【実施例】
【0025】
図1は、単一指向性ダイナミックマイクロホンユニットの実施例を示している。
図1において、ダイナミックマイクロホンユニットは、基体としてユニットケース9を有し、このユニットケース9に以下の各部材が組み込まれることによって組み立てられている。
【0026】
ユニットケース9は円筒形状の部材で、ユニットケース9の
図1における上端部内周に内向きの鍔部91が形成され、鍔部91の内周面に、円筒形状のリングヨーク1の上端部外周面が嵌め込まれて固着されている。リングヨーク1は磁性体からなり、リングヨーク1の上端部内周側には内向きの鍔部11が形成されている。リングヨーク1の内周側にはまた、鍔部11から下側に所定の間隔をおいて段部14が全周にわたって形成され、段部14より下側のリングヨーク1の内径が僅かに大きくなっている。
【0027】
リングヨーク1の段部14には、リングヨーク1の下側解放端から挿入された円板状のヨーク2が押し当てられ、ヨーク2はリングヨーク1に固着されている。リングヨーク1の内周面とヨーク2の外周面は密着し、ヨーク2とリングヨーク1は磁気的に結合している。ヨーク2には、これを厚さ方向に貫通した複数の孔22がヨーク2の外周縁に沿って周方向に一定間隔で形成されている。
【0028】
ヨーク2の上面には、円板状の磁石3がその中心軸線とヨーク2の中心軸線を一致させて固着されている。磁石3は、ヨーク2の上記各孔22の一部のみを塞ぐように外径が定められている。磁石3の上面には、円板状で、磁石3の外径よりもやや大きい外径のポールピース4がその中心軸線と磁石3の中心軸線を一致させて固着されている。
【0029】
リングヨーク1の前記鍔部11の内周面とポールピース4の外周面とが、比較的狭い間隙をおいて対向している。この間隙は円筒形状の磁気ギャップになっている。磁石3、ヨーク2、リングヨーク1、上記磁気ギャップ、ポールピース4で磁気回路を構成している。磁石3から出る磁束は、上記磁気回路を通って磁石3に戻る。上記磁気ギャップには、磁場が周方向に均一に生成されている。
【0030】
磁石3の外径は、この磁石3の外周面が対向するリングヨーク1の内周面の径よりも小さく、磁石3の外周面とリングヨーク1の内周面との間には空気室10が生じている。空気室10は、ヨーク2の上記各孔22を介して、後で説明する後部空気室15と連通し、後部空気室の一部を構成している。本明細書では、後部空気室15に対して上記空気室10を第2空気室という。
【0031】
ユニットケース9の上端外周縁は上方に立ち上がった円筒形状の突堤94になっていて、突堤94の内周側には、振動板5の外周縁部が接着等によって固着されている。振動板5は、合成樹脂や金属の薄膜を素材とした成形部品で、センタードーム51とこのセンタードーム51を囲むサブドーム52を備えている。センタードーム51は球面の一部を切り取った形である。これに対してサブドーム52は、断面が部分円弧形状で、センタードーム51の外周縁に連続して形成されることにより、センタードーム51の外周を取り囲んでいる。サブドーム52の外周縁部がユニットケース9に固着されている。振動板5は、上記のようにサブドーム52の外周縁部がユニットケース9に固着されているため、音波を受けるとその音圧に応じサブドーム52の外周縁部を支点として前後方向(
図1において上下方向)に振動することができる。
【0032】
振動板5にはセンタードーム51とサブドーム52の円形の境界線に沿ってボイスコイル6が固着されている。ボイスコイル6は、細い導線を巻き回すことにより円筒形状に形成されかつ固められたもので、円筒形状の一端が振動板5に固着されている。振動板5のサブドーム52の外周縁部がユニットケース9に固着されている状態で、ボイスコイル6が前記磁気ギャップ内に位置し、ボイスコイル6はリングヨーク1からもポールピース4からも離間している。
【0033】
振動板5の前面側には、振動板5の保護部材を兼ねたイコライザー8が、その外周縁部をユニットケース9の突堤94に固着することによって配置されている。イコライザー8の中心部の天井面はドーム状に形成され、振動板5のセンタードーム51との間に一定間隔で隙間が保たれている。イコライザー8は外部からの音波を振動板5に導くための複数の孔を有している。
【0034】
リングヨーク1の下端部外周には有底円筒14の解放端部が嵌められて固着され、リングヨーク1の下端は有底円筒14によって閉じられている。リングヨーク1および有底円筒14によって、それらの内部に比較的大きな後部空気室15が形成されている。後部空気室15は、磁石3、ヨーク2、リングヨーク1、前記磁気ギャップ、ポールピース4で構成されている磁気回路よりも後方(
図1において磁気回路よりも下方)に形成されている。
【0035】
後部空気室15には、前記ヨーク2の下面に密着させて音響抵抗体7が配置されている。音響抵抗体7は不織布などを厚く重ねることによって形成されていて、後部空気室15の容積のほぼ半分を占めている。音響抵抗体7の下端外周縁部は、有底円筒14の内周に形成されている段部によって支持されるとともに、音響抵抗体7の上端面がヨーク2の下面に押し付けられている。音響抵抗体7は振動板5の背面側にある。振動板5の背面側の空間は、上記磁気ギャップ、第2空気室10、ヨーク2の孔22を経て音響抵抗体7に通じ、さらに空気室15に通じている。
【0036】
ユニットケース9の鍔91には、この鍔91を厚さ方向に貫通する適宜数の孔93が形成されている。孔93は、振動板5のサブドーム52の背面側空間を外部空間に連通させる後部音響端子につながっている。かかる構成にすることによって、このマイクロホンユニットの指向性は単一指向性になっている。ユニットケース9の外周面側にはマイクロホンケース結合部92が形成されている。このダイナミックマイクロホンユニットを使用してダイナミックマイクロホンを構成するには、上記マイクロホンケース結合部92にマイクロホンケースを嵌めて結合する。
【0037】
振動板5は、音波を受けるとその音圧の変化にしたがって前後に振動し、振動板5とともにボイスコイル6も前後に振動する。ボイスコイル6が振動するとき前記磁気ギャップを通っている磁束をボイスコイル6が横切り、ボイスコイル6が音圧の変化に対応した音声信号を発電する。このようにして電気音響変換が行われ、ボイスコイル6の両端の引き出し線によって音声信号が外部に出力される。ボイスコイル6の両端の引き出し線は、例えば、サブドーム52の背面に沿って引き回される。
【0038】
前記従来例と同様に、振動板5のセンタードーム51の背面側空間の音響容量をsc、サブドーム52の背面側空間の音響容量をssとする。ボイスコイル6の内周面とポールピース4の外周面との間に生じている隙間による音響質量をmgi、音響抵抗をrgiとする。ボイスコイル6の外周面とリングヨーク1の鍔部11の内周面との間に生じている隙間による音響質量をmgo、音響抵抗をrgoとする。また、振動板5に前面側からかかる音圧をP1、前記ユニットケース1の空気室15内に配置された音響抵抗体7の音響抵抗をr1、振動板5の背面側空気室の音響質量をmo、音響容量をsoとする。さらに、ヨーク2の内周壁面と磁石3の外周面との間に生じている前記空気室10の音響容量をsg、後部音響端子から前記孔93を経て振動板5の背面側にかかる音圧をP2、孔93の音響抵抗をr2とする。
【0039】
ここまで説明してきたダイナミックマイクロホンユニットの構成は、
図6について説明した従来のダイナミックマイクロホンユニットの構成と同じであり、音響的な等価回路も
図7に示す従来の等価回路と同じになる。よって、この構成のままでは、上記音響質量mgoと音響抵抗rgoが、振動板5の背面側空間の音響容量ssと共振しやすく、周波数応答特性にピークを生じ、指向性の均一化を図ることができない。
【0040】
そこで、
図1に示す実施例では、磁気回路を構成する部材の一つであるリングヨーク1の鍔部11に、この鍔部11を上下方向に貫通する孔12を適宜数形成している。したがって、上記孔12は、振動板5の背面側空間に連通するとともに第2空気室10に連通している。振動板5の背面側空間と後部空気室15とを連通させる空間として上記磁気ギャップがあるが、上記孔12も振動板5の背面側空間と後部空気室15とを連通させている。換言すれば、磁気ギャップとは別に、振動板5の背面側空間と後部空気室15とを連通させる孔12をリングヨーク1に形成している。
【0041】
上記孔12は、
図3に示すように、リングヨーク1の鍔部11の内周面から半径方向外側にずれた位置に形成され、鍔部11の内周面13の一部が孔12によって切除されることのないように考慮している。これにより、磁気ギャップに形成される磁場が弱められることを回避することができる。
【0042】
振動板5の背面側空間と後部空気室15とを連通させる孔12を付加したダイナミックマイクロホンユニットの実施例の音響的な等価回路を
図2に示す。
図2に示す等価回路と
図7に示す従来例の等価回路を対比する。ボイスコイル6の外周面とリングヨーク1の鍔部11の内周面との間に生じている隙間(磁気ギャップ)の音響質量mgoと音響抵抗rgoとの直列接続に、孔12の音響質量myと音響抵抗ryとの直列接続が並列に接続されている。上記音響質量myと音響抵抗ryが付加されている点が従来のダイナミックマイクロホンユニットと異なっている。
【0043】
音響質量myと音響抵抗ryの直列接続が、磁気ギャップの外周側の音響質量mgoと音響抵抗rgoの直列接続に並列に付加されることにより、振動板5の背面側空間から第2空気室10に至る連通空間の音響質量が小さくなる。この部分の音響質量が小さくなることにより、第2空気室10の音響容量sgおよび振動板5のサブドーム52の背面側空間の音響容量ssとの共振が生じにくくなる。マイクロホンの感度を高めるために振動板5のメインドーム51の外径を大きくし、結果として第2空気室10の容量が大きくなり、その音響容量sgが大きくなっても、上記孔12の形成により共振が生じにくくなる。もって、周波数応答特性に生じるピークが軽減され指向性の良好なダイナミックマイクロホンユニットを得ることができる。
【0044】
本発明の効果をさらに高めるために、
図1に示す実施例では、上記孔12を覆う音響抵抗板18が付加されている。音響抵抗板18は、薄板状の素材をエッチング処理することによって形成され、磁気回路を構成するリングヨーク1に形成されている孔12を覆う部分に、無数の微細な孔を有している。
図4は音響抵抗板18の詳細な構成を示す。
図4に示すように、音響抵抗板18は円板状の薄板を打ち抜いて中心孔を形成したドーナツ状の部材で、2つの音響抵抗領域181,182が外周側と内周側に同心円の帯状に形成されている。
【0045】
ユニットケース9の鍔部91の上端面と、リングヨーク1の鍔部11を含む上端面は同一面にあり、これらユニットケース9とリングヨーク1の上端面を覆って音響抵抗板18が張り付けられている。音響抵抗板18の外径は、ユニットケース9の音響抵抗板18貼り付け面の最大径に合わせて設定されている。音響抵抗板18の内径は、リングヨーク1の孔12を塞ぐことができ、かつ、リングヨーク1の鍔部11の内径と同等または上記鍔部11の内径よりも僅かに小さく設定されている。音響抵抗板18の音響抵抗領域181は、ユニットケース9に形成されている前記孔93を覆うことができる位置に形成されている。音響抵抗板18の音響抵抗領域182は、リングヨーク1の鍔部11に形成されている前記孔12を覆うことができる位置に形成されている。
【0046】
音響抵抗板18の製造方法は任意であるが、
図4に示す音響抵抗板18は、ドーナツ状の薄板をエッチング処理することによって製作されている。円形の帯状の音響抵抗領域181,182は、エッチング処理により微細な無数の孔を開けることによって形成されている。音響抵抗板18は、
図1に示すようにユニットケース9とリングヨーク1の同一面をなす上端面に張り付けられる。ユニットケース9に形成されている孔93が音響抵抗領域181で覆われ、リングヨーク1に形成されている孔12が音響抵抗領域182で覆われている。このように、1枚の板状の素材をエッチング処理することによって形成されている1枚の音響抵抗板18が、磁気回路を構成するリングヨーク1とユニットケース9に形成されている孔93、12を覆っている。
【0047】
ボイスコイル6の外周側の面とリングヨーク1の鍔部11の内周面との隙間の音響質量mgoは、上記隙間の大小に大きく依存する。特に、ボイスコイル6の寸法精度は製造ロットごとにばらつきやすく、音響質量mgoのばらつき要因となる。この音響質量mgoのばらつきは、音響抵抗板18を付加し、音響抵抗板18の音響抵抗領域182でリングヨーク1の孔12を覆うことによって軽減することができる。
【0048】
音響抵抗板18はまた、後部音響端子につながるユニットケース9の孔93を音響抵抗領域181で覆っている。ユニットケース9の孔93の音響抵抗r2に付加される上記音響抵抗領域181の音響抵抗値は安定しているため、上記音響抵抗r2が安定化される。
【0049】
エッチング処理によって製造される音響抵抗板18の各音響抵抗領域181,182の音響抵抗値は、製造時の製造条件設定に応じて安定的に定まり、個体間のばらつきは少ない。よって、
図2に示す後部音響端子の音響抵抗r2と、リングヨーク1に付加した孔12の音響抵抗ryが安定的に定まり、高い周波数から低い周波数までピークの少ない周波数応答特性のダイナミックマイクロホンユニットを得ることができる。
図5は、上記実施例に係るダイナミックマイクロホンユニットの周波数応答特性を示しており、高い周波数から低い周波数までピークの少ない特性になっている。
【0050】
音響抵抗板18の各音響抵抗領域181,182の単位面積当たりの音響抵抗値は、同じ値であってもよいし、マイクロホンユニットの設計仕様に応じ異ならせてもよい。また、音響抵抗板18の全面を音響抵抗領域としてもよい。
【0051】
ワイヤレスマイクロホンに用いるマイクロホンユニットのように空気室が小さいユニットにおいては、音響抵抗のばらつきが大きくなり、周波数応答特性がばらつきやすい。しかし、本発明の技術思想を取り入れることにより、空気室の小さいマイクロホンユニットであっても、周波数応答特性のばらつきを軽減することができる。
【0052】
以上説明したダイナミックマイクロホンユニットは、これをマイクロホンケースに組み込むことによって、これまで説明してきた効果を発揮することができるダイナミックマイクロホンを得ることができる。マイクロホンケースには、マイクロホンとしての機能を果たすために、コネクタ、その他適宜の部品が組み込まれる。