(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206904
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】セメントレス型人工関節
(51)【国際特許分類】
A61F 2/32 20060101AFI20170925BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20170925BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
A61F2/32
A61L27/06
A61L27/14
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-107351(P2013-107351)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-226265(P2014-226265A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508282465
【氏名又は名称】帝人ナカシマメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】森山 茂章
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 圭児
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
【審査官】
石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−220926(JP,A)
【文献】
特表2009−516544(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0233071(US,A1)
【文献】
特表2012−501229(JP,A)
【文献】
特表2013−520268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に形成された孔内に挿入され、ボーンイングロースにより前記骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工関節において、
多孔体構造を有し、前記骨と結合する金属製の骨格部と、
前記骨格部の一部を表面に露出させた状態で前記骨格部が埋め込まれるPEEK樹脂製の樹脂部と
からなるセメントレス型人工関節。
【請求項2】
前記骨格部は、力学的異方性を持つ多孔体構造を有する請求項1記載のセメントレス型人工関節。
【請求項3】
前記骨格部の前記多孔体構造領域の気孔率が30%〜70%である請求項1または2に記載のセメントレス型人工関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨に形成された孔内に挿入され、ボーンイングロースにより骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工関節に関する。
【背景技術】
【0002】
股関節は、骨盤と大腿骨との間に骨頭と呼ばれるボールジョイント状の骨で接続されている構造を持ち、このために歩行や直立などの人間の基本的な行動が可能となっている。股関節疾患は、これら骨頭や骨盤にある骨頭の受け皿に何らかの障害が発生し、その機能が破綻するものである。人工股関節は、これらの障害を除去し、人間の基本的な行動を復活させるための治療器具の1つである。人工股関節は、主として骨盤に固定されるソケットと、これと協働するヘッドと、ヘッドを大腿骨側に固定するステムとからなる。
【0003】
人工股関節は、主としてセメントタイプとセメントレスタイプとの2つに分かれる。セメントタイプは、いわゆるPMMA(ポリメタクリル酸)などのポリマーを用いて人工股関節ステムを固定するものである。セメントレスタイプは、主として人間の骨再生能力を生かして、ソケットやステムなどに骨を誘導する表面処理や構造などを施すことで骨と融合させ、セメントなどを使用せずに固定する手法である。
【0004】
これまでに人工股関節の構成部材の1つであるステムは、主として金属材料で構成されてきた。構成材料は、チタン合金(Ti−6Al−4V)、CoCrMo合金やSUS316Lなどである。また、近年では、例えば特許文献1に記載のようにPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂および炭素繊維材料を用いたステムなども考案されている。これらのステムには、局所的にかかる応力を分散する機構などが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−144011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属材料で構成されたステムは、その材料の特性から人体の骨と比較して弾性率が高い。例えば金属材料の場合、弾性率は110GMPa(チタン合金)、210GPa(CoCr合金)である。また、最近開発されているPEEKは10GPa程度である。これに対して、人骨(皮質骨)は10〜30GPaである。このため、人工関節に置換した場合、元生体とは大幅に異なる材料が生体内に入ってゆくことになる。
【0007】
このことは元来異物である人工関節において、さらに力学的な特性が大きく異なる材料を人体中に存在させることになり、治療後の骨の再生に対して、意図した部分でのボーンイングロースを起こすことが難しく、またストレスシールディングなどを発生する原因となりかねない。
【0008】
そこで、本発明においては、骨と同様の力学特性を有するセメントレス型人工関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセメントレス型人工関節は、骨に形成された孔内に挿入され、ボーンイングロースにより骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工関節において、多孔体構造を有し、骨と結合する金属製の骨格部と、骨格部の一部を表面に露出させた状態で骨格部が埋め込まれる熱可塑性樹脂製の樹脂部とからなる。
【0010】
本発明のセメントレス型人工関節では、骨格部が多孔体構造を有する金属製であるため、人体の骨と比較して弾性率が高いが、この骨格部が熱可塑性樹脂製の樹脂部に埋め込まれており、この樹脂部を構成する熱可塑性樹脂が常温では弾性率が人体の骨と同程度であるため、人工関節全体として見た場合に弾性率が上昇し、人体の骨と同程度の弾性率を実現できる。また、骨と結合する金属製の骨格部の一部が熱可塑性樹脂製の樹脂部の表面に露出しているため、この露出した金属部分がボーンイングロースを発生させ、骨と結合して一体化する。
【0011】
ここで、骨格部は、力学的異方性を持つ多孔体構造を有することが望ましい。これにより、特定の方向に対する人工関節の弾性率を変化させることが可能となる。
【0012】
また、骨格部の多孔体構造領域の気孔率は30%〜70%であることが望ましく、より望ましくは50%〜70%である。骨格部の多孔体構造領域の気孔率が30%〜70%であると、人工関節全体の弾性率を人体の骨と同程度に調整しつつ、一部が熱可塑性樹脂製の樹脂部の表面に露出した際に骨と接触してボーンイングロースを発生させるのに最適である。なお、気孔率が30%未満の場合には、ボーンイングロースの発生が少なくなり、成長しにくくなる可能性がある。一方、70%超の場合には、骨格部の多孔体構造領域の機械的な強度を保てなくなる可能性がある。
【発明の効果】
【0013】
(1)多孔体構造を有し、骨と結合する金属製の骨格部と、骨格部の一部を表面に露出させた状態で骨格部が埋め込まれる熱可塑性樹脂製の樹脂部とからなるセメントレス型人工関節によれば、骨内に埋入された際に人工関節に掛かる応力に対して、必要とされる強度および弾性率を容易に実現することが可能となり、かつ金属製の骨格部の一部が熱可塑性樹脂製の樹脂部の表面に露出して、この露出した金属部分がボーンイングロースを発生させ、骨と結合して一体化するので、セメントレス型人工関節を実現することが可能となる。
【0014】
(2)骨格部が力学的異方性を持つ多孔体構造を有することにより、特定の方向に対する人工関節の弾性率を変化させて、埋入する骨と同様の特性を持つ人工関節を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態におけるセメントレス型人工股関節用ステムの斜視図である。
【
図2】
図1のセメントレス型人工股関節用ステムの右側面図である。
【
図3】
図1のセメントレス型人工股関節用ステムの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のセメントレス型人工関節について、その一実施形態としてのセメントレス型人工股関節用ステムを例に、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態におけるセメントレス型人工股関節用ステムの斜視図、
図2は右側面図、
図3は縦断面図、
図4は
図2のA−A断面図である。
【0017】
図1から
図4に示すように、本発明の実施の形態におけるセメントレス型人工股関節用ステム(以下、単に「ステム」という。)1は、主に、骨盤に固定されるソケット(図示せず。)と、これと協働するヘッド11と共に人工股関節を構成する人工股関節用ステムであり、ヘッド11を大腿骨12側に固定するものである。ステム1は、大転子を避けて大腿骨12の骨端領域から骨幹領域に向けて人工関節手術用ラスプにより形成した窄孔13に挿入される。
【0018】
ステム1は、純チタンやチタン合金(例えば、Ti−6Al−4V)などの骨の誘導能を持ち、骨と結合する金属製の骨格部2と、骨格部2の一部を表面に露出させた状態で骨格部2が埋め込まれるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などの熱可塑性樹脂製の樹脂部3とからなり、ヘッド11からの荷重を導入するためのネック部4、ネック部4を支え荷重を大腿骨12に伝達するボディ部5、ステム1の挿入を助け、姿勢を保持するためのレグ部6とを有する。
【0019】
骨格部2は、ネック部4を除くボディ部5およびレグ部6においては、少なくとも一部に力学的異方性(マクロヘテロ構造)を持つ多孔体構造を有している。骨格部2の多孔体構造領域の気孔率は任意に設定することが可能であるが、本実施形態においては望ましい範囲である30%〜70%としている。気孔率の範囲は、より望ましくは40%〜50%である。なお、本実施形態における気孔率とは、骨格部2の任意の断面において、多孔体構造領域のうち気孔領域が占める面積の割合をいう。
【0020】
図5および
図6は気孔率の測定例を示している。
図5に示す例では、骨格部2の多孔体構造領域の任意の縦断面写真から単位格子形状を抽出、二値化し、金属領域が占めるピクセル数から気孔率を算出している。また、
図6に示す例では、骨格部2の任意の横断面写真から多孔体構造領域を抽出、二値化し、金属領域が占めるピクセル数から気孔率を算出している。
【0021】
また、本実施形態においては、
図3に示すように骨格部2のボディ部5およびレッグ部6の部分はトラス構造状となっており、さらにボディ部5の部分は網状のケージにより覆われた構造を有している。このような骨格部2は、マトリックス材料の中に電子ビーム造形することにより得ることが可能である。
【0022】
樹脂部3の熱可塑性樹脂は、骨格部2のうちネック部4を除くボディ部5およびレグ部6を覆っているが、ボディ部5においては骨格部2の一部を表面に露出させた状態で覆っている。また、樹脂部3の熱可塑性樹脂は、骨格部2の多孔体構造を形成している孔部2aの内部にも充填されている。
【0023】
このように、本実施形態においては、骨格部2のうちボディ部5の一部を樹脂部3の表面に露出しているため、この骨格部2の金属が大腿骨12と接触することでボーンイングロースにより結合力を発生し、大腿骨12と結合して一体化する。なお、本実施形態においては、レグ部6は大腿骨12との間に隙間が形成された状態で装着されるため、骨格部2の金属は露出させていないが、一部露出させる構成とすることも可能である。
【0024】
上記構成のステム1では、骨格部2が多孔体構造を有する金属製であるため、大腿骨12と比較して弾性率が高いが、この骨格部2が熱可塑性樹脂製の樹脂部3に埋め込まれており、この樹脂部3を構成する熱可塑性樹脂が常温では弾性率が大腿骨12と同程度であるため、ステム1全体として見た場合に弾性率が上昇し、大腿骨12と同程度の弾性率を実現できる。そのため、このステム1では、大腿骨12内に埋入された際にステム1に掛かる応力に対して、必要とされる強度および弾性率を容易に実現することが可能となっており、大腿骨12と同様の力学特性を有する人工股関節を実現可能である。
【0025】
特に、本実施形態におけるステム1では、骨格部2が力学的異方性を持つ多孔体構造を有することにより、ステム1の変形の際に特定の方向に対する変形抵抗となり、その特定方向に対して見かけ上弾性率が上昇する。したがって、このステム1では、自在に弾性率を変化させて、埋入する大腿骨12と同様の特性を持つステムを実現できる。また、本実施形態においては、骨格部2の多孔体構造領域の気孔率を30%〜70%として、ステム1全体の弾性率を大腿骨12と同程度に調整しつつ、一部が熱可塑性樹脂製の樹脂部3の表面に露出した際に大腿骨12と接触してボーンイングロースを発生させるのに最適となるようにしている。
【0026】
また、前述のようにステム1は、金属製の骨格部2の一部が熱可塑性樹脂製の樹脂部3の表面に露出して、この露出した金属部分がボーンイングロースを発生させ、骨と結合して一体化するので、セメントレス型人工関節用ステムとして機能する。すなわち、本実施形態におけるステム1は、生体および骨に対して機械的にも生物的にも安全な人工股関節用ステムとなる。なお、本実施形態においては、人工股関節を例にとって説明したが、股関節に限らず、同様に他の部位の関節にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のセメントレス型人工関節は、骨に形成された孔内に挿入され、ボーンイングロースにより骨との結合力を発生させるようにしたセメントレス型人工関節として有用である。
【符号の説明】
【0028】
1 セメントレス型人工股関節用ステム
2 骨格部
2a 孔部
3 樹脂部
4 ネック部
5 ボディ部
6 レグ部
11 ヘッド
12 大腿骨
13 窄孔