特許第6206944号(P6206944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206944
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】光配向用偏光照射装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20170925BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20170925BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G02F1/1337
   G02B5/30
   G02F1/13 101
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-45993(P2013-45993)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-174286(P2014-174286A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和重
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏成
(72)【発明者】
【氏名】冨塚 吉博
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−052078(JP,A)
【文献】 特開2011−248284(JP,A)
【文献】 特開2003−329841(JP,A)
【文献】 特表2005−513547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/13
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と特定波長選択フィルタとワイヤーグリッド偏光子とを備えた光照射部を配向膜が形成される基板の幅方向に延設し、前記基板又は前記光照射部を前記基板の幅方向と交差する走査方向に沿って走査しながら前記基板上に特定波長の偏光光を照射する光配向用偏光照射装置であって、
前記光照射部は、
前記ワイヤーグリッド偏光子の導電体グリッドを被覆する酸化防止膜を備え、
前記ワイヤーグリッド偏光子を冷却する空冷手段を備え
前記光照射部は、
光源と特定波長選択フィルタとワイヤーグリッド偏光子を備えた光照射ユニットを前記基板の幅方向に複数並列配置して構成され、
前記光源は、該光源の長手方向を前記走査方向に沿って配置していることを特徴とする光配向用偏光照射装置。
【請求項2】
前記空冷手段は、前記特定波長選択フィルタと前記ワイヤーグリッド偏光子との間に冷却風を送風することを特徴とする請求項1記載の光配向用偏光照射装置。
【請求項3】
前記空冷手段は、前記特定波長選択フィルタを形成する前記ワイヤーグリッド偏光子上のフィルタ層に冷却風を送風することを特徴とする請求項1記載の光配向用偏光照射装置。
【請求項4】
前記空冷手段は、前記走査方向に沿って冷却風を送風することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光配向用偏光照射装置。
【請求項5】
前記光照射部は、
前記ワイヤーグリッド偏光子の導電体グリッドを不活性ガス雰囲気で覆うガス充填手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光配向用偏光照射装置。
【請求項6】
前記ガス充填手段は、前記導電体グリッドの周囲で不活性ガスを封止する封止枠であることを特徴とする請求項5記載の光配向用偏光照射装置。
【請求項7】
前記光照射ユニットは、前記走査方向に沿って多段に配置され、一つの段における前記光照射ユニットの位置とそれに隣接する段における前記光照射ユニットの位置がシフトして配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の光配向用偏光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光配向処理に用いられる光配向用偏光照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶素子の配向膜や紫外線硬化型液晶を用いた光学フィルムの配向層など、液晶分子を配向させる機能を有する膜や層(以下、総称して配向膜という)の形成に、近年、光配向処理が採用されている。光配向処理を行うには、配向膜となる感光性樹脂膜に選択された波長(例えば紫外光)の光を偏光軸が特定した偏光状態(例えば直線偏光状態)で照射する。
【0003】
光配向処理用の偏光照射装置は、所定の幅を有する配向膜を連続的に形成するために、配向膜の幅方向に沿って棒状の光源(ロングアークランプ)を配置し、この光源と偏光子を組み合わせて、選択波長の偏光光を配向膜の幅方向に沿って照射し、これを配向膜の幅方向と交差する方向に走査するものが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−133498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロングアークランプは、光配向処理に必要な短波長紫外光(例えば、254nm波長光)を効率よく発光することでも、光配向用偏光照射装置の光源として適している。ロングアークランプを光源として用いる場合には、その長手方向と交差する方向には放射状に光が照射されるため、偏光子には入射角度依存性の少ないワイヤーグリッド偏光子が用いられる。
【0006】
ワイヤーグリッド偏光子は、石英ガラスなどの透明基板に導電体グリッドの格子状パターンを形成し、導電体グリッドのピッチを入射する光の波長以下にすることで、グリッドの長手方向に平行な偏光成分を反射し、それと直交する偏光成分を通過させるものである。
【0007】
このようなワイヤーグリッド偏光子を用いた光配向用偏光照射装置は、アルミニウムなどの金属によって形成される導電体グリッドが入射される短波長紫外光を受けて酸化や熱的変化を起こし、ワイヤーグリッド偏光子の性能が劣化する問題があった。一般に偏光子の性能は、透過した偏光光の消光比ER(=Ip/Is,IpはP偏光強度,IsはS偏光強度)によって表すことができるが、ワイヤーグリッド偏光子を用いた光配向用偏光照射装置を長期間使用すると、前述した導電体グリッドの酸化等によって所望の消光比が得られなくなる問題が生じる。
【0008】
また、光配向用偏光照射装置は、所望の照射光波長を得るために光源と偏光子との間に特定波長を透過させるフィルタを配置する場合があるが、このフィルタが入射光による熱的影響を受けて波長選択性が低下することがあり、これによっても長期間使用によって性能劣化が生じる問題があった。
【0009】
また、従来の光配向用偏光照射装置は、ワイヤーグリッド偏光子の導電体グリッドが配向膜に対して直接対面しているため、露出した導電体グリッドが酸化しやすい状態に曝されているだけでなく、配向膜からの気化成分が導電体グリッドに付着することでも性能劣化が生じる懸念があった。
【0010】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、長期間の使用に対してもワイヤーグリッド偏光子や特定波長選択フィルタの性能劣化を抑止し、耐久性の高い光配向用偏光照射装置を得ることができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明による光配向用偏光照射装置は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0012】
光源と特定波長選択フィルタとワイヤーグリッド偏光子とを備えた光照射部を配向膜が形成される基板の幅方向に延設し、前記基板又は前記光照射部を前記基板の幅方向と交差する走査方向に沿って走査しながら前記基板上に特定波長の偏光光を照射する光配向用偏光照射装置であって、前記光照射部は、前記ワイヤーグリッド偏光子の導電体グリッドを被覆する酸化防止膜を備え、前記ワイヤーグリッド偏光子を冷却する空冷手段を備え、前記光照射部は、光源と特定波長選択フィルタとワイヤーグリッド偏光子を備えた光照射ユニットを前記基板の幅方向に複数並列配置して構成され、前記光源は、該光源の長手方向を前記走査方向に沿って配置していることを特徴とする光配向用偏光照射装置。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴の光配向用偏光照射装置によると、長期使用に伴うワイヤーグリッド偏光子や特定波長選択フィルタの性能劣化を抑止することができ、耐久性の高い光配向用偏光照射装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。以下、図においては、走査方向をY方向、鉛直上向きをZ方向、走査方向及び鉛直上向きと直交する方向であり基板の幅方向をX方向としている。図1及び図2は本発明の一実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。図1(a)は光配向用偏光照射装置を平面視した説明図であり、図1(b)は正面視した説明図である。また、図2(a)は、光配向用偏光照射装置を側面視した説明図であり、図2(b)は、図2(a)におけるA部の拡大図である。
【0016】
光配向用偏光照射装置1は、光照射部2と基板ステージ3と走査手段4とを備えている。図示の例では、基板ステージ3を走査方向S(図示Y方向)に沿って移動する例を示しているが、これに限らず、光照射部2を図示Y方向と逆側に移動するものであってもよい。基板ステージ3には配向膜が形成される基板Wが載置されている。光照射部2は、光源20と特定波長選択フィルタ21とワイヤーグリッド偏光子22とを備えており、基板Wの幅方向(図示X方向)に延設している。光配向用偏光照射装置1は、基板W又は光照射部2を基板Wの幅方向と交差する方向に沿って走査しながら、基板W上に特定波長の偏光光を照射するものである。
【0017】
図1及び図2に示した光照射部2は、光源20と特定波長選択フィルタ21とワイヤーグリッド偏光子22をそれぞれ備えた光照射ユニット2Uを基板Wの幅方向(図示X方向)に複数並列配置して構成される。そして、光源20は、その長手方向を走査方向Sに沿って配置しているロングアークランプである。基板Wの幅より短い長さのロングアークランプが基板Wの幅方向に沿って平行に並べられている。
【0018】
光照射部2は、ワイヤーグリッド偏光子22の導電体グリッド22Bを被覆する酸化防止膜22Cを備えている。すなわち、図2(b)に示すように、ワイヤーグリッド偏光子22は、石英ガラスなどからなる透明な母材22Aにアルミニウムなどからなる導電体グリッド22Bが格子状に形成されており、透過する光の波長より狭い間隔で配置される導電体グリッド22Bが酸化防止膜22Cによって被膜されている。
【0019】
酸化防止膜22Cは、SiO2,HfO2などの原子層堆積(ALD)によって形成することができる。ワイヤーグリッド偏光子22は、例えば、母材22Aの厚さが1.0mm程度、導電体グリッド22Bの高さが150〜200nm程度、導電体グリッド22Bの配列ピッチが120nm程度であるが、これに対して、酸化防止膜22Cの膜厚は0.1〜10nm程度になる。

【0020】
また、光照射部2は、ワイヤーグリッド偏光子22を冷却する空冷手段23を備えている。この空冷手段23は、ワイヤーグリッド偏光子22を単独で冷却するものであっても、ワイヤーグリッド偏光子22と特定波長選択フィルタ21とを同時に冷却するものであってもよい。図2(a)に示した例では、空冷手段23は、特定波長選択フィルタ21とワイヤーグリッド偏光子22との間に冷却風Cを送風することで、ワイヤーグリッド偏光子22と特定波長選択フィルタ21を同時に冷却している。
【0021】
図示の例では、冷却風Cは、基板Wを走査する走査方向Sに沿ってワイヤーグリッド偏光子22と特定波長選択フィルタ21の間に送り込まれている。このような冷却風Cの流れを形成することで、ワイヤーグリッド偏光子22及び特定波長選択フィルタ21が基板Wの幅方向に均一に冷却されることになり、走査方向Sと直交する方向の温度条件が同一となり高品質の配向膜を形成することが可能になる。
【0022】
図3は、本発明の他の実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図である。図3(a)が、光配向用偏光照射装置を側面視した説明図であり、図3(b)が、図3(a)におけるA部の拡大図である。
【0023】
この例では、前述した光配向用偏光照射装置1の構成に加えて、光照射部2が、ワイヤーグリッド偏光子22の導電体グリッド22Bを不活性ガスGの雰囲気で覆うガス充填手段24を備えている。不活性ガスGとしては、窒素やアルゴンを用いることができる。
【0024】
図示の例では、ガス充填手段24は、導電体グリッド22Bの周囲で不活性ガスGを封止する封止枠24Aによって構成されている。封止枠24Aは、透明な対面板24A1と側部24A2によってワイヤーグリッド偏光子22の導電体グリッド22Bが形成された面を気密に囲むものであり、その内部に窒素やアルゴンなどの不活性ガスGが充填されている。このような構成にすることにより、露光時に生じる配向膜からの気化成分が導電体グリッドに付着することが防止でき、ワイヤーグリッド偏光子22の特性劣化を抑止できると共に、洗浄が容易になるのでメンテナンス性を改善することができる。
【0025】
ガス充填手段24としては、このような封止枠24Aの構成に限らず、導電体グリッド22Bの周囲を常時不活性ガスGで覆うことができるものであればどのような構成であってもよい。例えば、導電体グリッド22Bの周囲に不活性ガスGを循環させるものや導電体グリッド22Bの周囲に不活性ガスGを滞留させるものなどであってもよい。また、このような不活性ガスGの充填でワイヤーグリッド偏光子22の冷却を兼ねることができる。
【0026】
図4は、本発明の他の実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図であり、空冷手段の他の構成例を示している。図4に示した空冷手段は、特定波長選択フィルタ21を形成するワイヤーグリッド偏光子22上のフィルタ層21Fに冷却風Cを送風することで、ワイヤーグリッド偏光子22と特定波長選択フィルタ21を同時に冷却している。ここでは、ワイヤーグリッド偏光子22の母材22Aの表面(導電体グリッド22Bが形成される面と逆側の面)にフィルタ層21Fを形成することで特定波長選択フィルタ21を配備しており、その上を冷却風Cが通過するようにしている。フィルタ層21Fは、例えば誘電体多層膜などによって形成することができる。
【0027】
図5は、本発明の他の実施形態に係る光配向用偏光照射装置の全体構成を示した説明図であり、光照射部の他の構成例を示している。図5に示した光照射部2の光照射ユニット2Uは、走査方向Sに沿って多段に配置されており、一つの段における光照射ユニット2Uの位置とそれに隣接する段における光照射ユニット2Uの位置がシフトして配置されている。そして、この構成においても、前述した空冷手段23が設けられており、この空冷手段23は、走査方向Sに沿って冷却風Cを送風している。このように冷却風Cを送風することで、基板Wの幅方向に沿って均一にワイヤーグリッド偏光子22と特定波長選択フィルタ21を冷却することが可能になる。これによって、走査方向Sと直交する方向の温度条件が同一となり高品質の配向膜を形成することが可能になる。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る光配向用偏光照射装置1は、ワイヤーグリッド偏光子22の導電体グリッド22Bを被覆する酸化防止膜22Cを備え、ワイヤーグリッド偏光子22を冷却する空冷手段23を備えること、また更に加えて、ワイヤーグリッド偏光子22と特定波長選択フィルタ21を同時に冷却し、ワイヤーグリッド偏光子22の導電体グリッド22Bを不活性ガス雰囲気で覆うガス充填手段24を備えることで、長期使用時に生じるワイヤーグリッド偏光子22や特定波長選択フィルタ21の性能劣化を抑止することができる。これによって、光配向用偏光照射装置1の耐久性を効果的に向上させることができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1:光配向用偏光照射装置,2:光照射部,3:基板ステージ,4:走査手段,
20:光源,21:特定波長選択フィルタ,22:ワイヤーグリッド偏光子,
22A:母材,22B:導電体グリッド,22C:酸化防止膜,
23:空冷手段,24:ガス充填手段,24A:封止枠,
2U:光照射ユニット,
W:基板,S:走査方向,C:冷却風,G:不活性ガス
図1
図2
図3
図4
図5