(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の切削インサートの一例を示す要部の平面図である。
【
図2】
図1の切削インサートの要部の側面図である。
【
図3】
図1のIII−III線に沿った断面図である。
【
図4】
図1の切削インサートの要部の斜視図である。
【
図5】試作した切削インサートの寸法諸元を示す平面図である。
【
図6】試作した切削インサートの寸法諸元を示す側面図である。
【
図7】切屑がチップブレーカの前切れ刃側の2つのショルダー部に接した状態を示す断面図である。
【
図8】切屑がチップブレーカの他の2つのショルダー部に接した状態を示す断面図である。
【
図9A】評価試験での試作品による送りf=0.05mm/revの条件で発生した切屑を示す図である。
【
図9B】評価試験での試作品による送りf=0.10mm/revの条件で発生した切屑を示す図である。
【
図9C】評価試験での試作品による送りf=0.15mm/revの条件で発生した切屑を示す図である。
【
図10】評価試験に用いた切削インサートうち市販品A,Bのチップブレーカの概略形状を示す斜視図である。
【
図11】評価試験に用いた切削インサートのうち市販品Cのチップブレーカの概略形状を示す斜視図である。
【
図12】評価試験に用いた切削インサートのうち市販品Dのチップブレーカの概略形状を示す斜視図である。
【
図13】評価試験に用いた切削インサートのうち市販品Eのチップブレーカの概略形状を示す斜視図である。
【
図14】評価試験に用いた切削インサートのうち市販品Fのチップブレーカの概略形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面の
図1〜
図8に基づいて、この発明の切削インサートの実施の形態を説明する。
【0013】
図1〜
図4に示した切削インサート1は、前切れ刃2と、その前切れ刃に連なるすくい面3と、チップブレーカを有する。
【0014】
図2、
図3、
図4の4は前逃げ面、
図2、
図4の5は横逃げ面である。前逃げ面4と横逃げ面5は、5°〜16°程度の逃げ角を有する。
【0015】
図1、
図4の6は、上面7に設けたクランプ用のV溝である。例示の切削インサート1は、V溝6を設けた上面と切削インサートの下面(その下面にもV溝又はV字状の突起が設けられる)にバイトホルダのクランプ部を(図示せず)V字嵌合させてバイトホルダに固定するようにしているが、バイトホルダに対する固定の仕方は、これに限定されるものではない。
【0016】
前切れ刃2は、前切れ刃角が0°の刃になっている。その前切れ刃2の両端部を除く領域(幅方向中央部)は正のすくい角θ(
図3参照)を有する。そのすくい角θは、20°〜35°である。このハイレーキ設定により、ステンレス鋼のようなねばりのある金属を低送りの条件で加工するときには特に顕著な効果が発揮されて切屑の処理が良好になされる。
【0017】
すくい面3の両端部(横逃げ面に沿う領域)は、中央部よりもすくい角が小さく、強度を重視したランド部(図示の切削インサートはすくい角が0°のフラットランド)8となっている。
【0018】
さらに、ランド部8の後部(前切れ刃のある側とは反対側を後ろと考える)には、上面7に向けて湾曲して立ち上がる斜面9が連なっている。
【0019】
すくい面3の正のすくい角θが付された領域は、前切れ刃2から離反するに従ってその面の高さ位置が次第に低下しており、このために、両端のランド部8,8間、即ち、すくい面3の幅方向中央部にブレーカ溝10が作り出されている。
【0020】
そのブレーカ溝10には、前切れ刃2から遠ざかるにつれて離間距離が徐々に小さくなる対向溝側面10a,10aが含まれている。
【0021】
その対向溝側面10a,10aは、ランド部8と斜面9と上面7の各面と交差する位置までブレーカ溝10の溝底から相反する向きに傾斜して切れ上っている。
【0022】
例示の切削インサート1は、その対向溝側面10aの前切れ刃2に対するインサート平面視での傾き角α(
図1参照)が10°に設定されている。
【0023】
その傾き角αが小さすぎると切屑を絞って幅方向に湾曲させる機能が不足し、逆にその値が大きすぎると切屑の流出抵抗が大きくなって切削抵抗低減の効果が薄れる。この2つの機能をバランスさせるためには、傾き角αを5°〜13°とすることが好ましい。
【0024】
チップブレーカは、前記ブレーカ溝10に、対向溝側面10a,10aのランド部8よりも高所にある部位を互いに接近する方向に突出させる4箇所の高さ位置の揃ったショルダー部10b,10b、10c,10cを含ませて構成されている。
【0025】
計4箇所のショルダー部のうち、前切れ刃2に近い側の2つのショルダー部10b,10bは、ランド部8と斜面9と上面7が交差した位置に形成されており、その2者間の
図5に示した間隔L1は、刃幅W(これも
図5参照)の50%前後に設定されている。
【0026】
また、残りの2つのショルダー部10c,10cは、斜面9よりも後方においてブレーカ溝10に設けた逃がし部10dの溝底から切れ上った斜面とブレーカ溝10の溝幅が狭くなった箇所の溝側面と上面7とが交差した位置に形成されており、その2者間の間隔L2(
図5参照)は刃幅Wの20%前後に設定されている。
【0027】
逃がし部10dは、その部位の溝面に対して切屑が接触しないようにするために設けている。
【0028】
なお、
図5に示したショルダー部10b,10b間の間隔L1の大きさは、同じく
図5に示したランド部8の幅w、
図1に示した対向溝側面10aの前切れ刃2に対するインサート平面視での傾き角αの大きさ、前切れ刃2からショルダー部10bまでの距離などに左右される。
【0029】
例示の切削インサートにおけるショルダー部10b,10b間の間隔L1を刃幅Wの50%前後としたのは、突っ切りや溝入れ用切削インサートに採用されている一般的な寸法を適用し、ランド部8の幅を、抵抗低減のためのハイレーキ設定においても前切れ刃2の両端部の強度を十分に確保するための適正値として例えば刃幅Wの10%に設定し、この状況で上述した対向溝側面10aの傾き角αを10°程度に設定したときに自ずと定まる値であることによる。
【0030】
切削インサートの設計条件によっては、間隔L1は、上記の設定値から上下に5%程度振れることが考えられる。そのために「50%程度」と述べた。
【0031】
ショルダー部10c間の間隔L2は、ショルダー部10b間の間隔L1よりも刃幅の割合で30%程度小さくするのがよいことから、刃幅Wの20%前後とした。
この数値は、ステンレス鋼の送り:0.05mm/revと言った低送り条件での切削で生じる切屑を十分にカールさせて排出性を高め得る数値である。この数値も上下に5%程度振れることが考えられる。この数値をこれより小さくすると、切屑が過剰に拘束され、切削抵抗が高くなることが予測される。
【0032】
以上の如く構成した旋削インサート1は、突っ切り加工や溝入れ加工で生成される切屑がブレーカ溝10に導入されて凹形に湾曲するように絞り込まれる。
【0033】
その切屑は、ブレーカ溝の対向溝側面10a,10aの離間距離が前切れ刃2から遠ざかるにつれて徐々に小さくなっているので、ブレーカ溝10の終端側(奥)に行くに従って絞りの度合い(湾曲の度合い)がきつくなっていくが、流出の途中にショルダー部10bに当って持ち上げられるため、
図7に示すように、切屑Cはブレーカ溝10の溝面から浮き上がる。
【0034】
その後さらに、ブレーカ溝10の奥まで進み、ショルダー部10cに当る。このために、
図8に示すように切屑Cがさらに持ち上げられてカール力と幅方向に湾曲させる力が高められ、例えば、ステンレス鋼を低送り条件で加工したときに発生する厚みが薄くてねばりのある切屑は良好にカールする。これにより切屑は、ショルダー部よりも前切れ刃から離れた領域には接触せず、ブレーカによって過剰に拘束されることがない。また、厚みの厚い切屑は印加される複雑な歪によって細かく分断される。
【0035】
また、ショルダー部10b,10cに対して切屑が点当りになるため、切削インサートに対する切屑の擦過面積が減少し、摩擦力の上昇による切削抵抗の増加が抑えられる。
【実施例】
【0036】
〈実施例1〉
例示の形状の切削インサートを試作した。その試作品の寸法諸元は、
図5に示した刃幅W=3.0mm、すくい面の両端のランド(フラットランド)8の幅w=0.3mm、前切れ刃2からショルダー部10bまでの距離D1=2.10mm(刃幅Wの約70%)である。
【0037】
また、前切れ刃2から後方のショルダー部10cまでの距離D2=2.70mm(刃幅Wの約90%、D3=0.60mm)、ショルダー部10b,10bの間隔L1=刃幅Wの50%、ショルダー部10c,10cの間隔L2=刃幅Wの20%であり、
図6に示したショルダー部10b、10cの前切れ刃2からの高さh=0.30mmである。
【0038】
さらに、
図6に示した前切れ刃2の両端部を除く領域のすくい角θ=30°、ランド8形成部のすくい角=0°、対向溝側面の前切れ刃に対するインサート平面視での傾き角α=10°である。
【0039】
この試作品と、市販されている他社の突っ切り、溝入れ用切削インサート6種について、下記条件での加工における切削抵抗と発生する切屑の状況を調べて比較した。
【0040】
市販品の切削インサートの概要を
図10〜
図14に示す。市販品Bのチップブレーカ形状は、
図10に示した市販品Aの形状とほぼ同じである。
図11は市販品Cのチップブレーカ形状を、
図12は市販品Dのチップブレーカ形状を、
図13は市販品Eのチップブレーカ形状を、
図14は市販品Fのチップブレーカ形状をそれぞれ示している。ここに挙げた市販品A〜Fには、4箇所のショルダー部は存在しない。
【0041】
その評価試験の結果(各切削インサートの主分力と背分力)を表1にまとめる。この評価試験での主分力と背分力は、工具動力計を使用して測定した。
【0042】
・切削条件 被削材:SUS316(外径φ30mm丸棒)
加工方法:突っ切り及び溝入れ
切削速度Vc=80m/min
送り f=0.05mm/rev,f=0.10mm/rev,f=0.15mm/rev
加工形態:湿式
【0043】
【表1】
【0044】
試作品によって生成された切屑を
図9A〜
図9Cに示す。
図9Aは、送りf=0.05mm/revの条件での加工において発生した切屑、
図9Bは、送りf=0.10mm/revの条件での加工において発生した切屑、
図9Cは、送りf=0.15mm/revの条件での加工において発生した切屑である。
【0045】
市販品による切屑は、送りf=0.05mm/revの条件での切削では市販品Dを除く5品は切屑の分断がなされず、カールの状況も不規則であり、工具に絡み易く、加工面を傷付ける懸念があるような形状になっていた。
【0046】
これに対し、試作品の切屑は、加工の初期に折れずに規則的にカールしたものが少し発生し、その後のものは細かく分断された(
図9A参照)。
【0047】
市販品Dの切屑は、加工の初期に試作品よりもカール径の大きなものが折れずに発生し、その後のものは分断されたが、分断されたものはゼンマイ状になってサイズが試作品のものよりも大きかった。
【0048】
また、送りf=0.10mm/revの条件での切削では、市販品D、E、Fについては、加工の初期に折れずに延びだした切屑が発生した。これに対し、試作品の切屑は、加工の初期から細かく分断された(
図9B参照)。また、分断された切屑のサイズは、全ての市販品よりも小さかった。
【0049】
さらに、送りf=0.15mm/revの条件での切削では、試作品については、加工の初期に折れずに十数回カールした切屑が発生したが、その後の切屑は細かく分断されて各市販品とさほど差の無いサイズの切屑であった(
図9C参照)。
【0050】
<実施例2>
傾き角αの影響を調べるために、表2に示す形状の切削インサートを試作した。その他の寸法諸元は、実施例1で用いたものと同じとした。
【0051】
【表2】
【0052】
その評価試験の結果(各切削インサートの主分力と背分力)を表3にまとめる。この評価試験での主分力と背分力は、工具動力計を使用して測定した。評価試験の条件は以下の通りである。
【0053】
・切削条件 被削材:SUS316(外径φ30mm丸棒)
加工方法:突っ切り及び溝入れ
切削速度Vc=70m/min
送り f=0.05mm/rev,f=0.10mm/rev,f=0.15mm/rev
加工形態:湿式
【0054】
【表3】
【0055】
試作品Iでは、送りf=0.05mm/revの条件のときに加工の初期に折れずに延びだした切屑が発生したが、送りf=0.15mm/revの条件のときは発生せず、切
り屑の大半がカール径10mm程度のゼンマイ状となった。
【0056】
また、試作品II、III、IV、Vによる切屑は、いずれの加工条件でも加工の初期に折れずに延びだした切屑が発生せず、切り屑の大半がカール径の小さなゼンマイ状となった。なお、発明例Eでは、送りf=0.15mm/revの条件のときに、ブレーカを乗り越えた切り屑が発生し、温度上昇により変色した長い切屑が散見された。
【0057】
この評価試験結果からわかるように、この発明の切削インサートは、ステンレス鋼のようなねばりのある金属を低送りの条件で加工したときにも切屑の処理が良好になされ、また、切削抵抗が、広範な送り条件において従来品よりも低減される。
【0058】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。