLD(Laser diode)デバイスを作製することができる
、窒化アルミニウム(AlN)膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について熱力学的な検討を重ねた結果、任意の製膜法によりサファイア基板上にAlN膜を成長させ、これを窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガス雰囲気中で1500℃以上の温度で熱処理することで、AlN膜の結晶性を飛躍的に改善できることを見出して、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に
関するAlN膜を有する基板は、サファイア基板、炭化ケイ素(SiC)基板、または窒化アルミニウム(AlN)基板上に、膜厚100〜1000nmの窒化アルミニウム(AlN)膜を形成した後、1500℃以上の高温で熱処理して形成されたことを特徴とする。本発明に
関するAlN膜を有する基板は、前記熱処理後の基板上にAlN膜の再成長を行ったことが好ましい。また、窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガス中で前記熱処理を行ったことが好ましい。また、前記熱処理の温度ならびに前記窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガスの比率は、Al
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図に基づき決定されることが好ましい。また、前記熱処理後の(10−12)面のX線回折ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下であることが好ましい。また、表面平均二乗粗さが1.5nm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明に
関するAlN膜を有する基板は、AlN膜を有する基板を窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガス中で熱処理して形成され、前記熱処理の温度ならびに前記窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガスの比率は、Al
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図に基づき決定されてもよい。本発明に
関するAlN膜を有する基板で、前記熱処理の温度および前記窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガスの比率は、それぞれAl
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図のAlN相とAl
2O
3相との化学平衡共存状態を示す温度および混合比の近傍に決定されることが好ましい。
【0014】
本発明に係るAlN膜の製造方法は、
サファイア基板上に作製された膜厚100〜1000nmの窒化アルミニウム(AlN)膜を
、窒素/一酸化炭素(N2/CO)混合ガス中で、1500
〜1700℃で熱処理
し、前記熱処理の温度および前記窒素/一酸化炭素(N2/CO)混合ガスの比率は、それぞれAl2O3−AlN−C−N2−CO系相安定図のAlNとAl2O3との平衡共存線と、その平衡共存線より50kJ上部の線との間の領域の温度および混合比であることを特徴とする。
また、前記窒素/一酸化炭素(N2/CO)混合ガスの比率は、0.90/0.1〜0.6/0.4であることが好ましい。また、前記窒化アルミニウム(AlN)膜を熱処理後にAlN膜の再成長を行うことが好ましい。
【0015】
本発明に
関するAlN膜の製造方法は、AlN膜を有する基板を窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガス中で熱処理し、前記熱処理の温度ならびに前記窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガスの比率は、Al
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図に基づき決定されてもよい。本発明に
関するAlN膜の製造方法で、前記熱処理の温度および前記窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガスの比率は、それぞれAl
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図の化学平衡状態を示す温度および混合比の近傍に決定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、サファイア基板の溝加工など煩雑な処理を施さなくても、現在用いられているMOCVD法の成長条件を用いて、AlN膜の結晶性を飛躍的に向上させることが可能となり、高効率のLED(Light Emitting Diode)やLD(Laser diode)デバイスを作製することができる
、窒化アルミニウム(AlN)膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態
の窒化アルミニウム(AlN)膜の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
本発明の実施の形態の窒化アルミニウム(AlN)膜の製造方法では、AlN膜を形成したサファイア基板を窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガス雰囲気中で熱処理する。
図1は、熱処理装置の構成例を示す図である。この熱処理装置は、黒鉛製反応容器1と、加熱ヒータ2と、ガス導入部3と、ガス排気部4と、基板保持具5とを備え、AlN膜を形成したサファイア基板6を均熱部に配置する。基板保持具5は、耐高温性のものが用いられ、例えば、窒化アルミニウム、窒化ボロン、黒鉛などを用いることができる。
【0020】
AlN膜を形成したサファイア基板6には、MOVPE法によってサファイア基板上に製膜したものを用いる。ただし、AlN膜を製膜する方法は、MOVPE法に限らず、任意の製膜法が適用される。例えば、スパッタ法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、分子線エピタキシャル(MBE)法などが適用される。また、AlN膜を製膜する基板材料は、サファイア基板に限られず、SiC基板、AlN基板なども適用できる。
【0021】
AlN膜を形成したサファイア基板(以降、AlN/サファイア基板と記す)の加熱処理の方法を説明する。AlN/サファイア基板を
図1に示すように、反応容器1の均熱部に配置する。まず、反応容器1の内部をロータリーポンプで排気した後、N
2/CO混合ガスをガス導入部3より導入する。
【0022】
熱処理の温度およびN
2/CO混合ガス比率は、以下の熱力学的考察より決定される。
図2に、Al
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図を示す。本図は、炭素飽和かつN
2とCOのガス分圧の和が1atmであるという条件下で、Al
2O
3およびAlN安定領域を温度およびN
2/CO混合ガス比率の関数として示している。この図を用いると、AlNが安定領域になるように温度およびN
2/CO混合ガス比率を選択することができる。
【0023】
N
2/CO混合ガスを導入し、1.0atmに達したら、AlN/サファイア基板の加熱を開始する。熱処理中、混合ガスは、2.0L/minの流速で流し続け、ガス排気部4より反応容器1の外部に排出される。このとき、N
2/CO混合ガス比率および熱処理温度は、
図2を用いて選択され、N
2/CO=0.90/0.1〜0.6/0.4、熱処理温度1500〜1700℃(1773〜1973K)である。
【0024】
図2において、太い実線Aは、AlNとAl
2O
3とが平衡相として共存できる条件を示しており、その実線より上部はAlN相が安定して存在する領域、実線より下部はAl
2O
3相が安定して存在する領域を示す。サファイア基板上に作製したAlN膜を熱処理する場合は、AlN膜の安定領域内でありながら、基板であるサファイア(Al
2O
3)の安定領域からも近い条件を選択する必要がある。すなわち、
図2においてAlNとAl
2O
3との平衡共存線(太実線A)より50kJ上部の領域を細い実線Bで示すが、太実線Aと細実線Bとで挟まれた領域が熱処理するのに適した条件である。ここで、熱処理中、この熱処理に適した条件を実現することが重要である。そのため、設定した混合比の混合ガスを一定量流入、排出する開放系の黒鉛製反応容器1を用いたが、容器内での不要ガスや不要分子の発生が十分に低く抑えられ、一定の雰囲気を実現できる場合は、混合ガスの流入、排出を行わない密封系の黒鉛製反応容器でも良い。
【0025】
加熱速度は約10℃/minで、所定の熱処理温度まで加熱し、2時間保持する。その後、15分間にわたり、N
2ガスのみを10L/minで流すことによって、反応容器1の内部のCOガスを排出した後、加熱ヒータ2の出力を切り、約4時間で室温まで冷却する。
【0026】
N
2ガスには市販の液体窒素ボンベから得られるガスならびに市販の高重度窒素ガスボンベから得られるガスを用いることができる。COガスには、市販の高純度COガスボンベから得られるガスを用いることができる。
【0027】
以上説明したように、AlN/サファイア基板をN
2/CO混合ガス雰囲気中で熱処理することによって、結晶性の良好なAlN膜を形成することができる。
【0028】
さらに、熱処理を行ったAlN/サファイア上にAlNを500nm以上再成長させることで、表面平坦性に優れ、且つ結晶性が良好なAlN膜を得ることができる。
【0029】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
先ず、MOVPE法で成長温度1150℃にて、直径2インチのc面サファイア基板上にAlN膜を約300nm製膜した。このAlN膜の結晶性は、(0002)AlNのX線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)で90arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、1278arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、1508arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、3.10nmであった。このAlN/サファイア基板を4等分し、そのうち1片を以下の熱処理に用いた。なお、(0002)、(10−12)、(10−10)は、ウルツ鉱構造を有するAlNの結晶格子面を、ミラー指数を用いた4軸で表示したものである。
【0031】
このAlN/サファイア基板を、
図1に示すように、反応容器1の均熱部に配置した。まず、反応容器1の内部をロータリーポンプで排気した後、N
2/CO混合ガスをガス導入部3より導入した。N
2/CO混合ガス比率は、N
2/CO=0.70/0.30であった.N
2/CO混合ガスを導入し、1.0atmに達したら、AlN/サファイア基板の加熱を開始した。加熱処理中、混合ガスは、2.0L/minの流速で流し続け、ガス排気部4より反応容器1の外部に排出した。加熱速度は約10℃/minで、1650℃まで加熱し、2時間保持した。その後、15分間にわたり、N
2ガスのみを10L/minで流すことによって、反応容器1の内部のCOガスを排出した後、加熱ヒータ2の出力を切り、約4時間で室温まで冷却した。
【0032】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで32arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、424arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、532arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、0.49nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。ここで、表面の滑らかさを、上記したように飛躍的に改善するために、熱処理中、
図2の太実線Aで示される化学的平衡状態に近い状態を、安定に実現することが重要であることを本発明では見出した。
【実施例2】
【0033】
用いたAlN/サファイア基板は、実施例1において、MOVPE法で作製し、4等分されたもののうちの1片である。このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.80/0.20とすること、および熱処理温度を1600℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0034】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで97arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、468arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、662arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、0.63nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例3】
【0035】
用いたAlN/サファイア基板は、実施例1において、MOVPE法で作製し、4等分されたもののうちの1片である。このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.85/0.15とすること、および熱処理温度を1550℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0036】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで43arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、579arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、867arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、1.21nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例4】
【0037】
用いたAlN/サファイア基板は、実施例1において、MOVPE法で作製し、4等分されたもののうちの1片である。このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.90/0.10とすること、および熱処理温度を1500℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0038】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで36arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、730arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、1144arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、2.65nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例5】
【0039】
先ず、MOVPE法で成長温度1150℃にて、直径2インチのc面サファイア基板上にAlN膜を約200nm製膜した。このAlN膜の結晶性は、(0002)AlNのX線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)で43arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、1386arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、1602arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、2.49nmであった。このAlN/サファイア基板を4等分し、そのうち1片を以下の熱処理に用いた。
【0040】
このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.80/0.20とすること、および熱処理温度を1600℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0041】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで36arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、482arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、619arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、1.57nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例6】
【0042】
先ず、MOVPE法で成長温度1150℃にて、直径2インチのc面サファイア基板上にAlN膜を約100nm製膜した。このAlN膜の結晶性は、(0002)AlNのX線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)で28arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、1771arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、2217arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、1.55nmであった。このAlN/サファイア基板を4等分し、そのうち1片を以下の熱処理に用いた。
【0043】
このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.80/0.20とすること、および熱処理温度を1600℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0044】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで39arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、615arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、838arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、0.55nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例7】
【0045】
用いたAlN/サファイア基板は、実施例6において、MOVPE法で作製し、4等分されたもののうちの1片である。このAlN/サファイア基板を用いて、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0046】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで79arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、734arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、540arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、0.43nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例8】
【0047】
先ず、MOVPE法で成長温度1150℃にて、直径2インチのc面サファイア基板上にAlN膜を約650nm製膜した。このAlN膜の結晶性は、(0002)AlNのX線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)で476arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、1056arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、1282arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、9.78nmであった。このAlN/サファイア基板を4等分し、そのうち1片を以下の熱処理に用いた。
【0048】
このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.60/0.40とすること、および熱処理温度を1700℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0049】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで133arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、259arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、374arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、1.34nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例9】
【0050】
先ず、MOVPE法で成長温度1150℃にて、直径2インチのc面サファイア基板上にAlN膜を約1000nm製膜した。このAlN膜の結晶性は、(0002)AlNのX線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)で439arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、875arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、952arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、14.20nmであった。このAlN/サファイア基板を4等分し、そのうち1片を以下の熱処理に用いた。
【0051】
このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.60/0.40とすること、および熱処理温度を1700℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0052】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで205arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、288arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、511arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、7.50nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例10】
【0053】
先ず、MOVPE法で成長温度1200℃にて、直径2インチのc面サファイア基板上にAlN膜を約300nm製膜した。このAlN膜の結晶性は、(0002)AlNのX線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)で88arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、1171arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、1440arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、4.05nmであった。このAlN/サファイア基板を4等分し、そのうち1片を以下の熱処理に用いた。
【0054】
このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガス比率をN
2/CO=0.60/0.40とすること、および熱処理温度を1700℃とすること以外は、実施例1と同様にして、熱処理を行った。
【0055】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで75arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、298arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、378arcsecであった。また表面の平均二乗粗さ(RMS)は、0.93nmであり、熱処理前と比較して良好な結晶性および表面平滑性を示した。
【実施例11】
【0056】
実施例1において、熱処理されたAlN/サファイア基板上に、MOVPE法により、AlN膜の再成長を行った。MOVPE法の成長温度は、1450℃、成長圧力は30Torr、NH3/TMA(トリメチルアルミニウム)流量比は584で、AlN膜を2000nm製膜した。その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで110arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、370arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、498arcsec、となり、再成長することによってさらにツイスト成分の結晶性の向上が見られた。また表面の平均二乗粗さは1.04nmであり、平滑な表面が得られることが分かった。
【実施例12】
【0057】
実施例9において、熱処理されたAlN/サファイア基板上に、MOVPE法により、AlN膜の再成長を行った。MOVPE法の成長温度は、1450℃、成長圧力は30Torr、NH3/TMA(トリメチルアルミニウム)流量比は584で、AlN膜を2000nm製膜した。その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで218arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、355arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、413arcsec、となり、再成長することによってさらにツイスト成分の結晶性の向上が見られた。また表面の平均二乗粗さは3.25nmであり、平滑な表面が得られることが分かった。
【実施例13】
【0058】
実施例10において、熱処理されたAlN/サファイア基板上に、MOVPE法により、AlN膜の再成長を行った。MOVPE法の成長温度は、1450℃、成長圧力は30Torr、NH3/TMA(トリメチルアルミニウム)流量比は584で、AlN膜を2000nm製膜した。その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで119arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、274arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、372arcsec、となり、再成長することによってさらにツイスト成分の結晶性の向上が見られた。また表面の平均二乗粗さは1.10nmであり、平滑な表面が得られることが分かった。得られたAlN膜の断面の透過電子顕微鏡像を
図3に示す。
【0059】
[比較例1]
用いたAlN/サファイア基板は、実施例6において、MOVPE法で作製し、4等分されたもののうちの1片である。このAlN/サファイア基板を用いて、N
2/CO混合ガスを用いる代わりにN
2ガスのみをガス導入部3より導入すること以外は、実施例7と同様にして、熱処理を行った。
【0060】
その結果、AlN膜の結晶性は、(0002)AlNのXRCのFWHMで759arcsec、(10−12)AlNのXRCのFWHMは、997arcsec、(10−10)AlNのXRCのFWHMは、774arcsec、であり、実施例7と比較して、結晶性は劣化した。
【0061】
表1に、実施例1〜13、比較例1の実験条件及びAlN結晶膜の評価の一覧を示す。これらの結果より、MOVPE法でサファイア基板上に作製したAlN膜をN
2/CO混合ガスを用いて熱処理することにより、AlN膜の飛躍的な高品質化が達成できることが分かった。また、熱処理後にMOVPE法で再成長することにより、さらに結晶性の向上ができることが分かった。
【0062】
【表1】
【0063】
上記したように、本発明によれば、サファイア基板あるいは炭化ケイ素(SiC)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板等の基板上に、窒化アルミニウム(AlN)膜を形成した後、1500℃以上の高温で熱処理を行うことで、AlN膜の表面粗さを飛躍的に改善し、滑らかにすることができる。
【0064】
また、AlN膜を有する基板を窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガス中で熱処理を行うことや、さらに熱処理の温度ならびに窒素/一酸化炭素(N
2/CO)混合ガスの比率を、Al
2O
3−AlN−C−N
2−CO系相安定図(
図2)の太実線Aで示される化学的平衡状態に近い状態で、安定に実現することによって、表面平均二乗粗さが1.5nm以下というように飛躍的に表面の滑らかさを改善できるものである。