(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電離性の気体を充填した容器に格納された、中性子変換材料の薄膜を持つ電界発生のためのドリフト電極、中性子変換材料の薄膜を持つ複数個のGEM、及び、電子の二次元位置の検出を行う二次元TOF読出し電極を備えたGEM検出器と、少なくとも、パルス中性子のTOF、照射量、二次元入射位置の読み出しを行う二次元読出し電子回路、パルス中性子のTOF計算を独立した自由設定により行うタイムクロック電子回路、及びパルス中性子のTOF、放射線量、入射位置をデジタル計算するマイクロプロセッサーユニットを備えた二次元TOF読出し集積回路と、及び、画像処理を行う画像処理装置と、を備えた二次元TOFパルス中性子検出器であって、
1eV〜100keVの範囲にあるパルス中性子のエネルギースペクトル、照射線量、二次元入射位置、及び、透過像の測定を0.1マイクロ秒〜200マイクロ秒のTOFレンジで行い、前記TOFレンジによるパルス中性子のTOF測定結果を前記透過像上に表示することを特徴とする二次元TOFパルス中性子検出器。
【背景技術】
【0002】
近年、低エネルギーのパルス中性子がホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron
Capture Therapy,以下「BNCT」という。)等の先進中性子医療のための線源として注目されている。BNCTに用いられる中性子としては、熱外中性子(一般的に1eV〜10keVの範囲に在る中性子を熱外中性子という。)及び熱中性子(一般的に0.5eV以下の範囲に在る中性子を熱中性子という。)が有効であることが知られている。
【0003】
上記の中性子として、従来、原子炉により製造される連続波の中性子(パルスではない)が用いられていたが、原子炉は、巨大装置であるので、病院には設置できなかった。そのため、近年、加速器により製造されるパルス中性子の利用が注目されるようになった。
【0004】
前記BNCTに用いられるパルス中性子のエネルギースペクトル、照射線量、照射位置、及び透過像を精度よく測定しモニターするための方法及び装置が要望されている。
【0005】
従来、パルス中性子のエネルギースペクトルをTOF法により測定するための方法及び装置が、例えば、非特許文献1に開示されている。
【0006】
非特許文献1は、
10Bを被覆したGEM、及び、マイクロプロセッサーとしてClPix−ASICとFPGAを搭載した、Cascade中性子検出器を開示している。同文献は、CT2とPF1−Aの中性子発生装置が発する中性子をTOF法により測定した中性子の波長vsGEMの検出効率の関係を開示している。同文献は、1.8Å〜25Åの範囲にある中性子のエネルギースペクトルを1ミリ秒〜23ミリ秒のTOF測定により測定したことを報告している。1.8Å〜25Åの範囲にある中性子の波長をエネルギー及び速度換算すると、1.8Å:2.53×10
−2eV, 2.2×10
3 m/sec であり25Å:1.3×10
−4 eV,11.4
m/secである。すなわち、1.8Å〜25Åの範囲にある中性子は、冷中性子である。上記PF1−A(J−PARCの中性子線源)により製造された中性子は、陽子ビームをターゲットに衝突させて発生させた中性子であった。この中性子は、冷中性子だけでなく熱中性子、熱外中性子、等も含まれていた。しかし、同文献の方法及び検出器によって測定された中性子は、冷中性子だけであった。したがって、同文献に開示されているCascade中性子検出器は、冷中性子だけを測定するものであったことが、認識される。
【0007】
前述のように、BNCTに用いられるパルス中性子のエネルギースペクトル、照射線量、中性子の入射位置、及び透過像を精度よく測定するための中性子検出器が要望されていた。しかし、このような課題を達成するような中性子検出器は、これまでほとんど知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、BNCTに用いられるパルス中性子のエネルギースペクトル、照射線量、中性子の入射位置(二次元位置)、及び透過像の測定をリアルタイムでTOF測定により行い、その測定結果を被射体の二次元透過像上に表示することができる二次元TOFパルス中性子検出器である。
【0016】
本発明は、1eV〜100keVのエネルギー範囲にあるBNCTに用いられるパルス中性子を測定できる。
【0017】
前記測定に供されるBNCTに用いられるパルス中性子は、通常、加速陽子ビームをターゲットに照射することにより一次中性子を生成させ、これを減速材によって減速することにより製造される。
【0018】
前記中性子のエネルギー、波長、速度、及び1メートルの距離を飛行する中性子の飛行時間(T)は、公式(1)及び公式(2)を用いて以下のように関係づけられる。すなわち、
E=0.5mυ
2 公式(1)
公式(1)において、Eは、中性子の運動エネルギーであり、mは、中性子の質量(質量:1.67492735174×10
−27 kg)であり、υは、中性子の速度である。
λ=h/mυ 公式(2)
公式(2)において、λは、中性子の波長(ドブロイ波長)であり、υは、中性子の速度であり、mは、中性子の質量であり、hは、プランク定数である。1mの距離を飛行する中性子の飛行時間(T)は、公式(1)で算出される中性子の速度(υ)の逆数で与えられる。
したがって、前記1eV〜10keVのエネルギー範囲にあるパルス中性子は、υ、λ、Tによって以下のように関係付けられる。
E=1eV:υ=1.4×10
4
m/sec,λ=0.2846Å,T=70マイクロ秒
E=10eV:υ=4.4×10
4
m/sec,λ=0.09Å,T=70マイクロ秒
E=100eV:υ=1.4×10
5 m/sec,λ=0.002846Å,T=7マイクロ秒
E=1keV:υ=4.4×10
5 m/sec,λ=0.009Å,T=2.3マイクロ秒
E=10keV:υ=1.4×10
6 m/sec,λ=0.002846Å,T=0.7マイクロ秒
E=100keV:υ=4.4×10
6 m/sec,λ=0.0009Å,T=0.23マイクロ秒
中性子の速度(υ)は、予め設定された中性子線源と本発明検出器との距離を計測されたTOFで割ることによって算出できる。エネルギー(E)は、式(1)を用いて速度(υ)から決定される。
【0019】
本発明検出器は、中性子線源からの直線距離として、通常、2メートル程度を取るので、本発明によるTOF計測は、0.1マイクロ秒〜200マイクロ秒の範囲で行うことができる。
【0020】
前記説明の如く本発明は、電離性の気体を充填した容器に格納された、中性子変換材料の薄膜を持つ電界発生のためのドリフト電極、中性子変換材料の薄膜を持つGEM、及び電子の読出しを行うための二次元TOF読出し電極と、を備えるGEM検出器と、二次元TOF読み出し集積回路と、及び、画像処理装置を備える。
【0021】
前記中性子変換材料の薄膜を持つドリフト電極は、GEM検出器の最上部に設けられ、中性子と中性子変換材料との核反応により中性子を放射線に変換する。該中性子変換材料としては、周期律表におけるリチウム等のアルカリ金属元素、ベリリウム等のアルカリ土類金属元素、ホウ素等の13族元素、ヘリウム等の18族元素、及び3族元素から12族元素である重金属元素が挙げられる。この中で
10B(質量数10のホウ素原子)は、大きな中性子捕獲断面積を有することから、低エネルギー中性子と核反応を起こし易い元素であるので好ましい。また、中性子による放射化が殆ど起こらないので好ましい。中性子変換材料として
10Bを用いた場合にはアルファ線とリチウム原子核がほぼ反対方向に放出される。
【0022】
前記中性子変換材料としては、
10B単体材料の他に、例えば
10Bの酸化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、硼化物、塩類、等の各種の化合物を挙げることができる。
10Bは、約20%の同位体比率で存在する安定なホウ素原子である。
10Bの含有率は特に限定されるものではなく、通常は20%以上含有するものであれば使用可能であるが、
10Bを99%以上含有するものは好ましい。
【0023】
前記ドリフト電極が持つ中性子変換材料の薄膜の厚みは、厚みが厚いほど中性子変換効率が向上するが、核反応によって生じる放射線が中性子変換材料中にトラップされやすくなる。したがって、中性子変換効率が高く且つ、放射線を気体中に飛び出させるためには中性子変換材料の薄膜の厚みは、適切な範囲に設定しなければならない。本発明ドリフト電極が持つ中性子変換材料の薄膜の厚みは、1ミクロン〜0.1ミクロンの範囲にあるのが好ましい。1ミクロンを超えると放射線の気体中への飛散が著しく低下するので、1ミクロン以下であることが好ましく、また、0.1ミクロン未満であると中性子の変換効率が著しく低下するので、0.1ミクロン以上であるのが好ましい。ドリフト電極の表面に中性子変換材料の薄膜を形成する方法は、例えば蒸着法によって所望の厚みの薄膜を形成することが可能である。
【0024】
前記中性子変換材料の薄膜は、核反応によってアルファ線が放出されるが、アルファ線の飛程は、約1ミクロンと非常に短いので、アルファ線を気体中に飛び出させるためにドリフト電極の表面に形成させるのが好ましい。アルファ線と電離性の気体との衝突によって、一次電子が放出される。
【0025】
本発明で用いるドリフト電極の材料としては、グラファイト、ダイヤモンド、アルミニウム、銅、銀、金などを挙げることができる。これらの中でグラファイト、ダイヤモンド、アルミニウムは、中性子による放射化があまり起こらない材料であるので好ましく、グラファイト及びダイヤモンドは、導電性が優れているのでさらに好ましい。
【0026】
前記チェンバー内に充填される電離性の気体としては、キセノン、アルゴン、ヘリウム等の希ガスを挙げることができるが、これらの中でアルゴンは、比較的豊富であることから好ましい。気体の電離性を安定させるために他の不燃性ガス、例えば炭酸ガスを30%程度含有させてもよい。
【0027】
本発明における中性子変換材料の薄膜を持つGEMは、中性子をα線に高い変換効率で変換し、同時に、気体中に放射された放射線によって生成する電子をGEMの微細貫通孔に形成される高電場を通過させることによって気体電子増幅を行うことができる。この気体電子増幅が連鎖的に各GEMによって行われるので、その結果、電子増幅率は、10
5倍以上になるので、非常に高感度で中性子を検出できる。本発明におけるGEM検出器の特徴は、GEM表面に
10B等の中性子変換材料の薄膜が形成されていることが特徴である。本発明におけるGEM検出器は、中性子を検出することができるが、一方、特許文献1〜3などに開示されている従来のGEMは、γ線及びX線を検出できる。
【0028】
前記GEMが持つ中性子変換材料の薄膜の厚みは、厚みが厚いほど中性子変換効率が向上するが、核反応によって生じる放射線がトラップされやすくなる。したがって、中性子変換材料の薄膜の厚みは、適切な範囲にある。中性子変換材料の薄膜の厚みは、1ミクロン〜0.1ミクロンの範囲にあるのが好ましい。1ミクロンを超えると放射線の気体中への飛散が著しく低下し、また、0.1ミクロン未満であると中性子の変換効率が著しく低下するからである。所望の厚みを持つ薄膜は、例えば、蒸着法によってGEM上に形成させることができる。
【0029】
本発明におけるGEM検出器の位置分解能は、0.5mm以下であるのが好ましい。本発明におけるGEMの微細貫通孔は、中性子検出のための位置分解能や気体電子増幅率に影響を与えるので、適切な範囲にあることが好ましい。本発明におけるGEMの微細貫通孔は、好ましくは、100μm〜40μmの間隔で並び、直径が70μm〜20μmの範囲であるのが好ましい。間隔が100μmを超えるとGEMの増幅率が著しく減少し、間隔が20μm未満では、微細加工が非常に困難になるので、微細貫通孔の孔間隔は、100μm〜40μmの範囲に在るのが好ましい。また、GEMの微細貫通孔の孔径は、気体電子増幅率に影響を与えるので、本発明におけるGEMの微細貫通孔の直径は、70ミクロン〜20ミクロンであるのが好ましく、50ミクロン〜20ミクロンであるのがさらに好ましい。直径が70ミクロンを超えると気体電子増幅率が著しく低下し、また、直径が20ミクロン未満の貫通孔の形成は、微細加工が非常に困難になるからである。こうすることによって、本発明におけるGEMは、0.5mmの位置分解能中性子を検出できる。一方、従来のGEMは、通常、直径70ミクロンの微細貫通孔が140ミクロン間隔で格子状に形成されており、このGEMが持つ位置分解能は、約1ミリである。従来のGEMは、微細加工技術上の制約から、直径70ミクロン以下の微細貫通孔を140μm間隔で均一に施すのは至難のことであった。しかし、本発明者らは、直径70μm〜20μmの微細貫通孔が140μm〜40μm間隔で配列したGEMを高輝度レーザーにより作製することができた。
【0030】
前記中性子変換材料の薄膜を持つGEMは、各GEM間の距離が位置分解能に影響するので適当な間隔をおいてチェンバーに設けられる。本発明では、隣り合うGEM間の間隔は、1.5ミリ〜0.5ミリの範囲にあるのが好ましい。1.5ミリを超えると中性子検出のための位置分解能が1ミリ以上になり、また、0.5ミリ未満であると放電の抑制が困難であるからである。従来用いられているGEMの間隔は、放電抑制の技術的限界のために、通常、2ミリ〜3ミリの間隔でチェンバーに設けられている。本発明におけるGEMは、最下段のGEMには中性子変換材料の薄膜を施さないで、より高い電圧を印加し、気体電子増幅度を高くするようにしており、この最下段のGEMと二次元TOF読出し電極との間に放電抑制に効果的な高抵抗の薄膜を置くなどの工夫を施すことによって、中性子変換材料の薄膜を持つGEM間の間隔を1.5ミリ〜0.5ミリの範囲にすることができる。
【0031】
本発明における中性子変換材料の薄膜を持つGEMの重ね段数は、限定するものではないが、例えば、4段重ねることによって中性子の検出効率を数10%にすることができ、例えば、10段重ねることによって中性子の検出効率を理論上50%に向上させることができるので、少なくとも重ね段数を10以上とすることが好ましい。
【0032】
上下の中性子変換材料の薄膜を持つGEMに印加される電圧は、通常、150V〜400Vであり、中性子変換材料の薄膜を持つGEMの微細貫通孔における電界強度は、通常、30kVcm
−1〜80kVcm
−1である。
【0033】
本発明における二次元TOF読出し電極は、最下段のGEMから出てくる電子の二次元位置を検出することができる。該二次元位置に於いて検出される電子は、パルス中性子の入射時刻(ストップ時刻)、計数、及び二次元入射位置の情報を含んでいる。該二次元TOF読出し電極は、格子状に配列させた電極棒に電極素子を設けたものであり、コネクタによって後続の二次元TOF読出し集積回路に接続されている。
【0034】
本発明における二次元TOF読出し集積回路は、前記二次元TOF読出し電極により検出されるパルス中性子のTOF、照射量、二次元入射位置の電子情報の読出しと演算処理を行うことができる。該二次元TOF読出し集積回路は、少なくとも、パルス中性子のTOF、照射量、二次元入射位置を読み出すための二次元読出し電子回路、パルス中性子のTOFを演算するためのタイムクロック電子回路、及び、中性子のTOF、照射線量、及び中性子入射位置の情報を含む電気信号を高度演算処理するマイクロプロセッサーユニットを持つ。前記二次元読出し電子回路は、通常、ASIC(特殊用途集積回路:Application Specific Integrated Circuit)を搭載しており、前記タイムクロック電子回路は、通常、FPGA(プログラム可能な集積回路 Field-Programmable Gate Array)を搭載しており、前記マイクロプロセッサーユニットは、通常、FPGA(プログラム可能な集積回路 Field-Programmable Gate Array)を搭載している。ASICは、多チャンネル×高周波駆動が可能であるのが好ましい。FPGAは、高速度演算とデータ圧縮が可能であるのが好ましい。
【0035】
前記タイムクロック電子回路は、前記ストップ時刻を演算することができる。同時にタイムクロック電子回路には中性子源から発射される中性子の発射時刻(スタート時刻)の電気信号が入れられる。したがって、タイムクロック電子回路は、ストップ時刻とスタート時刻との差からTOFを演算することができる。本発明におけるタイムクロック電子回路は、TOF計算のためのTOFレンジを自由設定できるようにした独立自由設定機能を持つ。これにより、TOF計算が非常に効率的に行われる。該タイムクロック電子回路を用いたTOF計算は、0.1μs〜200μsのTOF測定を約10nsの時間分解能で行える。こうすることによって、後続のマイクロプロセッサーユニットが、チェンバーに入ってくる毎秒当たり1平方センチメートル当たり10
8個の中性子が持つ膨大な量のデータ処理をTOF測定時間内に行える。このことが本発明の非常に大きな進歩である。非特許文献1に開示された従来の中性子検出器は、エネルギーが1eV〜100keVの範囲の中性子を測定することができなかった。その理由は、従来の中性子検出器が持つタイムクロックの1ミリ秒〜23ミリ秒のTOFレンジでは、エネルギーが1eV〜100keVの範囲にあり、速度が1.4×10
4m/sec〜4.4×10
6m/secの範囲にあり,TOFが0.1μ秒〜200μ秒の範囲にある中性子を検出するには余りにも長すぎたからであった。
【0036】
前記二次元TOF読出し集積回路は、イーサネット(登録商標)ケーブルによって画像データ演算処理を行う画像演算処理装置に連結されている。該画像演算処理装置は、二次元TOF読出し集積回路から伝送された情報の高速画像演算処理を行うことができる。本発明における画像演算処理装置は、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units:GPUによる汎目的計算)を搭載する。GPGPUとしては、ストリーミングプロセッサと呼ばれる多数の演算ユニットを持つデファクトスタンダード(de fact standard)であるのが好ましい。該画像演算処理装置は、通常、これを駆動させるためのソフトウエアと共にPCに格納される。こうすることによって、被射体の二次元透過像上に中性子のエネルギースペクトル及び照射線量をリアルタイムで表示することが可能である。
【0037】
以下に図面を参照しつつ本発明の一側面を実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)として詳細に説明する。
【0038】
図1は、GEM検出器(1)、二次元TOF読出し集積回路(6)、及び、画像演算処理装置(11)を備えた二次元TOFパルス中性子検出器(13)を示す。前記GEM検出器(1)は、ドリフト電極(2)、複数個のGEM(3)、及び二次元TOF読出し回路(4)を備え、電離性のガスを充填したチェンバーに格納されている。パルス中性子は、チェンバーに矢印の方向に入る。前記二次元TOF読み出し集積回路(6)は、少なくとも、ASICを搭載した二次元TOF読出し電子回路(7)とFPGAを搭載したタイムクロック電子回路(8)及びマイクロプロセッサーユニット(9)を備える。前記二次元TOF読出し集積回路(6)は、イーサネット(登録商標)ケーブル(10)を介してパーソナルコンピューター(12)に格納された画像演算処理装置(11)に接続されている。
【0039】
図2は、本発明二次元TOFパルス中性子検出器を用いて透過中性子のエネルギースペクトルを測定した1例である。ここで、(a)は、モデレ−タ−によって減速された中性子のエネルギースペクトルであり、(b)は、更に、検出器の手前に置いた被射体を透過した中性子のエネルギースペクトルである。被射体としては厚み1mmの
10B金属板を用いた。中性子は、約3GeVの加速陽子ビームをターゲットに照射して中性子を発生させ、モデレ−タ−により減速させ、厚さ1mmの
10B金属板を透過させた。得られた中性子スペクトルは、ロ―パスフィルターを用いてデコンボリューション処理により平滑化された。該TOFパルス中性子検出器は、モデレ−タ−から14メートルの位置に置いた。TOFは、3μs〜1000μsであった。図の横軸は、中性子のエネルギーを示す。縦軸は、中性子の強度を示す。スペクトル(b)が、1eV〜100eVのエネルギー範囲において、強度が非常に低いのは、被射体である
10Bの大きな中性子捕獲断面積のためである。透過中性子スペクトル(b)は、
10Bを透過した中性子スペクトルのシミュレーションと良く一致する。シミュレーションスペクトルは、JENDL−4.0に掲載されている
10Bの中性子捕獲断面積を用いて得られる。
図2の結果から、1eV〜100keVの範囲にあるパルス中性子の測定を3μs〜1000μsのTOF測定により可能であることがわかる。また、本発明検出器とモデレ−タ−との距離を0.4m〜3mとした時には、TOFは、0.1μs〜200μsとなるが、このような場合でも本発明検出器は、中性子の検出が可能である。
【0040】
図3は、被射体の透過像の一例を示す。被射体としては
図2の被射体と同じ
10B金属板を用いた。
図3の矢印は、被射体を示す。
図3の結果から、鮮明な二次元透過像が得られることがわかる。また、本発明は、物質固有の中性子共鳴吸収に依存した透過中性子を用いることにより、例えば、生体高分子、ミネラル、軽元素等を含有する被射体の鮮明な透過像を測定することができる。
【0041】
以上のことから、本発明は、1eV〜100keVの範囲にあるパルス中性子のエネルギースペクトル及び被射体の透過像を0.1μs〜200μsのTOF測定によって測定できる。また、本発明は、物質固有の中性子共鳴吸収に依存した透過中性子を用いることにより、生体高分子、ミネラル、軽元素等を含有する被射体の鮮明な透過像を測定するのに非常に有益である。