特許第6206867号(P6206867)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206867
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】自動車安全運転能力測定システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20170925BHJP
   G09B 19/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G08G1/00 D
   G09B19/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-48506(P2013-48506)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-174848(P2014-174848A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】801000049
【氏名又は名称】一般財団法人生産技術研究奨励会
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】朴 啓彰
(72)【発明者】
【氏名】中野 公彦
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−338625(JP,A)
【文献】 特開2010−113532(JP,A)
【文献】 特開2009−237104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G09B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者が運転する車両の走行軌跡データを取得する走行軌跡データ取得手段と、
前記車両のハンドル回転角を計測する計測手段と、
前記ハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出する解析手段と、
前記走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間のうち方向転換時を含む特定時間を抽出する時間抽出手段と、
前記特定時間において、前記ぶれ評価値に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する判定手段と、
運転中の交通量、時刻、路面状態の少なくとも1つ以上の条件に関する情報を取得する情報取得手段を備えており、
前記判定手段は、前記特定時間において、前記情報取得手段により取得された情報に含まれる条件が所定の特定条件に該当する場合と該当しない場合における前記ぶれ評価値を比較して、両方の場合のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する、
ことを特徴とする自動車安全運転能力測定システム。
【請求項2】
運転中の測定対象者に対して注意力を分散させる負荷を与える負荷手段を備えており、
前記判定手段は、前記特定時間において、負荷状態と無負荷状態における前記ぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する、
ことを特徴とする請求項1記載の自動車安全運転能力測定システム。
【請求項3】
前記ぶれ評価値は、計測したハンドル回転角の微分値の絶対値の平均もしくは、ステアリングエントロピー値で表されるいずれかのハンドル回転角の滑らかさを評価する指標値であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車安全運転能力測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年齢に関わらず運転者の安全運転能力を精度良く測定することが可能である自動車安全運転能力測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の到来に伴って、高齢者による交通事故の増加が大きな社会問題となっている。
高齢者による交通事故の増加は、加齢による運転能力の低下に起因するところが大きいと考えられている。
本願発明者らは、高齢者、特に大脳に白質病変を有する高齢者と交通事故の間には相関可能性が高いことを解明し、大脳の白質病変の程度の検査結果に基づいて運転者の運転適性を判断する運転適性診断装置を提案している(下記特許文献1参照)。
【0003】
白質病変とは、大脳内白質内の微細血管が消滅して生じた細胞間隙であり、加齢や動脈硬化性変化によって生じることが知られている。
上記運転適性診断装置によれば、大脳の白質病変の程度の検査結果に基づいて運転者の運転適性を判断することから、若者に比べて大脳に白質病変を有する割合が高い高齢者の交通事故を抑制する効果が期待できる。
【0004】
しかしながら、年齢に関わらず人身事故等の重大な交通事故は引き起こされる。
そのため、全ての運転者の安全運転能力を精度良く測定することができれば、交通事故抑制対策や安全運転対策をとり得ると考えられる。
また、上記運転適性診断装置は、大脳の白質病変の程度を検査するための専用装置(MRI)を必要とすることから、このような専用装置を必要としない簡易な安全運転能力の測定方法の創出が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−206452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、年齢に関わらず運転者の安全運転能力を精度良く簡易な方法で測定することが可能であり、従来の装置に比べてより一層優れた交通事故抑制効果が期待できる自動車安全運転能力測定システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、測定対象者が運転する車両の走行軌跡データを取得する走行軌跡データ取得手段と、前記車両のハンドル回転角を計測する計測手段と、前記ハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出する解析手段と、前記走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出する時間帯注出手段と、前記特定時間帯において、前記ぶれ評価値に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する判定手段と、を備えていることを特徴とする自動車安全運転能力測定システムに関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、運転中の測定対象者に対して注意力を分散させる負荷を与える負荷手段を備えており、前記判定手段は、前記特定時間帯において、負荷状態と無負荷状態における前記ぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する、ことを特徴とする請求項1記載の自動車安全運転能力測定システムに関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、運転中の交通量、時刻、路面状態の少なくとも1つ以上の条件に関する情報を取得する情報取得手段を備えており、前記判定手段は、前記特定時間帯において、前記情報取得手段により取得された情報に含まれる条件が所定の特定条件に該当する場合と該当しない場合における前記ぶれ評価値を比較して、両方の場合のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する、ことを特徴とする請求項1記載の自動車安全運転能力測定システムに関する。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記ぶれ評価値は、計測したハンドル回転角の微分値の絶対値の平均もしくは、ステアリングエントロピー値など、ハンドル回転角の滑らかさを評価する指標値であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の自動車安全運転能力測定システムに関する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、走行軌跡データ取得手段により測定対象者が運転する車両の走行軌跡データを取得し、計測手段により車両のハンドル回転角を計測し、解析手段により計測されたハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出し、時間帯抽出手段により走行軌跡データに基づいて車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出し、判定手段により特定時間帯においてぶれ評価値に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定することができる。
このことから、操舵時のぶれに基づいて安全運転能力が判定されることとなるため、年齢に関わらず運転者の安全運転能力を精度良く測定することが可能となる。また、方向転換時を含む特定時間帯におけるぶれ評価値に基づいて安全運転能力を判定するため、カーブを曲がる時などの操舵時にぶれが生じ易い時間帯におけるぶれ評価値を用いることができ、安全運転能力の測定精度を向上させることが可能となる。また、操舵時のぶれと白質病変の程度には相関性がみられるが、本発明では、白質病変の程度を検査するための専用装置(MRI)を用いることなく簡易な装置で安全運転能力を測定することができる。
また、安全運転能力の測定結果は、例えば、タクシー会社において安全運転能力が低い運転者を運転業務から外す、或いは保険会社において安全運転能力が低い運転者について自動車保険料を高くする等、実社会において幅広く利用することが可能である。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、走行軌跡データ取得手段により測定対象者が運転する車両の走行軌跡データを取得し、負荷手段により運転中の測定対象者に対して注意力を分散させる負荷を与え、計測手段により車両のハンドル回転角を計測し、解析手段により計測されたハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出し、時間帯抽出手段により走行軌跡データに基づいて車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出し、判定手段により特定時間帯において負荷状態と無負荷状態におけるぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定することができる。
このことから、実際の運転時に与えられた負荷に起因する操舵時のぶれに基づいて安全運転能力が判定されることとなるため、年齢に関わらず運転者の安全運転能力を精度良く測定することが可能となる。また、方向転換時を含む特定時間帯において、負荷状態と無負荷状態におけるぶれ評価値を比較するため、カーブを曲がる時などの操舵時にぶれが生じ易い時間帯におけるぶれ評価値を比較することができ、安全運転能力の測定精度を向上させることが可能となる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、運転中の交通量(渋滞等)、時刻(夜間)、路面状態(雪や雨による路面の濡れ等)の少なくとも1つ以上の条件に起因する操舵時のぶれに基づいて安全運転能力が判定されるため、運転時に生じる自然発生的な悪条件を考慮して運転者の安全運転能力を測定することができ、安全運転能力を精度良く測定することが可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、ぶれ評価値は、計測したハンドル回転角の微分値の絶対値の平均もしくは、ステアリングエントロピー値などのハンドル回転角の滑らかさを評価する指標値であることから、操舵時のぶれを適正に評価して数値化することができ、運転者の安全運転能力を精度良く測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの第一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図2】負荷手段の構成を示すブロック図である。
図3】音声負荷の一例であるPASAT (Paced Auditory Serial Addition Test)の説明図である。
図4】解析手段の構成を機能的に示すブロック図である。
図5】ステアリングエントロピー法における予測誤差e(n)の説明図である。
図6】高齢者と若者のe(n)の度数分布を比較したグラフの一例である。
図7】本発明に係る自動車安全運転能力測定システム(第一実施形態)の作用を示すフローチャートである。
図8】本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの第二実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図9】本発明に係る自動車安全運転能力測定システム(第二実施形態)の作用を示すフローチャートである。
図10】本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの第三実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図11】本発明に係る自動車安全運転能力測定システム(第三実施形態)の作用を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの好適な実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの第一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
本発明の第一実施形態に係る自動車安全運転能力測定システムは、測定対象者(1)が運転する車両(2)の走行軌跡データを取得する走行軌跡データ取得手段(3)と、運転中の測定対象者に対して注意力を分散させる負荷を与える負荷手段(4)と、前記車両のハンドル回転角を計測する計測手段(5)と、前記ハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出する解析手段(6)と、前記走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出する時間帯抽出手段(7)と、前記特定時間帯において、負荷状態と無負荷状態における前記ぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する判定手段(8)と、を備えている。
【0017】
走行軌跡データ取得手段(3)は、車両の位置を計測するためのGPSセンサ、車両の角速度を計測するためのジャイロセンサ、車両の走行速度を計測するための速度センサ、車両の加速度を計測するための加速度センサ等を備えており、測定対象者が運転する車両(2)に搭載される。
【0018】
図2は、負荷手段(4)の構成を示すブロック図である。
負荷手段(4)は、音声を記憶したCDやICレコーダ等の記憶部(41)と、記憶部に記憶された音声を出力するスピーカ等の出力部(42)と、制御部(43)とを備えており、測定対象者が運転する車両(2)に搭載される。
制御部(43)は、CPU、メモリ(RAM、ROM)、入出力部(I/Oインターフェイス)等を備えたコンピュータからなり、メモリに記憶されたプログラムに従って所定の時間間隔で負荷手段(4)を作動させる。尚、制御部(43)が後述する制御ユニット(9)に含まれる形態としてもよい。
負荷手段(4)は、記憶部(41)に記憶された音声を、制御部(43)から送信される制御信号に基づいて出力部(42)から出力し、車両(2)を運転する測定対象者に対して聞かせることにより、測定対象者(1)に対して負荷(音声負荷)を与える。
負荷手段(4)は、制御部(41)による制御信号に基づいて所定の時間間隔で間欠的に作動し、測定対象者(運転者)に負荷を加えた状態(負荷状態)と、当該負荷を加えていない状態(無負荷状態)とをつくりだす。
【0019】
音声負荷の種類は特に限定されないが、一例としてPASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)を使用することができる。
PASATとは、図3に示す如く、音声で一桁の数字が連続的に提示され、数字を聞いた直後に先に聞いた数字と加算して解答する作業である。数字は3秒ごと(PASAT-3)もしくは2秒ごと(PASAT-2)に提示され、注意力を分散させる効果が得られる。
但し、運転中の負荷が大きくなりすぎることを防ぐため、例えば解答が一桁となるようにするなど、難易度を下げる調整を行うことが好ましい。
【0020】
計測手段(5)は、車両のハンドル回転角を計測することができる手段であって、例えば、X,Y,Z軸の加速度と角速度を計測することができる6軸加速度センサが好適に使用される。
6軸加速度センサを使用する場合は、ハンドルの中心に固定する第一センサと、車体の不動部分(操作されない部分)に固定する第二センサを使用し、第一センサでハンドルの回転角を計測し、第二センサで地面に対する車両の回転角を計測する。
【0021】
解析手段(6)は、ハンドル回転角を解析してぶれ評価値を算出する手段である。
解析手段(6)は、CPU、メモリ(RAM、ROM)、入出力部(I/Oインターフェイス)、ディスプレイ等を備えたコンピュータからなる制御ユニット(9)に含まれる。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、ハンドル回転角を解析してぶれ評価値を算出するためのプログラム(評価値算出プログラム)が記憶されている。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された評価値算出プログラムを読み出して実行することによって、解析手段(6)として機能する。
【0022】
図4は、解析手段(6)の構成を機能的に示すブロック図である。
解析手段(6)は、データ取得部(61)と、記憶部(62)と、解析部(63)とを備えている。
データ取得部(61)は、所定の時間間隔で、計測手段(5)により計測されたハンドル回転角のデータを取得する。記憶部(62)は、取得されたハンドル回転角を時系列的に記憶する。解析部(63)は、記憶部(62)から所定サンプリング時間分のハンドル回転角の時系列データ(時系列ハンドル回転角データ)を読み出して、この時系列ハンドル回転角データに基づいて操舵のぶれ評価値を算出する。
【0023】
ぶれ評価値としては、計測したハンドル回転角の微分値の絶対値の平均値、もしくはステアリングエントロピー法により求められるステアリングエントロピー値など、ハンドル回転角の滑らかさを評価する指標値が好適に使用される。
【0024】
ハンドル操作のぶれが大きいほどハンドル回転角の微分値は大きくなる。例えば、取得したハンドル回転角データの時間間隔が50msの場合、実際のn時点のハンドル回転角値θ(n)と、その一つ前のハンドル回転角値θ(n−1)との差を、時間間隔50ms(0.05s)で除することにより、微分値は求まる。(次式(式1)参照)
【0025】
微分値=(θ(n)−θ(n−1))/0.05・・・(式1)
【0026】
式1で算出される微分値の絶対値の平均値が指標となる。なお、微分値の求め方には、θ(n+1)を使う方法など、様々なものが存在するが、一定の精度を確保できるものであれば、有効である。
【0027】
ステアリングエントロピー法とは、運転者の操舵(ハンドル操作)の滑らかさを、時系列操舵データから計算される情報エントロピー値(ステアリングエントロピー値)として数値化する方法である。図5を用いて説明すると、例えば、取得したハンドル回転角データの時間間隔が50msの場合、これに対して3つのデータの平均値を求めると、人間の最短制御間隔とされる150ms毎のハンドル回転角値が得られる。ここで、あるn時点に着目し、過去3点のハンドル回転角を用いて(n−1)を中心とする2次テーラー展開によりn時点の予測ハンドル回転角θp(n)を算出する。θp(n)と実際のn時点のハンドル回転角値θ(n)の差を予測誤差e(n)とする。
【0028】
ステアリングエントロピー値(HP)は、基準値αを用いて算出される。αは、各個人の運転特性の基準を示す値であり、e(n)の度数分布における90%タイル値である。ハンドル操作(操舵)が滑らかである程、得られた度数分布は中心への鋭さが増した形になり、αが小さくなる。例えば、図6は高齢者と若者のe(n)の度数分布を比較したグラフの一例である。図示の如く、若者がe(n)の度数分布の中心への鋭さは、高齢者のものと比べて大きくなっている。つまり、若者の方が高齢者に比べて操舵が滑らかであることを示している。
【0029】
ステアリングエントロピー値(HP)は、e(n)の度数分布をα値に基づいて9つのセルに分け、各セルに入る割合(確率)P、P,・・・,Pを求め、次式(式2)により算出することができる。尚、ステアリングエントロピー値のより詳しい算出手法は、例えば特開平11−227491号公報に開示されている。
【0030】
HP=−ΣPlog (i=1〜9)・・・(式2)
【0031】
解析手段(6)によるぶれ評価値(ステアリングエントロピー値)の算出は、上述した負荷状態と無負荷状態の両方において行われる。負荷状態においては、測定対象者の注意力が分散されるため、無負荷状態に比べて運転操作が粗くなる(ぶれ評価値が高くなる)と考えられる。例えば、あるカーブにおいて、普段運転する時には綺麗に曲がることができるのに対して、注意力が分散された時にはふらつきが生じると考えられる。このことから、負荷状態と無負荷状態におけるぶれ評価値の差が小さい測定対象者は、注意力が分散されても普段とあまり変わらない運転を行うことができるため、安全運転能力が高いと考えられる。一方、ぶれ評価値の差が大きい測定対象者は、注意力が分散されると運転操作が粗くなるため、安全運転能力が低いと考えられる。
【0032】
時間帯抽出手段(7)は、走行軌跡データ取得手段(3)により取得された走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出する。尚、方向転換時には、曲線状のカーブを曲がる時の他に、交差点、T字路、Y字路等の分岐路における右折時や左折時が含まれる。ここで、左折時に比べて右折時にハンドルのぶれ(ふらつき)が生じ易いため、特定時間帯には右折時を含むことが好ましい。
時間帯抽出手段(7)は、制御ユニット(9)に含まれる。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、走行軌跡データ取得手段(3)により取得された走行軌跡データを解析して車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出するためのプログラム(特定時間帯抽出プログラム)が記憶されている。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された特定時間帯抽出プログラムを読み出して実行することによって、時間帯抽出手段(7)として機能する。
【0033】
判定手段(8)は、時間帯抽出手段(7)により抽出された前記特定時間帯において、負荷状態と無負荷状態における前記ぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する。ぶれ評価値の差は、減算(負荷状態におけるぶれ評価値−無負荷状態におけるぶれ評価値)により求めてもよいし、除算(負荷状態におけるぶれ評価値/無負荷状態におけるぶれ評価値)により求めてもよい。
【0034】
判定手段(8)は、制御ユニット(9)に含まれる。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、時間帯抽出手段(7)により抽出された前記特定時間帯において、負荷状態と無負荷状態における前記ぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定するためのプログラム(判定プログラム)が記憶されている。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された判定プログラムを読み出して実行することによって、判定手段(8)として機能する。
判定手段(8)を構成する上記判定プログラムは、運転中の負荷状態と無負荷状態とを自動的に判別する機能を発揮する。判別方法としては、例えば上記制御部(41)による制御信号が発信されている状態を負荷状態と判定し、発信されていない状態を無負荷状態と判定する方法を例示することができる。
【0035】
判定手段(8)による安全運転能力の判定は、例えば、以下のような方法で行うことができる。尚、この判定方法は一例であり、この判定方法に限定されるものではない。
予め幅広い年代(若者から高齢者まで)の多数の被検者に、本発明のシステムを利用して自動車教習所内等のテストコースで運転してもらい、負荷状態と無負荷状態におけるぶれ評価値の差についてのサンプリングデータを取得する。このサンプリングデータをぶれ評価値の差の少ない方から順番に並べる。そして例えば、上位20%の順位に含まれる差の範囲をランクA、上位20%超40%以下の順位に含まれる差の範囲をランクB、上位40%超60%以下の順位に含まれる差の範囲をランクC、上位60%超80%以下の順位に含まれる差の範囲をランクD、上位80%超100%以下の順位に含まれる差の範囲をランクEと規定する。
ここで、理解を容易にするため、ぶれ評価値の差が0以上の整数値で表わされ、被検者数が100名であり、ぶれ評価値の差の少ない方から1位の人のぶれ評価値の差が0、20位の人が5、21位の人が6、40位の人が23、41位の人が24、60位の人が38、61位の人が39、80位の人が50、81位の人が51、100位の人が77であったとすると、下記表1のようにまとめられる。
【0036】
【表1】
【0037】
判定手段(8)として機能する制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、予め判定基準とこの基準に対応する判定結果が対応付けられて記憶される。
例えば、表1の場合、判定基準は、ぶれ評価値の差の範囲が0〜5の場合はランクA、6〜23の場合はランクB、24〜38の場合はランクC、39〜50の場合はランクD、51を超える場合はランクEとなる。そして下記表2に示すように、各ランクについて判定結果が対応付けられて記憶される。
【0038】
【表2】
【0039】
判定手段(8)は、判定プログラムを実行することにより、測定対象者のぶれ評価値の差を上記判定基準に当てはめて、測定対象者の安全運転能力を判定する。
例えば、測定対象者のぶれ評価値の差が45であったとすると、判定手段(8)は測定対象者の安全運転能力を「ランクD:安全運転能力がやや低い。」と判定し、その結果をディスプレイ等に表示する。
【0040】
以下、本発明に係る自動車安全運転能力測定システム(第一実施形態)の作用について、図7に基づいて説明する。
測定対象者が車両を運転する(S1)と、走行軌跡データ取得手段(3)により車両の走行軌跡データが取得される(S2)とともに、計測手段(5)により車両のハンドルのハンドル回転角が計測される(S3)。また、負荷手段(4)により運転中の測定対象者に対して注意力を分散させる負荷が所定時間間隔で与えられる(S4)。
【0041】
そして、時間帯抽出手段(7)により、走行軌跡データ取得手段(3)により取得された走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯が抽出される(S5)。また、解析手段(6)により、計測手段(5)により計測されたハンドル回転角のデータに基づいて、ハンドル回転角の微分値の絶対値もしくはステアリングエントロピー法等の手法により操舵のぶれ評価値が算出される(S6)。このぶれ評価値の算出は、負荷状態と無負荷状態の両方において行われる。
【0042】
続いて、判定手段(8)により、前記特定時間帯において、負荷状態と無負荷状態におけるぶれ評価値を比較し(S7)、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて、予め定められた判定基準(例えば上記表1及び表2)に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する(S8)。
【0043】
上記S1〜S8のステップを経ることにより、測定対象者の安全運転能力を年齢に関係なく精度良く測定することができる。
【0044】
図8は、本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの第二実施形態の全体構成を示すブロック図である。
本発明の第二実施形態に係る自動車安全運転能力測定システムは、測定対象者(1)が運転する車両(2)の走行軌跡データを取得する走行軌跡データ取得手段(3)と、前記車両のハンドル回転角を計測する計測手段(5)と、前記ハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出する解析手段(6)と、前記走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出する時間帯抽出手段(7)と、前記特定時間帯において前記ぶれ評価値に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する判定手段(8)と、を備えている。
【0045】
この第二実施形態は、負荷手段(4)を有さない点と判定手段(8)の構成が上記第一実施形態と異なっている。他の構成は第一実施形態と同じであるため説明を省略し、第一実施形態と異なる点を説明する。
第二実施形態における判定手段(8)は、時間帯抽出手段(7)により抽出された特定時間帯において、解析手段(6)により算出されたぶれ評価値に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する。
【0046】
判定手段(8)は、制御ユニット(9)に含まれる。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、時間帯抽出手段(7)により抽出された前記特定時間帯において、解析手段(6)により算出されたぶれ評価値に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定するためのプログラム(判定プログラム)が記憶されている。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された判定プログラムを読み出して実行することによって、判定手段(8)として機能する。
【0047】
判定手段(8)による安全運転能力の判定は、例えば、以下のような方法で行うことができる。尚、この判定方法は一例であり、この判定方法に限定されるものではない。
予め幅広い年代(若者から高齢者まで)の多数の被検者に、本発明のシステムを利用して自動車教習所内等のテストコースで運転してもらい、ぶれ評価値のサンプリングデータを取得する。このサンプリングデータをぶれ評価値の小さい方から順番に並べる。そして例えば、上位20%の順位に含まれる範囲をランクA、上位20%超40%以下の順位に含まれる範囲をランクB、上位40%超60%以下の順位に含まれる範囲をランクC、上位60%超80%以下の順位に含まれる範囲をランクD、上位80%超100%以下の順位に含まれる範囲をランクEと規定する。
ここで、理解を容易にするため、ぶれ評価値が0以上の整数値で表わされ、被検者数が100名であり、ぶれ評価値の小さい方から1位の人のぶれ評価値が0、20位の人が10、21位の人が11、40位の人が33、41位の人が34、60位の人が49、61位の人が50、80位の人が70、81位の人が71、100位の人が97であったとすると、下記表3のようにまとめられる。
【0048】
【表3】
【0049】
判定手段(8)として機能する制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、予め判定基準とこの基準に対応する判定結果が対応付けられて記憶される。
例えば、表3の場合、判定基準は、ぶれ評価値の範囲が0〜10の場合はランクA、11〜33の場合はランクB、34〜49の場合はランクC、50〜70の場合はランクD、71を超える場合はランクEとなる。そして下記表4に示すように、各ランクについて判定結果が対応付けられて記憶される。
【0050】
【表4】
【0051】
判定手段(8)は、判定プログラムを実行することにより、測定対象者のぶれ評価値を上記判定基準に当てはめて、測定対象者の安全運転能力を判定する。
例えば、測定対象者のぶれ評価値が25であったとすると、判定手段(8)は測定対象者の安全運転能力を「ランクB:安全運転能力がやや高い。」と判定し、その結果をディスプレイ等に表示する。
【0052】
以下、本発明に係る自動車安全運転能力測定システム(第二実施形態)の作用について、図9に基づいて説明する。
測定対象者が車両を運転する(S1)と、走行軌跡データ取得手段(3)により車両の走行軌跡データが取得される(S2)とともに、計測手段(5)により車両のハンドル回転角が計測される(S3)。
【0053】
そして、時間帯抽出手段(7)により、走行軌跡データ取得手段(3)により取得された走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯が抽出される(S4)。また、解析手段(6)により、計測手段(5)により計測されたハンドル回転角のデータに基づいて、ステアリングエントロピー法等の手法により操舵のぶれ評価値が算出される(S5)。
【0054】
続いて、判定手段(8)により、前記特定時間帯における評価値を使用して(S6)、このぶれ評価値の差の大きさに基づいて、予め定められた判定基準(例えば上記表3及び表4)に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する(S7)。
【0055】
上記S1〜S7のステップを経ることにより、測定対象者の安全運転能力を年齢に関係なく精度良く測定することができる。
【0056】
図10は、本発明に係る自動車安全運転能力測定システムの第三実施形態の全体構成を示すブロック図である。
本発明の第三実施形態に係る自動車安全運転能力測定システムは、測定対象者(1)が運転する車両(2)の走行軌跡データを取得する走行軌跡データ取得手段(3)と、前記車両のハンドル回転角を計測する計測手段(5)と、前記ハンドル回転角を解析して操舵のぶれ評価値を算出する解析手段(6)と、前記走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯を抽出する時間帯抽出手段(7)と、運転中の交通量、時刻、路面状態の少なくとも1つ以上の条件に関する情報を取得する情報取得手段(10)と、前記特定時間帯において前記情報取得手段により取得された情報に含まれる条件が所定の特定条件に該当する場合と該当しない場合におけるぶれ評価値を比較して、両方の場合のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する判定手段(8)と、を備えている。
【0057】
この第三実施形態は、負荷手段(4)を有さない点と、情報取得手段(10)を有する点と、判定手段(8)の構成が上記第一実施形態と異なっている。他の構成は第一実施形態と同じであるため説明を省略し、第一実施形態と異なる点を説明する。
【0058】
情報取得手段(10)は、運転中における、交通量、時刻、路面状態の少なくとも1つ以上の条件に関する情報を取得する手段である。
【0059】
運転中の交通量に関する情報を取得する手段は、車両の走行速度を計測するための速度センサと、通常時の走行速度を記録したメモリと、計測された走行速度とメモリに記録された通常時の走行速度とを比較し、計測された走行速度が通常時の走行速度に比べて所定速度以上遅い場合に「交通量が多い」と判断する交通量判断手段とから構成されている。
情報取得手段(10)の速度センサは、上述した走行軌跡データ取得手段(3)が備える速度センサと兼用することができる。
情報取得手段(10)のメモリは、上述した制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリと兼用することができる。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、速度センサにより計測された走行速度と上記メモリに予め記録された通常時の走行速度とを比較し、計測された走行速度が通常時の走行速度に比べて所定速度以上遅い(例えば20km/h以上遅い)場合に「交通量が多い」と判断するためのプログラム(交通量判断プログラム)が記憶されている。通常時の走行速度としては、例えば過去に同じ車両が同じ道を走行した時の複数回の速度の平均値が使用される。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された交通量判断プログラムを読み出して実行することによって、交通量判断手段として機能する。
【0060】
運転中の時刻に関する情報を取得する手段としては、制御ユニット(9)を構成するコンピュータに内蔵されたクロックや外部時計等を用いることができる。
【0061】
運転中の路面状態に関する情報を取得する手段は、ブレーキスイッチ信号を監視する等の方法でブレーキが踏まれたことを検出するブレーキ検知センサと、ブレーキが踏まれてから車両が停止するまでの時間又は距離を計測する計測手段と、計測された時間又は距離とメモリに記録された通常時の時間又は距離とを比較し、計測された時間又は距離が通常時の時間又は距離に比べて所定時間以上長い又は所定距離以上長い場合に「路面状態が悪い」と判断する路面状態判断手段とから構成されている。例えば、雨や雪で路面が濡れている時(即ち「路面状態が悪い」場合)には、路面が乾いている時に比べてブレーキを踏んでから停止するまでの時間や距離が長くなる。従って、通常時の時間又は距離としては、例えば路面が乾いている時に車両が同じ速度でブレーキを踏んだ時に停止するまでの時間又は距離の複数回の平均値が使用される。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、計測手段により計測された時間又は距離とメモリに記録された通常時の時間又は距離とを比較し、計測された時間又は距離が通常時の時間又は距離に比べて所定時間以上長い又は所定距離以上長い場合に「路面状態が悪い」と判断するためのプログラム(路面状態判断プログラム)が記憶されている。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された路面状態判断プログラムを読み出して実行することによって、路面状態判断手段として機能する。
【0062】
判定手段(8)は、時間帯抽出手段(7)により抽出された前記特定時間帯において、情報取得手段(10)により取得された情報に含まれる条件が所定の特定条件に該当する場合(以下、「該当状態」ともいう)と該当しない場合(以下、「非該当状態」ともいう)における前記ぶれ評価値を比較して、両方の場合のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する。ぶれ評価値の差は、減算(特定条件に該当しない場合のぶれ評価値−特定条件に該当する場合のぶれ評価値)により求めてもよいし、除算(特定条件に該当する場合のぶれ評価値/特定条件に該当しない場合のぶれ評価値)により求めてもよい。
【0063】
判定手段(8)は、制御ユニット(9)に含まれる。
制御ユニット(9)を構成するコンピュータのメモリには、時間帯抽出手段(7)により抽出された前記特定時間帯において、該当状態と非該当状態における前記ぶれ評価値を比較して、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定するためのプログラム(判定プログラム)が記憶されている。コンピュータは、CPUがメモリに記憶された判定プログラムを読み出して実行することによって、判定手段(8)として機能する。
判定手段(8)を構成する上記判定プログラムは、運転中の該当状態と非該当状態とを自動的に判別する機能を発揮する。判別方法としては、情報取得手段(10)により取得された情報を利用して下記判別基準に基づいて判別する方法を例示することができる。
【0064】
以下、情報取得手段(10)により取得された情報に含まれる条件が所定の特定条件に該当する場合(該当状態)と該当しない場合(非該当状態)の判別基準の一例について説明する。
情報取得手段(10)により取得された情報に含まれる条件が、運転中の交通量である場合、所定の特定条件としては、上述した交通量判断手段により「交通量が多い」と判断される条件が使用される。従って、この場合、所定の特定条件に該当する場合は「交通量が多い」と判断された場合であり、該当しない場合は「交通量が多い」と判断されない場合である。
情報取得手段(10)により取得された情報に含まれる条件が、運転中の時刻である場合、所定の特定条件としては、時刻が夜間であるという条件が使用される。「夜間」の時刻は予め定義されてメモリに記憶されており、例えば「4月〜9月は午後7時〜午前6時、1月〜3月と10月〜12月は午後6時〜午前7時」と定義される。従って、この場合、所定の特定条件に該当する場合は「夜間」に該当する時刻である場合であり、該当しない場合は「夜間」に該当しない時刻である場合である。
情報取得手段(10)により取得された情報に含まれる条件が、運転中の路面状態である場合、所定の特定条件としては、上述した路面状態判断手段により「路面状態が悪い」と判断される条件が使用される。従って、この場合、所定の特定条件に該当する場合は「路面状態が悪い」と判断された場合であり、該当しない場合は「路面状態が悪い」と判断されない場合である。
【0065】
判定手段(8)による安全運転能力の判定方法は、上述した第一実施形態の方法と同様であり、第一実施形態の判定方法における「負荷状態」と「無負荷状態」を、それぞれ「特定条件に該当する場合」と「特定条件に該当しない場合」に置き換えて判定することができる。
【0066】
以下、本発明に係る自動車安全運転能力測定システム(第三実施形態)の作用について、図11に基づいて説明する。
測定対象者が車両を運転する(S1)と、走行軌跡データ取得手段(3)により車両の走行軌跡データが取得される(S2)とともに、計測手段(5)により車両のハンドルのハンドル回転角が計測される(S3)。また、情報取得手段(10)により、運転中における、交通量、時刻、路面状態の少なくとも1つ以上の条件に関する情報が取得される(S4)。
【0067】
そして、時間帯抽出手段(7)により、走行軌跡データ取得手段(3)により取得された走行軌跡データに基づいて、車両の走行時間帯のうち方向転換時を含む特定時間帯が抽出される(S5)。また、解析手段(6)により、計測手段(5)により計測されたハンドル回転角のデータに基づいて、ハンドル回転角の微分値の絶対値もしくはステアリングエントロピー法等の手法により操舵のぶれ評価値が算出される(S6)。このぶれ評価値の算出は、上記所定の特定条件に該当する場合と該当しない場合の両方において行われる。
【0068】
続いて、判定手段(8)により、前記特定時間帯において、所定の特定条件に該当する場合と該当しない場合におけるぶれ評価値を比較し(S7)、両状態のぶれ評価値の差の程度に基づいて、予め定められた判定基準(例えば上記表1及び表2)に基づいて測定対象者の安全運転能力を判定する(S8)。
【0069】
上記S1〜S8のステップを経ることにより、測定対象者の安全運転能力を年齢に関係なく精度良く測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、例えば運転免許の更新時において、更新予定者の安全運転能力を測定するために利用することができる。安全運転能力が低いと判断された更新予定者に対しては、運転に注意するように指導したり、運転免許の返上を勧告したりすることにより、年齢に関係なく交通事故を減少させる効果が期待できる。
【符号の説明】
【0071】
1 測定対象者
2 車両
3 走行軌跡データ取得手段
4 負荷手段
5 計測手段
6 解析手段
7 時間帯抽出手段
8 判定手段
9 制御ユニット
10 情報取得手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11