(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206912
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0488 20060101AFI20170925BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20170925BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
A61B5/04 330
A61B10/00 G
A61B5/00 101H
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-206283(P2013-206283)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-66401(P2015-66401A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 隆泰
【審査官】
永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0095742(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/067018(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0488 − 5/0492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単発の神経刺激で得られた誘発筋電図と誘発筋音図とを記録し、それらの遠位潜時の差を測定する潜時差測定手段と、
興奮収縮連関の障害の存在を示す障害判定手段と、を有する、興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法において、
潜時差測定手段が、単発の神経刺激で得られた誘発筋電図と誘発筋音図とを記録し、及び、それらの遠位潜時の差を測定するステップと、
障害判定手段が、前記遠位潜時の差がコントロールと比較して増大する場合に、興奮収縮連関に障害があると判定するステップと、を有する、興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法。
【請求項2】
障害判定手段が、前記遠位潜時の差がコントロールと比較して1.2倍以上である場合に、興奮収縮連関に障害があると判定するステップ、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法。
【請求項3】
反復の神経刺激で得られた誘発筋音図を記録し、その振幅を測定する振幅測定手段と、
興奮収縮連関の障害の存在を示す障害判定手段と、を有する、興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法において、
振幅測定手段が、反復の神経刺激で得られた誘発筋音図を記録し、及び、その振幅を測定するステップと、
障害判定手段が、前記振幅がコントロールと比較して漸減する場合に、興奮収縮連関に障害があると判定するステップと、を有する、興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法。
【請求項4】
前記反復の神経刺激は、0.1〜2Hzの電気刺激であることを特徴とする請求項3に記載の興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、興奮収縮連関の障害の
判定装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
興奮収縮連関は、生理的に発生する筋収縮において認められる細胞膜の電気変異から収縮に至るまでの一連の過程である。筋力は筋線維の興奮収縮連関の結果として生じるため、興奮収縮連関に障害があると筋力が低下する。
【0003】
興奮収縮連関の測定には、張力計や加速度計を用いた測定がある。
【0004】
張力計を用いた測定方法としては、例えば、対象となる筋肉の両端を糸で縛り、張力をストレーンゲージにより測定する(非特許文献1)。母子球筋は短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋及び母指内転筋から構成されているが、母指内転筋以外は全て正中神経で支配されている。手関節の部位で正中神経を刺激すると母指は外転運動と屈曲運動及び対立運動が組み合わされて動くため運動の方向が一定にならない。張力計は一方向にのみかかる力を計測するので、母指の動きを一方向に固定する装具が必要である。尺骨神経を刺激すると母子球を構成する母指内転筋のみが収縮するが、尺骨神経で支配されている第一背側骨間筋等も収縮するため、やはり母指の動きを一方向に固定する装具が必要である。張力に影響を及ぼす因子には関節拘縮がある。正中神経を刺激した場合、母指のMP関節が拘縮や変形していると正確な張力の計測ができなくなる。
【0005】
加速度計を用いた測定方法としては、例えば、咬筋を被検筋とし、三叉神経咬筋枝の電気刺激による咬筋の複合筋活動電位と下顎の運動開始時間から潜時差を計測する(非特許文献2)。この測定方法では、咬筋を被検筋とし、三叉神経咬筋枝の電気刺激による咬筋の複合筋活動電位と下顎の運動開始時間から潜時差を計測する方法であるが、加速度計には体動が混入しやすいため正確な加速度の計測ができなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】真島英信, 生理学, pp.47-72, 文光堂(1978)
【非特許文献2】今井富裕, BRAIN MEDICAL vol.23,No.3, 脳と神経を測る(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、簡易且つ正確な興奮収縮連関の障害の
判定装置の作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる興奮収縮連関の障害の
判定装置の作動方法は、単発の神経刺激で得られ
た誘発筋電図と誘発筋音図とを記録し、それらの遠位潜時の差を測定する潜時差測定
手段と、
興奮収縮連関の障害の存在を示す障害判定手段と、を有する、興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法において、潜時差測定手段が、単発の神経刺激で得られた誘発筋電図と誘発筋音図とを記録し、及び、それらの遠位潜時の差を測定するステップと、障害判定手段が、前記遠位潜時の差がコントロールと比較して増大する場合に、興奮収縮連関に障害があると判定する
ステップと、を有する。
【0009】
また、本発明にかかる興奮収縮連関の障害の
判定装置の作動方法は、反復の神経刺激で得られ
た誘発筋音図を記録し、その振幅を測定する振幅測定
手段と、
興奮収縮連関の障害の存在を示す障害判定手段と、を有する、興奮収縮連関の障害の判定装置の作動方法において、振幅測定手段が、反復の神経刺激で得られた誘発筋音図を記録し、及び、その振幅を測定するステップと、障害判定手段が、前記振幅がコントロールと比較して漸減する場合に、興奮収縮連関に障害があると判定する
ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易且つ正確な興奮収縮連関の障害の
判定装置の作動方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】電気刺激に伴って誘発される誘発波形であり、そのうち(a)はモデル的な誘発筋音図波形であり、(b)はモデル的な誘発筋電図波形である。
【
図2】誘発筋電図及び誘発筋音図の記録方法を模式図である。
【
図3】デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者の3例についての誘発筋電図及び誘発筋音図の測定結果を示すものであり、そのうち(a)は15歳のDMD患者の測定結果であり、(b)は16歳のDMD患者の測定結果であり、(c)は17歳のDMD患者の測定結果である。
【
図4】反復の神経刺激の場合の誘発筋電図及び誘発筋音図であり、そのうち(a)は正常コントロール例1であり、(b)は正常コントロール例2である。
【
図5】反復の神経刺激の場合の誘発筋電図及び誘発筋音図であり、そのうち(a)は15歳のDMD患者の測定結果であり、(b)は16歳のDMD患者の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
本発明者は、単発の神経刺激で得られる誘発筋電図(electromyogram:EMG)と誘発筋音図(mechanomyogram:MMG)とを記録し、それらの遠位潜時の差を測定し、遠位潜時の差がコントロールと比較して増大する場合に、興奮収縮連関に障害があると判定できることを新知見として見いだし、かかる新知見に基づいて本発明を完成させた。
【0014】
誘発筋音図は、電気刺激に伴って誘発される収縮に伴う筋の長軸方向の機械的変量を体表から記録したものである。誘発筋電図は、電気刺激に伴って誘発される筋収縮に先行して発生する電気的な複合活動電位を記録したものである。誘発筋音図も誘発筋電図も筋収縮に関与する機能情報である。
【0015】
図1は電気刺激に伴って誘発される誘発波形であり、そのうち(a)はモデル的な誘発筋音図波形であり、(b)はモデル的な誘発筋電図波形である。
図1(a)及び(b)に記載されているように、誘発筋音図及び誘発筋電図の波形の各部には名称がつけられている。
【0016】
遠位潜時とは、特に抹消の手関節や足関節部で刺激を与えてからM波が立ち上がるまでの潜時をいう。なおM波とは、末梢神経刺激を刺激したとき、α運動神経を介して興奮が順行性に筋までたどり着いて生じる活動電位をいう。これに対して、H波とは、刺激電位が筋紡錘からのGIa線維を上行して脊髄に至り、単シナプス反射を介してα細胞を興奮させ、そこから遠心性線維(運動神経)を経て筋を収縮させるような遅い応答をいう。M波は運動神経を刺激電圧が直接伝導するためH波に先行して発現する。
【0017】
興奮収縮連関は骨格筋、心筋、平滑筋のいずれにおいても細胞内Ca
2+濃度に依存する。骨格筋や心筋では活動電位が細胞膜より横行小管を介して筋小胞体へ至り、筋小胞体からCa
2+の放出を引き起こす。これにより細胞内Ca
2+濃度が増加し、トロポニンとCa
2+が結合し、トロポニンにアロステリックな変化が生じる。この変化によりトロポミオシンが動き、ミオシンの作用部位が露出する。これによりミオシンとアクチンが反応して筋収縮が引き起こされる。Ca
2+が正常値まで低下するとトロポニンとCa
2+の結合が解除され、連鎖的に筋収縮は終了する。
【0018】
特に限定されるものではないが、遠位潜時の差がコントロールと比較して1.2倍以上である場合に、興奮収縮連関に障害があると判定することが好ましい。
【0019】
本発明によれば、誘発筋電図と誘発筋音図とを記録してそれらの遠位潜時の差を測定する手法を用いるため正確で再現性に優れた興奮収縮連関の障害判定が可能である。また、単発の神経刺激を用いるため、筋萎縮のある患者への侵襲が少なく、更には幼小児患者であっても正確な記録が可能である。
【0020】
また、本発明者は、反復の神経刺激で得られる誘発筋音図を記録し、その振幅を測定し、誘発筋電図の振幅が一定であるにもかかわらず、誘発筋音図の振幅がコントロールと比較して漸減する場合に、興奮収縮連関に障害があると判定できることを新知見として見いだし、かかる新知見に基づいて本発明を完成させた。筋音図は筋肉の収縮に伴う機械的変量を体表から記録するため、母指が動く方向や関節の拘縮や変形に影響を受けない。
【0021】
特に限定されるものではないが、反復の神経刺激は、0.1〜2Hz、好ましくは0.5〜1Hz程度の低頻度の電気刺激であることが好ましい。
【0022】
本発明によれば、誘発筋音図を記録してその振幅を測定する手法を用いるため正確で再現性に優れた興奮収縮連関の障害判定が可能である。また、低頻度の反復電気刺激を用いることにより、筋萎縮のある患者への侵襲が少なく、更には幼小児患者であっても正確な記録が可能である。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
実施例1では、単発の神経刺激で得られる誘発筋電図と誘発筋音図とを記録した。誘発筋電図及び誘発筋音図は、日本光電株式会社製Neuropack X1(MEB2312)を使用して記録した。
図2は、誘発筋電図及び誘発筋音図の記録方法を模式図である。
図2に示すように、誘発筋音図の増幅にはメディセンス社の筋音計(MPS110)を使用し、専用の筋加速度センサーを母子球筋の最大筋腹部にテープで固定した。また、誘発筋電図は銀-塩化銀皿電極を用い、陰極を母子球筋の最大筋腹部直近に陽極をMP関節部にテープで固定した。誘発筋音図は帯域周波数0.1〜1,000Hzで、誘発筋電図は感度1mV、帯域周波数20〜3,000Hzで記録した。電気刺激強度は運動閾値の1.2倍とし、それぞれの振幅が最大となるよう設定し潜時を計測した。
【0024】
図3は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者の3例についての誘発筋電図及び誘発筋音図の測定結果を示すものであり、そのうち(a)は15歳のDMD患者の測定結果であり、(b)は16歳のDMD患者の測定結果であり、(c)は17歳のDMD患者の測定結果である。誘発筋電図は筋細胞の活動電位を記録したもので、誘発筋音図は筋肉の収縮に伴う機械的変量を体表から記録したものであり、誘発筋電図が発生したのちに筋収縮が生じることから、先に発生している図が誘発筋電図であり、誘発筋電図に遅れて発生している図が誘発筋音図である。
【0025】
下記表1は、正常コントロール6例とDMD患者4例のECCT(遠位潜時の差)を示す。DMD患者4例は、全例でECCTがコントロールよりも延長していた。なお、DMD4の母親は保因者だが、正常コントロールと比べてECCTが延長していた。
【0026】
【表1】
【0027】
(実施例2)
実施例2では、反復の神経刺激(1Hz)で得られる誘発筋電図と誘発筋音図とを記録した。誘発筋電図及び誘発筋音図の記録方法は実施例1と同様であった。
【0028】
図4は、反復の神経刺激の場合の誘発筋電図及び誘発筋音図であり、そのうち(a)は正常コントロール例1であり、(b)は正常コントロール例2である。
図5は、反復の神経刺激の場合の誘発筋電図及び誘発筋音図であり、そのうち(a)は15歳のDMD患者の測定結果であり、(b)は16歳のDMD患者の測定結果である。
【0029】
右(左)正中神経を1Hzの頻度で20回反復刺激したところ、
図4に示すように、正常コントロールでは誘発筋電図の振幅は不変だが、誘発筋音図の振幅は漸増又は不変であった。ところが、
図5に示すように、DMD患者では誘発筋電図の振幅は不変だが、誘発筋音図の振幅は漸減していた。このように、誘発筋電図の振幅が一定にもかかわらず、誘発筋音図の振幅は低下することが、興奮収縮連関の障害を示すということが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
興奮収縮連関の障害の有無の判定に使用できる。