(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
以下では、第一実施形態に係る機械式の時計について説明したあと、第一実施形態に係る脱進機の詳細について説明する。
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側、すなわち文字板と反対の側をムーブメントの「表側」と称する。
【0023】
図1は、時計100のムーブメント101(請求項の「時計用ムーブメント」に相当。
)を表側からみた平面図である。なお、
図1では、てんぷ5のてん輪5aを二点鎖線で図示している。
図1に示すように、時計100は、ムーブメント101を備えている。ムーブメント101は、基板を構成する地板102を有している。地板102には、巻真案内孔103が形成されている。巻真案内孔103には、巻真104が回転可能に組み込まれている。ムーブメント101の表側(
図1における紙面手前側)には、表輪列105を構成する四番車106、三番車107、二番車108および香箱車110が配置されているとともに、表輪列105の回転を制御する脱進機1が配置されている。
【0024】
香箱車110は、内部に時計100の動力源となるぜんまい111を有している。巻真104を回転させることにより、ぜんまい111が巻き上げられるようになっている。そして、ぜんまい111が巻き戻される際の回転力により香箱車110が回転し、さらに二番車108が回転するように構成されている。
二番車108は、三番車107と噛合している。二番車108が回転すると、三番車107が回転するように構成されている。
三番車107は、四番車106と噛合している。三番車107が回転すると、四番車106が回転するように構成されている。
四番車106が回転することにより脱進機1および調速機2が駆動する。脱進機1については、後に詳述する。
【0025】
調速機2は、脱進機1を調速する機構であって、てんぷ5と、不図示のひげぜんまいとを有している。
てんぷ5は、回動軸であるてん真31と、てん真31に外嵌固定されているてん輪5aと、後述の振り座30と、不図示のひげぜんまいとを有している。
そして、脱進機1および調速機2が駆動することにより、四番車106が1分間に1回転するように制御されるとともに、二番車108が1時間に1回転するように制御される。
【0026】
(脱進機)
図2は、第一実施形態に係る脱進機1の斜視図である。なお、
図2において、紙面上側がムーブメント101の表側となっており、紙面下側がムーブメント101の裏側となっている。
図3は、第一実施形態に係る脱進機1の平面図である。なお、
図3において、紙面手前側がムーブメント101の表側となっており、紙面奥側がムーブメント101の裏側となっている。また、
図3では、後述の振り座30のうち小つば39と振り石36のみを図示している。
ここで、
図2および
図3では、後述のアンクル40が回動範囲の中間部に位置する状態を図示している。このとき、振り座30(すなわちてんぷ5)の振り角は、0°となっている。
図2および
図3に示すように、本実施形態に係る脱進機1は、主に振り座30と、アンクル40と、第一がんぎ車10と、第二がんぎ車20と、を備えている。以下に、脱進機1を構成する各部品について詳細に説明する。
【0027】
図2に示すように、振り座30は、てん真31を中心として回動するてんぷ5(
図1参照)に設けられており、調速機2(
図1参照)の構成部品であるとともに、脱進機1の構成部品となっている。振り座30は、平面視円形状に形成された部材であり、てん真31に外嵌固定されている。振り座30は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成された部材あって、電鋳加工や、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、MIM等により形成されている。なお、振り座30の製造方法は上記に限定されることはなく、例えば金属材料に対して機械加工を施すことにより形成してもよい。
【0028】
振り座30は、大つば32と、大つば32よりもムーブメント101の裏側(
図2における紙面下側)に形成された小つば39とを有している。
大つば32は、円板状の部材であり、大つば32の軸方向に貫通する貫通孔33を有している。貫通孔33には、振り石36が例えば圧入固定されている。
振り石36は、例えばルビー等により、軸方向から見て径方向の外側に平坦面を有するとともに、径方向の内側に弧状面を有する半円形状に形成されている。振り石36は、軸方向に沿って設けられており、大つば32からムーブメント101の裏側に向かって突出している。振り石36は、後述するアンクル40に対して接触可能とされる。
【0029】
小つば39は、円板状の部材であり、大つば32よりも小径となっている。小つば39の外周面には、振り石36に対応した位置に、径方向の内側に凹む曲面状のツキガタ39aが形成されている。ツキガタ39aは、後述するアンクル40と振り石36とが係合しているときに、アンクル40の剣先44bが小つば39と接触するのを防止する逃げ部として機能している。また、小つば39の外周面のうち、ツキガタ39aを挟んで周方向の両側の一部領域は、アンクル40の剣先44bが摺接可能となっている。
【0030】
アンクル40は、振り座30の径方向に沿うように延びる長尺のアンクル体41と、アンクル体41の一方端部に設けられたつめ石保持部42と、アンクル体41を軸支するアンクル真43と、複数のつめ石(第一衝撃つめ石46、第二衝撃つめ石47、入りつめ石48および出つめ石49)と、を備えている。
【0031】
アンクル真43は、アンクル体41の一方端部に設けられている。アンクル真43は、アンクル体41がアンクル真43の中心軸P周りに回動可能なように軸支している。
アンクル体41には、アンクル真43とは反対側の他方端部に、平面視略U字状に形成されたクワガタ44が設けられている。クワガタ44の内側は、振り座30が回動することにより振り石36が係脱可能なアンクルハコ44aとなっている。
また、クワガタ44の内側には、振り座30の小つば39に向かって突出する剣先44bが設けられている。剣先44bの先端は、振り座30の回動時において、小つば39の外周面のうち、ツキガタ39aを挟んで周方向の両側の一部領域と摺接する。これにより、振り石36がアンクルハコ44aから離脱した状態であっても、アンクル40が回動するのを防止できる。
【0032】
アンクル体41の一方端部には、つめ石保持部42が設けられている。つめ石保持部42は、振り座30とは反対側に向かって広がるように設けられた一対の衝撃つめ石保持部42a,42b(第一衝撃つめ石保持部42aおよび第二衝撃つめ石保持部42b)と、第一衝撃つめ石保持部42aと第二衝撃つめ石保持部42bとの間に設けられた入りつめ石保持部42cと、アンクル体41と第二衝撃つめ石保持部42bとの間に設けられた出つめ石保持部42dと、を有している。
【0033】
第一衝撃つめ石保持部42aは、アンクル真43の中心軸Pを挟んで後述の第一がんぎ車10側に設けられている。第二衝撃つめ石保持部42b、入りつめ石保持部42cおよび出つめ石保持部42dは、アンクル真43の中心軸Pを挟んで後述の第二がんぎ車20側に設けられている。
第一衝撃つめ石保持部42a、第二衝撃つめ石保持部42b、入りつめ石保持部42cおよび出つめ石保持部42dには、それぞれスリットが形成されている。
【0034】
第一衝撃つめ石保持部42aには、第一衝撃つめ石46がスリットに挿入されて保持される。第一衝撃つめ石46は、第一衝撃つめ石保持部42aから突出するように設けられている。第一衝撃つめ石46の突出部分には、後述の第一がんぎ車10と衝突可能な衝撃面46aが設けられている。第一衝撃つめ石46の衝撃面46aは、平坦に形成されており、第一がんぎ車10の回転方向と対向するように設けられている。第一衝撃つめ石46の厚さは、例えばアンクル40の厚さと同等になっている。
【0035】
第二衝撃つめ石保持部42bには、第二衝撃つめ石47がスリットに挿入されて保持される。第二衝撃つめ石47は、第二衝撃つめ石保持部42bから突出するように設けられている。第二衝撃つめ石47の突出部分には、後述の第二がんぎ車20と衝突可能な衝撃面47aが設けられている。第二衝撃つめ石47の衝撃面47aは、平坦に形成されており、第二がんぎ車20の回転方向と対向するように設けられている。第二衝撃つめ石47の厚さは、例えばアンクル40の厚さと同等になっている。
【0036】
入りつめ石保持部42cには、入りつめ石48がスリットに挿入されて保持される。入りつめ石48は、入りつめ石保持部42cから突出するように設けられている。入りつめ石48の突出部分には、第二がんぎ車20と係脱可能な係脱面48aが設けられている。入りつめ石48の係脱面48aは、平坦に形成されており、第二がんぎ車20の回転方向と対向するように設けられている。入りつめ石48の厚さは、例えば第一衝撃つめ石46の厚さよりも厚くなっている。入りつめ石48は、第一衝撃つめ石46よりもムーブメント101の裏側(
図2における下側)に突出している。
【0037】
出つめ石保持部42dには、出つめ石49がスリットに挿入されて保持される。出つめ石49は、出つめ石保持部42dから突出するように設けられている。出つめ石49の突出部分には、第二がんぎ車20と係脱可能な係脱面49aが設けられている。出つめ石49の係脱面49aは、平坦に形成されており、第二がんぎ車20の回転方向と対向するように設けられている。出つめ石49の厚さは、例えば第二衝撃つめ石47の厚さよりも厚くなっている。出つめ石49は、第二衝撃つめ石47よりもムーブメント101の裏側(
図2における下側)に突出している。
【0038】
図3に示すように、アンクル40を挟んで両側には、一対のドテピン45a,45b(
図2においては図示略)が設けられている。ドテピン45a,45bは、ムーブメント101の地板102から立設されている。アンクル40は、回動することにより、アンクル体41がドテピン45a,45bと接触する。これにより、アンクル40の回動量が規制される。
【0039】
図2に示すように、第一がんぎ車10および第二がんぎ車20は、それぞれ例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成された部材あって、電鋳加工や、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセス、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)、MIM(Metal Injection Molding)等により形成されている。
【0040】
第一がんぎ車10は、中心軸Q1を有する円板状の歯車部材であって、第一歯車11と、がんぎかな12と、第一衝撃用がんぎ歯車15と、を備えている。
第一歯車11は、外周面に歯部11aを複数備えている。第一歯車11の歯部11aは、後述の第二がんぎ車20の第二歯車21の歯部21aと噛合している。
がんぎかな12は、表輪列105を構成する四番車106(
図1参照)と噛合している。がんぎかな12には、二番車108、三番車107および四番車106を介して、香箱車110内のぜんまい111(いずれも
図1参照)の動力が伝達される。これにより、第一がんぎ車10は、中心軸Q1周りに時計回り方向に回転する。
【0041】
第一衝撃用がんぎ歯車15は、がんぎかな12よりもムーブメント101の裏側(
図2における下側)であって、中心軸Q1の軸方向におけるアンクル40の第一衝撃つめ石46に対応した位置に設けられており、第一衝撃つめ石46が接触可能とされる。第一衝撃用がんぎ歯車15は、複数の第一衝撃歯部15aを有している。第一衝撃歯部15aのうち、第一がんぎ車10の回転方向(
図3における時計回り方向)側の面は、アンクル40の第一衝撃つめ石46の衝撃面46aに接触する接触面15bとなっている。
【0042】
第二がんぎ車20は、中心軸Q2を有する円板状の歯車部材であって、第二歯車21と、第二衝撃用がんぎ歯車25と、停止用がんぎ歯車26と、を備えている。
第二歯車21は、外周面に歯部21aを複数備えている。第二歯車21の歯部21aは、第一がんぎ車10の第一歯車11の歯部11aと噛合している。第二歯車21には、二番車108、三番車107、四番車106および第一がんぎ車10を介して香箱車110内のぜんまい111(いずれも
図1参照)の動力が伝達される。これにより、第二がんぎ車20は、中心軸Q2周りに反時計回り方向に回転する。
【0043】
第二衝撃用がんぎ歯車25は、中心軸Q2の軸方向においてアンクル40の第二衝撃つめ石47に対応した位置に設けられており、第二衝撃つめ石47が接触可能とされる。第二衝撃用がんぎ歯車25は、複数の第二衝撃歯部25aを有している。第二衝撃歯部25aのうち、第二がんぎ車20の回転方向(
図3における反時計回り方向)側の面は、アンクル40の第二衝撃つめ石47の衝撃面47aに接触する接触面25bとなっている。
【0044】
停止用がんぎ歯車26は、第二衝撃用がんぎ歯車25よりもムーブメント101の裏側(
図2における下側)に設けられており、入りつめ石48および出つめ石49が交互に係脱可能とされる。停止用がんぎ歯車26は、複数の停止用歯部26aを有している。停止用歯部26aのうち、第二がんぎ車20の回転方向(
図3における反時計回り方向)側の面は、アンクル40の入りつめ石48の係脱面48aおよび出つめ石49の係脱面49aに対して係脱可能な係脱面26bとなっている。
【0045】
(作用)
図4から
図11は、脱進機1の動作説明図である。
続いて、上述のように構成された脱進機1の作用について、
図4から
図11を用いて説明する。
以下では、てんぷ5の自由振動にともない振り座30が中心軸O周りに反時計回り方向に回動した後、時計回り方向に回動する二振動一周期の動作について、順を追って説明する。また、以下の説明における動作開始状態では、
図4に示すように、アンクル40のアンクル体41が第二がんぎ車20側のドテピン45bに当接しているとともに、アンクル40の出つめ石49が第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26と係合している。このとき、第二がんぎ車20および第二がんぎ車20と噛合する第一がんぎ車10は、回転が停止している。
【0046】
図4に示すように、振り座30が反時計回り方向に回動すると、アンクル40のアンクルハコ44aと、振り石36とが係合する。このとき、振り石36が一方(
図4における右側)のアンクルハコ44aの内面と接触する。これにより、振り座30の回転力(すなわちてんぷ5のひげぜんまいのばね力)がアンクル40に作用する。
【0047】
続いて、
図5に示すように、振り座30がさらに反時計回り方向に回動すると、振り石36がアンクルハコ44aの内面を押圧する。これにより、アンクル40、アンクル40に保持される第一衝撃つめ石46、第二衝撃つめ石47、入りつめ石48および出つめ石49は、アンクル真43の中心軸P周りに時計周り方向に回動する。ここで、小つば39には、ツキガタ39aが形成されている。これにより、アンクル40と振り石36との係合時において、小つば39とアンクル40の剣先44bとは互いに接触することがないので、アンクル40の回動を妨げることなく、振り座30の回転力をアンクル40に効率よく伝達できる。
【0048】
アンクル40が回動すると、出つめ石49は、第二がんぎ車20から離反する方向に移動する。これにより、出つめ石49と第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26との係合が解除されるとともに、第二がんぎ車20および第二がんぎ車20と噛合する第一がんぎ車10は、それぞれ回転可能となる。なお、
図5は、出つめ石49が第二がんぎ車20から離脱する直前の状態を図示しており、
図6は、出つめ石49が第二がんぎ車20から離脱した後の状態を図示している。
このとき、第一がんぎ車10は、二番車108、三番車107および四番車106を介して香箱車110内のぜんまい111(いずれも
図1参照)の動力が伝達されて、時計回り方向に回転する。また、第一がんぎ車10と噛合する第二がんぎ車20は、第一がんぎ車10を介して香箱車110内のぜんまい111(いずれも
図1参照)の動力が伝達されて、反時計回り方向に回転する。
【0049】
また、
図6に示すように、第二がんぎ車20が反時計回り方向に回転すると、第二衝撃用がんぎ歯車25の第二衝撃歯部25aと第二衝撃つめ石47とが衝突する。これにより、香箱車110内のぜんまい111(いずれも
図1参照)の動力は、第二がんぎ車20およびアンクル40を介して振り座30(すなわちてんぷ5)の回転力として付与されて、振り座30がさらに反時計回り方向に回動する。また、アンクル40が回動すると、入りつめ石48は、第二がんぎ車20に接近する方向に移動する。
【0050】
そして、
図7に示すように、第二がんぎ車20に接近する入りつめ石48と、回転する第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26とが接触する。なお、
図7は、入りつめ石48と第二がんぎ車20とが係合する直前の状態を図示している。その後、
図8に示すように、入りつめ石48と、第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26とが係合し、アンクル体41がドテピン45aに当接する。これにより、第二がんぎ車20の回転が停止するとともに、第二がんぎ車20と噛合する第一がんぎ車10の回転も停止する。
【0051】
振り座30は、反時計回り方向への回動量(すなわち振り角)が最大となった後、時計回り方向に回動方向が反転する。
続いて、
図9に示すように、振り座30が時計回り方向に回動すると、
図10に示すように、入りつめ石48と第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26との係合が解除されて、第一がんぎ車10が時計回り方向に回転し、第一がんぎ車10と噛合する第二がんぎ車20が反時計回り方向に回転する。なお、
図9は、入りつめ石48が第二がんぎ車20から離脱する直前の状態(以下、「第一状態」という。)を図示しており、
図10は、入りつめ石48が第二がんぎ車20から離脱した後の状態を図示している。
【0052】
第一がんぎ車10が時計回り方向に回転すると、第一衝撃用がんぎ歯車15の第一衝撃歯部15aと第一衝撃つめ石46とが衝突する。これにより、香箱車110内のぜんまい111(いずれも
図1参照)の動力は、第一がんぎ車10およびアンクル40を介して振り座30(すなわちてんぷ5)の回転力として付与されて、振り座30がさらに時計回り方向に回動する。また、アンクル40が回動すると、出つめ石49は、第二がんぎ車20に接近する方向に移動する。
【0053】
そして、
図11に示すように、第二がんぎ車20に接近する出つめ石49と、回転する第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26とが接触する。なお、
図11は、出つめ石49と第二がんぎ車20とが係合する直前の状態(以下、「第二状態」という。)を図示している。
その後、
図4に示すように、アンクル40の出つめ石49が第二がんぎ車20の停止用がんぎ歯車26と係合し、アンクル体41がドテピン45bに当接することにより、第二がんぎ車20および第二がんぎ車20と噛合する第一がんぎ車10の回転が停止する。
以降、上述の動作を繰返すことにより、第一実施形態の脱進機1は、第二がんぎ車20と入りつめ石48および出つめ石49との係脱を交互に繰り返し行うとともに、アンクル40を介しててんぷ5に動力を付与する、いわゆる間接衝撃型の脱進機1として動作することができる。
【0054】
ところで、一般に機械式時計の振動は、てんぷ5の振り角をA
0とし、てんぷ5の回転角をθとし、てんぷ5の角振動数をωとし、時間をtとしたとき、次式によりあらわされる。
【0056】
また、入りつめ石48が第二がんぎ車20から離脱する直前の第一状態(
図9参照)から、てんぷ5の回転角が0°の状態(
図3参照)になるまでの時間をt
Rとし、第一状態におけるてんぷ5の回転角をθ
Rとする。ここで、時間t=0のとき、θ=0°であるから、次式により表される。
【0058】
したがって、第一状態からてんぷ5の回転角が0°の状態になるまでの時間t
Rは、次式により表される。
【0060】
また、てんぷ5の回転角が0°の状態(
図3参照)から、出つめ石49と第二がんぎ車20とが係合する直前の第二状態(
図11参照)になるまでの時間をt
L1とし、第二状態におけるてんぷ5の回転角をθ
L1としたとき、てんぷ5の回転角が0°の状態から第二状態になるまでの時間t
L1は、次式により表される。
【0062】
ここで、時間t
Rと時間t
L1との和は、第二がんぎ車20から、入りつめ石48および出つめ石49が離脱している時間、すなわち第二がんぎ車20に対するアンクル40の非係合状態の時間に相当する。この第二がんぎ車20に対するアンクル40の非係合状態の時間は、てんぷ5の二振動一周期中で一回であることから、時計100(
図1参照)の動作中における第二がんぎ車20に対するアンクル40の非係合状態の時間の割合r
fは、次式により表される。
【0064】
例えば、てんぷ5の振り角A
0=280°、第一状態におけるてんぷ5の回転角θ
R=9°、第二状態におけるてんぷ5の回転角θ
L1=11°に設定したとき、第二がんぎ車20に対するアンクル40の非係合状態の時間の割合r
f=1.14%となる。このように、時計100の動作中において、従来技術によれば、第二がんぎ車に対するアンクルの非係合状態の時間の割合が50%であるのに対し、本実施形態によれば、第二がんぎ車20に対するアンクル40の非係合状態の時間の割合r
fが大幅に減少する。
【0065】
(効果)
第一実施形態によれば、入りつめ石48および出つめ石49と係脱可能な停止用がんぎ歯車26を有し、第一がんぎ車10と噛合される第二がんぎ車20を備えているので、第一がんぎ車10および第二がんぎ車20の回転および停止を第二がんぎ車20により制御できる。ここで、第二がんぎ車20は、入りつめ石48および出つめ石49のいずれかが停止用がんぎ歯車26に係合されるので、従来技術と比較して第二がんぎ車20に対するアンクル40の非係合状態の時間を削減できる。これにより、第二がんぎ車20のガタつき時間を大幅に削減できるので、脱進機1の動作の安定性を確保しつつ、動力伝達効率の低下を抑制できる。
【0066】
また、アンクル40には、第一衝撃つめ石46および第二衝撃つめ石47が設けられているので、アンクル40の第一衝撃つめ石46および第二衝撃つめ石47を介しててんぷ5に動力を付与する、いわゆる間接衝撃型の脱進機1に対して本発明を好適に適用できる。
【0067】
また、第一実施形態のムーブメント101および時計100によれば、第二がんぎ車20のガタつき時間を大幅に削減でき、動作の安定性を確保しつつ、動力伝達効率の低下を抑制できる脱進機1を備えているので、高性能なムーブメント101および時計100を提供することができる。
なお、第一実施形態においては、第一がんぎ車10には、香箱車110内のぜんまい111の動力が伝達されるようになっている。しかし、第一がんぎ車10に伝達される動力はこれに限定されず、例えば、香箱車110以外に設けられたぜんまいから、第一がんぎ車10に動力が伝達されるようにしてもよい。
【0068】
(第一実施形態の変形例)
図12は、第一実施形態の変形例に係る脱進機1の平面図である。
続いて、第一実施形態の変形例に係る脱進機1ついて説明する。
実施形態では、第二がんぎ車20は、第二衝撃つめ石47と接触可能な第二衝撃用がんぎ歯車25と、入りつめ石48および出つめ石49と係脱可能な停止用がんぎ歯車26と、を有していた(
図2参照)。
これに対して、
図12に示すように、第一実施形態の変形例では、第二衝撃用がんぎ歯車25と停止用がんぎ歯車26とが第二がんぎ歯車24として一体形成されている点で、実施形態とは異なっている。なお、以下では、第一実施形態と同様の構成部分については説明を省略する。
【0069】
第二がんぎ車20は、第二がんぎ歯車24を備えている。第二がんぎ歯車24は、例えば軸方向に沿って立設された複数の第二がんぎ歯部24aにより形成されている。第二がんぎ歯車24の第二がんぎ歯部24aは、第二衝撃つめ石47が接触可能とされるとともに、入りつめ石48および出つめ石49が係脱可能とされている。すなわち、第一実施形態の変形例に係る第二がんぎ歯車24は、第一実施形態に係る第二衝撃用がんぎ歯車25および停止用がんぎ歯車26が一体形成されたものであり、第二衝撃用がんぎ歯車25および停止用がんぎ歯車26として機能する。
なお、第一がんぎ車10の第一衝撃用がんぎ歯車15について、形状は第一実施形態に限定されない。したがって、第一実施形態の変形例のように、第一衝撃用がんぎ歯車15の第一衝撃歯部15aは、第二がんぎ歯車24の第二がんぎ歯部24aと同様に、例えば軸方向に沿って立設されていてもよい。
また、第一実施形態の変形例のように、アンクル40に長孔が形成されており、ドテピン45が長孔内に遊挿されることで、アンクル40の回動量が規制される形態としてもよい。
【0070】
第一実施形態の変形例によれば、第一実施形態において二層に形成された第二衝撃用がんぎ歯車25および停止用がんぎ歯車26を一体形成することにより、第二がんぎ車20を薄型化することができる。したがって、第二がんぎ車20のガタつき時間を短縮して、脱進機1の動作の安定性を確保しつつ、動力伝達効率の低下をさらに抑制できる。また、脱進機1を薄型化することができる。
【0071】
(第二実施形態)
続いて、第二実施形態に係る脱進機1について説明する。
図13は、第二実施形態に係る脱進機1の平面図である。
第一実施形態では、アンクル40に第一衝撃つめ石46および第二衝撃つめ石47が設けられており、いわゆる間接衝撃型の脱進機1を構成していた。
これに対して、
図13に示すように、第二実施形態に係る脱進機1は、振り座30に第一衝撃つめ石46および第二衝撃つめ石47が設けられており、いわゆる直接衝撃型の脱進機1を構成している点で、第一実施形態とは異なっている。なお、以下では、第一実施形態と同様の構成部分については説明を省略する。
【0072】
第二がんぎ車20は、第二がんぎ歯車24を備えている。第二がんぎ歯車24の第二がんぎ歯部24aは、第二衝撃つめ石47が接触可能とされるとともに、入りつめ石48および出つめ石49が係脱可能とされている。すなわち、第二がんぎ歯車24は、第一実施形態に係る第二衝撃用がんぎ歯車25および停止用がんぎ歯車26が一体形成されたものであり、第二衝撃用がんぎ歯車25および停止用がんぎ歯車26として機能する。
【0073】
振り座30の大つば32には、一対のスリットが形成されている。大つば32の一対のスリットには、それぞれ第一衝撃つめ石46および第二衝撃つめ石47が挿入されて固定されている。第二実施形態の脱進機1は、第一がんぎ車10の第一衝撃用がんぎ歯車15が第一衝撃つめ石46に衝突し、第二がんぎ車20の第二がんぎ歯車24が第二衝撃つめ石47に衝突することによりてんぷ5に動力を付与する、いわゆる直接衝撃型の脱進機1として動作する。
なお、第二実施形態のように、アンクル40に貫通孔が形成されており、入りつめ石48が貫通孔内に挿入固定される形態としてもよい。
【0074】
第二実施形態によれば、第一がんぎ車10および第二がんぎ車20がてんぷ5の第一衝撃つめ石46および第二衝撃つめ石47に衝突しててんぷ5に動力を付与する、いわゆる直接衝撃型の脱進機1に対して本発明を好適に適用できる。
【0075】
なお、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0076】
第一がんぎ車10や第二がんぎ車20、振り座30、アンクル40、振り石36、第一衝撃つめ石46、第二衝撃つめ石47、入りつめ石48、出つめ石49等の形状や材質等は、各実施形態に限定されない。
また、振り石36や第一衝撃つめ石46、第二衝撃つめ石47、入りつめ石48、出つめ石49等の固定方法は、各実施形態に限定されない。
【0077】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。