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特許6206925ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体およびこれを用いた分子集合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206925
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体およびこれを用いた分子集合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/338 20060101AFI20170925BHJP
   C07F 9/10 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170925BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 41/00 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20170925BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08G65/338
   C07F9/10 BCSP
   A61K9/127
   A61K47/34
   A61K47/28
   A61K47/24
   A61K41/00
   A61K31/69
   A61K47/60
   A61P35/00
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-531673(P2014-531673)
(86)(22)【出願日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2013072458
(87)【国際公開番号】WO2014030715
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2016年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-184283(P2012-184283)
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松村 明
(72)【発明者】
【氏名】中井 啓
(72)【発明者】
【氏名】白川 真
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−343858(JP,A)
【文献】 特開2008−94730(JP,A)
【文献】 特開2008−13498(JP,A)
【文献】 Manabu Ueno,Dodecaborate lipid liposomes as new vehicles for boron delivery system of neutron capture therapy,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2010年,V18, N9,P3059-3065
【文献】 中村浩之,ホウ素の中性子捕捉反応を利用した低侵襲細胞選択的放射線療法,YAKUGAKU ZASSHI,2010年,V130, N12,P1687-1694
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/328
A61K 9/127
A61K 31/69
A61K 41/00
A61K 47/24
A61K 47/28
A61K 47/34
A61K 47/60
A61P 35/00
C07F 9/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化6】

[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、qは、1〜280の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数8〜22の炭化水素基である。]
で示されるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体。
【請求項2】
およびRが、それぞれ独立して、炭素数12〜22の直鎖状または分岐状のアルキル基である、請求項1記載のPEG脂質誘導体。
【請求項3】
mが2であり、かつ、nが1である、請求項1または2記載のPEG脂質誘導体。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項記載のPEG脂質誘導体を含む分子集合体。
【請求項5】
PEG脂質誘導体を分子集合体の全構成脂質に対してモル比で2〜20%含む、請求項4記載の分子集合体。
【請求項6】
L−α−ホスファチジルコリンジアステロイルおよびコレステロールをさらに含む、請求項4または5記載の分子集合体。
【請求項7】
リポソームである、請求項4から6の何れか1項記載の分子集合体。
【請求項8】
動的光散乱法により測定したリポソームの粒子径が50〜400nmである、請求項7記載の分子集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍組織を認識し、ホウ素デリバリーを可能としたドラッグキャリアーとして有用なPEG脂質誘導体およびこれを用いた分子集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
癌のホウ素中性子捕捉療法(以下「BNCT」ともいう。)は、あらかじめ腫瘍組織に取り込ませた10B核と生体にほぼ影響を及ばさない熱中性子線の捕捉反応によって生じるα粒子およびLi粒子によって腫瘍細胞を障害する放射線療法である。この核反応の結果生じる粒子線の飛程はおよそ細胞直径と等しいため、あらかじめ腫瘍組織にのみホウ素を高濃度で集積させることができれば、そのうえに熱中性子を照射することで、正常組織の損傷を最小限にしながら、腫瘍組織を細胞選択的に障害し、放射線感受性の低い腫瘍や浸潤性の腫瘍においても治療効果を有することが期待される。臨床的に浸潤性で予後不良である悪性脳腫瘍(神経膠芽腫)や、頭頸部癌の再発例にたいして臨床研究がおこなわれており、良好な成績が報告されている(非特許文献1)。
臨床で用いられているホウ素化合物は、ボロノフェニルアラニン(BPA)および、BSHとよばれるホウ素イオンクラスターの単分子化合物である。これら化合物は、臨床応用されているものの、腫瘍集積の観点からは十分とはいえず、腫瘍・正常組織におけるホウ素濃度比(T/N比)をさらに向上させる試みが続けられている。さらに腫瘍組織のみへ高濃度でホウ素を集積させる技術として、表面をポリエチレングリコール(PEG)で被覆したリポソームに、BHA(10B enriched 4−Borono−L−phenylalanine、C1210BNO)およびBSH(10B enriched Sodium mercaptododecaborate、BSH[CAS No.12448−24−7]、[101211SH]Na)などの親水性ホウ素化合物を封入する手法が用いられている(非特許文献2)。
しかしながら、これらの方法では有効な治療域までのホウ素集積が難しいこと、また、目標とされるT/N比の達成との両立ができていないため、正常組織でのホウ素による正常組織への放射線障害や治療効果の低減が大きな問題となっている。
脂質と水性ホウ素化合物を共有結合によって結合させ、リン脂質二重膜内にホウ素化合物を取り込ませる技術も開発されているが、多段階かつ複雑な合成を必要とするため、効率やコスト面から問題が多い。また動物実験において急性毒性が数例報告されており、安全面においても問題がある(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Boron neutron capture therapy for newly diagnosed glioblastoma. Yamamoto T, Nakai K, Kageji T, Kumada H, Endo K, Matsuda M, Shibata Y, Matsumura A.Radiother Oncol. 2009 Apr;91(1):80-4. Epub 2009 Mar 11.
【非特許文献2】Intracellular targeting of sodium mercaptoundecahydrododecaborate (BSH) to solid tumors by transferrin-PEG liposomes, for boron neutron-capture therapy (BNCT).Maruyama K, Ishida O, Kasaoka S, Takizawa T, Utoguchi N, Shinohara A, Chiba M, Kobayashi H, Eriguchi M, Yanagie H.J Control Release. 2004 Aug 11;98(2):195-207.
【非特許文献3】Synthesis of boron cluster lipids: closo-dodecaborate as an alternative hydrophilic function of boronated liposomes for neutron capture therapy.Lee JD, Ueno M, Miyajima Y, Nakamura H.Org Lett. 2007 Jan 18;9(2):323-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在ホウ素中性子捕捉療法に用いるためのホウ素化合物に要求されている一般的な性能は以下のとおりである。
i)腫瘍内に少なくとも20ug/g以上の10B濃度を達成できる。ii)一方で正常組織において10B濃度は可能な限り低濃度である。iii)Tumor/blood比で5〜10以上が望ましい。
この濃度を達成するためには、一般の医薬品と異なり、生体へのホウ素化合物の大量投与が必要である。そのため、ホウ素中性子捕捉療法に用いるためには、ホウ素化合物の毒性が低いことが重要となる。現在の化合物BSHではヒト成体あたり5g、BPAでは15〜25gの急速静注投与を要しており、これは一般の医薬品の10〜100倍の重量である。
このような状況下、癌のホウ素中性子捕捉療法において利用可能なDrug Delivery System(DDS)効率の向上と腫瘍内のホウ素の高濃度化、さらには低毒性を実現しうる新規ホウ素担体化合物の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、分子集合体を構築する脂質へのホウ素修飾によって、腫瘍内のホウ素の高濃度化と、DDSを用いることによる正常細胞への低集積化とを実現できる可能性が高いことを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下に示したホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体およびそれを含む分子集合体に関するものである。
[1]式(I):
【化1】

[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、qは、1〜280の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数8〜22の炭化水素基である。]
で示されるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体。
[2]RおよびRが、それぞれ独立して、炭素数12〜22の直鎖状または分岐状のアルキル基である、[1]記載のPEG脂質誘導体。
[3]mが2であり、かつ、nが1である、[1]または[2]記載のPEG脂質誘導体。
[4][1]から[3]の何れか1項記載のPEG脂質誘導体を含む分子集合体。
[5]PEG脂質誘導体を分子集合体の全構成脂質に対してモル比で2〜20%含む、[4]記載の分子集合体。
[6]L−α−ホスファチジルコリンジアステロイルおよびコレステロールをさらに含む、[4]または[5]記載の分子集合体。
[7]リポソームである、[4]から[6]の何れか1項記載の分子集合体。
[8]動的光散乱法により測定したリポソームの粒子径が50〜400nmである、[7]記載の分子集合体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、癌のホウ素中性子捕捉療法に利用可能な新規ホウ素担体化合物を提供することができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含む分子集合体を用いることで、腫瘍内のホウ素の高濃度化とDDSを用いることによる正常細胞への低集積化とを実現できる可能性が高い。なお、本発明者らは、ホウ素濃度2000ppm(脂質濃度として215.6mg/ml)までは急性毒性がないこと、さらには身体所見による異常がないことを確認している。したがって、本発明の分子集合体は低毒性であり、ホウ素中性子捕捉療法に好適に用いることができるホウ素担体化合物であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態であるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含むリポソームの概念図である。
図2A】実施例1で得られた化合物のマススペクトルである。
図2B】実施例1で得られた化合物のマススペクトルにおけるピークの拡大図である。
図3】実施例1で得られた化合物の高速液体クロマトグラフである。
図4】実施例3で得られたゲル排除クロマトグラフィーにより分離される各分画の一例を示したグラフである。
図5】実施例3で得られた各リポソームにおけるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の組込率を示したグラフである。
図6】PEG−Boron−lipid 5%リポソームの透過型電子顕微鏡写真(加速電圧:100kV)である。
図7】実施例5で得られた化合物のH−NMRスペクトルのチャートである。
図8】実施例5で得られた化合物の10B−NMRスペクトルのチャートである。
図9A】実施例5で得られた化合物のマススペクトルである。
図9B】実施例5で得られた化合物のマススペクトルにおけるピークの拡大図である。
図10】実施例5で得られた化合物の高速液体クロマトグラフである。
図11】PEG−Boron−lipid修飾リポソームに熱中性子線を照射したときの細胞毒性反応を示したグラフである。
図12】PEG−Boron−lipid修飾リポソームに熱中性子線を照射したときの抗腫瘍効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体およびそれを含む分子集合体について詳細に説明する。
【0010】
1.ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、式(I):
【化2】

[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、qは、1〜280の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数8〜22の炭化水素基である。]
で示される化合物である。
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、PEG脂質に、ホウ素クラスター(101213)が修飾された構造を有していることにより、リポソームなどの分子集合体の構成脂質として用いることができ、BNCTに用いるホウ素担体化合物として利用可能である。
式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、好ましくは、1または2である。原料を入手しやすいことから、mは2であることが好ましく、nは1であることが好ましい。
qは、1〜280の整数であり、好ましくは、10〜114の整数であり、より好ましくは、44〜66の整数である。この範囲であると、PEGによる水和相の厚さおよび運動による立体障害性から最も血中滞留性を得やすい。
およびRは、それぞれ独立して、炭素数8〜22の炭化水素基である。炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、炭化水素基は、カルボキシル基、水酸基、アミノ基およびメルカプト基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。炭化水素基の炭素数は、好ましくは12〜20であり、より好ましくは14〜18である。炭化水素基は、二重結合や三重結合などの不飽和結合を有していてもよく、その場合にその数は1〜4であることが好ましい。中でも、RおよびRとしては、炭素数12〜22の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数14〜18の直鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素数17の直鎖状のアルキル基が特に好ましい。
【0011】
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、式(II):
【化3】

[式中のm、n、q、RおよびRは、式(I)におけるものと同義である。]
で示されるマレイミド誘導体と、Katchem spol.sr.o., Ltd.より販売されている、10B enriched Sodium mercaptododecaborate(BSH)[CAS No.12448−24−7]、[101211SH]Naとを、リン酸緩衝生理食塩水中で反応させることで簡便に製造することができる。
反応後は、凍結乾燥し、その後、粗生成物を超純水で溶解後、透析により純度を上げ、凍結乾燥することで目的の化合物を得ることができる。
式(II)で示される化合物は、例えばアミノ酸の末端に疎水的なアルキル鎖を導入して、膜貫通型とし、その末端にマレイミドPEGを結合することで製造することができる。また、式(II)で示される化合物として市販品を用いることもできる。例えば、NOF CORPORATIONより販売されているSUNBRIGHT(登録商標)SERIES DSPE−020MA、DSPE−050MA、DSPE−PEG−MAL(化合物名:N−[(3−Maleimide−1−oxopropyl)aminopropyl polyethyleneglycol−carbamyl] distearoylphosphatidyl−ethanolamine)、Avanti Polar Lipids社より販売されているDEPE−PEG(2000)Maleimide(化合物名:1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine−N−[mal(polyethylene glycol)−2000](ammonium salt))などが挙げられる。
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、分子集合体の構成脂質として用いることができる。
【0012】
2.分子集合体
本発明の分子集合体は、構成脂質として、前記ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含むものであれば特に制限されない。
本発明の分子集合体に用いられるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の量は、特に制限されないが、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で2〜20%が好ましく、3〜15%がより好ましく、5〜10%がさらに好ましい。ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の量を適宜調整することで、目的に応じて腫瘍内のホウ素の濃度を制御することが可能である。
【0013】
本発明の分子集合体には、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体以外の他の構成脂質を含んでいてもよい。
他の構成脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)など)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質類;スフィンゴエミリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロールなどのスフィンゴリン脂質類;などのリン脂質が挙げられる。中でも、ホスファチジルコリンが好ましく、L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)が特に好ましい。
本発明の分子集合体に用いられるリン脂質の量は、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で40〜95%が好ましく、40〜70%がより好ましく、40〜50%がさらに好ましい。
【0014】
また、他の構成脂質としてはステロイド類が挙げられる。ステロール類としては、例えば、エルゴステロール、コレステロール、トリグリセリド等が挙げられる。中でも、コレステロールが好ましい。
本発明の分子集合体に用いられるステロイド類の量は、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で0〜50%が好ましく、30〜50%がより好ましく、40〜50%がさらに好ましい。
【0015】
さらに、本発明の分子集合体は、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ糖脂質類;ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質類;などの糖脂質を含んでいてもよい。中でも、ガングリオシドG4が好ましい。
糖脂質の量は、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で4〜24%が好ましい。
【0016】
本発明の分子集合体の形態は、例えば、高分子集合体、高分子ミセル、エマルジョン、リピドマイクロフィア、二分子膜小胞体(リポソーム)、その他の分子集合体(チューブ、ファイバー、リボン、シート等)などが挙げられる。中でも、本発明の分子集合体はリポソームの形態であることが好ましい。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態であるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含むリポソームの概念図である。図1に示されるように、本発明のリポソームにおいては、構成脂質が形成する脂質二分子膜の小胞体の表面をPEGが包囲しており、そのさらに表面にホウ素クラスターが結合していると考えられる。
【0018】
本発明の分子集合体がリポソームである場合、動的光散乱法により測定したリポソームの粒子径は50〜400nmが好ましく、50〜200nmがより好ましく、100〜200nmがさらに好ましい。
【0019】
本発明の分子集合体は、公知の方法に準じて製造することができる。
例えば、リポソームの製造方法としては、単独もしくは混合脂質の薄膜に水系溶媒を加え、水和・膨潤させ超音波処理する、プローブ法、浴槽法が挙げられる。また、単独もしくは混合脂質の薄膜に水系溶媒を加えてからボルテックス処理し、その後超音波処理する撹拌(ボルテックスミキシング、ホモジナイザー)法が挙げられる。
あるいは、単独または混合脂質を有機溶媒に溶解させ、その溶液を水相の中に注入するエタノール注入法、エーテル注入法が挙げられる。
あるいは、単独もしくは混合脂質の薄膜にコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、Triton X、オクチルグリコシドまたはラウリルエーテルなどの非イオン性界面活性剤と共に水相に分散させてエマルジョンを形成させ、透析によって除去してリポソームを製造することもできる。
あるいは単独もしくは混合脂質の薄膜に水系溶媒を加え、激しく懸濁し、得られた溶液を超音波処理する。その後液体窒素による凍結・融解をおこなう凍結融解法が挙げられる。
あるいは、単独または混合脂質を有機溶媒に溶解させ、その溶液に水系溶媒を少量加え超音波振動を与える。そしてエタノール、エーテルなどの有機溶媒を減圧または透析などにより除去してリポソームを製造する逆相蒸発法(REV法)が挙げられる。
上記で得られたリポソームを高圧押出(エクストルージョン)法、フレンチプレス法などにより粒子径を調節する。
【0020】
上記のようにして、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を構成脂質として含む本発明の分子集合体を製造することができる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の分子集合体は、DDSを用いることにより、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体に含まれる10B核を効率よく腫瘍組織に取り込ませることができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の分子集合体はホウ素中性子捕捉療法に好適に用いることができる。
本発明の分子集合体は、例えば、経口、非経口、静脈、経皮、吸入経由さらには疾患部位に対して直接投与することができる。投与量は、有効量の範囲内であれば良く、対象疾患、投与対象、投与方法、症状などによっても異なるが、通常、体重1kg当たり、約1500〜約7500mg(脂質重量)である。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、これらの実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0022】
ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の製造(1)
SUNBRIGHT(登録商標)SERIES DSPE−020MA(NOF CORPORATION)120mgおよび10B enriched Sodium mercaptododecaborate(BSH)(Katchem spol.sr.o., Ltd.)40mg、PBS(6mL、pH7.0)を0.1M NaOH水溶液にてpH8.0に調製し、室温で、3時間反応させた。反応は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で進行度合いを確認しながら行った。
その後、透析(MWCO:500〜1000)により粗生成物の純度を上げ、凍結乾燥を行って次式で示される目的物を得た。目的物の純度は高速液体クロマトグラフの結果(図3)から81.7%(重量基準)、収量は115.4mgであった。
【化4】
【0023】
透析の条件およびPBS調製時に用いた各試薬は、以下に示したとおりである。
透析の条件:
外液:超純水
外液交換:5回/2時間
室温
PBS調製時に用いた各試薬:
リン酸水素ナトリウム12水和物
リン酸二水素カリウム
塩化ナトリウム
塩化カリウム
上記試薬は、いずれも、SIGMA Aldrichから入手した。
【0024】
化合物の同定は、マススペクトルおよび高速液体クロマトグラフにより行った。結果を図2A、Bおよび3に示す。
図2AおよびBに示されるとおり、本化合物のExact massである3146.07に対し、3147.690の測定値を確認できた。これは分子量誤差(%)が0.08%であり、本化合物の合成に成功したといえる。また、他のピークに関して、分子量44ずつの差がみられているが、これはポリエチレングリコール(PEG)の1mer(−CHCHO−)に相当し、本化合物の合成が成功したことを裏付けている。
また、図3に示されるとおり、ピーク面積81.71%の測定値を確認できた。ゆえに本化合物は上記合成スキームにより高純度で得られたといえる。
【実施例2】
【0025】
リポソームの調製
L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)、コレステロール(Chol)および実施例1で製造したホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体(PEG−Boron−lipid)を、表1に示した組成比(モル比)で用いて混合脂質を調製し、有機溶媒(クロロホルム、メタノール)に溶解させ、バンガム法によりリポソームを作製した。得られたリポソームは、エクストルージョンを用いて100nmサイジングし、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体をそれぞれ5%、10%、15%または20%含むリポソーム(1)〜(4)を調製した。
【表1】
【実施例3】
【0026】
ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体(PEG−Boron−lipid)のリポソームへの組込率
実施例2で調製した各リポソームについて、ゲルサイズ排除クロマトグラフィーにより、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体のリポソームへの組込率を調べた。
まず、実施例2で得られたリポソーム混合溶液を、ゲルサイズ排除クロマトグラフィーにより、リポソーム画分、ミセル画分、単分子画分に分離した。各分画の一例を図4に示す。
次に、リポソーム分画に含まれるホウ素原子の濃度(ppm)を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)(株式会社島津製作所製、「ICPS−8100」)により測定し、その測定値から、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体のリポソームへの組込率を算出した。
その結果、実施例2で得られた各リポソームにおいて、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は効率よく組み込まれていることが分かった。実施例2で得られた各リポソームに対するホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の組込率を表2および図5に示す。
【表2】
【実施例4】
【0027】
リポソームの物性
動的光散乱法(Zetasizer Nano ZS、Malvern Instruments Ltd.社製)により、L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)、コレステロール(Chol)、L−α−ジステアロイル−ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)−PEG2000(DSPE−PEG2000)および実施例1で製造したホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の2種以上で構成される単分散の各リポソームの粒子径およびゼータ電位を測定し、比較した。各リポソームは、実施例2と同様に、脂質薄膜法、続いて押出法により調製した。結果を表3に示す。
【表3】

表3に示すとおり、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含む本発明のリポソーム(PEG−Boron−lipid 5%リポソームあるいはPEG−Boron−lipid 10%リポソーム)は、PEG修飾リポソーム(PEGリポソーム)と同様、マイナスの値のゼータ電位を示した。また、本発明のリポソームの粒子径は、およそ100nmから200nm以下であり、最もEPR効果(enhanced permeability and retention effect)が得られる粒子径にコントロールされている。
図6は、PEG−Boron−lipid 5%リポソームの透過型電子顕微鏡写真(加速電圧:100kV)である(図中、矢印で示す。)。図6に示されるとおり、PEG−Boron−lipid修飾リポソームは二重ラメラを形成し、単層構造である。
【実施例5】
【0028】
ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の製造(2)
SUNBRIGHT(登録商標)SERIES DSPE−020MA(NOF CORPORATION)120mgおよび10B enriched Sodium mercaptododecaborate(BSH)(Katchem spol.sr.o., Ltd.)40mg、PBS(6mL、pH7.0)を0.1M NaOH水溶液にてpH8.0に調製し、遮光、室温で、3時間反応させた。反応は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で進行度合いを確認しながら行った。
その後、透析(MWCO:500〜1000)により粗生成物の純度を上げ、凍結乾燥を行って次式で示される目的物を得た。目的物の純度は、89.05%(重量基準)、収量は135.0mgであった。
【化5】
【0029】
透析の条件およびPBS調製時に用いた各試薬は、以下に示したとおりである。
透析の条件:
外液:超純水
外液交換:5回/2時間
室温、遮光
PBS調製時に用いた各試薬:
リン酸水素ナトリウム12水和物
リン酸二水素カリウム
塩化ナトリウム
塩化カリウム
上記試薬は、いずれも、SIGMA Aldrichから入手した。
【0030】
化合物の同定は、H−NMR、10B−NMR、マススペクトル(飛行時間型質量分析法、TOF−MS)および高速液体クロマトグラフにより行った。結果を図7、8、9および10にそれぞれ示す。
図7に示されるとおり、PEG−Boron−lipidはアルキル鎖末端のメチル基(2CHCH)のピーク δ=0.89[t、6H]を観測し、合成物にアルキル鎖が2本あることを確認した。
また、図8に示されるとおり、PEG−Boron−lipidはホウ素ピークδ=−11からδ=−16を観測し、合成物はホウ素化合物であることを確認した。
また、図9A及びBに示されるとおり、本化合物のExact massである3146.07に対し、3145.520の測定値を確認できた。これは分子量誤差(%)が0.017%であり、本化合物の合成に成功したといえる。また、他のピークに関して、分子量44ずつの差がみられているが、これはポリエチレングリコール(PEG)の1mer(−CHCHO−)に相当し、本化合物の合成が成功したことを裏付けている。
また、図10に示されるとおり、ピーク面積89.05%の測定値を確認できた。ゆえに本化合物は上記合成スキームにより高純度で得られたといえる。
【実施例6】
【0031】
中性子線照射による正常細胞への影響 (in vitro)
以下に示す方法で、中性子線照射による正常細胞への影響 (in vitro)を検討した。試験に用いた細胞腫はV79 379A(classification;normal)である。
<方法>
脂質組成比(DSPC:Chol:PEG−Boron−lipid=1:1:0.12)、脂質濃度50mg/mL、超音波処理法で調製したリポソーム懸濁液を超遠心分離(100,000×g、2時間、4℃)し、得られたPEG−Boron−lipid 5%リポソームを用いた。中性子線照射はKURで行った。2.65×1012thermal neutron/cmを各時間(15分、30分、5分)照射した。照射後、ギムザ染色液を用いて、コロニーフォメーションアッセイを行った。照射時に用いたサンプルは次の2つである。
(1)wash
V79 379A細胞(4×10cells)を25Tflaskに播種し、37℃、5%CO条件下6時間培養した。6時間後、培地を交換し、新鮮培養液4mLにPEG−Boron−lipid 5%リポソーム溶液を1mL添加し、37℃、5%CO条件下2時間培養した。2時間後、培地を除去し、PBSで洗浄後、トリプシンを加えて細胞をはがし、細胞を遠心分離で沈殿させ、上清を除き、新鮮培養液2mLを加えて細胞懸濁液とした。細胞懸濁液2mLから500μLをクライオチューブに分取し、1サンプルとした。
(2)non wash
V79 379A 細胞(4×10cells)を25Tflaskに播種し、37℃、5%CO条件下6時間培養した。6時間後、培地を除去し、PBSで洗浄後トリプシンを加えて細胞をはがし、細胞数をカウントした。細胞を遠心分離で沈殿させ、上清を除き、新鮮培養液1mLを加えて細胞懸濁液とした。クライオチューブにV79 379A細胞 250μl(1×10cells)を分取し、PEG−Boron−lipid 5%リポソーム溶液250μLを添加し、2時間培養した細胞懸濁液を1サンプルとした。
<結果>
図11に示されるとおり、PEG−Boron−lipid 5%リポソームをV79 379A細胞に添加後、1washの操作を行った群(PBL(wash))は、中性子線照射のみを行った群(irradiation only)と比較して、中性子線照射のみを行った群と同等の殺細胞効果しか観察されず、PEG−Boron−lipid 5%修飾リポソーム添加による有意差がないことを確認した。検定にはスチューデントのt検定を用いた。また、2non washの操作を行った群(PBL(non wash))においては、中性子線照射により殺細胞効果が観察され、PEG−Boron−lipid 5%修飾リポソームが10B−enrichのホウ素原子団を含有していることを確認した。
V79 379Aは、Classification normalであり、正常細胞との毒性実験として行った。その結果、PEG−Boron−lipidは中性子照射によってのみ殺細胞効果を得ると考えられる。
【実施例7】
【0032】
中性子照射による抗腫瘍効果の測定 (in vivo)
以下に示す方法で中性子線照射による抗腫瘍効果を測定した(in vivo)。
<方法>
実施例6と同様にして作製したPEG−Boron−lipid 5%リポソームを担がんマウスに投与し、そのBNCT治療効果を検討した。担がんモデルは、BALB/cA mice(female、4weeks old,weighting 16−20g)にマウス大腸がん細胞(CT26、5×10cells)を右大腿部に播種し、腫瘍直径6−8mmとなるように作製した(injection後、約8日)。実験の際には、マウスはイソフルレンの吸入麻酔器を用いて、苦痛なく処置を行った。一連の動物実験にあたっては、あらかじめ、動物実験計画書を筑波大学動物実験委員会に提出し、動物実験に関する法規、基準に準拠し、動物に対する苦痛の軽減等についても考慮した計画とし、認可を得た。また、同様の手続きを京都大学共同利用申請において行った。
作製した担がんマウスにPEG−Boron−lipid 5%リポソームを10mg10B/kgで尾静注し、24時間後に中性子線照射をKURで行った。中性子線量は、4.5−7.0×1012neutron/cmとした。
腫瘍増殖抑制効果を照射後の腫瘍径を経時的に21日目まで測定し、コントロール群と比較した。コントロールには、BSH溶液群(BSH、6例)、中性子線照射のみ群(irradiation only、6例)、投薬・照射なし群(no treatment、12例)を用いて、比較検討した。腫瘍サイズの測定は下記の計算式を用いた。
(長径(mm))×(短径(mm)) = 腫瘍サイズ(mm
<結果>
図12に示されるとおり、PEG−Boron−lipid 修飾リポソームは10、14、17、21日目において、いずれの群とも比較して有意に腫瘍増殖抑制が見られ、特に14日までは腫瘍が増大することはなかった。また、PEG−Boron−lipid 5%リポソーム投与群6例のうち1例に腫瘍の完全消失を確認した。
腫瘍増殖抑制効果は図12からはBSHとの比較によってのみの結果である。しかし、臨床例として用いられているBSHよりも良好な結果を得たことから、その効果は高いといえる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、ホウ素デリバリーを可能としたドラッグキャリアーとして有用である。本発明の好ましい態様によれば、該PEG脂質誘導体を含む本発明の分子集合体は、腫瘍内のホウ素の高濃度化と、DDSを用いることによる正常細胞への低集積化とを実現できる可能性が高く、癌のホウ素中性子捕捉療法におけるホウ素担体化合物としての利用が期待される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12