【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子を作製する工程1、アミノ基を有するモノマーを用いて架橋リビング重合を行うことで、前記リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子の粒子表面にアミノ基を含有する架橋シェルポリマー層を形成する工程2、及び、前記アミノ基を含有する架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させる工程3を有
し、工程2において、アミノ基を有するモノマーを用いて、成長ポリマーの自己水素引き抜き反応を伴う架橋リビング重合を行う有機−無機ハイブリッド粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、基材樹脂粒子の表面にリビング重合開始点を導入した後、アミノ基を有するモノマーを用いて架橋リビング重合を行い、更に架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させることにより、粒子径や無機層の膜厚を均一に制御できることに加えて、シェル(無機層)の強度が大幅に向上することから、無機層の膜厚及び粒子径の小さい有機−無機ハイブリッド粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の有機−無機ハイブリッド粒子の製造方法は、リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子を作製する工程1を有する。
なお、本明細書では、リビング重合開始点が表面に導入された粒子を「樹脂コア粒子」、リビング重合開始点が表面に導入されていない粒子を「基材樹脂粒子」という。
【0010】
上記リビング重合とは、重合反応点がドーマント種と呼ばれる一時的な重合停止状態と、成長活性種の状態との可逆的平衡状態を保ちながら、モノマー付加が進行する重合形態を表す。上記リビング重合では、ドーマント種と成長活性種の相互変換速度が成長速度(モノマーの付加速度)より充分速いので、各重合反応点からのポリマー成長速度が揃い、結果的に分子量の揃ったポリマーが得られるといった特徴がある。
また、上記リビング重合開始点とは、熱、光、触媒等の作用によって、上記ドーマント種と成長活性種の平衡状態になり、モノマーが存在すればリビング重合が開始する化学結合点をいう。リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子としては、例えば、ハロゲンが表面に導入された樹脂コア粒子、ジチオカルバメート化合物が表面に導入された樹脂コア粒子等が挙げられる。
【0011】
上記工程1において、ハロゲンが表面に導入された樹脂コア粒子を作製する方法としては、例えば、基材樹脂粒子にハロゲンを有するモノマーを添加して重合する方法、基材樹脂粒子にハロゲンガス又はハロゲンを含有する酸等を添加して、樹脂中のいずれかの原子とハロゲン原子とを置換する方法等が挙げられる。
【0012】
上記基材樹脂粒子にハロゲンを有するモノマーを添加して重合する方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、ミニエマルジョン重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、シード重合法等の微粒子重合方法が挙げられる。上記重合法のうち、ソープフリー重合法、分散重合法、シード重合法が均一な粒径を得るために好ましい。なお、ハロゲンを有するモノマーを添加して重合する工程は、基材樹脂粒子の合成工程と同時あるいは連続して行ってもよく、別の工程で行ってもよい。
【0013】
上記ハロゲンを有するモノマーとしては、例えば、2−クロロプロピニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモプロピニルオキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸フロリド、(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ブロモエチル、(メタ)アクリル酸クロロフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、α−フルオロアクリル酸メチル、α−クロロアクリル酸メチル、α−クロロアクリロニトリル、α−クロロアクロレイン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、クロロスチレン、ジクロロスチレン、クロロメチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードスチレン、クロロ安息香酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ジクロロ酢酸ビニル、クロロエチルビニルエーテル、ブロモエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0014】
上記基材樹脂粒子にハロゲンガス又はハロゲンを含有する酸等を添加して、樹脂中のいずれかの原子とハロゲン原子を置換する方法としては、例えば、基材樹脂粒子を分散させた水に、塩素、臭素等のガスを吹き込む方法や、フッ酸、塩酸等を添加し、所定の時間攪拌混合する方法等が挙げられる。また、必要に応じて加熱やUV照射により反応を促進してもよい。
【0015】
上記ジチオカルバメート化合物が表面に導入された樹脂コア粒子を作製する方法としては、例えば、基材樹脂粒子にジチオカルバメートを有するモノマーを添加して重合する方法、基材樹脂粒子にジチオカルバメート化合物を直接添加して表面に付加する方法等が挙げられる。
【0016】
上記基材樹脂粒子にジチオカルバメートを有するモノマーを添加して重合する方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、ミニエマルジョン重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、シード重合法等の微粒子重合方法が挙げられる。上記重合法のうち、ソープフリー重合法、分散重合法、シード重合法が均一な粒径を得るために好ましい。なお、ジチオカルバメートを有するモノマーを添加して重合する工程は、基材樹脂粒子の合成工程と同時あるいは連続して行ってもよく、別の工程で行ってもよい。
【0017】
上記ジチオカルバメートを有するモノマーとしては、例えば、ビニルジチオカルバメート、アリルジチオカルバメート、ビニルベンジルジチオカルバメート、(メタ)アクリロイルジチオカルバメート、ビニルアセチルジチオカルバメート等が挙げられる。
【0018】
上記ジチオカルバメートを有するモノマーを構成するジチオカルバメート基としては、例えば、N−メチル−ジチオカルバメート、N−エチルジチオカルバメート等のN−アルキルジチオカルバメート基;N,N−ジメチルジチオカルバメート、N,N−ジエチルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−プロピルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−プロピルジチオカルバメート、N−メチル−N−i−プロピルジチオカルバメート等のN,N−ジアルキルジチオカルバメート基;N−フェニルジチオカルバメート等のN−アリールカルバメート;N−メチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−エチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−n−プロピル−N−フェニルジチオカルバメート、N−n−ブチル−N−フェニルジチオカルバメート等のN−アルキル−N−アリルジチオカルバメート基;N−シクロヘキシルカルバメート等のN−シクロアルキルジチオカルバメート基;N,N−ジシクロヘキシルジチオカルバメート等のN,N−ジシクロアルキルジチオカルバメート基;N−アリルジチオカルバメート等のN−アルケニルジチオカルバメート基;N,N−ジアリルジチオカルバメート等のN,N−ジアルケニルジチオカルバメート基;N−ベンジルジチオカルバメート等のN−アラルキルジチオカルバメート基;N,N−ジベンジルジチオカルバメート等のN,N−ジアラルキルジチオカルバメート基;N−メチル−N−ベンジルジチオカルバメート、N−エチル−N−ベンジルカルバメート等のN−アルキル−N−アラルキルジチオカルバメート基;ピロリジルジチオカルバメート、ピペリジルジチオカルバメート、モルフォリニルジチオカルバメート等の複素環式ジチオカルバメート基等が挙げられる。
【0019】
上記基材樹脂粒子としては特に限定されないが、例えば、ポリスチレン及びその誘導体、ポリ(メタ)アクリレート及びその誘導体、ポリアルキレン、ポリオレフィン等からなる粒子を使用することができる。なかでも、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンからなる粒子が好ましい。
【0020】
上記基材樹脂粒子は、ソープフリー重合を用いて作製することが好ましい。
上記ソープフリー重合は、水を主成分とする媒体中で、乳化剤ミセルが存在しない状態における重合である。上記ソープフリー重合を用いることで、粒子径分布の狭い基材樹脂粒子を作製することができる。また、粒子表面がクリーンな粒子が作製することができ、乳化剤の除去工程を省略することが可能となる。
【0021】
上記リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子は、平均粒子径の好ましい下限が0.01μm、好ましい上限が100μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、アミノ基を含有する架橋シェルポリマー層(シェル)を重合する工程で粒子が凝集することがある。上記平均粒子径が100μmを超えると、樹脂コア粒子表面上に均一にシェルを被覆することができず、シェルに欠損ができることがある。上記平均粒子径のより好ましい下限は0.02μm、より好ましい上限は20μmである。
なお、上記樹脂コア粒子の平均粒子径は、光学顕微鏡、又は、電子顕微鏡を用いて無作為に選んだ100個の樹脂コア粒子を観察して得られた直径の平均値を意味する。
【0022】
また、上記樹脂コア粒子は、CV値の好ましい上限が10%である。CV値が10%を超えると、有機−無機ハイブリッド粒子が粒子径分布の広いものとなる。CV値のより好ましい上限は7%である。なお、CV値は、標準偏差を平均粒子径で割った値の百分率(%)で示される数値である。
【0023】
本発明の有機−無機ハイブリッド粒子の製造方法は、アミノ基を有するモノマーを用いて架橋リビング重合を行うことで、上記リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子の粒子表面にアミノ基を含有する架橋シェルポリマー層を形成する工程2を有する。アミノ基を有するモノマーを架橋リビング重合することによって、各リビング重合開始点より成長する分子鎖長が均一となるため、架橋点間分子量及び分子量分布が規制されたアミノ基を有するポリマーを樹脂コア粒子表面に結合することができ、その結果、均一な層厚みのアミノ基を含有する架橋シェルポリマー層を有するコアシェル型樹脂粒子を作製することができる。
特に、本発明では、シェルポリマー層を架橋構造とすることで、良溶媒中においてもシェルポリマー層を構成するポリマー鎖の広がりが抑制され、架橋シェルポリマー層中におけるアミノ基の密度が高くなる。その結果、後の架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させる工程3において、無機物の堆積密度も同時に高くなるため、緻密で高強度のシェルを有する有機−無機ハイブリッド粒子を製造することができる。
【0024】
上記アミノ基を有するモノマーを用いて架橋リビング重合を行う際の架橋の方法としては、例えば、上記アミノ基を有するモノマーを用いてリビング重合を行った後、架橋性化合物を添加する方法、上記アミノ基を有するモノマーと架橋性モノマーをリビング共重合する方法、アミノ基を有する架橋性モノマーを用いる方法、アミノ基を有するモノマーを水素引き抜き反応などの移動反応を伴う架橋リビング重合反応を行う方法等が挙げられる。
【0025】
上記アミノ基を有するモノマーを用いて架橋リビング重合を行う際のリビング重合の方法としては、特に限定されないが、原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerisation、以下、ATRP法ともいう)、イニファーター開始剤を用いたリビング重合(イニファーター重合)を用いることが好ましい。
上記ATRP法は、リビングラジカル重合の1種である。上記ATRP法を用いることで、水媒体を用いた不均一系でも高い反応率でリビング重合を行うことができる。
上記イニファーター重合は、光、熱等を用いてラジカルを生成させ、生成したラジカルを開始点として重合を行う方法であり、成長ラジカルが水素引き抜き反応を起こし易く、架橋剤を用いなくても架橋点が生成するため、効率的に架橋リビング重合を行うことができる。また、着色が起りにくく、厚みの制御が容易となるという利点がある。
【0026】
上記ATRP法を用いた方法としては、例えば、上記ハロゲンが表面に導入された樹脂コア粒子、遷移金属錯体、アミノ基を有するモノマー等を使用する方法等を用いることができる。上記樹脂コア粒子の表面に導入されたハロゲンは、ATRP法リビング重合の反応開始点として作用する。
【0027】
上記遷移金属錯体としては、下記一般式(1)で表されるものを用いることができる。
MZ(D) (1)
式(1)中、Mは遷移金属、Zはハロゲン原子、(D)はリガンドを表す。
【0028】
上記Mは遷移金属であれば特に限定されないが、銅原子が好ましい。
上記Zのハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。なかでも、塩素原子が好ましい。
上記(D)のリガンドは、遷移金属と配位結合が可能なものであれば特に限定されないが、次のような多座配位子等が好ましい。
上記多座配位子としては、例えば、2、2’−ビピリジル、2,2’−ビ−4−ヘプチルピリジル、2−(N−ペンチルイミノメチル)ピリジン、スパルテイン、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等が挙げられる。これらのリガンドは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
上記遷移金属錯体には、反応を活性化させるための目的で、例えば、過酸化物、アゾ化合物等のラジカル発生剤や、アスコルビン酸、有機スズ化合物等の還元剤が添加されてもよい。
【0030】
上記イニファーター重合とは、開始剤への連鎖移動と1次ラジカル停止のいずれか、または両方を起こしやすい開始剤(イニファーター開始剤)を用いた重合であり、主として加熱や、紫外線等の光照射により、ドーマント種から成長ラジカルを可逆的に生成させる方法を指す。イニファーター重合は、熱や光を当てるだけという簡便な手順で重合を行えるという点で有用である。また、上記イニファーター重合を用いることで、遷移金属錯体等の遷移金属含有物質を用いることなく、架橋リビング重合を行うことが可能となる。その結果、遷移金属錯体由来の残留物の影響を受けないため、特に、着色が無いポリマー粒子や、有機−無機ハイブリッド粒子が得られるという利点が得られる。
【0031】
上記イニファーター重合において、光を用いてイニファーター重合を行う際に用いられる開始剤を光イニファーター、熱を用いてイニファーター重合を行う際に用いられる開始剤を熱イニファーターという。
上記光イニファーターとしては、例えば、ジチオカルバメート類、テトラフェニルエタン類、テトラエチルチウラムジスルフィド類等が挙げられる。
上記ジチオカルバメート類としては、例えば、酢酸N,N’−ジエチルジチオカルバメート、ビニルベンジルN,N’−ジメチルジチオカルバメート等が挙げられる。特に、ビニルベンジルN,N’−ジメチルジチオカルバメートを樹脂コア粒子合成時に用いると、イニファーターの固定化工程が不要になり、操作が簡便になる他、自身が界面活性作用を有しているので、樹脂コア粒子のサイズを、界面活性剤を使用することなく制御することが可能である点で好ましい。
本発明においては、アミノ基を有する成分を含有した状態で光を当てると、アミノ基の一部からラジカルが生成し、その地点からも重合が進行するために、分子が分岐や架橋反応が進行するために、特別な架橋剤を用いなくても架橋構造が得られる点で、特に好ましい。
なお、上記ジチオカルバメート類は重合安定性(リビング性)が高いことからより好ましい。上記熱イニファーターとしては、例えば、フェニルアゾトリフェニルメタン類、テトラフェニルエタン類等が挙げられる。
【0032】
上記アミノ基を有するモノマーとしては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、等が挙げられる。
【0033】
上記架橋性化合物としては、例えば、ハロゲン含有官能基を2以上有する化合物が好ましく、ハロゲン置換アルコキシ基を有する化合物が好ましい。具体的には例えば、1,2−ビス(2−ヨードエトキシ)エタン、1,2−ビス(2−ブロモエトキシ)エタン、1,2−ビス(2−クロロエトキシ)エタン等が挙げられる。
【0034】
上記架橋性化合物の添加量としては特に限定されないが、上記アミノ基を有するモノマー100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましい。上記範囲内とすることで、充分な強度を有するシェルを得ることが可能となる。
【0035】
上記アミノ基を有するモノマーと架橋性モノマーをリビング共重合する方法で架橋リビング重合を行う場合、上記架橋性モノマーとしては特に限定されず、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートや、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアクリル系多官能性モノマー、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
上記架橋性モノマーの添加量としては特に限定されないが、上記アミノ基を有するモノマー100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましい。上記範囲内とすることで、充分な強度を有するシェルを得ることが可能となる。
【0037】
上記アミノ基を有する架橋性モノマーを用いる方法で架橋リビング重合を行う場合、上記アミノ基を有する架橋性モノマーとしては、例えば、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、4−(N,N−ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0038】
上記アミノ基を有するモノマー、架橋性モノマー、あるいはアミノ基を有する架橋性モノマー等のシェルを構成する目的で添加されるモノマーの合計添加量としては、特に限定されないが、上記樹脂コア粒子100重量部に対して10〜1000重量部であることが好ましい。上記範囲内とすることで、適度なコア/シェル比を有するコアシェル樹脂粒子を得ることが可能となる。
【0039】
本発明の有機−無機ハイブリッド粒子の製造方法は、上記アミノ基を含有する架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させる工程3を有する。
【0040】
上記アミノ基を含有する架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させる方法としては、特に限定されないが、例えば、上記コアシェル型樹脂粒子に溶媒、有機−無機化合物を添加した後、上記有機−無機化合物を加水分解し、脱水等をさせる方法等が挙げられる。このような方法を用いることで架橋シェルポリマー層中のアミノ基が有機−無機化合物の加水分解、脱水反応を促進する触媒的な効果を生み、架橋シェルポリマーにのみ選択的に収率良く無機物を析出させることができる。
【0041】
上記樹脂コア粒子に結合したアミノ基を含有する架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させる際に使用する溶媒としては、特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、エチレングリコール等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記析出させる無機物は粒子状であることが好ましい。また、上記無機物を析出させる際に、急激な反応を抑制し均一な粒子径の無機粒子を析出させる目的で、例えば、アセチルアセトン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤が添加されてもよい。特に、アルコール溶媒に対しアセチルアセトンを添加することが好ましい。
【0043】
上記有機−無機化合物としては、無機物を析出可能な化合物であれば特に限定されないが、チタンアルコキシド、シリコンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等が挙げられる。
【0044】
上記チタンアルコキシドとしては、例えば、テトラメチルチタネート(TMT)、テトラエチルチタネート(TET)、テトラ−n−プロピルチタネート(TnPT)、テトライソプロピルチタネート(TPT)、テトラ−n−ブチルチタネート(TnBT)、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート等が挙げられる。これらのなかでは、テトラ−n−ブチルチタネートが好ましい。
上記シリコンアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラシクロヘキシルシリケート、テトラベンジルシリケート等が挙げられる。これらのなかでは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましい。
上記ジルコニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウム、テトラフェノキシジルコニウム等が挙げられる。
これらの金属アルコキシドにおいて、金属に結合している4つのアルコキシドのうち1〜3個が他の種類のアルコキシドと置換されてもよい。
【0045】
上記有機−無機化合物の添加量としては特に限定されないが、上記コアシェル型樹脂粒子100重量部に対して10〜50000重量部であることが好ましい。上記範囲内とすることで、適度な厚みを有する無機物の層を形成することが可能となる。
【0046】
上記工程3において無機粒子を析出させる場合、上記無機粒子の平均粒子径の好ましい下限が0.0001μm、好ましい上限が10μmである。平均粒子径が0.0001μm未満であると、無機粒子が溶媒中に分散し、架橋シェルポリマー層中に固定化されないことがある。平均粒子径が10μmを超えると、架橋シェルポリマー層上に突起を形成し、表面が平滑な有機−無機ハイブリッド粒子が得られないことがある。上記平均粒子径のより好ましい下限は0.001μm、より好ましい上限は1μmである。
なお、上記無機粒子の平均粒子径は、光学顕微鏡、又は、電子顕微鏡を用いて無作為に選んだ50個の樹脂コア粒子を観察して得られた直径の平均値を意味する。
また、上記無機粒子は析出の過程で近傍の無機粒子と互いに結合して凝集体を形成しても良い。
【0047】
上述した工程1〜工程3を行った後、更に上記無機物を析出させた樹脂粒子の有機成分を除去する工程4を行うことにより、無機中空粒子を製造することができる。
このように、リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子を作製する工程1、アミノ基を有するモノマーを用いて架橋リビング重合を行うことで、上記リビング重合開始点が表面に導入された樹脂コア粒子の粒子表面にアミノ基を含有する架橋シェルポリマー層を形成する工程2、前記アミノ基を含有する架橋シェルポリマー層中に無機物を析出させる工程3、及び、前記無機物を析出させた樹脂粒子の有機成分を除去する工程4を有
し、工程2において、アミノ基を有するモノマーを用いて、成長ポリマーの自己水素引き抜き反応を伴う架橋リビング重合を行う無機中空粒子の製造方法もまた本発明の1つである。
【0048】
本発明の有機−無機ハイブリッド粒子の製造方法、及び、本発明の無機中空粒子の製造方法の一例について、
図1を使って説明する。
本発明では、まず、樹脂コア粒子(
図1(a))の表面に、リビング重合開始点としてハロゲン(塩素)を導入する(
図1(b))。
次いで、アミノ基を有するモノマーを用いてリビング重合を行うことで、塩素が表面に導入された樹脂コア粒子の粒子表面にアミノ基を含有するシェルポリマー層を形成する(
図1(c))。
その後、シェルポリマー層を形成した樹脂粒子に架橋性化合物を添加することで、シェルポリマー層中のポリマーを架橋させて架橋シェルポリマー層を形成する(
図1(d))。
更に、アミノ基を含有する架橋シェルポリマー層中に無機物(無機粒子)を析出させることにより、有機−無機ハイブリッド粒子が得られる(
図1(e))。
そして、例えば、無機粒子を析出させた樹脂粒子を焼成することで、樹脂が熱分解するとともに無機粒子同士が焼結し、無機中空粒子が得られる(
図1(f))。
【0049】
本発明の無機中空粒子の製造方法を用いることで、粒子径の小さい無機中空粒子を得ることができる。また、粒子径やシェルの膜厚を均一化することも可能となる。更に、シェルの強度が大幅に向上することから、得られる無機中空粒子は中空度が極めて高いものとなり、小粒径化も可能となる。
【0050】
上記工程4において、無機物を析出させた樹脂粒子の有機成分を除去する方法としては、無機物を析出させた樹脂粒子を焼成する方法、無機物を析出させた樹脂粒子を有機溶剤で処理する方法が好ましい。
【0051】
上記無機物を析出させた樹脂粒子を焼成する方法を用いる場合、焼成工程における焼成条件(焼成温度、焼成時間)については、有機成分を完全に消失させるのに充分な温度、時間を、樹脂の種類等に応じて適宜設定する。具体的には焼成温度は300〜1500℃が好ましく、焼成時間は5〜300分が好ましい。
【0052】
上記無機物を析出させた樹脂粒子を有機溶剤で処理する方法を用いる場合、使用する有機溶剤については、有機成分を完全に消失させるのに充分な有機溶剤を、樹脂の種類等に応じて適宜選択する。具体的にはトルエン、キシレン、エチルメチルケトン、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンが好ましい。
【0053】
本発明で得られる有機−無機ハイブリッド粒子及び無機中空粒子は、塗料をはじめ各種成形体の充填材として使用できるほか、特に無機材料としてチタンを用いた場合、優れた光触媒作用を示す半導体材料に用いることができる。