【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先導的産業技術創出事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一方の部材と他方の部材は、ギャップを形成する面として平面を有する上臼と下臼であり、ギャップに通じる原料投入口からセルロース含有原料をギャップに投入して剪断力を与えて粉砕し、得られた非晶化セルロースを含む粉体をギャップの側方から回収する請求項1から5のいずれかに記載の非晶化セルロースの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、上臼と下臼の間のギャップにセルロース含有原料を投入し、これらの相対回転によって剪断力を与えて粉砕することで、セルロースを短時間で非晶化(アルファ化)させる非特許文献1の技術を詳細に検討した。単にギャップを設けて剪断粉砕しても、非晶化は起こりにくい。ところが、ギャップを形成する面の構造の詳細や、回転駆動するパワー等の因子との相関について検討を進めたところ、非晶化が起こるのに適した条件を見出し本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明において、セルロース含有原料としては、ヒノキ、スギ、ブナ、竹などの木質材などを用いることができ、紙や草などのいわゆるソフトセルロースも用いることができる。
【0024】
また、セルロース含有原料としては、セルロース単体、例えば市販の結晶性セルロースも用いることができる。市販の結晶性セルロースのセルロースI型結晶化度は、通常80%以上である。なお、ここでセルロースI型結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したもので、次式により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I 22.6−I 18.5)/I 22.6〕×100
ここでI 22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I 18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
【0025】
本発明で用いるセルロース含有原料のセルロースI型結晶化度は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。本発明によればこのような結晶性の高いセルロース含有原料の結晶化度を大幅に低減することができる。
【0026】
これらのセルロース含有原料の形態は、特に限定はなく、チップ状、繊維状、粒状、粉末状など各種形態のものが使用できる。セルロース含有原料として木質片を用いる場合、その大きさとしては、例えばチップ状のものの場合で2〜5mm角が好ましい。これにより粉砕を効率良く容易に行うことができる。
【0027】
本発明に用いられるセルロース含有原料は、水を除いた残余の成分中のセルロース含有量(セルロースおよびヘミセルロースの合計量)が好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。このような範囲のものを用いると非晶化セルロールを効率良く製造することができる。
【0028】
セルロース含有原料中の水分含有量は、0.5〜20質量%が好ましい。セルロース含有原料中の水分含有量がこの範囲内であれば、容易に粉砕できるとともに、粉砕処理によりセルロース結晶化度を容易に低下させることができる。
【0029】
なお、原料から水を除く方法としては、特に限定はなく、例えば、真空乾燥やドライエアーによる乾燥などを適用することができる。
【0030】
本発明では、ギャップを介して相対回転する一方の部材と他方の部材とを用いて、セルロース含有原料をギャップに投入し剪断力を与えて粉砕し、セルロースを非晶化する。
【0031】
図1は、本発明の方法に用いられる一方の部材と他方の部材の一部を模式的に示した図であり、(a)は縦断面図、(b)はギャップを形成する面において一方の部材と他方の部材の歯が交差して格子を形成した状態を示した図である。
図2は、粉砕部とその内半径R
1および外半径R
2を説明する図である。
【0032】
この例では一方の部材Aとして上臼2、他方の部材Bとして下臼3を用いている。後述のように一方の部材Aは固定され、他方の部材Bはモータによる駆動によって回転するようになっている。
【0033】
図1(a)に示すように、一方の部材Aは、間隔Δのギャップ4を形成する面21に、一方の部材Aと他方の部材Bとの相対回転の円周方向と交わる方向にピッチPの間隔で平行に延びる多条の歯24が溝25を介して設けられている。
【0034】
他方の部材Bも、ギャップ4を形成する面31に、一方の部材Aと他方の部材Bとの相対回転の円周方向と交わる方向にピッチPの間隔で平行に延びる多条の歯34が溝35を介して設けられている。
【0035】
図1(b)に示すように、一方の部材Aの歯24と他方の部材Bの歯34は、ギャップ4を形成する面において交差してピッチPの格子を形成している。
【0036】
このピッチPの格子は、例えば、平行四辺形であり、平行四辺形の角度は、鋭角が好ましくは45度以上90度未満、より好ましくは50〜80度の範囲内である。
【0037】
格子のピッチPは、好ましくは0.5〜5mmの範囲内である。ここで一方の部材Aと他方の部材BのピッチPは、次のように定義される。一方の部材Aと他方の部材Bのピッチが等しい場合はこれをピッチPとし、異なる場合は、短い方をピッチP
1とし、長い方のピッチP
2とし、P=(P
1P
2)
1/2とする。ピッチP
2は、ピッチP
1の1.5倍以内、好ましくは1.2倍以内、より好ましくは1.1倍以内である。
【0038】
そして他方の部材Bにトルクを伝達して回転させるモータを駆動して、ギャップ4を介してこれらを相対回転させ、このギャップ4にセルロース含有原料を投入する。
【0039】
ギャップ4に投入されたセルロース含有原料は、
図2の粉砕部20、すなわち一方の部材Aと他方の部材Bとの相対回転によって剪断が行われる領域にて粉砕される。
(実施形態1:スケールパラメータS
p1)
そして次のスケールパラメータS
p1が2以上、かつギャップ4が10μm以下の条件で剪断力を与えて粉砕すると、セルロースの結晶化度を大幅に低減することができる。
【0041】
ここでW
*はモータの消費電力(W)、Pは格子のピッチ(mm)、ωは相対回転の回転数(rpm)を示す。
【0042】
スケールパラメータS
p1におけるセルロースの非晶化との技術的な相関について以下に説明する。
【0043】
粉(セルロース含有原料)の粘性に対してなされる単位時間あたりの仕事量をWとする。このWに、上臼2の歯24と下臼3の歯34が形成する格子模様の格子の密度を積算したものが、実際に必要とされ測定されるパワーW*であると仮定する。格子の密度をP
-2で評価することにより、次のようになる。
【0046】
そしてセルロースの非晶化は、粉になされる総仕事量W
totが因子になると推定される。この総仕事量W
totは、パワーW*と粉の滞留時間tとの積に比例する。
【0047】
粉の滞留時間tはピッチPを短くすると大きくなり、これがP
-2に比例すると仮定する。さらに、tは回転数ωにも依存する。その依存性をω
-1とすると、粉になされるトータルの仕事、すなわち、非晶化のために粉になされる総仕事量W
totは、次のようになる。
【0050】
このように、未知の比例定数C
2が装置によって大きく変動しないと仮定すると、前記のスケールパラメータS
p1は非晶化の制御と相関している。
【0051】
そしてギャップが10μm以下であると、粉砕中に消費電力による負荷が十分に掛かり、非晶化することができる。
【0052】
スケールパラメータS
p1は、2以上で上限は特に限定されないが、電力消費を抑える点などを考慮すると、2〜20の範囲内が好ましい。
【0053】
(実施形態2:スケールパラメータS
p2)
また次のスケールパラメータS
p2が300以上、かつギャップ4が10μm以下の条件で剪断力を与えて粉砕すると、セルロースの結晶化度を大幅に低減することができる。
【0055】
ここでW
*はモータの消費電力(W)、R
2は粉砕部の外半径(m)、R
1は相対回転の中心から粉砕部までの内半径(m)、ωは相対回転の回転数(rpm)を示す。
【0056】
スケールパラメータS
p2におけるセルロースの非晶化との技術的な相関について以下に説明する。
【0057】
粉砕部(臼)の面積要素dSを占める粉(セルロース含有原料)が受ける力
dσが、
【0059】
で与えられると仮定する。ただし、
ηは見かけの粘度、rは極座標表示における原点からの距離である。極座標表示における角度を
θとすると、dS=r d
θdrである。
ηはピッチPを短くすると大きくなり、
ηがP
-2に比例すると仮定すれば、面積要素dSを占める粉が単位時間に受ける仕事dWは、
【0061】
となる。ただし、C
3は比例定数である。単位時間に臼がする仕事W
*は臼上でdWを積分することにより、
【0063】
となる。これが実際に必要とされ測定されるパワーW*であると仮定する。
【0064】
そしてセルロースの非晶化は、臼上の面積要素dSを占める粉が臼の内周から外周に向けて移動する際になされる総仕事量W
totが因子になると推定される。W
totは、粉が受ける力と、移動する距離の積となるため、
【0066】
となる。これらの式を比較すると、総仕事量W
tot は、実際に測定されるパワーW*によって、
【0068】
で表される。ただしC
4は比例定数である。
【0069】
このように、未知の比例定数C
4が装置によって大きく変動しないと仮定すると、前記のスケールパラメータS
p2は非晶化の制御と相関している。
【0070】
そしてギャップが10μm以下であると、粉砕中に消費電力による負荷が十分に掛かり、非晶化することができる。
【0071】
スケールパラメータS
p2は、300以上で上限は特に限定されないが、電力消費を抑える点などを考慮すると、300〜3000の範囲内が好ましい。
【0072】
上記の実施形態1および実施形態2において、相対回転の回転数ωは、好ましくは50〜380rpm、より好ましくは50〜190rpmである。このような範囲内にすると、ギャップ4に投入されたセルロース含有原料が固定の上臼2と回転する下臼3との間で受ける剪断速度を適切なものとすることができる。
【0073】
剪断処理の時間は、特に限定されないが、結晶化度を低下させる観点から、例えば0.01〜10hrで剪断処理を行うことができる。しかしながら、本発明では特許文献1、2のようなボールミルなどを用いた技術に比べても著しく短い処理時間で剪断処理を行うことができ、典型的には10〜60秒程度で行うことができる。
【0074】
本発明により得られる非晶化セルロースの結晶化度は、工業材料などの利用を考慮すると、50%未満が好ましく、45%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。
【0075】
本発明により得られる非晶化セルロース含有の粉砕物の平均粒径は、例えば10〜40μmである。
【0076】
また本発明の粉砕処理を行った非晶化試料は、未処理や加熱粉砕の試料と比較し、明らかに糖化特性が向上する。従って、本発明の粉砕処理を行った非晶化試料は、バイオエタノールを製造する上で重要な糖化特性にも優れている。従来の糖化はセルロースを有機溶媒などで処理することでセルロースの結晶化度を低減させ、糖化性を上げているが、本発明の非晶化技術は、温度制御された条件下で粉砕するだけで糖化性を向上させることもできる。
【0077】
本発明により得られる非晶化セルロースは、バイオエタノール、食品、プラスチック添加剤など、幅広い産業分野においての利用が期待できる。
【0078】
図3は、本発明の方法を実施するためのセルロース非晶化装置の一例を模式的に示した図(上が上面図、下が側面図)、
図4は、
図3のセルロース非晶化装置の臼の部分の縦断面図である。
【0079】
このセルロース非晶化装置1は、固定設置される上臼2(一方の部材A)と、この上臼2との間に所定のギャップ4を介して回転可能に設けられる下臼3(他方の部材B)とを有する。これらの上臼2と下臼3は、
図1の一方の部材Aと他方の部材Bに相当する。
【0080】
上臼2は中心にセルロース含有原料を投入する原料投入口5を有してリング状に形成されている。原料投入口5は、上臼2の底面においてギャップ4に通じている。下臼3は上臼2と略同一の外径を有する円盤形状に形成されている。
【0081】
下臼3はモータ40により所定速度で回転駆動される。コンピュータ60はモータ制御ケーブル41を介してモータ制御信号をモータ40に与え、モータ40による下臼3の回転数を制御する。上臼2と下臼3との間のギャップ4はギャップ調整部7によって調整可能であり、セルロース含有原料や処理後に得るべき所望の粉体の大きさなどに応じて10μm以下の範囲内で設定することができる。
【0082】
上臼2と下臼3の材料は、特に限定されないが、金属などの熱伝導性の良い材料を用いると温度制御が容易になる。
【0083】
図4に示すように、上臼2は、原料投入口5に臨む内面22から底面(
図1のギャップ4を形成する面)21に至る原料通路23が断面視においてテーパ状、平面視においては螺旋状に形成されている。
【0084】
原料投入口5の下端部には、テーパ状の原料通路23によって拡大された収容部6が形成されているので、原料投入口5に投入されたセルロース含有原料はギャップ4に入り込んで剪断粉砕される直前にこの収容部6に入り込み、上臼2からの伝熱によって加熱または冷却される。
【0085】
なお、粉砕部20の外半径R
2および相対回転の中心から粉砕部20までの内半径R
1は
図4に示す範囲が相当する。
【0086】
図1(a)に示すように、上臼2の底面である間隔Δのギャップ4を形成する面21には、一方の部材Aと他方の部材Bとの相対回転の円周方向と交わる方向にピッチPの間隔で平行に延びる多条の歯24が溝25を介して設けられている。
【0087】
下臼3の上面であるギャップ4を形成する面31には、一方の部材Aと他方の部材Bとの相対回転の円周方向と交わる方向にピッチPの間隔で平行に延びる多条の歯34が溝35を介して設けられている。
【0088】
図1(b)に示すように、一方の部材Aの歯24と他方の部材Bの歯34は、ギャップ4を形成する面において交差してピッチPの格子を形成している。
【0089】
なお、上臼2のギャップ4を形成する面21と下臼3のギャップ4を形成する面31は、剪断粉砕により得られた非晶化セルロースを含む粉体をギャップ4の側方から容易に回収することなどを目的として、中心からギャップ4の側方に向けてやや下方に傾斜していてもよい。
【0090】
上臼2と下臼3の下方には、これらの外径より十分に大きな内径を有する受け皿8が設けられている。受け皿8の底面には落下口9が開口しており、このセルロース非晶化装置1による処理後の非晶化セルロースを受け皿8から落下させ、さらに落下シュート10を経て所定の容器(図示せず)などに収容させるようにしている。
【0091】
このセルロース非晶化装置1による剪断粉砕時の温度は、次のような温度制御手段によって制御することができる。例えば、上臼2と略同一の外径寸法を有すると共に原料投入口5と略同径の開口を有するリング状に形成されたヒータ50を用いて、温度コントローラにより設定された温度に上臼2を加熱することができる。また、臼内に不図示の恒温槽により温度制御された水または不凍液を循環させることで、上臼2を除熱または冷却することができる。
【0092】
また、臼部を高精度に温度制御するために、上臼2に設けられたヒータ50に代えて、ほぼ同形状(リング状)のペルチェ素子を設置することでペルチェ式の温度制御装置を構成することができ、これにより例えば-20℃から120℃まで高精度な温度制御が可能となる。
【0093】
次に、このセルロース非晶化装置1を用いて行うセルロース非晶化処理について説明する。まず、ギャップ調整部7を介して上臼2と下臼3との間のギャップ4を、セルロース含有原料や処理後の粉砕物の大きさなどに応じて適宜に調整する。
【0094】
また、前記したような温度制御手段によって、その熱伝導によって上臼2を温度制御する。例えば、セルロース含有原料を-5〜40℃の温度条件下で剪断力を与えて粉砕することで、セルロースを非晶化(アルファ化)することができる。
【0095】
そしてコンピュータ60によって制御された回転数で、電力によりモータ40が駆動され、所定の剪断速度を与えるように下臼3を回転させる。
【0096】
次に、セルロース含有原料を原料投入口5に投入して処理を開始する。セルロース含有原料は原料投入口5を通過し、さらに原料通路23から収容部6までを通過する間に前記したような温度制御手段による設定温度に制御され、その直後に、下臼3との間のギャップ4に送り込まれ、固定した上臼2と回転する下臼3との間で剪断力を受けて粉砕される。
【0097】
剪断粉砕によって得られた非晶化セルロースを含む粉体は、ギャップ4の側方から放出されて受け皿8に収容され、落下口9および落下シュート10を経て所定の容器(図示せず)に回収される。
【0098】
以上に、実施形態に基づき本発明について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0099】
例えば、
図3および
図4の実施形態では、一方の部材と他方の部材が、ギャップを形成する面として平面を有する上臼と下臼であり、ギャップに通じる原料投入口からセルロース含有原料をギャップに投入して剪断力を与えて粉砕し、得られた非晶化セルロースを含む粉体をギャップの側方から回収する装置構成を示したが、
図3および
図4に示す装置構成は本発明の方法を実施するために使用し得る一例にすぎず、本発明の方法を実施することができるものであれば他のいかなる装置を使用してもよい。
【0100】
例えば、装置的に制御された回転数で定常的に相対回転する一方の部材と他方の部材を用いて、ギャップを形成する面に、ピッチPの格子を形成する多条の歯を設け、これらの部材の間のギャップに導入したセルロース含有原料に剪断力を付与する構成であれば、スケールパラメータS
p1、S
p2とギャップを特定の範囲内にすることで効率の良い非晶化が可能となる。例えば、一方の部材と他方の部材として、
図3および
図4の実施形態で使用した臼の他、同心で配置した小径の円筒形または円柱形部材と大径の円筒形部材等を用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1〜3、比較例1〜3>
セルロースの非晶化については、剪断粉砕後のサンプルの広角X線回折の測定結果を指標として評価し、
図5に示すように、結晶に由来する複数の回折ピークが現れない場合は○、結晶に由来する複数の回折ピークが現れる場合は×として評価した。
【0102】
剪断粉砕後のサンプルのX線回折強度は、株式会社リガク製の「RINTRAPID」を用いて以下の条件で測定した。
X線源:Cu/Kα-radiation
管電圧:40kV
管電流:30mA
照射時間:1200s
ヒノキの木片や、市販の高純度結晶性セルロース繊維(レッテンマイヤー社製B600、結晶化度85〜87%)を原料に用いて、
図1〜
図4に示した構成のセルロース非晶化装置1を用いて剪断処理を行った。
【0103】
使用したセルロース非晶化装置1において、上臼2、下臼3はいずれも外径寸法が90mm(半径45mm)であり、その中心に口径34mmの原料投入口5を有する。
【0104】
上臼2のテーパ状の原料通路23は内面22から30mmの範囲に亘って形成されている(
図4)。
【0105】
臼間のギャップ4は10μmに設定し、粉砕温度10℃で剪断処理を行った。下臼3の回転数はモータ電力に応じて50〜400rpmとし、上臼2と下臼3のピッチPは2mmとした。
【0106】
モータの電力W*は、電圧Vと電流Iより次式から算出した。
【0107】
【数12】
【0108】
なお、力率cosθは、80%(0.8)として計算した。ここでVは3相モータの1つのリード線の電圧を交流電圧計またはそれと同等のものにて測定した値、Iは3相モータの1つのリード線の電流を交流電圧計またはそれと同等のものにて測定した値である。各電圧および電流の測定には、GOOD WILL INSTRUMENT社製GDN8255Aを用いた。
【0109】
原料投入口より1回で投入するセルロース含有原料の量を0.6〜0.7g程度、1分当たりの投入回数を6〜7回とし、これにより1時間当たりの投入量を216g〜294gとした。
【0110】
スケールパラメータS
p1と非晶化の程度の結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1より、スケールパラメータS
p1が2未満の条件で剪断粉砕を行った比較例1〜3では、回折ピークに大きな変化は見られず未処理の場合と同様の高い結晶性を示した。ところが、スケールパラメータS
p1が2以上の条件で剪断粉砕を行った実施例1〜3の条件では、回折ピークが著しく減少し低結晶性を示すことが分かった。
【0113】
以上より、スケールパラメータS
p1が2以上で粉砕することによりセルロース結晶化度を著しく減少できることが分かった。
<実施例4、5、比較例4〜7>
下臼の回転数を実施例3と同様に180rpmに設定し、臼間のギャップは0〜50μmの範囲で設定した。それ以外は実施例3と同様の条件にて粉砕処理を行った。
【0114】
スケールパラメータS
p1と非晶化の程度の結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2において、ギャップが0、10μm、50μmのものについては、前記の広角X線回析の測定結果から非晶化の程度を確認している。その他、すなわち20〜40μmについては、見た目で粉砕中に負荷が掛からず排出されていると判断されたため、非晶化の程度は、未処理のものと同じ×とした。
【0117】
表2より、ギャップを10μm以下にすることでセルロース含有原料に十分な負荷が掛かるようになり、スケールパラメータS
p1を2以上とした条件においてセルロース結晶化度を著しく減少できることが分かった。
【0118】
以上のように、ギャップを形成する面に、相対回転の円周方向と交わる方向に平行に延びる多条の歯を設け、ギャップを形成する面において上臼と下臼の歯を互いに交差させてピッチPの格子を形成するようにし、そして粉の粘性に対してなされる仕事量と相関するスケールパラメータS
p1と、粉に負荷を与えるためのギャップを特定の範囲内にすることで、セルロースの非晶化が可能になることが分かった。
<実施例6〜9、比較例8〜9>
セルロースの非晶化については、剪断粉砕後のサンプルの広角X線回折の測定結果を指標として評価し、
図5に示すように、結晶に由来する複数の回折ピークが現れない場合は○、結晶に由来する複数の回折ピークが現れる場合は×として評価した。
【0119】
剪断粉砕後のサンプルのX線回折強度は、株式会社リガク製の「RINTRAPID」を用いて以下の条件で測定した。
X線源:Cu/Kα-radiation
管電圧:40kV
管電流:30mA
照射時間:1200s
ヒノキの木片や、市販の高純度結晶性セルロース繊維(レッテンマイヤー社製B600、結晶化度85〜87%)を原料に用いて、
図1〜
図4に示した構成のセルロース非晶化装置1を用いて剪断処理を行った。
【0120】
使用したセルロース非晶化装置1において、上臼2、下臼3はいずれも外径寸法が90mm(半径45mm)であり、その中心に口径34mmの原料投入口5を有する。
【0121】
上臼2のテーパ状の原料通路23は内面22から30mmの範囲に亘って形成されている(
図4)。
【0122】
粉砕部20の外半径R
2は45mm、相対回転の中心から粉砕部20までの内半径R
1は20mmである。
【0123】
臼間のギャップ4は10μmに設定し、粉砕温度10℃で剪断処理を行った。下臼3の回転数はモータ電力に応じて50〜400rpmとし、上臼2と下臼3のピッチPは2mmとした。
【0124】
ここで、W*は、3相モータに対し日置電機株式会社製 パワーメータ PW-3337を直接測定ラインに接続して測定した。
【0125】
原料投入口より1回で投入するセルロース含有原料の量を0.6〜0.7g程度、1分当たりの投入回数を6〜7回とし、これにより1時間当たりの投入量を216g〜294gとした。
【0126】
スケールパラメータS
p2と非晶化の程度の結果を表3に示す。
【0127】
【表3】
【0128】
表3より、スケールパラメータS
p2が300未満の条件で剪断粉砕を行った比較例1〜3では、回折ピークに大きな変化は見られず未処理の場合と同様の高い結晶性を示した。ところが、スケールパラメータS
p2が300以上の条件で剪断粉砕を行った実施例1〜3の条件では、回折ピークが著しく減少し低結晶性を示すことが分かった。
【0129】
以上より、スケールパラメータS
p2が300以上で粉砕することによりセルロース結晶化度を著しく減少できることが分かった。
<実施例10、比較例10〜13>
下臼の回転数を実施例8と同様に180rpmに設定し、臼間のギャップは0〜50μmの範囲で設定した。それ以外は実施例8と同様の条件にて粉砕処理を行った。
【0130】
スケールパラメータS
p2と非晶化の程度の結果を表4に示す。
【0131】
【表4】
【0132】
表4において、ギャップが10μmまたはそれ以下の臼目盛りのものについては、前記の広角X線回析の測定結果から非晶化の程度を確認している。その他、すなわち20〜50μmについては、見た目で粉砕中に負荷が掛からず排出されていると判断されたため、非晶化の程度は、未処理のものと同じ×とした。
【0133】
表4より、ギャップを10μm以下にすることでセルロース含有原料に十分な負荷が掛かるようになり、スケールパラメータS
pを300以上とした条件においてセルロース結晶化度を著しく減少できることが分かった。
【0134】
以上のように、ギャップを形成する面に、相対回転の円周方向と交わる方向に平行に延びる多条の歯を設け、ギャップを形成する面において上臼と下臼の歯を互いに交差させてピッチPの格子を形成するようにし、そして粉の粘性に対してなされる仕事量と相関するスケールパラメータS
p2と、粉に負荷を与えるためのギャップを特定の範囲内にすることで、セルロースの非晶化が可能になることが分かった。