特許第6206949号(P6206949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206949視野制限画像データ作成プログラム及びこれを用いた視野制限装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206949
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】視野制限画像データ作成プログラム及びこれを用いた視野制限装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/024 20060101AFI20170925BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   A61B3/02 F
   A61B3/10 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-141794(P2013-141794)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-13011(P2015-13011A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 陽介
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/116548(WO,A1)
【文献】 特開2009−268778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
眼球画像データを取得し、前記眼球画像データに基づき眼球運動データを取得する手段、
前記眼球運動データに基づき、注視位置の座標を情報として含む注視位置データを作成し、前記注視位置に追随して前記注視位置の視野を制限する視野制限部分データを作成し、表示画像データと前記視野制限部分データに基づき視野制限画像データを作成する手段、
前記視野制限画像データを表示させる手段、として機能させるための視野制限画像データ作成プログラム。
【請求項2】
前記眼球運動データは、左右の目それぞれに対して取得し、
前記視野機能制限画像データも左目用及び右目用それぞれを作成する請求項1記載の視野制限画像データ作成プログラム。
【請求項3】
使用者の眼球を撮影する眼球運動撮影用カメラ装置と、
使用者の前面に配置されるディスプレイ装置と、
前記眼球運動撮影用カメラ装置が取得した画像データに基づき眼球画像データを取得し、前記眼球画像データに基づき眼球運動データを取得し、前記眼球運動データに基づき、注視位置の座標を情報として含む注視位置データを作成し、前記注視位置に追随して前記注視位置の視野を制限する視野制限部分データを作成し、表示画像データと前記視野制限部分データに基づき視野制限画像データを作成し、前記視野制限画像データを表示させる視野制限画像データ作成装置と、を備える視野制限装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視野制限画像データ作成プログラムに関する。より具体的には、視野機能の制限を疑似体験させるために用いられる画像データ作成プログラムに好適なものである。
【0002】
人間の視覚には中心視と周辺視と呼ばれる二つの情報処理の機能が存在する。中心視とは、視野中央の最も視力のよい部分(中心視野)で対象を捉えることであり、周辺視とは、その周辺の広大な領域(周辺視野)で対象や空間を捉えることである。この二つの視機能が互いに異なる役割を担いつつ、かつ互いに相補的に働きあうことで日常生活における多様な知覚活動の展開は支えられている。
【0003】
人間の視野機能に関する先行技術として、例えば下記非特許文献1に記載の研究がある。この文献には、視力や色弁別では中心視野のほうがはるかに優れた感度を持っていること、逆に、運動する物体や明るさの変化の検出といった環境の変化に対する視覚感覚はむしろ周辺視野のほうが優れていること等が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大山正、今井省吾、和気典二編、新編感覚・知覚心理学ハンドブック、苧坂直行、視野、923〜、誠信書房、1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の研究は、実験室内での視覚感度の測定に留まるものであって、日常の生活環境の中の日常的な行為に近づけて中心視と周辺視が担っている役割を解明する点においてはまだ課題を残している。
【0006】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、より日常的な行為に近づいた状態で中心視と周辺視を区別して視野を制限、評価できる視野制限画像データ作成プログラム及びこれを用いた視野制限装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する一の観点にかかる視野制限画像データ作成プログラムは、実行することによってコンピュータに、眼球運動データを取得する手段、眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成する手段、視野制限画像データを表示させる手段として機能する。
【0008】
また、本発明の他の一観点に係る視野制限装置は、使用者の眼球を撮影する眼球運動撮影用カメラ装置と、使用者の前面に配置されるディスプレイ装置と、眼球運動撮影用カメラ装置が取得した画像データに基づき眼球運動データを取得し、眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成し、視野制限画像データを表示させる視野制限画像データ作成装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によって、より日常的な行為に近づいた状態で中心視と周辺視を区別して視野を制限、評価できる視野制限画像データ作成プログラム及びこれを用いた視野制限装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る視野制限装置の概観の概略図である。
図2】実施形態に係る視野制限装置のディスプレイ装置の表示パネルのイメージ図である。
図3】キャリブレーションのイメージ図である。
図4】視野制限部分データのイメージ図である。
図5】表示画像データのイメージ図である。
図6】視野制限部分データのイメージ図である。
図7】視野制限画像データのイメージ図である。
図8】本実施例で使用した実験用迷路を示す図である。
図9】本実施例で使用した実験用迷路を示す図である。
図10】本実施例で用意した視野条件の種類を示す図である。
図11】各視野条件における迷路全体の歩行時間の平均値を示す図である。
図12】行止り空間における歩行時間を抽出した図である。
図13】非行止り空間における歩行時間を抽出した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る視野制限装置(以下「本装置」という。)1の外観の概略を示す図である。本図で示すように、本装置1は、(1)前方歩行経路を撮影するための前方撮影用カメラ装置2と、(2)使用者の眼球を撮影する眼球運動撮影用カメラ装置3と、(3)使用者の前面に配置されるディスプレイ装置4と、(4)前方撮影用カメラ装置及び眼球運動撮影用カメラ装置が取得した画像データに基づき眼球運動データを取得し、眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成し、視野制限画像データを表示させる視野制限画像データ作成装置(図示省略)と、を備える。本図の構成の装置は、いわゆるヘッドマウントディスプレイ(HMD)とも呼ばれる。なお図2に、本装置のディスプレイ装置4の表示パネルを見た場合のイメージ図を示しておく。
【0013】
本実施形態において、(1)前方歩行経路を撮影するための前方撮影用カメラ装置2は、使用者の前方における歩行経路を撮影し、前方歩行経路画像データ(映像データ)を視野制限画像データ作成装置に出力することのできる装置である。前方撮影用カメラ装置2の構成は、上記の機能を有する限りではなく、市販されているものを使用することができるが、本装置1の構成上、左右の眼に対応する視野制限画像を表示させるために二つ配置されていることが好ましく、また、各々広角レンズを備え広視野角画像データが取得できるよう構成されていることが好ましい。前方撮影用カメラ装置2は、上記のとおり、視野制限画像データ作成装置に接続されており、取得した画像データを視野制限画像データ作成装置に出力する。また、前方撮影用カメラ装置2を配置する位置は、使用者が実際に見ることのできる経路を再現することができる限りにおいて限定されないが、ディスプレイ装置4上部に配置しておくことが簡便であり好ましい。
【0014】
また、本実施形態において、(2)使用者の眼球を撮影する眼球運動撮影用カメラ装置3は、使用者の眼球を撮影し、眼球画像データを取得するためのカメラ装置であり、この機能を有する限りにおいて限定されるものではないが、ディスプレイ装置4における使用者の顔近傍の位置に配置されていることが好ましい。ところで、本実施形態では、使用者にとってディスプレイ装置4の表示を見やすくするため、囲い部材によって外部周囲からの光をディスプレイ装置4内部に入れないよう制限している。したがって、眼球運動撮影用カメラ装置3は、暗い状態でも十分に眼球画像データを取得できる程度の性能を有していることが好ましく、又は、使用者が通常感じることのできる可視領域ではなく、可視領域以外の波長範囲、例えば赤外領域における画像を取得することのできるカメラ装置であることが好ましい。特に赤外領域における画像を取得することのできるカメラ装置である場合、照明として赤外光を用いることが可能となり、使用者にとって暗い状態を確保しつつ、明瞭な眼球画像データを取得することができるといった利点がある。なお、本眼球運動撮影用カメラ装置は、上記前方撮影用カメラ装置と同様、視野制限画像データ作成装置5に接続されており、取得した画像データを視野制限画像データ作成装置5に出力する。眼球カメラ装置による眼球運動の抽出のイメージ図を図3に示しておく。
【0015】
また、本実施形態において、(3)使用者の前面に配置されるディスプレイ装置4は、画像データを表示させるための表示パネルと、使用者の顔に取り付けるとともに使用者の前面に表示パネルを配置するための囲い部材41と、この囲い部材を使用者の顔に取り付けるための取り付け部材42と、を備えている。
【0016】
本実施形態において表示パネルは、使用者の眼前に備えられるものであって、限定されるわけではないが、複数設けられていることが好ましい。より具体的には、右眼で注視するための右眼用表示パネルと、左眼で注視するための左眼用表示パネルと、を備えていることが好ましい。このようにすることで、立体視が可能となり、より現実に近い表示を実現することができるようになる。表示パネルの具体的な例としては限定されず、通常市販されている表示パネルを用いることができ、例えば液晶表示パネル、有機ELパネル等が軽量かつ薄型であり好ましい。
【0017】
また本実施形態において、囲い部材41は、上記のとおり、使用者の顔に取り付けられるものであって、使用者の前面に表示パネルを配置するためのものである。さらに、上記のとおり、囲い部材41は、使用者にとって表示パネルの表示を見やすくするため、外部周囲からの光を内部に入れないよう、使用者の眼球周辺を覆う構成となっていることが好ましい。
【0018】
また本実施形態において、取り付け部材42は、上記のとおり、この囲い部材を使用者の顔に取り付けるためのものである。この部材は、この機能を有する限りにおいて限定されず、例えば図1で示すようにバンドを用いたものであってもよいし、重量に耐えることができれば眼鏡のフレームにおける「つる」のような形状であってもよく、限定はされない。
【0019】
また、本実施形態において、視野制限画像データ作成装置は、上記のとおり、前方撮影用カメラ装置及び眼球運動撮影用カメラ装置が取得した画像データに基づき眼球運動データを取得し、眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成し、視野制限画像データを表示させることのできるものである。
【0020】
本装置は、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、上記の機能を実現することのできるプログラムをハードディスクなどの記録媒体に格納してなるいわゆるパーソナルコンピュータ等の情報処理装置であることが好ましい。すなわち、上記前方撮影用カメラ装置、眼球運動撮影用カメラ装置、及びディスプレイ装置に接続された情報処理装置を用いることで、上記の機能を安価かつ簡便に実現できるといった利点がある。
【0021】
情報処理装置は、コードなどによってディスプレイ装置及び使用者から大きく離れた位置に配置されていてもよく、また、小型化が可能であればディスプレイ装置上部等に配置されていることも好ましく、その位置は限定されない。
【0022】
ここで、上記構成において格納、実行される視野制限画像データ作成プログラム(以下「本プログラム」という。)について説明する。本プログラムは、実行されることで、コンピュータに、(A)眼球運動データを取得する手段、(B)眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成する手段、(C)視野制限画像データを表示させる手段、として機能させる。
【0023】
まず、本プログラムは、実行されることで(A)眼球運動データを取得する手段として機能する。眼球運動データは、上記眼球運動撮影用カメラ装置から出力されるものであり、この眼球運動データをハートディスク等の記録媒体に記録する処理を行う。
【0024】
なおこの手段において、眼球運動データと使用者の眼球が表示パネルのどの位置を中止しているのかを確認するための関連付けを行っておくこと(キャリブレーション)を行っておくことが好ましい。この方法としては、限定されるわけではないが、例えば、図4のイメージ図で示すように、予め表示パネルに基準となる点(基準点)を表示し、その表示点の座標データとその時点における眼球の位置とを関連付けることで、眼球の位置を特定することで、使用者が注視している表示パネルの位置を特定することができる。なおこの基準点は両眼それぞれに対して行っておくことが好ましい。またこの基準点の数は限定されるわけではないが少なくとも9点以上行っておくことが好ましく、より好ましくは16点以上である。9点以上としておくことで近似の正確性を確保することができる一方、16点以上とすることで、眼球位置の近時を曲線的に行うことが可能となるといった利点がある。なおここで「眼球の位置」とは、限定されるわけではないが、瞳孔の中心位置であることが好ましい。瞳孔が外部の光を取り入れる重要組織であって、中心視野を判断する最も好ましい位置と考えられるためである。瞳孔の位置を抽出する方法は一般的な領域抽出法によって実現でき、特定の方法に限定されるわけではない。
【0025】
次に、本プログラムは、実行されることで(B)眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成する手段として機能する。具体的には、眼球運動データに基づき、視野制限画像データを作成し、ハードディスク等の記録媒体に記録する。
【0026】
より具体的に説明すると、眼球運動データに基づき視野制限画像データを作成する手段は、(B−1)眼球運動データに基づき視野制限部分データを作成する手段、(B−2)表示画像データと視野制限部分データに基づき視野制限画像データを作成する手段、として機能する。
【0027】
まず、(B−1)眼球運動データに基づき視野制限部分データを作成する手段は、具体的に説明すると、眼球運動データに基づき使用者が注視している表示パネルの位置(注視位置)を特定し、当該注視位置の座標を情報として含む注視位置データを作成し、その注視位置データに基づき、視野制限部分データを作成する処理を行う。ここで「視野制限部分」とは、いわゆる目隠しとなる部分、又は、見ることのできる部分をいい、例えば、目隠しとなる部分の場合、注視位置を中心として所定の半径部分の情報を削除する処理(又は黒塗り等、単一の色とする処理)により実現でき、反対に、見ることのできる部分の場合、注視位置を中心として所定の半径部分の情報だけ残してそれ以外の部分のデータを削除する処理(又は黒塗り等、単一の色とする処理)により実現できる。この場合のイメージ図を図5に示しておく。なお、視野制限部分データの形状は問わないが、画像データの形式であってもよく、注視位置データと消去又は単一色とする範囲やその色等の条件に関する数値のデータ(条件データ)形式であってもよい。
【0028】
また、本実施形態において、視野制限部分データは、右眼用及び左眼用それぞれについて作成しておくことが好ましい。このようにすることで、両眼において確実に視野の制限を行うことができるようになる。
【0029】
また、(B−2)表示画像データと視野制限部分データに基づき視野制限画像データを作成する手段は、表示画像データを格納し、上記作成した視野制限部分データと組み合わせることで視野制限画像データを作成する。
【0030】
具体的に説明すると、まず、本手段では、表示画像データをハードディスク等の記録媒体に格納する。ここで「表示画像データ」とは、視野制限部分を表示させない通常の表示画像の情報を含むデータであり、例えば、上記前方撮影用カメラ装置によって出力される前方歩行経路画像データが該当するが、前方撮影用カメラ装置とは関係なく予め作成又は記録した経路の画像データであってもよい。
【0031】
なお、予め作成又は記録した経路の画像データの場合、予め前方撮影用カメラ装置によって撮影し、コンピュータに記録媒体に格納した画像データであってもよいし、また、コンピュータを用いて作成される画像データ(いわゆるCGデータ)であってもよい。この場合のイメージ図を図6に示しておく。またこの場合において、表示画像データは、右眼用及び左眼用それぞれについて作成しておくことが好ましい。
【0032】
また、予め作成した記録した経路の画像データの場合、ディスプレイ装置等に角度センサーや位置センサーを備え付け、頭部の向きや使用者の位置情報を取り込み、この向き及び位置情報に基づき上記予め作成又は記録した経路の画像データを表示させていくことで、疑似体験をより現実に近い感覚とすることが可能となる。また、後述の実施例のように、角度センサーを取り付ける一方、外部から視野制限装置を撮影するなどしてその位置及び角度を特定し、画像データを改めて作成し、視野制限装置内の記録媒体に格納させるようにしてもよい。
【0033】
次に、上記表示画像データと視野制限部分データを組み合わせることで視野制限画像データを作成する。この組み合わせた結果のイメージデータを図7に示しておく。もちろん、この場合、左眼用及び右眼用それぞれに視野制限画像データを得ておくことが好ましい。
【0034】
以上、本発明によって、より日常的な行為に近づいた状態で中心視と周辺視を区別して視野を制限、評価できる視野制限画像データ作成プログラム及びこれを用いた視野制限装置を提供することができる。
【実施例】
【0035】
ここで、実際に上記視野制限装置を作成し、その効果を確認した。以下具体的に説明する。まず、広視野角ヘッドマウントディスプレイ(nViso−SX111:Nvis)を改造した。左右の眼球それぞれには分解能1280×1024ピクセルの独立した2つの表示パネルが用意されており、2つの表示パネルの映像が輻輳する中央約60度四方の範囲では両眼立体視が可能となっている。また、両眼表示パネルをあわせた視野の大きさは、対角視野角111度(垂直視野角64度、水平視野角120度)であり、広大な周辺視野領域を包含した没入間のある仮想空間を提示することができるようになっている。
【0036】
また今回の視野制限装置のディスプレイ装置の頭頂部には、LED光源を取り付けるとともに、実験室内の周縁部に4台のモーションキャプチャ用の高精細カメラが設置されており、4台の映像を専用のソフトウエア(PPT:World Viz)で統合して画像解析し、光源の3次元位置情報をリアルタイムで取得できるようにし、光源の位置情報を下に、ヘッドマウントディスプレイ内に使用者の位置移動に同調した仮想空間を形成できる(表示画像データを作成できる)ようにした。
【0037】
また頭部には、3角度センサー(IntertiaCube2:InterSense)を取り付け、使用者の頭部の向きを測定し、使用者の頭部方向に同調した仮想空間を形成できる(表示画像データを作成できる)ようにした。なおこの仮想空間の形成には、Vizard4.0を用いた。
【0038】
一方、眼球運動撮影用カメラ装置として、ヘッドマウントディスプレイの接眼部分の下方から、両眼の眼球運動を抽出するためのデバイス(ViewPointEyeTracker B−Nvis:Arrington Reasearch)を取り付けた。イルミネータと小型カメラ、反射鏡がセットとなっており、ディスプレイ装置内での眼球の映像を220Hzで撮影することができようにした。
【0039】
そして、上記装置を用い、実際に実験を行った。実験は、仮想空間内での探索歩行実験とし、ヘッドマウントディスプレイ内の仮想空間に3000mm×5000mmの実験用迷路を作成し、20名の被験者に、視野のさまざまな部分を制限された状態で、スタートからゴールまで歩行してもらった。この場合において使用した迷路の図を図8、9に示しておく。なおこれらの迷路はそれぞれスターと地点から見て左右対称であるが、はじめに被験者が選んだほうの経路が常に行き止まりの経路となるように設計した。
【0040】
また今回の実験において用意した視野条件の種類を図10に示しておく。視野中央(注視位置)を制限する条件については、制限範囲の大きさと、制限範囲が眼球運動に追随するか否かによって3種類を用意した。Central Restrict 10deg/Moveでは、暗点は周囲直径10度の範囲を遮蔽しつつ付けるようにした。CentralRestrict 20deg/Moveではその暗点の大きさが直径20度に広がる。一方、Central Restrict 10deg/Fixでは、制限範囲は直径10度のまま、その制限範囲が表示パネル全体の中央に固定されるようにした。被験者には、これら3つの視野制限条件に、視野制限のない条件であるNon−Restrictedを加えて、合計4種類の視野条件で、それぞれの実験用迷路を各1ずつ歩行してもらった。
【0041】
この評価として、仮想迷路における歩行時間の分析を行った。なお統計処理においてはすべて分散分析で帰無仮説の棄却を確認した後、ボンフェローニ法による多重比較検定を行っている。
【0042】
図11は、各視野条件における迷路全体の歩行時間の平均値を示す。視野制限のないNon−Restricted条件に比べると、制限範囲が眼球運動に追従する二つの視野制限条件、Central10/Move及びCentral30/Moveにおいて、統計的に有意な歩行時間の伸長が確認された(p=0.045、p=0.002)。この結果、視野中央(注視位置)を制限されることによって、探索歩行に何らかの困難が生じていることが確認できた。ただし、上記の傾向は、制限範囲が動かないCentral10/Fixにおいては確認されなかった。
【0043】
またここで、Central10/FixとCentral10/Moveとを比較したところ、Central10/Moveのほうが歩行時間は有意に長いことが確認できた(p=0.001)。即ち、単に視野の中に直径10度の制限範囲があるだけでは、それほど大きな困難は生じず、その制限範囲が眼球運動に追従して動き、中心視野の機能が選択的に制限されたときに、はじめて顕著な困難が生じていると考えることができた。なおこれは、本装置による特性が導き出した新しい知見と考えられる。
【0044】
次に仮想迷路を、短辺方向に3つの領域に分割し、分割した経路空間のうち、奥行きの深い行き止まりのある方を「行止り空間」、ゴールへと続く経路のある方を「非行止り空間」とし、分析を行った。
【0045】
図12は、行止り空間における歩行時間を抽出したもの、図13は非行止り空間における歩行時間を抽出したものである。非行止り空間では、制限範囲が大きく眼球運動に追従するCentral20/Move条件のみが、視野制限のないNon−Restricted条件より、歩行時間が長くなることが確認された(p=0.033)。
【0046】
一方、行止り空間では、Central10/MoveとCentral20/Moveの二つのMove条件において、Non−Restricted条件より、歩行時間が長くなることが確認された(p<0.001,p=0.006)。このことから、行き止まりが行き止まりであることを判断する際に、特に中心視野の機能が必要となっていることが推察される。
【0047】
またCentral10/MoveとCentra20/Moveの間にも、統計的に有意な差が確認できることから(p=0.029)、行き止まりにおいては、視野の中心部近傍だけでなく、より大きな視野範囲を使う必要が生じていることが示唆された。
【0048】
以上、本実施例により、より日常的な行為に近づいた状態で中心視と周辺視を区別して視野を制限、評価できるだけでなく、きわめて有用な情報を取得することが可能な視野制限画像データ作成プログラム及びこれを用いた視野制限装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、視野制限画像データ作成を作成するためのプログラム、視野制限装置として産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13