【文献】
Manabu Ueno,Dodecaborate lipid liposomes as new vehicles for boron delivery system of neutron capture therapy,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2010年,V18, N9,P3059-3065
【文献】
中村浩之,ホウ素の中性子捕捉反応を利用した低侵襲細胞選択的放射線療法,YAKUGAKU ZASSHI,2010年,V130, N12,P1687-1694
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
癌のホウ素中性子捕捉療法(以下「BNCT」ともいう。)は、あらかじめ腫瘍組織に取り込ませた
10B核と生体にほぼ影響を及ばさない熱中性子線の捕捉反応によって生じるα粒子および
7Li粒子によって腫瘍細胞を障害する放射線療法である。この核反応の結果生じる粒子線の飛程はおよそ細胞直径と等しいため、あらかじめ腫瘍組織にのみホウ素を高濃度で集積させることができれば、そのうえに熱中性子を照射することで、正常組織の損傷を最小限にしながら、腫瘍組織を細胞選択的に障害し、放射線感受性の低い腫瘍や浸潤性の腫瘍においても治療効果を有することが期待される。臨床的に浸潤性で予後不良である悪性脳腫瘍(神経膠芽腫)や、頭頸部癌の再発例にたいして臨床研究がおこなわれており、良好な成績が報告されている(非特許文献1)。
臨床で用いられているホウ素化合物は、ボロノフェニルアラニン(BPA)および、BSHとよばれるホウ素イオンクラスターの単分子化合物である。これら化合物は、臨床応用されているものの、腫瘍集積の観点からは十分とはいえず、腫瘍・正常組織におけるホウ素濃度比(T/N比)をさらに向上させる試みが続けられている。さらに腫瘍組織のみへ高濃度でホウ素を集積させる技術として、表面をポリエチレングリコール(PEG)で被覆したリポソームに、BHA(10B enriched 4−Borono−L−phenylalanine、C
9H
1210BNO
4)およびBSH(10B enriched Sodium mercaptododecaborate、BSH[CAS No.12448−24−7]、[
10B
12H
11SH]Na
2)などの親水性ホウ素化合物を封入する手法が用いられている(非特許文献2)。
しかしながら、これらの方法では有効な治療域までのホウ素集積が難しいこと、また、目標とされるT/N比の達成との両立ができていないため、正常組織でのホウ素による正常組織への放射線障害や治療効果の低減が大きな問題となっている。
脂質と水性ホウ素化合物を共有結合によって結合させ、リン脂質二重膜内にホウ素化合物を取り込ませる技術も開発されているが、多段階かつ複雑な合成を必要とするため、効率やコスト面から問題が多い。また動物実験において急性毒性が数例報告されており、安全面においても問題がある(非特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体およびそれを含む分子集合体について詳細に説明する。
【0010】
1.ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、式(I):
【化2】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、qは、1〜280の整数であり、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数8〜22の炭化水素基である。]
で示される化合物である。
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、PEG脂質に、ホウ素クラスター(
10B
12H
13)が修飾された構造を有していることにより、リポソームなどの分子集合体の構成脂質として用いることができ、BNCTに用いるホウ素担体化合物として利用可能である。
式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜4の整数であり、好ましくは、1または2である。原料を入手しやすいことから、mは2であることが好ましく、nは1であることが好ましい。
qは、1〜280の整数であり、好ましくは、10〜114の整数であり、より好ましくは、44〜66の整数である。この範囲であると、PEGによる水和相の厚さおよび運動による立体障害性から最も血中滞留性を得やすい。
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数8〜22の炭化水素基である。炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、炭化水素基は、カルボキシル基、水酸基、アミノ基およびメルカプト基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。炭化水素基の炭素数は、好ましくは12〜20であり、より好ましくは14〜18である。炭化水素基は、二重結合や三重結合などの不飽和結合を有していてもよく、その場合にその数は1〜4であることが好ましい。中でも、R
1およびR
2としては、炭素数12〜22の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数14〜18の直鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素数17の直鎖状のアルキル基が特に好ましい。
【0011】
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、式(II):
【化3】
[式中のm、n、q、R
1およびR
2は、式(I)におけるものと同義である。]
で示されるマレイミド誘導体と、Katchem spol.sr.o., Ltd.より販売されている、10B enriched Sodium mercaptododecaborate(BSH)[CAS No.12448−24−7]、[
10B
12H
11SH]Na
2とを、リン酸緩衝生理食塩水中で反応させることで簡便に製造することができる。
反応後は、凍結乾燥し、その後、粗生成物を超純水で溶解後、透析により純度を上げ、凍結乾燥することで目的の化合物を得ることができる。
式(II)で示される化合物は、例えばアミノ酸の末端に疎水的なアルキル鎖を導入して、膜貫通型とし、その末端にマレイミドPEGを結合することで製造することができる。また、式(II)で示される化合物として市販品を用いることもできる。例えば、NOF CORPORATIONより販売されているSUNBRIGHT(登録商標)SERIES DSPE−020MA、DSPE−050MA、DSPE−PEG−MAL(化合物名:N−[(3−Maleimide−1−oxopropyl)aminopropyl polyethyleneglycol−carbamyl] distearoylphosphatidyl−ethanolamine)、Avanti Polar Lipids社より販売されているDEPE−PEG(2000)Maleimide(化合物名:1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine−N−[mal(polyethylene glycol)−2000](ammonium salt))などが挙げられる。
本発明のホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は、分子集合体の構成脂質として用いることができる。
【0012】
2.分子集合体
本発明の分子集合体は、構成脂質として、前記ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含むものであれば特に制限されない。
本発明の分子集合体に用いられるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の量は、特に制限されないが、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で2〜20%が好ましく、3〜15%がより好ましく、5〜10%がさらに好ましい。ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の量を適宜調整することで、目的に応じて腫瘍内のホウ素の濃度を制御することが可能である。
【0013】
本発明の分子集合体には、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体以外の他の構成脂質を含んでいてもよい。
他の構成脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)など)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質類;スフィンゴエミリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロールなどのスフィンゴリン脂質類;などのリン脂質が挙げられる。中でも、ホスファチジルコリンが好ましく、L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)が特に好ましい。
本発明の分子集合体に用いられるリン脂質の量は、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で40〜95%が好ましく、40〜70%がより好ましく、40〜50%がさらに好ましい。
【0014】
また、他の構成脂質としてはステロイド類が挙げられる。ステロール類としては、例えば、エルゴステロール、コレステロール、トリグリセリド等が挙げられる。中でも、コレステロールが好ましい。
本発明の分子集合体に用いられるステロイド類の量は、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で0〜50%が好ましく、30〜50%がより好ましく、40〜50%がさらに好ましい。
【0015】
さらに、本発明の分子集合体は、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ糖脂質類;ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質類;などの糖脂質を含んでいてもよい。中でも、ガングリオシドG4が好ましい。
糖脂質の量は、分子集合体の全構成脂質に対してモル比で4〜24%が好ましい。
【0016】
本発明の分子集合体の形態は、例えば、高分子集合体、高分子ミセル、エマルジョン、リピドマイクロフィア、二分子膜小胞体(リポソーム)、その他の分子集合体(チューブ、ファイバー、リボン、シート等)などが挙げられる。中でも、本発明の分子集合体はリポソームの形態であることが好ましい。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態であるホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含むリポソームの概念図である。
図1に示されるように、本発明のリポソームにおいては、構成脂質が形成する脂質二分子膜の小胞体の表面をPEGが包囲しており、そのさらに表面にホウ素クラスターが結合していると考えられる。
【0018】
本発明の分子集合体がリポソームである場合、動的光散乱法により測定したリポソームの粒子径は50〜400nmが好ましく、50〜200nmがより好ましく、100〜200nmがさらに好ましい。
【0019】
本発明の分子集合体は、公知の方法に準じて製造することができる。
例えば、リポソームの製造方法としては、単独もしくは混合脂質の薄膜に水系溶媒を加え、水和・膨潤させ超音波処理する、プローブ法、浴槽法が挙げられる。また、単独もしくは混合脂質の薄膜に水系溶媒を加えてからボルテックス処理し、その後超音波処理する撹拌(ボルテックスミキシング、ホモジナイザー)法が挙げられる。
あるいは、単独または混合脂質を有機溶媒に溶解させ、その溶液を水相の中に注入するエタノール注入法、エーテル注入法が挙げられる。
あるいは、単独もしくは混合脂質の薄膜にコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、Triton X、オクチルグリコシドまたはラウリルエーテルなどの非イオン性界面活性剤と共に水相に分散させてエマルジョンを形成させ、透析によって除去してリポソームを製造することもできる。
あるいは単独もしくは混合脂質の薄膜に水系溶媒を加え、激しく懸濁し、得られた溶液を超音波処理する。その後液体窒素による凍結・融解をおこなう凍結融解法が挙げられる。
あるいは、単独または混合脂質を有機溶媒に溶解させ、その溶液に水系溶媒を少量加え超音波振動を与える。そしてエタノール、エーテルなどの有機溶媒を減圧または透析などにより除去してリポソームを製造する逆相蒸発法(REV法)が挙げられる。
上記で得られたリポソームを高圧押出(エクストルージョン)法、フレンチプレス法などにより粒子径を調節する。
【0020】
上記のようにして、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を構成脂質として含む本発明の分子集合体を製造することができる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の分子集合体は、DDSを用いることにより、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体に含まれる
10B核を効率よく腫瘍組織に取り込ませることができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の分子集合体はホウ素中性子捕捉療法に好適に用いることができる。
本発明の分子集合体は、例えば、経口、非経口、静脈、経皮、吸入経由さらには疾患部位に対して直接投与することができる。投与量は、有効量の範囲内であれば良く、対象疾患、投与対象、投与方法、症状などによっても異なるが、通常、体重1kg当たり、約1500〜約7500mg(脂質重量)である。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、これらの実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0022】
ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の製造(1)
SUNBRIGHT(登録商標)SERIES DSPE−020MA(NOF CORPORATION)120mgおよび10B enriched Sodium mercaptododecaborate(BSH)(Katchem spol.sr.o., Ltd.)40mg、PBS(6mL、pH7.0)を0.1M NaOH水溶液にてpH8.0に調製し、室温で、3時間反応させた。反応は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で進行度合いを確認しながら行った。
その後、透析(MWCO:500〜1000)により粗生成物の純度を上げ、凍結乾燥を行って次式で示される目的物を得た。目的物の純度は高速液体クロマトグラフの結果(
図3)から81.7%(重量基準)、収量は115.4mgであった。
【化4】
【0023】
透析の条件およびPBS調製時に用いた各試薬は、以下に示したとおりである。
透析の条件:
外液:超純水
外液交換:5回/2時間
室温
PBS調製時に用いた各試薬:
リン酸水素ナトリウム12水和物
リン酸二水素カリウム
塩化ナトリウム
塩化カリウム
上記試薬は、いずれも、SIGMA Aldrichから入手した。
【0024】
化合物の同定は、マススペクトルおよび高速液体クロマトグラフにより行った。結果を
図2A、Bおよび3に示す。
図2AおよびBに示されるとおり、本化合物のExact massである3146.07に対し、3147.690の測定値を確認できた。これは分子量誤差(%)が0.08%であり、本化合物の合成に成功したといえる。また、他のピークに関して、分子量44ずつの差がみられているが、これはポリエチレングリコール(PEG)の1mer(−CH
2CH
2O−)に相当し、本化合物の合成が成功したことを裏付けている。
また、
図3に示されるとおり、ピーク面積81.71%の測定値を確認できた。ゆえに本化合物は上記合成スキームにより高純度で得られたといえる。
【実施例2】
【0025】
リポソームの調製
L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)、コレステロール(Chol)および実施例1で製造したホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体(PEG−Boron−lipid)を、表1に示した組成比(モル比)で用いて混合脂質を調製し、有機溶媒(クロロホルム、メタノール)に溶解させ、バンガム法によりリポソームを作製した。得られたリポソームは、エクストルージョンを用いて100nmサイジングし、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体をそれぞれ5%、10%、15%または20%含むリポソーム(1)〜(4)を調製した。
【表1】
【実施例3】
【0026】
ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体(PEG−Boron−lipid)のリポソームへの組込率
実施例2で調製した各リポソームについて、ゲルサイズ排除クロマトグラフィーにより、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体のリポソームへの組込率を調べた。
まず、実施例2で得られたリポソーム混合溶液を、ゲルサイズ排除クロマトグラフィーにより、リポソーム画分、ミセル画分、単分子画分に分離した。各分画の一例を
図4に示す。
次に、リポソーム分画に含まれるホウ素原子の濃度(ppm)を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)(株式会社島津製作所製、「ICPS−8100」)により測定し、その測定値から、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体のリポソームへの組込率を算出した。
その結果、実施例2で得られた各リポソームにおいて、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体は効率よく組み込まれていることが分かった。実施例2で得られた各リポソームに対するホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の組込率を表2および
図5に示す。
【表2】
【実施例4】
【0027】
リポソームの物性
動的光散乱法(Zetasizer Nano ZS、Malvern Instruments Ltd.社製)により、L−α−ホスファチジルコリンジアステロイル(DSPC)、コレステロール(Chol)、L−α−ジステアロイル−ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)−PEG2000(DSPE−PEG2000)および実施例1で製造したホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の2種以上で構成される単分散の各リポソームの粒子径およびゼータ電位を測定し、比較した。各リポソームは、実施例2と同様に、脂質薄膜法、続いて押出法により調製した。結果を表3に示す。
【表3】
表3に示すとおり、ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体を含む本発明のリポソーム(PEG−Boron−lipid 5%リポソームあるいはPEG−Boron−lipid 10%リポソーム)は、PEG修飾リポソーム(PEGリポソーム)と同様、マイナスの値のゼータ電位を示した。また、本発明のリポソームの粒子径は、およそ100nmから200nm以下であり、最もEPR効果(enhanced permeability and retention effect)が得られる粒子径にコントロールされている。
図6は、PEG−Boron−lipid 5%リポソームの透過型電子顕微鏡写真(加速電圧:100kV)である(図中、矢印で示す。)。
図6に示されるとおり、PEG−Boron−lipid修飾リポソームは二重ラメラを形成し、単層構造である。
【実施例5】
【0028】
ホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体の製造(2)
SUNBRIGHT(登録商標)SERIES DSPE−020MA(NOF CORPORATION)120mgおよび10B enriched Sodium mercaptododecaborate(BSH)(Katchem spol.sr.o., Ltd.)40mg、PBS(6mL、pH7.0)を0.1M NaOH水溶液にてpH8.0に調製し、遮光、室温で、3時間反応させた。反応は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で進行度合いを確認しながら行った。
その後、透析(MWCO:500〜1000)により粗生成物の純度を上げ、凍結乾燥を行って次式で示される目的物を得た。目的物の純度は、89.05%(重量基準)、収量は135.0mgであった。
【化5】
【0029】
透析の条件およびPBS調製時に用いた各試薬は、以下に示したとおりである。
透析の条件:
外液:超純水
外液交換:5回/2時間
室温、遮光
PBS調製時に用いた各試薬:
リン酸水素ナトリウム12水和物
リン酸二水素カリウム
塩化ナトリウム
塩化カリウム
上記試薬は、いずれも、SIGMA Aldrichから入手した。
【0030】
化合物の同定は、
1H−NMR、
10B−NMR、マススペクトル(飛行時間型質量分析法、TOF−MS)および高速液体クロマトグラフにより行った。結果を
図7、8、9および10にそれぞれ示す。
図7に示されるとおり、PEG−Boron−lipidはアルキル鎖末端のメチル基(2CH
2CH
3)のピーク δ=0.89[t、6H]を観測し、合成物にアルキル鎖が2本あることを確認した。
また、
図8に示されるとおり、PEG−Boron−lipidはホウ素ピークδ=−11からδ=−16を観測し、合成物はホウ素化合物であることを確認した。
また、
図9A及びBに示されるとおり、本化合物のExact massである3146.07に対し、3145.520の測定値を確認できた。これは分子量誤差(%)が0.017%であり、本化合物の合成に成功したといえる。また、他のピークに関して、分子量44ずつの差がみられているが、これはポリエチレングリコール(PEG)の1mer(−CH
2CH
2O−)に相当し、本化合物の合成が成功したことを裏付けている。
また、
図10に示されるとおり、ピーク面積89.05%の測定値を確認できた。ゆえに本化合物は上記合成スキームにより高純度で得られたといえる。
【実施例6】
【0031】
中性子線照射による正常細胞への影響 (in vitro)
以下に示す方法で、中性子線照射による正常細胞への影響 (in vitro)を検討した。試験に用いた細胞腫はV79 379A(classification;normal)である。
<方法>
脂質組成比(DSPC:Chol:PEG−Boron−lipid=1:1:0.12)、脂質濃度50mg/mL、超音波処理法で調製したリポソーム懸濁液を超遠心分離(100,000×g、2時間、4℃)し、得られたPEG−Boron−lipid 5%リポソームを用いた。中性子線照射はKURで行った。2.65×10
12thermal neutron/cm
2を各時間(15分、30分、5分)照射した。照射後、ギムザ染色液を用いて、コロニーフォメーションアッセイを行った。照射時に用いたサンプルは次の2つである。
(1)wash
V79 379A細胞(4×10
5cells)を25Tflaskに播種し、37℃、5%CO
2条件下6時間培養した。6時間後、培地を交換し、新鮮培養液4mLにPEG−Boron−lipid 5%リポソーム溶液を1mL添加し、37℃、5%CO
2条件下2時間培養した。2時間後、培地を除去し、PBSで洗浄後、トリプシンを加えて細胞をはがし、細胞を遠心分離で沈殿させ、上清を除き、新鮮培養液2mLを加えて細胞懸濁液とした。細胞懸濁液2mLから500μLをクライオチューブに分取し、1サンプルとした。
(2)non wash
V79 379A 細胞(4×10
5cells)を25Tflaskに播種し、37℃、5%CO
2条件下6時間培養した。6時間後、培地を除去し、PBSで洗浄後トリプシンを加えて細胞をはがし、細胞数をカウントした。細胞を遠心分離で沈殿させ、上清を除き、新鮮培養液1mLを加えて細胞懸濁液とした。クライオチューブにV79 379A細胞 250μl(1×10
5cells)を分取し、PEG−Boron−lipid 5%リポソーム溶液250μLを添加し、2時間培養した細胞懸濁液を1サンプルとした。
<結果>
図11に示されるとおり、PEG−Boron−lipid 5%リポソームをV79 379A細胞に添加後、1washの操作を行った群(PBL(wash))は、中性子線照射のみを行った群(irradiation only)と比較して、中性子線照射のみを行った群と同等の殺細胞効果しか観察されず、PEG−Boron−lipid 5%修飾リポソーム添加による有意差がないことを確認した。検定にはスチューデントのt検定を用いた。また、2non washの操作を行った群(PBL(non wash))においては、中性子線照射により殺細胞効果が観察され、PEG−Boron−lipid 5%修飾リポソームが
10B−enrichのホウ素原子団を含有していることを確認した。
V79 379Aは、Classification normalであり、正常細胞との毒性実験として行った。その結果、PEG−Boron−lipidは中性子照射によってのみ殺細胞効果を得ると考えられる。
【実施例7】
【0032】
中性子照射による抗腫瘍効果の測定 (in vivo)
以下に示す方法で中性子線照射による抗腫瘍効果を測定した(in vivo)。
<方法>
実施例6と同様にして作製したPEG−Boron−lipid 5%リポソームを担がんマウスに投与し、そのBNCT治療効果を検討した。担がんモデルは、BALB/cA mice(female、4weeks old,weighting 16−20g)にマウス大腸がん細胞(CT26、5×10
6cells)を右大腿部に播種し、腫瘍直径6−8mmとなるように作製した(injection後、約8日)。実験の際には、マウスはイソフルレンの吸入麻酔器を用いて、苦痛なく処置を行った。一連の動物実験にあたっては、あらかじめ、動物実験計画書を筑波大学動物実験委員会に提出し、動物実験に関する法規、基準に準拠し、動物に対する苦痛の軽減等についても考慮した計画とし、認可を得た。また、同様の手続きを京都大学共同利用申請において行った。
作製した担がんマウスにPEG−Boron−lipid 5%リポソームを10mg
10B/kgで尾静注し、24時間後に中性子線照射をKURで行った。中性子線量は、4.5−7.0×10
12neutron/cm
2とした。
腫瘍増殖抑制効果を照射後の腫瘍径を経時的に21日目まで測定し、コントロール群と比較した。コントロールには、BSH溶液群(BSH、6例)、中性子線照射のみ群(irradiation only、6例)、投薬・照射なし群(no treatment、12例)を用いて、比較検討した。腫瘍サイズの測定は下記の計算式を用いた。
(長径(mm))×(短径(mm))
2 = 腫瘍サイズ(mm
3)
<結果>
図12に示されるとおり、PEG−Boron−lipid 修飾リポソームは10、14、17、21日目において、いずれの群とも比較して有意に腫瘍増殖抑制が見られ、特に14日までは腫瘍が増大することはなかった。また、PEG−Boron−lipid 5%リポソーム投与群6例のうち1例に腫瘍の完全消失を確認した。
腫瘍増殖抑制効果は
図12からはBSHとの比較によってのみの結果である。しかし、臨床例として用いられているBSHよりも良好な結果を得たことから、その効果は高いといえる。