特許第6206880号(P6206880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206880
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】骨修復材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/06 20060101AFI20170925BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   A61L27/06
   A61L27/54
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-530537(P2014-530537)
(86)(22)【出願日】2013年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2013071596
(87)【国際公開番号】WO2014027612
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2016年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-180434(P2012-180434)
(32)【優先日】2012年8月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098969
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正行
(72)【発明者】
【氏名】小久保 正
(72)【発明者】
【氏名】松下 富春
(72)【発明者】
【氏名】ナス シーカー
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠二
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/147819(WO,A1)
【文献】 特開2011−032223(JP,A)
【文献】 特表2010−533012(JP,A)
【文献】 特表2010−536451(JP,A)
【文献】 特開2006−075500(JP,A)
【文献】 第30回整形外科バイオマテリアル研究会プログラム・抄録集, 2010, p.44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオン及び骨形成イオンを含まずナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1つ以上の陽イオンを含むアルカリ性の第1の水溶液に、チタンまたはチタン合金からなる基材を浸漬する工程と、カルシウムイオン及び骨形成イオンを含む第2の水溶液に基材を浸漬する工程と、基材を大気中400℃以上0.5時間以上加熱する工程と、骨形成イオンを含む第3の水溶液に浸漬する工程を備え、第2及び第3の水溶液に含まれる骨形成イオンが、ストロンチウム及びマグネシウムのイオンから選択される1つ以上であることを特徴とする骨修復材料の製造方法。
【請求項2】
第2の水溶液におけるカルシウムイオン濃度が0.01〜5000mMの範囲にあり、骨形成イオンの濃度が0.01〜5000mMの範囲にある請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
第2の水溶液の温度が20℃以上であり、基材を第2の水溶液に浸漬する時間が0.5時間以上である請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
第3の水溶液中の骨形成イオンの濃度が1〜1000mMの範囲にある請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
第3の水溶液の温度が60℃以上であり、基材を第3の水溶液に浸漬する時間が3時間以上である請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、骨修復材料及びその製造方法に関する。この骨修復材料は、大腿骨、股関節、脊椎、歯根等のように大きな荷重の加わる部分における骨修復のために好適に利用され得る。
【背景技術】
【0002】
表面にアパタイト層を有するチタン金属またはチタン合金は、大きな破壊靱性を有し、且つ生体内でアパタイトを介して生体骨と結合することから、大きな荷重の加わる部分における骨修復材料として期待され、チタン金属またはチタン合金からなる基材の表面にアパタイト層を形成する方法が種々検討されてきた。このうち、アルカリ処理された基材をアパタイトの飽和濃度以上の水溶液に浸けてアパタイトを析出させて得られるものは、乾燥時にアパタイトにひび割れを生じやすい。また、基材にアパタイトをプラズマ溶射あるいは火炎溶射により被覆する方法で得られるものは、冷却時に基材との熱膨張差によりアパタイト層に亀裂を生じやすい。このため、体内でアパタイトを形成させ、これを介して生体骨と結合させるべく、アパタイト形成能を有するチタン酸塩層を表面に形成させるチタン金属またはチタン合金の化学処理法が種々提案されている(特許文献1−3)。
【0003】
一方、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、リチウム、ガリウムなどのイオンは、体内で新たな生体骨の形成を促進すると報告されている(特許文献4−5、非特許文献1−6)。骨修復材料周囲に早期に生体骨が形成され、しかも材料表面に早期にアパタイト層が形成されれば、骨修復材料と生体骨との間に早期に強い結合が得られると期待される。また、骨粗鬆症などで骨量の減少した患者においても骨量の回復が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO95/13100号公報
【特許文献2】WO2009/147819号公報
【特許文献3】WO2010/087427号公報
【特許文献4】特表2010−533012
【特許文献5】特表2010−533011
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Xinら、ACS,vol.3,p3228−3234(2009)
【非特許文献2】Alvarezら、Clin Implant Dent Relat Res,vol.12,pe114−25(2010)
【非特許文献3】Balamuruganら、Acta Biomater., vol.3,p255−262(2007)
【非特許文献4】Clement−Lacroixら、PNPS,vol.102,p17406−17411(2005)
【非特許文献5】Bernsteinら、Pharmacological Reviews,vol.50,p665−682(1998)
【非特許文献6】Varanasiら、Acta Biomater.,vol.5,p3536−3547(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された工程のみで得られる材料は、長期保存を想定した加速試験として高温多湿下に骨修復材料を長期間曝すと、アパタイト形成能を失ってしまう。したがって、修復手術に備えて在庫品を保存しておくことができない。
特許文献2及び3に記載された工程のみで得られる材料は、アパタイト形成能及び保存性に優れているが、骨形成を促進する能力に乏しい。
特許文献4−5及び非特許文献1−2に記載の方法で得られる材料はストロンチウム、亜鉛またはリチウムのイオンを溶出して骨形成を促進するが、そのアパタイト形成能は低い。
それ故、この発明の課題は、骨形成イオンを徐放し、且つアパタイト形成能及び保存性に優れた安全性の高い骨修復材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その課題を解決するために、この発明の骨修復材料は、
チタン金属またはチタン合金からなる基材と、その基材表面にあってカルシウムイオン及び骨形成イオンを含むチタン酸塩層とを備え、10mN以上のひっかき抵抗を有することを特徴とする。この明細書において、ひっかき抵抗とは、バネ定数200g/mmのスタイラスに前記チタン酸塩層上で100μmの振幅を与え、100mN/minの荷重を印加しながら、スタイラスを10μm/secの速度で移動させたとき、前記チタン酸塩層が有する臨界ひっかき強度をいう。
【0008】
この骨修復材料によれば、チタン酸塩層がカルシウムイオン及び骨形成イオンの両方を含むので、チタン酸塩層に含まれる骨形成イオンが生体内で徐々に溶出して周囲の骨形成を促進し、同時にカルシウムイオンが生体内で溶出してアパタイト形成能を示して骨と結合することを可能にする。前記ひっかき抵抗は、それ自体が直接示す機械的特性だけでなく、アパタイト形成能及び骨形成イオンの徐放性を示す指標でもある。即ち、ひっかき抵抗が10mNに満たないほどに、チタン酸塩層内の粒子間結合が弱いと、骨形成イオンが急速に溶出してしまい、骨形成を促進させるのに効果的でない。同様にカルシウムイオンも急速に溶出してしまい、アパタイトの核形成と成長を促進する効果を示さない。
【0009】
この発明の骨修復材料を製造する方法は、カルシウムイオン及び骨形成イオンを含まずナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1つ以上の陽イオンを含むアルカリ性の第1の水溶液に、チタンまたはチタン合金からなる基材を浸漬する工程と、カルシウムイオン及び骨形成イオンを含む第2の水溶液に基材を浸漬する工程と、基材を大気中で加熱する工程と、水、酸水溶液及び骨形成イオン含有水溶液から選ばれる一種以上からなる第3の水溶液に浸漬する工程を備えることを特徴とする。
【0010】
第1の水溶液に浸けることにより、基材中のチタンと水溶液が反応して基材表面にチタン酸水素ナトリウムあるいはチタン酸水素カリウムの層が形成される。次いで第2の水溶液に浸けると、チタン酸水素ナトリウムあるいはチタン酸水素カリウム層中のナトリウムあるいはカリウムイオンが、水溶液中のカルシウムイオン及び骨形成イオンと交換される。交換されるカルシウムイオンと骨形成イオンの割合は、第2の水溶液におけるカルシウムイオンと骨形成イオンの濃度比を変えることで任意に制御できる。このような制御が可能になる理由は、第1の水溶液処理で形成されるチタン酸水素ナトリウムあるいはチタン酸水素カリウムが層状の構造を有することに起因する。このように異なる2種類の水溶液に段階的に浸けることにより、カルシウムイオン及び骨形成イオンを所望の割合で含み、両イオン濃度が表面から内部に向かって漸減する傾斜組成のチタン酸塩層が基材上に形成される。
【0011】
これを大気中で加熱することにより、脱水して機械的及び化学的に安定な無水のチタン酸塩層となり、表面層の引っかき抵抗が著しく向上する。
その後、水あるいは酸水溶液からなる第3の水溶液に浸けると、チタン酸塩層中のカルシウムイオン及び骨形成イオンの一部がヒドロニウムイオンに交換されて、表面がアパタイト形成能を発揮する程度に活性化される。また、第3の水溶液として骨形成イオンを含む水溶液を用いた場合、チタン酸塩層中の骨形成イオンが第3の水溶液に溶出することなくカルシウムイオンの一部がヒドロニウムイオンに交換されるので、チタン酸塩層中の骨形成イオン濃度を減少させることなくアパタイト形成能を発揮する程度に基材表面が活性化される。そのアパタイト形成能は、全表面にアパタイトを形成するのに3日で足りるという高いものであり、しかも多湿下で長期保存されても維持される。このチタン酸塩層に含まれる骨形成イオンは、生体内で徐々に溶出して骨形成を促進する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によって得られる骨修復材料は、生体内に埋め込んだ場合、周囲の骨形成を促進し、速やかに生体骨と結合して骨欠損部を修復することができ、また、保存性に優れることから、手術用に常備しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】X線光電子分光分析(XPS)に基づく実施例1の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図2】XPSに基づく実施例2の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図3】XPSに基づく実施例4の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図4】XPSに基づく実施例5の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図5】グロー放電発光分光分析(GD−OES)に基づく実施例7の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図6】GD−OESに基づく実施例8の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図7】GD−OESに基づく実施例9の試料の表面付近のイオン分布を示す。
図8】実施例の試料の薄膜X線回折パターンを示す。
図9】実施例1、4、7、8、9の試料からPBSへ溶出した骨形成イオンの誘導結合プラズマ発光分析(ICP)分析結果を示す。
図10】実施例1、2の試料からPBSへ溶出した骨形成イオンのICP分析結果を示す。
図11】実施例4、5の試料からPBSへ溶出した骨形成イオンのICP分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記チタン酸塩層は、表面から0.1〜10μmの深さの範囲において通常0.1〜10原子%のカルシウムイオン濃度と0.1〜5原子%の骨形成イオン濃度を有し、1〜5原子%のカルシウムイオン濃度と0.1〜5原子%の骨形成イオン濃度を有するのが好ましい。導入できるカルシウムイオン濃度及び骨形成イオン濃度は第2の水溶液のpHを上げることによりおよそ10原子%まで高めることができる。カルシウムイオン濃度が0.1原子%に満たない場合は、アパタイトを構成するカルシウム成分が表面に乏しすぎてアパタイトを形成しにくい。5原子%を超えると、表面層においてチタン酸カルシウムのように安定な化合物の割合が増すのでアパタイトを形成しにくい。骨形成イオンの体内における溶出量は、前記チタン酸塩層における骨形成イオン濃度に依存する。従って、骨形成イオン濃度が0.1原子%に満たない場合は、体内での溶出量が少なくなり十分な骨形成効果が得られない。ただし、5原子%を超えると、表面層が安定な化合物になるのでアパタイトを形成しにくい。
【0015】
第2の水溶液におけるカルシウムイオンの濃度は通常0.01〜5000mMの範囲であり、好ましくは0.01〜100mMである。骨形成イオンの濃度は通常0.01〜5000mMの範囲であり、好ましくは0.01〜100mMの範囲である。いずれも下限に満たない場合、前記チタン酸塩層に前記の好ましい濃度でカルシウムイオン及び骨形成イオンを導入することが極めて困難となる。上限を越える場合、アパタイト形成に不利な安定な化合物を表面に形成しやすくなる。
【0016】
基材を浸漬するときの第2の水溶液の温度および浸漬時間は通常、それぞれ20℃以上、0.5時間以上であり、好ましくはそれぞれ40℃以上、24時間以上である。いずれも下限に満たない場合、前記チタン酸塩層に前記の好ましい濃度でカルシウムイオン及び骨形成イオンを導入することが極めて困難となる。
基材を大気中で加熱するときの温度及び保持時間は通常、それぞれ400℃以上、0.5時間以上で、好ましくは600℃以上、1時間以上である。いずれも下限に満たない場合、前記チタン酸塩層のひっかき抵抗が乏しくなる。
【0017】
第3の水溶液に酸及び骨形成イオンを含む水溶液を使用する場合の酸及び骨形成イオン濃度は通常、それぞれ0.001〜100mMおよび1〜1000mMであり、好ましくはそれぞれ0.01〜100mM及び1〜1000mMである。いずれも下限に満たない場合、水を用いた場合と同程度の効果しか得られず、上限を越える場合、アパタイト形成に不利な安定な化合物を表面に形成しやすくなる。骨形成イオン含有水溶液は通常、酸性、中性又は弱アルカリ性であり、pH=10以上のものは好ましくない。
基材を浸漬するときの第3の水溶液の温度および浸漬時間は通常、それぞれ60℃以上、3時間以上であり、好ましくはそれぞれ80℃以上、24時間以上である。この第3の水溶液に酸溶液を使用した場合、水を使用した場合よりも短時間で活性化される。酸水溶液に含まれる好ましい酸は、塩酸、硝酸、酢酸及び硫酸から選択される1つ以上である。これらの酸は、取り扱いが容易であるし、基材を浸食することもないからである。浸漬温度及び浸漬時間が下限に満たない場合、十分に活性化されない。
第2及び第3の水溶液における骨形成イオンの濃度を変えることにより、前記チタン酸塩層における濃度を変えることが出来る。
【実施例】
【0018】
−実施例1−
10mm×10mm×1mmの大きさの純チタン金属板を#400のダイヤモンドパッドを用いて研磨し、アセトン、2−プロパノール、超純水で各30分間超音波洗浄した後、5Mの水酸化ナトリウム水溶液5mlに60℃で24時間浸漬し(以下、「アルカリ処理」という)、超純水で30秒間洗浄した。このチタン金属板を塩化カルシウムと塩化ストロンチウムの濃度がいずれも50mMになるように混合した水溶液10mlに40℃で24時間浸漬した。(以下、「カルシウム/ストロンチウム処理」という。)次いで、チタン金属板を電気炉中で常温から600℃まで5℃/minの速度で昇温し、大気中600℃で1時間保持して、炉内で放冷した(以下、「加熱処理」という。)。その後、80℃の温水に24時間浸漬し(以下、「温水処理」という)、超純水により30秒間洗浄した。
【0019】
−実施例2−
実施例1において、温水処理の代わりに1Mの塩化ストロンチウムに80℃で24時間浸漬した(以下、「ストロンチウム処理」という。)ことを除く他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0020】
−実施例3−
実施例1のカルシウム/ストロンチウム処理において、塩化カルシウムと塩化ストロンチウムの濃度がそれぞれ80mMと20mMになるように混合した水溶液10mlに40℃で24時間浸漬したことを除く他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0021】
−実施例4−
実施例1において、カルシウム/ストロンチウム処理の代わりに塩化カルシウムと塩化マグネシウムの濃度がそれぞれ40mMと60mMになるように混合した水溶液10mlに40℃で24時間浸漬した(以下、「カルシウム/マグネシウム処理」という。)ことを除く他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0022】
−実施例5−
実施例4において、温水処理の代わりに1Mの塩化マグネシウム水溶液に80℃で24時間浸漬した(以下、「マグネシウム処理」という。)ことを除く他は実施例4と同じ条件で試料を製造した。
【0023】
−実施例6−
実施例4のカルシウム/マグネシウム処理において、塩化カルシウムと塩化マグネシウムの濃度がそれぞれ2Mと3Mになるように混合した水溶液10mlに40℃で24時間浸漬し、温水処理の代わりにマグネシウム処理したことを除く他は実施例4と同じ条件で試料を製造した。
【0024】
−実施例7−
実施例1において、カルシウム/ストロンチウム処理の代わりに酢酸カルシウムと酢酸亜鉛の濃度がそれぞれ99.99mMと0.01mMになるように混合した水溶液10 mlに40℃で24時間浸漬し(以下、「カルシウム/亜鉛処理」という。)、温水処理の代わりに1mMの酢酸に80℃で24時間浸漬した(以下、「酢酸処理」という。)ことを除く他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0025】
−実施例8−
実施例1において、カルシウム/ストロンチウム処理の代わりに塩化カルシウムと塩化リチウムの濃度がそれぞれ0.01mMと99.99mMになるように混合した水溶液10mlに40℃で24時間浸漬し(以下、「カルシウム/リチウム処理」という。)、温水処理の代わりに1Mの塩化リチウム水溶液に80℃で24時間浸漬した(以下、「リチウム処理」という)ことを除く他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0026】
−実施例9−
実施例1において、カルシウム/ストロンチウム処理の代わりに塩化カルシウムと塩化ガリウムの濃度がそれぞれ99.95mMと0.05mMになるように混合した水溶液10mlに40℃で24時間浸漬した(以下、「カルシウム/ガリウム処理」という。)ことを除く他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0027】
−比較例1−
実施例1において、温水処理を行わなかった他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
−比較例2−
実施例1において、加熱処理における保持温度を200℃にし、温水処理を行わなかった他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
−比較例3−
実施例1において、加熱処理及び温水処理を行わなかった他は実施例1と同じ条件で試料を製造した。
【0028】
以上の実施例及び比較例の試料の製造条件をまとめて表1に記載する。
【表1】
【0029】
[組成分析]
実施例及び比較例の試料表面の組成を加速電圧9kVでエネルギー分散X線分析法により分析し、あるいは1Mの塩酸に80℃で24時間浸漬することで溶出したカルシウムイオン及びリチウムイオンをICPにより分析した。その結果、各試料とも製造途中におけるアルカリ処理直後にはナトリウムが5.5原子%検出されたが、表2に示すようにカルシウム/ストロンチウム、カルシウム/マグネシウム、カルシウム/亜鉛、カルシウム/リチウム、カルシウム/ガリウム処理を施した試料ではナトリウムが消失し、代わりに1.5〜3.3原子%のカルシウムと0.4〜1.7原子%のストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ガリウムが検出され、あるいは0.27ppmのカルシウムイオンと0.19ppmのリチウムイオンが検出された。表1及び表2に示されるように、第2の水溶液に含まれるカルシウムイオン及び骨形成イオンの濃度比を変えることにより、また第3の水溶液に含まれる骨形成イオンの濃度を変えることにより、導入されるカルシウムイオン及び骨形成イオンの割合を任意に制御することができた。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例1、2、4及び5のXPS及び実施例7〜9のGD−OES結果によれば、図1〜7に示すように表面より1μmの深さまでカルシウムイオンと共にストロンチウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオンまたはガリウムイオンが導入され、それらの濃度が深さと共に傾斜的に減少していることが認められた。
表面試料の結晶構造を薄膜X線回折により調べると、図8に示すように実施例1、4、7−9の試料すべてに骨形成イオンを含むチタン酸カルシウムとルチル型及びアナターゼ型酸化チタンが形成されていることがわかった。
【0032】
[ひっかき抵抗評価]
実施例1−3の試料及び比較例1−3の試料のひっかき抵抗をスクラッチテスターにより測定したところ、表3に示すように200℃以下で加熱処理された試料のひっかき抵抗は10mN未満と低かったが、600℃で加熱処理された試料のひっかき抵抗は50mN以上と高かった。
【0033】
【表3】
【0034】
[アパタイト形成能評価]
実施例及び比較例の試料を36.5℃に保たれたISO規格23317の擬似体液(SBF)に浸漬したところ、表2及び表3に示すようにすべての実施例でSBF浸漬3日以内にアパタイトが表面全体すなわち全表面積の99%以上を覆うように析出した。したがって、これらの試料は生体内で高いアパタイト形成能を示すことが確かめられた。一方、加熱処理後、第3の水溶液処理を施さなかった比較例1の試料はSBF浸漬3日以内にアパタイトを形成しなかった。
【0035】
[骨形成イオンの溶出性評価]
実施例1−2、4−5、7−9の試料を36.5℃に保たれたリン酸緩衝液(PBS)に様々な時間浸漬し、各PBS中に溶出する骨形成イオンの濃度をICPにより測定した。その結果、図9に示すようにPBS中にそれぞれ、0.03〜0.9ppmの骨形成イオンが徐々に溶出する様子が認められた。したがって、この試料は生体内で骨形成イオンを徐放することがわかった。特に第3の水溶液として骨形成イオンを含むものを用いた実施例2及び5の試料は、図10及び11に示すように温水を用いた実施例1及び4の試料に比べて浸漬開始時から骨形成イオンの溶出量が多かった。また、実施例7の試料から溶出した亜鉛イオン濃度は非特許文献5で骨形成に効果があったと報告されている濃度のおよそ倍の濃度であるので、高い骨形成効果が期待される。更に、表3に示すように、第2及び第3の水溶液におけるストロンチウムイオンの濃度を変えることにより、表面層におけるストロンチウムイオン濃度を変え、その結果、溶出するストロンチウムイオンの濃度を変えることが出来ることも確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11