【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年3月4日付けにて、「横尾 誠一」、「山上 聡」、および「天野 史郎」が、日本眼科學會雜誌 第117回臨時増刊号において、「横尾 誠一」が発明した培地及び細胞の培養方法について公開した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、様々な再生医療が実現されつつある。再生医療に使用される細胞の培地には、培地としての性能のみならず、厳格な品質管理と安全性が求められるようになっている。
【0003】
多くの細胞の増殖や分化のためには、血清を加えた基本培地が用いられる。基本培地とは、既知の低分子量成分を含む培地であり、各種アミノ酸、ビタミン、脂質、糖質、核酸、無機塩、ミネラルなどが含まれている。基本培地に加えられる血清としては、5〜10%程度のウシ胎仔血清が広く用いられている。
血清は、各種の細胞成長因子、細胞接着因子、栄養因子、ビタミン、微量金属などを供給するとともに、培地成分の解毒や、細胞の産生する増殖阻害物質の中和といった機能を有する。
【0004】
しかしながら、血清は生物材料であるために、マイコプラズマ、ウイルス、BSEの原因となる異常プリオンが混入している可能性があり、かかる血清を用いて培養した細胞や組織を移植すれば感染のリスクがある。
また、血清はロットごとに生物活性が異なり、品質のよいロットを選択するための検査が必要であるところ、この検査にもコストが発生する。またロットは胎児血清であるためスケールが大きいロットはなく、消費期限も長期間設定しにくい為、頻繁な検査が求められ、さらにコストが高くなる原因となる。
再生医療は、一般に、低分子化合物の医薬品のようにスケールを大きくしてコストを下げることが難しく、製造や検査にかかるコストは再生医療の費用にそのまま反映され、その普及の妨げにもなり得る。
そのため、最近、血清を含まない無血清培地に種々の成分を加えて細胞を増殖させる様々な方法が提案されている。
【0005】
ところで、他家移植が確立されている細胞の一つに、角膜内皮細胞がある。日本では、角膜移植が年に約3000件行われているが、これは、人口3億人の米国で年に4万件行われていることと比較すると非常に少ない。この理由として、日本では角膜のドナーが不足していることが挙げられる。実際、必要な角膜の半数は輸入に依存している。このため、in vitroの培養によって移植用の角膜を作製する技術が求められている。
角膜移植を必要とする疾患のうち、4割以上が水疱性角膜症などの角膜内皮の疾患であるが、角膜内皮細胞をin vitroで増殖させることは非常に難しいことが知られている。これまでに、ヒト角膜内皮細胞が、ウシ角膜内皮が産生するコラーゲン上で増殖することが報告されたが(非特許文献1)、ウシ角膜は特定危険部位に指定されているため、これを用いて培養した細胞を再生医療に使用することはできない。
また、培地にアスコルビン酸誘導体とウシ胎仔血清を加えることによっても、角膜内皮細胞を増殖させることができることが報告された(非特許文献2)。しかしながら、上述のとおり血清の使用は望ましくなく、無血清培地で角膜内皮細胞を培養する技術が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(培地)
本発明に係る細胞を培養するための培地は、哺乳動物由来のアルブミンを5mg/ml以上の濃度で含む、無血清培地である。
本明細書において「哺乳動物由来のアルブミン」とは、哺乳動物の血漿から精製して得られるアルブミンを含む組成物であって、アルブミンの純度が総タンパク質量の70重量%以上であるものをいう。アルブミンは、血漿タンパク質の約60%を占める分子量約66,000のタンパク質である。
アルブミンは、例えば、コーンの低温エタノール分画法によって得ることができる。コーンの低温エタノール分画法は、原料血漿から、低温下でエタノール濃度やpHを調整して余分な成分を除き、純度の高いアルブミン分画を得る方法である。この方法では、エタノールによって大部分のウイルスが不活化され、遠心分離操作によってウイルスが除去されるとともに、最終的には加熱処理による滅菌(パスツールの低温殺菌法)が行われるので、得られるアルブミンは安全性が高い。
【0012】
本明細書において「哺乳動物」は特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ等が挙げられるが、培養した細胞をヒトに移植する場合には、ヒト又はウシ由来アルブミンが好ましい。
本明細書において、ヒト由来のアルブミンは、ヒト血漿から精製されて、アルブミンを70重量%以上含む組成物であれば特に限定されず、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上のものを使用することができる。例えば、アルブミンの純度が総タンパク質量の80重量%以上である「加熱ヒト血漿タンパク質」や、96重量%以上である「ヒト血清アルブミン」が好ましく用いられる。加熱ヒト血漿タンパク質や、ヒト血清アルブミンは、いずれもヒトに投与できるグレードのものが入手可能であり、培養した細胞をヒトに移植する場合も安全性が高い。
「牛由来のアルブミン」としても、原料血漿から種々の純度に精製したものを用いることができ、例えば市販のウシ血清アルブミンを用いてもよい。
また、本発明に用いられる哺乳動物由来のアルブミンは純度が総タンパク質量の99.5重量%未満、99重量%未満、98.5重量%未満のものとしてもよい。
また、本発明に用いるヒト由来アルブミンは、総タンパク質が99重量%以下、98.5重量%以下、98重量%以下、又は97.5%以下のものを用いてもよい。
【0013】
本明細書において「無血清培地」とは、血清を含まない基本培地に、血清の代わりとなる既知の成分を添加した培地をいう。
本明細書において「基本培地」とは、低分子量の既知成分のみの培地をいう。基本培地の非限定的な例として、BME(Basal medium Eagle's)、MEM(Minimum essential medium)、DMEM(Dulbecco's modified Eagle's medium)などのイーグル培地、RPMI1630、RPMI1640などRPMI(Roswell Park Memorial Institue)培地、フィッシャー培地(Fischer's medium)、F10培地、F12倍値などのハム培地(Ham's medium)、MCDB104、107、131、151、153、170、202などのMCDB培地、RITC80−7倍地が知られており、培養する細胞に合わせて適宜選択することができる。
【0014】
血清の代わりとなる既知の成分としては、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、神経成長因子(NGF)、インスリン様成長因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)インターロイキン類などの細胞成長因子;インスリン、グルカゴン、プロラクチン、サイロキシン、成長ホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、甲状腺ホルモン、エストラジオール、グルココルチコイドなどのホルモン;セルロプラスミン、トランスフェリン、リポタンパク質などの結合タンパク質;コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチンなどの細胞接着因子;プロスタグランジン、リン脂質、不飽和脂肪酸などの脂質などが挙げられ、これらのいずれかを単独で、又は任意の組み合わせで用いることができる。
血清の代わりとなる既知の成分は、純度が100%でないものでもよく、例えば、組織抽出物であってもよい。本明細書においては、組織抽出物等を加えたものも無血清培地と呼び、したがって、哺乳動物由来のアルブミンを加えた培地も、血清を含まない限り無血清培地である。
【0015】
本発明に係る無血清培地には、哺乳動物由来のアルブミンが5mg/ml以上の濃度で含まれる。アルブミンを6mg/ml以上、7mg/ml以上、8mg/ml以上、10mg/ml以上、15mg/ml以上、20mg/ml以上、25mg/ml以上としてもよい。一般に、アルブミンは無血清培地に5mg/mlを下回る濃度で加えられるところ、本発明に係る無血清培地は、それ以上の高濃度のアルブミンを含む。
アルブミンとして、加熱ヒト血漿タンパク質やヒト血清アルブミンを用いる場合、これらを培地に加えた最終濃度が上記範囲となるように、計算して加えることができる。
【0016】
本発明に係る培地には、その他、細胞の培養に有用な物質を適宜添加することができる。かかる物質として、例えば、pHを安定させるための緩衝剤(HEPESなど)、pH指示薬のフェノールレッド、抗生物質(ペニシリンG、ストレプトマイシン、アンフォテリシンB、ゲンタマイシン、カナマイシン、アンピシリン、ミノマイシン、ゲンタシン等)、アミノ酸、ビタミン、脂質、糖質、核酸、無機塩、有機酸塩、ミネラル、HEPES等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
本発明に係る培地は、水や緩衝液に各成分を溶かすことによって調製することができる。
培地の調製に用いる水は、超純水を用いることが好ましい。特に、培養した細胞を再生医療に用いる場合、すなわち培養した細胞をヒト等に移植する場合には、注射用純水に準拠した超純水を使用する。
再生医療に用いる場合は、培地の調製も高規格クリーンルーム又はクリーンベンチで無菌的に行い、培地の分注は、マイコプラズマも除去できるポアサイズ0.1μm以下の無菌フィルタを使用する。
培地の保存容器は、タンパク質が内壁に吸着しやすいガラス製よりも、ポリエチレンテレフタレート共重合体製などのプラスチック容器が好ましい。
調製した培地は、各種の品質評価試験(pHや浸透圧など測定を含む物性試験;バクテリア、菌類、マイコプラズマなどによる汚染を確認する微生物試験;肝炎ウイルス、HIVなどによる汚染を確認するウイルス試験;エンドトキシン濃度の測定;細胞増殖や生理機能などの生物活性試験等)を行ってもよい。
【0018】
本明細書において「細胞」は動物細胞を意味し、その種類は特に限定されないが、例えば、表皮角化細胞、角膜上皮細胞、角膜内皮細胞、乳腺上皮細胞、気管支上皮細胞、前立腺上皮細胞、メラニン細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、間葉性幹細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、神経前駆細胞、肝細胞、樹状細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に係る無血清培地によれば、一般に、血清添加培地が適しているとされる血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、角膜内皮細胞なども培養して増殖させることが可能である。
【0019】
本発明に係る培地は、アルブミンを高濃度に含むことから、浸透圧も高めになり、保存液としての性能にも優れる。したがって、培養後、同一培地で連続的に出荷することも可能である。
【0020】
(培養方法)
本発明は、上述した本発明の培地を用いて、動物細胞を培養する方法も包含する。
本発明に係る動物細胞の培養方法は、哺乳動物由来のアルブミンを10mg/ml以上の濃度で含む無血清培地を用いること以外特に限定されず、当業者が、培養する細胞の種類に応じて、種々の条件(温度、湿度、CO
2濃度、pH、培地の交換頻度等)を選択し、必要に応じて継代培養することが可能である。
【0021】
本発明の培養方法は、単層静置培養、回転培養、マイクロキャリア培養、浮遊培養、旋回培養、スフェロイド培養、ゲル内培養、三次元担体培養、器官培養等、どのような培養方法に用いてもよい。
【0022】
単層静置培養とは、培養容器の壁に接着させて単層の状態で培養する方法である。培養容器は、ガラス製やプラスチック製のものが用いられる。プラスチックは、表面が適度な親水性に処理されているものを使用することができ、細胞の種類や実験の目的によって、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルなどの細胞外基質でコーティングしてもよい。コーティング材として、UV照射により架橋したコラーゲンや、コラーゲンを加熱処理して得られるゼラチンを用いることもできる。
フィーダー細胞は、用いても用いなくてもよい。フィーダー細胞を用いる場合は、放射線やマイトマイシンCなどで処理してから用いてもよい。培養した細胞を移植する場合は、フィーダー細胞を用いないことも好ましい。
回転培養は、回転する金属ドラムに培養容器を入れて培養する方法である。ボトル型の培養容器を用いること等により、大量培養も行うことができる。
マイクロキャリア培養は、ビーズ状の担体を用いてその表面に細胞を接着させ、ビーズを含む培地を撹拌して浮遊状に培養する方法である。大量培養に適する。
浮遊培養は、細胞を培地に浮遊させた状態で培養する方法である。組織細胞は、一般に培養容器の壁に接着して初めて増殖するものも多いが、癌細胞や長期間培養された正常細胞の中には、浮遊状態で増殖するものもある。また、培地を撹拌することによって接着性の細胞を強制的に浮遊培養することもできる。単層培養に比較して、多量の細胞を回収することができる。
旋回培養は、水平面上の回転運動を培養容器に与えて培養する方法をいう。浮遊培養の一方法としても用いられるが、旋回によって浮遊物が中央に集まる性質を用いて細胞集塊(スフェロイド)を形成するためにも用いられる。
スフェロイド培養は、細胞を浮遊させ、互いに緩やかに接触する状態にしておくことで、相互接着によるスフェロイドを形成させる方法である。スフェロイド培養された細胞は、機能の発現が高いことが多い。
ゲル内培養は、コラーゲンゲル、軟寒天、合成ポリマーなどのゲルの中に細胞を埋め込んで培養する方法である。三次元培養に適している。
三次元担体培養は、培養細胞の機能の発現を高めるために、高密度かつ立体的な細胞増殖ができるよう担体を使って培養する方法である。担体としては、多孔性ポリマーやビーズが一般的であり、高密度の細胞の栄養・ガス交換を可能にするために、バイオリアクターによる循環系が用いられる。
器官培養は、身体から器官の一部を切り出してそのまま培養する方法である。
【0023】
(培養物)
本発明は、本発明に係る動物細胞の培養方法によって得られる培養物も包含する。かかる培養物は、無血清培地で培養されているので、ロットによる品質のばらつきがないことから検査コストを抑えることができる。ウイルス感染など血清特有の問題も回避することが可能である。また、動物由来アルブミンは、既にヒトに投与できるグレードの高いものが市販されているため、かかる動物由来アルブミンを用いれば安全性の高い培養物となる。
【0024】
(培養キット)
本発明は、本発明に係る培養方法に用いられる細胞培養キットも包含する。
本発明に係る培養キットには、本発明に係る培地が含まれていてもよいし、本発明の培地を調製するのに必要な成分の一部を含む培養液と、その他の成分とを別々に含んでいてもよい。また、超純水など、実験室に常備される材料はユーザにおいて準備するものとし、それに混合するだけで本発明の培地を調製できるよう、必要な成分のみを含むものであってもよい。
【0025】
本発明の培養キットは、実験室での実験に使用されるものであってもよいし、大量培養に用いられるものであってもよい。培養液のほか、培養容器、ウイルスフィルタ、培養容器のコーティング材料、各種試薬、緩衝液、使用説明書等を備えていてもよい。
【0026】
(角膜内皮細胞の培養方法)
本発明に係る培地及び培養方法は、角膜内皮細胞の培養にも好適である。
上述のとおり、角膜内皮細胞は、in vitroで増殖させることが非常に難しいことが知られていたが、本発明に係る培地及び培養方法を用いれば、後述する実施例に示すとおり、無血清培地で初代角膜内皮細胞から正常培養角膜内皮細胞を得て、継続して培養することができる。角膜は、他家移植が確立されているので、培養により移植用角膜を作製することができれば、1つのロットで他人数の治療が可能となり、他の細胞に比較して、生産コストのスケールメリットも期待できる。
【0027】
角膜内皮細胞の培養の場合、培地には、アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸−2−O−リン酸(Asc2P))を添加してもよい。アスコルビン酸誘導体の濃度は特に限定されないが、例えば、100μM〜500μM、200μM〜400μM、約300μM等とすることができる。
角膜内皮細胞の培養の場合には、低酸素環境で培養してもよい。
【0028】
なお、角膜内皮細胞の培養の場合、培地にTGFβ2を加えると、後述する実施例に示されるとおり、よく増殖するが、線維芽細胞状に変化する。角膜内皮の創傷治癒時には、繊維芽細胞状に変化した角膜内皮細胞によって異常な細胞外基質(コラーゲン1型)を産生する基底膜(Posterior collagen layer : PCL)が構築され、これが創傷治癒を妨げることが報告されている。培地にTGFβ2を加えた結果線維芽細胞状に変化した角膜内皮細胞はこのPCLに類似しており、PCLモデルとして各種試験や実験に用いることができる。
【0029】
角膜内皮細胞の場合、培養容器をコラーゲンIやゼラチンなどでコーティングしてもよい。UV架橋を行ったコラーゲンや、コラーゲンを熱変性させたゼラチンでコーティングすることも好ましい。
【0030】
角膜内皮細胞の場合、本発明の方法により増殖させた後、コラーゲンビトリゲルなどのある程度強度を有するキャリア上に移し、キャリアごと移植してもよい。
【0031】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0033】
実施例1 人角膜内皮無血清 初代培養
研究用輸入角膜より角膜内皮細胞をデスメ膜より剥離し、住友ベークライト社製 ステムフル(MS-90150)に移し、PBS(−)で洗浄後、遠心操作にてPBS(−)を取り除いた。その後、0.05%トリプシン/0.02%EDTA PBS(−)溶液(SIGMA TRIPSIN-EDTA SOLUTION 10×をPBS(-)で10倍希釈したもの)を3ml入れ、5分間温浴にて保温したのち、超親水性樹脂であるP−HEME(SIGMA P3932-25Gを95%エタノールで溶解)をコーティングしたチップを用いピペッティングにより細胞分散を行い、人角膜内皮細胞懸濁液を得た。
人角膜内皮細胞懸濁液を1mlずつ幹細胞採取用遠心管ステムフル3本に分注し、(A)B-27、及びAsc2P 300μMを添加したDMEM low glucos 培地、(B)15%牛胎児血清を添加したDMEM low glucos 培地、(C)ウシアルブミン12.5mg/ml (ライフテクノロジーズ社 11021-029、純度98%)、B-27(ライフテクノロジーズ社 17504-044)、及びAsc2P 300μMを添加した培地を9mlずついれ、5分間、1200rpm/分で遠心し、上清を取り除くことで洗浄したのち、(A)B-27、及びAsc2P 300μMを添加したDMEM low glucos 培地、(B)15%牛胎児血清を添加したDMEM low glucos 培地、(C)ウシアルブミン12.5mg/ml、B-27、及びAsc2P 300μMを添加した培地をそれぞれ10mlずつ加え、懸濁したのち、住友ベークライト社製、細胞培養用シャーレ35φ(MS-10350)に播種し、2週間培養し、初代培養の可否を検討した。尚、全ての培養液には人角膜内皮細胞の増殖に寄与すると報告があるbFGFおよびHGFを20ng/ml添加した。
結果を
図1に示す。(A)B-27、及びAsc2P 300μMを添加したDMEM low glucos 培地や(B)15%牛胎児血清を添加したDMEM low glucos 培地では人角膜内皮細胞の初代培養は達成できなかった。一方、(C)ウシアルブミン12.5mg/ml、B-27、及びAsc2P 300μMを添加した培地では、人角膜内皮細胞の活発な増殖が見られ初代培養が成功した。以上のことより、高濃度アルブミン添加により、無血清角膜内皮細胞の初代培養が可能なことが示された。
実施例2以降は、(C)の培地によって得られた培養ヒト角膜内皮細胞を用い、培地も特記されていない限り(C)の培地を継続して用いた。
また、実施例2以降で「無血清培地」は、ウシアルブミン12.5mg/ml(純度98%)、B-27、及びAsc2P 300μMを含む培地を意味する。
【0034】
実施例2 人角膜内皮細胞の付着性の検討
実施例1で得られた培養ヒト角膜内皮細胞の付着性を検討した。培地は、無血清培地にbFGFとHGFをそれぞれ20ng/ml添加したものを用いた。
結果を
図2に示す。市販品の培養皿上でも増殖するが、細胞付着性がやや悪く、細胞が網目状に進展した(
図2A)。付着性向上のために一般的に行われる手法として培養皿へのコラーゲン塗布が行われるため、新田ゼラチン社製アテロコラーゲンTypeI-Cを
培養皿に塗布したところ、塗布したコラーゲンが分解され、培養皿表面より消失していく様子が確認された(
図2B)。そこで、塗布したコラーゲンにUV-Cを5分間照射することで架橋すると、コラーゲンは分解されず、角膜内皮細胞の付着性が向上した(
図2D)。コラーゲンを熱変性させたゼラチン上(住友ベークライト社製MS-0390G)でも人角膜内皮細胞は良好な細胞付着性と増殖能を発揮した(
図2C)。
【0035】
実施例3 増殖因子の検討1
実施例1で得られた人角膜内皮細胞の増殖刺激試験を行った。ゼラチンコート24Well Plate(住友ベークライト社製 MS-0024G)に角膜内皮細胞を10,000cells/well 播種し、現在まで人角膜内皮細胞に対して増殖促進が報告されている各種増殖因子を添加した無血清培地を用いて、一週間培養した。各増殖因子については、和光純薬から購入し、濃度は20mg/mlで統一した。
結果を
図3に示す。増殖因子による角膜内皮細胞への増殖促進効果は、増殖因子無添加群(control)と比較して僅かであることが判明した。TGFβ2は顕著な増殖促進効果を示した。
【0036】
実施例4 増殖因子の検討2
実施例3において、TGFβ2の増殖促進効果が優れていたため、bFGF及びHGFをそれぞれ20ng/ml添加した無血清培地と、TGFβ2を20ng/ml添加した無血清培地で細胞形態変化を観察した。
結果を
図4に示す。HGF及びbFGF添加群では、細胞被覆率が90%を超えるのに3週間を要したが(
図4A、B)、単層であり角膜内皮様形態を保持していた。TGFβ2添加群は細胞増殖は速かったが、角膜内皮細胞の形態が繊維芽細胞状に変化し、重層化するなど、異常な形態を示した(
図4C、D)。
【0037】
実施例5 増殖因子の検討3
実施例4の方法でTGFβ2を添加して一週間培養後、0.05%トリプシン/0.02%EDTA PBS(−)溶液を用いて細胞の回収を行ったところ、分散回収が困難な事例が確認された。顕微鏡観察を行ったところ繊維芽細胞状に変化した角膜内皮に細胞外マトリックスが絡みつき、分散回収が困難になっていることが判明した(
図5)。
角膜内皮の創傷治癒時には、繊維芽細胞状に変化した角膜内皮細胞によって異常な細胞外基質(コラーゲン1型)を産生する基底膜(Posterior collagen layer : PCL)が構築され、これが創傷治癒を妨げることが報告されている本観察例はPCLに類似し、本発明に係る無血清培養条件下では、TGFβ2が異常な細胞外基質を産生させることが強く示唆された。
【0038】
実施例6 培養細胞の培養液の検討
実施例1の初代培養によって得られた培養ヒト角膜内皮細胞を用いて、継代培養における各種培養液の増殖試験を行った。
A:培地交換前(無血清培地)
B:15%FBS、bFGF 20ng/ml(control)
C:B-27、bFGF 20ng/ml
D:Albumin 12.5mg/ml、B-27、bFGF 20ng/ml
E:fatty acid free-Albumin 12.5mg/ml、B-27、bFGF 20ng/ml
fatty acid free-Albuminは、Roche社製 (Cat.No 10 775 835 001)を用い、基礎培地は全てD-MEM low glucose を使用した。B〜Eの培地について、増殖因子はbFGFを20ng/ml終濃度になるよう添加した。
ゼラチンコート24Well Plate(住友ベークライト社製 MS-0024G)に角膜内皮細胞を10,000cells/well 播種し、上記培地にそれぞれ交換し、6日間培養した。培養液は2日に1回交換した。細胞増殖率の検出は、生細胞のミトコンドリア脱水酵素によるテトラゾリウム塩 WST-1の発色に基づく定量化試験により行った。吸光度の測定はARVOマルチラベルリーダーを用いた。
結果を
図6及び7に示す。血清を含む培地(
図6B)、及び高濃度のアルブミンを含む培地(
図6D)において、細胞がよく増殖し、形態も正常であった。不純物の少ないfatty acid free-Albumin(アルブミン純度>99%、タンパク質98%)を用いた場合(
図6E)よりも、アルブミン(アルブミン純度98%、タンパク質97.5%)を用いた方が、よく増殖した。
図7に示されるとおり、本発明の無血清培地(培地D)では、血清を加えたコントロール(培地B)を100%とした場合、46%の細胞数が得られた。B-27のみ加えた場合(培地C)及びfatty acid free-Albuminを用いた場合(培地E)の細胞数は、28−29%であった。
【0039】
実施例7 マウス3T3細胞の無血清培養比較試験
マウス3T3細胞を用いて、各種培養液による増殖試験を行った。用いた培地は以下のとおりである。
A:培地交換前(無血清培地)
B:15%FBS、bFGF 20ng/ml(control)
C:B-27、bFGF 20ng/ml
D:Albumin 12.5mg/ml、B-27、bFGF 20ng/ml
E:fatty acid free-Albumin 12.5mg/ml、B-27、bFGF 20ng/ml
fatty acid free-Albuminは、Roche社製 (Cat.No 10 775 835 001)を用い、基礎培地は全てD-MEM low glucose を使用した。B〜Eの培地について、増殖因子はbFGFを20ng/ml終濃度になるよう添加した。
ゼラチンコート24Well Plate(住友ベークライト社製 MS-0024G)にマウス3T3細胞を10,000cells/well 播種し、上記培地にそれぞれ交換し、6日間培養した。培養液は2日に1回交換した。細胞増殖率の検出は、生細胞のミトコンドリア脱水酵素によるテトラゾリウム塩 WST-1の発色に基づく定量化試験により行った。吸光度の測定はARVOマルチラベルリーダーを用いた。
結果を
図8及び9に示す。マウス3T3細胞でも、血清を含む培地(
図8B)、及び高濃度のアルブミンを含む培地(
図8D)において、細胞がよく増殖し、形態も正常であった。不純物の少ないfatty acid free-Albumin(アルブミン純度>99%、タンパク質98%)を用いた場合(
図8E)よりも、アルブミン(アルブミン純度98%、タンパク質97.5%)を用いた方が、よく増殖した。
図9に示されるとおり、本発明の無血清培地(培地D)では、血清を加えたコントロール(培地B)を100%とした場合、56%の細胞数が得られた。B-27のみ加えた場合(培地C)及びfatty acid free-Albuminを用いた場合(培地E)は、細胞数は30%前後であった。
以上より、培養には血清の添加が必須とされるマウス3T3細胞も、本発明に係る無血清培地によって好適に増殖することが確認された。