(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱処理は、前記第1の半導体層および前記第2の半導体層内における前記第1の不純物の面内方向の濃度ばらつきが、前記熱処理の実施前に比して実施後の方が大きくなるように行われることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
前記第1の半導体層および第2の半導体層にキャリアを発生させる第2の不純物が、前記第1の半導体層および前記第2の半導体層内において前記第1の不純物が存在する領域に存在していることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
前記照射工程は、前記第1の半導体層の表面および前記第2の半導体層の表面の少なくとも一方に前記第2の不純物をさらに照射することを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の製造方法。
前記接合工程によって生成された前記半導体基板の、前記第1の半導体層の前記接合界面と反対側の面から、前記第2の不純物を注入する第2不純物導入工程をさらに備え、
前記第2不純物導入工程では、前記第2の不純物の少なくとも一部が、前記接合界面を超えて前記第2の半導体層に注入されることを特徴とする請求項6に記載の半導体基板の製造方法。
前記第1の不純物の前記第1および前記第2の半導体層内における存在範囲は、前記第2の不純物の前記第1および前記第2の半導体層内における存在範囲内に包含されていることを特徴とする請求項3〜7の何れか1項に記載の半導体基板の製造方法。
前記第1の半導体層および前記第2の半導体層は、前記第1の半導体層および第2の半導体層にキャリアを発生させる第2の不純物が一様に拡散している半導体層であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の半導体基板の製造方法。
前記第1の半導体層および前記第2の半導体層の組み合わせは、3C−SiC単結晶、4H−SiC単結晶、6H−SiC単結晶、SiC多結晶、のうちの何れか2つの組み合わせであることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の半導体基板の製造方法。
前記第1の不純物は、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)の何れかを含むことを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【実施例】
【0021】
<接合基板の構成>
図2に、本実施例に係る接合基板10の斜視図を示す。接合基板10は略円盤状に形成されている。接合基板10は、下側に配置された支持基板11と、支持基板11の上面に貼り合わされた単結晶層13とを備えている。単結晶層13は、例えば、化合物半導体(例:6H−SiC、4H−SiC、GaN、AlN)の単結晶によって形成されていてもよい。また例えば、単元素半導体(例:Si、C)の単結晶によって形成されていてもよい。
【0022】
支持基板11には、各種の材料を用いることができる。支持基板11は、単結晶層13に適用される各種の熱プロセスに対する耐性を有することが好ましい。また支持基板11は、単結晶層13との熱膨張率の差が小さい材料であることが好ましい。例えば、単結晶層13にSiCを用いる場合には、支持基板11には、単結晶SiC、多結晶SiC、単結晶Si、多結晶Si、サファイア、GaN、カーボンなどを用いることが可能である。多結晶SiCには、様々なポリタイプや面方位のSiC結晶が混在していても良い。前記様々なポリタイプや面方位が混在する多結晶SiCは、厳密な温度制御を行うことなく製造することができるため、支持基板11を製造するコストを低減させることが可能となる。支持基板11の厚さTT1は、後工程加工に耐えることができる機械的強度が得られるように定めればよい。厚さTT1は、例えば、支持基板11の直径が100(mm)である場合には、100(μm)程度であってもよい。
【0023】
<接合基板の製造方法>
本実施例に係る接合基板10の製造方法を、
図1および
図3を用いて説明する。本実施例では、例として、支持基板11が多結晶SiCであり、単結晶層13が単結晶4H−SiCである場合を説明する。
【0024】
まず、支持基板11および単結晶層13を準備する。支持基板11および単結晶層13の表面は、平坦化されている。平坦化は、研削や切削によって行われてもよいし、CMP法によって行われてもよい。
【0025】
ステップS1において、不純物導入工程が行われる。不純物導入工程では、不純物のイオンを加速し、支持基板11の表面および単結晶層13の表面に打ち込む。不純物は、支持基板11および単結晶層13にキャリアを発生させる元素である。不純物の一例としては、リン(P)、ヒ素(As)、ボロン(B)、窒素(N)等が挙げられる。なお、n型キャリアとなる不純物(例:窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As))を用いることが好ましい。不純物導入工程では、支持基板11や単結晶層13の表面で不純物濃度が最大となるように、加速エネルギーや入射角度などの各種のパラメータが設定される。また接合界面における不純物濃度が1×10
19/cm
3以上(好ましくは、1×10
20cm
3以上)となるように、各種のパラメータを設定してもよい。例えば、比較的低い加速エネルギー(数十keV以下)を用いて、ごく浅い打ち込みを行うことで、不純物濃度が表面で最大となるように制御してもよい。また例えば、加速エネルギーを変化させて複数回打ち込みを行う多段打ち込みを用いることで、不純物濃度が表面で最大となるように制御してもよい。
【0026】
また、支持基板11の表面への打ち込み条件と、単結晶層13の表面への打ち込み条件を異ならせてもよい。イオン打ち込みでは、結晶軸に対する打ち込み角度が、不純物濃度プロファイルに大きな影響を及ぼす。したがって、様々な結晶軸を有する多結晶である支持基板11と、単一の結晶軸を有する単結晶層13とで、同一の打ち込み条件を用いることが不適切な場合があるためである。
【0027】
ステップS2において、照射工程が行われる。照射工程は、支持基板11の表面を改質して非晶質層11bを形成するとともに、単結晶層13の表面を改質して非晶質層13bを形成する工程である。非晶質層とは、原子が結晶構造のような規則性を持たない状態となっている層のことをさす。
【0028】
図3に示すように、単結晶層13と支持基板11を、チャンバー101内にセットする。次に、単結晶層13と支持基板11との相対位置の位置合わせを行う。位置合わせは、後述する接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように行われる。次に、チャンバー101内を真空状態にする。チャンバー101内の真空度は、例えば、1×10
−4〜1×10
−6(Pa)程度であってもよい。
【0029】
次に、支持基板11の表面11aおよび単結晶層13の表面13aにFABガン(高速原子ビーム:Fast Atom Beam)102を用いて、アルゴンの中性原子ビームを照射する。アルゴンの中性原子ビームは、表面11aの全面および表面13aの全面に均一に照射される。例えば、アルゴンの中性原子ビームを、オーバーラップ部分を有するように走査させながら、表面11aおよび表面13aの全面に照射してもよい。これにより、表面11aおよび13aの酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させることができる。この状態を活性状態と呼ぶ。また照射工程は真空中での処理であるため、表面11aおよび13aは、酸化等されず活性状態を保持することができる。また照射工程において、表面11aおよび13aの結晶構造を、表面から一定の深さで破壊することができる。その結果、基板表面に、SiとCを含んでいる非晶質層11bおよび13bを形成することができる。また、非晶質層11bおよび13bには、アルゴン原子が打ち込まれている状態となる。なお、半導体中において不活性なアルゴンはキャリアには貢献しないため、必要最小限の打ち込み量にしてもよい。
【0030】
ステップS3において、接合工程が行われる。接合工程では、支持基板11の表面11aと単結晶層13の表面13aとを、チャンバー101内で、真空中で接触させる。これにより、活性状態の表面に存在する結合手同士が結びつき、支持基板11と単結晶層13とを接合することができる。
【0031】
ステップS4において、熱処理工程が行われる。熱処理工程では、非晶質層11bと13bとが接触している状態で、支持基板11および単結晶層13を熱処理する。熱処理工程は、ファーネスを用いて実行される。熱処理工程は、チャンバー101内で減圧下で行われても良いし、チャンバー101以外の他の炉内で行われても良い。
【0032】
熱処理工程では、支持基板11および単結晶層13が、所定温度に加熱される。所定温度は、接合基板10の材料に応じて決定してもよい。例えば、SiCを用いる場合には、1500℃以上(好ましくは1700℃程度)に加熱してもよい。これにより、非晶質層11bおよび13bに、流動性を持たせることができる。非晶質層11bと13bとの接触面には、空間が形成される場合がある。形成される空間の体積は、非晶質層11bや13bの表面粗さが大きくなるほど大きくなる。そこで熱処理工程を行なうことにより、非晶質層11bおよび13bを形成している原子を流動させることができるため、非晶質層11bと13bとの接触面に形成されている空間を埋めることができる。
【0033】
また熱処理工程により、非晶質層11bおよび13bを、原子配列に規則性がない状態から、原子配列に規則性を有する状態へ再結晶化させることができる。再結晶化が完了すると、非晶質層11bおよび13bが消滅し、単結晶層13と支持基板11とが直接に接合している接合基板10が形成される。
【0034】
前記再結晶化は、結晶近傍から進行し、貼り合わせ界面へ到達すると考えられる。この再結晶化の過程で、キャリアとなる原子(窒素、リン等)はSiC結晶内に取り込まれるが、不活性原子のアルゴン原子はSiC結晶内に取り込まれない。そのため、再結晶化の進行に伴い、アルゴン原子は結晶領域から排斥されると考えられる。再結晶化が完了すると、非晶質層11bおよび13bが消滅し、支持基板11と単結晶層13とが直接に接合している接合基板10が形成される。しかし、再結晶化の過程で、キャリアとなる原子(窒素、リン等)は結晶内で分散され、アルゴンは界面に偏析してくることが予測される。
【0035】
また、熱処理工程により、支持基板11および単結晶層13の貼り合わせは強固なものとなる。また熱処理工程により、n型キャリアとなる原子(例:窒素、リン)は、高濃度n型キャリアとなる。
【0036】
<アルゴンの濃度プロファイル>
熱処理工程の前後におけるアルゴンの濃度プロファイルの変化を、
図4〜
図7を用いて詳細に説明する。なお、
図4および
図6では、アルゴン原子を白抜きの丸印、リン原子を黒色の丸印で擬似的に示している。また
図4および
図6では、SiC多結晶の結晶粒界を、模擬的に網の目状に記載している。また、
図5および
図7では、図面の見易さのために、アルゴン原子(白抜きの丸印)のみを示している。
図4(A)は、熱処理工程(ステップS4)前における、接合基板10の接合界面近傍の部分拡大図である。
図4(B)は、リンの濃度プロファイルである。
図4(C)は、アルゴンの濃度プロファイルである。
図4(B)および
図4(C)において、縦軸は接合界面12からの距離を示しており、横軸は不純物濃度を示している。すなわち、
図4(B)は
図4(A)の黒色の丸印の分布を示しており、
図4(C)は
図4(A)の白抜きの丸印の分布を示している。
図5は、
図4のV−V部分の断面図である。すなわち
図5は、非晶質層11bの表面を接合基板10に垂直な方向から観察した図である。
図6(A)は、熱処理工程後における、
図4(A)と同一部分の部分拡大図である。
図6(B)は、リンの濃度プロファイルである。
図6(C)は、アルゴンの濃度プロファイルである。
図7は、熱処理工程後における、
図5と同一部分の断面図である。
【0037】
熱処理工程前のアルゴンの濃度プロファイルを説明する。
図4(A)に示すように、接合基板10では、支持基板11の表面を破壊して形成された非晶質層11bと、単結晶層13の表面を破壊して形成された非晶質層13bとが、接触している。
図4(A)に示すように、非晶質層11bおよび13b内には、ステップS2の照射工程によって、アルゴン原子が注入されている。熱処理工程前においては、アルゴン原子の深さ方向(すなわち
図4(A)の上下方向)の濃度プロファイルP1(
図4(C)参照)は、ガウス分布に従った状態である。したがって、非晶質層11bおよび13bでは、その深さ方向の全体に、アルゴン原子が分散している状態である。また
図5に示すように、熱処理工程前においては、非晶質層11bの表面を観察したときのアルゴン原子の面内濃度プロファイルは均一である。換言すると、熱処理工程前においては、アルゴン原子の面内密度は一定である。これは、ステップS2において、支持基板11の表面および単結晶層13の表
面に、アルゴンの中性原子ビームを均一に照射しているためである。
【0038】
次に、熱処理工程後のアルゴンの濃度プロファイルを説明する。熱処理工程(ステップS4)では、ファーネスを用いた熱処理によって、接合基板10の全体が加熱される。
【0039】
非晶質層11bおよび13bを熱処理する場合には、非晶質層11bおよび13bを、原子配列に規則性がない状態から、原子配列に規則性を有する状態へ再結晶化させることができる。非晶質層13bの再結晶化は、非晶質層13bと単結晶層13との界面F1(
図4(A)参照)から非晶質層13bの内部側(すなわち
図4(A)の下側。矢印Y1参照)へ向かって、単結晶層13の結晶構造(単結晶SiC)に倣った原子配列となるように行われる。また非晶質層11bの再結晶化は、非晶質層11bと支持基板11との界面F2(
図4(A)参照)から非晶質層11bの内部側(すなわち
図4(A)の上側。矢印Y2参照)へ向かって、支持基板11の結晶構造(多結晶SiC)に倣った原子配列となるように行われる。従って再結晶化が完了すると、
図6(A)に示すように、非晶質層11bおよび13bが消滅し、単結晶層13と支持基板11とが直接に接合している接合基板10が形成される。非晶質層11bと13bとが一体となって再結晶化するため、単結晶層13と支持基板11とを共有結合によって強固に接合させることができる。
【0040】
また、アルゴンは、SiCの結晶格子に取り込まれることのない原子である。そのため、アルゴン原子は非晶質層13bの再結晶化が進むにつれて再結晶化が行われていない領域に移動する。すなわち、
図4(A)の矢印Y1方向へ移動する。そして、アルゴン原子が接合界面12の近傍の領域に到達すると、接合界面12の近傍の領域に固定化される。同様に非晶質層11b内のアルゴン原子は、結晶内部に取り込まれることがないため、非晶質層11bの再結晶化が進むにつれて、再結晶化が行われていない領域に移動する。すなわち、
図4(A)の矢印Y2方向へ移動する。そして、アルゴン原子が接合界面12の近傍の領域に到達すると、接合界面12の近傍の領域に固定化される。その結果、非晶質層11bおよび13bの再結晶化が完了すると、
図6(A)に示すように、支持基板11と単結晶層13との接合界面12の近傍にアルゴン原子が凝集することになる。
【0041】
従って、熱処理工程後のアルゴンの濃度プロファイルは、濃度プロファイルP11(
図6(C)参照)となる。そして、熱処理工程後の濃度プロファイルP11(
図6(C)参照)の幅W2は、熱処理工程前の濃度プロファイルP1(
図4(C)参照)の幅W1に比して小さくなっている。すなわち、本明細書に記載されている熱処理工程(ステップS4)を実行することによって、支持基板11および単結晶層13に含まれているアルゴンの深さ方向の濃度プロファイルの幅を、狭くすることができる。
【0042】
また
図7に、熱処理工程後における、支持基板11の表面を観察したときのアルゴン原子の面内濃度プロファイルを示す。アルゴン原子が面内方向に移動して部分的に凝集することで、島状や線状の凝集部分が形成されていることが分かる。すなわち、本明細書に記載されている熱処理工程(ステップS4)を実行することによって、支持基板11および単結晶層13内におけるアルゴンの面内方向の濃度ばらつきを、熱処理工程前(
図5参照)に比して大きくすることができる。
【0043】
<アルゴン濃度プロファイルの分析>
本明細書に記載されている接合方法で作成された接合基板10の、支持基板11と単結晶層13との接合界面近傍における、アルゴン濃度プロファイルを分析した。分析に用いられた接合基板10は、支持基板11が多結晶SiCであり、単結晶層13が単結晶の4H−SiCである。不純物導入工程(ステップS1)では、10(keV)の入射エネルギーで、60(sec)の問、リン原子を照射した。照射工程(ステップS2)では、1.8(keV)の入射エネルギーで、60(sec)の間、アルゴン原子を照射した。熱処理工程(ステップS4)において、最高温度は1700℃であった。また、熱処理工程の前後で接合界面12を横切る電流経路の電気特性を測定したところ、熱処理工程後では、非オーミックな導電特性の発現が抑制できていることが分かった。
【0044】
本接合基板に対してエネルギー分散型X線分光法(EDX)によるアルゴン濃度分析を行った。元素分析装置は、NORAN製 VOYAGERIII M3100である。ビーム径は約1ナノメートルであり、試料中のビームの広がりを考慮して本分析の空間分解能は2ナノメートルである。また幅W1およびW2は、打ち込まれたアルゴンの90%が存在している領域の幅を測定することで求めた。
【0045】
熱処理工程前の濃度プロファイルP1の幅W1は、約4ナノメートルであった。また、熱処理工程後の濃度プロファイルP11の幅W2は、本分析の空間分解能である約2ナノメートルであった。すなわち、アルゴンの濃度プロファイルの幅を約2ナノメートル以下に狭めることで、非オーミックな導電特性の発現を抑制できることが分かる。
【0046】
また、アルゴンの面内方向の濃度ばらつきを測定した。接合界面12近傍部の断面(
図6(A)参照)において、接合界面12におけるアルゴンの濃度を、場所を変えて十分な数を測定した。測定範囲は約200ナノメートルである。そして、測定されたアルゴン濃度のばらつきとして、最大値と最小値との濃度比(最大値/最小値)を求めた。また、熱処理工程の前後において、濃度差を測定した。熱処理工程前においては、濃度ばらつきが1.3〜1.5であった。それに対し、熱処理工程後においては、濃度ばらつきが9.1に増加した。すなわち、アルゴン濃度の最小値と最大値との濃度比で示される濃度ばらつきを約2倍以上(好ましくは約9倍以上)に制御することで、非オーミックな導電特性の発現を抑制できることが分かる。
【0047】
<効果>
照射工程(ステップS2)によって、支持基板11の表面近傍および単結晶層13の表面近傍に、アルゴンが打ち込まれてしまう。すると、接合工程(ステップS3)によって生成された接合基板10において、接合界面12の近傍に、濃度プロファイルP1(
図4(C)参照)を有するアルゴンが存在することになる。アルゴンが接合界面12の近傍に存在すると、接合界面12を横切る電流経路において、非オーミックな導電特性が発生してしまう場合がある。そこで、本明細書に記載されている熱処理工程(ステップS4)を実行することによって、アルゴンの濃度プロファイルの幅を、幅W1(
図4(C)参照)から幅W2(
図6(C)参照)へ狭くすることができる。これにより、接合界面12を横切る電流経路上において、アルゴンが存在する経路の距離を短縮することができる。また、アルゴンが界面近傍に集中することにより発生する欠陥起因の準位の存在領域を狭くすることにより、高濃度n型層により誘発されるトンネル現象を発生させ易くする効果も得られる。その結果、非オーミックな導電特性の発現を抑制することが可能となる。
【0048】
本明細書に記載されている熱処理工程(ステップS4)を実行することによって、
図6に示すように、アルゴンの濃度プロファイルP11の存在範囲(
図6(C)参照)が、リンの濃度プロファイルP12の存在範囲(
図6(B)参照)内に包含されるように制御することができる。本願出願人らの実験等により、アルゴンの周囲にリンなどのキャリアを発生させる不純物を存在させると、接合界面12を横切る電流経路上において、非オーミックな導電特性の発現を抑制することができることが分かっている。この現象のモデルは明確には解明されていない。しかし、以下のモデルが考えられる。接合界面12では、エネルギー障壁とアルゴンの存在による準位が形成されるために、非オーミックな導電特性が発現している。従って、接合界面12の近傍にキャリアを発生させることで、エネルギー障壁の幅を小さくすることでトンネル効果を得ることができる。すなわち、非オーミックな導電特性が発生するところを、高濃度n型キャリアにより抑制することができる。これにより、非オーミックな導電特性の発現を抑制することが可能となる。
【0049】
さらに、本発明は以下の効果を付与できる。本明細書に記載されている熱処理工程(ステップS4)を実行することによって、アルゴン原子を面内方向に移動させて部分的に凝集させることで、島状や線状の凝集部分を形成することができる(
図7参照)。これにより、接合界面12の面内に、アルゴンの濃度が高い領域(すなわち凝集部分)と、低い領域(例:
図7の領域A1)とを混在するように形成することができる。アルゴンの濃度が低い領域では、非オーミックな導電特性を抑制することができる。従って、アルゴンの濃度が低い領域を混在させることで、接合界面12を横切る電流経路全体において、非オーミックな導電特性の発現を抑制することが可能となる。すなわち、アルゴンの濃度が低い領域を、非オーミックな導電特性の発現を抑制するための電流経路として使用することが可能となる。
【0050】
本明細書に開示されている技術により得られる効果を、別の側面から説明する。接合界面12に非オーミック特性な電気特性が発生してしまう原因としては、半導体層同士のバンドギャップ電圧幅の差によるものが挙げられる。
図8に示すように、量子力学的には、電子障壁が存在しているものと考えられる。
図8の事例では、支持基板11がn型の3C面方位主体のSiC多結晶であり、禁制帯電位幅は2.2Vである場合を示している。また、単結晶層13が4H面方位のSiC単結晶であり、禁制帯電位幅が3.2Vである場合を示している。4Hと3Cの禁制帯の電位幅の差や、界面に存在するアルゴンにより発生する準位や、接合界面の不整合などにより、接合界面12及びその近傍領域では、このような電位障壁が発生すると考えられる。そして本明細書に開示されている技術では、FABガンにより必然的に存在する不活性なアルゴンなどの不純物の界面近傍の存在領域に、n型高濃度キャリアを発生させる不純物(例:リンや窒素)を存在させることができる。これにより、トンネル現象を誘発させて非オーミック特性の改善を生み出すことができる。また、アルゴンを照射する真空室内で、アルゴン照射の前あるいは後にリンや窒素を照射する、という極めて簡素な工程フローにより、n型高濃度キャリアの発生を可能にすることができる。
【0051】
図9に、実際の界面特性の計測結果を示す。測定対象は、本明細書に記載の接合方法により接合された、4H−SiC単結晶層23(単結晶層13に対応)および多結晶SiC基板24(支持基板11に対応)である。4H−SiC単結晶層23には、表面電極21が備えられている。多結晶SiC基板24には、裏面電極22が備えられている。
図9は、表面電極21と裏面電極22の間における、V−I曲線である。
図9から分かるように、オーミックな導電特性が得られていることが分かる。
【0052】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0053】
<第1変形例>
不純物導入工程は、接合工程(ステップS3)の後に行ってもよい。この場合、不純物のイオンを、単結晶層13の接合界面12と反対側の面側(すなわち、
図4(A)の矢印Y3側)から打ち込めばよい。不純物導入工程では、打ち込んだ不純物の少なくとも一部が、接合界面12を超えて支持基板11に注入されるように、加速エネルギーや入射角度などの各種のパラメータを設定すればよい。また、接合界面12近傍で不純物濃度が最大となるように、打ち込みに関する各種のパラメータを設定すればよい。例えば、加速エネルギーを変化させて複数回打ち込みを行う多段打ち込みを用いることで、不純物濃度が接合界面12近傍で最大となるように制御してもよい。
【0054】
<第2変形例>
支持基板11および単結晶層13にキャリアを発生させる不純物は、不純物導入工程によって導入する形態に限られない。不純物が予め導入された支持基板11および単結晶層13を用いることで、不純物導入工程を省略してもよい。本実施形態では、窒素やリンなどが高濃度にドープされたn型の支持基板11および単結晶層13を用いればよい。また、基板に予めドープされる不純物の濃度は、不純物導入工程で導入する、接合界面における不純物濃度以上とすればよい。本実施形態では、窒素またはリンが1×10
19/cm
3以上ドープされた、n型の支持基板11および単結晶層13を用いればよい。
【0055】
また、不純物が予め導入された支持基板11および単結晶層13に対して、不純物導入工程を行ってもよい。この場合の具体的な事例を説明する。窒素やリンなどがドープされた、n型の支持基板11および単結晶層13を用意する。不純物導入工程(ステップS1)から熱処理工程(ステップS4)までを実施すると、
図6に示すような濃度プロファイルが得られる。n型キャリアとなる不純物(例:窒素、リン)の濃度プロファイルP12(
図6(B)参照)の幅は、接合界面12から両側それぞれに4ナノメートルであった。また、アルゴンの濃度プロファイルP11の幅は、接合界面12から両側それぞれに2ナノメートルであった。この場合n型キャリアの濃度が、例えば10
20/cm
3以上であれば、接合界面12において電子障壁があっても、トンネル効果を十分に得ることが可能となる。また、不活性な不純物であるアルゴンは、n型半導体である支持基板11および単結晶層13中では、結晶欠陥の準位を形成する。欠陥準位がキャリアのライフタイムキラーとして機能するため、キャリアの移動度が低下する。そこで、アルゴンの存在範囲にn型キャリアとなる不純物(例:窒素、リン)が存在するようにすることにより、結晶欠陥の準位の影響を緩和することができる。また、界面不整合による界面準位の影響も、n型キャリアとなる不純物の存在により、緩和することができる。
【0056】
<第3変形例>
照射工程(ステップS2)において、表面を活性化する方法は、アルゴンの中性原子ビームを照射する方法に限られない。半導体の格子に取り込まれにくい不純物であって、FABガンにおける照射で半導体層の表面を活性化する効力が高い不純物であってもよい。また、キャリアになりにくい不純物であって、FABガンにおける照射で半導体層の表面を活性化する効力が高い不純物であってもよい。例えば、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)などの希ガスの原子ビームを照射してもよい。また例えば、He、水素、Ar、Si、Cなどの、原子または分子またはイオンなどを注入する方法であってもよい。また、照射工程(ステップS2)において、キャリアを発生させる不純物原子のイオンを照射してもよい。本明細書の実施例では、照射工程において、窒素やリンなどのイオンをさらに照射してもよい。なお、照射工程では、窒素を照射することが好ましい。これにより、支持基板11および単結晶層13の表面を活性化する処理を、窒素やリンなどを支持基板11および単結晶層13に打ち込む処理としても機能させることができる。したがって、不純物導入工程(ステップS1)を省略することができるため、工程数の削減を図ることが可能となる。また、表面を活性化するために用いる装置は、FABガンに限られず、イオンガン等の各種の装置を用いることが可能である。
【0057】
<第4変形例>
不純物導入工程(ステップS1)で使用される方法は、イオン打ち込みに限られない。例えば、熱拡散法を用いることができる。熱拡散法は、支持基板11や単結晶層13の表面にリンなどの不純物を高濃度に存在させた上で加熱するという原理を有する。従って、支持基板11や単結晶層13の表面において、リンなどの不純物濃度を最大にすることができる。また、イオン打ち込み法を用いる場合に比して、不純物の濃度プロファイルの幅を狭くすることができる。これにより、トンネル効果により通り抜けることができるエネルギー障壁の幅(数ナノメートル程度)に対応した幅を有する、不純物の濃度プロファイルを形成することが可能となる。なお、不純物を導入する半導体材料がSiCである場合に、不純物導入工程において熱拡散法を用いてもよい。SiCは、不純物の熱拡散係数が非常に小さいため、1700〜2000℃程度の高温で熱拡散を行うことが好ましい。これにより、トンネル効果を発現させうる数ナノメートル程度の拡散を行うことができる。
【0058】
<第5変形例>
図1に示すように、不純物導入工程(ステップS1)の前に、エッチング工程(ステップS0)を行ってもよい。エッチング工程の内容は、前述した照射工程(ステップS2)の内容と同様であってもよい。すなわちエッチング工程では、真空状態のチャンバー101内に、支持基板11および単結晶層13がセットされる。そして、支持基板11および単結晶層13の表面に、アルゴンの中性原子ビームを照射する。これにより、支持基板11および単結晶層13の表面を強度にエッチングすることができるため、酸化膜などを確実に除去することが可能となる。その後、不純物導入工程(ステップS1)および照射工程(ステップS2)を、チャンバー101内で行えばよい。エッチング工程の条件の一例としては、1.8(keV)の入射エネルギーで、10(sec)の間、アルゴン原子を照射する条件が挙げられる。
【0059】
<第6変形例>
不純物導入工程では、n型キャリアとなる不純物を、単結晶層13の表面にのみ打ち込み、支持基板11の表面には打ち込まないとしてもよい。例えば、支持基板11が、低抵抗化処理が行われている多結晶SiCである場合には、n型キャリアとなる不純物の支持基板11の表面への打ち込みを省略することができる。低抵抗化処理が行われている多結晶SiCの一例としては、不純物が予め導入された多結晶SiCが挙げられる。
【0060】
<第7変形例>
本明細書に記載の製造フローを、スマートカット(登録商標)と呼ばれる手法に適用することも可能である。
図10を用いて説明する。
【0061】
図10(A)は、支持基板11と単結晶層
13の接合前の状態を示す断面図である。単結晶層
13は、接合面の深さ0.5μmの位置に、予め水素注入層28が形成されている。
図10(B)において、本明細書に記載の接合工程(ステップ3)までを実施する。
図10(C)において、本明細書に記載の熱処理工程(ステップ4)を実施する。これにより、1000℃以上の高温度状態に加熱することで、単結晶層
13を水素注入層28で分離させることができる。その結果、支持基板11上に、0.5μmの厚さの薄い単結晶層
131を接合した構造を形成することができる。なお単結晶層
13は、再利用することができる。
図10(D)において、薄い単結晶層
131の上に、必要な厚さのSiC単結晶層をエピタキシャル成長させる。これにより、エピタキシャル層
132が形成される。このエピタキシャル層
132が、各種の素子の形成領域となる。各種素子の形成のために必要なエピタキシャル層
132の厚さは、概ね10μmである。
【0062】
<その他の変形例>
単結晶層13は、4H−SiCの単結晶に限られない。3C−SiCや6H−SiCなど、様々なポリタイプの単結晶SiCを単結晶層13として用いることができる。
【0063】
支持基板11に使用される材料は、多結晶SiCに限られない。単結晶層13に適用される各種の熱プロセスに対する耐性を有する材料であれば、何れの材料であってもよい。
【0064】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0065】
単結晶層13は、第1の半導体層の一例である。支持基板11は、第2の半導体層の一例である。アルゴンは、第1の不純物の一例である。窒素およびリンは、第2の不純物の一例である。