(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206861
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】耐水性珪酸ソーダ発泡体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/32 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
C01B33/32
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-27190(P2012-27190)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163612(P2013-163612A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年2月6日
【審判番号】不服2016-6856(P2016-6856/J1)
【審判請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】室谷 正彰
【合議体】
【審判長】
豊永 茂弘
【審判官】
後藤 政博
【審判官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−217280(JP,A)
【文献】
特開平11−228252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 - 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸ソーダ発泡体をアルコール、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤(但し、有機溶剤が有機珪素化合物を含有する場合を除く)と接触させることにより表面処理を行う、耐水性珪酸ソーダ発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、イソブチルアルコール、tert−ブタノール、2−ブタノール、1−ブタノール、イソプロピルアルコール及び1−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールは、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、イソブチルアルコール、tert−ブタノール、2−ブタノール、1−ブタノール、イソプロピルアルコール及び1−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記接触は、浸漬、噴霧又は塗布である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性珪酸ソーダ発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅建材用断熱材、工業用断熱材、吸音材、触媒担体、濾過材等の分野で無機系発泡体が使用されている。無機系発泡体としては、具体的には、珪酸ソーダ(水ガラス)発泡体が知られており、特に過酸化水素を発泡剤として用いた発泡体が知られている(特許文献1〜4等)。
【0003】
例えば、特許文献1には、過酸化水素を発泡剤として用いた珪酸ソーダ発泡体の基本的発明として、「水ガラス100重量部(固形分に換算して)に、繊維状物質25〜100重量部、過酸化水素水1〜30重量部(60重量%溶液に換算して)、および適量の水ガラス用硬化剤を加えて発泡させることを特徴とする、水ガラス発泡体の製造方法。」の発明が記載されている。過酸化水素を用いることにより、発泡体のセルを微細化及び独立化することができるため、発泡体内での気体の対流を防止し、断熱性等を高められることが知られている。そして、このような珪酸ソーダ発泡体は、ポリウレタンフォームやポリスチレンフォーム等の有機発泡体と比べて不燃な点で有用であり、また、発泡コンクリートや泡ガラス等の他の無機発泡体と比べてオートクレーブ養生や高温加熱処理等の煩雑な工程が不要な点で有用であるとされている。
【0004】
しかしながら、従来の珪酸ソーダ発泡体は耐水性が不十分であり、水分と接触する場所で使用すると発泡体が溶解するという問題がある。そのため、耐水性が改善された珪酸ソーダ発泡体の開発が望まれているが、現状、優れた耐水性を持つものは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58-99156号公報
【特許文献2】特開昭58-99157号公報
【特許文献3】特開平08-73283号公報
【特許文献4】特開平08-268774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐水性珪酸ソーダ発泡体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、珪酸ソーダ発泡体を特定の有機溶剤を用いて表面処理する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の耐水性珪酸ソーダ発泡体及びその製造方法に関する。
1.珪酸ソーダ発泡体をアルコール、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤
(但し、有機溶剤が有機珪素化合物を含有する場合を除く)と接触させることにより表面処理を行う、耐水性珪酸ソーダ発泡
体の製造方法。
2.
前記アルコールは、メタノール、エタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、イソブチルアルコール、tert−ブタノール、2−ブタノール、1−ブタノール、イソプロピルアルコール及び1−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
3.
前記アルコールは、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、イソブチルアルコール、tert−ブタノール、2−ブタノール、1−ブタノール、イソプロピルアルコール及び1−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
4.前記接触は、浸漬、噴霧又は塗布である、項
1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0009】
以下、本発明の高モル比珪酸ソーダ及びその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明の耐水性珪酸ソーダ発泡体は、珪酸ソーダ発泡体をアルコール、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤を用いて表面処理することにより得ることを特徴とする。
【0011】
上記特徴を有する本発明の耐水性珪酸ソーダ発泡体は、特定の有機溶剤を用いて珪酸ソーダ発泡体の表面処理を行うことにより、珪酸ソーダ発泡体の耐水性が向上している。このような本発明の耐水性珪酸ソーダ発泡体は、水分と接触する場所で使用しても発泡体の溶解が抑制されており、従来品よりも幅広く多用途に適用することができる。また、特定の有機溶剤による表面処理という簡便な製造方法により得られる点でも有用性が高い。
【0012】
表面処理の対象となる珪酸ソーダ発泡体は限定されず、従来公知の珪酸ソーダ発泡体が広く適用できる。例えば、珪酸ソーダに発泡剤としての過酸化水素を加えて発泡・硬化することにより得られる公知の珪酸ソーダ発泡体が広く適用できる。
【0013】
上記珪酸ソーダ発泡体において、珪酸ソーダとしては、例えば、SiO
2/Na
2Oで表されるモル比が3.1〜5.2であり、且つ、SiO
2濃度が17〜30質量%のものが好ましく、3号水ガラス、5号水ガラスと称されるものが広く使用できる。過酸化水素としては、1重量%溶液の過酸化水素水に換算して珪酸ソーダ(固形分)100重量部に対して90〜360重量部程度添加することが望ましく、160〜200重量部程度添加することがより好ましい。また、珪酸ソーダ発泡体には、必要に応じて公知の繊維状物質、珪酸ソーダ用硬化剤、発泡促進剤(過マンガン酸カリウムなどの過酸化水素分解剤)等を添加することができる。なお、珪酸ソーダ発泡体の組成は具体的な用途に応じて適宜設定できる。
【0014】
本発明では、珪酸ソーダ発泡体をアルコール、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤を用いて表面処理することにより耐水性珪酸ソーダ発泡体を得る。
【0015】
表面処理の方法は限定的ではなく、上記有機溶剤に珪酸ソーダ発泡体を浸漬する方法、珪酸ソーダ発泡体に上記有機溶剤を塗布又は噴霧する方法等が挙げられる。この中でも、浸漬による方法が好ましく、特に圧力を加えて浸漬することにより発泡体の孔内も十分に表面処理することができる。浸漬処理の場合には、4〜10日間浸漬することが好ましく、6〜8日間浸漬することがより好ましい。また、溶媒中に浸漬した状態で減圧(10Torr以下)し、20〜30時間程度で表面処理することが好ましい。
【0016】
有機溶剤としては、アルコール、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン及びヘキサンの少なくとも1種を用いる。これらの有機溶剤の中でもアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、イソブチルアルコール、tert−ブタノール、2−ブタノール、1−ブタノール、イソプロピルアルコール及び1−プロパノールの少なくとも1種が好ましい。これらの炭素数1〜8のアルコールの中でも炭素数3〜8のアルコールが好ましい。
【0017】
有機溶剤で表面処理後は、必要に応じて乾燥処理を行う。乾燥条件は限定的ではないが、例えば、80〜160℃で6〜24時間が好ましく、100〜120℃で8〜14時間がより好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の耐水性珪酸ソーダ発泡体は、特定の有機溶剤を用いて珪酸ソーダ発泡体の表面処理を行うことにより、珪酸ソーダ発泡体の耐水性が向上している。このような本発明の耐水性珪酸ソーダ発泡体は、水分と接触する場所で使用しても発泡体の溶解が抑制されており、従来品よりも幅広く多用途に適用することができる。また、特定の有機溶剤による表面処理という簡便な製造方法により得られる点でも有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】試験例1の結果(耐水性試験後の発泡体の残存率)を示す図である。
【
図2】実施例1〜15及び比較例1で作製した各試験体の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
下記に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0021】
実施例1〜15及び比較例1
(珪酸ソーダ発泡体の製造)
1重量%過酸化水素水:50mlと3号珪酸ソーダ(SiO
2/Na
2Oで表されるモル比が3.2程度):50mlとを混合して金型に充填した。
【0022】
次いで110℃で2時間乾燥して水分を除去した後、400℃で20分焼成することにより金型中で発泡させて珪酸ソーダ発泡体を得た。
(珪酸ソーダ発泡体の表面処理)
珪酸ソーダ発泡体(16個)をそれぞれ、下記表1に示す有機溶剤中に7日間浸漬後、110℃で12時間乾燥することにより表面処理した珪酸ソーダ発泡体を得た。
【0023】
なお、比較例1は表面処理を行っていない。
【0024】
試験例1(耐水性試験)
実施例1〜15及び比較例1の試験体をそれぞれ耐水性試験に供した。
【0025】
具体的には、イオン水を入れたタッパを用意し、各試験体をイオン水に浸漬して収容し、スターラーで撹拌した。次いで110℃で24時間乾燥した後、耐水性試験前後の試験体の重量を測定した。発泡体の残存率を下記表1及び
図1に示す。なお、
図1の最下欄の「H
2O
2 1%」は比較例1の試験体であることを示している。
(考 察)
表1及び
図1の結果から明らかなように、実施例1〜15の試験体は、比較例1の試験体と比較して顕著に耐水性が向上している。特に実施例1〜13の試験体は、88重量%以上の残存率を示しており、耐水性が極めて高くなっている。なお、本発明の表面処理で耐水性が顕著に向上する理由は次の通りと考えられる。
【0026】
図2の比較例1の赤外吸収スペクトルでは、約520cm
−1にSi−O−Siシロキサン骨格のネットワーク振動と1255cm
−1にSi−O−Siの逆対称伸縮振動とが示されている。また、1380cm
−1から1420cm
−1にC−H伸縮振動が示されている。これらの吸収が比較例1の試験体の特徴的な吸収である。なお、比較例1の赤外吸収スペクトルにC−Hのピークが認められるのは試験体作製時に利用している高分子フィルムやグリースに由来するものと考えられる。
【0027】
メタノール処理では上記3つの特徴的なピークが認められ、比較例1と類似している。しかしながら、IPA処理では、Si−O−Siの逆対称伸縮振動の強度が大幅に減少し、代わりにC−H伸縮振動の吸収が増大している。tert−ブタノール処理と1−ペンタノール処理についても顕著ではないが、IPA処理と同様の傾向が認められる。このように、メタノール処理とエタノール処理を除くと、IPA処理のスペクトルで認められるようにSi−O−Siの吸収強度が減少し、C−H伸縮振動の吸収強度の増大が耐水性の発現に寄与しているものと推測される。即ち、アルコール処理は、珪酸ソーダ発泡体からNa
2O脱離を促進し、珪酸ソーダ発泡体表面のOHとアルコールの会合によるアルキル基の付着が耐水性の発現に寄与しているものと推測される。
【0029】
比較例2〜5
実施例1の表面処理を、シリカゾル処理(比較例2)、塩酸処理(比較例3)、ホウ酸水溶液処理(比較例4)及び水酸化カルシウム水溶液処理(比較例5)に変えた以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0030】
各試験体を試験例1と同じ耐水性試験に供したところ、各試験体の残存率は、いずれも50重量%未満であり実施例1〜15と比べて耐水性は不十分であった。