特許第6206769号(P6206769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206769
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】中子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/10 20060101AFI20170925BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20170925BHJP
   B22C 1/22 20060101ALI20170925BHJP
   B22C 1/18 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   B22C9/10 F
   B22C1/00 B
   B22C1/00 G
   B22C1/22 J
   B22C1/22 A
   !B22C1/18 C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-45481(P2014-45481)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-167979(P2015-167979A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】志田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】森 一剛
(72)【発明者】
【氏名】沖本 良太
(72)【発明者】
【氏名】小熊 英隆
(72)【発明者】
【氏名】上村 好古
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−155284(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102557579(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第2003−0057134(KR,A)
【文献】 国際公開第90/002007(WO,A1)
【文献】 特開昭59−047041(JP,A)
【文献】 特開昭49−120985(JP,A)
【文献】 吉田大作,精密鋳造品の製造技術の現状と問題点,ターボ機械,1982年,Vol.10, No.9,pp.531-536
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00− 1/22
B22C 9/00− 9/10
Google
CAplus/REGISTRY/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤と、アクリルアミドモノマー及びN,N’メチレンビスアクリルアミドからなる硬化樹脂と、水と、からなる溶液に、シリカを添加して前記シリカ100重量部に対して、前記分散剤が0.4〜0.6重量部、前記アクリルアミドモノマーが5〜10重量部、前記N,N’メチレンビスアクリルアミドが0.4〜0.6重量部、水が20〜30重量部となるようにスラリーを生成するスラリー生成工程と、
前記スラリー生成工程の後に、前記アクリルアミドモノマー及び前記N,N’メチレンビスアクリルアミドの硬化を促進する硬化促進剤を添加する硬化促進剤添加工程と、
前記硬化促進剤添加工程の後に、前記スラリーを型に導入して硬化させる型硬化工程と、
前記型硬化工程の後に、前記スラリーが硬化してなる成形体を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に、前記成形体を加熱して焼成する焼成工程と、を有し、
前記硬化促進剤添加工程は、
過硫酸アンモニウム、テトラメチルエチレンジアミン、及び水を溶解して溶液を生成する工程と、
前記スラリー100重量部に対して、前記過硫酸アンモニウムが0.008〜0.012重量部、前記テトラメチルエチレンジアミンが0.032〜0.048重量部となるように前記溶液を計量した後、前記スラリーに添加する工程と、を有することを特徴とする中子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密鋳造用の中子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガスタービンの動翼は、高温の作動ガスに曝されることから、内部に冷却媒体を流して、ガスタービン動翼を冷却してガスタービン動翼に負荷される温度をより低く保持する方法が採用されている。
内部に冷却媒体を流すために、ガスタービン動翼には内部冷却構造が設けられている。内部冷却構造を有するガスタービン動翼の製造の際には、冷却媒体の流通路と同形状とされた中子を配置し、鋳造後に中子を取り除いている。
【0003】
このような中子としては、従来セラミックス粒子を用いたセラミックス中子の採用が一般的である(例えば、特許文献1参照)。セラミックスの成形方法としては、スラリーから直接成形するスリップキャスト法や、射出成形法などが知られている。スリップキャスト法は、樹脂または金属製の型へスラリーを流入させ、スラリーの硬化後、乾燥、焼成を経てセラミックス中子を製造する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−308941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スリップキャスト法は、型の内部で、溶剤(水)を除いて固化させる方法であるため、成形体の乾燥収縮が比較的大きく、精密な形状を得ることが困難である。また、成形体の中心部に巣や気泡が生成されるなど、中子としては好ましくない。また、成形体の収縮を加味して中子の大きさを予め大きくする方法もあるが、収縮の度合いは不均一であるため、正確な寸法の中子の製造は困難である。
また、射出成型法の場合、多量のワックスをバインダーとして使用するため、バインダーの除去に一週間程度の時間を必要とするなど、焼成時間が長くなる課題がある。また、ワックスを除去する脱脂工程において収縮が進むという課題もある。
【0006】
この発明は、精密鋳造用の中子の製造において、収縮の少ない中子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、中子の製造方法は、分散剤と、アクリルアミドモノマー及びN,N’メチレンビスアクリルアミドからなる硬化樹脂と、水と、からなる溶液に、シリカを添加して前記シリカ100重量部に対して、前記分散剤が0.4〜0.6重量部、前記アクリルアミドモノマーが5〜10重量部、前記N,N’メチレンビスアクリルアミドが0.4〜0.6重量部、水が20〜30重量部となるようにスラリーを生成するスラリー生成工程と、前記スラリー生成工程の後に、前記アクリルアミドモノマー及び前記N,N’メチレンビスアクリルアミドの硬化を促進する硬化促進剤を添加する硬化促進剤添加工程と、前記硬化促進剤添加工程の後に、前記スラリーを型に導入して硬化させる型硬化工程と、前記型硬化工程の後に、前記スラリーが硬化してなる成形体を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程の後に、前記成形体を加熱して焼成する焼成工程と、を有し、前記硬化促進剤添加工程は、過硫酸アンモニウム、テトラメチルエチレンジアミン、及び水を溶解して溶液を生成する工程と、前記スラリー100重量部に対して、前記過硫酸アンモニウムが0.008〜0.012重量部、前記テトラメチルエチレンジアミンが0.032〜0.048重量部となるように前記溶液を計量した後、前記スラリーに添加する工程と、を有する。
【0008】
このような構成によれば、水溶性アクリルモノマー及び架橋剤からなる硬化樹脂を添加したスラリーに、硬化促進剤を混合させてスラリーを固化させることによって、成形体
の収縮を抑制することができる。この成形体を焼成すると、脱脂の工程が不要で、かつ、収縮の少ない中子を得ることができる。
【0011】
このような構成によれば、シリカに対する硬化樹脂の割合が少ないため、より成形体の収縮を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水溶性アクリルモノマー及び架橋剤からなる硬化樹脂を添加したスラリーに、硬化促進剤を混合させてスラリーを固化させることによって、成形体の収縮を抑制することができる。この成形体を焼成すると、脱脂の工程が不要で、かつ、収縮の少ない中子の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態の中子の製造方法、及びこの製造方法によって製造される中子について説明する。
本実施形態の中子は、精密鋳造用中子であり、鋳型の製造工程におけるワックス型射出成形の際に金型とともに用いられる。
【0017】
本実施形態の中子の製造方法は、スラリーを生成するスラリー生成工程と、スラリーに含まれる水溶性アクリルモノマー及び架橋剤の硬化を促進する硬化促進剤を添加する硬化促進剤添加工程と、スラリーを型に導入して硬化させる型硬化工程と、スラリーが硬化してなる成形体を乾燥させる乾燥工程と、成形体を加熱して焼成(焼結)する焼成工程と、を有する。
【0018】
(スラリー生成工程)
シリカ材料(粉末)に対し、分散剤、水溶性アクリルモノマー、架橋剤、及び水を溶解したスラリーを生成する。このうち、水溶性アクリルモノマーは、シリカ材料の収縮を抑えるための骨格の主材として機能する。また、架橋剤は、水溶性アクリルモノマー同士を結合させる架橋剤である。
具体的には、分散剤、水溶性アクリルモノマー、架橋剤、及び水の溶液にシリカ材料を徐々に添加して、十分に混練することでスラリー化する。
【0019】
分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム(ポイズ532A(商品名、花王株式会社製))を採用することができる。スラリーに分散剤が含まれていることによって、シリカ材料が凝集することなく水によく分散する。分散剤は、シリカ材料を水に分散することができれば、ポリカルボン酸アンモニウム以外の分散剤も適宜利用可能である。
【0020】
水溶性アクリルモノマーは、水に可溶なアクリルであり、アクリルアミドモノマーを採用することができる。
架橋剤としては、アミド系架橋剤、例えば、N,N’メチレンビスアクリルアミドを採用することができる。
【0021】
スラリーの配合量は、例えば、シリカ材料を200gとすると、分散剤:0.8g〜1.2g、アクリルアミドモノマー:10g〜20g、N,N’メチレンビスアクリルアミド:0.8g〜1.2g、水:40g〜60gとすることが好ましい。
スラリーの配合量は、シリカ材料を200gとすると、分散剤:1g、アクリルアミドモノマー:15g、N,N’メチレンビスアクリルアミド:1g、水:50gとすることが更に好ましい。即ち、シリカ材料100重量部に対して、分散剤:約0.5重量部、アクリルアミドモノマー:約7.5重量部、N,N’メチレンビスアクリルアミド:約0.5重量部、水:約25重量部とすることが好ましい。
アクリルアミドモノマーは、シリカ材料の10重量%以下であればよい。
【0022】
アクリルアミドモノマーは、シリカ材料に混合されることで、シリカ材料の収縮を抑制する骨格の主材として機能するモノマーである。
N,N’メチレンビスアクリルアミドは、アクリルアミドモノマーとともにシリカ材料に添加されることで、シリカ材料の収縮を抑制する骨格の硬さ・強度を変える機能を有する架橋剤である。N,N’メチレンビスアクリルアミドの添加量を変更することで、成形体の硬さ・強度を変えることができる。
【0023】
(硬化促進剤添加工程)
次に、スラリーにアクリルアミドモノマー及びN,N’メチレンビスアクリルアミド
の硬化を促進するアミンと過硫酸塩とからなる硬化促進剤を添加する。アミンは、硬化促進剤の触媒として機能する。過硫酸塩は、触媒に添加されることで、硬化促進剤としての反応を開始させる反応開始剤として機能する。
硬化促進剤添加工程は、スラリーにアミンを溶解するアミン溶解工程と、アミン溶解工程の後に、スラリーに過硫酸塩を添加する過硫酸塩添加工程と、を有する。過硫酸塩を添加した後は、スラリーを十分に混合する。
【0024】
アミンとしては、例えば、テトラメチルエチレンジアミンを採用することができる。アミンとしては、テトラメチルエチレンジアミンに限らず、テトラエチレンジアミン、トリエタノールアミンの採用も可能である。
過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウムを採用することができる。過硫酸塩としては、酸素ラジカルを発生させる効果のある過硫酸塩であればよく、例えば、過硫酸ソーダなどの採用も可能である。
【0025】
スラリーに対する硬化促進剤の配合量としては、スラリー約250gとすると、アミン:0.08g〜0.12g、過硫酸塩:0.02〜0.03gとすることが好ましい。アミン:0.1g、過硫酸塩:0.025gとすることが更に好ましい。
即ち、スラリー100重量部に対して、アミン:0.04重量部、過硫酸塩:0.01重量部とすることが好ましい。このような、配合量とすることによって、スラリーの硬化時間を3分程度とすることができる。
【0026】
この配合量よりも、アミン、及び過硫酸塩の量を少なくすると、硬化に必要な時間が長くなる。一方、アミン、及び過硫酸塩の量を多くした場合には、硬化が早くなり、成形のための作業時間がなくなるため好ましくない。
中子の大きさに応じて、アミン、及び過硫酸塩の添加量を制御することによって、作業を容易とすることができる。例えば、中子が大きい場合は、アミン、及び過硫酸塩の量を少なくして、硬化に必要な時間を長くすることが好ましい。
【0027】
(型硬化工程)
次に、スラリーを型に導入して硬化させる。硬化促進剤添加工程において、スラリーに過硫酸塩を添加して混入すると、30秒程度経過すると、軽い発熱とともに硬化が開始されるため、約30秒以内にスラリーを型に流し込む必要がある。即ち、硬化促進剤添加工程の後、約30秒を経過するとスラリー粘度が上昇し、固化するため、約30秒を経過してのスラリーの流し込みは好ましくない。
【0028】
型は、後で成形体を取り出すことができるように、二分割以上できる構成とすることが好ましい。
スラリーを型に導入した後、約3分間でスラリーの硬化が完了する。硬化完了後、型を割り、成形体を取り出す。
【0029】
(乾燥工程)
次に、成形体を乾燥させる。即ち、シリカ中の水分を蒸発させる。乾燥方法としては、例えば、所定の水分乾燥炉内に成形体を導入する方法を採用することができる。乾燥条件としては、例えば、温度:120℃、時間:3時間とすることができる。
乾燥方法としては、上記した熱風乾燥法に限らず、例えば、ガスバーナで発生させた熱風を導入して乾燥を行う熱風乾燥法、室温条件下に放置する自然乾燥法などを採用してもよい。
【0030】
(焼成工程)
次に、成形体を加熱して焼成する。即ち、成形体を融点以下で加熱し、粉体同士を合体させることで緻密化を進行・促進させ、気孔のない焼結体を得る。焼成方法としては、所定の焼成炉に成形体を導入する方法を採用することができる。焼成条件としては、例えば、温度1200℃、時間1時間とすることができる。
以上の工程を経て、セラミックス中子焼結体を得ることができる。
【0031】
(実施例)
上記中子の製造方法を用いて、直径200mm、100mm厚の大きさの中子を意図した模擬成形体を試作した。
成形体の寸法変化は、脱型時に直径199mm、乾燥時に直径198.5mm、1200℃焼結後に直径198mmであった。収縮の大きさは、乾燥収縮で0.25%、焼結収縮で0.25%である。
参考までに、発明者らが従来製造していた中子は、1200℃焼結により1%収縮していたが、上記製造方法から作製される成形体の焼結収縮は、これと比較して非常に小さいものであった。
【0032】
上記実施形態によれば、水溶性アクリルモノマー及び架橋剤からなる硬化樹脂を添加したスラリーに、硬化促進剤を混合させてスラリーを固化させることによって、成形体の収縮を抑制することができる。即ち、硬化樹脂がシリカの骨格として機能するため、シリカの収縮を抑えることができる。
この成形体を焼成すると、脱脂の工程が不要で、かつ、収縮の少ない中子を得ることができる。
また、シリカに対する硬化樹脂の割合が少ないため、より成形体の収縮を抑制することができる。
【0033】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態の中子の製造方法について説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
上記第一実施形態の中子の製造方法の硬化促進剤添加工程においては、250gのスラリーにテトラエチレンジアミン:0.1gを溶解した後、過硫酸アンモニウム:0.025gを添加した。
【0034】
本実施形態では、過硫酸アンモニウム:1g、及びテトラエチレンジアミン:4gを水10gに溶解した。この溶液1gを、第一実施形態のスラリー生成工程にて生成されたスラリーに添加したところ、3分程度で硬化が確認された。
【0035】
本実施形態の場合、第一実施形態と比較すると、過硫酸アンモニウム及びテトラエチレンジアミンについて4倍程度の量が必要となるが、水によって薄められているため、反応の速度は遅くなったものの、硬化の効果は認められた。
【0036】
上記実施形態によれば、過硫酸アンモニウムを水に溶解することによって、正確に量することができる。即ち、過硫酸アンモニウムは粉末状であり、正確に少量だけ量することは困難であるが、水に溶解して薄めることにより、正確な量が可能となる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。